とある佐天の裏技遊戯(ニューゲーム)   作:RB_Broader

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竜王の殺息(ドラゴンブレス)と幻想殺し(イマジンブレイカー)

 私、佐天涙子(さてんるいこ)黄泉川(よみかわ)先生に案内され、小萌(こもえ)先生のアパートの部屋を訪れていた。

 そこには上条当麻(かみじょうとうま)という男子高校生と、禁書目録(インデックス)と呼ばれる小さな白い修道女(シスター)が匿われていた。

 

 上条当麻はその右手に『あらゆる異能を打ち消す力』を宿す無能力者(レベル0)であり、インデックスを追ってきた『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師を退けたり、逆に聖人にボコボコにされて三日間昏睡状態にされたりと、色々とエライ目に遭わされていた。

 ついでに、彼が聖人にボコボコにされた現場を私が目撃したばかりに、魔術師や聖人に夜通し追い掛け回される羽目になり、聖人に液化ガスぶち撒けて風魔術ぶっ放したり、魔術師に不意打ちでケツバット打ち込んだ後、不審者として警備員(アンチスキル)に通報した訳だが。

 その後、黄泉川先生から色々事情を聞かれたので、魔術の事を伏せて説明した事で、小萌先生の家に上条さんとシスターちゃんが匿われているのが私の知るところとなった。

 

 そして、昏睡から目を覚ました上条さんから事情を聞くことになった私は、そのあまりに凄絶な内容に絶句する事となった。

 インデックスは『完全記憶能力(トータル・リコール)』の持ち主で、魔術師を取り締まったり魔女狩りを行うイギリス清教・必要悪の教会の仕事のため、10万3000冊の魔導書を頭に叩き込まれた『魔導書図書館』であり、反乱防止のため、一年周期で『記憶を消される』運命にあるのだ。

 それも『魔導書で脳が圧迫されているせいで一年周期で記憶を消さないと死んでしまう』というウソを信じ込まされている仲間の魔術師達の手によって。

 そう、彼女を追っていた魔術師達は元々は彼女の友人で、別れが辛くならないよう悪役を演じ続けていたのだ。

 実際に彼女を苦しめてるのは『一年毎に記憶を消さないと死ぬ』呪いのようなもので、それさえ解呪すれば、彼女は忌まわしい運命の『首輪』から解き放たれるのだが……。

 そして、その鍵を握るのは上条さんの右手なのだが……。

 

 インデックスの命のタイムリミットは今夜──7月28日の深夜0時頃。

 その時刻に、魔術師達が彼女の記憶を『殺す』術を掛ける予定──。

 

 ──なのだが。

 この私が、電話越しに聖人相手に啖呵を切ってみせたことで、風向きが一変した。

 

 義務教育レベルの科学知識さえあれば見抜ける簡単なウソに騙されたままのおバカな魔術師達が意味のない悲劇を繰り返し幼気(いたいけ)な少女に背負わせるなんて──。

 そんな頭き×しゃん……いや、頭じゃご×べ……いや、頭パープリン……いや、そんなふざけた幻想、中学一年の賢い佐天さんが、高校一年のおバカな上条さんの右手で跡形もなくぶち殺す!!

 

 ……ってな感じで済めばよかったんだけどなあ。

 

 今現在、私と上条さんの目の前には、『首輪』を破壊され『防衛機構(セキュリティ)』を起動した『修道女型の移動要塞(フォートレス)』が『絶対防壁(バリア)』を展開し、迎撃体勢に入っていた。

 簡単に言うと、シスターちゃんの体が『殺戮機械(キラーマシン)』に支配され、上条さんを敵と認識し、殺しに掛かろうとしてるという訳だ。

 もちろん、その場にいる私と、気絶してる黄泉川先生も危ない。

 

 今の所、相手は上条さんのみに狙いを定めている様子。

 なので今のうちに、足手まといになる黄泉川先生を外に出してしまおう。

 そう考え、私は先生の体を引き摺りながら、玄関を通って外へ出て行く。

 入り口の前で魔術師と聖人が呆然としてるが構ってる暇はない。

 

 ってか、黄泉川先生、()()()()色々デカいし重い……!

 

 ……ドゴォォォォォォッッッ!!!

 ピキィィィィン!!!

 

 背後から強烈な『砲撃音』とともに『ガラスが砕ける音』が聞こえてくる。

 チラリと後ろのほうを一瞥すると、シスターちゃんの顔から発射された巨大な閃光(レーザー)が、上条さんの右手一つで受け止められているのが見えた。

 

「まさか……」

「何で、あの子が魔術を……」

 

 魔術師達が何やら驚いてる。

 シスターちゃん本人は魔術を使えない事になってるのか。

 

「決まってんだろうが!」

 

 それに対し、分かり切ってるとばかりに上条さんが答えてみせる。

 

「インデックスが魔術を使えないなんて、教会がウソついてやがっただけだろうが!」

 

 まあ、10万3000冊もの魔導書の知識に加え、自分の意思であんなトンでもない魔術を自在に扱えたりしたら、もはや誰の手にも負えない、言うなれば『魔神』の域に達してしまうからねぇ。

 本人の意思では魔力を行使できないなどの何らかの『足枷』が付けられてるんだろう。

 封じられたぶんの魔力は、あの『警備システム』に回されてるのね。

 ……あの××んすババアの考えそうな事だわ。

 

「ああ、そうだよ! インデックスは一年おきに記憶を消さなきゃ助からないってのも大嘘だ! こいつの頭は、教会の魔術に圧迫されてただけなんだ! そいつを打ち消しちまえば、もう記憶を消す必要も無くなっちまうんだよ!」

 

 それがウソだって最初に気付いて教えたの、あたしなんですけど。

 まあ、頭が圧迫されてたのは魔導書のせいじゃないってのは、上条さんの見解だけど。

 本の知識だけで脳が圧迫されるって話どうしても信じて貰えなかったんだよね。

 脳の容量が1ペタバイトという話も『ホントかな?』って眉唾扱いだったし。

 んで、仕方ないので黄泉川先生から教えて貰った電話番号で、小萌先生に確認したら、どうやら『意味記憶(知識)』と『エピソード記憶(思い出)』は別物らしく、どれだけ本を沢山読んでも記憶が圧迫される事はありえないんだとさ。……別に悔しくなんかないもん。

 

「冷静に考えてみろ! 禁書目録なんて残酷な役目をこいつに背負わせやがった連中が、てめえら下っ端に心優しく真実を全部話すとか思ってんのか! 何なら、インデックス本人に聞いてみりゃいいだろうが!」

 

 言いおるね。上条さんってアジテーションの天才だったりして。

 思わず聞き惚れそうになっちゃうよ。

 

「──『(セント)ジョージの聖域』は、侵入者に対して効果が見られません。他の術式へ切り替え、侵入者の破壊を継続します──」

 

 キィィィィン!!!

 

 シスターちゃんが痺れを切らしたのか、何か本気を出し始めた。

 レーザーがさらに太くなる。

 って、今まで手加減してたの? あれで?? ……マジ?

 

「ぐっ……ぐあっ……がああああぁぁぁぁっ!!」

 

 ピキィ……ピキィ……!!

 

 上条さんは必死に抑えてるが、右手から何やら危なっかしい音が聞こえてくる。

 右手がヒビ割れてる!?

 

Fortis(フォルティス)931!」

 

 ここで、魔術師が吼えた。

 彼の懐からルーンが刻まれたカードが何十、何百枚も飛び出し、独りでに壁に貼り付いていく。

 

 って、どんだけカード溜め込んでるの? この人。

 この前、あたしの学生寮の周りにペタペタ貼りまくってた時の比じゃないよコレ。

 しかも、カラー印刷で綺麗な魔法陣と命令文まで付いて、キチンとラミネート加工されてるし。

 業者さんに委託したのかな。いいなあ、プロの魔術師は。あたしバイトしようかな。

 

 ……と、そんなノンビリしたツッコミを心の中で入れてる私を他所に。

 

「曖昧な可能性なんて要らない。あの子の記憶を消せば、とりあえず命を助ける事ができる」

 

 !?

 何言ってんの? この人。

 あたし達の話聞いてた?

 ……この分からず屋め、バカに付ける薬は無いのか!

 そもそもこの段階でそんな話しても、もう手遅れだってーの!

 『首輪』はもう()()()()()()んだから。

 記憶を消せばとかいう段階はとっくに終わってるのに!

 

「……僕はそのためなら誰でも殺す。いくらでも壊す。そう決めたんだ。ずっと……前に」

 

 ……そうか。この人はもう()()()()()()()()()()()()()のか。

 でも、見た感じそんなに老けて無さそうだし、間違いを認めてやり直すぶんにはまだ遅くないと思うけどなあ、佐天さんは。

 

 上条さんも思うところがあるのか、一瞬だけ考え込む仕草を見せる。

 しかし……。

 

「“とりあえず”だぁ? ふざけやがって。そんなつまんねえ事はどうでもいい!」

 

 ……と、魔術師の『引き返せないほど重い』言葉を“つまんねえ事”と切って捨て──。

 

「たった一つだけ答えろ、魔術師! てめえはインデックスを助けたくないのかよ!?」

 

 ──核心を突くたった一つの質問を突きつけるのだった。

 

 この場合の、上条さん言うところの『助ける』は、命だけではなく、インデックスの心そのものを救うという意味だろう。

 一年おきに『記憶を殺され』続ける限り、彼女は決して『助からない』という事だ。

 魔術師言うところの『とりあえず記憶を消せば』では決して叶わないのだ。

 だから、そんな方法に拘るのは『つまんねえ事』で『どうでもいい』と言い切れる。

 

 上条さんの()()()な言葉は、科学的知識など一個もひけらかさなくても、魔術師に届いた。

 あたしの言葉は届かなかったのに。

 すごい……この人。あたしなんかじゃ全然辿り着けない場所に立っている。

 

「てめえらずっと待ってたんだろ! インデックスの記憶を奪わなくても済む、インデックスの敵に回らなくても済む、そんな誰もが笑って、誰もが望む、最高なハッピーエンドってやつを!!」

 

 ああ。

 ……って、聞き惚れてる場合じゃない!

 上条さんは必死で堪え続けてるんだ。今もなお、右手が砕けそうな音を立ててるってのに。

 

 彼が魔術師を説き伏せ、奮い立たせるための長口上を述べている間に、あたしはあたしでやらなきゃならない事がある!

 

 とりあえず、上背がある魔術師の背後が安全地帯っぽいので、そこに身を潜めながらテレズマを集めていく。

 今のあたしは魔力使用回数切れだから、魔力使用が前提の即興の術式は使えない。

 なので、イェザレルを発動するための下準備として、火のテレズマを練り上げるのだ。

 これは上条さんの近くでは絶対にできない作業だ。

 彼の右手はテレズマを打ち消してしまうし、その上、巨大なレーザーを防ぐので手一杯だ。

 そんな時に、すぐそばでテレズマを集めたりしたら、それを自動で掻き消すという余計な負担が掛かってしまう。

 それに加え、炎剣の魔術師からは火のエネルギーが漏れ出ているので、相性がいいのだ。

 

 上条さんのかっこいいセリフに集中できないのは残念だが、私は頭の中を術式に集中させる。

 

「──(おん)にして(かん)。温にして乾。温にして乾。温にして乾。温にして乾。(Hot And Dry.)温にして乾。(Hot And Dry.)温にして乾。(Hot And Dry.)温にして乾。(H.A.D.)温にして乾。(H.A.D.)温にして乾。(H.A.D.)温ニシテ乾。(HAD.)温ニシテ乾。(HAD.)温ニシテ乾。(HAD.)温ニシテ乾。(HAD.)温ニシテ乾(HAD)温ニシテ乾(HAD)温ニシテ乾(HAD)温ニシテ乾(HAD)……」

 

 術式の詠唱を徐々に速め、ギアを上げていくに従い、私の周囲が熱気を帯びていく。

 決して、私が早口で喋って体温が上がったとかの理由ではない。

 

「そして、火──すなわち獅子座のテレズマを代価とし、I.(ヨッド)Z.(ザイン)L.(ラメド)御名(ぎょめい)を唱える──」

 

 そして、私の周囲に蓄積された火のテレズマをイェザレルの術式発動のトリガーとする。

 

イェザレル。(Iezalel.)杖(ワンド)の5と照応。(Corresponding with five of Wand.)

慈悲(ケセド)は錫。(Chesed is Tin.)峻厳(ゲブラー)は鉄。(Gevurah is Iron.)

錫と鉄の間、テト。(Between Tin and Iron is Tet.)その意味は『欲望』。(It means Lust.)

属性は火。(Element is Fire.)その形は蛇。(Form is Snake.)

我が手の指し示す先に、(In The Point My Hand Shows,)その力を顕現せよ(Manifest the Power.)

 

 私が指し示した先……すなわち、()()()()()()に『巨大な炎の蛇』が顕現した。

 大きさは大体、()()()()()()()()()()()()()()()()()()くらいか。

 いやぁー、だってねぇ、こんなモノ部屋の中でいきなりブッパしたら大火事になっちゃうし。

 

 ……さて。小手調べと行きますか!

 あたしの術式が果たして、あのシスターちゃんに()()()()()()()()

 

 上条さんの『長い演説』が終わった頃合いを見計らい、攻撃を開始する。

 って、何だか彼の右手がビキビキ音を立てて、指がヤバイ方向に曲がってるよ……!

 急がなきゃ……!

 

「この入口よりこの部屋に入れ。そして、聖人と魔術師と少年と私の体に触れることなく、白衣の修道女が放つ閃光に対する壁を成せ」

 

 私の指示に従い、巨大な炎の蛇はその体を細くし、部屋の入口をスルリと通り抜け、入口のそばに屯する私を含めた4人を器用に避けながら、シスターちゃんの前へと躍り出る。

 そして、その体を細いものから巨大なものへと戻しつつ、閃光の前に立ち塞がった。

 

 ……バズンッッッ!!!

 

 へ?

 何今の音?

 

 魔術師の体越しに、後ろの方、シスターちゃんがいる方向を覗いてみたら、炎の蛇の頭が閃光によって抉り取られ、あっという間に()()()()()のが垣間見えた。

 

 ……マジ?

 

「……何だキミ、そんな見掛け倒しの力で、あの子を何とかしようとしてたのか。そんなヤワな術しか撃てないなら、お呼びじゃないよ。その減らず口を閉じて、後ろで縮こまってればいい」

 

「──新たな術式を確認。ただし、現状の攻撃で対処が()()したため、()()()()()()()と判断。引き続き、攻撃を続行します──」

 

 …………。

 

 ビキビキビキ。

 

 魔術師とシスターちゃん(警備システム)からまとめてバカにされ、私の額に音を立てて青筋が浮かび上がる。

 

 くっそ。

 何が“小手調べ”だ。何が“通用するかどうか”だ!

 何が何でも通用させなきゃ話にすらならないじゃん!

 舐めやがって!!

 

 目の前が真っ赤になり、私の口から怨嗟とともに、次の呪文が唱えられる。

 

「……アブラカダブラ(ABRAHADABRA)白衣の少女(インデックス)を縛る“悪霊”の支配を弱め、その力の源となる“魔導書図書館”の知識を破壊せよ。少女(インデックス)の枷となる“首輪”に雷光の死を与えん」

 

 私の口から紡がれた『呪詛』に反応し、インデックスは無表情のまま体を捩らせ始める。

 同時に、それまで放たれていた閃光の勢いが弱まり、たちまち消えるのだった。

 そのおかげで、上条さんは持ち直す。

 

「まさか……あの子に“呪詛”を!?」

 

 そばにいる聖人が驚いた顔で私のほうを見る。

 

「君は何を考えてる!? あの子に傷一つでも付けてみろ。僕が灰も残さず焼き殺してやる!!」

 

 魔術師も反応し、私に対し詰め寄る。

 だけど、構いやしない。

 とりあえず、あの子を黙らせた後で、上条さんに治してもらえばいいんだし。

 謝るなら後でいくらでもできる。

 

「上条さん、急いでシスターちゃんを!」

 

 私はそれだけ告げて、呪詛の持続に集中する。

 だが──。

 

「──警告。第15章第17節。新たな術式を確認──逆算に成功──『呪詛』と判明。これより『呪詛返し』を発動します。『ABRAHADABRA(アブラカダブラ)』。『汝の死に雷光を与えん』──」

 

 !!!

 

 『呪詛返し』!?

 

 やばい。

 逆手に取られた!

 

「……ゴフッッッ!!!」

 

 私の体に『電流が走る』とともに、全身の血管がビキビキと浮き立ち、喉の奥から何かが込み上げてきて、堪える間もなく、一気に吐き出された。

 全身から力が抜け、暑いのか寒いのかすらも分からなくなり、私は()()()

 

「──『呪詛』の排除を確認。『(セント)ジョージの聖域』による攻撃を再開します──」

 

 く……あたしの攻撃が全く効かないなんて……!

 上条さん……あたしに構わず、早くシスターちゃんを……!

 

「……Salvare(サルヴァーレ)000!」

 

 聖人が()()()()()()()()()()()魔法名を唱える。

 刀から伸びたワイヤーを畳に引っ掛けることで、シスターちゃんの足場を崩し、レーザーの射線を上に逸らす事に成功した。

 あの子は宙に浮かんでいるとはいえ、あくまで基準は足場にあり、そこがひっくり返れば自ずとあの子の体もそれに従い、同じようにひっくり返るらしい。

 

 そうだった。

 魔術師は『飛行』が禁じられてるんだっけ。

 だから、体を浮かせてるとはいえ、足場を基点にほんの少しだけという形になる。

 ……その手があったか。

 あんな方法を思い付いてたら、風の術式で畳をひっくり返せばそれで済んだんじゃ……。

 はは。あたし、とんだ間抜けじゃん。

 

 射線が逸れたレーザーは小萌先生の部屋の天井をぶち抜き、上空の彼方へと伸びていく。

 てか、あんなモノを上条さんは右手一つで受け止めていたのか。

 こりゃ生半可な術式じゃ一発で撃沈される訳だわ。

 

 隙を突いたのか、いつの間にか上条さんが私の傍らに寄り添い、右手を私の背中に当てている。

 

 ……ピキィィィン!!

 

 “何か”が砕かれる音とともに、私の体は大分楽になった。

 もう苦しくない。

 

 呪詛の他に、何か()()()()まで砕けたような気もするけど。

 

「あ、ありがとう……ございます」

 

「いいって。俺も()()()()。ありがとな」

 

 それはどうも。

 あたしの“命懸け”の行動も、上条さんのお役に立てたって事ですね。

 それは何よりです。その一言だけで、あたしは()()()()

 

 私は上条さんの手で仰向けに横たえられ、大穴が開いた天井を見上げる形となる。

 

 ああ。空から“天使の羽根”が降ってくる。

 あたし、もう死ぬのかな……。

 

 ……ん?

 何だか、あの“羽根”からは()()()()()()()()()

 それらはシスターちゃんが発射している巨大な光の柱に沿って、天空から舞い落ちてくる。

 

「何だ……これ……?」

 

「これは……『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』!! 伝説にある『(セント)ジョージのドラゴン』の一撃と同義です! ()()にたった一枚でも触れてしまえば、大変な事に!!」

 

 うわ。マジ?

 あたし、このまま寝てたらヤバい、死ぬ! 死んじゃう! 死にたくないよ!!

 

 生来の()()()()()()が出たのか、私の体はまるで“火事場の馬鹿力”を発揮するかのごとく、それまでの怪我がウソであるかのように俊敏な動きで起き上がり、羽根を避けられる位置へ素早く身を退いたのだった。

 

 ふと、正面を見ると、シスターちゃんが顔を上に向けたまま宙に浮き上がるように起き上がっているのが見えた。

 レーザーの射線を元に戻すのって結構、力が要りそう。なので先に体のほうを立て直したのか。

 

 するとすかさず、顔をこちらへ向けてきた。

 ……やばっ! 来る!

 

 レーザーは上条さんを狙ったように飛んできたため、彼は思わず右手で防ぐ仕草をするも……。

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)!!」

 

 魔術師の呪文に従い、放たれた炎剣から『炎の巨人』が生まれ、レーザーをブロックする。

 ……あれが、炎剣使いの()()()か。その力は周囲に貼り付けたルーンの数に比例する?

 そして、魔力のニオイを辿ると、力の源は巨人そのものではなく、ルーンのほうにあるようだ。

 ……幻想猛獣(AIMバースト)の仕組みと少し似てる?

 アレは幻想御手(レベルアッパー)使用者のAIM拡散力場の集まりを拠り所とした『影』みたいなものだった。

 炎の巨人もルーンの力の集まりを映し出しただけの『虚像』に過ぎないのか。

 だが、虚像とはいえやはり……いや、虚像()()()()()、ルーンから無尽蔵に送られてくる魔力を糧とした『無限の再生力』のおかげで、巨大なレーザーに対し持ち堪えられるのだろう。

 

 アレに対抗するには、あたしだったら『セレマ』の術式を持ち出すしかないだろう。

 それくらいトンでもないものだと思う。いつぞやの時、あんなのと戦わなくてよかった……。

 

 あまりの威容に、さすがの上条さんも言葉を失い、目を剥いて、口をポカンと開けている。

 だが……。

 

「行け!! 能力者!!」

 

 魔術師が上条さんに檄を飛ばす。

 炎の巨人がブロックしているこの時が、最大のチャンスと言う訳か。

 

 呼応するように、上条さんがシスターちゃんの所目掛けて走り出した。

 

 あの子の命のタイムリミットはとっくに過ぎてるらしい。

 念のため時刻を確認するが、小萌先生の部屋にあった壁掛け時計は、戦闘の余波で家具があちこちに散乱したのに巻き込まれ、どこかへ飛んで行って見当たらない。

 なので私のスマホで確認すると、既に0時25分を過ぎていた。

 って、もうそんなに経ってるの!?

 

「──警告。第6章第13節。新たな敵兵を確認。戦闘思考を変更、戦場の検索を開始……完了。現状、最も難易度の高い敵兵『上条当麻』の破壊を最優先します」

 

 インデックスはそう呟いた直後、レーザーの射線が上条さんと重なるように首の向きを変える。

 ……が、炎の巨人も上条さんを守るように、レーザーの射線上へ移動し、盾となる。

 

 って、上!!

 上空から、シスターちゃんのいる場所に無数の羽根が落ち続けてる。

 このまま上条さんが突っ込んでいったら、シスターちゃん諸共、あの羽根にやられちゃう!

 どうする……?

 

「……聖人のお姉さん!」

 

「何ですか? こんな時に」

 

「ワイヤーで天井を塞いでください。上空の羽根は、あたしが何とかしますんで」

 

「!!」

 

 これで私の意図を理解したのか、聖人は『七閃(ななせん)』のワイヤーで防御結界を組み上げ、部屋の天井の穴を塞ぎ始める。

 その間、私はアパートの外に出てから、再び術式発動の準備を始めるのだった。

 

「……温にして乾。温にして乾。温にして乾。温にして乾。(Hot And Dry.)温にして乾。(Hot And Dry.)温にして乾。(Hot And Dry.)温にして乾。(H.A.D.)温にして乾。(H.A.D.)温にして乾。(H.A.D.)温ニシテ乾。(HAD.)温ニシテ乾。(HAD.)温ニシテ乾。(HAD.)温ニシテ乾(HAD)温ニシテ乾(HAD)温ニシテ乾(HAD)温ニシテ乾(HAD)温ニシテ乾(HAD)……」

 

 ……ゲホッ。

 

 !?

 あっ……? 何??

 

「……血??」

 

 なんで。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……()()()()()()???

 あたし、今、魔力が出てる?

 

 ……あ。

 

 ()()()。上条さんが、あたしの背中に()()()()()()時。

 魔力の封印の印形(シジル)が消されたんだ。

 

「──警告。第22章第1節。炎の術式の逆算に成功。曲解した十字教の教義(モチーフ)をルーンにより記述したものと判明。対十字教用の術式を組み込み中……第一式、第二式、第三式。命名、『神よ。何故私を見捨てたのですか?(Eli Eli Lama Sabachthani?)』完全発動まで12秒──」

 

 インデックスの冷たい声で何やら『不穏なメッセージ』が告げられたのが部屋の中から漏れ聞こえてくる。

 ……逆算に、成功!?

 “Eli Eli Lama Sabachthani(エリ・エリ・レマ・サバクタニ)”は、神の子が十字架に磔にされた際に発した神への問い。

 それに対し、『イノケンティウス』は『魔女狩り』と『異端審問』を活発化させたローマ教皇。

 堕落した魔女狩りの教皇に対し、処刑される神の子をぶつけるとは何たる皮肉。

 

 ……時間がない。

 あたしが魔術の副作用でどうなるかなんて、この際()()()()()()

 

 ……始めるか。

 

「そして、火──すなわち獅子座のテレズマを代価とし、I.(ヨッド)Z.(ザイン)L.(ラメド)御名(ぎょめい)を唱える──」

「──イェザレル。(I.Z.L.)錫と鉄の間。(B.T.A.I.)その意味は『欲望』。(I.M.L.)我が手の指し示す先に、(I.T.P.M.H.S.)火の蛇を顕現せよ。(M.S.O.F.)

 

 天空へ向け手を指し示しながら、私は速記詠唱(ノタリコン)と詠唱短縮を用いて、イェザレルの『火の蛇』を顕現させ、それを上空へ解き放つ。

 さらに──。

 

「──ハディト。(H.)無限の星々たる(T.C.A.)天空(ヌイト)の補完者(T.H.O.N.)にして配偶者。(T.I.S.)

それは魔術師にして退魔師。(I.I.T.M.A.T.E.)広がりは無く、(I.I.N.E.)『人の魔術の光(クハブス)』を住処とす。(A.R.I.K.)

それは遍在する中心点。(I.I.T.U.C.)全ての人の心の内、(I.I.T.F.B.I.E.H.O.M.)全ての星の中心核にて燃える炎なり。(A.I.T.C.O.E.S.)

それは青く、(B.I.I.)天空(ヌイト)の光の中では金色なれど、(A.G.I.T.L.O.N.)双眸は紅く閃き、(B.T.R.G.I.I.T.E.A.)スパンコールは紫と緑。(T.S.A.P.A.G.)

紫を超える紫。(P.B.P.)可視域よりも上の光なり。(I.I.T.L.H.T.E.)

それはとぐろを巻いてまさに(I.I.T.S.S.)跳び上がろうとする秘密の蛇。(C.A.T.S.)とぐろ巻くところ喜びあり。(I.T.C.T.I.J.)

頭を挙げれば天空(ヌイト)と一つとなり、(I.I.L.U.T.H.I.A.N.A.O.)頭を垂れ毒を吐けば(I.I.D.D.T.H.A.S.F.V.)大地が歓喜し(T.I.R.O.T.E.)それと一つとなる。(I.A.T.E.A.O.)

すなわち、炎の蛇なり(I.O.W.I.I.T.S.O.T.F.)

 

 イェザレルの術式にハディトの術式を重ね掛けし、火の蛇を『ハディト』へと変貌させた。

 しかも、以前の術式に大幅な変更を加えてある。

 

 ──その刹那。

 

 夏の夜空に、真紅の燃え(たぎ)双眸(そうぼう)をギラつかせ、焼け(ただ)れた溶岩流のような極彩色(ごくさいしき)の鱗を持つ、深淵から這い出てきたような──巨大な()()()()()()()()()のような『ナニカ』が。

 突如として、()()()()()()()

 

 ……これが……()()()()……??

 

wuvar誰yiu?(Who Are You?) wuv何uwv?(What's Up?)

 

 ……え。シャベッタアア!!

 

 と、とにかく。落ち着け。

 あたしは、コイツに何としてでもやってもらいたい事があるんだ。

 これは……あたしの『一生分のお願い』と言っても差し支えない。

 

「……上条当麻と、インデックスちゃんを助けてください!!!」

 

 思わず、呪文でもなんでもない、ただの日本語で言ってしまったが……伝わったのかな?

 

 すると()()()()は極彩色で説明不能な不可思議模様を持つ()()()()()()()を捩り、周囲をグルリと見回した後、まるで全てを理解したように……。

 

iea解uwv。(I Unterstand.)ieal揚uwvth、(I Lift Up The Head,)aern天aerieaaeroa(And Nuit And I Are One.)

 

 そう、一言だけ言い残し。

 

 ゴガアァァァァァァァッッッ!!!!!

 

 雷光の如き速さで、()()()()()()()()

 

 後に残されたのは、空から飛来してくる無数の『燃えて今にも消えそうな羽根』と、夜空を突き抜けた『炎の軌跡』のみだった。

 

 終わった……のか?

 

 そう思い、気を抜いた途端、私の全身から()()()()()

 

 ……え?

 

 何だか……寒い……。

 

 とりあえず、私はポケットからスマホを取り出し、()()()()()()()()指を使って、カメラを起動し、自撮りモードで自分の顔を確認する。

 ……と、私の顔もまた、()()()()()()()()()()

 頭からは血が流れ……目が『真紅の炎のような真っ赤』に染まっていた。

 

 ん?

 

 あたしは……誰?

 いや。(オレ)は……誰だっけ?

 

 そう。

 己は、魔術師にして退魔師。

 (あまね)く存在する中心点にして、()()()()の心の中、その魔術の光(クハブス)を住処とする。

 佐天涙子にして、ハディト。ハディトにして、佐天涙子。

 それらを区別する必要などなし。

 

 さて。

 己のやり残した事がないか、確かめに行くとするか。

 

 全身を血塗れにし、その目を真紅に染めた『私の姿をしたナニカ』は、上条とインデックスが無事かどうかを確かめるため、部屋の外から中を覗いた瞬間、そこに広がる光景に言葉を失った。

 

 ……なぜ。

 

 なぜ、()()()()()()()()()()!?

 

 インデックスのほうは……目を瞑って眠っている。体は無傷で、無事のようだ。

 

 聖人が何かを叫んでいる。

 

 『羽根が当たった』?

 

 どういうことだ? 何が起きた?

 

 羽根は、己が()()()()()()

 

 なのに、なぜ?

 

 聖人がしくじったのか?

 いや、防御結界は天井全てに隈なく張られ、破れた様子はない。

 

 『近くの床に落ちていた一枚が、二人が倒れた瞬間、風で舞い上がり、上条の頭に当たった』?

 その、たった一枚の羽根が……。

 

 ……プツン。

 

 そして、私、佐天涙子にしてハディトとなった何者かは、意識を暗転させた。

 


 

 私、初春飾利(ういはるかざり)は、興奮で胸が高鳴りっぱなしだった。

 なぜかって?

 

 私が隠れて見ているそばで『魔術』なる異能同士の『頂上決戦』と呼べる大スペクタクルな戦いが繰り広げられた──というのもあるけど。

 

 今、私は手元の端末でハッキングして見付けた()()()()()()を読んでいる。

 その中には、恐るべき内容が記されていた。

 

統括理事会への報告書

消息不明の『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』に関する最終報告

 

7月28日0時22分。衛星軌道上より『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の姿が消失。

同日1時15分。第一次捜索隊を派遣。

同日2時40分。発見された残骸(レムナント)の一部を回収。

分析の結果、『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』は正体不明の高熱源体の直撃を受け大破したものと判明。

 

 あのアパートの建物の中から発射された『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』なる破壊光線が、『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』を搭載した人工衛星『おりひめ1号』に直撃したんだろう。

 その少し後に佐天さんが空に向けてぶっ放した『大魔術』も怪しいけれど、時間的に遅すぎる。

 

 ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 私は、そんな事には興味が無い。

 私は──

 

 ──あの『残骸(レムナント)』……『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の『演算中枢(シリコランダム)』が、欲しい!!!

 

 アレさえあれば、私は『誰にも書き換えられない()()()()()』になれる!

 

 私は『神様の頭脳』とやらに興味はないし、神様になりたい訳でもない。

 ただ、私は『初春飾利(ういはるかざり)』という世界で()()()()()で居たいだけ!

 そのためなら、何だってするって、私は決めたんだ!

 あの時。私が『佐天さんとの思い出を改竄された』と分かった瞬間から!

 

 私は、『正義でありたい』と思っている。

 でも、それは()()()()()()のが前提であって、自分が誰かの手で粘土のように捏ねくり回されるだけの『作り物』にされていると分かった瞬間から、私の信念は土台ごと崩れ去った。

 

 記憶を好き勝手に弄られる風紀委員(ジャッジメント)の正義に何の意味があるのか、もう分からない。

 私はそんな、誰かの都合で変えられる程度の正義なんか、要らない!!!

 だから、本当の正義であるため、私は誰にも変えられない私だけの私でいなければならない。

 そのためなら、私は手段を選ばない。

 科学だろうが、『魔術』だろうが、利用できるものは何だって手に入れてやる!

 『勝てば正義』なんだから!

 

 ……あ、そうそう。

 10万3000冊もの『魔導書』の集まりである『魔導書図書館』自体にはあまり興味がないです。

 そもそも、読んだだけで脳が腐るような『魔本』なんて、一体誰が読みたがるんでしょうかね?

 もちろん、『禁書目録』と呼ばれるあの子の()()()()()境遇には心底同情しますし、もし助けを求められたなら、風紀委員の職務以前に、()()()()助けてあげたいですけど。

 ただ、秘密を守るための攻性防壁(ファイヤーウォール)が仮想人格として植え付けられてる部分だけは、科学の領分との相性も良さそうですし、割と参考にできるかも知れません。

 例えば、私の人格をどこかにバックアップしておいて、頭の中がハッキングされたら攻性防壁を呼び出して相手を焼いた後、人格をレストアすれば、いつでも私は私のままでいられるでしょう。

 そのための容れ物として、あの『演算中枢(シリコランダム)』は好都合なんですよね。

 

 さてと。どうやってアレを()()()()()()()()()()()()()()()()()手に入れましょうか……。

 今からハッキングの腕が鳴りますよ。

 

 …………。

 

 あれ? 白井(しらい)さんから電話?

 昨晩のだ。……不在着信が何件も!

 

 そういえば、佐天さんがシャワー使う時に白井さんを同行させる予定だったんで、寮で待機してもらってたんだっけ。

 でも、佐天さんは昨晩黄泉川先生と一緒に出掛けて、私もコッソリ尾行してたから、白井さんをずっと待たせたまま、朝まで……。

 うわぁー……どうしよう!

 しかも、朝まで携帯の電源切ってたし。

 

「初春」

 

 へ?

 あ、あはは……。

 おはようございます。()()()()

 

「昨晩から電話にも出ず……こんなところで、なーにをしてるんですの!!??」

 

 あ……これって駄目なやつだ。

 白井さん、すごい怒ってる。

 

「って、こんな事してる場合ではありませんの! 佐天さんが行方不明なのもですが、それよりも大変な事が起きてますのよ!」

 

 え……大変な事って?

 

「観測用の人工衛星の一つが、地上からの()()()()()()で消息不明になったそうですの」

 

 ええ……もうそんな騒ぎになってるのか……。

 私がハッキングしてまで最速で手に入れた情報の意味とは一体。

 

「現在、風紀委員は警備員とともに、()()()()()を特定する作業で大忙しですのよ。何でも、スキルアウトの過激派が、ストレンジの一斉摘発の情報を事前に掴んで、それを妨害するためにテロを起こしたのではという話も出ていますの。初春も()()()()でサボってないで、とっとと仕事に戻りなさい!!」

 

 ああ……。私が頼んだパフェが……。白井さん、せめてパフェを一口食べてからでも……。

 

「カードで。領収書の名義は『風紀委員177支部・初春飾利』でお願いしますの」

 

 ああ、白井さん。立て替えてくれるのは嬉しいですけど、それ経費じゃ落ちませんよ……。

 

 こうして、私、初春飾利は、白井さんの手で『コーヒー&レストラン“joseph's”(こんなところ)』から無理やり引きずり出され、風紀委員の仕事へと駆り出されるのだった。

 


 

 私、佐天涙子は()()()()()病室にいた。

 と言っても、この前みたいに酷い怪我で運び込まれたという訳ではない。

 全身血塗れではあったものの、どういうわけか、()()()()()()()()らしい。

 それに加え、外傷の有無を調べるため、眠っている間に全身隈なく消毒・清拭(せいしき)して貰ったので、今は綺麗なものである。

 なお、着ていた私服も血塗れで目も当てられない状態だったので、安全に脱がせるための緊急措置として、ハサミを遠慮無くジョキジョキ入れられ、二度と着られないボロ切れ状態になった。

 ……お気に入りだったのになあ。

 まあどっちにしろ、血がシミになってとても着られたもんじゃないのは確定だったけど。

 なので、今の私はスッポンポンの上に患者服しか着ておらず、とても外出できる格好ではない。

 

 はぁ……。あたしの着られる服、どんどん減っていくなあ。

 そのうちアマゾーンみたく半裸姿で動き回る羽目になったりして。

 てか、炊飯器とレンジもまだ買ってないし、その上病院代もバカにならないし、お金も物もどんどん無くなって、いずれ寮の家賃も払えなくなって、宿無し素寒貧(すかんぴん)になるんじゃなかろうか。

 とりあえず、お金が欲しい。バイトしようかな。レベルも1つか2つくらい上げたいなぁ。

 

 って、こんな馬鹿な事考えてても詮無いことだし、体はどこにも異状が無いから、今はさっさと退院してウチに帰るとしよう。

 

 ……上条さんは結局、()()だった。

 ()()()()()()記憶してる限りだと、シスターちゃんを助けた直後、頭に『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』の羽根がブチ当たって、()()()()を受けたようだけど、とりあえず()()()()()()()()()模様。

 朝早く彼の病室まで見舞いに行ったけど、まだ眠っていたため、()()()()()はまだお預けだ。

 

 私が意識を失った後、黄泉川先生が目を覚ましたのと、小萌先生が帰ってきた事で、色々一悶着あったみたいだけど、それは私の知る所ではない。

 何でも、あの魔術師と聖人の二人組は警備員からマークされていた上、()()()()()()()()()()()()()()()()()黄泉川先生から()()()()()()()()()()暴行を疑われ、面倒事を避けるためか、何も言わずさっさと退散したらしい。

 上条さんとシスターちゃんと私の三人が黄泉川先生と小萌先生によって病院に運び込まれた後、医者の所に魔術師達が訪れ、大方の事情を説明した上で、手紙を渡して行ったそうだけど。

 

 ともあれ、インデックスちゃんはイギリス清教の最低最悪のじごんすババア最大教主によって掛けられた『首輪』が壊され、『侵入者』を破壊するための『警備システム』も砕かれた以上、一年おきに『記憶を殺される』という救いのない()()()()は断ち切られ、これからは彼女自身が自分の運命を切り開くチャンスを得られるという訳だ。

 あの『献身的な』魔術師達ともいつかは仲直りできるだろうし、私もできる限りの協力はしようと思う。

 

 でも、まずはその前に……小萌先生から差し入れて貰った、替えの私服に着替えるか。

 

 ……ん?

 スマホのランプが明滅してる。

 って、白井さんから不在着信が来てる!?

 

 ……やばっ!

 あたし、風紀委員の支部で身辺警護(という名の軟禁)されてたんだった!

 あれ? でも、黄泉川先生から白井さんに話行ってなかったのかな?

 とりあえず、こっちから掛けてみよう。

 

「もしもし、白井さん?」

 

『……佐天さん。……何かご用ですの?』

 

 ん? 白井さん、何か声が上擦ってるような。

 これはかなりマズいニオイが……。

 

「いえ。白井さんから着信があったので、何か用事でもあるのかと思って」

 

『……そうですか。ところで、今どこにいますの?』

 

 えーと……。これは益々ヤバい空気が……どうしよう。これ正直に答えていいのかな。

 でも、ウソ教えても初春がGPSで場所突き止めるのですぐにバレるだろうから、後々面倒だし。

 ……よし。

 

『……あ、ちょっと()()()()()外を見てくださります?』

 

 え? 窓? 何だろう。

 

 そう思い、訝しみながらも、私は言われるまま病室の窓を開け、外を見てみる。

 

 …………。

 

 ?? 何も無いけど。

 

「えーと。何もありませんけど?」

 

 そう、私が答えた瞬間、後ろから『監視者』のニオイが残り香のように感じられた。

 

 ……!!

 思わず後ろを振り向いた私の目の前に、()()()()()

 

「あはは……おはようございます。佐天さん」

 

 あれ? 何で初春がここに?

 

 ……ということは……。

 

 ガシッ。

 

 私の背後から、()()()()()()()()()()()()()、私を羽交い締めにする。

 ……と同時に、すかさず、前のほうから初春が抱き着いてきた。

 

 ???!!!

 

『「……逃しませんの』」

 

 電話と耳元から()()()()白井さんの声が私の耳に届いた瞬間、目の前にいる初春の()()()()()が切り替わるのだった。

 

 この後、私は白井さんからたっぷり絞られた。

 なぜか、初春のほうは大人しかったけど。

 仕方がないので、風紀委員の支部から()()()いなくなった件については、黄泉川先生に全て擦り付けておいた。

 というか、先生から頼み事されたんだから、当然、風紀委員に話は通しておいてあるって思うに決まってるじゃん。まさか、先生の独断だったとは。

 まあ魔術関連の事だし粗方想像は付くけど。学園都市の()()()()に逆らったんだろう。

 イギリス清教絡みのゴタゴタには不干渉を貫くのが上の方針っぽいし。

 私の心情的には、先生は何一つ間違った事などしていないのだから庇ってあげたいけど、大人には大人の事情ってものがあるんだろうし、ここは大人しく黙っておこう。

 そもそも私自身にも、学園都市の方針に反して()()()()()()()()()()という()()()()事情があるのだから。

 

 それに、これ以上学園都市からマークされるのは都合が悪い。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 幻想猛獣に魔術をぶっ放した時なんか、目撃者の記憶が都合よく改竄されてたし。

 いくら本人達の不利益にならないよう配慮されてるとは言え、身近な友達の記憶が塗り潰されるのを見過ごし続けるのは、()()()()()()()()使()()()()()()()みたいで、心情的に具合が悪い。

 

 “魔力の封印”も無くなった事で“魔術の副作用”も復活した事だし、しばらくは魔術使用を控え、能力開発のほうを、もうちょっと気合い入れてやろうかと思う。

 魔術ほど多岐に渡る効果を出せないとはいえ、何かの能力に目覚めれば、()()()()()()()()()()が開けるかも知れないし。

 

 ……という訳で。

 

 がんばるぞー!!

 




解説1:
 自動書記(ヨハネのペン)が『呪詛返し』の際、唱えた警告文について。
 『第15章第17節』は、作中オリジナル設定。
 原作範囲において、この章・節番号が使われている術式やメッセージは確認できていないため、被らないと思われる。

解説2:
 “Eli Eli Lama Sabachthani(エリ・エリ・レマ・サバクタニ)?”は、『マタイ福音書』第27章第46節からの引用。
 神の子が十字架に磔にされた際に言ったとされる7つの言葉のうちの一つ。
 直訳すると、『我が神、我が神、どうして私を見捨てられたのですか』。
 神の子が罪人の身代わりとなり、審判される側として自らを罪人と同一化し、神の裁きを受けた際に発した神への問い。

 ローマ教皇イノケンティウス8世は、魔女狩りと異端審問を活発化させた他、親族登用、聖職の売買、派手な女性関係など、堕落した教皇としても知られる。

解説3:
 初春が携帯の電源をオフにしている間、不在着信の履歴が残っていた理由。
 圏外や電源オフでも着信履歴が残るサービスを利用しているため。

解説4:
 佐天は上条当麻が『死んだ』事を知らない。と言うか、知る由もない。
 普通は『記憶破壊』なんて想像も付かないし。

解説5:
 佐天が佐天にしてハディト、ハディトにして佐天となった理由。
 『法の書』第2章第10~13節より抜粋した内容を意訳すると、以下のようになる。

「お前(読者)はこの本(法の書)を学ぼうとする邪な意思があるな?
お前は手とペンを使うのが面倒臭いようだが、己(ハディト)はもっと強いぞ。
お前の知らない“お前自身”の中に、己(ハディト)がいるのだからな。
なぜかって、お前が認識している時点でお前は己(ハディト)なのだよ」

解説6:
 二度目に召喚したハディトが最初のハディトと外見が異なる理由について。
 最初のハディトが黒い理由は、『法の書』第2章第52節に隠されている。

「一枚のヴェールがある。そのヴェールは黒い。
それは慎ましやかな女のヴェール、悲しみのヴェールにして死の(とばり)
こんなものは全く己(ハディト)ではない。
あの幾百年にも亘る嘘つき亡霊を引き剥がしてしまえ」

 つまり、最初のハディトは黒いヴェールに包まれており、本来の姿では無かったという事。
 さらに、今回のハディトが極彩色の鱗を持っていたのは、術式の中にその体色を示す表現が加えられた事が影響している。
 それは、『法の書』第2章第50~51節より抜粋した内容が元となっている。

「己は青く、己が花嫁の光の中では金色だ。
そして己が眼には赤い閃きがあり、己がスパンコールは紫と緑。
紫を超える紫。それは可視域よりも上の光」
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