とある佐天の裏技遊戯(ニューゲーム) 作:RB_Broader
佐天涙子の死に戻り The_Fool -> The_Magus
「もし生まれ変わっても、また同じ人生を歩んでみたいな」
「あの世があるかなんて、生まれ変わりがあるかどうかなんて、今でも私にはさっぱりだけど」
涙子はオカルトを心から信じている訳ではない。
生来からの都市伝説好きが高じて、オカルト評論家などという肩書を手に入れ、副業がてら雑誌の連載を手掛けた事もあるにはあるが。
彼女は自身の目で見て体感したものしか信じないし、そういう意味では超能力や『魔術』などといった『オカルトじみた異能』のほうが、今まで見たことも体験したこともない『あの世』や『天国』、『生まれ変わり』などという未確認で不確かなものよりも余程信じられる。
それでもオカルトを追うのを止めないのは、たとえ一度も見たことがない未知の事柄でも、あったら楽しいだろうなと期待せずにはいられないからだ。
実際、彼女を取り巻く世界には、ごく普通の現実じみた科学や物理法則の他に、オカルトじみた超能力や『魔術』に絡んだものが溢れている。
世界は科学と魔術に二分され、日本の東京都西部にある学園都市を中心とした高度な科学文明と、バチカンやロシア、イギリスを中心とした宗教による魔術文明によって支えられているが、これら二つの文明の力でさえ、『あの世』や『天国』、『生まれ変わり』といったものの存在を明らかにできていないのだ。
……話が逸れたので、本筋に戻そう。
涙子が歩んだ人生はとても充実したもので、持ち前の明るさと、他人に波長を合わせすぐに打ち解ける『人たらし』な一面のおかげで、彼女の周りにはいつも多くの仲間がいた。
だから、淋しい思いをした事など無いし、たとえ無力であっても、周りが助けてくれるので、それで不自由する事も無かった。
しかし、その輝くような笑顔とは裏腹に、彼女自身が輝ける存在だった訳ではない。
例えば、かつて『
周りが優しく立派で光り輝いていればこそ、その分、強い光に対する羨望という形で、自身の影も濃くなるのだ。
だからこそ、彼女は願った。
「もしも、また同じ私に生まれ変われたら、今度こそ超能力者になれますように」
そして、涙子は家族や友人に囲まれながら、天寿を全うし、安らかに息を引き取った。
『なるほど。……その魂、興味深いな。消えゆくには惜しい』
誰かが言った。
『よかろう。汝の願い、聞き届けよう』
次の瞬間、時間が光の速さで巻き戻されていく。
『……汝の魂の輝き、篤と見せてもらうぞ。“
「……あれ?」
私、何してたんだっけ。
ここは……。
そうだ。
私は……
あれ? 何でこんな当たり前の事を
夢でも見てたのかな。
自分の『苗字』も分からなくなるなんて。
バタン!!
勢いよく音を立てて襖が開き、その向こうから弟が出てきた。
相変わらずヤンチャな
「お姉ちゃん、超能力者になるんだって? カッケー!!」
弟は飛び跳ねながら、私に羨望の眼差しを向けてくる。
「へっへーん!」
私はつい有頂天となり、胸を張って見せるのだった。
そうだ。
あたしはもうすぐ学園都市に入り、超能力開発を受けるんだ。
そして、テレビで見たあのカッコイイ人達みたいに、手から火を出したり、水を浮かせたり、風を起こしたりして、自分の思い通りに超常現象を操って見せるんだ。
……まあ、背中から白い羽根生やしたり色んな事をやってみせるいい年したイケメンのお兄さんにちょっとだけ引いちゃったのは内緒だけど。
その日の夕方、学園都市へ行きたいと告げた所、母親に心配された。
曰く、『頭の中弄られるなんて、やっぱり怖いわ』との事。
……まあ当然か。
怖くないなんて言ったら嘘になるけど、だからって、尻込みしてたら憧れの超能力を使う事なんて一生できない。
あれだけの『ありえない事』を実現しちゃうんだから、頭の中だって普通では『ありえない中身』になっててもおかしくないじゃん。
そのためだったらあたしの頭なんていくらでも弄ってくださいってなもんよ!
それに、『非科学的』かも知れないけど、ママから厄除けのお守りを貰ったから、何があっても大丈夫な気がする! ……たぶん。
なんたって、『
※戦国武将・加藤清正公の地元・熊本での愛称。
明日はいよいよ、私──佐天涙子が学園都市へ出発する日だ。
なので、忘れ物が無いか、キチンと確認する。
学園都市に持ち込めるものは意外と限られてる。
後から送って貰う事も可能だが、『防疫』とかのため食料品は持込禁止。
テロ対策のため、刃物やハサミ、スプレー缶などの危険物もアウト。
マンガやスマホなどの小物類は手荷物程度ならセーフらしい。
キャリーバッグに着替えと小物類を粗方詰め終えた後、勉強机の引き出しを開けると、中には木箱に収納されている『古ぼけたカード』の束が入っていた。
(……どうしようかな)
このカードの束は気が付いたら私の持ち物になっていた。
いつ手に入れたのかも覚えておらず、誰も見ていない所でよく弄って遊んでいたため、いつの間にか手に馴染んでいた。
そしてどういう訳か、これが何なのか、両親や弟にさえ尋ねようとも思わなかったし、両親や弟にこれを見られる事も、これが何なのか興味を持たれる事すら一度も無かった。
……そして、私はこれが何なのかを
トート・タロット。
『黄金の魔術師』アレイスター=クロウリーがデザインし、従来の解釈に変更を加えたものを、女流画家フリーダ=ハリスが描いたタロットカード。
始めはクロウリーによるタロットの解説書『トートの書』の挿絵として発表され、クロウリーが亡くなってから22年後にようやくカード化されたものらしい。
……何でこんな難しい事を詳しく知ってるのかって?
10歳くらいしか生きてない私なのに。
思い返してみると、小学校の勉強も、授業をあまり真剣に聞いてないにも関わらず、その内容を全て理解し、宿題は毎回欠かさず提出し、テストの成績も自然とトップになっていた。
だからと言って、勉強できない人の気持ちが分からない訳でも無く、他の人が分からない所は親身になって教えたりもしたので、特に皆から嫌われる事も無かったと思う。
──そうだ。
あたしは勉強とかで今まで挫折した事が無い。
にも関わらず、なんであたしは……努力しても結果が出なくて悔しい気持ちが、こんなにも
……たぶん。
あたしはいつかどこかで、失敗続きで苦しみの連続だった、とても辛い時期を過ごしてたに違いない。
それがいつ、どこなのか、思い出す事もできないけど。
とうとう学園都市にやってきた。
街ナカの歩道の上を、ドラム缶みたいな『お掃除ロボット』が滑るように動いてる。
すごい!
あちこちに風力発電の白いプロペラがそびえ立ち、グルグル回ってる。
すごい!
お空には飛行船が浮かんでて、ゆったりした感じで進みつつ側面に『プロジェクション・マッピング』で投影されたみたいな画面が映ってる。
すごい!
目に映るもの全てが新鮮で、目をキラキラと輝かせながら、街を彷徨いていた私、佐天涙子は。
「……迷った」
学園都市初日は最初の
そのため、指定時間に指定場所まで行く予定だったのだが、この分だとギリギリ間に合いそうにない。
幸い、衛星によるナビのおかげで目的地までの最短ルートを割り出すのには成功したものの、日中とはいえ日当たりが悪く見通しも悪い路地裏の細い道を通らないといけないため、何かあったら心配だ。
ちなみに、今の私は一人だ。
学園都市に住む全学生は親元を離れて暮らすため、私は家族と一緒ではなくたった一人でやってきたのだ。
入学手続きや部屋探しは、身体検査の結果で進学先を振り分けられた後にするらしく、そういった手続きは全て学園都市側がやってくれるらしい。
保護者が行う手続きは学園都市への移住手続きのみという事になる。
という訳で、目的地まで急ぐ必要があるため、私は路地裏にチャレンジするのだった。
……と、そこに立ち塞がるように居座っていたのは、ラフな格好をした悪そうなオジサン、いや、お兄さん達だった。
「お嬢ちゃん、一人で来たの? えらいねぇ~」
いつの間にか、数人がかりで前後を塞がれ、逃げる事もできなくなった。
(やば……)
私は直感で悟った。
この学園都市というのは、外の世界とは『格差』が段違いだと。
一見小綺麗に見え、治安も良さそうな未来都市だが、ちょっと日陰に入った途端、外の世界における土地柄の悪い場所よりもさらに危険なのだと。
(……それに、何だか所々
これは、実際にそういうニオイがするというのではなく、たとえ消臭剤やら消毒液やらで跡形も残さず何遍も綺麗に掃除したとしても、決して消える事の無い
何となく嫌な感じ。
そうとしか表現できない、冒涜的なナニカが街の所々にこびり付いているのが分かった。
(まあ、それはそれで後でじっくり調べるとして……)
まずは転入初日に身体検査すっぽかしたら話にならない。
それどころか、ここから無事に生きて出られなきゃ、私の人生に明日は無くなるのだ。
「背に腹は代えられないか」
私は軽く草臥れた様子で、溜息をつきながら、独り言つ。
「……あんだあ? お嬢ちゃん、舐めてんのかぁ?」
そんな私の様子を見下しと受け取ったのか、不良の一人が凄んで見せるも、私は構わず路地裏から引き返そうとする。
しかし、出口は既に塞がれているため、そのまま通れるはずもなく、後ろの男にブロックされる。
そして、男に捕まる。……と見せ掛けて、フェイント。
全身をバネの如く跳ねさせる事で突然方向転換し、今度は路地裏の奥の方へと走り出す。
「おいッ! コラ! うわっ! クソッ!」
奥の側にいた男の一人は気を弛めていたのか、私がそいつの股の間を潜り抜けようとするのに反応が遅れ、そのまま後ろへ通してしまう。
「何やってんだよ、クソがぁ!」
そして、私はこれだけで無事逃げおおせたとは思っちゃいない。
ここでは私が土地勘の無い新参者で、追い掛けている男達は全員学園都市の住人で、人数が多い上に土地勘もあるのだ。
たぶんだけど、もうすぐ私は行き止まりか袋小路に誘い込まれるだろう。
程なく予想は当たり、私は上手い具合に突き当たりの壁を背にした状態で、大勢の男達と相対させられていた。
「へっへっへ。もう逃げらんねぇな、お嬢ちゃん」
男達が下卑た笑いを浮かべている。
こいつら全員ロリコンかっつーの!
(……でも、ここまでは狙い通り!)
私は腰のポケットに忍ばせた『銅製のカードケース』に手を伸ばす。
そして、中から一枚のカードを取り出した。
「……何だぁ? お嬢ちゃん、カードバトルでもするつもりかぁ?」
目の前の不良が小馬鹿にした態度で茶化してみせる。
私が手にしているカードには、『5本の剣と逆五芒星』が描かれている。
それは、子供が遊ぶトレーディングカードゲームではなく、どちらかと言えば、古風なタロットカードそのものだった。
カードの裏側の縁には『Eiael - AIO』と殴り書きされている。
「エイアエル。
銅と銀の間、『
属性は風。その形は窓。
我が目の前に窓を作り、そこよりその力を前へ押し出せ」
私がカードを目の前に掲げ、ゲームかラノベに出てくる呪文のような長台詞を述べた直後、不良達がいる真正面の空間に衝撃が走る。
ゴバァッッッ!!!
爆発にも似た突風が吹き荒れ、私の真正面に立っていた大勢の不良達が一斉に吹き飛ばされ、周囲の壁や地面に体をしこたま打ちつけ、肺から全ての空気を絞り出す羽目になったのだ。
「……がぁぁぁぁぁ!!!」
「あ……あ……の、うりょく……しゃ、だった……のか」
そこにいるのは動かなくなった不良達のみであり、その光景を生み出した張本人たる私は既にその場から姿を消していた。
身体検査には何とか遅れずに済んだものの。
『佐天涙子さん。あなたの
……はあ。
初っ端から、これはひどすぎる。
あんまりだ。
あああんまりだああああ。
私、佐天涙子は夢破れた。
レベル0──無能力者は、能力の才能ナッシングという意味の烙印だ。
落ちこぼれコースまっしぐらだ。
これじゃあ学園都市に来た意味が無いじゃん。
……もう実家に帰りたい。
(でも……)
右手には、ママから貰ったお守りが握られている。
「期待されてるんだ……諦められないよ……!」
……いや、両親や弟からの期待に応えるためじゃない。
これは、あたしの夢だから。
今からでも死にものぐるいで努力して、才能の無さを引っくり返すんだ。
そして、見る目の無い学園都市を見返してやるんだから!
それに……今の私は『借り物の力』に縋っている。
いつ覚えたのかも分からない、『魔術』と呼ばれるオカルトの『知識』が、どういう訳か、この私には備わっている。
先刻、路地裏の不良達にぶっ放した『アレ』を引き起こしたものだ。
それだけではない、明らかに年齢に見合わない学問の知識や一般常識や情緒や対人スキルまでもが、知らないうちに備わっているのだ。
……そう。
まるで、人生経験豊富な年配者が記憶喪失となり、
いや、抜け落ちたというよりかは、
もはや、私に成り済ましたどこぞの誰かがこの体を乗っ取った上で、自分を私だと思い込んでるのか。
もしくは、誰かが死んだ後、生まれ変わった先が私なんじゃないか。
そんな風にすら疑ってしまえるし、もしそうなら、自分が本当は何者なのかも分からなくなりそうだが。
それでもなお、私が『
たとえ前世の記憶とやらがあったとしても、私は私で、この人生は私だけのものだ。
訳の分からない形でどこかの誰かからの貰い物の知識をこのあたしに植え付けた神様気取りのクソッタレなんかの思い通りになってやるもんか。
この『魔術』とかいう代物だって、使えるもんなら便利に使ってやるが、それで満足するつもりなど毛の先ほども無い。
所詮、他の人達が思い思いに考え付き、話し合い広め合った『他人の現実』の中に住まう『神』や『悪魔』や『天使』とやらに、お行儀よく『お伺い』を立て、『
『自分だけの現実』から力を引っ張り出して、現実を思いのままに改変する『超能力者』と比べるべくもない。
強いか弱いかだけの問題じゃ無い。
神様や天使の力で超能力者に勝てたとしても、本人が強い訳じゃないし。
だったら自分が神様や天使みたいに強くなるのが一番カッコイイじゃん。
だから、あたしは超能力者になるんだ。
たとえ魔術の知識をドブに捨てる事になったとしても。
それから程なく、私、
あたしの学園都市生活はこれからだ!
がんばるぞー!!
解説1:
佐天の一人称について。
原作漫画、アニメ、小説ともに『あたし』だが、本作では『死に戻り』の影響で老成しているため、地の文における客観的な状況説明では『私』を使用し、モノローグによる主観的な心中の吐露のセリフでは、死に戻り前と直後を除き、『あたし』を使用する。
解説2:
死に戻り後の佐天が使用している術式は『シェム・ハ・メフォラシュ』。
ただし、ウェイト式のGDタロットではなくトート・タロットを使用しているため、本来のものとはセフィラ間のパスの名前と順番、対応する大アルカナの名前や順序が一部異なり、これは術式の中身にも影響を及ぼしている。
また、スートカード(小アルカナの数字札)と天使名の対応は各流派により異なり、佐天が使用するのは『黄金の夜明け団』による対応表である。
(2~10のスートを用い、12星座を3等分・昼夜に分け、72天使に対応)
解説3:
佐天の魔術に対する見方は、魔術師としての心構えを持たない彼女自身の見解に過ぎない。
本来の魔術師は、魔術の恐怖を知り、死を覚悟し、魔法名を胸に刻む。
その上で力に対する恐怖を克服し、手懐けることで、魔術師としての心構えを持つとともに、神や天使の力を使役する術を体得していく。
超能力が自身の力を自在に操るのに対し、魔術は『世界の力』を自在に操る術を学ぶ『学問』であり『科学』と呼ぶことができる。