とある佐天の裏技遊戯(ニューゲーム) 作:RB_Broader
初春飾利の巻き戻し The Rollbackin' GoalKeeper
私、
私の罪状は、
そして、初春の罪状は、私への監視を怠った上行方不明となり、風紀委員の
罰の内容は、
なお、私に頼み事の形で無断外出を促した
……大人ってズルい。わざわざ弱みを作ってしまう初春も初春だけど。
あー。ホウキ仕事たるいなあ。職務
「佐天さん、寒いですよ」
「えー? こんなに暑いのに?」
「ンモー」
「初春! 佐天! サボッてないで、テキパキ動け!」
担任の
先生は私達の監視役だが、この施設で普段からボランティアとして働いているらしい。
「「はーい」」
私と初春は生ぬるい返事をした後、怒られない程度に、適度にボサッとサボり続ける事にした。
はぁ~。こんな生暖かい日は、獅子座のテレズマ充填作業がてら、日向ぼっこでもしたいなあ。
……おっといけない。あたしは魔術の副作用が復活したんだった。
現状、魔力を消費する作業全てが命懸けになる以上、この前までのように気軽にポンポン護符を作成するのは諦めるべきだろう。
なのでこれからは、能力を伸ばす方向で頑張るより他ないか。
って、あたし学園都市の学生だよね……
魔術知識あるからって、魔術に拘泥しすぎてるのかなあ……。
でも、今のあたしじゃあ、能力で風一つ起こせないんだよね。
一応『
空力使い。空気の流れを操る『気流操作系能力』。
学園都市の全学生の中で最もポピュラーな能力で、シンプルかつ応用性が高い。
そして、無能力者の大半はこれに分類される。
最も
もちろん、レベルが上がるに連れ、比例するように尖った個性が付き、その分応用性も狭まる。
それに引き換え、私達のような無能力者は
まあ、空気なんて
なので、私はどうにかして、これに
今、私が一番欲しいもの。
それが
だから、いっその事、
この『世界の力』が何を指すのか、敢えて言及する必要も無いけど。
大丈夫!
それこそが、私だけの『
だって、自分が一番欲しいもの、そうであって欲しい現実こそが、それなんだから!
という訳で、がんばるぞー!!
「佐天さん、また一人でガッツポーズしてる……」
「佐天、やる気があるのはいいが、気だけじゃなく本当にやれ。てか、サボるな」
あの後、常盤台の寮監さんがボランティアで手伝いに来て、子供達にピザを振る舞ったり、それを尾行していた白井さんや
ってか、あの
何か、『憑き物』でも憑いてて、それが上条さんの右手で
あの右手、本当に
そういえば、まだ上条さんに挨拶してないな。
インデックスちゃんも、あたしのほうが
そのうち見舞いにでも行こう。
あ……見舞いと言えば、そろそろアケミ達の所にもお見舞いに行かないとな。
今日あたり、初春連れて行くとするか。上条さんのお見舞いはそのついでという事で。
もう(7月)31日だもんね。
聞いた話だと、使用者に対するアフターフォローを兼ね、病院内で特別講習が行われたらしい。
ただ、あたしの場合は使ってる振りをしたにも関わらず、副作用が無く、結局使ってないと自白したため、使用者には含まれず、お呼びが掛からなかった訳だが。
──という訳で。
「お見舞いに来ったよ~ん」
「あはは……こんにちは」
私と初春は、アケミ達の病室にいる。
ベッドが4つある病室だが、入ってるのはアケミ、むーちゃん、マコちんの3人だけで、一人分空いている。
「むー。涙子、ずっとお見舞いに来ないから、あたしらの事忘れちゃったかと思ったよー」
入口から向かって右側奥のベッドにいるむーちゃんがムクれてみせる。
(左側手前にアケミ、奥にマコちんがいる)
「ゴメンゴメーン。最近バタバタしてて、中々時間作れなくて……」
魔術師に追い掛けられたり、無能力者狩りやスキルアウトに遭遇したり、インデックスちゃんの一件に関わったり、あすなろ園でボランティアやらされたり、色々あったからなあ。
「ところで、アンタ達、いつ退院できるの? 何かもう元気そうだけど」
ここで、私は前々から思ってた事を質問する。
全身出血で倒れて入院し、顔面蒼白で点滴のみの生活だったあたしでさえ、病院から抜け出して無理をしたその日に退院して、それから数日後に、呪詛返しを食らって血を吐いたり、全身出血で気絶して、また入院してすぐ退院だったもんなあ。
……って、あたしがおかしいのか。
「そうなんだよねー。毎日朝晩に血ぃ採って、毎日同じもの食べたり、何か色々質問とかされたりして、退屈だし意味分かんないよー。折角の夏休みで、どこか遊びに行こうと思ってたのに」
ん?
検査で血を採るのはまあ普通として……『毎日同じものを食べる』?
何か、キナ臭い
それも、あたしが特に敏感なタイプの。
病院食は通常、栄養バランスの他、患者の食欲面も考慮し、日々色んな献立が提供される。
重湯のような流動食でさえ、いくらかレパートリーがあり、
『何とかダイエット』とかいう食餌制限ですら、味のレパートリーくらいは付ける。
「毎日同じって……そんなの聞いた事ないよ。あたしが入院した時も日によって違ってたし」
「んー。どうなんだろうね。主治医の先生は、治療に必要だって言ってたけど」
治療に必要? それもおかしな話だ。
糖尿病などの生活習慣病の改善目的の特別メニューとかでも、やっぱりメリハリは付ける。
それ以外なら、食事よりも投薬のほうが症状の改善は見込めるだろうし。
そもそも
「主治医って、あの
「いやー? 最初はメガネ掛けた中年くらいの男の先生だったけど、すぐにメガネ掛けた金髪の女の先生に代わったよ。それからはずっとその先生の指示で、色々やらされてるってわけ」
金髪? メガネ? …………。
!!
……思い出した。あの時。
幻想御手事件の次の日に、あたしがここにお見舞いに来た時、廊下ですれ違った女の人。
大人に見えたけど、かなり
でも、あの人は医者というよりかは、研究者に近いような……。
まさか……
アケミ達に、幻想御手の後遺症を利用して、何らかの『体内調節魔術』を……?
いや、
この学園都市では魔術絡みの技術は全て禁忌とされ、その
そんな中、もし学園都市の研究者がそれに手を出そうものなら、上層部から睨まれるどころか、すぐに
木山先生の時も結局、魔術絡みではなかったみたいだし、もし仮に実験だとしても、魔術は関係無いと思う。
ただ、幻想御手使用者が治療と称し、被検体にされてる可能性もあるので、何か変な事されてないか注意深く見ていこうと思う。
……本当は今すぐにでも真相を暴いて、もしクロなら告発したいところだけど、あたし
ってか、もし
……後で御坂さんに相談してみるか。
おっと。
ついでに上条さんのお見舞いもする予定だったっけ。
アケミ達の病室から出た私と初春は、上条さんの病室へと向かう。
えーと……上条さんの病室は、っと。
「? 佐天さん? どこ行くんですか?」
「んと、知り合いの病室。……見っけ」
一応、名札を確認してみる……が。
「あれ? 空室になってる。どこかに移動したのかな?」
まさか、あんなに酷い怪我で入院したのに、たった3日で退院な訳ないよね。
……って、もしかして容態悪化した!?
ナース・ステーションで確認したところ、とっくに退院したらしい。
……マジで?
あたしも大概だと思ってたけど、上には上がいるもんだなあ。
「佐天さん、何遠い目してるんですか」
「いやね、初春。この学園都市には、無能力なのに
「それって佐天さんの事ですか?」
「えー……」
何でそうなるの? もしかしてあたし不死身キャラとして見られてる?
そういえば、血塗れで病院に運び込まれた後ピンピンしてたせいか?
ひょっとして、無自覚に能力発現してる?
でも、回復力高いだけの能力はあたし的にはあまり欲しくないかなあ。
だって、痛いのイヤじゃん!
その上、接近戦特化の格闘キャラになって、戦闘の度に服ボロボロになるんだよ?
いくら治りが早くても、お肌だって傷跡だらけになるし。
ステッキ振って魔法みたいに能力出すほうが女の子っぽくて好きだなあ、あたしは。
病院から出た後、私と初春はゲームセンターで御坂さん、白井さんと落ち合う。
さて。いつものパンチングマシーンで新記録に挑戦するとしますか!
目指せ100kg超え!
ちなみに現在の御坂さんとの対戦成績は2勝1敗! 新記録はあたしの99kgッ!!
ちなみにここのゲーセンはゲームで能力を使うと警報が鳴る仕組みなので、ズルはできない。
おりゃー!! あたしの腰のヒネリを利かせたコークスクリューパンチを喰らえい!!
『カンカンカーン! Score:101kg New Record!!』
おっし。絶好調!!
毎朝欠かさず続けている『金属バットの素振り』の成果か。
「佐天さんすごーい!」
初春が目をキラキラと輝かせ、御坂さんが地団駄を踏む。
そこに、黄泉川先生と
「お、佐天。久しぶりじゃん」
「黄泉川先生、こんにちは」
私は黄泉川先生に挨拶するが、初春は何か苦笑いをしながら会釈する。
……あたしの
ボランティア、かなりキツかったもんね。
あたしはフリーだけど初春は風紀委員の仕事もあるし。
「この前は助かったじゃん。詳しい事情はよく分からないけど、お前と上条のおかげであの女の子は『
「どういたしまして」
私が軽く流してると、横にいる御坂さんの前髪からなぜかパチッと火花が飛ぶのが見えた。
? 何だろう。御坂さんから少しだけ強張った空気のニオイを感じる。
「……
ここで、初春が首を傾げる。そうだよね。この一件はあたしと黄泉川先生しか知らない。
言い方がちょっと引っ掛かるけど。
「ああ。何か物騒な奇術を使うサーカス団から小さな女の子が逃げて学園都市に迷い込んだのを、他のメンバー達が追ってきて、上条という学生が女の子を匿ったせいで襲われたじゃん」
「……何ですって!? そのような話は聞いておりませんわ。一体どういう事ですの?」
黄泉川先生がベラベラ喋るのを私はヒヤヒヤしながら聞いてると、後ろで白井さんが吼えた。
てか、終わった事件だからって、先生喋り過ぎだよ。一応、魔術だって事は伏せてるけど。
「その現場を佐天が偶然目的したせいで、今度は佐天が奇術師達に追い掛け回されて、学生寮の前で待ち伏せまでされたんだってな」
「ん……まあ。何とか撒いたり撃退したり、警備員に通報して、事なきを得ましたけど」
私が巻き込まれた事件まで出され、さらに私に振られたので、否定する訳にも行かず、仕方なく答える。
まあ、終わった事だし、この程度なら別にいいか。
でも、黄泉川先生ってここまで口が軽かったっけ。
「それで……どうなりましたの!?」
白井さんが喰い付いた。面倒だなあ。でも、なぜか初春のほうは大人しい。なんでだろ?
いつもなら初春が真っ先に狼狽えそうな話なのに。
「倒れた上条と女の子は月詠先生ん家で匿ってたけど、そこに奇術師達が攻めてきて、事情を聞くために呼ばれていた佐天と、怪我から目覚めた上条が、
……ん?
何か言い方が妙だな。
最終的にあの魔術師達とは和解して
「? ……どうしたじゃん? 佐天」
黄泉川先生は何かを
「ああ、いえ……何でも」
疑問が顔に出てたのか、黄泉川先生に訝しがられたので、手を振って慌ててお茶を濁す。
そんな私の顔色を見ながら、初春は何やら意味深に目を細めるも、私からは見えない。
そして、白井さんと御坂さんは顎に手を当て、考え込んでる様子。
結局、すでに『終わった事件』として、この件はそれでお開きとなり、別の話題に切り替わったのだった。
……そう言えばあの時、小萌先生の部屋の中、黄泉川先生の目の前で『魔術』にまで話が及んだけど、あたしが魔術師達を『奇術師』という事にしてウソ吐いてたのがバレたのに、それを誰にも言及されなかったし、あたし自身気付かなかったっけ。
インデックスの境遇の話が衝撃的過ぎて、他の事が吹っ飛んじゃったせいか。
ゲーセンからの帰り際、初春からそっと耳打ちされる。
「佐天さん。もしかして、佐天さんは『サーカス団』の元メンバーだったりするんですか? ほら『
「何言ってんのよ初春。そんな訳ないじゃん。あたしのは独学だよ」
バカバカしいとばかりに、私は苦笑いを浮かべながら、軽く否定する。
その返事を聞いて、初春は私の後ろで再び目を細めるのだった。
初春飾利が佐天と別れた後、寮までの帰り道の途中で、
正面には、セーラー服姿の女子高校生。黒髪ロングで、前髪は
背後には、金髪サングラスの謎の少年。アロハシャツを前開きにし、割れた腹筋を覗かせる。
「……どちら様でしょうか?」
初春は、ある程度の状況を察した上で、毅然とした声で問いかける。
「お兄さん達は、誰でもないニャー」
「ちょっと君には
目の前と背後にいる人物達が、『こちらの要求を呑んでくれるはずがない』と確信した初春は、ポケットからスタンガンを取り出し、正面突破を狙って目の前のカチューシャ目掛け、お見舞いしようとする。
……が。
カチューシャは流れるような身のこなしで初春のスタンガンを軽くいなした後、その腕を取って後ろへ捻り、あっという間に身動きを取れなくしてしまった。もちろん、スタンガンは没収。
「私に……何をしようっていうんですか!?」
初春は、答えが返ってくるはずのない質問を敢えて投げ掛ける。
少しでも情報が分かれば、打開策が見えてくるかも知れないのだから。
しかし。
「どうせ聞いても無駄ですたい」
「“
「……!!」
返ってくるのは、『打開策など無い』という非情な現実のみだった。
それに対し、初春は後ろを振り返りつつ目を見開きながら。
「私は、あなた達の思い通りにはならない! 私の記憶は作り物なんかじゃない! 私だけのものなんだから!!!」
……と、悲鳴にも似た怒号を上げる。
窮鼠猫を噛む。とはよく言ったものだが、今の初春は『窮鼠』を超えた『
「……君の気持ちはよく分かった。でも、その気持ちは、
初春の強烈な眼差しを受け、カチューシャはほんの一瞬だけ動揺を見せたものの、腕の力を緩めることはない。
そして、彼女の正面に回った金髪グラサン少年が、手元から取り出した『折り鶴』を初春に見せながら、
「おやすみニャー。次目覚める時、子猫ちゃんは『まやかし』の無い日常の世界にいるんだぜい」
そして、初春飾利の意識は微睡みの中へと沈んでいったのだった。
まるで夢遊病患者のような覚束ない足取りで、自分の学生寮の部屋へと帰ってきた初春飾利。
その目には生気が宿っておらず、魂の無い体だけが、機械仕掛けの人形の如く、ルーチンワークで動いているだけに見える。
そんな彼女が部屋に足を踏み入れた瞬間──。
(──自己防衛システム『
──頭の中で、機械的なメッセージが読み上げられるとともに、その目には生気が戻る。
「……ぁ」
初春は、ごく僅かに息を吐き、声を出そうとするも、声にはならない。
そして、無言のまま俯き、体をブルブルと震わせ、内から湧き出る衝動を抑え続ける。
(……私はあの金髪男とカチューシャ女に
彼女の頭の中には、これまでの出来事が逆流するかの如く次々と浮かび上がるように蘇り。
(……私は
その顔には、堪えきれないと言った感じの『勝利の笑み』が貼り付いていた。
(ぷ……くく。笑っちゃいけない……いつどこで誰が見ているか分からない。この部屋も、誰かに盗聴されてるかも知れないし。『気配を断つ』ルーンだけじゃ不十分だった。外へのハッキングもバレてるかも。誰にも分からないよう、新たな対策を講じるしか無いのかも……)
そして、そんな彼女が頭に被っている『花飾り』からは、そのお花畑的な雰囲気にそぐわない、明らかな
ヘッドギア型記憶干渉装置『
『
さらに、その名の通りギリシャ神話に登場する『花と花冠の女神』としての意味を装着者自身に持たせるための『霊装』としての働きも見込んであるものの、魔術的効果は現状無いに等しい。
それと対をなすように、彼女の部屋のどこかに、『Antheia』の片割れとしての働きを持つ装置が隠されているが、彼女以外には分からないようになっている。
そして、『カワサキ信者』の固法先輩から布教目的で押し付けられた貰ったカワサキ製バイクのプラモデルもその中に含まれ、先輩の愛車と同じモデルの『Z750 FX-1』の他、『Ninja』、『ZEPHYR』などがある。
笑いを堪えきって落ち着いた後、初春はあのカチューシャ女の言葉を思い出す。
『その気持ちは、
(その
8月になり、常盤台中学の寮祭である『盛夏祭』が行われた。
私と初春は白井さんから招待して貰い、当日訪れたのだった。
そして、初春が憧れのお嬢様ワールドを満喫できるチャンスとばかりに、暴走しまくってて暑苦しい。ってか、実際『熱い』し。何か『火』のテレズマとか出てるし!
寮の中は様々なスペースに分けられ、まるで文化祭みたいに色んな出し物が展示されている。
普通、学生寮って部屋と食堂と風呂トイレ、その他諸々の共有スペースくらいだよね。
あ、あたしんとこはアパートの個室くらいしか無いけど。
それにしても、展示スペースが作れるくらい広い部屋がいくつも余ってるなんて、まるでここは一つの学校じゃん。やっぱりお嬢様って贅沢だなあ。
え? ステッチ体験教室? やりたいって?
しょうがないなあ、初春は。
私は水色の車の絵の刺繍を縫っていた。
……うーん。弟のカバンの時よりか、腕が落ちてるかなあ。
まあ、練習にはなったし、今度、刺繍を使って『霊装』でも……ってまた魔術の事考えてる。
使う度に全身から血が吹き出すリスクを背負ってまで多用できるもんじゃないし、素直に能力のほうを発現させる事を考えるべきなのに。
ただの無能力者だったら、魔術なんて知らなかったら、ここまで引きずる事も無いのかなあ。
いけないなあ。魔術はあくまで裏技、横穴のはずだったのに、いつの間にか逃げ道になってる。
って、糸通し間違えてる! 考え事しながらするもんじゃないな。
その後、生け花のスペースを見て回っている時、初春がお嬢様メイド達に声を掛けられ、頭の花飾りを褒められるも、『何のことですか?』と、すっとぼけてた。
初春……何か怖いよ。その頭の花には何か、触れてはいけない秘密でもあるのでせうか?
それからも色々なブースを見て回り、お嬢様気分を満喫した初春はとうとう別の世界に旅立ってしまったらしく、お嬢様口調で何やらアンニュイな台詞を吐くのだった。
戻ってこい! 初春ぅ~! スカートばさぁぁ!!
連れの親友にスカートを捲られ悲鳴を上げる花飾りの少女を遠目に見るカチューシャ女子高生。
そこに、半袖ワイシャツと学生ズボンを着用した金髪グラサン少年が近づく。
「……貴様、どこをほっつき歩いてた?」
「ニャ~。我が愛しの義妹の姿に見惚れてたら、時間が経つのも忘れちまったぜい」
「頭突きを喰らわせたいんだけど?」
「冗談だニャー。……ところで、様子はどうだ?」
「今の所、上手く日常に帰ってくれてるようだけど」
「……
「先程、わざと近寄って視界の中を泳いでみたんだけど、
「……引き続き、要監視ってとこかニャー?」
「まあ万が一、仮にまた記憶が戻ることがあるとしても、その場合、私達がいつでも記憶を消せるという事も一緒に思い出してしまうから、それで諦めて大人しくなってくれると思うんだけど」
「だといいがな」
「あんまりやりたくなさそうに見えるんだけど?」
「ウチの義妹と同じくらいの子に、あんまり泣かせるような真似はしたくないんですたい」
「嫌なら降りてもいいけど?」
「冗談。俺っちは一度引き受けた仕事は最後までやり遂げる主義ぜよ」
盛夏祭を満喫した初春飾利は、遊び疲れたのか、一刻も早くベッドに顔を埋めたいと思いながら学生寮の自室のドアを開ける。
(───!!!)
その瞬間、それまでのお嬢様気分を味わった余韻による恍惚の表情は消え失せ、
(……よし。私はキチンと
そして、我が意を得たりといった感じで、ほくそ笑む。
(今はこの部屋の中でだけ
初春は笑うのを止め、部屋のドアを閉めて鍵をかけ、靴を脱いで玄関から部屋へと入り。
(もし『あの人達』にバッタリ出くわしても、仮面の私は忘れているから分からないと思う。かと言って、本当の私だと下手に反応してしまうせいでバレてしまうかも。これは仕方ない事だけど、本当に何とかしなきゃ駄目だと思う。でも……)
パジャマに着替え、ベッドに突っ伏して顔を埋め。
(あの『
手に持っていた携帯ゲーム機の画面を上目遣いに眺め。
(……とはいえ、
そこに表示された、『
(
(
(……でも、あれ? 『土御門』? これって御坂さんの知り合いのメイドさんと同じ苗字……)
そこで、初春はハッとして。
(学園都市に『闇』があるのは前々から気付いてたけど、もしかしたら『上』と繋がっている闇の組織があるのかも。そして秘密工作員として学生の中に隠れ潜んでいて、書庫の情報も秘匿されるか改竄され、恐らく『本当の能力』は伏せられている。私や黄泉川先生の記憶が改変されたのは、秘密を知ってしまったから。……では佐天さんは?)
──最も望まない可能性に思い至ってしまう。
(佐天さんは……本当は……上層部の、スパイで……私達を、騙してる?)
とある高校のAV室にて。
若干気弱そうな雰囲気のとある女子中学生は、カチューシャとセーラー服の女子高生の立ち会いの下、謎の老いた男性とモニター越しで会話していた。
『──では、君の親友である“
「ありがとうございますなの」
『その代わりと言ってはなんだが……柵川中学1年の初春飾利君の素行調査をお願いしたい』
「……具体的には、彼女の人柄や、どこか不審な様子がないかを見てほしいんだけど」
「初春、飾利さんですか?」
「そう。何か変わった事があれば、私に逐一電話報告を入れてほしいんだけど」
「……わかりましたなの」
解説1:
佐天が『風に聞く噂』でしか『空力使いの大能力者』を知らない理由。
佐天は水着モデル撮影の時、
決して、記憶の呼び出し経路が損傷したせいで彼女の顔と名前が思い出せないとかいうどこぞのヒーローみたいなハンデを抱えている訳ではない。
解説2:
佐天は学園都市の研究者が魔術に手を出すとイギリス清教『
実際は科学と魔術の線引きにより、科学側の逸脱者は科学側からの刺客──つまり、学園都市の暗部によって始末される運びとなる。
解説3:
初春の花飾りを改造したヘッドギア『アンテイア』による記憶への干渉技術の元ネタ。
経頭蓋磁気刺激法(TMS)という手法で、記憶の定着を妨げる効果が証明されている。
詳細は以下の記事にて。
「思い出したくない記憶を脳から消す」科学、実証実験段階に(2020/09/09 18:00)
Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)
参照URL:https://forbesjapan.com/articles/detail/36872
解説4:
ゼファーという名称について。
ゼファー(Zephyr)はギリシア神話の風の神々『アネモイ(Anemoi)』の一柱で、西風の神。
また、ゼファーはニンフのクローリス(Chloris)を強引に攫った後、その罪を悔いて、主神に彼女の女神への昇格を願い出て許しを得た事で、花の春の女神フローラ(Flora)が誕生した。
解説5:
初春が兵器マニアなのは原作準拠だが、プラモデルを集めているのは作中オリジナル。
固法先輩が『KAWASAKI Z750 FX-1』というバイクに乗っているのは超電磁砲アニオリ。
ただし、『カワサキ信者』でバイクのプラモデルを持っているのは作中オリジナル。