ウッドパルナ・カラーストーン採掘場
ウッドパルナの南東にあるカラーストーン採掘場の鉱山。そこは文字通り、ウッドパルナ名産品の宝石であるカラーストーンが採掘されるとして有名だ。
カラーストーンは壊れやすい上に加工が難しく、宝石としての価値も低い反面、ここでしか採れない貴重な文化財としての価値はあるので、いまだに鉱夫達が一生懸命採掘している。
しかし、アルス達の事が伝説から忘れかけられるほど時が経った割には、鉱山の階層があまり昔と変化していない。
理由の1つは昔から掘られている割には未だにカラーストーンが潤沢に採掘されている事。
それともう1つは……モンスターが現れる事だ。
と言っても、今のウッドパルナや世界中で徘徊しているモンスターに比べたら、ここのモンスターは大したものは出てこない。
スライムにリップスに鬼百足といった駆け出しの冒険者が相手をするには最適のモンスターだ。
ちょっと奥に行きすぎるとサボテンボールや耳飛びネズミ、猫魔導といったちょっと強めのモンスターが出てくるので注意が必要だが。
とはいえ、いくら弱くても戦う力がない鉱夫としては脅威であることには変わらない。毎年カラーストーンの鉱夫から怪我人、酷いときは犠牲者が出るのだが、その殆どが落盤とモンスターによる被害だ。
「ギョエエエエ!で、出たぁぁぁぁぁ!」
「ひええええええ!」
早速現れたのがスライム3体。
偶然にもアルス、キーファ、マリベルが初めてモンスターと遭遇した時と同じだった。
「ア、アルスゥゥゥ!」
「自分達で倒すんだよ、叔父さん、オルカ。僕達の冒険だってここから始まったんだから!」
出来るはずだ。装備品だけならば着のみ着のままでモンスターに立ち向かわなければならなかった、あの頃の自分達よりも遥かに良いのだから。
ただの農作業用に使われる木の棒と、剣としては最低な物でも武器として作られている銅の剣。
普段着である布の服と、長旅に耐えられるように丈夫に作られている旅人の服。
モンスターと戦うことになるなんて思っても見なかったあの時は、盾と兜なんて持っていなかった。
魔王を倒し、ダーマの全ての職を極めた世界の英雄、アルスとマリベルの初陣の相手がスライムで、まさかお鍋の蓋に命を救われていたなどと、誰が想像しただろうか?
本来なら守るべき自国の王子に、逆に助けられなければ命が危なかったなど、今のアルスしか知らない人間が聞いても誰も信じないに違いない。
マーディラスの吟遊詩人が歌うアルス達エデンの戦士達の始まりは、花が舞い散る桃園(そもそもグランエスタード領に桃農家はいない)で義兄弟の契りを結んで(幼馴染みの友人同士ではあったが、そこまで大袈裟ではないし、マリベルに至っては勝手に付いてきただけ)世界平和を誓い(そもそも最初からグランエスタードは平和だった)、魔王討伐の為に世界を救って回り(オルゴ・デミーラなんて存在すら知らなかった)、その初陣は堅固なメタルスライムをも一刀両断にした(むしろ逆にメラで消し炭にされる)というアルス達本人が聞いても「それ、誰ですか?」と言いたくなるような与太話。
誰もが認める英雄達の本当の旅立ちは、子供のイタズラ半分で起こしたごっこ遊びでどこか知らない所に飛ばされて迷子になっただけであり、その初陣は誰もが最弱と認めるスライム3匹との死闘を繰り広げるというものだった。
「ええい!もうどうにでもなっちまえ!」
「ピキー!」
ホンダラの攻撃。スライムに3のダメージを与えた。
ドン!
ホンダラがまず、一匹を銅の剣で叩く。
型もへったくれもない、力任せの上から振りかぶり攻撃。
銅の剣を使ってスライムごときを一撃で倒せないのかと思われるかも知れないが、思い出して欲しい。
今のホンダラはレベル1の魔法使いだ。
それでもこれだけのダメージを与えたのである。
(そうだ、何で気が付かなかったんだ!)
今のマリベルならわからないが、当時のマリベルは銅の剣を装備できなかった(今でも何故か装備できません)。なのにホンダラは力が下がる魔法使いでありながら、銅の剣を装備してスライムにダメージを与えたのである。
(グータラで大酒飲みで仕事もしないでフラフラしていて、何でも直ぐに投げ出す尊敬のその字も出来ないダメな叔父さんだけど、楽に稼げる手段を思い付いた時の異様な情熱と、明らかに間違った方向性への努力だけは惜しまない人だった!見た目はあんなだけど、力はそれなりにあったんだ!)
内心、口にしたら失礼極まりないアルスのホンダラに対する人物評価だが、間違ってはいない。
アルスはこれまでのホンダラを思い出してみる。
例えば凄い聖水と押し付けられた七色の雫だが、これを入手するには七色の入り江まで足を運べばならない。しかし、七色の入り江まで行くには石板世界へ行く為の台座が納められている謎の神殿にある水の精霊が管理する旅の扉を通るか、同じく謎の神殿側の絶壁の崖を降りるか、小舟をこいで暗礁区域まで行き、足場の悪い岩場を進んで行くしか方法は無い。
最初の方法はアルス達が謎の神殿を開けるまで、どんな手段を用いても決して開くことの無かった扉なのだったことを考えると絶対に不可能な事であり(ホンダラはそれ以前に虹色の雫を手にいれていた)、他の手段だってボルカノの部下達だって下手をすれば命を落としかねない行動だった(今にして思えばホンダラは国が禁断の地と定めている場所に出入りしていた訳なのだが、それはアルス達もやっていたことなので、何も言えない)。
ホットストーンに関してもいつ、どこで、どうやって手に入れたのかはわからないが、長年誰も見たことがない品物だったのだから、その入手は容易なものでは無かっただろう。
他にもダークパレスがクリスタルパレスと呼ばれていたとき、神に成り済ましていたオルゴ・デミーラが各国の代表をクリスタルパレスに集めた事がある。その時、ホンダラはどうやってか海を渡ってクリスタル・パレスに押し掛けて来てメルビンを困らせていた。
クリスタルパレスがあった場所はウッドパルナよりも更に北に位置する小島。恐らくは小船か何かを使ったのだろうが、その海域まではボルカノだって、通常の漁では中々行かないくらいには遠方にある。
それをホンダラは自力で渡ってきたのだ。
思いの外、ホンダラに才能があったことを喜べば良いのか、それともそれだけの才能を腐らせていて勿体ないと呆れれば良いのか、判断に迷うアルス。
一方………
「はぁっ!」
ホンダラが仕留められなかったスライムをオルカが続いて叩き斬る。
今度こそスライムは倒れ、煙となって消える。
「はぁ………はぁ………」
オルカはオルカで中々だ。
先程も言ったことだが、銅の剣は誰にでも扱える物ではない。戦士に転職していようと、剣を扱えない者には銅の剣は装備できない。
スライムだって立派な魔物だ。
それを瀕死だったとはいえ、スライムに止めを刺すことが出来たのである。
(そういえばオルカも仕立屋として真面目に仕事をしているんだっけ……。変に自信家だったり、マリベルが好きなクセにマリベルが大変な時を狙って別の女の子を店に連れ込んだりしてマイナスが目立つけど………)
オルカはエデンの戦士達全員(マリベル含む)から個人的に良く思われていないが、職人と商人という観点から見れば悪い奴ではない。
そもそも、商人だって算盤を弾いているだけが仕事ではない。扱っている商品を運んだり、職人ほどでは無いにしても商品をその場で加工したりする場合だってある。
時には仕入れなどで旅をする必要があるので、非力な者が務まるものではない。
「やるじゃねぇか。小僧」
「自分の店で扱っている武器を扱えない訳がないだろ。むしろこっちが驚いてるよ」
「へへ。伊達にアルスの叔父をやっちゃいねぇっての」
「肩書きだけはだろ?うわっ!魔物が攻撃してきた!」
スライムの突進をまともに受ける二人。
そりゃ戦いが終わってもいないのに、戦闘初心者が悠長に話をしていればそうもなるだろう。
最弱の魔物と言えどもスライムの突進は成人男性の拳一発分くらいの威力がある。
「いてえな!くそ!でやぁ!」
ザシュッ!
へんてこ斬りのようにへなへなの攻撃をホンダラがやるが、痛みで力が込められていないのでさっきのほど効いてはいない。
「お返しだ!おりゃあ」
「ピキィ!」
オルカがホンダラの攻撃の後に仕掛ける。
先程からホンダラが先陣を切り、スライムの体勢を崩してからオルカが止めを刺すのが二人の連携になっている。
素早さが落ちる戦士の特性でどうしてもそうなってしまうのだが、何だか思い立ったら無駄に行動力があるホンダラと行動がいつもワンテンポ遅いオルカの二人の性格がよく出ているようで、なんだか少し笑えてしまう。
「ピキー!」
「うりゃっ!ホンダラ様を舐めんなよぉ!」
残ったスライムの突進を今度は油断せずに皮の盾で防ぐホンダラ。
ヒット&アウェイで後退しようとするスライムに対し、しっかりと攻撃を防ぎきったホンダラが追う。
「小僧!遅れるなよ!」
「わかってるっての!」
パコンとスライムを殴ったところをしっかりと付いてきたオルカが刺し、スライムの息の根を止める。
「へっへー。どんなもんだよアルスゥ!俺だってやる時はやるぜ!」
「へへん!魔物だっつったって大した事は無いじゃねぇかよ!」
(僕もキーファもマリベルも、最初はこんなだったな)
今となっては魔物を倒すのにイチイチガッツポーズを決めることは無いが、ウッドパルナでは一回一回こんな感じで毎度喜んでいた気がする。
「お疲れ様。でも、これからだからね?」
「何だよこの野郎。今の戦いに文句あんのか?」
「そうだぜアルス」
今の自分から見れば、とてもでは無いが見れた戦いではない。だが、前述した通り、自分達の最初の戦いに比べたら危なげもなくスライムを倒していた。
死闘を演じていた自分なんかよりも、余程立派に戦えていた。
「僕達の時よりは、立派に戦えてたよ。そこは凄いと思うよ」
「だろう?」
「何だよ。やっぱり俺の方が才能あるんじゃねぇか?」
やっぱり誉めないほうが良かったかも……と思うアルスだったが、ホンダラの叫びで直ぐに頭から消え去る。
「うわっ!何だよこれ!体から何か力が出るぞ!なんか得体の知れない何かが!」
「あ、もしかして……叔父さん、ギラを覚えたのかも」
魔法使いが最初に覚える呪文がギラだ。
戦士は熟練レベルが1では何も覚えないが、魔法使いはギラを覚える。
「うっひょー!やっぱり俺って天才じゃんかよ!」
「魔法使いなら誰でも覚えるって………」
調子に乗りやすいのがこの叔父の悪い癖だよねとアルスは苦笑いする。
「でも、せっかく倒したってのに稼ぎはこれっぽっちかよ………命懸けで倒したのに……」
スライム3匹で6ゴールド。
宿屋で1泊してしまえばそれで消えてしまうし、下手をすれば酒代にもなりはしない。
「だから何匹も倒して強くなりながら稼ぐんだよ。冒険者なんてそんなものだよ?」
命懸けで戦って、それでも報酬はこんなもの。
それで食べていくならば、より強い敵と戦って稼ぐしかない。
ゴールデンスライムのように一攫千金を狙えるモンスターなどそうはいないのだ。
「ほら、次が出てきたよ」
「お!早速俺様の魔法の出番だな!ギラ!」
ホンダラがギラを唱え、横凪ぎの炎が現れた鬼百足を一掃する。
この辺りの敵ならば、ギラ一発で片が付くだろう。
「へへん!もう俺様一人で充分だぜ?オルカ」
「くっ!僕も魔法使いにしておけば良かった……」
「そう、上手く行くかな?叔父さん。お、今日はよくモンスターが出てくるなぁ」
今度はリップスが1匹、スライムが1匹が出てくる。
「行くぜ!ギラ!」
ホンダラがリップスにギラを放つ。
確かにリップスはそれで倒せたが、ギラはグループに対して有効な呪文だ。
少し離れていたスライムまでは届いていない。
敵全体に攻撃をしたければイオ系で攻撃をしなければならないが、職業レベルが1の魔法使いではイオはまだ使えない。
才能があるマリベルだってイオは中々覚えなかったのだ。
「おりゃあ!」
オルカがスライムに斬りつけるが、一撃では倒せなかった。
「もう一発ギラをくらえ!ギラ!」
…………シーン。
「やっぱり………」
「何がやっぱりなんだよ!はれ………力が抜ける……」
なんて事はない。魔力切れだ。
むしろ、ああ見えてギラは燃費が悪い。むしろレベル1のホンダラがよく2発もギラを使えたものである。
「魔力切れだよ。こうなったら魔法使いはただの力の弱いただの人間なんだよね……」
「お、お前なぁ………そういうことは早く言ってくれよ……アドバイスくらいはしてくれたって良いだろうがよ………」
「アハハハハ………ごめん」
辛うじてこの日の戦闘を終えたホンダラ達は、すこし薄汚れた感じでグランエスタードに戻るのであった。
今日の戦績。
3戦。
ホンダラ……レベル2。覚えた呪文と特技…ギラ。
オルカ…レベル2。覚えた呪文と特技…なし。
稼いだ資金。14ゴールド。(1400円)
「「これなら普通に仕事をしていた方が稼げるだろ!」」
「だから言ったじゃん?楽じゃ無いって」
続く……かも?