とある佐天の裏技遊戯(ニューゲーム) 作:RB_Broader
木原那由他(モルモット)と無能力者(けっかんひん)
8月13日の朝。
「
私、佐天涙子は、自称・風紀委員の金髪ツインテール少女から因縁付けられ追われていた。
「遺失物横領!? 言いがかりも大概にしなよ! アレは拾っていいものなんだよ! 皆も同じ事してんのに、なんであたしだけ!?」
「路上駐車を注意された大阪のおばちゃんみたいな言い逃れするな! 問答無用だよ!」
「これはゴールドラッシュ時代の『
服とか家電製品(電子レンジと炊飯器)とかのアレコレで色々入り用だったので、手っ取り早く
正義漢気取りの勘違い少女にマークされてしまって、現在に至る。
「むむぅ……。流石は肥料泥棒。
肥料泥棒って……
それはそれとして……『欠陥品』?
口を突いて出た悪口だとしても、言い方が引っ掛かるなあ。
「血管に直接クスリ打って、脳直で電極ぶっ刺して、そんな変人じみた事してもスプーンの一つも曲げられない時点で、そいつらは才能不足の
……!!
何だァ……てめェ。上等じゃん。
調子ん乗った
あいにくスプーンは持ち合わせてないので、代わりに『水芸』でも披露してやるか。
リュックの中から使い捨ての紙コップを取り出し、目の前に掲げ。
「──
地脈のニオイを嗅ぎ取り、その流れを
「──弾けよ」
……パンッ!!
と同時に、紙コップが弾け飛んだ。
……。
ちょっと術式の調整が甘かったか。
チラリと、クソガキのほうを見ると、今の光景に目を奪われているように見える。
どうやら、
……もう一度。
リュックから紙コップをもう一個取り出す。
紙コップは全体的に暗灰色に着色され、ワンポイントとして『銀色の上向きの三日月』とその中に『青色の円』が描き込まれている。
元はヒンドゥー教の五大元素説で、
今回はその技法を取り込み、水の象徴武器の
まあ、フワッとしたイメージは『炭酸水の噴射』か。
ただの水をぶつけるより威力出そうだし。
という訳で。
「──寒にして湿。なれど、少量の温にして湿──すなわち、『水の中の風』──弾けよ!」
……プシャアアアアア!!
紙コップから盛大に噴射された発泡水は、クソガキの顔面に直撃──
スパアァァァンッッ!
──せずに、目の前で何かに弾かれた。
そいつの右手が目にも止まらぬ速さで水を弾いたのだ。
……!?
魔術を……
いや、力そのものを消したのではなく、ただ水を弾いただけか。
あまりにも堂に入った仕草だったせいで、何かの能力かと思った。紛らわしいな。
だが、その瞬間、唐突に。
~~~~~!!!!
全身が、ゾワリとした寒気に襲われた。
まるで、全身の皮膚から骨の髄に至るまでを、舐め回すように
これは……能力!?
「あなたの
金髪ツインテールのクソガキは、ふてぶてしい笑みを浮かべながら、そう宣った。
まさか。
この学園都市の、魔術の“ま”の字も知らなさそうな能力者が、その原動力となる『世界の力』が見えるって言うの?
あたしは
能力開発済みだからAIM拡散力場は持ってるけど、それで能力を発動した事は無いはず。
あたしが使ってるのは魔術発動のための魔力かテレズマ(地脈・龍脈)だけ。
……そのはずだ。
一度『見切ったから、もう一度使ってみろ』なんて言われてケチ付いたものに拘泥する理由も、バカ正直に言われた通り同じものを再度使う理由も無いので、別の魔術に切り替える事にする。
水を手で弾いたのは、『能力』によるものではなく、おそらくは
ならば、今度は
リュックから、橙色の木製のペーパーナイフを取り出す。
尖った切っ先の無いものなので、刺突武器にはならず、それほど危険なものではない。
全面を橙一色で塗られ、ワンポイントで『青色の円の中に銀の三日月』が描かれている。
青色の円は
あえて補色を使う事で、反発力により青(風)の力を強める狙いがある。
その中の銀の三日月は
風の中に水を混ぜ込む事で指向性を持たせる狙いがある。
さらに、そういったカラーリングを風の象徴武器の
「──温にして湿、なれど、少量の寒にして湿──すなわち、『風の中の水』あり──弾けよ!」
そして、
パンッッ!!
放たれた空気の弾丸は、目で見ることも避けることも手で弾くこともできないまま、クソガキの顔面を直撃し、小気味の良い音を立てて弾けた。
ピキッ……!
!?
「「えっ……?」」
そして、私とクソガキの
クソガキは豆鉄砲食らった鳩みたいな顔をし、私のほうは、口の端から
「なんで……? ちゃんと
よく分からないが、クソガキが混乱してる隙を突いて、私は一目散に逃げようとする。
……が。
いつの間にか、クソガキが私の頭上を
……
ってか、いくらチビとは言え、人の身長の倍近い高さを飛ぶなんて、身軽にも程があるでしょ。
白井さんみたく
……コイツからは危険なニオイがする。
地脈を使ったにも関わらず、どうやらコイツの
その上、明らかに
この分だと、あたしはコイツに『力負け』するだろう。
まともに取り合うだけ損だ。
なので……。
ポケットから、赤銅色のコインを一枚取り出す。
コインの中央部分には『青緑色の円』が施されており、周囲の赤茶色が補色の役目を果たす事で反発力により魔術的意味を強める狙いがある。
「──寒にして
そう口遊むと同時に、地脈を地の象徴武器である
──ちなみに、赤銅色のコインを取り出してからの一連の動作は『全てウソ』だ。
おそらく、コイツは
にも関わらず、地脈を通す手順を
そんなヤツを出し抜くには、こちらも正攻法ばかりに拘っては駄目だ。
なので、『魔術を知らない』という
魔術を行使すると見せ掛けて、魔術的記号をできる限りズラして骨抜きにする事で魔力の生成を未然に防ぐとともに、『ただの物理攻撃』を魔術と思わせるハッタリ──つまり、『ニセ魔術』を使って見せたのだ。
赤銅色のコインとは、単なる十円玉。そして、青緑色の円とは、ただの
そんなものに魔術的意味など無い。
『寒にして冷』だの『温にして熱』だのも、属性魔術として成立しない
もちろん『土の中の石』もだ。
ちなみに、本物のタットワを使った地の象徴武器である
その表裏両面の中央部分には、それぞれ
加えて、地の中に風を混ぜ込んでおく事で、地属性の力に指向性を持たせる狙いもある。
そして、ブラフで飛ばした石つぶてに相手が気を取られている最中に、その『本物のコイン』をこっそり取り出し、右足の靴の踵に挟む。
さらに、相手から死角になるよう左半身を前に、右足を後ろへ退いた姿勢で地脈を通す。
どうやって
「──寒にして
本物の
あれから私は死に物狂いであちこちを逃げ回ったり、『
いや、顔と名前は既に割れてるから、自宅を押さえられたらどうしようもないんだけど。
……一応、保険でも掛けておくか。
私は
初春へ電話→
……やっぱ後にしよう。
さて。
完全下校時刻まではかなり時間があるしお腹も空いてきたから、アケミ達を誘って、ファミレスか喫茶店にでも行くとするか。
(一人だけでいるより、友達と大勢でいるほうが、変なのに絡まれる心配も無いだろうし)
この間──半月程前は、魔術師の『人払い』のせいで、駅前の喫茶店に行きそびれたんだっけ。
ちょうど今の時期、夏の期間限定・特別メニューをやってるみたいだから、そこにしよう。
その前に、駅の端末コーナーに寄り、拾ったマネーカードの金額を確認する。
……おっ。3万円のカードが1枚、2万円のカードが2枚。今日はツイてるねぇ。
残りのカードは1000円から3000円がほとんど。
総額10万円は余裕で超えるし、これだけで服と家電一式を買い揃えてもお釣りが来る。
炊飯器と電子レンジは初春に買って貰ったけど、借りっぱなしは悪いので早目に返したいし。
なので、マネーカードは喉から手が出るほど欲しい。
でも、あの金髪ツインテールに目を付けられたままだと非常にマズイ。
という訳で、欲張らずに『拾ったもの』はキチンと風紀委員に届けようと思う。
……拾った
…………。
あれれー?
リュックの中にマネーカードが3枚も入ってたー。いつ購入したんだっけー?
うわー全部で7万円分もあるよー。忘れる所だったー。勿体ないから使っちゃおー!
……よしっと。
マネーカード20枚くらい拾ったやつ(計3万円分以上)は、後で初春の所に届けよう。
その前に、カフェに寄って昼飯でも食べるかね。
その時、駅のコインロッカーのそばに、見慣れた茶髪の少女が立っているのが見えた。
……
常盤台の制服だし、あの背格好は間違いなく彼女だ。
AIM拡散力場も電磁波のビリビリしたニオイがするから、まず間違いないだろう。
ただ、ニオイがいつもより
「御坂さーん!」
私は手を振って呼び掛ける。
……が、どういう訳か、彼女はこちらをチラリと一瞥した後、まるで
ん……??
あの『目』──何の感情も籠もっていない……完全な他人に向ける目だった。
まさか……記憶操作?
いや。
御坂さんに関して言えば、私の魔術絡みの記憶は今まで何度も改竄される切っ掛けがあったにも関わらず、一度も改竄された試しが無いので、今さら私に関する記憶を丸ごと消されるなんて事はありえないだろう。
それに、見慣れないゴーグルのようなものを頭に装着していたり、雰囲気がいつもの御坂さんと全く違っていたりするから、ただのそっくりさんか、もしくは双子の姉妹なのだろうか。
以前、御坂さんの幼い頃のアルバム写真を見せて貰った事があるけど、写真に映っている子供は御坂さん一人だけだったから、年の近い姉妹がいるとは考えづらいが。
そんな事を考えていると、不意に、彼女と同じようなニオイが周囲から
しかも、微かだが、AIM拡散力場の『ネットワークの繋がり』までもが感じられた。
……!!!
これは……一体、何の冗談だろう。
知り合いに似た人物が現れただけでなく、そのAIM拡散力場と同質のものが分身のようにいくつも現れ、それらが繋がっているなんて。
まさか……幻術!?
いや、それはない。
魔力のニオイも、そういった類の能力のニオイもしない。
そして、異能を使わない純粋な科学だけで、この現象を引き起こすには、『外見も能力も同じ』そっくりさんか、コピー人間……いわゆる『クローン』を大人数用意しなければならない。
そしてそれは、一番恐ろしい可能性を意味するものだ。
何せ、幻でもなんでも無い
……いや、いくら何でもありえないか。
──『
最近、耳にするようになった都市伝説の一つだ。
仮に、もしもそんな大それた事が実現可能なら、もう学園都市なんてほぼ要らなくなるだろう。
だって、現状
私の知る限りでも、7人の超能力者の能力はそれぞれ多岐に亘るものであり、まだいない系統は空間移動と未来予知、
それらの系統でも
(
それに、たとえ御坂さんの軍用クローンが実在するとしても、まさか常盤台の制服で街中を闊歩するなんて、普通に考えてありえないでしょうに。
もしあたしが計画の発案者なら、御坂さん本人と区別が付くように外見を変えたり服装を変えるとかするだろうし、そもそも本人に見付かるかも知れない学園都市の中でなんか生活させないよ。
だって、御坂さんがそんな事承知するはずが無いのは分かりきってるもん。
自分の遺伝子を使った『紛い物』の『消耗品』だなんて、そういう風に生まれて来た人達が不憫だし、もし自分のクローンが使い潰されるとしたら、あたしならとても堪えられないよ。
だから、御坂さんの量産型クローンが街中にいるなんてありえないと思う。たぶん。
まあ、もしかしたらさっきのは本人で、何か事情があったのかも知れないし、後でまた会ったら聞いてみよう。
なお、アケミ達は『実験の後遺症』の治療のため忙しく、都合が付かなかったため、私一人だけで昼食を摂る事になった。
駅前のカフェチェーン店内にて。
注文したランチセットをトレーで運び、空いているテーブルに着き、これから食事を始めようかという時、いつの間にか向かい側の席に、金髪ツインテールのクソガキが勝手に鎮座していた。
「佐天お姉ちゃん。一緒にゴハン食べよ♪」
問答無用で捕まえにきた上、さっきまで命懸けの追い掛けっこしてた癖に。
藪から棒に、どういう風の吹き回しなんだか。一体何なのよ、この馴れ馴れしいクソガキは。
こんな人目に付くカフェの中、公衆の面前でいきなり喧嘩おっ始めるバカはいないだろうから、とりあえずは安心していいのか。
大人しく一緒に食事するだけって言うのなら、別段問題はあるまい。
私はコイツの言うことを半分くらいスルーしつつも、無言の了承をするのだった。
「自己紹介がまだだったね。私は風紀委員第49支部『
!? ……“木原”?
あの
「……顔色が変わったね。そう、私は
……その“木原”の異端児とやらが、私に一体何の用が──。
「まずは、あなたにはお礼を言うべきだったね。
枝先……? って、
それと、このクソガキと何の関係が──?
「アンタ、枝先さんとどういう関係?」
とりあえず、マネーカードの事はスルーしておく。
いざとなれば、テーブル引っくり返して逃げるための心の準備もできてる。
「枝先お姉ちゃん達は、私と同じ小学校にいた先輩だよ」
!! ……なるほど。コイツは
「お姉ちゃん達は、『暴走能力の法則解析用誘爆実験』のせいで、数年間眠りっぱなしになった。あの実験は最初から、失敗する事が前提だった」
まあ、その辺は御坂さんから聞かされた事はある。改めて聞いても胸糞悪くなる話だけど。
「……でもね。“木原”の実験に犠牲者はいない。なぜなら、被験者を使い潰して初めて『成功』とされるから」
!?
何だそれ。
私は自分の耳を疑った。
一体どういう事なのか。
「被験者の安全まで考慮された完璧な実験はその分ブレーキが掛かってしまうから、“木原”の中ではむしろ失敗とされるんだよ。被験者を使い潰すくらいじゃないと成功とは呼べないんだってさ」
……理屈は通っているように思える。人間の倫理とかその他諸々を度外視すればの話だが。
まあこんな話を一端でも理解してしまうようじゃ、あたし自身、どこか壊れてるんじゃないかと自分でも心配になるけど。
高校生くらいになると理科の生物の実験でカエルの解剖をやるらしいけど、相手を尊厳ある命と見なさずに、実験対象もしくは玩具として遊び倒す事で、データを取り尽くすような感覚か。
ただ、それを知り合いや友達に置き換えた途端、背筋も凍る悍ましい絵面に変わるわけで。
「だから、私は志願した。
そう自己紹介しつつ、右掌をこちらへ向け、その真中から『注射器の針』を出し入れし、右目をチカチカと明滅させる少女を目の当たりにして、私は一つの単語を思い浮かべる。
──『サイボーグ』。
私は固唾を呑んだ。
自ら実験体となり、全身サイボーグになるのも凄いけど……コイツからは
「私は、実験のために多くの
食事も忘れ、私は知らず知らずにうちにコイツの話に聞き入っていた。
だから、逃げるのも忘れ、いつの間にか片手を手錠で繋がれているのに気付くのも遅れた。
「私が
……ッ、しまった! やられた。
「あなたには二つの選択肢がある。このまま神妙にお縄に就くか、それとも、ここで
アンタの……“
研究者でもない、小学生のガキが、突然何言い出してんの?
「佐天涙子。あなたはただの
え……?
どういう事?
「先天的な“原石”か、後天的に変質を遂げたものかは分からない。ただ、あなたの能力が学園都市の検査機器に引っ掛からないタイプの“稀有な能力”であるのは疑いが無い。なぜなら──」
私は再び固唾を呑んで、話に聞き入る。
「──あなたが“能力”を使う際、あなた自身のAIM拡散力場が動いてて、私はそれを見たり触ったりすることで、その能力が引き起こす『
あれから私は隙を突いて、
話に聞き入ってる振りをしながら、サインペンでアイスティーの入った紙コップに『
どんな効果が出るかは未知数だったが、サイボーグの体を『腐食』させるには十分だった。
それに加え、とばっちりを防ぐため、手錠を嵌められた自分の腕に『
後は、動けなくなったクソガキを放置したまま、悠々と席を立ち、そのまま店を出たのだ。
ちなみに、これ以上追い掛けて来ないよう、トカゲの尻尾を切って残しておくのを忘れない。
「拾得物は風紀委員に届ければネコババにはならないんだったよね?
「~~~~!!!」
クソガキは動けなくなっただけでなく、発声機能に不調を来したのか、何も言えずに顔をしかめながら、ブルブルと小刻みに震えるしかなかった。
もちろん、この私の言い分は
駅の端末でマネーカードの金額を調べた後、合計1万円分が入ったカード10枚ほど手元に残し、コインロッカーに9万円分以上のカードを複数箇所に分けて預けておいたのだ。それらは見付かる心配は無く、足が付く
我ながら
……まあ、私自身の『稀有な能力の可能性』についての話は興味が無きにしもあらずだったが、そのために『木原』を名乗る怪しさ満点のクソガキの口車に乗るほど、お人好しではない。
この話は後で自分で調べれば済むのだし、他人が敷いたレールの上に乗っかる必要は無いのだ。
そんな時、御坂さんと偶然
……他人の空似だったのかなあ。でも、同じ発電能力者のニオイがしたんだよなあ。
とりあえず、御坂さんが一緒にいれば、万が一あのクソガキが再び現れても心配ないだろうし、電磁波レーダーで周囲を探索できる彼女がいれば、マネーカード探しも捗るに違いない。
収穫分は二人で山分けすればいいし。
そして、御坂さんを半ば強引に連れ回しながら、夕方までマネーカードを探し続け、さらに10枚程見付けた後、完全下校時刻になったので、御坂さんと半分こしようとしたら、『届けなきゃ駄目でしょ』と注意された。
マジメだなあ。
まあ、常盤台のお嬢様だし、
あたしはしがない無能力者の貧乏学生なので、意地汚くネコババさせて貰いますけどね。
今、一人きりになるのは不安なので、初春の寮へ立ち寄ると、春上さんがいた。
どうやら、初春は風紀委員の仕事で帰りが遅くなるらしい。
マネーカードの話になったので、私は半日分の収穫を自慢気に披露する。
「まあ、学園都市広しと言えど、一日にこれだけってのは新記録じゃないかなぁ? 全部合わせると、結構な額になるわよ?」
ホントはこれの倍以上を駅のコインロッカーに預けてあるんだけどね。
すると、春上さんは何やら
……へ!?
「じゃあ、あたしもお金持ちなのかな?」
そして。
ゆっくりと開けた中には、黄金色に輝くカードの束がビッシリと敷き詰められていた。
「新学期までに色んな道を覚えとこうと思って、試してるうちに溜まったの」
……格が違った。
負けた……真っ白に燃え尽きちまったよ……。
「春上さん、何ですか? そのアタッシュケース。見た目の割に底がやけに浅いような」
「佐天さんをビックリさせようと思って、上げ底のジョークグッズを用意したの。そしたら本気にされちゃって」
初春の部屋から自分の寮へ帰る途中で、駅のコインロッカーから預けたマネーカードを忘れずに回収しておく。結構な大金だからね。
いやぁ~、どんな酔狂な理由があるかは知らないけど、マネーカードをバラ撒いた人様様だね。
今年の夏休みは小遣い稼ぎのボーナスイベントに全力投球する事になるのかな。
今日みたいに風紀委員に睨まれる事が無いといいけど。
そんな私の様子を、全身包帯塗れの小さな人影が物陰から見張っていた。
「ふふふ……ザザ……これくらい活きが良くなきゃ……
次の日、どういう訳か御坂さんが気持ち悪いくらい上機嫌で終始ハイテンションだった。
そして、初春と春上さんが欲しがっていた二台目の炊飯器を値引き交渉までして買ってくれた。
……ついでに私の電子レンジと炊飯器も一緒に買って貰えばよかったかも。
まあ、折角上機嫌なところ水を差すのも気が引けたので、先月下旬に御坂さんが起こした落雷のせいで家電が壊れたなんて話は、どっちにしろ言い出せなかったけど。
その後、9月頭にある『広域社会見学』に持っていくもの(水着など)を一通り買い揃えた。
今年は、初春や春上さんと一緒にカリフォルニアの人工島『学芸都市』へ行く事になっており、御坂さんと白井さんも同じ場所らしいので、いつもの仲良しグループで一緒に動く事になる。
楽しみだなあ。
そして、買い物を終えた後、夕方まで余った時間を皆で駅近くのオープンカフェで過ごす。
そういえば、御坂さんのそっくりさんを見掛けたのも、この辺りだったっけ。
その話をしたら、それまでハイテンションだった御坂さんの様子が少し妙な感じに変わる。
どうしたんだろう。前にも同じ話したから、ちょっとしつこすぎたかな?
それにしては、怒ってるというより、何だか慌てて何かを隠してるようにも見えるけど。
そんな時、初春がまた妙な事を言い出す。
クローン技術を使って
例の『
もし実在するとしても、御坂さんのクローンがこの街を徘徊してるなんて、あたしには与太話としか思えないけど。
でも、御坂さん本人がいる場なので気を遣ったんだろうけど、そんな風に勿体振られると何だか信憑性があるように思えて、気になっちゃうよ。
もしかして初春、何が知ってるのかな?
まあ、本人が話す気になったら、改めて聞き出すとするか。
その後、もし自分のクローンがいたらどうするか? っていう話題になった。
初春と春上さんは、メニューで迷った時に両方頼んで食べるとか、それだと一人当たり半分しか食べられないとか、食べ物関連の話になってたのは流石にらしいなあと思った。
あたしは夏休みの宿題を手分けしてやるという極普通の無難な答えしか返せなかったけど、本心ではもっと別の事を色々と想像してみた。
一万人くらいあたしのクローンを用意して、
まあ、維持コストが凄い事になりそうだけど。
それに、わざわざ自分と全く同じにする必要も無いのだから、あえて能力開発をしない状態で、魔術知識を駆使できる魔術師としての人生を歩んで貰うのもアリかも知れない。
って、それだとどっちが
ただ、最後に御坂さんがクローンに否定的な答えを返したのは、何だかちょっと期待外れな感じでガッカリしたけど。……まあ、実際問題、普通に考えたらそんなものかなあとも思う。
あたしもこの前、頭の中から別の『あたし』の声が聞こえてきた時、自分が乗っ取られる恐怖で気が気じゃなかったもん。
結局、アイツもあたし自身でしか無かったのと、それまで心の奥底に押し込めていた本音とか、色々な事が分かったから、話せば分かり合えると思うんだけどね。
──例の
『第9980回まで実施済みです』
──
『
──
『情報封鎖の上、被検体の外部研修スケジュールを調整し、衝突可能性を限りなくゼロとします』
──ふむ。ただし、
『1万体を処分した後、上条当麻個人に対してのみ、情報封鎖を解除します』
──他の
『御坂美琴は致命的な
──情報封鎖は不十分か、あるいは無意味だったか。
『佐天個人に対する情報封鎖は無意味と推定。
──“
『イギリスの協力機関に、
──では頼む。
『かしこまりました』
寮に帰ると、郵便受けに何やら怪しい封筒が入っていた。
差出人は……『学園都市・統括理事会』??
『柵川中学1年D組 佐天涙子
本年8月15日より、特別課外授業として、イギリスの学園都市協力機関への短期留学を命ず。
期間は未定。来学期にズレ込む場合、現地姉妹校への編入手続きを併せて実施する。
なお、拒否はできないものとする。
……マジ?
これって、イタズラとかじゃないよね?
いや、十中八九そうだろう。
だって、あまりにも現実離れしてるもん。
そういう大事な話って、担任教師から直接伝えられるもんでしょ。
その時、書類の紙が端のほうから『蒸発』しているように見えた。
……!?
これって……『揮発』?
紙──固体が気体に変わってる? ……『昇華』?
いや、そんな事より……──
──私は私服姿でリュックを背負ったまま、眠りに落ちた。
──目を開けると、周りからいきなり凄い騒音が聞こえてくる。
てか、震動というか、体が圧迫されているような……。
って、何ここ!?
今、あたし、何かに乗ってる!?
全身に掛かっているのは……飛行機の
ベルトとレバーで体をキツキツに固定されてる!
頭のすぐ横に窓があるので、首を動かし、そこから外を覗いてみると、一面雲が広がっている。
それに、景色が変わるのが物凄く速い。……どんだけ速く飛んでるの!?
そういえば、直前まで手紙を読んでたような。
って、もしかして、このままイギリスまでひとっ飛び!?
『拒否はできない』って、そういう事!?
いやぁぁぁぁぁぁ!! あたし外国に連れてかれるぅぅぅぅーーー!!!
助けて初春ぅぅーーー!!! おウチに帰りたいよぉぉぉーーー!!!
折角マネーカード探したり、皆で楽しく遊んだりしてたのにぃぃぃー!!
いきなり不幸だぁぁーー!!
解説1:
タットワ(Tattva)とは、ヒンズー教の五大説に由来する技法。
黄金の夜明け団の霊視修行の中核的存在で、『アストラル投射』(幽体離脱体験)などに用いられる。
黄金の夜明け団エジンバラ支部創立者・神智学協会会員のブロディ=イネスが採用した。
本編では、黄金系魔術結社『暗闇を拭う夜明け』が利用し、火の術式『テジャス』が登場。
タットワ記号について。
霊(空)(
火(
風(
水(
地(
複合属性(○の中の△)の場合:○の記号の中に△の記号
解説2:
木原那由他について。
超電磁砲第5巻特装版の
能力は、『AIM拡散力場を視認し、触れられる能力』。
正式名称および