とある佐天の裏技遊戯(ニューゲーム) 作:RB_Broader
今日、私、
第十九学区から転入してきた
当面の間、彼女は初春と相部屋になる。
うらやましけしからん……まあ、一人部屋のほうが気楽だけど。
ふむ。ちょっとシャイで人見知りしそうな子だけど、初春と仲良くなれるんだから、あたしとも仲良くなれそうだねえ。よかったよかった。
引っ越し作業を終えた後、私達は遊びに行く事に決めたのだが、白井さんと初春が風紀委員と
残念。まあ、後で合流する事に決まったけど。
んじゃ、あたしが初春の代わりに春上さんとの距離を縮めるとしますかね。
白井さんの話だと、合同会議の内容は、最近頻発する地震に関するものらしいけど。
あたしは気付いてるんだけどね。これが
『RSPK症候群』による『ポルターガイスト現象』。
“RSPK”──『
トラウマやストレスにより、心理的に不安定となった子供が引き起こすと
この現象は第十九学区で多発していたんだけど、つい最近、第七学区でも発生したらしい。
んで、その時間帯にAIM拡散力場同士の『共振』が起きていた事も、あたしの嗅覚で把握済み。
ただ、それがなぜ最近になって頻発してるのか、まだ確かな事は分からないので何も言えない。てか、確かな事が分かってたら、なおさら何も言えなくなるかも。
せいぜい都市伝説サイトなどで噂になっている情報を面白おかしく話すのが関の山か。
無責任だって?
別にあたしはこの街の秘密を暴いて公にするために色々調べて回っているわけじゃない。
あくまでこの街の学生として、自分の能力を上げるための材料集めをしているに過ぎない。
たとえ悍ましい秘密が隠されていたとしても、この街を捨てるつもりなどさらさらない。
この街で
なので、都市伝説もあやふやで真偽が分からないもののほうが好きだ。
人に話しても何の問題もないから。できれば誰も傷付かない話ならなおよい。
『ポルターガイストの原因は別次元からの波動や特殊なプラズマ』、『統括理事会が秘密裏に行っている地下実験』なんて与太話は、その最たるものだ。
愚にもつかないオカルト? そこがいいんじゃないの!
でもまあ、御坂さんにはあんまりウケないようで、溜息まで吐かれちゃってるし。
とりあえず、第十九学区繋がりで春上さんに話を振ってみるも、御坂さんに窘められた。
いけないいけない、調子に乗りすぎたか。……てへっ。
この後、御坂さんの提案で私達三人でゲーセンへ行くことになり、しばらく遊んでると初春から電話が掛かってきた。合同会議もう終わったのか。意外と大した事案じゃないっぽいな。
後から合流してきた初春は随分と張り切って、春上さんを連れ回してる。
新しい友達がそんなに嬉しいのかな。
初春の友達って、学園都市だとあたしとアケミ達が初めてみたいだからねえ。
あと、御坂さんがメダルゲーム得意なのは初めて知った。
って、このコイン……どっかで見た事あるような。もしかして……あっ(察し)。
それにしても、春上さんって結構変わってる所あるのね。
モグラ叩きゲームのモグラを叩かずに目で見て愛でて楽しむなんて。
ちょっとお金もったいない気もするけど。
このまま待ってたら、春上さんモグラ『眺め』ゲームだけで小銭全部磨ってしまいそうなので、御坂さんが慌てて他のコーナーに行こうと誘いをかけ、プリクラで集合写真を撮ることになる。
よし。これで春上さんもあたし達の仲間入りだね!
写真を撮った後、自販機コーナーで一休みしてると、春上さんが突然窓の方へ歩きだし、ガラスに顔をぶつけてしまう。
どうしたのか聞いたところ、『アレ』と言いながらポスターを指差した。何だろう?
……花火大会のポスター? それって確か今日だったっけ。
すると、御坂さんが『皆で行こうか』と言い出す。
何だか今日は慌ただしく、どんどんイベントが入るなあ。
空いた時間でアケミ達の様子を見に行きたかったけど、今日は春上さん歓迎ムードだし、あたし一人抜けるのもあれなので、明日にでもしとこう。
浴衣の購入やら着付けやらで時間喰うだろうから、あまりゆっくりもしてられないし。
皆でセブンスミストの浴衣売り場へ行き、それぞれ浴衣を買った後、私は寮に帰って、さっさと着替える。後は待ち合わせ場所に行くだけ。
あれ? 初春から電話? 何だろう。
……って、急に呼び出されたから来てみれば、何やってんの初春。
春上さんと初春が
とりあえず、二人に絡まってる紐を解き、私が正しい着付けの仕方を教えてあげるのだった。
もうしょうがないなあ初春は。
こうしてると、『昔』を思い出すなあ。
初春が中学に入って、風紀委員に合格したばかりの頃。
あの頃、初春は本当に頑張ってたもんねえ。
それが今は、こんなに立派になって、今度は自分が春上さんを助ける番なんだって?
姉さん嬉しいよ!
『──で、初春飾利の様子はどうなのかだけど』
「とっても、優しい子だったの。私に色々よくしてくれたの」
『そうか。で、何か
「……何も無かったの」
夜の公園で、私達は御坂さんと白井さんと合流。
やっぱりお嬢様って浴衣選びや着こなしも一般人とは違って様になってますねえ。
あたし達三人のも結構自信あったんだけどなあ。
で、やっぱり御坂さんはあたし達の浴衣を褒めてくれる。
たとえ社交辞令でも嬉しいですよ。御坂さんの場合は本気でしょうけど。
おっ、夜店だ! 結構出てる。ん~いい匂い~! ……たまらんッ!!
私は夜店が並ぶ場所へ駆け出していき、それに御坂さんが続き、全員で繰り出す。
たこ焼き、りんご飴、綿飴、美味しいなあ。
夜店だとついつい欲張っていっぱい食べちゃうんだよねえ。
春上さんもイカ焼きとか、フランクフルトとかモリモリ食べてるし、結構大食いな子なんだね。やっぱり初春と似てるなあ。
……御坂さん、そのカエルのお面がお好きなんですか。ゲコ太……だっけ?
そういえば、携帯のデザインも一緒でしたね。
今どき二つ折りなんて色々不便じゃないのかと思うけど、カエル狙いなんだろうな、多分。
って、春上さん食べるの早っ! 今度はりんご飴まで!?
こりゃ初春以上だな。
……あれ?
あそこに停まってる銀と赤のトラックみたいな車、アケミ達の病院の駐車場にも停まってたな。
……『MAR』──『Multi Active Rescue』?
「エム・エー・アール。『先進状況救助隊』のトレーラーですわね」
と、白井さんが説明する。
「例の、ポルターガイスト対策ですかね?」
「ポルターガイスト? じゃあ、あの噂、マジなんだぁ」
続けて言った初春の言葉に対し、私は半ば反射的に反応してしまう。
そうか……『あれ』がポルターガイストってところまで調べが付いてるのか。
「こんな人の多い場所で、万が一ポルターガイストが起きたら大変ですし」
「それにしても、あんな警備下で花火見物だなんて、風情もへったくれもありませんの」
初春がさらに状況説明し、白井さんがそれに対し嘆息するように不満を述べる。
それに対し、私は。
「あっ! ……だったら、いい所があるんですよ!」
人差し指を一本立て、そう提案してみるのだった。
清水寺の舞台みたいに広くて見晴らしのいい穴場へ移動し、そこから皆で花火を眺める。
「たーまやー!!」
「かーぎやー!!」
「……また来たよ」
「「たーまやー!!」」
花火に向けて私と初春が掛け声を発していると、なぜか春上さんがこっちのほうを見ていた。
「どうしたんですか?」
「……思い出してたの」
「? ……何を?」
「あのね……昔、私にも、初春さんと佐天さんみたいな……」
初春と私の問いに、そう答えかけた春上さんの様子が──変わった。
何だ、これ。
彼女の瞳の中に仄暗い影が差したように見えた瞬間、そこを中心に『無限の深さを持つ深淵』に吸い込まれそうな
これは──AIM拡散力場……それも、
「……春上さん?」
私が全身に冷や汗を掻きつつ固まっている中、初春が声を掛ける。
が、その呼びかけが聞こえないかのように、春上さんは踵を返し、どこかへ歩き始める。
ハッと我に返った私は、初春と一緒に春上さんの後を追っていく。
「どこ……どこなの…………どこなの……?」
春上さんは夢遊病患者のように覚束ない足取りで、何やら独り言を呟き続ける。
これは……何かを『受信』している?
聞いたことがある。精神系能力の中には、他者と『交信』できるタイプがいる。
一般的には『
春上さんが希少な原石なら、
……って、地震!?
まさか。
まさか。まさか。
ポルターガイストを起こしているのは……。
AIM拡散力場のニオイを辿ってみても、彼女を中心として『ノイズ』のようなものが発生してるとしか感じ取れない。それも、『遠く』にある別のAIM拡散力場から何らかの『干渉』を受け、『共鳴』している?
地震で蹲る春上さんの体に、初春が庇うように覆い被さる。
そこに……街灯が揺れて倒れそうになってる!?
やばい!!!
初春!!!!!!
どうする? どうする? どうする?
動け!! あたしの足!!! ……って、地面が揺れて身動きが……!!
って、崩れた地面から割れた瓦礫の石が飛び出し──ッ!!
私はその『石』を手で掴み……。
「──
……
体中の血管があちこち切れるが、構わず続ける。
「──
そして、最後にその力を
その瞬間、『地』の属性魔術から漏れ出た『大地』のテレズマが、『地球』を象徴する『珪素』で作られたスマホを触媒とし、吸い上げられた『地脈』と交わる事で増幅回路を形成し──
ゴガァァァッッッ!!!
揺れる街灯の足下の地面から大きな岩塊が剣のように突き出し、街灯が根本から少し離れた場所へ弾き飛ばされ──
ガシィィン!!
どこからともなく颯爽と現れたピンク色の
『間一髪だったわね。……ただ、もう少し力の加減をキチンとして欲しいけどね』
む。何奴!? あたしの見せ場が取られただと!?
駆動鎧のコクピット部分のスモークが透明になり、中から女の人の顔が浮かび上がる。
……って!?
あの人は……アケミ達の病院にいた……金髪メガネの女医さん? 何でここに?
「春上さん! 春上さん!」
初春が倒れた春上さんに呼び掛けると、彼女が目を覚ました。
「大丈夫ですか?」
「無理しないで」
起き上がる彼女に、初春と私が声を掛ける。
……だが。
「どこ……? どこに……いるの……?」
春上さんは首から提げたロケットを掴みながら、俯いたまま独り言を呟き続けるのだった。
「あれ? 佐天……さん?」
「え? 何、初春?」
初春が私の顔を見て、何だか呆然としている。
……あ。
そうだ……あたし、魔術使ったんだった。
あれ……? 目の前が、ぼんやり……──。
──って、毎回毎回、倒れてなんかいられないってーの!!
頭がズキズキするし、全身が疼くように痛いけど!
目の前には初春と、春上さんがいる。
二人とも、あたしのほうを見ている。
「ッ……! 大丈夫、だから……」
体がフワフワして、温度感覚が麻痺してるのか、熱いのか寒いのかも分からない。
体のどこから血が出てるかも分からないので、こういう時は血圧を下げるため気分を鎮めよう。
とりあえず、懐からハンカチを出して、額から垂れてる血を拭い、顔を綺麗にする。
「初春は、春上さんを病院に送るんでしょ? ……あたしは大丈夫。後で行くから」
「で、でも……!」
「風紀委員なんでしょ? 春上さんの面倒をしっかり見なくちゃ……でしょ」
そう言って、私は微笑みながら強がってみせる。
初春は後ろ髪を引かれる感じで私のほうを振り返りつつ、春上さんと一緒に救急車に乗り込む。
それに私は軽く手を振りながら送り出すのだった。
さて。
ピンクの駆動鎧に乗った金髪メガネの女の人が、こっちを見てる。
「……あなた、本当は大丈夫じゃなさそうね。すぐにでも病院に行ったほうがいいんじゃない? 救急車を手配する?」
その申し出はありがたいですけど、何だかあなたの所に送られると研究材料にされそうな予感がするんで、ご遠慮させていただきます。
「いえ……大丈夫です。……少しして落ち着いたら、友達の所に行きますよ」
軽く微笑みつつ、手を振って断る。
すると、女の人は他の隊員に呼ばれ、その場から離れるのだった。
私は周囲の人目が無くなったのを確認した後、茂みの中で
「……ゲホッ!! ガハッ!! ……ヒュー……ヒュー……!」
やばい。
血の色が『真っ赤』だ。これって『
肺の中か、気管支まで傷ついてるのか。
……あまり長くは
大声を出すのも無理か。
呼吸を抑えながら、慎重な足取りで階段を下り、御坂さんと白井さんがいる場所へ行く。
そして私はこれから寮へ帰ろうとしていた白井さんを呼び止める。
「……白井さん」
「! ……佐天さん、そのお体……」
「ちょ……本当に大丈夫なの? 佐天さん!」
白井さんと御坂さんが私の身を案ずるが、それを無視するように、私は話を続ける。
「……すみませんが、あたしを寮まで送り届けてくれませんか?」
白井さんの
……盛大に吐いた。
鮮紅色の喀血も、ドス黒い吐血も、その他諸々、口に出せないようなものまで。
初春達や白井さん達に余計な心配を掛けないよう、吐き出しそうなのを我慢していたのだ。
ああ……それにしても、思いっきり吐いたおかげで胸の
それから、シャワーを浴び、血塗れになった全身を綺麗に洗い流す。
……浴衣にも血が付着しちゃってるから、これはクリーニングだな。
それに、あちこち傷だらけで、肌がボロボロだよ……これじゃあプールにも行けないな。
あの場から離れた後に自分で救急車を呼び、アケミ達が入院してる病院まで運んで貰う選択肢もあり得たが、病院代も馬鹿にならないのと、怪我の治療のために買ったばかりの大事な浴衣を切り刻まれるのは御免なので、それは断念した。
私は普段着に着替えた後、初春に無事を伝えるため、電話を掛けようとスマホに手を伸ばした矢先、玄関のインターホンが鳴った。
誰だろう。こんな時間に。
「佐天さん!」
って、初春!?
「心配したんですよ! 電話も通じないし! 白井さんに聞いたら、寮に帰ってるって言うから」
何だか血相を変えて怒っている。って、電話が通じない?
ふと、手元にあるスマホを見てみると、画面が真っ暗なまま、触っても何の反応も示さない。
もしかして……魔術の触媒に使ったせいで、壊れた!?
試しに充電器に繋いでみると、ランプが点いた。
……ただの充電切れだったか。
「スマホの充電切れてただけみたい」
「んもー。心配させないでくださいよー」
「あはは。ゴメンゴメン」
「ところで、春上さんの様子は?」
「今は安静にしてるけど、地震の事何も覚えてないみたいなんです」
「何も覚えてない……ねえ」
「病院の先生の話だと、軽いショック状態らしいですけど」
あの時の『
よし。ちょっと様子を見に行くとしますか。
『善は急げ』とばかりに、私はお土産代わりに実家から送って貰った『熊本県産スイカ』を1玉片手に提げ、春上さんが眠っている寮まで、初春と一緒に見舞いに行くのだった。
初春の部屋にて。
春上さんはベッドでぐっすり眠っている。
初春の様子が、部屋に入ってから少し
「よく眠ってるねぇ」
「わざわざ付き合って貰ってすみませんでした」
「気にしない、気にしない。別にアンタのせいじゃないんだし。それにアンタのルームメイトは、あたしの親友候補だもん」
「何だか今日は、佐天さんにお世話になりっぱなしでした」
「今日
初春は膨れっ面になるも、すぐに顔を俯かせ、少し悲しげな目をする。
「……そうですね。本当に、いつも
ん? どうしたんだろう。初春。こんな今まで見せた事も無いような顔するなんて。
「まあ、気にすんなって」
そう言って、私は『ニカッ』と爽やかスマイルでお茶を濁すのだった。
そして帰り際に。
「とんだ花火大会になっちゃったけど、皆無事でよかった。……じゃっ、しっかり春上さんの面倒看るんだぞ?」
「任せといてください!」
私が初春を叱咤激励し、それに対し初春はガッツポーズで応じる。
「あっ、佐天さん」
「ん?」
「ありがとうございました」
「ふふ」
そして挨拶を交わし、私は初春と別れ、自分の寮へと帰るのだった。
「……本当に、ありがとう。佐天さん……!!」
(なのに、スパイかも知れないなんて、疑って……ごめんなさい……!!!)
玄関のドアを閉めた後、そのドアに背を預けたまま。
『初春飾利』は顔をクシャクシャにし、声にならない嗚咽を漏らしつつ、泣き崩れた。
彼女の
そして、しばらく泣いて落ち着いた後、涙を拭き、部屋へ戻り、浴衣を整える。
すると、初春の衣擦れの音と空気の揺れに反応したのか、春上さんが目を覚ます。
「……あ、起きちゃいました?」
「ん……ここは?」
「寮の部屋ですよ。気分はどうですか? 何か飲みます?」
そう、初春が尋ねるも、春上さんは首を横に振る。
「もしかして、あたし、迷惑掛けたかな?」
そして、不安気な表情で、そう問いかける。
それに対し、初春は微笑みかけながら。
「そんな事ありませんよ」
と、否定する。
……だが、春上さんの不安な表情は晴れない。
初春の自分への優しい気遣いを見透かしてしまった事で、却って罪悪感を覚えているのか。
「あたし……変なの。また、皆に嫌われちゃうのかな」
続けて、今まで感じていた不安を吐露する。
だが。
「そんなわけ無いですよ!」
すぐさま、そんな不安を初春は事も無げに否定し、払拭してみせる。
「第一、春上さんには私が付いてます」
そう言って、初春は佐天譲りの『ニカッ』と爽やかスマイルを浮かべる。
「……あ、そうだ。佐天さんが、お見舞いにいいもの持ってきてくれたんですよ」
その後、初春と春上さんの二人は、佐天が持ってきた熊本県産スイカに舌鼓を打つのだった。
「…………」
寮の部屋から一人、共有通路に出た春上衿衣は、携帯を両手に持ち、胸に抱きながら、ただ無言で立ち尽くしていた。
(駄目なの……もう、初春さんを裏切るなんて、できないの……!)
(でも……
(あたしは、どうすればいいの……?)
ちょうどその頃、初春飾利はベッドで目を開けたまま、じっと息を潜め、耳を澄ましていた。
(携帯電話……夜中トイレに行くだけなら必要ない。それに、玄関のドアを開ける音。春上さんは一体、誰と連絡してるんだろう)
────。
…………。
……あれ?
あたし……何してたんだっけ。
──おお、佐天涙子よ。しんでしまうとはなさけない。
へ?
あたし……死んだ?
…………。
うぇ~~~~~~~???!!!
──冗談だ。真に受けるな。
って、冗談かいっ!!
──だが、危うく死ぬところだったのは事実だ。
!!!
そうだ……思い出した。
あたし、自分の寮の玄関の前で立ち眩み起こして、倒れて……。
──ふむ。あの学生寮には夜遅くまで出歩く
え……あ……そうなんですか。
ありがとう……ございます。
──ふむ。目上に対する礼儀は
は、はあ……。
ところで、あたしは
──お前はここにはいない。
……え?
──正しくは、お前の
精神? ……通信術式!?
──当たらずとも遠からず、と言ったところか。だが、この程度のものすら逆算できぬようでは、
……ムカ。
──お前程度の
とことんムカつく逆さビーカー銀髪おじさんだなあ。口悪すぎるっしょ。
──お前が
え……痕跡? 汚染? 後始末? セレマ? 一体、何の……──。
──って、いつもの病室!?
服は……。
ベッドの横に畳んで置かれてた。
という事は……今のあたしは患者服で、髪留め
そして、右腕には点滴が繋がってて、首筋や胸には計器用の電極がくっついてる。
それに何より、体中あちこちに包帯が巻かれてる。これは怪我のせいか。
さっきの『逆さビーカー男』は、通信っぽい術式を使ってきたから、魔術師だったのかな。
それにしても、何か言い方が
「……もう、大丈夫なようだね?」
あ。先生。
「検査の結果、君は『出血性貧血』で倒れたみたいだね? 栄養も碌に摂ってなかったようだし、嘔吐の形跡もあるようだね? その怪我は一体どうしたんだい。また能力を暴走させたのかい?」
「あはは……(ほとんど)当たってます」
ずばり言い当てられたので、私は苦笑いしながら、そう答えるしかなかった。
「それに、君は丸一日寝てたんだよ。カレンダーを見てごらん?」
え。
8月……5日?
花火大会に行ったのが、8月3日だから……つまり……?
「……ええええええええ~~!!!???」
あたし、丸一日寝てただけ!? 損した!!! 貴重な夏休みなのに!!
「はあ……それだけ元気があればもう十分だ。退院しても構わんよ。血色良好かつ怪我もほぼ治りかけで一日二日で完治する。風紀委員で支給される塗り薬の医療用だから効果は
「あ、ありがとうございます……」
(治療費が高く付きそうで怖いけど)
そんなこんなで、私は半ば叩き出される形で、そそくさと退院したのだった。
ちなみに朝食も出なかった。ショボン。
……あたし、あの先生に嫌われてるのかなあ。
病院に来たついでに、アケミ達の様子を見に行ったが、皆特に変わりはなかった。
そして、寮にスマホを置き忘れて来たのを思い出し、見舞いの後、急いでスマホを取りに帰る。
それから、初春に会いに風紀委員の支部を訪れると、非番でいなかった。
なので、スマホで連絡を取ってみると……。
「自然公園ー!? 春上さんと二人でー? ずーるーいー! 何で誘ってくれなかったのよー!? 大体、非番だって聞いてなかったしー!」
一昨日は春上さんがあんな事になって大変だったっていうのに、あたしを置いてけぼりにして、いきなり遠くに遊びに出掛けるとか、結局、心配して損したってわけよ!
『はぁ……はぁ……すいません……!』
ん? 何ハァハァ言ってんの? 初春さん?
『……たまには、マイナスイオンを吸うのも……いいかなって……はぁ……はぁ……!』
マイナスイオン?
初春さんともあろう御方が疑似科学だなんて、下手な言い訳臭くて笑いも出てこんわ。
大方、春上さんを元気付けるための気分転換か何かだろうけど。
「っていうか、吸い過ぎじゃない? 息、荒いよ?」
『えぇっ? 荒いですかぁ? ……う~ん……はぁ……そんな事……無いです……よっ……はぁ』
いや、荒いってば。何やってんのさ。
息吸うだけでそんなに疲れるなんて、K2登山にでも挑戦してんのか。
「あーあー。折角遊びに来たのに、振られちゃったぁ」
初春との通話を切った後、そう独り言つ。
何だか二人で楽しそうな事してるし、あたしも誘われたかったなあ……。
って、ああ……そういえば、スマホ電源オフのまま部屋に置きっぱなしにしてた上に、いきなり病院に担ぎ込まれて入院した挙げ句、丸一日眠りっぱなしだったから、誘われようが無かったわ。……くそう。
「ここは遊びに来る所じゃないんだけどねぇ」
と、ここで、
やっば……機嫌取らないと。出入り禁止とかにされたら嫌だしなぁ。
「え、へへ。すいませーん! そうだ。何か、冷たいものでも買って来ましょうか?」
私はそうやってゴマをすってみるも……。
「そうねぇ……。じゃあ……冷やし中華と、五目チャーハンと、ミックスフライと皿うどんと……あとー……」
「……喰いますねぇ……」
「あっ……春巻きとかいいわねぇ、生のやつ。それと……」
思いっきり無茶振りされた……ぎゃふん。
私と固法先輩が漫才みたいなやり取りをしている間、御坂さんと白井さんがパソコンを弄って、何やら調べ物をしているのがチラッと見えた。
さらに御坂さんからの電磁波の
……
電気信号を作り出し、電子回路に直接アクセスする仕組み……あたしの魔術じゃ真似できない。
多分、初春にすら。……流石、御坂さん。
……!?
『
…………。
『特記事項:特定波長下においては、例外的にレベル以上の能力を発揮する場合がある』
……春上さんは、ポルターガイストの
でも、あたしは気付いてる。多分、
なぜなら、『遠く』にいる別の誰かからの干渉によって、AIM拡散力場の『共鳴』が引き起こされてるのだから。
そう考えるなら、多分、彼女は無自覚に引き金を引かされている『被害者』とも言える。
それに……何か、
このまま放っておくと、初春と……白井さんに良くない事が起きるような、気がする。
でも、どう伝えればいいのか。
この前の
今回は、初春とあたしの
下手をすれば、
そりゃ、あたしは初春の事が大好きだし、たとえ嫌われたとしても、変わらず守りたいと思う。
でも、多分だけど、それではあたしの精神が持たない。
あたしはそんなに、強くはないのだから。
この後結局、私は大量のコンビニ飯を固法先輩に奢らされる羽目になった。
てか、あたしから言い出した事とは言え、後輩に大量のメシ奢らせる先輩ってどうなのよ。
それによく太らないよね。……あ、もしかして、余った栄養は全部胸に行ってる、とか?
そして、私と御坂さんと白井さんの三人で雑談している最中、風紀委員の警報ブザーが鳴る。
「……第二十一学区、自然公園で──」
固法先輩が報告メールを読み上げる声に、私達が一斉に反応し、先輩のほうを見る。
「──大規模なポルターガイスト発生!?」
え……!
「自然公園って、初春達がいる所じゃないですか!」
私は思わずそう口走り、御坂さん達が驚きの声を上げるのだった。
ポルターガイストに巻き込まれた負傷者達は『第5救命救急センター』に搬送された。
初春と春上さんもそこにいるため、私と御坂さんと白井さんは、急いでそこへ駆け付ける。
初春は……いた!
受付の近くのロビーで看護師の手当を受けている初春に、御坂さんが声を掛けると、初春が立ち上がる。
私が怪我の具合を尋ねるも、初春は大したこと無いとばかりに強がってみせる。
……何だ、擦り剥いただけか。
それに対し、私は安堵するも、白井さんは初春が皆に心配掛けた事を嗜めるのだった。
にしても、立て続けに二度もポルターガイストに遭うなんて、初春も春上さんもどんだけ……。
……って、そう言えば、春上さんはどうしたんだろう。
それを尋ねると、初春からは、先に搬送されたとの答えが返ってくる。
怪我はないものの、気を失っているらしい。
やっぱり、何かのキッカケで外部からAIM拡散力場への干渉が起きたことで、ポルターガイストが引き起こされているんだろう。
春上さんはあくまで『着火点』で、誰かがどこかから火を着けてるっぽいな。
ただ、現象によって引き起こされる二次被害が完全にランダムなあたり、その『誰か』の目的は別のところにあるか……もしくは、
「……初春。ポルターガイストの直前、春上さんの様子に変わったところはありませんでした?」
「え?」
「ですから、この間の花火大会のような」
「あの……一体何の」
「わたくしが調べたところ──」
っと、白井さん! ストップ!
「ちょ、ちょっと、いいですか!!」
私は反射的に、白井さんの言葉を遮る形で横槍を入れていた。
初春はとても勘の鋭い子だ。彼女の頭脳を以てすれば、たとえ春上さんの能力を知らなくても、一連のポルターガイストの原因が春上さんにあるのではないかと容易に推測できてしまう。
しかし、彼女の口からそんなセリフは一言たりとも出てこなかった。
私が丸一日眠っている間も春上さんを看病し続け、その人となりを間近で見てきた初春の事だ。春上さんが誰かを傷付けるような力を振るう人間ではない事くらいよく分かってるだろう。
だから、春上さんを信じているし、疑いを掛け、能力を調べようとは思わない。
これは理屈の問題じゃなく、感情の問題だろう。
だから、白井さんが風紀委員としての理屈を優先し、初春の感情を蔑ろにすれば、それは親友への裏切りと受け止められる危険がある。というか、ほぼ確実にそうなる。
風紀委員だって人間。ましてや初春は親友と仲良く遊びたい年頃。絶対傷付くに決まってる。
なので、ここは、あたしが『落とし所』を用意しようと思う。
「ポルターガイストの原因は、RSPK症候群ですよね?」
「そうですが、それが何だというのです?」
横槍を入れられたせいか、白井さんが不機嫌になった。
まあ、しょうがないか。構わず続けるしか無い。
「遠くから誰かが春上さんを狙って、彼女のAIM拡散力場に人為的干渉を仕掛けた事で力場同士が共鳴し、それが引き金となってRSPK症候群──ポルターガイストが起こされたんだと思います」
と、私は自分の見解を述べ始めた。
ここで、白井さんが私の意図を理解し、ハッとした表情となる。
「ちょっと待ってください……なんで佐天さんにそんな事が分かるんですか?」
だが、ここで初春が突っかかる。
私はその疑問に答えるべく──
「花火大会の時、間近で春上さんのAIM拡散力場のニオイを嗅ぎ取ったからだよ。あたしの嗅覚は意識するしないに関わらず、強いニオイがあれば否応無しに嗅ぎ取ってしまう。それに、あの時、春上さんは独り言のように『遠くの誰か』と『交信』してた。あの時、あの場所でのみ、春上さんは恐らく
──スラスラと自分が見知った事について述べていく。
「佐天さん。そんな……
ここで、初春が信じられないものを見るような目で、私を凝視する。
だが、その違和感に気付かないまま、私は……。
「ん? 大体まではね。熱かったり、電気がビリビリしててオゾン臭がしたり、重くてアルミ臭がしたり、吸い込まれる感じだったり、後はその強弱とかで大体嗅ぎ分けられるよ」
事も無げに、そう言ってのける。
初春の疑念の眼差しにも気付かずに。
そして。
「冗談も大概にしてください。無能力者の佐天さんにそんな事できる訳ないじゃないですか」
と、私の見解を一笑に付すが如く、初春は全否定するのだった。
「む。初春? それってどういう意味よ?」
それに対し、私もムキになり始める。
「大体、そんな凄い能力があれば、
「……たとえ無能力でも、身体検査に引っ掛からなくても、『原石』レベルの異能なんて学園都市にはゴロゴロいるよ! 例えば
「上条さん? あの人が何だって言うんですか」
「上条さんはどんな異能でも打ち消してしまう右手を持ってるんだよ! この前なんか、アパートの天井をブチ抜いて上空まで突き抜ける程の破壊光線を右手一つで防いでたし!」
「……はぁ!? そんな事できる訳ないじゃないですか! 佐天さんが都市伝説好きなのは骨身に沁みてよぉ~く知ってますけど、流石にそんな出鱈目なんか信じられるわけありません!」
「出鱈目じゃないもん! この目で見たもん!」
「どうせ、そのニオイとやらも、『ホット・リーディング』か何かで事前に調べた上で、後付けで理屈を当て嵌めただけのインチキな『手品』みたいなものじゃないんですか?」
……ビキビキビキ。
『インチキ』……だと……? 何だァ? てめぇ……!!
「ふっふっふっ。いいよ初春ぅ……。ちょっくら、表へ出ようか」
ドタマに来ていた私は、拳を鳴らしつつ、狩る者の顔つきで初春を睨みつける。……が。
「おやめなさい。佐天さん、初春。ここは病院ですのよ」
白井さんが仲裁に入る。
周りを見回すと、私達の怒鳴り声が騒がしかったのか、他の患者達が皆こっちを見てる。
うわ。やっちまったー!
初春を上手く説得するつもりが、一番冷静じゃなきゃいけないはずのあたしが……。
ミイラ取りがミイラに。
初春も、私も、顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「……病院ではお静かに、ね?」
そこに、件の金髪メガネ女医が現れた。
「テレスティーナさん?」
……と、白井さんが彼女をそう呼ぶ。
テレスティーナ……やっぱり外国人か。
日本語が流暢なのは、まあ学園都市じゃ珍しくもないけど。
『MAR』と書かれたジャケットを身に纏い、部下と思しき男性隊員を一人連れている。
先進状況救助隊……ポルターガイスト関連か。
「あなた達の話を聞く限りだと、お友達はレベル4のテレパスのようね。テレパスがAIM拡散力場の干渉者になる可能性は無くはないわ。特に、レベル4なら必要条件は満たしてる」
そして続けて、テレスティーナさんは私の見解が正しい事を専門家の立場から裏付けてみせた。
なるほど。この人はAIM拡散力場に詳しい研究者なのか。
幻想御手使用者を調べてたのも、それ関連だったのだろうか。
「ですが、彼女はレベル2ですの。特定波長下でレベル以上の能力を発揮する場合がありますが」
ここで、白井さんが釘を刺す。暗に、
「……じゃあ、その『遠くの誰か』からの干渉を受けて、一時的にレベルが上がったのかしらね」
それを受け、テレスティーナさんは少しだけ考え込んだ後、そう結論づける。
私がそれに頷くと、初春が白井さんと私を睨みつけるのだった。
「ここはこれ以上収容できそうにないな。以降は十五学区の緊急病院へ搬送させろ」
「はっ」
そして
「……念のため、ちゃんと検査したほうがいいのかも知れないわね。お友達の名前は?」
さらに、春上さんを検査するという流れまでのレールを敷く。手早い上に抜け目ないな。
「春上衿衣さんですの」
「! ……白井さん!」
それに白井さんが即座に答え、初春が抵抗するも、この流れはもう止められない。
まあ、あの女医に春上さんを預けるのは個人的に不安だけど、こうなっては止むを得まい。
もし何かあれば、この流れを作った私は春上さんと初春に全力で土下座する羽目になるな。
……土下座くらい安いものだし、それくらいで済めばいいけど。
「被災者を一人、本部の研究所に送る。表に車を一台回せ」
「……あの……!」
「真犯人を見付けるためと思いなさい。大丈夫……ウチには専門のスタッフが揃っているから安心して」
……本部の研究所、ねえ。初春はなおも抵抗するけど、軽く宥められてしまう。
まあ、どこかに連れ去られる訳でもないし、そこまで怖がる必要もないか。
……でも、どういう訳か、私の警戒センサーが反応し始めてる。
これは、また一波乱あるか? 幻想御手事件の時みたいに。
……テレズマ・カードの一枚でも持っておいたほうがいいか。
あるいは、愛用の金属バット『ゲイ・ボルグ』も準備しておくか。
そして、私達は春上さんに同伴する形で、テレスティーナの研究所を訪れるのだった。
解説1:
アレイスターの『通信術式』は佐天の勘違いであり、実際には魔術を使っていない。
病院で検査機器に繋がれている佐天に対し、電極を介して脳神経との間に電気的ネットワークを構成し、双方向通信を行うことで、夢に近い形で彼女の精神とやり取りを行ったに過ぎない。
これは異能が関わらない純粋なゲテモノ科学なので、たとえ髪留めを付けていても、迎撃術式は発動しない。
仮に異能が関わっていたとしても、洗脳や記憶操作を伴わない通信のみの術式が精神操作と見なされるかは微妙なところだが。
解説2:
ホット・リーディング:
事前調査した情報を利用し、超常的な力を使って情報を読み取ったように装うテクニック。
イカサマ占い師や超能力者が使うトリックの一つ。