とある佐天の裏技遊戯(ニューゲーム)   作:RB_Broader

14 / 35
花飾りの少女(アンテイア)と守護神(アネモイ)

 枝先(えださき)さんの居場所を探し当てた後、私、佐天涙子(さてんるいこ)白井(しらい)さんは風紀委員(ジャッジメント)第177支部へと帰還。

 協力してくれた口囃子(こばやし)先輩と帆風(ほかぜ)さん、そして、風紀委員見習いの牧上小牧(まきがみこまき)さんにお礼を述べ、お帰りいただいた後、初春(ういはる)固法(このり)先輩と白井さんに対し、私は『大事な話』を切り出す。

 

「テレスティーナさんの事なんですけど……」

 

 それから、私はテレスティーナさんが幻想御手(レベルアッパー)使用者達を使って、治療と称し、妙な実験を行っている疑いがある事などを説明した。

 

「それは……確かなんですの?」

「ええ、まあ」

 

 嗅覚の件でいくらか信用を得た甲斐もあり、私の話は白井さん達にすんなり信じて貰えた。

 魔術の事は伏せて説明したが、『毎日同じ食事を与える』事に関しては、科学サイドから見ても不自然極まりないらしい。

 

「例えば……食事内容については分かりますの?」

 

 続けて、白井さんが質問してくる。

 

「あたしが聞いた限りだと、味気ないハンバーグとマッシュポテトとミックスベジタブルと牛乳、ヨーグルトの組み合わせが毎日三食ずっと続いて、食事以外の間食は全面禁止。飲み物は水だけ」

 

「うえ……まるでTVディナーじゃありませんの。しかも三食同じだなんて拷問か何かですの?」

「聞くだけで食欲が消え失せそうな献立ですが、一応栄養バランスは考慮されてるみたいですね」

 

 私の回答に、白井さんがウンザリした顔をする一方で、初春は少しばかりフォローを加える。

 

「他には何か気付いた事はありますの?」

 

「あとは、毎食オマケにマーブルチョコが二、三粒付いてくるのと、検査の度に、栄養バランスを整えるためのサプリメントを渡されるみたいです」

 

 私が白井さんの質問に答えている間、既に初春はパソコンで作業を始めており、ものの数秒で、どこかの『カルテ情報』を画面に映し出すのだった。

 

「やっぱり……」

 

 そして、確信を得たかのように、一人呟く。

 その様子に、私と白井さんと固法先輩は怪訝な表情となり、首を傾げる。

 

「これは……『幻想御手』です。それも、テレスティーナさん独自の方法によるものです」

 

 初春の口から、衝撃的なセリフが飛び出すのだった。

 

 訳が分からないと言った感じの私達に向け、初春はさらに続けて説明をする。

 

「佐天さん。今日、テレスティーナさんに会ったんですよね?」

「ああ、うん」

 

「丘の上のカフェで同席したって話ですけど、あの人、何か()()()()()()()()してましたか?」

「そういえば……」

 

 言われてみれば、あの時、皆で同じメニュー……コーヒーとケーキを頼んだけど、話に没頭してたせいで誰もケーキには口を付けてなくて、結局最後に御坂(みさか)さんとあたしだけがケーキを食べて、それからテレスティーナさんの分は譲って貰って二人で半分こしたんだっけ。

 後、テレスティーナさんはコーヒーに口を付けてたように見えたけど、もしかしたら……。

 

「……患者さん達は毎日、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()はずです。それに加え、検査結果に応じ、サプリメントの投与で栄養バランスを調整。つまりは患者さん達の体質そのものをテレスティーナさんの体質に近付ける事で、()()()()脳への影響を及ぼし、脳波を同調できるくらいにまで近付けるのが狙いではないかと」

 

 一般社会ならばこんな突拍子も無い話は『陰謀論』として一笑に付されるところだけど、ここは天下の学園都市で、相手は研究者。あながち否定できないのが怖いところなのだ。

 それに何より初春の推理は科学的にも()()的にも一応筋が通っており、状況証拠も揃っている。

 

 テレスティーナの『医療行為』が幻想御手の『後遺症』の治療として合理性が無いと分かれば。

 あるいは、そもそも『後遺症』自体、彼女の虚言かも知れなくて、もしそうだと判明すれば。

 警備員(アンチスキル)に報告すれば、彼女の火遊びにも等しい『実験』は即刻中止に追い込まれるだろう。

 

 早速、初春が警備員の黄泉川(よみかわ)先生に電話を掛けるも、どういう訳か繋がらず……。

 

『お掛けになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため掛かりません』

 

 ……こんな『圏外・電源オフの場合のメッセージ』が返されるだけだった。

 

「……!! 先手を打たれたみたいです……!」

 

 初春は何かに気付いたのか、切迫した表情となり、そう皆に警告する。

 

 事情がよく飲み込めないと言った顔をする私と白井さんと固法先輩に対し、初春は今日起こった不可解な出来事について、一通り説明するのだった。

 

「つまり、春上(はるうえ)さんの携帯はテレスティーナさんが預かってて、『偽のメッセージ』が返ってくるよう仕組まれてたって事?」

 

 私がそう聞き返すと、初春は首を縦に振る。

 

「今日、佐天さん達が枝先さんの居場所を見付けて、私がそれを春上さんに伝えようと電話を掛けようとした時、おそらく会話を盗み聞きされたと思います。ただ居場所までは話してませんけど」

 

 続けて初春がそう述べて。

 

「……で、今度は初春から黄泉川先生の所に掛けようとしたら割り込まれたという事ですのね」

 

 白井さんがそう聞き返すと、初春は再度頷く。

 そのやり取りで、私達はいよいよ事態が切迫しつつあることを悟るのだった。

 ついでに念のため、今度は私が自分のスマホで黄泉川先生に電話を掛けてみる。

 

『お掛けになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため掛かりません』

 

 すると、先程初春が掛けた時と一言一句違わない全く同じメッセージが返ってきた。

 まさか……あたし達全員、警備員に連絡できないように電話回線レベルで妨害されてる?

 確か、あたしと初春と白井さんと御坂さんの四人は、春上さんと電話番号を交換したはず。

 そして、テレスティーナさんとは互いに全員の自己紹介を済ませてある。

 春上さんの携帯のアドレス帳からあたし達の名前を辿れば、電話番号も特定できる。

 くそっ……完全にやられた。

 

 今、あたし達がすべき事は……!

 

「今すぐ、春上さんの所へ行きますの!」

 

 白井さんがそう力強く宣言し、それに初春と私が同調する。

 そして間髪(かんはつ)()れず、私達は白井さんの空間移動(テレポート)で春上さんがいるMAR本部研究所へ移動した。

 


 

 ……風紀委員の支部に一人ポツンと残された固法先輩は、手持ち無沙汰となり、何の気無しに、自分の携帯から黄泉川先生の電話番号に電話を掛けてみる。

 すると。

 

『お掛けになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため掛かりません』

 

 初春や佐天が掛けた時と、一字一句違わず、全く同じ()のメッセージが返ってきたのだった。

 


 

行間

 

「ふにゃ~」

「はぁ~……極楽じゃん」

 

 とある銭湯の大浴場で、小萌(こもえ)先生と黄泉川先生が湯船に浸かり寛いでいる間。

 彼女達が使っている更衣室の()()()のロッカーの中に置かれた携帯は全て()()となっていた。

 


 

 私達が春上さんの所へ飛んで行った直後、白井さんの携帯に固法先輩から電話が掛かってきた。

 そして、二言三言話した後、白井さんは何故か初春のほうをジト目で睨みつける。

 

「……ういはる?」

「何でしょう? 白井さん」

 

 白井さんの様子がおかしい事に、初春はまだ気付いていない様子。

 いや……あたしには白井さんが怒ってる理由が何となく予想が付くけど。

 多分、初春の推理が何某か外れたんだろう。そんなニオイを感じる。

 

 その後、初春は白井さんからたっぷり絞られた。

 ついでに春上さん本人に携帯キャリアを直接尋ねたところ、『学園都市モバイルネットワーク』では無く別のキャリアだったらしい。

 その際、携帯をどこかに紛失した事も彼女の口から明かされた。

 ただし、彼女の携帯の機種を初春が見誤った訳ではなく、自分の使いたいキャリアで気に入った機種が無かったためSIMのみ契約し、別のキャリアの中古の機種をSIMフリーで購入したとの事。

 それに加えて、春上さんが契約しているキャリアは黄泉川先生と一緒らしい。

 

 危うく、テレスティーナさんを『冤罪』でクロ扱いするところだった訳だ。

 

 この事で春上さんを下手に刺激する訳にもいかないので、お茶を濁すような形で、私達は彼女の携帯を必ず探し出すと言い残し、その場を離れる。

 そして風紀委員の支部へ帰還し、何だか白けきった空気を抱えたまま、有耶無耶のうちに解散の運びとなるのだった。

 


 

 私は学生寮に帰った後、何枚かのテレズマ・カードとルーンのカード、そして愛用の金属バット『ゲイ・ボルグ』を携え、初春の寮を訪れた。

 推理が外れ、白井さんに叱られた後の初春が、何だか憤懣(ふんまん)やる方ない様子だったからだ。

 おそらく、初春にはまだまだ言いたい事が沢山残っているに違いない。

 100あるうちのたった1つを間違えただけに過ぎないのだろう。

 それで全てを切り捨てられては世話ない。

 だから、あたしが残りの99を掬い上げてやるのだ。

 そして、彼女のためにできる事があれば即行動に移せるよう、準備万端にしておく。

 

 部屋の明かりは消えていたが、初春は中におり、泣き腫らした目をしている。

 真っ暗な部屋で一人泣いていたのだろうか。

 

「こんな夜分遅くに、何の用ですか……佐天さん」

「いやね……初春が何か言いたそうだったから、話を聞きに来た」

 

「……それで?」

「何かやりたい事があれば、あたしが手伝ってあげるから、遠慮なく言って欲しいんだけど」

 

 私の言葉に納得したのか、初春は無言のまま、私を部屋に招き入れ、明かりを点ける。

 

 そして、何故かお風呂場から洗面器とタオルを持ってきて、私の目の前に置いた。

 

「何……これ?」

()()が失敗した時のためです」

「ああ……そう」

 

「ついでに、風紀委員御用達の塗り薬も用意してあるので、安心して血塗れになってください」

「へ……へぇー?」

 

 ええ……何だか行動が勝手に先読みされてる? 笑顔も怖いし。

 いや、初春の部屋ではそんな事しないよ? あたしは。

 だって、他人の部屋汚したらマズいじゃん。弁償する羽目になるかも知れないし。

 

「とりあえず、本題に入ろうか。初春は、これから何がしたい?」

 

 そう、私は話を切り出すのだった。

 


 

 私、佐天涙子と親友の初春飾利(ういはるかざり)は、MAR本部の建物のそばに潜んでいた。

 ちなみに、私も初春も制服ではなく私服姿だ。

 私は血が目立たない黒のシャツに迷彩柄のパーカー、迷彩柄のハーフ丈のサルエルパンツに黒のスニーカーを着用し、体のあちこちに包帯が巻かれている。

 初春はピンクのワンピースのロングパーカー(!!)と黄色のスニーカーを着用している。

 ……以前、ニセ初春が着ていたのと同じものだが、おそらくこっちが本家か。

 いつも着けている頭の花飾りは、どういう訳か外している。

 これじゃあ益々ニセモノと見分けが付かないな……。

 

 あの後、初春の部屋の中で、彼女に勧められるまま、私は魔術を行使したのだ。

 内容は『神隠しのルーン(Ansuz Gebō)』を2回分。

 初春が『気絶しないためのおまじない』とか言いながら私の頭を両手で押さえ続けたのは、正直意味が分からなかったが。……何かの能力?

 そのおかげかどうかは知らないが、私は意識を保ったまま、魔術の発動に成功した。

 副作用として体のあちこちの血管が切れ、所々出血したし血も吐いたが、初春が上手く処理してくれたおかげで血を撒き散らさずに済み、早急な手当の甲斐もあり傷の痛みは少なく済んだ。

 

 現在、私と初春は『神隠し』状態で気配を断っているので、誰にも気付かれないまま容易に施設への侵入が可能となっている。

 目的は、春上さんの携帯を見付ける事。

 そして、状況によっては、春上さん本人をMAR本部の施設から脱出させ、どこか安全な場所に匿う事も視野に入れている。

 

 初春の見立てでは、やはり春上さんの携帯はテレスティーナがどこかに隠しているらしい。

 なぜそう言い切れるのか。

 それは春上さんが自然公園でポルターガイストに巻き込まれ病院に運ばれるまで、彼女の携帯がどこかに紛失したとは考えられないから。

 あの時、彼女はロングスカートを履いており、出掛ける直前に携帯をスカートのポケットの中に入れているのを初春は見ていた。

 そして、ボートに乗り降りした際も、スカートのポケットから携帯がこぼれ落ちる事が無かったのは確認している。

 それからポルターガイストが起きるまでの間、携帯を取り出したのを一度も見ておらず、さらにはポルターガイスト発生時にすぐに蹲ったおかげで、転ばずに済んだのだ。

 携帯が手元から離れたとするなら、病院に運ばれ、服を脱がされた時しかない。

 その際、患者の持ち物は全て、病院側が預かる事になっているはず。

 紛失したとするなら、テレスティーナが持ち去ったとしか考えられないのだ。

 

 私達が物陰に隠れて侵入のタイミングを伺っていると、テレスティーナが出入口から現れ、慌てた様子で足早に車に乗り込んだ後、走り去っていくのが見えた。

 その直後、隊員達が大勢、駆動鎧(パワードスーツ)に乗り込み、彼女の後に付いて行った。

 

 蛻の殻になったかのように見えるが、油断せず、私達は周囲に気を配りながら、施設への侵入を試みる。

 

「佐天さんは、そこで少しだけ待っててください」

 

 そう言い残し、初春は足早に出入口のそばまで歩を進めた後、電子錠の機械の所に薄型モニタを合わせるとともに、何やらピコピコやっている。

 すると、カチャリという音と同時に、ドアが自動で開いた。

 初春がハンドサインで私を手招きしつつ、中へ足を踏み入れ、私もそれに続く。

 

 …………。

 初春さんや。アンタ風紀委員じゃなかったら、間違いなく『闇』の住人になってたと思うよ。

 

 施設の中に入ると、長い廊下の手前で初春が立ち止まっている。

 私が目配せすると、初春は両手で『バッテン』のマークを作る。

 どうやらこの先は色んなセキュリティがあって面倒臭いらしい。

 

 天井近くに監視カメラがあるので、死角から近付くため、私が初春を肩車する。

 そして、初春が監視カメラから施設全体へのハッキングを行い、全ての監視カメラから私達の姿を見えなくさせるのに成功した。ついでに赤外線センサも切っておくとの事。

 

 ちょうどそのタイミングで、向こうから警備ロボが近付いてきた。

 ……やば! この体勢じゃすぐには逃げられない!

 

 私が慌てふためいていると、上から『ポンポン』と頭を叩かれる。

 落ち着けってことか。

 

 慌てず騒がず、初春をゆっくりと床に下ろした後、私達は柱の陰でじっと息を潜め、警備ロボが通り過ぎるのを待つ。

 そして、警備ロボが初春の前を横切った瞬間、初春が目にも留まらぬ速さでパチパチッと何かを操作したと思ったら、警備ロボが止まり、私達の前で両腕のようなものを広げたまま静止した。

 

 初春のほうを見ると、コクリと頷いたので、促されるまま、警備ロボの上に二人で腰掛ける。

 すると警備ロボは私達が振り落とされないよう両腕を腰に添えた後、(おもむろ)に発進するのだった。

 

 ……『電動の使い魔(アガシオン)』かい。まるで、電子の『魔術師』だな、初春は。

 

 何だか今日の初春は、やけに頼りになるなあ。一体どういう風の吹き回しだろう。

 


 

 施設の見取り図をハッキングで手に入れた初春は、所長室の場所を特定し、そこに忍び込んだ。

 すると、部屋の中が既に何者かにより荒らされ、床には電源の切れたノートパソコンなどの電子機器類が散乱している。

 ……それらの中に、()()()()()()()()()()()()

 

(ここには無いのかな)

 

 そう思い、初春はGPS衛星にハッキングし、春上さんの携帯の位置情報を探る。

 すると、位置情報は『とある高校』を指し示していた。

 それを見た瞬間、初春の表情が一瞬だけ『凍った』ように見えた。

 

 ……初春?

 

 私が心配そうに見守るも、それからずっと初春は無表情で無言のまま、警備ロボに腰掛けつつ、一切の迷いなく、春上さんの病室まで歩みを進めるのだった。

 

 やがて、病室の前に着いた私達はドアを開け、その中に足を踏み入れようとすると、起きていた春上さんと目が合った。

 

「よっ」

 

 私がニカッとさわやかスマイルを浮かべ、手を挙げて挨拶するも、春上さんは初春のほうを見たまま、今にも泣き出しそうな表情で、固まっていた。

 

「……で待って……ださい」

 

 初春の口から、かすかに声が漏れてくる。

 

「え?」

 

 よく聞き取れなかったので、私が聞き返すと……。

 

「佐天さんは……外で待っててください」

 

 ……そう、囁くような声で、ハッキリとした返事があった。

 

 顔は……見れないや。

 その後姿に、『出て行け』と書かれていたから。

 

 これは……今、言うこと聞いとかないと、ソッコーで絶交されそうだなぁ。

 親友として、これほど悲しい事は無いけど……しゃあない。親友として聞いてやるとするか。

 

 そう思い、私は初春の言う通り、一人だけ病室から出て行った。

 


 

 春上衿衣(はるうええりい)の目の前には、無表情の初春飾利がいた。

 その顔には、『隠し事はナシだぞ』と大書されている。

 もはや、その顔は春上の親友の顔では無く、赤の他人の顔だった。

 

 そして、今まさに、自分は値踏みされているのだと、春上は理解した。

 ここで間違えたら、あたしは一生後悔し苦しみ続けるのだと、理解したのだ。

 

「……ごめんなさいなの」

 

 そして、春上衿衣は何もかも正直に白状した。

 


 

「……分かりました」

 

 初春飾利は、()()である春上さんの頭を撫でながら、優しく微笑んでいた。

 

「もういいですよ。……大変でしたね。本当の事を話してくれてありがとうございます」

 

 そして、涙をボロボロと零しながら顔をクシャクシャに歪め、彼女に縋り付く春上さんに向け、努めて安心させる言葉を掛けるのだった。

 

「……それにしても、私をスパイさせるなんて、学園都市のお偉方は何考えてるんでしょうねぇ。私がそんな御大層な人物なわけないじゃないですか」

「え?」

 

「だって、私は風紀委員ですけど、ただの中学生ですよ? 能力だって低能力(レベル1)ですし」

「……私も、そう思うの」

 

「だから春上さんは何の心配も要りません。後の事は全部、どーんと私に任せちゃってください」

「……分かったの」

 

 そうして、ようやく安堵の表情となった春上さんに、初春はニカッとさわやかスマイルを浮かべて見せる。

 

 病室のドアの向こうから、かすかに啜り泣く声が漏れ聞こえてきた。

 


 

 結局、春上さんの携帯は見付からなかったものの、何やら大きな問題をクリアしたらしく、初春は何かをやり遂げたような満足顔で、私と一緒にMAR本部を後にし、帰路に就くのだった。

 

 はぁ……。

 でも結局、春上さんに枝先さんの居場所が見付かった事を伝える事だけはできたものの、肝心の居場所を教えるとか、春上さんを研究施設から逃して匿うとか、そういう具体的な行動は先送りにしちゃってるなあ。(一応、安全な場所にいると伝えた事で、不安を払拭する事はできたが)

 折角、ああまでして侵入なんかしたのに、これじゃ骨折り損じゃなかろうか。

 っていうか、結局、春上さんの携帯はどこに行ったんだろう?

 テレスティーナの部屋が荒らされたって事は、誰かが盗んだのかな。

 そういえば、初春は何か調べてたみたいだけど、それについては何も教えてくれてないし。

 血まで流したのに、あたしは何も分からないまま置いてけぼりですか。

 

 ……あ。

 

「ねえ初春」

「何ですか? 佐天さん」

 

「今回あたし出血大サービスしたんだから、レンジと炊飯器買ってー!」

「……まだ買ってなかったんですか? 前に御坂さんに買って貰うとか言ってましたけど」

 

「え、じゃあ初春はもう買い替えたの?」

「私はとっくに自腹で買いましたよ。ご飯無し生活なんて考えられませんからね」

「はあ。さいですか」

 

「って、佐天さんは一体何食べて生きてるんですか?」

「んー。素麺とめんつゆ」

「……他には?」

 

饂飩(うどん)とめんつゆ」

「…………」

 

「後、お蕎麦(そば)とめんつゆ」

 

「……佐天さん」

「何?」

 

「佐天さんは一度、食生活について見直すべきです。っていうか、塩分摂り過ぎですってば!」

「ええー? めんつゆは減塩使ってるし、最後まで飲み干したりせずに、キチンと捨ててるよ」

 

「そういう問題じゃありません! たとえご飯無しの麺のみ生活でも、いくらでも栄養バランスはコントロールできます! 元々料理上手な佐天さんが、一体どうしちゃったんですか!?」

「いやぁ~。一度楽なほうに流れると、もう戻れなくなっちゃうんだよねぇ~」

 

「……じゃあ、レンジと炊飯器、私が買いますから、佐天さんは料理上手に戻ってください!」

「ええ? いいの? ありがとー初春ぅー! じゃあできるだけ早いうちに買っちゃおう!」

 

 よっし。何かよく分からないけど、作戦成功!

 

 私が心の中でガッツポーズをしていると、初春は何やら思い付いた様子で。

 

「あ、じゃあ……春上さんが帰ってくるまでの間、佐天さん、一緒に住みましょう!」

 

 !?

 ええ……?

 

「それがいいです! そうしましょう! それが条件です!」

 

 うわぁ……何だか面倒臭い事に……。

 


 

 初春の寮まで結構遠かったので、私達は途中にあるファミレスで遅めの晩御飯を済ませた。

 そして、初春はやり残した用事があるため、すぐに戻ると言い残し休憩スペースまで行き、私はその間、席に残って時間を潰す。

 

 はぁ……。

 今日は色々あり過ぎて、思い出すのも面倒だなぁ。

 えーと。何がどうなったんだっけ?

 

 春上さんは置き去り(チャイルドエラー)で、同じ施設に枝先さんという友達がいて、長い間離れ離れになっていた。

 枝先さんは学園都市の偉い研究者が主導する人体実験の犠牲となり、今なお植物状態のまま。

 その実験の片棒を担がされ、子供達の先生をやっていたのが木山春生(きやまはるみ)

 木山は幻想御手をバラ撒く事で学生達の脳を並列コンピュータに作り替え、子供達を救う手段を予測演算で導き出そうとしていたが失敗した。

 そして、いつの間にか木山は保釈され行方不明。

 子供達はあちこちの病院を転々とした後、同じく行方不明となっており、居場所を知るのは木山だけだった。

 

 そして、枝先さんが、たぶん無意識だろうけど、春上さんに干渉する事で、ポルターガイストを引き起こしていた。

 彼女のAIM拡散力場を、あたし達がニオイで探り当てる事で、その居場所を突き止めた。

 

 一方で、テレスティーナは幻想御手使用者を使い『新たな幻想御手』を作ろうとしている疑いが濃厚で、なおかつ春上さんの携帯を隠し持っていた疑いもある。ただし、携帯は誰かに盗まれた。

 

 後は、春上さんは誰かの命令で初春を監視するスパイだった。

 ……らしいけど、この辺の話はサッパリ分からない。

 ただ、もうスパイ辞めるって言って大泣きしてたから、大丈夫だろう。

 

 何で初春が監視されるのか、ホントにサッパリなんだが。

 あたしが監視されるっていうなら、心当たりありまくりですよ?

 でも、初春が何やったって言うんだろ。

 あたしに関する事なら、記憶を改竄するなり隠蔽すれば済む事だし。

 ……考えれば考えるほど、ドツボに嵌る気がするので、これくらいにしとくか。

 

 まあ。こんな感じだろう。

 

 おっ。初春戻ってきた。

 遅いぞー。初春ぅー。

 待ち草臥れ過ぎて、あたしの首が長くなっちゃって、ろくろ首になっちゃうぞー。

 

 それから程なく、私達はファミレスを出て、初春の寮へ帰るのだった。

 


 

『お掛けになった電話は……えーと、何だっけ。電波の届かない場所……って、確か圏外だっけ。……まあ、繋がらないのは一緒だし、理由なんて別にどうでもいいけど』

 

「…………」

 

『貴様もそう思うだろ? 花飾りの少女よ』

 

「……どういうつもりか知りませんけど」

 

『ん?』

 

「私の友人の携帯を返してください」

 

『まあ、あの女に隠されていたのを取り返しただけだし、後でキチンと返すつもりだけど』

 

「それと……()()()()()()()理由で私を“監視”させるとか、そういうのも止めてください」

 

『おや、何だいその言い草は。しらばっくれても無駄なんだけど』

 

「私に変な言いがかりを付けるのまでは、まあいいです。……いや、全然良くないですけど」

 

『言いがかり……ねぇ。()()()()()を貴様が知ってる時点で、()()()()()()()んだけど』

 

「私が一番怒ってるのは、春上さんに……私の()()に、こんな真似させて()()()()事です」

 

『ああそうかい。まあ、貴様を()()()()()()()()()ために、()()()()()()やったんだけど』

 

「……ッ!」

 

『私に怒りを向けるよりも、()()()()()に踏み込んだ貴様自身の愚かさに怒りを向けつつ、大人しく引き返して、こんなじゃない世界に帰る事を望むほうが賢明だと思うんだけど』

 

「…………」

 


 

「……じゃあ、貴様はもう()()()()()()って事で。これから貴様を夢から醒めさせる『案内人(スリーパー)』をそちらに向かわせるから、それまでの間『最後の夢のひととき』を味わう事をおすすめするけど」

 

 そう捨て台詞を残し、初春の電話相手は一方的に通話を切る。

 

「さて。早速、土御門(つちみかど)に電話するか」

 

 そして、片手に持った携帯とは別の携帯をポケットから出し、そこから電話を掛ける。

 

『お掛けになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため掛かりません』

 

 が、繋がらない。

 

「……!? アイツ、仕事中か? いや……いつでも連絡取れるように待機してたはずだけど」

 

 念のため、もう一度電話を掛け直してみるも、結果は同じだった。

 

「……ッ。あまり痕跡は残したくないけど、ショートメールでも送るしかないか」

 

 そう面倒臭そうにボヤきつつ、片手で素早い動きでメールを打ち、送信ボタンを押す──が。

 

『ピ────────ガガガガガガガ────────』

 

 突如、彼女の携帯から謎の音が鳴り響くとともに、操作を受け付けなくなる。

 

「うぉッ!? 何だ……これ……?」

 

 ギョッとした彼女は、操作している携帯とは別の(先程まで初春と話していた)携帯をポロリと手から落としてしまう。

 

『────キィィィィィン────』

 

 やがて、謎の音は不快なノイズへと変わり──。

 

「う……頭、が……割れ、る……何が……起き、て……!?」

 

 ────。

 


 

 とある高校のAV室。

 そこには、大小様々なモニタやらスクリーンが並び、ランダムな光を明滅させ続け、スピーカーからはモスキート音かノイズのような、異様かつ多種多様な音が重なり合い共鳴し、部屋の中央で倒れている一人のカチューシャの女子高校生の脳を揺らし続けていた。

 

「あ……? 何が……」

 

『……オ、マエ……ハ、ワ・タ、シ……ヲ、オコ……ラ・セス、ギ・タ』

 

「何を……言って……?」

 

『モ・ウ……ニド、ト。ワタ……シ・ト、ワ・タ、シ・ノ……ト・モダ・チ、ニ、テ・ヲ……ダ、ス・ナ』

 

「くっ……ふふ……こん、な……真似を……しても、無駄だ……けど」

 

『コレ・ヨ、リ……オ・マエ、ノ……ニ、ンシ・キ……ヲ、カ・キカ……エ・ル』

 

「……何?」

 

『オ・マエ、ト……“ウイハル(ザザザザ)カザリ(ザザザ)”、ハ……ナ・ニモ、カ……ン・ケ、イナ……イ』

 

『──“Septentrio(セプテントリオ)”起動。これより、“雲川芹亜(くもかわせりあ)”の記憶および所有する電子情報から“初春飾利(ザザザザザザザ)”に関する()()()()を全消去するとともに、関係性を“見ず知らずの他人”に再設定します──』

 

「!! ……貴様、何を……!?」

 

『ナ・ン、ニモ……ナイ……ナ、ン・ニモ、ナ……イ』

 

──ブゥゥゥゥゥゥゥン──

──ブゥゥゥゥゥゥゥン──

──ブゥゥゥゥゥゥゥン──

 

「……ッッ!?!?!?」

 

『──情報操作完了しました。記憶チェック……OK。“Septentrio”を正常終了します──』

 

「…………」

 

 意識を朦朧とさせ、虚脱状態となり動かなくなったまま床に伏せっている雲川芹亜のそばには、春上衿衣から盗まれた携帯電話が転がっていた。

 そこに、教室のドアを開けて入ってきた警備ロボットが近寄り、転がっている携帯を拾い上げた後、そばで倒れている雲川を無視する形で、そそくさと教室から出て行ったのだった。

 


 

行間

 

 セプテントリオ(Septentrio):

 『ボレアース(Boreas)』の別名。北斗七星(Septem Triones)に由来。

 

 ボレアース(Boreas):

 冬を運んでくる冷たい北風の神。ギリシャ神話における風の神(アネモイ(Anemoi))の一柱。

 名前の意味は、『北風』あるいは『貪り尽くす者』。非常に強力かつ粗暴な神。

 

 情報操作システム『Septentrio(セプテントリオ)』:

 初春飾利の『最終兵器』。彼女を本気で怒らせた人間が持つ『悪性の情報』を『殺し尽くす』。

 それは脳の記憶だけに留まらず、電子情報も含まれる。

 自己防衛システム『Zephyr(ゼファー)』が専守防衛であるのに対し、攻撃性に重きを置く。

 つまりは『攻性防壁』と呼べる凶悪極まりないシステム。

 


 

 ──ピッ。

 

「はぁ……」

 

 いけませんねぇ。駄目ですよ。全く。

 私を上手く()()()()()つもりになって油断するから、こうなるんですよ。

 相手を()()()()()()()()()()算段を整えてもいないうちに、私がこうやって自分から動く訳ないじゃないですか。

 この程度の事、少し考えれば簡単に分かると思ったんですが、『暗部』が聞いて呆れます。

 まあ、『好普性(こうふせい)』程度を暗部の基準にするのは、舐めてると怒られそうですが。

 

 さて、と。

 残るは、あの金髪サングラスのお兄さん──土御門元春(つちみかどもとはる)さんですか。

 あの『魔術師』は非科学(オカルト)の力で何でもありみたいですから、厄介かもですね。

 雲川芹亜(カチューシャ)のほうは一応無傷のまま『無害化』しただけなので、仕留めた事自体、気付かれる事は無さそうですが……。

 彼女と違い、金髪お兄さんのほうは『上』と直接繋がってるみたいですし、外部の宗教団体とも繋がりがあるっぽいので、下手な手出しは危険ですね。

 

 なので、当分は()()()()()()()しかなさそうです。

 中々にしんどいですね。自分で自分を『ただのか弱い女子中学生』の殻に押し込め続けるのは。

 本当はもっと伸び伸びと生きていたいのに。

 まあ、本当にただのか弱い女子中学生なんですけどね。

 ただ人より()()()()()()情報処理が得意なだけの。

 


 

行間

 

 フリードリヒ=ニーチェ(Friedrich Nietzsche)著『善悪の彼岸(Jenseits von Guts und Böse)』第146節(第4章第84節)より引用──

 

怪物と闘う者は、(Wer mit Ungeheuern kämpft,)その過程で(mag zusehn,)自らが怪物と化さぬよう心せよ。(dass er nicht dabei zum Ungeheuer wird.)

お前が長く深淵を覗くならば、(Und wenn du lange in einen Abgrund blickst,)深淵もまた等しくお前を見返すのだ。(blickt der Abgrund auch in dich hinein.)

 


 

 佐天と初春が寮の二段ベッドで仲良く寝静まっている頃、『先進教育局』の廃ビルに突如電気が煌々と灯り出す。

 

 先進教育局──かつて置き去り(チャイルドエラー)を使った人体実験を主導していた科学者・木原幻生(きはらげんせい)が所有する『木原研究所』と、木山春生(きやまはるみ)置き去り(チャイルドエラー)を教えていた学校を運営していた『特殊学問法人RFO』があった場所である。

 

 それから程なく、ビルの駐車場に停めてあった青のランボルギーニ・ガヤルドに、灰色スーツ姿の茶色い長髪の女性と、何やらサイケデリックな服装でカエルのお面を被った怪しげな茶髪少女の二人連れが乗り込み、どこかへ走り出すのだった。

 

 そしてそれを一台の車が追尾し、そこからかなり距離を空け、沢山の駆動鎧が列を成して続き、やがて最後尾には、『MAR』と書かれたトレーラーが数台続く。

 

 やがて、青のランボルギーニは『水穂機構病院』の救急用入口のそばで停まり、中から出てきた二人連れが病院の中へ入って行く。

 そのすぐ後に、尾行していたもう一台の車から金髪メガネの女性が出てきて、さらに後から付いてきた駆動鎧数体を伴い、病院の建物の中へ押し入るのだった。

 

 しばらくすると最後尾を走っていたトレーラー数台が病院の建物に横付けする形で停車し、それとタイミングを合わせるかのように、救急車が乗り入れる場所に面したドアから10台程のベッドが駆動鎧により運ばれてきて、トレーラーに運び込まれる。

 それらのベッドには、眠ったままの子供達が横たわっていた。

 

 トレーラーと駆動鎧、そして金髪メガネ女性が乗る車が走り去った後、人気が無くなった病院の入口前で、場の雰囲気にそぐわないチグハグな格好をした茶髪少女が、見送るような形で一人立ち尽くしていた。

 

「これは……マズい事になった」

 

 その一部始終を遠巻きに眺めていた金髪サングラス少年は、いつになく真剣な口調で独り言つ。

 そして、どこかに電話を掛けるも通じない。

 

雲川(アイツ)……寝てるのか? 全く余計な事を……間が悪い事この上ないぜい、第三位」

 


 

 翌朝、私、佐天涙子と初春は風紀委員の支部で、御坂さんから話を聞いた。

 

 木山春生が子供達を治療するためのプログラムを組んでいた事。

 子供達は実験の後遺症で『眠れる暴走能力者』になっており、覚醒に近付く度に、春上さんなどの他の能力者へ干渉する事でポルターガイストの原因になっていた事。

 このまま治療が上手く行かない場合、木山は子供達を暴走させてでも目覚めさせるつもりだった事など。

 

 現在、子供達はテレスティーナの所で保護され、MARの最新設備で治療を受ける予定らしい。

 

 ……これで良かったのだろうか。

 あたしや初春が懸念したテレスティーナの人体実験疑惑についても、未だ確証が掴めない疑惑の域を出ないものだし。

 危なっかしい木山の手を離れ、子供達が救われるというなら、結果オーライなのかな……?

 そりゃあ木山からすれば、これまで何年も掛けて必死に助けようとしていた子供達が、あと少しという所で他の人に掻っ攫われるのは憤懣やる方ないとは思うけど……。

 

 私がそんな風に考え込んでいると不意に、初春が私の手を引っ張りながら立ち上がり、そのまま出口へ歩き出そうとする。

 

「ん? ……初春?」

 

 なので、私が呼び掛けると。

 

「え? 何ですか? 佐天さん」

 

 初春はキョトンとした顔で私のほうを見る。

 え……だって、あたしの手を引っ張ってるの初春じゃん。

 

「! あれ……何で私……?」

 

 ようやく気付いたのか、初春は私の手を掴んでいる自分の手を見て、困惑している。

 どうやら、自分でも気付かないうちに、無意識的に私の手を掴んだらしい。

 

 何だかよく分からないけど、初春はあたしに付いて来て欲しいのかな。

 

 私がそう考え、仕方ないなあと言った感じの顔を向けると初春は察したのか、そのまま私の手を引きながら一緒に出口から出て行く。

 

 そして、私は初春に導かれるまま後に付いて行き。

 

「そういえば、初春ー」

「何ですか? 佐天さん」

「結局、春上さんの携帯ってテレスティーナが隠してたのかな? ……つっても、部屋が荒らされたんじゃあ隠してたのかどうかも分からずじまいだよねぇ」

 

 そう何の気無しに、思い出した事を質問する。

 

「……え、何の事ですか?」

 

 だが、ここでまたしても初春の様子が変だ。

 特にしらばっくれてる感じもしないし、()()からの反応だろうけど。

 そもそも私に隠し事なんかする意味も無いし。

 

「昨日の夜遅く、MARの研究所で春上さんの携帯探したじゃん」

 

 ここでもうひと押ししてみる。すると……。

 

「佐天さん……夜遅くにMARの研究所に行ったんですか? また勝手に動いて懲りないですねぇ」

 

 初春はまるで()()()のように解釈し、私に対してジト目を向ける。

 

 あれぇ~?

 

 ……いや。これは『記憶操作』か?

 初春が何か『見てはいけないもの』を見たせいで、また記憶を改竄されたのか。

 『魔術』絡みではないし……。

 もしかして、春上さんが上層部の命令で初春を監視してた事が禁忌(タブー)だったのか。

 

 ……どうする?

 

 いや。今回ばかりは()()()()()()()()()()()()

 一緒に危ない橋を渡ったんだ。

 あたしだけ覚えてて、初春が忘れてるなんて、危なっかしい事この上無い。

 初春は自分が危険を冒した事を覚えておくべきだ。それが初春のためだから。

 

「……初春ッ!!」

 

 私は初春を強い口調で呼び止める。

 その声に、初春は体をビクッと震わせつつ、立ち止まった。

 

「な、何ですか? 佐天さん……ビックリさせないでくださいよ」

 

 恐る恐るこちらを振り向く初春の顔をジッと見ながら、私は考える。

 

 ……どこだ? どこにある?

 『何』が初春から記憶を奪った?

 魔術か? 能力か? ……それとも、純粋な科学(ゲテモノ)か?

 

 ニオイは……記憶操作なんて『高度で複雑な異能』を使ったのなら、『残り香』があるはず。

 

 残り香は……どこにも()()

 じゃあ、後は……科学(ゲテモノ)か!

 

 ただし、『催眠術』みたいな『奇術サイド』なら、あたしはお手上げだ。

 そうでなければ……!

 

 唐突に、私は全身の力を抜いた後、深呼吸をし、初春の顔を見詰める。

 そして、初春が掴んでいた手を振り解いた後、私は──。

 

「う~い~は~る~ん!」

 

 バサァァァ……!

 

 ──初春のスカートを捲った。

 

「……キャアアアアアア!!」

 

 一拍遅れて、初春が悲鳴を上げた瞬間を狙い、私は初春の頭の髪飾りを上に持ち上げる。

 

「アア……!? え……?」

 

 そして、初春の顔色の『変化』を注意深く観察し、何となく()()()のだった。

 

()()()()、初春。よく眠れた?」

 

 私はいつもと変わらぬ笑みを浮かべ、()()()()()()()()()()()()()に挨拶する。

 いや……朝起きたばかりの時は髪飾りを着けてなかったから、()()()()か。

 髪飾りのほうは、目を凝らして注意深く観察すると、カチューシャ部分に機械部品が取り付けられているのが分かった。どうやら、これで脳をコントロール()()()()()のだろう。

 

 いや、でも何か引っ掛かる。

 いつも着けている髪飾りにこんな機械が組み込まれているなんて、着けている本人に分からないはずが無い。普通は着ける前に自分で気付くはず。

 つまり……()()()()()()()()()()()()

 

「…………」

 

 初春は顔面蒼白のまま微動だにせず、一言も発しない。

 まるで、今までウソを吐いていた事がバレた子供が、親に叱られるのを怯えているようだった。

 

「……まあいいや。後で話そうか」

 

 そう()()()()、私は初春の頭に髪飾りを付け直す事で、()()()()()()()()

 すると、たった今起こった出来事を()()()かのように、初春は『さっきまでの初春』に戻り。

 

「佐天さんッ! こんな所でスカート捲らないでくださいよ!」

 

 スカートを捲られた事を思い出し、それを手で押さえつつ、顔を真っ赤にするのだった。

 

 そうか……。

 初春は、自分で自分の身を守るため、()()()()()()わざわざ『無知を演じていた』のだろう。

 たぶん、あたしのせいで。

 

 頭のいい初春の事だ。

 おそらく『知らなくていい』事まで自分で調べて知ってしまったせいで、学園都市の上層部から目を付けられそうになり、あるいは、既に目を付けられ、慌てて身を隠す必要に迫られた。

 だから、こんな機械(ゲテモノ)を頭に着けてまで、自分自身の記憶を『偽装』してたのだろう。

 

 そんな事を続けてたら、遠からず、()()()()()()()()んじゃないか。

 あたしはそんなの認められないし、これを知ってしまった以上は、止めさせなきゃいけない。

 ……だから、後でキチンと腹を割って話そう。

 初春は恐らく、あたしの秘密も『魔術』の事も、本当は()()()()()()()に違いない。

 もう、お互い隠し事はナシだ。

 

 私は無言のまま思索に耽りつつも、初春を宥めるようにギュッと抱き寄せる。

 

「!? ……ちょ、佐天さん! こんな所で何するんですか! 周りに人いますから!」

 

 それまで赤面していた初春は、そんな私の突飛な行動に対し、さらに顔を赤くするのだった。

 


 

 木山春生は、水穂機構病院の地下にある蛻の殻となった区画で、一人打ちひしがれていた。

 守りたかった子供達を人体実験で寝たきりにされ、さらには救おうとしていた子供達を無情にも手元から引き離された事で、()()()失ったのだ。落ち込むなというのは土台無理な話だろう。

 

 そこに……金髪サングラスの少年が現れた。

 

「お前さん、そんな所で貝みたいに縮こまってる場合じゃないぜよ」

「……誰だ、キミは」

 

 見ず知らずの金髪少年の呼び掛けに対し、木山は怪訝に思ったのか伏せていた顔を上げ、少年のほうに視線を向けたのち、誰何する。

 

「俺は誰でもいいですたい。それよりも、テレスティーナが()なのかが大事だぜい」

「……?」

 

「テレスティーナ……()()=ライフライン。それが、あの女の()()ぜよ」

「……!!!」

 

 そして、少年から告げられた『衝撃的過ぎる』事実に対し、木山は信じられないといった表情で目を見開くのだった。

 


 

 時を同じくして、風紀委員第177支部では騒ぎが起きていた。

 固法先輩が調べた情報の中にテレスティーナの素性が含まれていた事で、彼女が()()()()()()()だと発覚したためだ。

 

 それからしばらくして、木山春生の姿すら消えた水穂機構病院の地下区画で、佐天と初春が途方に暮れている最中、白井から初春に電話が掛かってきた。

 

『大変ですの!! 春上さんと子供達の姿が、MAR本部で見当たりませんの!!』

 

『……それと、お姉様が!!!』

 




解説1:
 雲川芹亜と土御門元春には、彼らなりの正義がある。

解説2:
 『好普性(こうふせい)』と『嫌普性(けんぷせい)』の違いについて。
 原作の創約3巻に登場。
 学園都市の暗部を『比較的良心的な善玉(ハナシのつうじるニンゲン)』と『意思疎通不可能な悪玉(ハナシがつうじないバケモノ)』に分類する際の造語。
 ただし、これらの区別を重視せず、暗部全てを悪として切り捨てる向きもある。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。