とある佐天の裏技遊戯(ニューゲーム) 作:RB_Broader
私、
御坂さんが……
話を聞いた限りでは、テレスティーナの正体が露見し、子供達が危険な状況だと分かった途端、御坂さんは責任を感じたのか、電光石火の如く飛び出して行ったらしい。
ただ、この場合、御坂さんが暴走し過ぎる事で、テレスティーナの命の心配のほうが先に来る。
にも関わらず、予想に反し、このような結果となった訳だ。
彼女を助け出した同級生の
超能力者の御坂さんが、マトモな勝負で負けるなんて考えられないので、何か罠に嵌められでもしたのだろう。
おそらくは、能力者を制圧可能なレベルの
まず、御坂さん本人からは魔術の残り香は全く感じられないし、AIM拡散力場のほうも、本人の
傷の状況から、全身に打撲と擦過傷、首元に絞められた跡が認められるため、パワードスーツによって物理的に捻じ伏せられたと考えられる。
でも、電撃を使える御坂さんが機械で強化してるとはいえ人間の研究者、おそらく
もし、木山みたいに『
残りの可能性は……。
そんな事を考え込んでいると、御坂さんが目を覚ました。
「……ッ。あの女……!!」
そして、歯噛みし、自分を負かした相手と思われるテレスティーナに対する怨嗟の言葉を吐きながら、心配する周囲が目に入っていないのか、覚束ない足取りで立ち上がり病室を出ようとする。
途中、
──駄目だ。
この分だと、何度
そう思った私は、通り道を塞ぐように壁に手を突いて、御坂さんの前に立つ。
「……佐天さん?」
「御坂さん。今、
私はそう御坂さんに問いかける。
こんな質問にも答えられないんじゃ、友達どころか敵すらも……いや、自分自身すら見えないという事だ。そんなんじゃ、勝てる相手にすら勝てないだろう。
御坂さんは超能力者で、大抵の荒事は一人で片付けられる。
仲間の助けなんて要らないくらい、
だから、あたし達が『苦楽をともに分かち合おう』と呼び掛けたところで、口先だけの綺麗事、あるいは慰めにしかならない。
それならそれで構わない。
ただ、あくまで一人で戦うのであれば、こんな形で負けるなんて二度と許されないと思う。
常勝のためには、石橋を叩いて渡るくらいの慎重さと、常に最悪の可能性まで考える想像力と、敵を知り
そんな見っともない格好のまま、敵の目の前まで素通りさせる訳にはいかないでしょうが!
「ごめん……あたし、また……見えなくなってた。皆に迷惑掛けて……」
そして、答に気付いたのか、御坂さんは目元を押さえ、反省の言葉を漏らす。
そんな御坂さんに対し──。
「迷惑なんかじゃないです。……でも、離れて心配するくらいなら、一緒に苦労したいんです。だって……それが友達じゃないですか」
──私はこう返す。
口先だけの綺麗事だろうが構うものか。
御坂さんだって人間なんだから、力だけで生きられるはずがない。
『孤高』と『孤独』は違う。
御坂さんには孤高が似合うけど、誰にも苦労を分かち合って貰えないんじゃ、いつか孤独に押し潰されてしまうだろう。
そうならないためにも、友達として、せめてこれくらいは言わせて欲しい。
だって、それすら言えないんじゃ、友達
私、佐天涙子と初春飾利、白井さんと御坂さん……ついでに婚后さんを含む五人は、
なので、私は言ってやった。
「インデックスちゃんを助けた時も、あたしと
『……佐天! お前……またトラブルに首突っ込んでるのか』
「
『……ッ』
禁書目録の件で事件の中心に居合わせる事ができなかったのは、どうやら未だにコンプレックスらしく、それに加え、子供達が危険だと煽った事で、黄泉川先生は歯噛みする羽目になる。
よし。効いてる。
『……少し、時間をくれ』
そして、黄泉川先生が動いた。
結構危ない橋だったが、どうやら渡れたようだ。これで警備員が味方に付いた。
そもそも
おまけに相手はMARという一組織、それも多数の駆動鎧を動かせる『
超能力者がいるとはいえ、風紀委員だけじゃどうしても心許ない。
「警備員から監視衛星のデータが来ました!」
ここで、初春も動く。
「……MARのトレーラーは、都市高速5号線、十八学区第3インターチェンジを通過した所です」
どうやら、5号線からは第十七学区に繋がっており、そこには
さらに、トレーラーの後ろを追尾している青い外車の車種が、
彼女も既に動いてるという事か。
「……ったく、一人で行っちゃうなんて、
とは、御坂さんの
……案外似た者同士だったりして。
軽い昼食を済ませた後、私達はMARのトレーラーを追うため、装備を整え出発の準備をする。
私は野球のヘルメットを被り、愛用の金属バット『ゲイ・ボルグ』を振るう。
そしていざと言う時のため、サインペンと何枚かのテレズマ・カードをポケットに入れておく。
それ以外にも
固法先輩は赤のジャケットに身を包み、愛用のバイク『KAWASAKI Z750 FX-1』に跨り、後ろに私と初春が同乗する。
御坂さんと白井さんは能力を使って移動するので、乗り物は必要ないらしい。
移動に使える能力って便利だなあ。
……さて。
行きますか!
木山春生が追い掛けていたMARのトレーラー数台は囮だった。
本当の目的地から目を逸らさせると同時に、木山を確実に『仕留める』ため、テレスティーナが仕掛けた罠だったのだ。
上手い具合に誘い込み、車の前方を塞いだトレーラーの中から多数の駆動鎧が一斉に飛び出そうとした矢先、上空から
「……ったく、何が楽しいのか知らないけど」
「手の込んだ
呆れた様子で、溜息を吐く御坂と白井。
車から降り、御坂と白井に対し目的を問う木山だったが、そこに、固法と初春と佐天がバイクで駆けつける。
「木山先生! この車は囮です!」
「子供達は乗ってません!」
初春と私は、木山先生に事情を伝えた後、有無を言わさず、彼女の車に無理やり同乗する。
青のランボルギーニ・ガヤルドは外車だから左ハンドルだと思ってたが正解だった。
しかも2ドアのスポーツタイプなので、後部座席が無いと予想してたが、これも当たり。
まあ、初春は前にも(人質として)乗った事があるらしいから、『勝手知ったる』だけど。
私と初春は即座に右側の助手席に直行し、上背のある私の膝の上に、体が小さい初春が乗る。
……ってか、狭くて、初春、
ショルダーバッグは入り切らないので肩紐を持ったまま後部の狭いスペースに放り込む。
「……乗ってください! 私がナビします!」
「急いで! ……子供達を助けるんでしょ!?」
そして、呆気に取られる木山先生を急かすように私達が呼び掛け、御坂さんが頷いてみせる。
意を決した顔となった木山先生は運転席に乗り込み、車を発進させ、その場から走り去る。
「──さっきの部隊が出発した少し後、民間を装った輸送車が2台、MAR本部から出ていたのが、警備員の監視衛星で目撃されていました」
初春はその事に気付き、木山が追っていたMARのトレーラーが囮であるのを見抜いたのだ。
本命は、第二十三学区にある(今は使われていない)『推進システム研究所』。
既に子供達はそこに運び込まれたらしい。
それでも本命のほうに直行しなかったのは、木山を助けるため。仮に子供達を救い出せたとしても、木山が助からなければ意味が無いというのが私達の総意だった。
そして、私達が乗っている木山先生の車は、分岐を左折し、第二十三学区へ向かう。
後ろには、御坂さんを同乗させた固法先輩のバイクが付いて来ている。
「……! 掴まって!」
ここで、固法先輩が何かを察知したのか、御坂さんに注意を促した。
直後──。
キュドンッッ!!
何と……バイクとスレスレの場所、アスファルトの路面から
『ブッ殺し甲斐がねェモンなァーーー!!』
ゴバァァァッッ!!!
乱暴な口調の女の声が、轟音とともに、辺り一帯に響き渡った。
……って。
この声、テレスティーナ!?
あの清楚で落ち着いた感じの人が、本性出した途端、キャラ変わり過ぎでしょ!!
まるで、あの
あー……ビックリした。
バックミラーを一瞥すると、巨大な物体に
バイク事故って結構馬鹿にできないからね。
着地失敗による転倒事故で内臓破裂とかしたら目も当てられない。
ガンッ!
ヒェッ……!!
ルーフに何か当たった? アスファルトの破片でも飛んできたのかな。
『おーらおらァ! 命懸けで逃げねェとォ……ペシャンコになっちまうぞォーー!!』
ヒャァァァァ……怖い魔女だ……帰りてぇ~~~!!
あの黄色い巨大なロボに乗ってるの、絶対
あんなのとどうやって戦えってのさ。
……って、
まずは、恐怖と
『観察』……そして『傾向と対策』、『作戦』、『行動』の順番だ。
バックミラー越しに見てみると、巨大ロボは二本足で道路に着地しているのが分かる。
重量のせいで路面が砕け、両足が沈み込んでいるが、
……という事は、
もしあのデカブツが両足を器用に動かし、人間同様に走れるのなら、
つまり、
あれを潰せば、機動力がほぼゼロになると見て間違いないだろう。
まあ、チューブレスタイヤだったらパンク狙いは無意味だろうけど、傷付けるなり凹ませるなりして、まともに走れなくすれば同じ事だ。
それに、衝撃吸収性から見れば、チューブレスは最悪に近い。
むしろ空気が入っているほうが、荷重でパンクするリスクを差し引いてさえマシと言える。
……と、私が考察していると、窓からトントンと叩く音が聞こえる。
外を見ると、御坂さんが上から逆さになってぶら下がったまま、車の窓に張り付いていた。
いつの間に車の上に飛び乗ってたのか。……って、固法先輩のバイクが飛ばされてからか。
いきなりそんな登場の仕方をされても、パニック映画か心霊番組みたいで心臓に悪いですよ。
どうやって車に張り付いてるんだろう。……磁力?
とりあえず、御坂さんが窓を開けて欲しそうだったので、パワーウインドウを開ける。
すると、何か木山先生に謝り始めた。
いや……今、そういうのはいいんで。後にしてくれませんか?
まずは、後ろから追い掛けてきてる恐怖の巨大ロボ人攫い魔女おばさんを退けないと。
相手のほうだって、こちらが会話してるのを親切に待ってくれるとは限らないし。
「失敗の埋め合わせは……ここで……するから!!!」
車の上で御坂さんが吼えると同時に、巨大な『電撃の槍』が後ろへ放たれる。
ひゃぁぁ……相変わらず凄いッスね。超能力。
さて、あたしも『失敗の埋め合わせ』にお付き合いしましょうか、ね!
そもそも失敗ってんなら、御坂さんより先に子供達の居場所を見付けておきながら、別の場所に移動させようともせず、そればかりかテレスティーナの本性に薄々気付いてたのに、確証が持てないからと
『ギャーーーッハッハッハッハ!!! こんなモン効くと思ってンのかァ~~~!?』
って、この魔女おばさん
どういう訳か御坂さんの電撃が効いてないみたいだし、キモい上に強敵かよ!
ここで私が嗅覚を利かせると、御坂さんのAIM拡散力場のニオイが強まっているのが分かる。
……必殺技を出すか?
その直後、閃光の槍が直線を描いて後ろのほうに飛んでいくのが見えたものの、巨大ロボが急減速した途端、その手前で閃光が掻き消えるのだった。
これって、『超電磁砲』だよね? まさか……!
『分かってンだよォ……てめェの
そう絶望的な答えを返す人攫い魔女は間髪を容れず、巨大なアームをロケットパンチさながらに撃ち出してきた。
……マジ?
色々とロマン詰め込み過ぎでしょ!
どうなってんの!? あのき×しゃん魔女おばさん!!
ここで木山先生がハンドルを左に切る事で、辛うじてロケットパンチを避けるのに成功。
今回ばかりは、御坂さん一人だけだと流石に厳しいか。
そして、私達の車が次の分岐を左折した直後、黄泉川先生から通信が入る。
どうやら、この先はテレスティーナの部下が待ち構えていたらしく、それを警備員が阻止してくれているらしい。
……ふう。命拾いした。サンキュー、黄泉川先生!
さて。ここからはあたしのターンだ!
『……ッ。役立たずのゴミどもが。だったら自分でやってやるゥ!!』
そうはさせない!
「初春!
私は一言だけ初春に伝え、動き出す。
「あ、……はい!」
初春が慌てた様子で頷く。
そして私は、後ろからショルダーバッグを引っ張り出し、窓から半分身を乗り出した後、バッグをそのまま
それ、高かったけど、子供達の命に比べれば安いもんだよ!
すかさず、半身を引っ込めた私の頭を初春が両手で掴み、
そして──。
「──
……ボッッ!!
私が
その紙吹雪の一片一片には、判読困難なレベルの
『松明』または『炎』という意味を持つ『ルーン文字』──『
炎剣の魔術師ステイル=マグヌスが使う炎の術式を始め、発破の術式など、火を扱う術式に多用される文字である。
それらが紙吹雪に細かく刻まれているのだ。
なお、ショルダーバッグの表面にもサインペンで同じ文字が書かれ、術式発動と同時に消し飛ぶように仕掛けが組まれていた。
私は風紀委員の支部から出発する直前、固法先輩に頼み込んで、使用済のA4コピー用紙を100枚程貰い、裏面に『Kēnaz』の記号を最小フォントサイズでビッシリと印刷した後、シュレッダーに掛けて切り刻んだものをショルダーバッグに詰め込んでおいたのだ。
使ったプリンターはオフィス用複合機のレーザープリンターなので、インクは水に強く、印刷の質もキメ細かく、4~5ポイント(1~1.25mm)程度の文字も判読可能なレベルで印字できる。
シュレッダーはクロスカット方式で、文字が細断されず残るように目の粗い4mm×16mm以上の細断サイズに設定。
さらに、業務用オートフィード機能付きで、一度に大量の書類を裁断できるので、あっと言う間に作業は済んだ。
量は5.5リットル程度(ペットボトル4本足らず)なので、バッグには余裕で入る。
こうして生み出された無数の『極小のルーンのカード』は、巨大ロボの目の前に撒き散らされ、その機体に纏わり付き、関節部、タイヤの車軸部分などにも入り込む。
『……何だァ? 何かと思えば、ただの紙吹雪じゃねェか』
テレスティーナは拍子抜けした様子で、馬鹿にするが。
まあ、見てるがいいさ。
「……佐天さん!?」
車の上に立っている御坂さんが、驚いた様子で私に顔を向ける。
ここで、私は脇に置いてあった『ゲイ・ボルグ』を取り出し、窓から半身を乗り出した状態で、巨大ロボに向け、杖のように指し示した後、再び
「──
その瞬間、巨大ロボの機体の表面や関節、タイヤなどで無数の小爆発が同時多発的に起き──。
……ギュガッッッ!!!
──その機体が大きくよろめいた!
ドッッ!! ……ゴォォォォン!!!
そして、バランスを崩した機体は尻餅をつく形で、盛大に素っ転び、あっという間に遠くへ引き離された。
「……やったー!!!」
私は思わずガッツポーズを取る。
「凄いじゃない! 佐天さん!」
様子を見ていた御坂さんが私を褒めてくれた。……やった!
「……ッ!?」
だが、ここで私の頭がクラッとなり、一瞬だけ意識が遠のく。
初春に頭を押さえて貰うのを忘れたせいで、魔術の副作用が頭に及んでしまったみたいだ。
……やばい。しくじった。
慌てて半身を車の中に引っ込めて、ゲイ・ボルグを脇に置いた後。
……私は窓の外に向け、盛大に
「……佐天さん!!」
初春が私を心配して声を掛けるも、私にはその声が遠く聞こえる。
「大丈夫……だよ……ういはる」
何とか気張って、そう答えを返すも、全然大丈夫じゃなかった。
意識がボーッとして、耳鳴りもするし、気を抜くとこのまま
……それでも、ここで
あたしも、この戦いに参加してるんだ!
途中で投げ出すなんて……そんなの絶対にイヤだ!
「ういはる。あたし……がんばるから。ねむらないよう、はなしをつづけてよ」
「……!! わかりました……佐天さん」
そんな私の想いが伝わったのか、初春は意を決した表情で頷くのだった。
……ありがとう、初春。
あたしは、そんな初春を助けたいと思ってる。だから、ここで
まずは子供達を一緒に助けるって決めたし、後で腹を割って話し合うって心に決めたんだ。
それができなくなるなんて事は、断じて認めない!
──そうだ。
宿願すら叶える事
この
その時、前髪に隠れた
『て……んめェェェェーーー!!!!! 舐めた真似しやがッて!!! ブッ殺されてェかァ!? こンのクソガキィィィーーーー!!!!!』
……はっ!? 何この声!?
とんでもないレベルの
……巨大ロボが、『空を飛んでいた』。
両足に付いているタイヤは両方ともボロボロに焼け焦げ、使い物にならなくなっていた。
そして、全身の関節部分も黒焦げとなり、満足に動かせるのは、背中に収めていた予備のアームのみだった。
ここからだとよく見えないが、かすかに光って見える部分があるため、後ろからジェット噴射をしているのだろうか。
だが、如何せん機体が巨大過ぎるため、いくらジェット噴射で追いついて来たところで、小回りの利かないデカブツである事に変わりはない。
カーブを描く道路から時々コースアウトしそうになるのを必死に軌道修正し続けている。
『……ッ! 足なンざもういらねェ!! キャスト・オフしてやンよォ!!』
魔女ババアがそう吐き捨てるように呟いた直後、巨大ロボの両足が盛大な音を立てて外れ、道路に打ち捨てられる。
と同時に、機体が一気に軽量化されたおかげか、スピードがグンと上がる。
そして、一気に距離を詰めてきた後、アームを振り回して、車を叩き潰そうとしてくる。
「しっかり掴まってろ!」
木山先生がそう注意を促した後、アクロバティックな運転をし始め、巨大ロボのアームを器用に避けていく。
ゴガンッッ!! ガガンッッ!!
『ケッ!! ちょこまかと避けてンじゃねェよ!! てめェは蝿かゴキブリかァ!?』
うう……これは酔いそう。
そして引き離したと思ったら、今度は──。
ギュゴォォォンッッッ!!!
──また、ロケットパンチを撃ってきた。
それも、車を急加速する事で一気に距離を空け、何とか避ける事ができたが。
『……ッ! チョロチョロと……いい加減諦めろッッ!! ……てめェらがどんなに足掻こうが、ガキ共を助ける事なンざ、できっこねェンだからよォ!!!』
何言ってんだか、このだらがめクソババアが。
あたしみたいな
そんなアンタなんか、
予言してやる。──アンタはもう、
「それでも……足掻き続けると誓ったんだ。あたしは──」
ここで、木山先生のターンがやってきた。
「──教師が生徒を諦めるなんてできないッッッ!!!」
……そして、吼えた。
これこそが、木山先生が胸に刻んだ誓いそのものであり、彼女の全てであり、そんな彼女もまた『魔術師』なんだ。
その願いを、あたしや初春、御坂さん、白井さん、固法先輩、そして他の皆も、全力で応援すると決めたんだ。
そして、そんな木山先生の誓いの言葉に、御坂さんは笑顔で応え──。
「……ったり前じゃない。何が何でもアンタを送り届ける。あたしは……そのためにここにいるんだから!!」
──彼女もまた、吼えた。
ここからは、御坂さんのターンだ。
そこからの御坂さんの奮闘ぶりは、『圧巻』の一言に尽きる。
テレスティーナが撃ち出したロケットパンチを、文字通り
──名付けて『
空気の摩擦熱であっという間に溶けて消えてしまうコインではなく、巨大な金属塊を撃ち出す事で、摩擦熱では簡単には溶けないため、従来の何倍もの射程と巨大質量による大威力を誇る、まさに『全力』の『超必殺技』だった。
これが、
そして、これを超えるまでは、あたしは
天高く伸びる巨大な閃光の槍を、私はその目に焼き付ける。
能力への憧れと渇望と嫉妬。それが得難い事への怨嗟。己の無力に対する憤怒と絶望と諦め。
これらをないまぜにした情念を滾らせつつ、仄暗い真紅の炎が
テレスティーナが乗る巨大ロボを撃破した後、私、佐天涙子と初春飾利、御坂さんと白井さん、木山先生の五人は、子供達が運び込まれた第二十三学区の推進システム研究所へ突入していた。
施設を守っていた駆動鎧軍団は、御坂さんが勢い余って全滅させてしまったため、施設の案内役が誰もいなくなり、そのせいで子供達の居場所を見付けるのに苦労したが。
私は魔術の副作用で血を吐いて意識を落としそうになった
初春の奮闘により、子供達が地下の最下層ブロックにいると分かったので、私達はそこへ向かうが、どこかに残党が潜んでいるかも知れないので、私はゲイ・ボルグを片手に、残党狩りのため、あちこちを嗅ぎ回っていた。
……ん??
この、『枯れたAIM拡散力場』のニオイは。
まさか。
まさか。
まさか。
アイツ……生きてる!?
『──キィィィィィン──』
その時、私の耳に
これは……『キャパシティ・ダウン』。
たしか、能力者狩りに悪用されたとかいう……。
そうか、御坂さんはこれのせいで一度不覚を取ったんだ。
……スキルアウトにバラ撒いてたのも、あのクソババアの仕業か!
そして、その意味するところは、つまり……御坂さん達が危ない!!
そう思い、慌てて最下層ブロックまで駆けつけると。
──テレスティーナが、いた。
頭から血を流し、かなりボロボロの状態だが、まだピンピンしている様子。
紫のパワードスーツに身を包み、左手には銀色に光る
完全にブチ切れており、そばには叩き伏せられたと見られる御坂さんと白井さんが倒れ。
その目の前には……頭を押さえ苦しむ初春がいた。
御坂さんに……白井さんに……初春に……何してくれてんのよ!!!
あんの……クソババア!!!
目の前が真っ赤になる。
ポケットから鉛のケースを取り出し、その中から『ヴェフエル』のカードを出す。
「……焼き殺してやろうか」
そう、恐ろしい事を小声で口走る私の目は、真っ赤にギラ付き、
「……キャパシティ・ダウンですね!?」
ここでいきなり、初春がテレスティーナに大声で問いかける。
視線を向けると、一瞬だけこちらへ向け、若干
あれ? あたし、今……何考えてた? て言うか、どんな顔してた?
「御坂さんから聞きました! 能力者を苦しめる音で演算を妨害するって……改良型は大きくて、固定したスピーカーを移動できないって!」
「何だてめェ? それが分かった所でどうするってンだ。何なら、この施設中に設置してあるのを一個一個壊して回るかァ~?」
「……これだけ大きなシステムなら、制御できる場所は限られます!」
『固定したスピーカー』、『施設中に設置』、『大きなシステムの限られた制御場所』。
……!!
よし、分かったよ。初春。
アンタは最後まで言いたかっただろうけど、これ以上は聞くまでもない。
クソババアが初春に接近しようと近付いて来る。
アイツ……御坂さんや白井さんにやったみたいに、初春にも……!
「
私はポケットから取り出した音楽プレーヤーを触媒に、地脈の流れを確認しながら
すると、火の蛇が彼女の頭上から出現し、落下の勢いで襲いかかるのが見えた。
「!?!?!? ……ンだァこりゃ!!!???」
テレスティーナはいきなり頭上から振ってきた
その隙を突いて、私はその場から離れ、さっきまで私達がいた『中央管制室』まで走り出す。
しかし……。
「……あっ!! おま、てめェ!! さっきのクソガキ!! そんなとこにいやがったのか!! 何でてめェだけ動けンだ!? クソッ、待ちやがれ!!」
うわっ、やば! 今、見られた!
……とにかく、急いで上に行こう!
こっちには反撃のための手札がまだ残ってる。もし追い掛けて来ても、返り討ちにすればいい。
そして、しばらく走り続けていると。
『──ブツッ』
私の周囲から、今までと違うスピーカー音が聞こえてきた。
『あー、あー。本日は晴天なり~。……おい、聞こえてるかァ? クソガキィ』
「……え?」
私は思わず立ち止まった。
あのクソババアの声。もう立ち直ったの!? ……これって、あたしに向けて喋ってる?
『てめェが行きたがっている中央管制室の管理者権限は、この私が
え……? どういうこと?
『これからてめェが戻ってきたとして、お友達は全員おっ
『ドゴォッ』
『うぐっ……!!』
この声……初春!?
やばい、どうしよう!
『今から、てめェのお友達を一人ずつ、順番にブッ殺してやンよ! そうだなァ……
くそっ……!
私は歯噛みしたまま、再び
『こちとら、てめェにゃ散々引っ掻き回されてンだ。できるだけ苦しませてから、最後にてめェをブッ殺してやる。ごめんなさいって泣いて謝っても、許してやンねェ~』
…………ッ!
揺さぶられるな、あたし。
あのクソババアが、考え無しにこんな
普通の神経の持ち主なら、友達が殺されてしまうなんて、たとえ一人でも堪えられる訳が無い。
強い順? 弱い順? 一番強いのは御坂さんで、一番弱いのは、多分、初春。
両方とも掛け替えのない大事な友達だ。白井さんもそうだ。春上さんも。そして
誰が最初でも、一人目が殺される前に、何としてでも『あたしが戻って来る事』を願うはず。
そう……
アイツは、
なぜなら、どんなにセキュリティをガチガチに固めたところで、ブツが手元にあれば半分くらいは丸裸……半裸も同然だからだ。
ロックされたスマホだって、分解して中身から直接データを吸い出せばどうとでもなる。
中央管制室だって、その場で機械の配線とかを直接弄るなり、電源を抜くなりすればいいだけ。
だから、あたしを誘き寄せるための餌として、初春や御坂さん達を使ったに過ぎない。
それに、多分だけど、アイツは管理者権限を乗っ取ってなどいない。
そもそも、
ただリモコンか何かでスピーカーを操作しただけ。
全部ハッタリでしかない。
仮にそうじゃなかったとしても、
『そォだなァ~。てめェが一番仲良さそうにしてた、
……!!!
「ぁ……」
思わず声が漏れる。体が震え、立ち止まってしまう。
『やめなさい!!』
この声、御坂さん?
『……あン?』
『あ、アンタ……一体何が目的!? 枝先さんと、子供達を攫って、一体何をするつもり!?』
『聞いて驚け。これからてめェらにいいモン見せてやる。“能力体結晶の完成”って言うなァ』
それから、
彼女は昔、お爺さんの木原幻生による実験で能力を暴走させられ、『能力体結晶』のファーストサンプルを採取されたらしい。(AIM拡散力場が『枯れて』いたのは暴走の後遺症か)
そして、ファーストサンプルと春上さんと子供達を使って能力体結晶を完成させた後、史上初の
それ以外にも、何やら色々と『たわごと』を並べ立てていたが……ここら辺は割愛でいいか。
ただ、一つだけ聞き捨てならない事がある。
どうやら、ここでのレベル6の誕生
そして、レベル6の誕生こそ学園都市のゴールであり、誰か一人がそうなれば、ゲームセット。
すなわち、あたし達全員がゲームオーバーという訳だ。
……それは困る。
あたしは、この学園都市で
そりゃあ、もっと上があるなんて言われたら、興味が無い事も無いけど。
ただ、それ一人と引き換えに、あたしを含む全員の夢を諦めろだなんて冗談じゃない。
つまりは、このクソババアは──
まあ、初春イジメた時点で、とっくにそうなんだけど。
──中央管制室。
今、私の目の前には、初春達を苦しめる耳障りな音の発生源となった
「おい!!! クソババア!!!」
私はマイクに向かって思いっ切り声をぶつける。
『……ッ!! しまッ……! ……てめ、このクソガキ!! お友達ブッ殺されてェか!!』
長話に夢中で、いい気になって御坂さんや木山先生や初春をいたぶり続けていたテレスティーナだったが、私がここに到着したのが分かった途端、どうやら血相を変えて、慌てて脅し文句を使い出したようだ。もう無駄だってのに。
「人と家畜の区別も付かないアンタの
コイツには言いたい事が山程あるんだ。まずは、その一端をぶつけてやる。
『あン? てめェ……減らず口だけは一丁前だが、許さないからどうだッてンだ? あァン??』
「……それともう一つ。あたしの夢は、
ここからが本題だ。
私は愛用の金属バット『
『だったらどうだってンだよ? 誰もてめェの都合なんざ知らねェし』
……それはこっちのセリフだ。
もちろん、構わず続ける。
そして、ゲイ・ボルグを大きく振りかぶり──。
「……あたしの夢を、邪魔するなぁぁぁぁ!!!」
──この思いの丈を、目の前の
中央管制室の制御システムは
演算妨害ノイズが無くなった事で、御坂さんは本来の実力を取り戻し、テレスティーナを撃破。
そして。
愛用の金属バット『ゲイ・ボルグ』は──グリップのみを残し、
…………。
……なんで???
解説1:
第二十三学区の推進システム研究所での、佐天とテレスティーナの駆け引きについて。
テレスティーナの脅迫内容を要約すると以下の通り。
*中央管制室の管理者権限を遠隔操作で乗っ取ったため、そこからは操作できない。
(よって、中央管制室からはキャパシティ・ダウンを停止できない)
*佐天が最下層へ戻って来なければ、友達を一人ずつ殺害する。
佐天の考えは以下の通り。
*中央管制室の管理者権限を乗っ取ったと言うのは多分ウソ。
*中央管制室へ行けば、キャパシティ・ダウンを止められるので、最下層に戻る必要は無い。
*テレスティーナは自分(佐天)に最下層に戻ってきて欲しくて、友達を人質にして脅している。
客観的事実は以下の通り。
*テレスティーナは中央管制室の管理者権限を乗っ取っていない。
*中央管制室にいなくても、スピーカーはリモコンで制御できる。
*最下層ブロックのスピーカーをキャパシティ・ダウンに使用したまま、それ以外の全ての階層にあるスピーカーを最下層からの音声に切り替えた。
テレスティーナの隠れた意図は以下の通り。
*佐天が最下層に戻ってくるまで、友達を
もし、一人でも殺してしまえば、佐天が
そうなれば、人質は意味を成さなくなる。
なので、可能な限り、人質を生かしたまま、引き伸ばす必要が出てくる。
*仮に、佐天が戻ってきた場合、友達を
したがって、佐天の『上に行く』という判断こそ唯一の最適解だった。
もし、判断を誤っていたら、佐天も初春達も助からなかったかも知れない。
解説2:
佐天が『ゲイ・ボルグ』を振る際、『軍神テュール(ティワズ)』の名を『二度』唱えた理由。
北欧神話について語られた写本『古エッダ』の英雄詩の一節『シグルドリーヴァの言葉』の中に『軍神テュール』のルーンに関する記述がある。
その中で、剣の柄や峰、血溝の上に『勝利のルーン(ティワズ)』を彫って『軍神テュール』の名を二度唱える事で勝利できると語られている。
魔槍『ゲイ・ボルグ』の効果について。
急所に突き刺さる以外に、爆発し無数の釘となり、敵の体をズタズタに切り裂く効果がある。
そして、敵の死体から破片を取り出し回収すれば、勝手に元通りに修復される機能もある。
(佐天の愛用の金属バットには、本物とは違い、そのような自動修復機能は付いていない)