『〝神〟との会見。』
『Lucifer(ルシファー)』口語版シリーズの一編です。

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『〝神〟との会見。』

旧題『インタビュー・ウィズ・ザ・デビル』を、次の作品に感動して書き直しました。
イラスト:
d https://www.pixiv.net/artworks/79069504 
Ragnarok https://www.pixiv.net/artworks/84164419 
scarlet devil https://www.pixiv.net/artworks/78274655
♰ https://www.pixiv.net/artworks/87656251
Beatrice https://www.pixiv.net/artworks/94441835
月の誓い https://www.pixiv.net/artworks/60717484
動画:
織田信長 https://www.youtube.com/watch?v=bpyZ3zry7xo&list=PLocMtmXVF6nQn0gCbwj8YSBZGmxQRxmP6&index=12
Ziggy Stardust https://www.youtube.com/watch?v=i3Ortwf7SgU
Gates of Babylon https://www.youtube.com/watch?v=z03ZRYh4GKY&list=RDz03ZRYh4GKY&start_radio=1
Winds Of Transylvania https://www.youtube.com/watch?v=HsE4Ub_Pjh8&list=RDHsE4Ub_Pjh8&start_radio=1
素敵な刺激を与えてくれる、イラストや動画に感謝します。

人類の歴史や神話を題材にした、壮大な物語が書きたいと思いました。
内容はSFであり、あくまでも異星種族のお話です。
ご興味がおありの方は、『Lucifer(ルシファー)』シリーズの他作品や、
『文明の星』理論(仮説)のエッセイもご覧いただけましたら幸いです。


会見

地球通信社の報道記者(ジャーナリスト)として、

私はサタンに取材会見をすることになっていた。

しかし彼女の姿は、いつものように可憐で愛らしい、

猫と人間の(あい)の子のような映像体(アバター)ではなかった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

サタンといっても悪魔ではなく、異星種族の名称だ。

彼女達は銀河系を統一した〝先帝〟種族のため、

〝先帝〟を神に見立て、自らは悪魔を演じるなどして、

かつての人類を含む発展途上種族の文明発展を助けた。

 

銀河帝国の先進種族は量子頭脳への人格転移(マインドアップローディング)を達成し、

高度な情報処理能力と種族人格の形成能力を得たので、

国際機関の理事国のように、帝国の役職も務められる。

サタンは当時、文明開発長官の地位にあった。

 

ところが、軍事国家の〝旧帝国〟では、

銀河統一後も側近種族の腐敗と抗争が止まらず、

ついに内戦が起きて帝国は崩壊、

それに巻き込まれた〝先帝〟も滅亡してしまった。

 

そこで新興の技術・産業種族や良識的な軍事種族、

銀河系外周の非酸素・非炭素系種族は、

穏健な文官種族のサタンを(よう)して

〝新帝国〟を設立し、平和を取り戻したのだ。

 

私は、その一人に当時の状況を取材するため、

星間通信網(ステラネット)の仮想空間に入場(ダイブ)した。

 

しかし、現れたのは黒衣を(まと)い、

鋭い角と妖しく輝く瞳をもつ、

文字通り悪魔のような姿をした、

だが美しい少女だった。

 

 

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身元確認は厳しいはずだが、これは何かの冗談か?

今の皇帝種族にも、ヤバい変人がいるのか?

私はあまり期待を持たないようにしながら、

挨拶(あいさつ)もそこそこに話題を切り出した。

 

『ああ……皆さんは国家の運営に役立つ、

文明発展についての理論にお詳しいようですが、

貴方ご自身のお考えなどがあったら、

お聞かせいただけたらと思いまして』

 

『まあ、これは反省なんだけど……、

文明は、技術なくして発展なし。

でも、それだけじゃ続かない。

技術の恵みを上手に分ける政策や、

その政策を支える民度、民度を活かせる組織が

ないと、いともあっけなく滅びるわ』

 

歯に(きぬ)着せぬ物言(ものい)いに、私は再び驚いた。

『おお……これはまたどうも、直接的な表現ですね。

普段のサタンの皆さんの考え方や(おっしゃ)りようとは、

何だか異なるようですが……』

 

『いいえ、公式見解と中味(なかみ)は違わないはずよ。

(しゃべ)り方が優しいサタンらしくない? 

最初に言わなくてご免なさい……実は私、亡命者なの』

そう言って、彼女は私の眼をまっすぐ見た。

 

よく考えてみると、表現こそ荒っぽいが、

新帝国の政策方針はまさにその通りだ。

第一に、富の生産・安全に役立つ技術の、

健全な開発・利用を助ける技術的政策。

第二に、富を配分・投資する経済・社会活動を、

最適化する経済・社会政策。

第三に、共に政策を実現する人々の向上・支援のため、

健康や教育を高める人的資源政策。

そして第四に、人々の活用・参画(さんかく)のため、全種族の

協調や民主化を促す行政管理政策とされている。

 

 

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すると彼女がにやりと笑い、両目を大きく見開くと、

瞳の奥がぎらりと一瞬、(まばゆ)い金色に輝いた。

私は驚きのあまり、思わず身体をこわばらせた。

こ、これは……まさかこいつは……。

 

『……そう、かつて全銀河系を統一し、

サタンに貴方達の文明化を命じた種族からのね。

実はけっこう大勢いたんだけど、全員帰化して、

そのほとんどが政策形成に深く関わっているわ』

 

大当たりだ。 彼女は生来のサタンじゃない。

蝙蝠(こうもり)の翼を持つ猫のような生物、

柔弱(にゅうじゃく)で臆病……もとい(笑)、心優しく慎ましい、

生まれながらの現皇帝種族ではない。

 

高い知性と強い意志を示し、

爛々(らんらん)と輝く金色の瞳で知られる種族。

白銀色の(うろこ)に覆われた、

強靭で柔軟な身体に恵まれた種族。

巨大で優秀な頭脳を発達させられる、

(たこ)のような形態(すがた)の種族。

そして何より、銀河系全域の知的種族を(ことごと)

恭順(きょうじゅん)させ、統治した最大最強の軍事種族。

(いにしえ)の時代には神にも(なぞら)えられた、

〝先帝〟種族の生き残りだ。

 

 

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悪魔に化けた神の原型(モデル)に、

自身の教訓を語ってもらえるとは、

何と意外で、皮肉なことか!

だが歴史の内幕を知るのに、これほどの好機はない。

 

『貴方が現皇帝種族の考えや本音を知りたいのなら、

役立つ情報を提供できるかもしれない。

なぜなら私達亡命者は、まさにその行動原因を作った、

軍事的専制による失敗の責任者、生き証人なのだから』

 

ずいぶんと素直に、失政を認めるんだな。

でも政治の両輪は正当性と権力、綺麗事(きれいごと)だけじゃない。

確か色々な神話でも、神は悪魔より数多く容赦なく、

(まつろ)わぬ者達を滅ぼしているはずだ。

 

『ただし最初に言っておくけど、

私の後悔は多くの犠牲を出したこと自体にじゃない。

犠牲者よりも沢山の人々を救い、幸せにすることが、

私達の力だけではできなかったことについてなの』

 

やっぱり厳しい連中だな……でも側近種族が堕落して、

内戦を始めたことについてはどう思っているんだろう。

実際は、彼女達が一部の側近種族と通謀(つうぼう)して、

腐敗種族を淘汰(とうた)した、という噂もあるのだが……。

 

私はそう思いつつも、帝国内戦が人類社会では

ラグナロク、〝神々の黄昏(たそがれ)〟に(たと)えられることが

多いというのを思い出した。

本来は、それを言うならアポカリプス、

黙示録(もくしろく)〟の方が近いのだろうが、

近いからこそ、生々(なまなま)しすぎて(はばか)られるのだろう。

 

今では人類も最先進種族に昇格したとはいえ、

微妙な話題の振り方には気をつけよう……、

と思っていると、まるで私の心を読んだかのように、

彼女の方からその話を切り出してきた。

 

『でも〝全種族の発展〟という建国理念を失った種族を、

私達がわざと自滅に誘導したというのは、考え過ぎよ。

もっとも、罪なき種族の犠牲をさらに増やしてまで、

助けることはできなかったのも事実だけどね』

 

来たか! 彼女もそれが言いたかったようだ。

『皇帝といえども、全ての臣民の面倒は見られない。

今進んでいる民主化のもとなら、なおさらでしょう?

国民に分け与えられた権限は、自己責任も伴うのよ』

 

『サタンは歴史の古い種族だけど、

その上に胡坐(あぐら)をかくことなく、

帝国種族全体の繁栄を願い続けていた。

だから私達も、彼女達を()(しろ)に選んだ。

サタンに協力した貴方達は、賢明だった』

そう言いながら、彼女は私をじっと見つめた。

 

その言葉を聞いた私は、ぞくりとした。

社会を動かす人々は、

社会全体が争い少なく栄えることで、

利益や安全、誇りを得るはずだ。

 

私が生まれた日本の歴史でも、天下統一後は

刀狩りと武家諸法度の時代になった。

勝手に城を直したり、私戦に及んだりしただけで、

改易(かいえき)処分や切腹の()()にあった。

 

戦乱に乗じて不当な利益を図ろうとしていたら、

人類もまた〝不運な巻き添え戦闘被害(コラテラル・ダメージ)〟によって、

滅亡した種族の一つになっていたかもしれない。

何より実際、彼女達のような〝亡命者〟を除けば、

〝先帝〟種族自身でさえも滅びているのだから……。

そんな想像が、脳裏(のうり)(よぎ)った。

 

『豊かな時代に甘えるな……ということですか?』

『そう、技術が進めば社会が変わり、政策も変わり、

その政策が次の技術開発を助けて、文明は発展する。

でもその循環(サイクル)を重ねるほど、技術にできることが増え、

政策がなすべきことも増えていく。

政策の変化には、人々自身の向上が必要だし、

向上できた人々も、活用できなきゃ居ないも同然(どうぜん)

貴方にはそのことを、伝えてほしい』

彼女はなおも私を見据(みす)えて、そう言った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

どうやら私も、重責を(まか)されたのかもしれない。

確かに〝サタンの平和(パックス・サタナ)〟が到来したのは、

新帝種族とその友好種族達の、

優しい理想のおかげだけではなさそうだ。

 

『人々自身の向上と活用?』

『技術が進んで社会活動が省力・複雑化すると、

人々の仕事はそうした技術を使って、

どんな社会を作るか考える、政策に移っていく。

言われて動くのでなく、どうすべきかを決めるには、

より高い教育や、それを支える健康が必要。

必要な時は大勢が動くが、衆知も集められるよう、

政策の広域化と分権化も必要になる』

 

『昔だったら、資源枯渇や格差拡大が起きた時は、

国民達に領土を広げさせれば良かった。

開拓や戦争で虚弱者・粗暴者や古い制度も淘汰され、

富だけでなく人の問題も解決できた。

面白いことに、技術水準こそ違え私達の星間帝国も、

途上種族の歴史と同じ過程(プロセス)を繰り返していたのよ』

私は反論しようとしたが、できなかった。

彼女達は、そして人類も、長年(ながねん)そうしていたのだ。

 

『でも文明が進むほど、環境の限界や社会の統合、

生活向上、兵器の強化で犠牲や費用(コスト)危険(リスク)が増える。

だからこそ、増えすぎた代償を減らせる技術と社会、

それを担える人々と政策が必要になったわけ。

サタンの最大の功績は、惑星文明の発展を助ける中で、

帝国もいずれは必ず同じ状況になる、と気づいたことよ』

なるほど……途上文明の支援を担当していたサタンが、

新皇帝種族として支持された理由が分かった。

 

 

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ずいぶん露骨な表現だったが、私は政治記者として、

彼女の論理を否定することができなかった。

必要性と許容性は、政策の両輪だ。

永きに渡り、血で血を洗う覇権抗争を

生き延びてきた古き種族(もの)達が、

素敵な理想の追求だけを許すはずがない。

 

それが可能になったのは、先進軍事技術に加え、

量子人格種族の専制化防止や、

個体群種族の淘汰なき資質向上、

共通個体の設計、共用量子頭脳規格など、

多様な種族の向上と協力を(かな)える次世代技術と、

それらを活かす総合政策を考案できたからこそだ。

 

『幸せを得続けるには、努力が要る……と?』

『まあ簡単に言ってしまえば、そういうことね。

もっとも、サタンが築いたこの素晴らしい時代、

ある意味で皆がより狡賢(ずるがしこ)く、幸せになれる時代に、

いかに優しく確実に、それを伝えるかは別問題』

彼女はそこで片眉を上げ、意味ありげに微笑んだ。

 

いざとなったら、知的種族はどんな酷いこともする。

しかし賢い種族なら、以降の〝無駄〟は避けるだろう。

それができれば、できた者達が星間社会を先導(リード)する。

逆に今度は、できない連中が(おく)れをとる。

 

だが、そんなことをあけすけに言ってしまえば、

せっかく平和を手に入れた人々の心が揺らぎ、

再び疑心暗鬼(ぎしんあんき)に陥って活力を失ったり、

裏をかこうとしたりする者が出るかもしれない。

 

神と悪魔は知性の両面、天国地獄は紙一重。

皆の心が荒れぬよう、夢と希望を知ってもらう。

でも油断して、さらなる悲劇を招かぬように、

現実的な政策も考えて行い、栄え続けてもらいたい。

 

途上種族から先進種族に飛躍的発展を遂げ、

星間国家の模範となった人類に、

そんな願いを実現するための物語(ストーリー)を、

上手に伝えてほしいということか。

 

『まあ私個人としては昔、優しいあの子達に

憎まれ役を演じさせたのも、悪かったと思ってる。

この映像体(アバター)を使ったのは、

そんな気持ちの表れでもあるのよ』

 

『なるほど、お気持ちは分かります……。

冷静な頭脳・温かい心(クールヘッド・ウォームハート)〟ということですね』

緊張と興奮を抑えて、笑顔でうなずきながらも、

私の心には様々な思いが駆け巡っていた。

 

当時全ては救えなかったが、今後はもっと救いたい。

必要とあれば、今度は自身が悪役となってでも、

自ら築いた国家の繁栄に貢献したいということか。

自他共に厳しい、名君だっただけのことはあるな。

 

もっとも、歳月を経た量子人格化種族には、

種族の違いに意味などないのでは?とも思う。

淘汰の回避が可能になった時代に合わせて、

優しい臣下を表に立てただけのようにも見える。

 

 

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とはいえ、他の種族ならもっとマシな方法が

とれたのか? と聞かれると疑わしい。

最も若輩(じゃくはい)の〝最先進種族〟となった人類にとっても、

淘汰なき社会の到来はありがたいことなのだ。

 

彼女は、さらに続けた。

『貴方達の世代なら、皆と協力できるから、

もう少し楽ができるだろうと思うけど、

誰かに私達の失敗を繰り返させたり、

サタンの努力を無駄にしたりする気はないわ。

さあ……私の話を()いてくれる?』

 

いずれにせよ、陽が沈み、月が昇る黄昏(たそがれ)にあっても、

優しい月を見えない所から輝かせているのは、

苛烈(かれつ)な光を放つ太陽なのかもしれない。

私は真剣に、彼女の話を聞いていくことにした。



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