まぁ、3DS版ならば誰もがやっている事でしょうが。
「もういい加減にしてよ!」
ある日のグランエスタード城下町。
そこの町外れにある借家の一軒家から、突然少年の怒鳴り声が響く。
「何だ何だ?」
「今のって………アルスの声……だよね?」
「でもアルスってこんな声を出す人だったっけ?」
「いや、アルスが叫んでいたの、あの家だぜ?」
つい数年前まで、世界はエスタード島しか存在していなかった。
復活した島や大陸などの人々は昔から世界が存在していたかのような振る舞いをしているが、エスタード島の人々は違う。
つまり、エスタード島しか知らない閉じられた世界の人々の交流はとても限られており、島の住民同士が知り合いである。
そういうことなので、フィッシュベルはもちろんのこと、このグランエスタード城下町の住民達だってアルスという人間の人となりを良く知っている。
もっとも、アルスは元々色々な意味で有名だったのだが。
英雄となる旅を始める以前から、アルスは有名だった。
・フィッシュベルの名漁師、ボルガノの息子である
・国を振り回していたキーファと親友同士である
・フィッシュベルの名士、アミットの娘である我が儘令嬢マリベルとは幼馴染みであり、それなりに関係を築いている
当時は地味であったアルス自身だが、周囲を固めている存在の大半が良くも悪くも有名人であるのだから、彼自身も有名人となるのは必然であろう。
そしてアルスを有名にしている存在がもう一人いる。
それが………
「ああ、流石のアルスもとうとうキレちゃったか…」
「というか、今まで良く我慢していたよね?私だったら持たないかも?ホラ、どこか憎めない人だけど、身内となれば流石にね………」
「ホンダラさんじゃねぇ………」
グランエスタード名物人物として有名なホンダラである。
もちろん、悪い意味で………だ。
ホンダラという男はとにかくこす狡く、だらしがない。
酒癖が悪い、子供のお菓子は拳骨して取り上げる、家賃滞納に酒場のツケは払わない、仕事らしい仕事はしない、女性の風呂を覗くなど、ダメ人間を絵に描いたような男である。
そんなホンダラだが、困ったことにボルガノの弟なのである。
方やフィッシュベルの凄腕漁師であり、アミットの懐刀のボルガノ。方や絵に描いたようなニートな中年であるホンダラ。同じ兄弟でどうしてここまで違うのか……とは娯楽の少なかったエスタード島の話題をかっさらっている人物である。
ボルガノの弟である=アルスの叔父。
故にアルスは同情的な目で島民から見られていた。
更にホンダラは……
・穴の空いた財布を「いくらでも金を入れられる財布」
・エスタード島にある七色に輝く入江で汲んだ水を「すごい聖水」
・ホカホカといつまでも温かいただの石を「ホットストーン」
と触れ回っては高値で売り付けようとするのだ。
世界を復活させる重要な旅をしている甥の苦労に便乗して「今度はどの方角に島が現れるのか賭けを持ち出す」という行動に出ている。
これには流石のアルスも「おじさんもよくやるよ……そういうアイデアを出すだけの頭があるんなら、もっと別の所で役立てれば良いのに……」と呆れ果ててしまった。
そんなホンダラ。魔王が討伐された直後は町の酒場に雇われ、しばらくは真面目に働いていたのだが……
「え?もう辞めちゃったの!?」
………である。
「いやぁよぅ、仕事中にこっそり酒を飲んでるのがバレちまってよぅ……」
「いや、そりゃおじさんが悪いと思うな………」
店の売り物を勝手に飲んでいたのならば怒られるに決まっている。
オルゴ・デミーラを倒した後に、バーを訪れた際、実は飲みながら働いているという内容の発言を聞いたとき、アルスは内心、バレたらまずいんじゃ……とは思っていたが、案の定だったというわけだ。
再び無職となったホンダラ。最初の内は「まぁホンダラだし……」と皆も諦めていた訳だが、ホンダラの無駄にある行動力が周囲に迷惑をかけはじめ出す。
なんとホンダラは世界的に有名になったアルス達を対象とした商売を始め出したのだ。
グランエスタードを訪れた観光客に対し、『勇者を見学しようツアー』なるものを無断で開始。
ぞろぞろと観光客を連れてフィッシュベルやガボが住む木こりの家を集団で押し寄せたりし始めた。
フィッシュベルが観光を産業にしているのならば問題は無かったのだが、のどかなただの漁村であるというだけのフィッシュベルでこれをやられてはたまらない。
なにせフィッシュベルには観光客を受け入れる施設は全く無いのだから。
「ちょっと!アルス!あんたのおじさん、何とかならないわけ!?こんなに観光客に押し寄せられたら村の生活がメチャクチャじゃないの!何より家にまで押し寄せられて大変なんだから!休日もオチオチ寝てられないじゃない!」
と、マリベルが苦情を言いにアルスの家に怒鳴り混んでくるのはいつもの事なのだが………
「なぁアルス……ホンダラのおっちゃん、何とかならねぇか?オイラ達の家にまで毎日変な人達が来るから動物達が寄り付かなくなっちまって、木こりのおっちゃんが寂しい思いをしてるんだよ………」
と、先日困り果てたガボから苦情を言われたときは流石にこのまま放置するわけにはいかなくなった。
ガボ(とガボを育てた母親代わりの狼)を引き取った木こりのおじさんには、世界の封印を取り戻す旅で、オルフィーを解放する事件の際にかなりお世話になったからである。
そして冒頭のアルスの怒鳴り声というわけだ。
温厚なアルスと言えども、流石に我慢の限界だった。
「悪かったって!そんなに怒鳴ることねぇだろう?アルスよぉ」
「いいや!今度という今度ばかりは僕も流石に我慢の限界だよ!」
普段は怒らない人間が怒るととてつもなく怖い……というのはアルスも例外ではない。
キーファやマリベルに振り回されても、苦笑いを浮かべはすれども結局は付き合ってしまうお人好しが服を着ている少年のアルスが怒ることは滅多にない。
それこそホンダラから理不尽に拳骨を落とされたり、凄い聖水とかを押し付けらてもだ(実際、凄い聖水(七色のしずく)にはエンゴウとコスタールで二度も助けられた訳だが)。
普段ならアルスに対して強気な姿勢を崩さないホンダラも、流石に怒れるアルスにはタジタジだ。
「………あと、大屋さんや酒場のマスターから言われたけど、家賃や飲み代のツケを溜め込んでるらしいね?」
アルスがジト目で言う。
「そうなんだよぉ……どうするかなぁ……マスターもケチなことを言うぜ………」
「酒場をクビにされても、立ち退きやまだ出入り禁止にされてないだけ、マスターも大屋さんも大概大目に見てくれてると思うよ?」
「なぁアルスゥ……金を」
「貸さないからね?父さんからもマリベルからも叔父さんだけには絶対に甘やかすなって言われているし、僕自身だってお断りだから」
「つれねぇこと言うなよぉ……親戚だろ?」
「親戚だからこそだよ。僕は叔父さんだけには絶対に甘やかさないからね?」
いくらお人好しなアルスと言えども、ホンダラにだけは厳しい。
このまま寄りかかられても困る。
「そこを何とか!」
「また怒るよ?」
再びアルスから怒りのオーラが出かけると、流石のホンダラも黙る。
別にアルスが魔王を倒したから怖いという訳ではない。
温厚なアルスが本気で怒れば……以下略。
長い付き合いでホンダラもそれは良く知っているし、お人好しではあるが、アルスはこうと決めたら案外強情な面があったりする。
ただ人の言いなりになるような男だったならば、破天荒ではあるが人を見る目が確かなキーファやマリベルが長年友人関係を続けるような事は無かっただろうし、アルスが『エデンの戦士達』のリーダーであるはずがないのだ。
「わ、わかったから怒るなって。そう言えばよぅ、オメェってこの短期間で金を溜め込んだよな?それこそアミットさんに迫るくらいによ。世界復興でも各国に大金を寄付してきたって話だしよ」
「………そういう情報には耳が早いよね?」
実際、アルスはこの先遊んで暮らしていても使いきれない程の資金を持っている。
もっとも、真面目なアルスだからそんなことはしないが。
「しつこいようだけど、貸さないしあげないから」
「ちげぇって!そのお金をどうやって稼いだのかを知りてぇんだよ!何か秘密があるんだろ?」
「………おじさんには絶対に無理だと思うけどな……」
失礼な発言だとは思うものの、ホンダラには無理な方法だろう。
いや、ホンダラに限らず、
いや、引退して復興支援作戦には参加していなかったメルビンも一人では厳しいだろう。
あれがソロで出来るのはアルス、マリベル、ガボ、アイラだけが可能なやり方だ。
「いいや!お前に出来て俺が出来ないワケがねぇ!教えろアルス!そのやり方を!」
「そのやり方、俺にも教えろアルス!」
「………何でオルカまで………」
グランエスタード城下町の万屋の息子、オルカが割り込んでくる。
マリベルにベタぼれで、昔からマリベルとよくつるんでいたアルスの事を一方的にライバル扱い……というよりは根拠なくアルスを見下してくる男である。
正直に言えばアルスもオルカの事を良くは思っておらず、身内補正があったとしてもホンダラ以上にオルカの事は苦手である。
また、マリベルも……いや、これはオルカにとっては余りにも残酷だから言わないでおこう。知らぬが花である。
ちなみにオルカはオルゴ・デミーラ討伐直後、「俺も石板を探すんだ!」と言って家を飛び出したらしいのだが、結局は見付からずにすぐに戻ってきた。
それはそうだろう。世界に点在していた不思議な石板は今、全てアルスの手によってあるべき場所に納められているのだから。
魔王を討伐した頃ならばまだチャンスは残っていただろう。しかし、その後の復興支援の旅の中で全てアルス達が全て集めてしまった。
その内の1つがグランエスタードの井戸の中にいつの間にか落ちていたのだから、オルカはつくづく縁が無いと言うか……。
いや、石板は他にもあるにはあるのだが………。
「アルスに出来るならば、俺にだって出来るハズだ!ただ単にアルスにチャンスが回ってきていただけなんだ!アルスにマリベルやアイラ様は相応しくない!」
「……僕にそれを言われても困るんだけどなぁ……」
相応しいかどうかは別としても、最終的にどうするかは本人達次第である。
「とにかく、教えろよアルス!そんな方法を独り占めするなんてズルいぞ!そんな男だとは思わなかったぜ!」
「そうだそうだ!教えろよアルス!」
「あんまりお勧め出来ないんだけどなぁ………」
別に私利私欲でその方法を独占している訳ではない。アルスがその方法を教えない理由には訳があるのだが、この言われよう。
断るアルスにしつこく食い下がる二人にとうとうアルスが根負けする。
「ハァ………わかったよ………でも、本当に知らないからね?言い出したのは自分達なんだから、簡単に投げ出したりしたら僕も黙ってないから」
「わかってるって!まったく強情な甥っ子だぜ!」
「これで俺にもワンチャン巡って来たぜ!」
「そう………じゃあ、やってもらうからね?」
実際、自分でも気が付かない内にイライラしていたのかも知れない。
(一度、痛い目を見て貰った方が良いかも。そうすれば安易に稼ぐ方法なんて無いって叔父さんが気付いてくれれば)
さて、アルス達がクリア後の世界でどうやって資金を稼いでいたのか?
それでは次回もよろしくお願いいたします。