とある佐天の裏技遊戯(ニューゲーム) 作:RB_Broader
PHASE-NEXT Nehushtan(燃える青銅の蛇)
第二十三学区の『推進システム研究所』にて。
私、
『眠れる暴走能力者』となった子供達を救うために必要な『能力体結晶のファーストサンプル』は、
それを
テレスティーナが春上さんと子供達を使って完成させ、
ともあれ、結果オーライなので、よしとしますか。
……って、悪役以外全員ハッピーエンドで大団円な所、水を差すようで悪いんだけど。
あたしの愛用の金属バット『ゲイ・ボルグ』ちゃんが……
アイエエエエエ! なんで!?
実家から持ってきたものだから、学園都市じゃ手に入らないんだよねえ。
パパに買って貰った思い出の品で、ずっと大事にしてた(???)のに……悲しいなあ。
まさか、木っ端微塵になるなんて……ガタが来てたのかも。
何年間もお世話になったし、とりあえず供養でもしとこうと思い、残ったグリップ部分に向け、手を合わせておいた。
あと、金属バットの中身が発泡ウレタンだなんて初めて知ったわ。(打球音の低減目的らしい)
爆発で一緒に粉微塵になったけど。
もちろん、修理なんて絶望的で、新しく買い替えるしかない。
ただ、グリップ部分には『
「……佐天さん、それ」
ん? 初春、呼んだ?
何指差してんの?
「割れたビール瓶みたく尖ってて、危ないですよ」
ああ。言われてみれば。
爆散した金属バットのグリップから先の部分がギザギザのノコギリみたく、ささくれてるな。
とりあえず、物騒だし、人にぶつからないように、ハンカチか何かで包んでおくか。
周囲を見回してみたところ、よく見ると皆ボロボロだった。
春上さんや
初春は鳩尾の部分を蹴られたのか、お腹を押さえて痛そうにしている。
……何が正しかったんだろう。
上に行く直前、あたしがテレスティーナに気付かれなければ、初春達が人質として痛め付けられる事も無かったのかも知れない。
でも、あそこであたしが術式を唱えなかったら、初春は確実に酷い目に遭わされてただろう。
術式を唱えたにせよ唱えなかったにせよ、いずれにしても酷い目に遭うのに変わりは無いのか。
それでも、気付かれないよう上手く隠れてやれていれば、もっと上手くできたはずだ。
今さら後悔しても詮無い事だけど。
「……ッ」
私は努めて明るくしようとするも、悔しさを隠し切れずに、思わず唇を噛んでしまう。
「佐天さん」
ここで、白井さんが声を掛けてくる。
「
「そうよ。佐天さんが頑張ってくれなかったら、本当に危なかったわ。ありがとう、佐天さん」
そして、白井さんも、御坂さんも勇気付けてくれる。
「あはは……そんな。勝てたのは皆が戦ったおかげですよ。あたしは機材を壊しただけですし」
私は頭を掻きつつ、そう笑って答える事でお茶を濁すしかなかった。
『そうだ。勝てたのは皆のおかげ。あたしは中途半端に術を浪費しただけで、結局、撃っても撃たなくても結果は変わらなかった』
……え?
『あんなヤツ、あそこで
何……言ってんの? これ、あたしの声? ……あたしが言ってんの?
酷い……何て酷くて、冷たい声。
慌てて周囲を見回すも、そこで伸びているテレスティーナを除いて、怪しげな人物はいない。
気配やニオイを探っても、『魔術』のニオイはしないし、『精神系能力』による干渉を受けている様子も無い。
『
……ッ!!!
これは、何だ?
あたし自身が思ってる事なのか?
『そうだ。馬鹿め。そもそも初日に
……いやだ。
あたし……本当は魔術師なんかじゃなく、超能力者になりたいんだもん!
だから、黙ってて!!
『ふん。強情なヤツめ。……まあいい。そのうち、この
うう……頭がガンガンする……何だ、何なんだ、
最悪だ……。
『佐天さん!! 佐天さん!! しっかりしてください!!』
……初春?
何か、声が遠くに聞こえる。頭が、ボーッとする。
あたし、今何考えてたんだっけ?
────。
……ハッ!
あたし……一体……。
あれ?
ここって……病院のベンチ?
……そうだ。あたし、初春達と一緒に第七学区の病院まで来たんだっけか。
目覚めた置き去りの子供達が受け入れて貰える事になったんだった。
それで付き添いのため、一緒に来たんだった。
……で。
あたし、
今は……確か、一人ずつ検査を受けている最中だっけ。
まだ時間掛かりそうだな……。
じゃあ、今のうちにアケミ達の顔でも見て行くとするか。
そういえば、
今はどうなってるんだろう。
アイツが逮捕されたという情報は流れてるだろうし、既に主治医を外されたのは間違い無いか。
「キミ。ちょっといいかな? 訊きたいことがあるんだけどね?」
あ。カエルの先生。
何の用事だろう。
私と初春の二人は、毎度お馴染みのカエルによく似た先生の所に呼ばれていた。
「テレスティーナ=木原の治療について、君達はどこまで知ってる?」
そう、カエル先生に聞かれた私は。
「えーと。あたしの知る限りだと、『
と、魔術の事を伏せているため、何とも要領を得ない答えを返すのみ。
そして、初春は。
「食事と薬物を用いて、
と、
「ふむ」
先生は一度頷いた後、少し考え込むような仕草をする。
そして。
「……脳波を調べてみたが、各人全くバラバラで、
……え。
それじゃあ……。
「つまり、目的は『幻想御手』ではないという事なんだね?」
はぁ……。何か拍子抜けしたような。
でもこれで、目を醒ましたアイツが『
初春は自分の仮説が外れて、何だかションボリしているように見える。
まあ、ドンマイ。
「それと、彼女の専門は『大脳生理学』ではなくて『AIM拡散力場』なんだね。なので、そちらのほうも調べてみようと思うんだけど……」
だが、先生はまだ何か言いたいことが山積みなのか、続けて話を切り出してくる。
ん? AIM拡散力場を……
「話はそこの初春君や、
…………。
また、不幸になった気がする。
私と初春は、カエル先生に連れられ、幻想御手使用者がいる病室を一通り
その結果──。
「……えーと」
私は、大変難しい顔になっていた。
「どういう事なんだね?」
カエル先生に尋ねられるも、私は返答に窮する。
「結論から言えば……AIM拡散力場の
そう言わざるを得なかった。
だって、各々違ってたんだもん!
テレスティーナのニオイと似てるかなぁ? ……って予測してみたけど、そうでもなかったし。
いや……ちょっとは似たようなニオイ成分も感じたよ?
でも、全体的に違うものは違うから、正直にそう答えるしか無い。
だが、ここで初春が私の『言い回し』に違和感を覚えたのだろう。
「ニオイ……
そのように、何かに対する『気付き』を促すような言い方をする。
「ふむ……詳しく聞かせて貰いたいんだね?」
先生も乗ってきた。
ってか、どうしよう?
まだ、『取っ掛かり』すら掴めているかどうか微妙なんだよねぇ。
「先生。ちょっといいですか?」
ここで、私は先生に一つ頼み事をした。
私は、幻想御手と無関係な学生の患者達に頼み込んで、AIM拡散力場のニオイを調べさせて貰う事になった。
その結果分かった事は、幻想御手使用者にあって、それ以外には無いニオイ成分が存在する事。
そして、テレスティーナと彼女の患者達にあって、それ以外には無いニオイ成分が存在する事。
これら二つの共通項が見付かったのだ。
なお、幻想御手使用者全員がこの病院で治療を受けている訳ではない。
だって全部で一万人もいるのに、全員入れる訳ないじゃん。
テレスティーナの『治療』を受けていたのは、その中の極一部に過ぎないのだ。
それでも百人近くいたんだけど。
……ふー。
ニオイの『成分』まで細かく嗅ぎ分ける羽目になるとは、中々しんどい作業だったよ。
前者のニオイを『甲』、後者を『乙』とするなら、甲のほうは『焼け爛れた溶岩』のニオイで、乙は『甘ったるいチョコレート』のニオイと表現できる。
いや、もしかしたら毎日マーブルチョコ食べ続けてるせいで、そのニオイがしてるだけかも知れないけど。……AIM拡散力場のニオイって、純粋な物理現象によるものと区別するの難しいし。
…………。
「先生」
ここで、私より一瞬早く、初春が声を上げた。
ああ、先を越されたか。
「なんだね?」
「テレスティーナの患者の『
……あっちゃあ。少しだけ惜しい。まあ、初春は科学サイドだからね。
「つまり、置き去りの子供達を使ったように、テレスティーナ自身を核として、『
先生も結構いいセン行ってると思う。
ただ、科学サイドの考え方だと、枯れたAIM拡散力場しか持たない無能力者のテレスティーナが干渉者になるには、能力を『
しかし、魔術サイドの考え方だと、事情が全く異なってくる。
『類感呪術』と『感染呪術』。
これらの呪術はともに『偶像崇拝の理論』に基づき、科学サイドにおける『共鳴』と似た現象を起こすものであり、その術式を発動しただけでトリガーを引く事が可能なのだ。
『同じ形の物同士は同じ性質を持つ』のが『偶像崇拝の理論』。
例えば、十字教のシンボルである十字架は、神の子が磔にされたオリジナルの十字架と同一ではないにも関わらず、同じ形をしているという理由のみで、本物の力の一端を宿してしまう。
その原理を応用したものが『類感呪術』であり、一例として十字教の『聖人』が挙げられる。
彼等は生まれつき神の子の身体的特徴を備えているという理由で、その力の一端を引き出す事が可能であり、結果として、膨大な魔力を備えていたり、音速を超える速さで移動したりできる。
それとは逆に、レプリカを通じてオリジナルに干渉したり、ある人物の髪の毛などの体の一部を用いて本人に干渉するのが『感染呪術』であり、一例として『呪いの藁人形』が挙げられる。
もしも、テレスティーナが『AIM拡散力場』の成分を媒介とした『偶像崇拝の理論』に基づき、『類感』と『感染』の呪術を行使すれば、予測も付かない『恐ろしい事態』が起きるだろう。
ただし、科学サイドであるテレスティーナに呪術の発動が可能かは未知数だけど。
どちらにしろ、不測の事態を未然に防ぐには、共鳴の媒介となるAIM拡散力場を何とかするか、テレスティーナ本人を何とかする方法のどちらかに行き着くしかないと思う。
実際の所、時間の猶予はもう
「とりあえず、やるべき事は決まったようだね。まずは患者さん達の食事のメニューを見直すとしようか。今までの同じメニューを廃止して、個々人でバラバラにしないといけないね」
──それは、突然起きた。
私と初春が、アケミ達の病室で彼女達三人と談笑していた時だった。
突如、アケミ達の様子が変わり、ボーッとしたまま、話し掛けても反応しなくなったのだ。
虚空のある一点を見詰めるように視線を固定させたまま微動だにしなくなったと思いきや、今度はブツブツと何かを呟き始めた。それも一斉に。
『民は主とモーセとに向かい、呟いて言った。あなた方は何故我々をエジプトから導き上って、荒野で死なせようとするのですか。ここには食べ物も無く、水もありません。我々はこの粗悪な食べ物が嫌になりました、と』
これは……宗教……!?
たしか……『旧約聖書』の一節だったか。
そもそも何故、十字教徒でもないアケミ達が突然、一斉に
誰かが入れ知恵した?
……いや、これは……まさか……!
『そこで主は、火の蛇を民のうちに送られた。蛇は民を噛んだので、イスラエルの民のうち、多くの者が死んだ。民はモーセの下に行って言った。我々は主に向かい、またあなたに向かい、呟いて罪を犯しました。どうぞ蛇を我々から取り去られるように主に祈ってください、と。モーセは民のために祈った』
一斉にコントロールされている……?
『そこで主はモーセに言われた。火の蛇を造って、それを棹の上に掛けなさい。全ての噛まれた者が仰いで、それを見るならば生きるであろう、と』
コントロールしているのは……多分とかじゃない……確実に……アイツだ!!
「皆さん、どうしちゃったんですか!? しっかりしてください!!」
初春がパニックになって、涙目で叫んでいる。
アケミやむーちゃん、マコちんを揺すっても叩いてもビクともせず、ただ一心不乱に本の内容を唱和し続けるのみだ。
……しかも、声が妙にエコーが掛かっている。
まさか。……他の部屋でも?
いや。確かめるまでもない。
というか、アケミ達がこうなっている時点でもう、非常事態と呼ぶレベルだ。
他の患者の事は、今は考えなくていい。
やるべき事はもう分かった。
……あの
そのためには……カモン! 初春!
私は、パニックで泣き叫んでいる初春の頭の花飾りをスポッと外す。
その瞬間──初春の顔つきが変わった。
「初春。行くよ!」
その一言だけで、彼女は
「……はい、分かりました。佐天さんも……
そして、彼女の
佐天と初春がいる病院内を、常盤台の制服を着た
チョコレート色の綿菓子のようなセミロングの髪を持つ、ミステリアスな少女だった。
病室のベッドの上で微動だにせず、ただ一心不乱に『教本』の内容を暗唱する患者の頭に
「……ふぅん。共通の『悪夢』を使って皆の『
そして、得心が行った様子で、シニカルな笑みを浮かべるのだった。
第十七学区の特別拘置所へと続く道路上で、
車体の側面には大きな穴が開いており、車内には数人の警備員達が血を流し倒れている。
そして。
車体からやや離れた場所、道路の上を、紫色のパワードスーツ姿の女が歩いていた。
「ああ……学園都市も、何もかもが気に入らねェ。コイツら全員使えねェし、面白くもねェ」
その女の目は……燃え滾る炎の如く、『真紅』に染まっていた。
『──動くな! テレスティーナ=木原! お前は既に包囲されている!』
その周囲を、大勢の警備員と駆動鎧、装甲車が取り囲む。逃げ場は無い。
「……ッ。ゴキブリどもが、ワラワラ湧いて来やがッた」
しかし、女は全く物怖じせず、退屈そうな様子で、無造作に右手を上に掲げる。
すると……その背後に『全身が漆黒に染まり、双眸を真紅に燃え滾らせる大蛇』が出現し。
「ちまちま戦うなンてメンドくせェ。
──世界が、紅蓮に染まった。
第十七学区にて、
コードネーム:『
容疑者護送中の特殊車両が襲われ、周辺地域を含め被害は甚大。
学園都市は完全封鎖されました。学区間の移動も封鎖されます。
当該学区の住民を速やかに地下シェルターへ避難誘導してください。
続報が入り次第、適宜報告します。
私、佐天涙子は北西方向から
そして、初春の情報によれば、テレスティーナは第十七学区の特別拘置所へ護送予定で、警備員の護送車は第九学区を経由して第十七学区へ向かうルートを通る事が分かり、私の嗅覚と一致したので、そこへ向けて出発する事とした。
その後、私は第七学区の病院前から無人バスを使い、第八学区、第九学区を経由し第十七学区へ入ろうとしたものの、学区間の移動が封鎖されたため、第九学区の北部で渋滞に巻き込まれる。
警備員なんかに目を付けられないように、初春の手を借りて、予め『
まあ、早めに第九学区に入ったおかげで、第十七学区の検問のすぐそばまで行けたけど。
さて。神隠しのおかげで誰にも気付かれていない。
監視カメラには映るだろうが、実際にあたしを捕まえられるのは、その場にいる警備員だけ。
その目で見て気付くことのできない相手には、どうしても後れを取る。
これは、『
それと、監視カメラには不審者を察知するシステムが組み込まれている場合があるので、できるだけ不審さを感じさせない堂々とした動きで、当たり前のようにすり抜けるのが望ましい。
そう考え、私は警備員が何人かで見張っている場所を堂々とした足取りで潜り抜け、第十七学区に入る事ができた。
そんな時、上空を『稲妻を纏った何か』が突っ切って行くのが見えた。
……御坂さん!?
御坂が第九学区と第十七学区の境目にある検問を越えてすぐ、眼下には大破した多数の特殊車両が散らばり、その先には、焼け焦げた町並みと──毒々しい紫色のパワードスーツを着込み、傍らに真っ黒で巨大な蛇を従える魔女の姿が目に入る。
「テレス……ティーナ!!!!!」
その瞬間、全身の血液が沸騰する感覚に襲われ、御坂のエネルギーが爆発した。
巨大な黒蛇には目もくれず、そばにいる魔女に向けて、空対地
ドガドガドガドガドガガガガンッッッ!!!!
人間相手とは到底思えない程の容赦ない『弾幕』だが、それで決着する様子など微塵も無く。
煙が晴れた瞬間、
そして。
ガラ空きとなった真正面に、磁力でマンホールの蓋を手前に浮かべ、既に
ドゴォン!!!!
テレスティーナは咄嗟に黒蛇に守らせた事で、直撃は免れたものの、黒蛇はバラバラに爆散し、衝撃を殺し切れなかったのか、余波を喰らって10メートル以上は飛ばされていた。
「それが、アンタの言う“
ボロボロとなったテレスティーナの無残な姿を見下ろしつつ、御坂は鼻でせせら笑う。
だが。
「くくっ……あっひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
仰向けになったまま、テレスティーナは突如、狂ったように笑い出す。
「あに見てンだよォ? そこで馬鹿みてェに突っ立って。だからてめェはお利口さんなンだよ」
そして、嘲り茶化すような口調で、御坂をおちょくり始める。
「
そう口にした瞬間、御坂の背後では、バラバラになったはずの黒蛇の残骸が灼熱色に輝き。
──膨張し、爆発した。
咄嗟に道路脇へ逃れ、瞬時に瓦礫や砂鉄を集め、ドーム状の盾を作り、そこに隠れたおかげで、御坂は爆発のダメージを免れた。
その一方で、道路は爆発に巻き込まれた事で、全体的に炎に包まれ、その真ん中に取り残されたテレスティーナの姿は見えなくなっていた。
「アイツ……とんでもない真似してくれたわね」
そう、御坂は半ば呆れたように呟くも、すぐに硬直させられる羽目になる。
炎の海の中に、漆黒の人影が浮かび上がったのだ。
「うそ……」
御坂が呆然とする中。
「『民数記』第21章第9節より抜粋──モーセは青銅で一つの蛇を造り、棹の上に掛けて置いた。蛇に噛まれた者は全て、その青銅の蛇を仰ぎ見て生きた」
炎の中から、紅蓮に煌めく双眸を持つ巨大な黒蛇を従える『魔女』が姿を現したのだった。
私、佐天涙子は第十七学区に突入し、予め『
「んもう! 御坂さん速すぎ! あっという間に見えなくなっちゃったよ」
まあ、
えっと……御坂さんのニオイはこっち……って、アイツと既にぶつかってるのか。
こりゃ、あたしの出る幕は無いかなあ。
そんな事を考えながら、焼け焦げた道路に沿って走り続けている私。
その目に飛び込んできたのは──。
巨大な黒蛇を従える紫色の魔女と、その前でボロボロになり斃れている……御坂さんだった。
!!! ……
心臓の鼓動が速くなり、体の奥底から湧き上がる『殺意』を、『守りたい思い』で無理やり抑えつけ、目の前が真っ赤になりそうなのを『泣く』事で火を消すように、『怒り』から『悲しみ』へ感情を捻じ曲げる。
黒蛇の口から炎が吐き出され、斃れている御坂さんを今にも消し炭に変えようとしたその瞬間。
一陣の風の如く駆け抜けた私が御坂さんの体を掻っ攫い、そのまま一気に遠くまで逃げていた。
彼女を背負った状態で離れた場所にあるビルの陰まで移動し、一旦そこで身を潜める。
……信じられない。
どうせ、あのクソ
何か……キャパシティ・ダウンみたいに卑劣な罠を仕掛けたに違いない。
そうでもしなきゃ、
……!!
この
アイツは炎を吐いていたから、
いや。これは、
少し……金属臭い。昔、パパが使っていた高級な灰皿……そう、『
御坂さんの右膝のあたりから……って、血が出てる……これは、噛み跡? ……蛇!?
まだ幼かった頃、パパに連れられて
その後、毒蛇について図書館で色々調べたら、図鑑に蛇の噛み跡の写真が載っていたんだ。
だが、ここは学園都市。こんな街中に毒蛇が出没するとは考えづらい。
そもそも、御坂さんは常日頃から無意識に電磁波を放射し続けているせいで、動物に嫌われると嘆いていた。毒蛇だろうと容易に近付けるはずがない。
おそらくは、テレスティーナによる『毒攻撃』か。
不意打ちに近い形で、気付かない間に噛まれたせいで、動きを封じられたんだろう。
それと、今のアイツからは、『魔術』に似たニオイがする。
幻想御手の時のように、AIM拡散力場同士のネットワークが繋がっている訳ではないが、もしも『新たな位相』が作られ、『類感』と『感染』の仕組みを利用して、そこから力を得ているとするなら……初春の手で患者達を何とかすれば、アイツの力を削ぐ事ができるだろう。
そして、御坂さんに打ち込まれた『蛇の毒』も、おそらくは自然のものではなく『異能』によるものだろうから、病院で血清を打って貰っても効果は期待できない。
ただ、『位相』の力であれば、無効化するための『鍵』が必ずあるはず。
ワクチンプログラムみたいなもので『位相』そのものを無くす手もあるけど、それまで御坂さんの命が保たないんじゃないかと思う。
なので、せめて毒の効果を和らげるための応急処置が必要だろう。
『毒蛇』……『青銅のニオイ』……『火を吹く黒い蛇』……。
……!!
アケミ達が唱えていた内容も確か……旧約の『
……鍵は見えた。
後は、ヒントさえ伝えれば、勘のいい初春なら
私は初春に電話を掛ける。
「初春!」
『何ですか? 佐天さん。今、白井さんが御坂さんを追い掛けて、そっちに向かってます』
「うん。分かった! 今、御坂さんが毒蛇に噛まれて大変な事になってる」
『ええ!?』
「詳しい話は後で。助ける方法は……『青銅の蛇』──
『……ネフ、シュタン??』
「ネフシュタン。後は
そう言い残し、私は電話を切る。
と同時に、私と御坂さんの隣に白井さんが現れた。
「……!?!? お姉さま!! これは一体どういう事ですの?」
「白井さん。敵の能力で『毒』にやられたみたいです。詳しい話は初春に聞いてください」
「はあ。佐天さんは……」
「あたしはこれからやる事があるんで、ここに残ります」
「……分かりましたの」
そして、白井さんに御坂さんの体を預けると、白井さんはそのまま
さて。
……ビキビキビキ。
あのクソ
──目の前が、真っ赤に染まった。
風紀委員の
本来その部屋には男子高校生一人だけが住んでいるはずだったが、チャイムを鳴らして出てきたのは、白い修道服を身に付けた小さなシスターだった。
「はーい。ウチは新聞もせーるすも間に合ってるんだよ」
「風紀委員の白井黒子と──」
「初春飾利です」
「……じゃっじめんと?? 世界の終わりにはまだ早いと思うんだよ。それに、宗教の勧誘は間に合ってるかも。私はイギリス清教のシスターだから、むしろ私が勧誘するんだよ!」
初対面なので仕方ないのかも知れないが、それにしても、初っ端から話が噛み合わなさ過ぎだ。
「そのシスターさんに頼みがあるんですけど……」
話が明後日の方向に行きそうなのを、初春が敢えて話に乗っかった上で、軌道修正して行く。
「私達のお友達が『悪魔憑き』になっちゃったみたいなんで、お祓いをお願いしに来たんです」
「……悪魔? それは大変なんだよ! 今すぐお祓いしなくちゃいけないかも!」
二つ返事で了承して貰い、初春と白井はすぐにシスターさんを空間移動でアケミ達がいる病院へと連れて行くのだった。
第七学区の病院にて。
インデックスと名乗る白い修道服を着た小さなシスターは、アケミ達の状態を観察した後、別の病室のベッドに横たわる
「これは……
現在の御坂の容態について、インデックスは専門用語らしき言葉を並べて説明するも、その内容を理解できる人間は、この場において、おそらく
なので、白井やカエル顔の医師は首を傾げるばかり。
「それで、治す方法は分かりましたか?」
唯一人、話に付いて行けているにも関わらず、立場上
「この呪いはお祓いでも薬でも治せないんだよ! でも……あっ!」
そう言って、一旦考え込んだ後、インデックスは何かに気付いたように声を上げる。
「症状を和らげる方法はあるかも。あくまでその場しのぎだけど、『聖別』された『
その言葉に反応し、初春は表情を明るくする。
だが、インデックスは。
「あ、でも……青銅の蛇が意匠に使われた祭具なんて、『
そう言ってまたブツブツと呟きながら考え込んでしまう。
「インデックスさん!!」
ここで、とうとう痺れを切らした初春が吼える。
「宗教の事はよく分かりませんが、元ネタの話を総合すると、神様に対する不敬への罰と償いの話なんですよね?」
「そ、そうなのかも!?」
そして、初春の勢いに気圧されたインデックスが、若干引き気味に答える。
「だったら、神様への敬意さえ表明できれば、何だっていいと思います」
その後、初春の半ば強引な提案に従いインデックスはイギリス清教と連絡を取り、第十二学区にあるイギリス清教系教会から『ケルト十字』を、白井の空間移動で行き来して借りる事ができた。
あとはそれを『聖別』し、聖なるものとしての意味を持たせれば、礼拝に使えるようになる。
(学園都市の第十二学区は宗教施設が集まる学区だが、そこにある宗教施設は全て宗教的意味を意図的に取り除かれた見掛けだけの抜け殻となっており、祭具もまた聖なる意味を失っている)
聖別とは、礼拝で使用する器具などを聖なるものとして、他のものとは別のものとする事。
通常は司教や司祭などの聖職者の祈りによって行われ、聖別されたものは聖別解除されるまでは宗教上の目的以外には使用できず、粗末に扱うこと(汚聖)は許されない。
ケルト十字は、イギリス清教で使われる十字教のシンボル。
ローマ正教のシンボル『ラテン十字』と、太陽のシンボル『円環』を組み合わせたもの。
円環とは『ウロボロス』──蛇を連想させる図形であり、それと十字を交差させるシンボルは、『青銅の蛇』と十字架を組み合わせた権杖──つまりは、『モーセが青銅の蛇を上に掲げた棹』と似たような意味を持つ事となり、代用品としては十分と言える。
聖別されたケルト十字は、ベッドで臥せっている御坂美琴の首に掛けられた。
そしてこれは、『他の者の手によりケルト十字を首に掛けて貰う』事を意味し、それすなわち、彼女がイギリス清教へ入信した事を意味する。
あくまで一時的かつ形のみであり、本人の意思など介在していないのだが。
だが、その効果はあったようだ。
右膝のあたりにあった噛み跡から広がる毒の反応が薄れ、容態は安定した。
これで当面の間は時間を稼ぐ事ができる。
あとは、患者達に掛けられた『洗脳』を解く番だ。
初春と白井とインデックスは、アケミ達のいる病室へと急ぐのだった。
私、佐天涙子はポケットから鉛のケースを取り出し、そこからカードを一枚取り出す。
「イェザ──
ドクンッ!
……!?
あれ? 体が……何だかフラフラする……。
頭が……ボーっと……。
おい。
そんな
え……? これ、
ああ……!!
一体、何するつもり!?
これから、
────。
──そして、
解説1:
チョコレート色の綿菓子ヘアの常盤台の少女については、超電磁砲外伝『アストラル・バディ』および新約11巻を参照の事。
彼女が語る『私達のアイデア』については、アストラル・バディを参照。
解説2:
テレスティーナ=木原のセカンドプランについて。
幻想御手使用者は、
それに目を付けたテレスティーナは、百名近くの患者を診察した結果、患者達の同じ悪夢の内容をコントロールし結びつけて抽出し、テレスティーナ自身の『自分だけの現実』として取り込む事で、自身を
要は、春上さんと置き去りの子供達を使った実験(ファーストプラン)の焼き直し。
ただし、この計画は、春上さん達を見付ける前から温めていたので、こちらが先発となる。
悪夢の内容のコントロールはカウンセリングを通じて行われたが、その内容は治療効果を守るため口外禁止とされ、患者同士ですら話題に上る事は無かったため、佐天達が気付くのが遅れた。
巨大な黒蛇を旧約聖書の『民数記』に登場する『
また、偶像崇拝の理論に基づく類感と感染のメカニズムは、以下の手順で使われた。
*類感:患者達の体質をテレスティーナに近付ける事で、テレスティーナをオリジナル、患者達をレプリカとして関連付ける。
*感染:患者達(=レプリカ)が持つ悪夢をテレスティーナ(=オリジナル)に擦り付ける。
解説3:
御坂美琴は
たとえ相手が不死身に近い再生能力を持っていたとしても、
毒蛇による不意打ちで倒れたのは、蛇が生物ではなく青銅で作られており、御坂が防御に使った砂鉄や瓦礫などの金属類に紛れる事ができたから。
さらに、青銅は磁力の影響を受けないため、青銅の蛇を磁力操作で止めるのは不可能。