とある佐天の裏技遊戯(ニューゲーム) 作:RB_Broader
MAR──先進状況救助隊。
その本部および付属研究所に、テレスティーナさんによって、
そして、私、
だが、相変わらずギスギスした空気のままだ。
私が自販機で皆の分のジュースを買って来ても、初春は拗ねて受け取らない。
まあ、仕方ないか。
私と白井さんのせいで、春上さんが犯人扱いとまでは行かなくとも、重要参考人のように扱われる羽目になったのだから。
そこに、テレスティーナさんから検査が終わったという知らせが届く。
ただし、結果が出るまでまだ時間が掛かるので、それまでの間、彼女の研究室で待つ事になる。
ってか、子供部屋みたいなオブジェだな。
パステル調の床、スタイリッシュな木棚の上にヌイグルミや置物などが所狭しと置かれてる。
御坂さんはウサギとリスのヌイグルミに夢中のようだ。
そして、この部屋の主から改めて自己紹介される。
テレスティーナさんは、MARの『隊長』にして『研究所所長』。
つまり、二重のトップの肩書を持つらしい。
まだ結構若く見えるし、能力開発の痕跡がみられるから、実際若いのだろう。
すげー。
あたしでも勉強を頑張れば、たとえ能力が伸びなくても、研究者として生きていく道もアリか。
ま、まあ……当面の目標は超能力者だけど、一応保険として考えてみるべきだと思う。
「……そう言えば、白井さん以外はまだ名前を聞いてなかったわね。……あなたは?」
テレスティーナさんは白井さんを見た後、御坂さんのほうを見て、彼女に振る。
どうやらここで、私達の自己紹介が始まる流れらしい。最初は御坂さん。
「ああ……
「もしかして常盤台の? こんな所であの『
「ああ……いいえ」
「……で」
次はあたしの番か。
「あ……佐天涙子です。どうも」
と、簡潔に名乗り、軽く頭を下げる。あたしの事は早く切り上げてしまいたいし。
「あなたも常盤台?」
「いいえ……
「御坂さんのお友達って事は、あなたも相当な能力者なのかしら。この間、お友達を助けるのに大掛かりな
「いえ、その……あまり大した力じゃ……」
って、わざわざ
「まあいいわ。よろしく」
「よろしくお願いします」
軽く流されて助かった。あまり深く突っ込まれたくなかったし。
「それから……」
「
初春張り切ってるねえ。
さっきから思い詰めた顔だったから、話を切り出すタイミングを待ち構えてたんだろう。
「じゃあ、白井さんとは」
「あの……春上さんは干渉しても、されてもいないですよね? ……ポルターガイストの犯人じゃないですよね!?」
初春……逸る気持ちは分かるけど、それは検査結果が出てからだよ。
あんまり無理を言ったら、テレスティーナさんにも迷惑でしょ。
「……試してみる?」
ここで、テレスティーナさんが意味深な笑みを浮かべる。
そして。
「あなた……好きな色は?」
ポケットから何かを……いや、マーブルチョコの容器? ……を出した?
って、色占いですか?
「何でも好きですけど、強いて言えば、黄色とか」
初春がそう答えると、テレスティーナさんはマーブル容器を軽く振った後、初春の手にチョコを出してみせる。
すると、初春が言ったのと同じ黄色のチョコが出てきた。
「あら、幸先いいわね」
……は?
験担ぎですか? 何だか、完全にはぐらかされたような。
これが、大人というものですか。やっぱ大人ってズルい。
その後、私達は春上さんの検査に立ち会う事となり、研究施設の奥のほうまで移動した。
窓越しに、MRIの寝台の上に寝かせられ検査を受けている春上さんが見える。
テレスティーナさんが言うには、春上さんは干渉者ではないらしい。
そして、
なるほど……そう言えば、彼女が『交信』していた時も『どこなの?』と一方的に呼び掛けるだけで、会話の形になってなかったような。
受信専門で『送信』ができないんじゃ、どこにいるのか『先方』も答えてくれる訳ないか。
さらに、特定の相手だけは、距離や障害物の有無に関わらず、確実に捉えられるらしい。
つまりは、干渉者が春上さんを狙っているのではなく、春上さんが干渉者を指定して干渉を受けている。干渉者自身はおそらく、無作為に広範囲に呼び掛けている。……そういう事か。
そう言えば、ポルターガイスト現象が起きた際、干渉を受けたのは春上さん一人とは限らない。
偶然他の誰かが干渉されるケースだってあったはず。
でもそうなると……ポルターガイスト事件を終息させるには、その正体不明&行方不明の干渉者を探し当てるしか無いという……それ何て無理ゲー!?
こうなったら、春上さんを危険から遠ざけるため、当面の間、彼女の能力を封じるくらいしか、対処法は無いか。あくまで一時凌ぎ程度だけど。
……
でも四六時中密着してないといけないし、これじゃあ事案になっちゃうよ。
あるいは、キャパシティ・ダウンを……って、あれは能力者を苦しめるものだから却下だな。
そもそも、あれは
すぐに手に入るものじゃないし、使わせては貰えないだろう。
結局、現状では手詰まりらしい。はぁ……。
とりあえず、春上さん自身の精神的ケアと、何かあった時に皆で守るくらいしか無いか。
病室のような部屋で、春上さんは目を覚ます。
どうやら、また自分のせいで皆に迷惑を掛けたのではと、不安になっている様子。
いや、実際のところ、迷惑掛かりまくりだけど、あたし達はそんなの気にしないし。
とは言え、やっぱり大好きな友達に迷惑掛けるのは心苦しいよねえ。
もしあたしが同じ状況だったら、申し訳無さで心が一杯になるだろうし。
初春も、そんな春上さんが重荷に感じないよう、優しく宥めてあげる。
そんな時、春上さんはいつも首から提げているペンダントが無くなっているのに気付く。
これが無いと不安になる模様。まるでライナスの毛布みたいだな。
そして、それは初春が預かっていたらしく、すぐに気付いて、春上さんに手渡す。
どうやら、そのペンダントは友達との思い出で、その友達を春上さんは探しているらしい。
初春はその辺の事を詳しく聞いているみたい。
そして、春上さんには友達の声がたまに『聞こえる』らしい。
それを聞いているとボーっとしてしまうとの事。
御坂さんは、それがテレパスのせいだと気付き、白井さんはポルターガイストと関連付ける。
なるほど。これで十分な『点』が出揃った。
『干渉者』は春上さんが探してるという『友達』だったか。
さらに、ペンダントの中にはその友達の写真が入っており、名前は『
それに加え、御坂さんがその子の顔を知っていると言い出した。
ん? どういう事?
そして、さらなる情報が、春上さんの口から飛び出すのだった。
春上さんは『
具体的には、親が入学費を払った後すぐに行方を晦ますなどの理由で、学園都市に『置き去り』にされた
もちろん、授業料などは踏み倒されるので、学園都市からすればお荷物同然で、いつ放り出されても文句は言えない立場なのだが、表向きは捨て子を放っておけないという『人道的見地』から、裏では保護者の後ろ盾が無い弱い立場の子供達を如何様にも
「絆理ちゃんとあたしは、同じ
春上さんと枝先さんは元々仲良しで、よくテレパシーで会話していたらしい。
でも別々の施設で暮らす事になり、離れ離れになってそれっきりだったのが、最近になって急に枝先さんの声が聞こえるようになり、その内容は『苦しい』、『助けて』と言った不穏なものだと言う。
これは……『死者からのメッセージ』?
いや、『亡霊』などという存在は、科学的のみならず、
そもそも、存在しない者には他者との交信など不可能。
仮に、魔術か何かで死者を再現したとしても、それは死者本人ではなく、コピーでしかない。
また、幽霊や亡霊の類は死者が遺した『残留思念』による『幻影』に過ぎず、本人ではない。
さらに、そのような存在自体が不安定なモノが何らかの異能を使った例を
そんな曖昧な可能性よりも、
初春は春上さんを勇気付けるために──。
「大丈夫ですよ! お友達はきっと見付かります。いえ、私が見付けてみせます!」
──と、大見得を切る。
もちろん、私もそれに同調してみせる。
何てったって、初春は
相手が生きた人間なら、必ず見付けられるに決まってる。
だって、そうじゃなきゃ、私も初春も、春上さんも、彼女の友達の枝先さんも、そして御坂さんと白井さんも、この先一生笑えなくなるだろうから。
そんなバッドエンドは、このあたしが認めない!
よし。
春上さんと枝先さんのため、あたしも初春に負けないように、がんばるぞー!!
私達は帰りの電車の中で、御坂さんから枝先さんについての話を聞いた。
つまり……枝先さんは、学園都市の“闇”──『
そして、実験の犠牲となった子供達はどこかで生きていて、実験の後遺症で未だに苦しみ続け、その中の一人である枝先さんはテレパシーで春上さんに助けを求めている……と。
結局のところ、その子達を見付けない事には何も分からないという事だが。
それができるのは、私達の中では情報処理に特化した初春だけ、か。
仮に私が探すとしても、春上さんが干渉されてる間しかAIM拡散力場を辿る事はできないので、何十回と繰り返しポルターガイストが起き続けない限り、干渉者を見付けるのは無理だろう。
そんな事をしていては、学園都市もだが、春上さんの身が持たない。
だが、その肝心の初春が拗ねてしまっている。
「もちろん探しますよ。探しますけど……春上さんの次は、その友達を疑うんですか?」
こんな
白井さんはハッとした顔をするも、今は
だから。
「……初春、アンタいい加減にしなよ」
私は初春を叱る。
「これは……犯人探しなんかじゃない。仮に、干渉者が春上さんの友達だとしても……」
そして、沈黙を強いられそうな重い空気を無理やり退かすように、さらに話を続ける。
「春上さんや、枝先さんや他の子達は、
そう言い切る。
当たり前だ。
「酷い実験の犠牲にされて、今も苦しんでて、誰かに助けを求めてるだけの子達が、その叫び声がポルターガイストを起こすから
だから、思いっきり啖呵を切る。
「初春も……あの子達がポルターガイストを起こしたら迷惑だと思ってるの?」
そして駄目押しに、初春に突き付ける。
それを聞いて、初春はハッとした顔に変わる。
「ううん……仮に、干渉者が春上さんと関係ない赤の他人だとしても、悪者扱いするのは早いよ。
……んん? ちょっと偉そうな感じになり過ぎたか? 周りの空気が微妙に……。
私と初春の間にいる白井さんも何だか呆れてるし。
「四の五の言わずに……って何ですかそれ。いつの間にそんなに偉くなったんですか、佐天さん」
初春は思わず苦笑いする。
「まったく……佐天さんの『イカサマ』には敵いませんよ。言葉巧みに『手品』みたいに言い包めるなんて、佐天さんの事、『
「ちょっと、あたしのはイカサマじゃないっつーの!」
そして、初春が憎まれ口を叩き、それに私がムキになって噛み付く。
どうやら、わだかまりは少しずつ解けているようだった。
第二十一学区の『第5救命救急センター』の屋上。
夜遅く、全身包帯だらけのセーラー服女子高生が一人、そこに佇んでいた。
左腕はギプスで固定され、右手で携帯電話を耳に当て、誰かと話し込んでいる。
「だーかーら! 『なの子』はMARの車でどこかに運ばれて行ったんだけど!」
「……『花飾り』の様子? この前と変わりないと言うか、『お菊ちゃん』と大声で口喧嘩してたくらいで、『
「お菊ちゃんのほうは
「……ええ!?
「…………」
「それはできない相談だけど。今現在、なの子の行方が分からない上に連絡も取れないんだけど。おそらく、
「……なるほど。本部の研究所か。この時間に今から行くのは無理だけど」
「じゃあ、朝になったらここから抜け出して、『
明くる朝、初春飾利は春上衿衣の病室へお見舞いに来ていた。
遠くの第八学区にある老舗のたい焼き屋から、わざわざお土産を買ってきたらしい。
初春曰く、『つぶあん以外は邪道』との事。
ついでに、彼女の能力『
この能力は、まだ誰にも明かしていないとの事。佐天にすらも。
春上さんの能力を本人に無断で調べたため、そのお返しという訳だ。
初春と春上さんの二人は、人肌よりやや温かいたい焼きに舌鼓を打ち、二言三言話す。
そして、風紀委員の仕事があるため、初春はまたお見舞いに来ると言い残し、病室を出る。
一人病室に残された春上は、自分の携帯電話を探すが、手元に無い事に気付く。
「そう言えば……あの(自然公園にいた)時から、ずっと電話を掛けてなかったの……」
ベッドの横にある衣類ケースの中を探しても、携帯電話は見付からない。
「もしかして、落としたのかな……」
そして、段々と不安になる。
「どうしよう……これじゃあ(カチューシャのお姉さんに)連絡できないの……」
そこで、はたと気付く。
「あ。じゃあ……
「絆理ちゃんは、初春さん達が見付けてくれる」
彼女自身、既に
「初春さんを、これ以上裏切れない。裏切りたくない。だから……あたしは、
「そして……初春さんに、全部話すの。
春上衿衣は、遂に吹っ切れた。
風紀委員第177支部にて。
「木山の供述によると、人体実験の被験者は10名。全員が植物状態となり、学園都市内の医療機関に分散して収容された」
「けど、
「ええ。転院を繰り返してて、途中足取りが途絶えているんですの」
「……そう」
そして、初春飾利は
そこに、白井が淹れたばかりのホットココアを差し出す。
「一息入れたらいかがですの?」
「そこ……置いといてください」
「はぁ。あんまり根を詰めすぎると体に毒ですわよ」
「春上さんの友達は今も苦しんでるんです。それに比べたら、これくらい何でもありません」
「だからと言って、初春。あなたまで倒れたら元も子もありませんのよ」
「分かってます。佐天さんみたいな
「ああ……そうですか。この場に佐天さんがいなくて何よりですわ。……兎も角、冷めないうちに飲むのをおすすめしますの」
「……じゃあ、いただきます」
丁度この時、入口のドアの磨りガラスの向こうに長い黒髪の少女の人影がチラついていた事に、固法先輩だけが気付いていたが、空気を読んで何も言わなかった。
私、佐天涙子は、風紀委員第177支部のドアの前で立ち尽くしていた。
「何か、あたし……今頃、初春に陰口叩かれてるような気がする……入りづらい」
逡巡した挙げ句、私はドアレバーから手を離した後、踵を返し、その場を後にするのだった。
……はあ。何やってんだろ、あたし。
そして、階段を下りようとしたところで御坂さんとバッタリ出くわし、一緒に公園へ行くことになった。
噴水の近くにあるオープンテラスで、二人で一緒に飲み物を飲みながら寛ぐ。
「いやぁ……昨日、初春と口喧嘩しちゃったせいで、ちょっと顔を出しづらくって」
「そんなに気にする事無いんじゃない? 初春さん、あれから全然怒って無かったみたいだし」
「まあそうなんですけど。どちらかと言えば、あたしのほうが根に持ってるのかなぁ……なんて」
「あはは……」
私のポンコツ振りに、御坂さんが呆れたように乾いた笑いを漏らす。
やっぱり、初春から『インチキ』呼ばわりされたのが地味に堪えてるのかな。
魔術関連の事をそのまま話すわけにもいかないし、仮に話す事ができたとしても、それはそれで心配されちゃうのも心苦しいし、かと言って、現状だと内心馬鹿にされてるんじゃないかと不安になるし。
「ねぇ。佐天さんの『特技』で、枝先さん達を探す事はできないの?」
と、ここで、御坂さんが唐突に難題を突きつけてくる。
いきなり藪から棒ですねぇ……。
「えっと……あたしの嗅覚じゃあAIM拡散力場の強さと性質を嗅ぎ分けるだけで、個人の特定まではできませんし、そもそも、干渉者のAIM拡散力場は干渉している時でないと感知できないので、ポルターガイストが長い時間連続して起き続けない限り、辿るのは無理ですね」
「へぇ……」
御坂さん。何だか意味深な笑みを浮かべてますね。まるで、あたしを値踏みするような。
一体どういう風の吹き回しなんでしょうか。
「ところで、この前も昨日も、『上条』がどうとか言ってたわよね?」
「え? ああ……
「そうそう。それよそれ。どこで知り合ったの? どんな関係?」
「ええ……?」
グイグイ来ますね、御坂さん。そんなに上条さんの事、気になります?
そう言えば、セブンスミストでの
その後も追いかけ回してたような。まあその辺の話は、追々聞くとして。
さて、どこからどういう風に説明すればいいのか。魔術絡みの部分は伏せておくしかないし。
でも、インデックスを助けた件は、確かこの前、
……こんな感じで私が答えあぐねているその時。
タイミングがいいのか悪いのか、御坂さんの携帯のベルが鳴った。
相手はテレスティーナさん。何か良くない知らせのようだ。
詳しい話を聞くため、私達はテレスティーナさんとの待ち合わせの場所へ向かうのだった。
市街地から少し離れた見晴らしの良い丘の上のカフェテラスにて。
私と御坂さんはテレスティーナさんと同席していた。
「木山春生が保釈!?」
と、御坂さんが驚きの声を上げる。
例の実験──
一万人もの学生を昏睡に追い込んだ上、警備員に多大な損害を与え、怪物まで生み出した容疑者がこんな短期間で保釈されるなんて、背後に何らかの大きな力が働いたのか。
あるいは過去の実験について内容を暴露されたくない何者かが、口封じのため身柄を引き取ったのか。
最悪の場合、木山はもう
そもそも実験を主導した黒幕は何のお咎めも無しのまま、どこかでのうのうと生きている上に、枝先さん達はそいつの毒牙に掛かって、今も実験対象として苦しんでいる可能性すらある。
私がそんな最悪の可能性に思いを至らせている時、御坂さんとテレスティーナさんは全く別の話をしていた。
「子供達に繋がる糸が切れたわね」
テレスティーナさんは諦め混じりに、そう零す。
木山は子供達を救う方法を見付けるため、幻想御手で巨大な演算装置を作ろうとしたのだから、前提として、救うはずの子供達の居場所が分からないというのは、確かにありえないだろう。
そして、次の方法を探すため一刻も早く保釈され自由に動きたいと考えるのも自然と言える。
だが、保釈というのは本人の要求のみで成立する訳ではない。
何より、一研究者に過ぎない木山に、保釈金をポンと用意できるはずがない。
やっぱり、背後で何者かが動いているのだ。
「……木山が無事だという保証はありませんよ」
なので、誰も目を向けていない別角度での可能性を示唆する事で、引っ掻き回してみる。
「そもそも、実験を主導した偉い研究者は何のお咎めも無く、今も野放しなんですよね?」
そして、言葉を続けながらも、私はテレスティーナさんの細かな表情を探る。
「だったら、不都合な事実を漏らされるのを未然に防ぐため、木山はそいつらに命を狙われている可能性があります。というか、拘置所にいたら危険だから身を隠すため保釈に乗じて姿を眩ませた可能性すらあるんじゃないですか?」
だが、私の唱える『最悪の可能性』に対し、テレスティーナさんは呆れたような表情を返す。
「……甘いわね。犯罪者が野放しになったのに、その犯罪者の身を案じるなんて」
「……え?」
「普通なら、野放しになった犯罪者が更なる悪事を重ねる可能性を考えるべきじゃないかしら?」
むう。……でも、何か違うと思う。
確かに、木山がやった事の規模は大きいけど、彼女自身は結局誰も犠牲にしていない。
そして、彼女自身、被害者であり、『内部告発者』でもあるはず。
『黒幕』と『告発者』が共に野放しになっていれば、その間で何が起きるかは明白でしょうに。
「それに、一番心配すべきは子供達の安全じゃないかしら? 保釈された木山が子供達を使って、何か良からぬ事をしでかそうとしている可能性すらあるわ」
「でも、木山は子供達を助けようとしてあんな事件を起こしたんですよね? そんな木山が子供達を利用するって言うのは」
「別に、おかしくは無いでしょう。学生の能力への憧れさえも利用したような女よ」
……いや。絶対変だ。
木山は子供達を救う目的があるのに、救うはずの子供達を犠牲にするはずがない。
その時点で既に、テレスティーナさんの仮説は破綻している。
彼女ほどの地位を持つ研究者が、その程度の初歩的な
そうだ……アケミ達に治療と称した妙な実験を行っているのもテレスティーナさんだ。
彼女がウソを吐いている可能性も考慮すべきだろう。
あたしが見た限り、MARの施設は子供達10人程度は軽く収容でき、搬送用の車両も揃ってる。
最悪の場合、子供達の居場所を既に見付けており、どこかに隠しているかも知れないのだ。
私はテレスティーナさんを無警戒に信じるのを止め、疑いの目を向ける事に決めたのだった。
引き続き、風紀委員第177支部にて。
初春飾利は朝からずっとパソコンに釘付けになっていたが、未だに進展する気配がない。
「初春さんがこれだけやっても、尻尾も掴めないなんてね」
作業を見に来た固法先輩が、流石に草臥れた様子で、そう呟く。
「まだです。……まだ、辿れるデータがあるはずです」
しかし、初春は全く疲れを見せておらず、まだまだやる気十分のよう。
そんな彼女の頼もしい様子を微笑ましく見守る感じの固法先輩は、パソコン画面に気になる情報が映っているのに気付く。
「……AIM拡散力場の共鳴によるRSPK症候群集団発生の可能性?」
そして、初春に向け尋ねてみると……。
「これって、昨日、佐天さんが言ってた事が気になったんで、調べたんですよ」
「佐天さんが?」
「ポルターガイストの原因が、春上さんのAIM拡散力場に遠くの誰かが干渉して共鳴したせいなんじゃないかって。根拠も分からない憶測みたいだったんで頭ごなしに否定しちゃったんですけど、案外、これが当たってるっぽくて……」
そんな感じで、苦笑しながら答える初春に対し。
「あはは……佐天さん、結構鋭いところあるからねえ」
固法先輩も苦笑で返すのだった。
「固法先輩、初春、ちょっといいですか?」
ここで、離れた席から様子を伺っていた白井がタイミングを図ったように話に加わる。
「
「ちょっと白井さん、ストップです」
と、白井が話を切り出した所で、初春が出鼻を挫く形で止めに掛かる。
「初春……?」
「これ以上、
怪訝な表情で聞き返す白井に対し、初春は不穏な一言を返し。
「……治安維持のために友情を蔑ろにするのは、白井さんでも佐天さんでもなく、この私です」
不敵な表情を浮かべつつ。
「……友達に裏切られて怒るなんていうクソガキじみた役回りを、私に押し付けないでください。私は白井さんや佐天さんを嫌いになりたくない。それなら
そう、熱く宣言する。それを聞いた白井がハッとした表情へと変わる。
(……それに、正義のために友情を後回しにして、憎まれ役を甘んじて引き受けるなんて、そんなカッコイイ役目を白井さんだけに独り占めさせるわけにはいきませんから)
……この初春の心の声は、白井には内緒である。
「春上さんの友達の枝先絆理さんの書庫情報は、既に私が調べました。春上さんと同じ、
そして続けざまに、初春は枝先さんに関する情報をスラスラと述べ上げた。
これは、白井が書庫にアクセスするのを先読みし、先回りして行動した結果だ。
「初春……(あなたって人は……!)」
「干渉者は、多分、枝先さんで間違いないと思います」
若干複雑な表情ながらも感心する白井の反応を他所に、初春は超然とした態度でハッキリとそう述べた。そして……。
「春上さんと同系統の能力なのでAIM拡散力場も似ていると思われます。なので、佐天さんに探すのを手伝って貰いましょう」
そんな初春のいきなりの爆弾発言に、白井と固法先輩は互いに顔を見合わせるのだった。
初春から急な電話で呼び出され、風紀委員の支部に(空間移動で)連れてこられた私は。
「佐天さんの嗅覚で、枝先さんのAIM拡散力場を探してくれませんか?」
などという無茶振りをされるのだった。
あたしゃ警察犬かい。
「インチキじゃないというなら、できますよね?」
……と、こんな挑発まで上乗せされる始末。
はぁ。
初春と白井さんの仲違いを防ぐため、良かれと思って落とし所を提示しただけだったのに。
どうしてこうなった。
初春よ。
アンタは『屏風の虎』を縛り上げろと一休さんに命ずる
そっちがそう来るなら、こっちにも考えがあるぞ。
「じゃあ、枝先さんのAIM拡散力場のニオイを覚えたいので、本人を連れてきてくれませんか?」
私がこう切り返してやると、初春と白井さんが固まり、固法先輩が意味を解したのか、感心したような顔となる。
「あれあれ~? できないんですかぁ? まいったなあ。警察犬ですら探し人の持ち物のニオイを嗅がないと捜索できないってのに」
さらに、煽ってやる。馬鹿にされたお返しだ。
一拍置いて、ようやく私の意図を見抜いた初春が膨れっ面になり。
「ふざけないでください、佐天さん! 春上さんのAIM拡散力場のニオイを嗅いだって昨日言ってましたよね? 枝先さんも同じ精神感応です。同じ能力の人を探せば当たるはずです!」
と、ムキになって吼える。
まあ一理あるけど。
「でも、春上さんって受信専門だよね? あたしが感知したのは
だから、こう返してやる。
「え?」
初春はキョトンとした顔になるが。
「ポルターガイストの時、春上さんから感じたのは『奈落の底に吸い込まれる感じ』のニオイと、ノイズみたいなものだけで、能力が精神感応だと分かったのは、『交信』するように独り言を呟いてたからだよ。ニオイだけじゃ能力の種類なんてハッキリとは分からない事もある。一系統の能力のニオイを覚えるためには、沢山のサンプルが必要になると思う。枝先さん本人が無理なら、他の
ここまで説明してやれば、いい加減理解できるだろう。
むしろ、ここまで言われなきゃ分からないってのは、頭のいい初春らしくもないと思う。
「…………」
初春は言葉が出ないまま、落胆の色を隠せず、ただこちらを見詰めている。
「……あ、
私が初春に説明している横で、固法先輩が誰かと電話で話している。
……ん?
「
初春の横でずっと黙って聞いていた白井さんも、いつの間にか誰かと電話で話し込んでいる。
……一体、何が始まるんです?
今、私の目の前には初対面の女の人三人がいる。
固法先輩の隣に女子高校生一人と、白井さんの隣に常盤台生二人。
「こちらは、風紀委員の四葉さんよ」
「四葉です。
固法先輩が風紀委員の同僚であるショートヘアの女子高校生のお姉さんを紹介し。
「わたくしの風紀委員の後輩の小牧ですの」
「常盤台中学一年、風紀委員見習いの
白井さんが同級生のお下げっぽい髪型の女の子を紹介する。
隣にいる茶髪おかっぱ頭の常盤台生は黙ったまま、こちらへ向けて、ニッコリ微笑んでいる。
「どーもー。柵川中学一年の佐天涙子です」
私もとりあえず挨拶する。
『わたくしは常盤台中学三年の
んん??
コイツ……脳に直接語りかけてる……だと?
髪留めは付けたまま。だけど、迎撃術式は反応しない。
という事は、
あるいは、霊装自体がうまく発動してない可能性もあるけど。
『回線が繋がっているので、意識すれば、そちらからも話し掛けられますよ』
ええ、そうなの? って、今あたしが考えた事、全部覗かれてないよね?
『まあ……独り言とか色々聞こえちゃってましたけど、ご安心を。ほとんど意味が分かりませんでしたし、他言はしませんので』
えっと……どこから聞こえてました?
『髪留めがどうとか……迎撃ジュツシキ? とか、レイソウ? とか……』
ああ……全部ですか。
無言で私を見詰めたまま笑顔を崩さない口囃子さんと、冷や汗を掻きながら目線を泳がせる私の不審な様子に、周囲には怪訝な空気が広がる。
「ああ……口囃子先輩……
牧上さんが『ま~た始まった』とばかりに溜息を吐き、頭に手をやる。
「“また”?」
(あの人、いきなり念話で話し掛けて驚かすクセみたいなものがあるんですよ)
「ああ……」
固法先輩がその意味を尋ねると、牧上さんが小声で答え、先輩は納得したのか呆れ顔となる。
「……佐天さんに精神感応のニオイとやらを覚えさせるためだけに呼んだにしては、些か大物揃いじゃないかしら? このままお帰りいただくのも勿体ないわね。どうかしら? 初春さん」
そして、何やら思い付いたのか、意味深な笑みを浮かべ、先輩は初春へ話を振る。
それに対し、初春は覚悟を決めた表情で頷くのだった。
四葉先輩と口囃子先輩のAIM拡散力場から、精神感応能力者のニオイの傾向をある程度学習した私は、初春の指示に従い、白井さんの空間移動であちこちを転々と移動しながら、周囲に精神感応のAIM拡散力場のニオイがあるか無いかを確認し、もし感知できたならどの方角からニオイがするのかを調べる事を繰り返していた。
四葉先輩は風紀委員で多忙なため、すぐにお帰りいただいたが、口囃子先輩のほうは時間があるらしく、捜索に協力して貰う事になった。
念話能力には同系統の能力者を探知するテクニックがあるらしく、高速移動のための足として、同じ派閥の同級生──縦ロールのお嬢様──
したがって、私と白井さんの二人組と、口囃子さんと帆風さんの二人組に分かれる事に。
これで作業効率が二倍になった。
私は与り知らない事だが、初春は書庫から精神感応能力者のリストを作成し、感知結果を元に、能力者の居場所をそれぞれ絞り込んだ上で監視カメラを駆使して追跡していく事で、『ハズレ』のニオイを一つ一つ潰していき、枝先さんがいる可能性の高い場所を絞り込んで行ったのだ。
なお、面倒事を避けるため、枝先さんについては能力以外の事は可能な限り伏せており、友達と生き別れになった旧友で、現在は病院で寝たきりだという簡単な事情のみの説明に留めている。
そして夕方。
私と白井さんは、初春の計算結果を元に割り出した場所──『水穂機構病院』の前にいた。
完全下校時刻はとっくに過ぎているが、風紀委員の仕事なので、責任は固法先輩が取ってくれるらしい。
……いや、情報処理ってスゴいね。
あたし一人でただ闇雲にニオイを追っていくだけじゃ、こんなにすんなり場所を絞り込むなんて到底無理だろう。東京都の3分の1の広さを持ち230万人が住む学園都市の中から、会った事も無いたった一人の行方不明者を探し出すなんて、それこそ何日掛かるか分からない。
純粋な科学による物量攻めは割と馬鹿にならない。
もちろん、何の手掛かりも無しでは魔術を使っても無理だろう。
枝先さんの顔写真を春上さんから借りて、占術か何かで人探しする方法もあるにはあるが、全知全能の『高次存在』と呼べる何者かに答えを伺うのではなく、結局のところ自分自身の潜在意識から答えを引き出すに過ぎないわけだから、あたし自身が『その方法では不可能』と思ってる限りはできっこないのだ。
そんな訳で、初春のおかげで見事、枝先さんの大まかな居場所を探し当てた私達は、病院の建物の中へ踏み込む。
その直後、ほんのりと微かに『折り紙』のニオイがした。
……子供の患者が遊ぶのに使ってるのか?
あるいは老人か。小学校の頃、介護施設を見学した時、入所者の老人がチラシや折り紙でくす玉とか作ってるのを見せて貰った事あるし。
……まあいいや。それは今気にする事じゃない。
この建物の中に枝先さんがいるかどうかが全て。
もし『ハズレ』だったら、振り出しに戻ってしまうのだから。
今回は居場所を確認するだけで連れ出したりする訳じゃないので、この病院の院長の許可を取る必要も無いだろう。いや、本当は取らなきゃ駄目だけど、バレなければ何の問題も無いか。
病院は既に診療時間外。夜勤の医師や看護師、入院患者はいるだろうが、白井さんの空間移動を使えば侵入は容易なはず。
その目論見通り、誰にも見付からずに侵入でき、嗅覚に従い、枝先さんがいると思われる地下の区画まで足を踏み入れる事ができた。
そして。
そして。
そして。
植物状態の子供達10人が横たわるベッドが並べられているガラス張りの病室が、私達の目の前にあり、その中に枝先さんが──いた。
春上さんが持つロケットの写真に映っていた小さな女の子の面影があるし、実験体にされたのは数年前らしいから、あれが成長すれば丁度こんな感じだろう……間違いない。
枝先さんのAIM拡散力場は……ふむ。こんなニオイか。よし、覚えた。
余韻に浸る間もなく、私達は見付からないうちにその場から撤収する事にした。
「子供達の居場所、子犬ちゃんにバレちゃったみたいだにゃ~」
「……いんやー。珍しく
「……まあ、
「とりあえず、今は様子見ですたい。
「そういうわけで、何かあれば、また知らせるぜよ」
『お掛けになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため掛かりません』
「んもー。春上さんってば携帯の電源入れてないのかな。折角枝先さんの居場所が見付かったって知らせてあげようと思ったのに。また明日電話するかな」
春上さんの携帯に電話を掛けた初春はそうボヤきつつ電話を切る。
──が、その直後、音声の『違和感』に気付く。
「春上さんの携帯……あの機種をサポートするキャリアは……学園都市モバイルネットワーク」
ネットで情報を検索すると、すぐにヒントが見付かった。
学園都市モバイルネットワーク
| 電話が繋がらない場合に流れるアナウンス例 | |
| 電話に出ない場合 | お掛けになった電話をお呼びしましたが、お出になりません。 |
| 圏外・電源オフの場合 | お掛けになった電話は、電波の届かない場所にある、または電源が入っていないため掛かりません。 |
| 通話中の場合 | ツー、ツー、ツー(話中音) |
| その他の場合 | お掛けになった電話をお呼びしましたが、お繋ぎできませんでした。 |
「…………」
「アナウンスが、
「じゃあ、
ある場所のデスクの上に、春上衿衣の携帯電話が置かれ、パソコンに接続されている。
パソコン画面にはアドレス帳が表示され、そこから『初春飾利』と『カチューシャ』の連絡先が目立つ形でピックアップされていた。
「……ッ。居場所までは話さなかったか。でも……あと少しで」
舌打ちをする女性が掛けているメガネがパソコン画面の光を照り返し怪しく光り、その顔に浮かべる歪んだ笑みをより禍々しいものへと変えていた。
「あのガキどもは……私のもの」
「木山だろうが、
「……
解説:
超電磁砲外伝アストラル・バディに登場する風紀委員の新入り。
白井黒子の風紀委員の後輩で、彼女が教育係を担当している。
『自身と触れたものを透明にする』光学系能力を持つ(レベル3~4相当)。
常盤台中学一年で、
本作品においては、現時点ではまだ正式な風紀委員ではなく見習いの立場。
超電磁砲に登場する常盤台中学三年で、
食蜂派閥の幹部。
原作と超電磁砲に登場する常盤台中学三年で、外伝アストラル・バディの主人公。
食蜂派閥のナンバー2(
原作1巻と6巻に登場する風紀委員の女子高校生。
小萌先生の話では、世話好きらしい。
二学期初日に魔術師(シェリー=クロムウェル)が学園都市に攻めてきた際、地下街で一般人の避難誘導をしていたが、