とある佐天の裏技遊戯(ニューゲーム)   作:RB_Broader

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幻想御手(レベルアッパー)編
超電磁砲(レールガン)と幻想御手(Level Upper)


 私、佐天涙子(さてんるいこ)は学園都市に転入して早一年。

 小学校を卒業し、柵川(さくがわ)中学というごく普通の中学校へ進学した。

 

 というか、能力開発の授業以外は外の学校とほとんど変わらないよね。

 

 能力にしたって、無能力(レベル0)低能力(レベル1)、高くてもせいぜい異能力(レベル2)程度の生徒しかいないし、学園都市も匙を投げてるのか、あまりお金の掛からなそうな、安っぽい設備を使った簡単な薬物投与と暗示、あとは概論みたいな授業くらいしかやってないし。

 むしろ、中途半端で使い物にならない低レベルの能力者に仕立て上げ、魔力の生成をできなくした上で、『AIM拡散力場』という能力者特有のオーラ的なエネルギーの発生源を増やそうという魂胆のようにも思える。

 

 だから、学校の授業についてあまり語る事は無い。

 それよりも重要なのは、この私に学園都市で何人も友達ができた事だ。

 

 外にも友達は沢山いたが、学園都市に入れるくらい飛び抜けて優秀だったのは、私を含め学校に一人か二人くらいしかいなかったので、学園都市に来たばかりの頃は、幼馴染または同郷の友人が一人もいなかった。

 

 なので、学園都市で初めて友人ができた時は純粋に嬉しかった。

 小学校では同じクラスに3人の友達ができた。

 今では、アケミ、むーちゃん、マコちんと呼べるくらい親しい間柄だ。

 

 そして、一人、体が小さく気弱そうな女の子がいて、放っておけなかったので、私のほうから声を掛け、無理やり巻き込む形で友達になった。

 彼女の名前は『初春飾利(ういはるかざり)』。

 

 見た目とは裏腹に、とても正義感が強く、お嬢様と風紀委員(ジャッジメント)に憧れる花飾りの少女。

 

 体育が大の苦手で、小学校低学年にも負けるくらい体力が無いくせに、風紀委員に志願し、厳しい特訓を乗り越えた末、合格してしまったという奇跡のような女の子だ。

 それに何より可愛いのなんの!

 

 もう毎日スカートめくってパンツ履いてるかチェックしたいくらい可愛くて仕方がないよもう。

 それやられて泣きながら怒る顔も可愛いから、やめられないよね全く。

 

 というわけで、今日も一発いきますか!

 

「うーいーはーるーーん!」

 

 バサァァッ!!

 

 勢いよく、目の前の親友、初春の背後からスカートを捲くり上げる私。

 

「おおっ。今日は淡いピンクの水玉かぁー」

 

 パンツの柄も確認っと。

 

 一拍置いて、ようやく気付いたのか、端末を弄っていた初春の顔色が見る見るうちに真っ赤に染まっていく。

 

「きゃああああああああ!!」

 

 顔を真っ赤にして抗議してくる目の前の親友の怒りを他所に、私はお約束と言わんばかりに、ダメ押しで今度は真正面からスカートを捲って見せる。

 

 そして、親友の本日二度目の悲鳴が辺りに響き渡るのだった。

 


 

 親友・初春の誘いで、風紀委員で一緒に活動している彼女の友人である白井黒子(しらいくろこ)という女の子と、その子のルームメイトらしい先輩・御坂美琴(みさかみこと)と初めて会った。

 

 御坂美琴。

 学園都市180万人の学生のうち、たった7人しかいない超能力者(レベル5)の第3位。

 人呼んで『常盤台の超電磁砲(レールガン)』。

 

 正直、直接顔を合わせるまでは、能力の高さを鼻に掛けた高慢ちきでいけ好かないエリートに違いないと、色眼鏡を掛けてしまっていた。

 しかし、蓋を開けてみれば、全くそんな事無いばかりか、お嬢様然ともしておらず、親しみやすくていい人だと分かった。

 ……ファンシーグッズ大好きなお子様趣味なのが気になるところだけど。

 

 それに何より、『超能力の凄さ』を間近で見る事のできる早々ないチャンスでもあったと思う。

 

 彼女の代名詞にもなっている『超電磁砲(レールガン)』。

 

 あんな凄い超常現象、魔術でもできるかどうか。

 私だって、魔術をかじってそんなに経ってる訳じゃないし、『魔術の神』と呼ばれる程の高みに立つどころか、その足元すら雲の上に霞んで見えるくらいの素人に毛が生えた程度、所謂『新参者(ニオファイト)』ですらない立ち位置に過ぎなかったけど、そのまま魔術を極めていったとしても、あんな凄い事は一生掛かっても無理だと思う。

 

 でも、超能力ならきっと無理じゃないんだろう。

 

 だから、私は()()魔術を捨て、能力者となった。

 そして、最初の身体検査から一貫して能力値がレベル0のままだった事で、このまま真っ直ぐな道を進んで行っても、行き止まりのまま、決して越えられない壁の前で立ち往生し続けるのだと悟った。

 

 なので、()()を使う事にした。

 


 

 私、佐天涙子は学生寮の自室の勉強机の前で椅子に座っている。

 

 机の上に広げたA4コピー用紙とにらめっこしつつ、腕を組んだまま、思案に耽っていた。

 

「うーむ……」

 

「イエラヒア。Y・L・H。ヨッド(Yod)ラメド(Lamed)へー(Heh)。乙女・天秤・牡羊」

 

 以前、学園都市に来た初日に、路地裏で使った『呪文』に出てきた名前や、今心の中に思い浮かべてる名前は、ただの意味不明な呪文でもなければ、私がたった今即興で考えたオリキャラの名前でもない。

 

 昔々、『黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)』という名の魔術師集団の偉い人達が『出エジプト記』というとっても古い本に書かれた文章を暗号みたいに組み立て、72種のオリジナル天使を作り出してしまったのだ。

 

 それらは星座ごと、時間ごとにカワリバンコでこの世を支配していて、それぞれ地・水・火・風のどれか一つの属性を持ち、タロットカードの特定の図柄と数字ごとに対応しているらしい。

 そして、決まった時期、決まった時間に担当する天使の名前を唱える事で、属性に対応した魔術を使うための『天使の力(テレズマ)』を対応するカードに封入し、それに見合った素材で作られた容器に保存しておき、好きな時にそのカードを取り出し、正しい手順で天使の名前を唱える事で、その力を呼び出し魔術が使えるという『秘儀』みたいなものらしい。

 

 その前準備として、それぞれの天使の姿を正しくイメージする必要があり、天使の名前をパーツに分解して一定の法則に当てはめる事で、性別や色や体つきや性格が決まる。

 

 私が今やっているのは、そのために具体的な『絵』として描き起こす作業なのだ。

 

 ただ、これと言って正解がある訳でもなく、法則を踏まえた上でなら、ある程度絵柄は自由でいいので、特徴さえ押さえてしまえば、後は私の好みの絵柄で一気に描き上げるだけなのだが。

 

 いざ描くとなると、中々筆が進まない。

 

「これ、今のうちに早めに描いておかないと、時期が外れちゃったら間に合わなくなるんだよね……。双子座から蟹座に変わるまでまだ余裕あるとはいえ、『イエラヒア』の次は『セアリア』で、支配星が太陽だから、『金』のケースが必要になっちゃうし。金なんて高くて買えませんよ。元素記号だとAuね」

 

 私以外誰もいない部屋で、ついつい独り言を口走ってしまう。

 

「……」

 

 ここで、私はふと無意識のうちに、今日出会った彼女の姿を思い浮かべる。

「御坂さん……レールガン、か」

 

 標的を鋭く射抜く、圧倒的な『電撃の槍』の威力。

 その周りを盛大に捲き上げる圧倒的な暴風。

 まさに、『風の剣』と呼ぶに相応しい威容。

 

 いつの間にか、紙の上にスラスラとペンが走り、豪風を纏った凛々しい短髪の天使の姿が描かれていた。

 


 

 お風呂場の湯船に洗面器を浮かべ、その中に手頃な大きさの水晶玉と、一枚のカードを置く。

 

 カードの図柄は、真っ赤な血が滴る9本の剣。

 絵の下の部分に、『SWORDS(剣)』と『Cruelty(残酷)』というロゴが重ねて印字されている。

 あまりに物々しい内容だが、これは占術を使う際、重要な意味を持つため、天使の力(テレズマ)の容れ物として使う場合は無視して構わない。

 

 既に体は綺麗に洗い終えたので、湯船に半分ほど浸かった状態で、天使の力を補充するための儀式を始める。

 

 私自身の体から直接魔力を生成するのは危険なため、水晶玉を触媒とし、『地脈』か『龍脈』と呼ばれる地球のエネルギーを吸い上げる方法をとる。

 

 水晶玉に力を誘い込み、そこからカードに力を補充するのだ。

 そのために、予めお風呂場の水道の蛇口を少しだけ緩め、洗い場に向けて、水をチョロチョロと流しっぱなしにする。

 水道は、書いて字の如く、水の通り道であり、その水は浄水場から上水道を通って、各家庭へ行き届く。

 また、水道の『蛇口』は古くは龍の口を象ったものであり、その形を龍の頭に見立てる事で、水道それ自体を龍脈に見立て利用するのだ。

 

 それでも、力の流れを思い通りに調整するため、無意識のうちに、私自身の体から魔力が生成されてしまう可能性もある。

 そうなれば、能力開発された体で魔力生成しようとする際に起こる副作用により、血管が破裂するなどの不測の事態が起きる危険性もある。

 なので、体を清め、全裸の状態で、湯船に半身浴をしているのだ。

 

 すぐに救急車を呼べるよう、手の届く範囲にスマホを置いてある。

 

 準備はできたので、儀式を執り行う。

 


 

「……ゲボッッッ!!」

 

 盛大に吐いた。血を。

 

 頭もボウっとしている。

 気を抜くとフラついて倒れてしまいそう。

 

 どうやら、水晶玉に力を通す段階で、どうやっても呼び水として人体の魔力が使われるらしく、私自身が魔力を生成してしまったようだ。

 

 その上、脈のほうも十分でなかったようで、水道の蛇口から流れる水からの力は上手く届かず、水晶玉に流れる力は、手の届く場所にあったスマホの中身と干渉し、湯船に張られたお湯の中を通り、私の体の表面に散ったり、体内から魔力を引っ張り出すなど、色々と不規則な動きで暴れ回ってたらしい。

 

 ……スマホの中身ってシリコン(珪素)の集積回路だっけ。

 水晶玉と同じ原料と見なせるなら、今度からはスマホを触媒に……。

 いや、壊れたら困るし、せいぜい音楽プレーヤーか。

 今度試してみよう。

 

 それでも、何とか儀式を終える事ができ、カードには天使の力が補充されたため、あとはそのカードを決められた方法で大切に保管するだけ。

 使う際は触媒を用意した上で、カードを掲げ天使名と呪文を唱えるだけで、魔力を生成しなくてもカードに込められた力を使って魔術を行使できる手筈になってる。

 

 まあそれはそれとして。

 

 湯船の中が真っ赤っ赤だよもう。

 まるでカードに描かれた血だらけで残酷な図柄のようだった。

 

 その後、水晶玉とカードを水に濡らさず、血で汚さないよう細心の注意を払い片付ける。

 そして、湯船からお湯を抜いて、綺麗に洗った後、私はもう一度シャワーを浴び、お風呂から上がった。

 


 

 翌朝、魔術の副作用による血管の破裂のせいで疲労が出たのか、思いっ切り爆睡した後、寝坊してしまった。

 

「あああああ!! ヤバイ!! 急がないと遅刻だぁー!!」

 

 能力開発の成果が全く出ない中、無遅刻無欠席の皆勤賞だけが私の取り柄と言える。

 これを取ったらあとはもう何も残らない。

 

 朝ご飯も弁当も用意する時間が無いので、急いで制服に着替え、何も口にしないまま、駆け足で学校へ直行した。

 

 ……やばい。教科書とノート忘れた。

 

 教科書は別のクラスにいる友達から借りる事で何とかなったが、ノートを出してなかったせいで授業に身が入ってないと思われ、担当の先生から名指しで当てられたりして散々だった。

 

 おまけに、出血の後遺症か、それとも朝食抜いたせいか、頭がガンガンする。

 

 無神経な馬鹿男子から『あの日か?』なんてからかわれ、本当に最悪だ。

 初春が私の代わりに男子に怒ってくれたおかげで色々助かったけど。

 

 全く、いいとこ無いなぁ。あたし。

 


 

 気分転換に、ノートパソコンで都市伝説サイト巡りをしてみると、気になる噂が見付かった。

 

 曰く『使うだけで能力のレベルが上がる“幻想御手(レベルアッパー)”』なるアイテムが存在するらしい。

 

 かなり面白そうな話だけど、本当にそんな便利なものがあるなら、とっくに能力開発のカリキュラムに取り入れられ、皆のレベルが上がってるはず。

 

 なら、表に出せないような安全性が保証されていない危険な代物か。

 もしくは。

 『魔術』が密かに埋め込まれている禁断のアイテムか何かだろう。

 

 なぜなら、この学園都市において、『魔術』などというオカルトは禁忌そのものであり、それらは徹底的に隠され、排除されるべきものだからだ。

 

 私が学園都市に来てからというもの、宗教や神話、魔術に関する話は外の世界よりもさらに耳に入りづらくなった。

 

 地元にある神社仏閣や、歴史や浪漫あふれる有名な城、または隠れ十字教である『天草式』の教会など、俗世間とはかけ離れた異質な空気を放つ場所へは何度も足を運んだ事がある。

 そういった場所には、独特のニオイ──地脈や龍脈、天使の力(テレズマ)などの清浄なナニカが充満していたりするのが分かる。

 しかし、学園都市からは、そういった類のものは徹底的に排除、または管理され、宗教施設が集まる第十二学区にある神社仏閣教会からは、全くといっていいほど何も感じられず、形だけが残った抜け殻、あるいは紛い物でしかないのを、嫌というほど見せ付けられた。

 

 そのスキマを埋め合わせるかのように、街全体に能力者から発せられる独特の力場が充満し、これが天使の力(テレズマ)に酷似している事も、何となく肌感覚で察知できた。

 

 そして、最近その力の流れがどういうわけか、網の目のようなものを形成し始め、それと時期を同じくして、『幻想御手(レベルアッパー)』の都市伝説が広まり始めたのだ。

 

 私が都市伝説を追い掛けている理由。

 それは、能力開発に行き詰まった末の現実逃避でも、ただの好奇心からくるキワモノ趣味でもない。

 

 通常のカリキュラムを受け続けるだけでは絶対に突破できない才能の壁。

 

 そこに横穴を開けるための裏技の手掛かりを掴む。

 そのために、この学園都市の裏側を探り、他の人が絶対に気付かないような隠れた法則を掴むため、なるべく多くの情報を得る。

 それも、決して『学園都市の偉い人達』から怪しまれる事のない形で。

 

 都市伝説ハンティングは、そのためのカムフラージュを兼ねているのだ。

 

 これは、学園都市側が不都合な情報漏洩を都市伝説に紛れ込ませる事で情報の隠蔽を図る構図を逆手に取っているとも言える。

 

 このあたしが、そんな事にすら気付かないと思ってるのか。

 学園都市に来た初日から、街の隅々に潜む血なまぐさいニオイに勘付いていた、このあたしが。

 

 この街にあるもの全て、あたしが超能力者になるための足掛かりとしてせいぜい利用させてもらう。

 そこにあるものを見聞きし、貪欲に学び吸収し、大きく育つ事こそが、学生の本分なんだろう。

 だったら、あたしも一介の学生らしく、そうするだけだ。

 

 私はそのためにも、まずは手始めに幻想御手(レベルアッパー)を追うことに決めたのだった。

 


 

 ここの所、私に元気が無い(ように見える)のを見かねた初春が、景気付けに、白井さんからの招待で『学舎(まなびや)(その)』へ一緒に行こうと誘ってきた。

 もちろん、私は二つ返事でオーケーした。

 

 学舎の園。

 御坂さんと白井さんが通う常盤台中学を始めとする5つのお嬢様学校が集まってカルテルを作り、それに伴い建てられた、男子禁制・お嬢様専用のゲートシティ。

 私や初春が通う柵川中学と同じ第七学区の中にある。

 

 存在自体がレベル主義的で上から目線で嫌味な感じだけど、お嬢様に憧れる初春からすれば、夢の国(千葉にあるやつではない)のようなものらしい。

 

 まあ、かくいうあたしも、日本では学舎の園の中にしか出店してないイタリア風のケーキ屋さん『PASTICCERIA MANICAGNI(パスティッチェリア・マニカーニ)』には、一度でいいから行ってみたいし、大歓迎なんだけどね。

 

 ゲートを潜り、学舎の園に入った私と初春の二人は、ヨーロッパ風の格調高い街並みに目を奪われ、まるでお上りさんみたくキョロキョロと周囲を見回していると、周りの人達が珍しいものを見るような視線をこちらに向けているのに気付く。

 

 ……もしかして、態度で不審に思われた?

 と思ったが、どうやらお嬢様学校以外の制服を着ているせいで、珍しかっただけのようだ。

 

 あんまりうろうろしてると余計に注目を浴びそうで、何だか少しだけ居心地が悪く感じられたので、心持ち早足になる。

 そして、時間も押しているので初春の手を引っ張って先を急ごうとする。

 

 だが。

 

 何やら第六感のようなものが働き、唐突に足を止める。

 このまま進むと、かなり碌でもない目に遭いそうな()()()()ためだ。

 

 それは、『魂の記憶』とでも呼ぶべきか。

 

 私の体が、ではなく、心が全力で何かを嫌がってるのだろう。

 

 そんな私の様子に首を傾げた初春が、『どうしたんですか?』と声を掛けつつ、私の手を逆に引っ張りながら追い越そうとし、そこで水溜りに足を滑らせて盛大に転んでしまう。

 

 そんな初春を庇うように手を掴んで引っ張り上げようとした私までもが巻き込まれる形で一緒に転んだ結果、二人揃って制服のスカートを水に濡らしてしまうのだった。

 


 

「ふわぁーっ!! これが、常盤台の、お嬢様学校の制服……ふぅ」

 

 初春飾利は卒倒した。

 憧れのお嬢様学校の制服という形をした幸せに包まれたことで、幸福度が心の許容量(キャパシティ)をオーバーしたためだ。

 

 水溜りで足を滑らせ転んだ後、私と初春はスカートを濡らしたまま、待ち合わせ場所となっている常盤台中学の校門前まで歩いて行き、そこで御坂さんと白井さんの二人と落ち合った。

 そして、事情を説明したら、常盤台中学のシャワールームを使わせて貰った上、替えのための予備の制服を貸して貰える運びになったのだ。

 結果、お嬢様に憧れていた初春は大喜びである。

 

 小耳に挟んだ話だが、常盤台には『学校帰りの生徒の身だしなみを整える』目的のためだけに、わざわざシャワールーム『帰様(かえりざま)の浴院』が設置されているらしい。

 流石にこれは初春には聞かせられない……かなあ。

 あたし的には既に『お嬢様もう爆発しろ』なんだけど、初春の場合、お嬢様への憧れとかで頭が爆発しそうで怖い。

 

 初春が何とか目を覚まし落ち着きを取り戻したところで、予定通り街へと繰り出し、私と初春、御坂さんと白井さんの四人で目当てのケーキ屋さんへ向かう。

 

 その時、背後から何やら不穏な視線というか、『呪詛』のようなものを向けられた気がしたので、後ろへ目線を向けずに気配のみを探る。

 ……が、何も()()()()()()

 

 ケーキ屋さんに入り、商品を選んでいる最中、初春に急な連絡が入る。

 風紀委員の仕事が入ったらしく、ケーキ選びを諦め、彼女は白井さんとともに泣く泣くその場を離れる。

 よりにもよってこんな時に、タイミングわるっ!

 

「タイミングの悪い事、この上無しですわね」

 

 全くですね。白井さん。

 

「……はぁぁ」

 

 初春。ドンマイ。

 

 この場を離れた白井さんと初春の分のケーキも持ち帰りで注文した後、御坂さんと一緒にテーブル席へ着く。

 ちょうどその時、お花を摘みたい気分になったので、御坂さんに断りを入れた上で、その場を離れる。

 

 用を終えた後、洗面所の鏡の前で手を洗っていると、後ろの扉が何の前触れも無く、()()()()開いて閉まったのだ。

 

「?!」

 

 この時、私の警戒センサーは最大にまで振り切れていた。

 

 誰もいないのに扉が勝手に開閉するなんて、異能以外考えられない。

 それも、超能力なら『念動力(テレキネシス)』。

 もしくは、魔術による遠隔操作か、はたまた幻覚を誘う幻術の類か。

 

 しかし、魔力のニオイは欠片ほども感じられない。

 そればかりか、能力者特有のAIM拡散力場すらも()()影も形も無い。

 

 いや。

 

 そこには()()()()()があった。

 

 具体的には、AIM拡散力場を発する者同士の力の流れ(フロー)は感じられるが、結節点(ノード)と表現できる一箇所のみが、ポッカリ穴が開いたように、()()()()のだ。

 まるで『エーレンシュタイン錯視』もしくは『カニッツァの三角形』の図形の空白部分が『隠れた白い図形』に見えるように。

 

 しかし、私にこれ以上考える時間は残されてはいなかった。

 

 謎の電撃を喰らったような激痛を覚えた直後、反射的に鏡の方へ視線を飛ばすと、お団子頭の小柄な女の姿が()()()()映っていて。

 

(『吊られた男(ザ・ハングドマン)』……新手のスタンド攻撃?!)

 

 ──そこで、私の意識は途切れた。

 


 

 ────。

 

「常盤台狩り?」

 

 …………。

 

「そうか。ウチの制服を着てたせいで……」

 

 …………。

 

「具合はどうなんですか?」

 

(……初春?)

 

 ……何だか、頭がボゥっとする。

 

 体がだるい。

 

 目の前が真っ暗で、若干白い。

 

 ……白い、ハンカチ?

 

 あたし、眠ってた?

 

 ええと……。何してたんだっけ。

 

「う~ん……あたし……」

 

 頭を押さえ、おもむろに上体を起こす。

 額と目に掛かってた白いハンカチがはらりと摺り落ちた。

 

 あたしが寝ているのは、ソファー?

 

 ここは……どこかの学校の中?

 

 あたし、これ……常盤台の制服じゃん!

 何で着てるの?

 

 ……ああ。思い出した。

 確か、学舎の園に初春と一緒に遊びに行って、水溜りでコケて、制服びしょ濡れになったから、替わりの制服を貸して貰ったんだっけ。

 

 そんで、皆で一緒にケーキ屋さんに入って、あたしはトイレに行って洗面所で手を洗ってたら、後ろから……!

 

「ぷ……くく……!」

 

 ん?

 

 目の前には皆がいる。

 

 で、何で笑ってるの?

 

 なぜか、手鏡を渡された。

 自分の顔を見てみろって事?

 

 ……!!!

 

 そこに映っていた、私の顔は……。

 

「うえええええええええ!!!?」

 

 私は思わず絶叫した。

 

 ななな、何で、あたしの眉毛が、こんな酷いことになってんの?

 若干太めながらも、優美な曲線を描いていた愛らしい眉毛が……。

 

 マジックか何かで上書きされたであろう私の眉毛は、葛飾区に銅像が建てられるほど有名なお巡りさんみたく、2本のぶっといアーチを描いていた。

 

 どうやら最近、『常盤台狩り』なるイタズラが学舎の園の中で多発してるらしい。

 やっぱり学校帰りにシャワー浴びるようなエリートお嬢様集団に嫉妬を覚える輩はいるんだな。

 にしても、そのせいで風紀委員がプライベートを犠牲にしてまで仕事に駆り出されるんだから、傍迷惑な話だよねえ。

 せめて、初春が遊んでない時に事件起こしてくれと思う。

 

 ……。

 

 んで、結局、あたしも巻き添えを喰らったというわけよ!

 

 たまたま常盤台の制服を着ていたばっかりに!

 あたしはお嬢様じゃないっつーの!

 

 初春が調べているパソコンの画面には、『書庫(バンク)』と呼ばれる能力者データベースに登録された学生の能力を含む個人情報が映されていた。

 

 下手人の名前は『重福美帆(じゅうふくみほ)』。

 能力名は『認識阻害(ダミーチェック)』。

 強度は『異能力(レベル2)』。

 

 顔は、トイレの洗面所の鏡に映っていた、あのお団子頭の前髪女と同じ。

 

 ふっふっふ。

 この恨み、晴らさでおくべきか!

 


 

 今、私は学舎の園の中にいる。

 野球帽を目深に被り、インカムでいつでも指示を仰げる状態にする。

 あの憎き犯人を捕まえるために!

 

 数千にも上る数の監視カメラにハッキング……もといアクセスしながらの捕縛劇なのだ。

 私が何か変わった事をするまでもなく、結果は見えてるだろう。

 

 一応、またあのスタンガンを喰らうのは御免なので、相手の特性を把握し、いつでも対処できるようにはしておこう。

 

 正直、ああいった搦手を使う輩には、正面切って向かい合うより、遠くから罠に嵌めるのが得策だと思う。

 なので、初春による監視カメラ網を利用した追い込み作戦は正解だろう。

 

 もっとも、魔術を使えば、わざわざ追い込むまでも無く簡単に倒せる。

 

 既に面と名前(実名)が割れていて、姿も鏡越しとはいえ間近で目撃してるし、監視カメラでも確認した。

 そういった相手には、わざわざこちらから殴りに行く必要も無く、『呪詛』を打ち込みさえすれば一発で全身から血を吹き出して斃れるだろう。

 

 認識阻害とスタンガンでこちらの生殺与奪を握れるにも関わらず、眉毛に面白く落書きするだけの『殺意』の無い人間に、そこまでしていい理由が見当たらないので、そんな血なまぐさい方法は絶対にやらないけど。

 

 にしても、超能力って御坂さんの超電磁砲みたいな凄まじい現象を起こす類の力だけかと思ってたけど、相手の認識を阻害し、()()()()()()()()()()なんて、こんな()()()()()力の使い方もあるんだなあ。

 超能力っていうのは奥が深いや。

 

 それに、もしも仮に相手が魔術師で、スタンガンの代わりに魔術を使ってたら、あたしの嗅覚に必ず引っ掛かるはず。

 魔力の流れさえ掴み取れれば、そこを狙えばいい。

 蹴飛ばすなりしてカウンターを浴びせる事もできたかも知れない。

 

 それができなかったのは、魔術でも能力でもない、スタンガンという異能が絡まないただの武器だったせいか。

 

 でも、既に種は割れた。

 

 能力者が無意識に発するAIM拡散力場には、個人差がある。

 具体的には、発火能力者からは熱いエネルギーが。

 電撃使いからはビリビリした電気のエネルギーが。

 空力使いからはそよ風みたいな空気のエネルギーが。

 それぞれ無意識のうちに発せられるらしい。

 

 認識阻害の能力者からは存在感の無いエネルギーが発せられるのだろう。

 だから、そこだけが()()()()ように感じられた。

 

 それに加え、まるで点と点を結ぶ線だけが残り、点のみが消える現象。

 『幻想御手(レベルアッパー)』伝説の流布と時を同じくするように、学園都市中に充満する天使の力(テレズマ)によるネットワークの形成。

 

 犯人はおそらく、幻想御手(レベルアッパー)に何らかの関わりがあって、この天使の力で形成されたネットワークに組み込まれてるんだろう。

 その事が本人を犯罪へと誘引した原因かどうかは分からないけど。

 

 それは後で調べるとして、今のところはとりあえず、その繋がりをこちらの有利になるよう使わせて貰うとしますか。

 

 と、そこに初春からインカム越しに指示が飛んできた。

 

 ナビに従い指定された場所へ駆け付けると、茶髪ウェーブの常盤台生徒の後ろから付け狙うように、スタンガンを構える前髪女が路地裏に立っていた。

 

 とことんムカついてたので、帽子の鍔を指で押し上げ、変わり果てた眉毛を見せ付けて、リベンジを宣言する。

 そしたら、前髪女が姿()()()()()逃げた!

 

 逃げ道を塞ぐため、AIM拡散力場の()を捕捉しようにも間に合わない。

 そのまま逃げられてしまった。

 

 そして、初春から怒られた。

 

 はあ……上手く行かないなあ。

 

 とりあえず、初春の指示に従い、大通りを走り抜ける()()()()()()を追い駆ける。

 

 その途中で常盤台の三人連れにぶつかってしまった。

 

 ごめんなさい!

 

 ……まあ仕方ないよね。

 犯人を捕まえるためだもの。

 

 そうしていくうちに、とうとう犯人を追い詰めた。

 

 もうあたしの嗅覚とか役に立ってないっていうか、要らないじゃん。

 異能を全く使わず、ハッキング技術と監視カメラを駆使した初春による純粋な『科学戦』のみでここまでできたのには、正直舌を巻く他ない。

 まあ、白井さんの空間移動(テレポート)による足の速さあっての作戦なんだろうけど。

 

 やっぱりここは『科学の街』なんだろう。

 それさえあれば十分に回せるんだ。

 

 魔術も能力も知らない外の世界の一般人だって、普通に暮らしてるんだ。

 異能に縋るのは、それだけでは立ち行かなくなり、挫折を味わった人間のする事だろう。

 認識阻害能力を悪用し、幻想御手(レベルアッパー)に繋がってると思われるこの女も、何かしらの挫折を味わったに違いない。

 

 ……あ、御坂さん相手にスタンガンで挑もうなんて、命知らずだなあ。

 ほら、言わんこっちゃない。

 

 お団子頭の前髪女は、御坂さんの極限まで弱めた電撃を喰らい、あっけなく倒れた。

 

 ま、犯人の事情については後で聞き出すとして。

 

 目には目を。眉毛には眉毛を!

 

 ベンチに寝かせた前髪女に向かって、私は取り出したサインペンを構え、生殺与奪を握った捕食者の顔となり、彼女の前髪を手で掻き上げる。

 

 ふっふっふっふ。

 どんな眉毛にしてあげましょう、か……?

 

 そこには、私が落書きするまでもなく、既に面白眉毛が備わっていた。

 


 

 犯人の前髪女改め、眉毛女から粗方の事情は聞いた。

 というか、こっちが聞いてもいないのに、向こうから勝手にベラベラと話してくれたのだ。

 

 一言で言うと、犯行動機も手段も色々と捻れててメチャクチャだった。

 

 何か自棄になってて可哀想だったし、眉毛が変わってるくらいで深刻に悩み過ぎだと思ったので、慰めになるかと思い、つい口が滑って安易な褒め方をしてしまったが、間違いに気付いた時は後の祭り。

 

 眉毛女からは何だか好かれるというか、惚れられてしまい、白井さんからは『罪な女ですの』とか言われた。

 

 マジ勘弁して!

 あたしそんなつもりじゃなかったし!

 

 佐天さんにそういった趣味はありませんのことよ!

 

 ついでに彼女が警備員(アンチスキル)に連行される際、彼女から『手紙、書いてもいいですか?』と聞かれたため、とりあえず『はい』と答えておいた。

 文通だけなら断る理由も無いしね。

 それ以上は勘弁だけど。

 

 そして、彼女を見送った後の事だ。

 

 後ろで御坂さんと白井さんが何やら話し込んでいる。

 眉毛女の能力レベルに関する話のようだ。

 

 曰く、異能力(レベル2)程度では、完全に姿を消すことまではできないらしい。

 そしてそれは、書庫(バンク)に登録されたデータが実際と食い違っていることを意味する。

 

 やっぱり。

 

 おそらく、幻想御手(レベルアッパー)のせい。

 

 もし、この仮定が正しければ、これからさらにとんでもない事が立て続けに起きるに違いない。

 

 ……これは序章に過ぎないのだ。

 

 今回は犯人が眉毛に落書きする程度のイタズラで済ませてくれたおかげで、誰も犠牲にならずに済んだけど、もし犯人に『殺意』があったり、不良みたいに碌でもない連中だったら、私はおそらく無事では済まなかっただろう。

 

 そして、結局私は何もできなかった。

 一応、被害者として目撃証言をした上で、協力して犯人を追い詰めはしたけど、あくまで一般人としてで、何らかの異能で役に立った訳じゃない。

 

 魔術にしたって、入念な準備とか、使用に適した条件の用意とか、色々面倒だし、何より即応性に欠ける。

 おまけに、魔力すら生成できない体じゃ、準備すらままならない。

 

 やっぱり、超能力が欲しいなあ。

 

 一応、白井さんと御坂さんに犯人の『幻想御手(レベルアッパー)』使用の可能性を仄めかそうかと迷ったけど、いきなりそんな話をしても眉唾扱いで信じて貰えるか分からないし、その上、怪しまれでもしたら損なので、結局何も言わなかった。

 この話はいずれ機会を見てからにしようと思う。

 


 

 事件の翌朝、私の眉毛は面白いままだった。

 

 ……どぉなってんのよぉー!!

 

 あんの……眉毛女ぁー!!

 やっぱり落書きしてやればよかったぁー!!

 んああー! どおすりゃいいのよぉー!!

 

 心配してウチに来た初春の前で、私は自分のベッドに当たり散らす。

 

 何でも、第十学区で開発された特殊なインクが使われてて、一週間は消えないものらしい。

 

 あああああ!!

 最悪!!

 

 もうどうしよ。

 

 魔術を使えば消えるか?

 でも、研究機関で開発された特殊なインクの成分なんて分かんないし。

 下手に弄ると眉毛ごと綺麗に無くなっちゃうかもだし。

 

 これは一週間我慢するしかないか。

 ホント碌でもないったらありゃしない。

 

 それもこれも全部あの眉毛女のせいだけど、あたしが巻き込まれたのは常盤台の制服なんか着てたせい……。

 って、そういえば、水溜りで転んだせいでそうなったんだっけ。

 でもあれは初春が転びそうになったのをあたしが引っ張ったから……。

 

 いや。

 

 そうじゃない。

 

 あたしが水溜りの手前で急に立ち止まったから、初春が追い抜いたんだっけ。

 そして、そもそもあたしがあそこで立ち止まったのは……。

 

 ……ああ。

 思い出した。

 

 あたしは()()()()()

 

 こうなる事を。予め。

 

 だけど……それは、あまりにも非現実的でバカバカしい考えだと思う。

 そもそも、私は『空力使い(エアロハンド)』の無能力者(レベル0)

 予知能力など持っていない。

 魔術の方面に関しても、どこで覚えたのかすら覚えていない知識の他、魔力や地脈、龍脈、天使の力(テレズマ)を感知できる嗅覚の延長みたいなものを備えているに過ぎず、預言者みたいに神託を授かる『巫女』のような才能の持ち主でもない。

 

 学園都市には『学習装置(テスタメント)』という宗教の本みたいな名前の洗脳装置があるらしいけど、仮に、どこぞの誰かの手で色んな知識を学習情報として脳に焼き付けられてたとして、起こってもいない『未来の出来事』まで分かるはずがない。

 

 結局は思い過ごしだろうと、私はこの突拍子もないアイデアをすぐに放り投げた。

 


 

 ……あ。

 

 そうそう、消えない特殊なインクで描かれた面白眉毛は、開発した研究機関の協力により、すぐに消して貰えましたとさ。めでたしめでたし。

 

 はぁ~。

 よかったぁ~。

 

 このままだったら、佐天さん恥ずかしくて表歩けなくなるとこだったよ。

 


 

 その後、私は引き続き都市伝説ハンティングを続けるも、『幻想御手』以外では、『脱ぎ女』だの『風力発電のプロペラが逆回転する時、学園都市に何かが起こる』だの『どんな能力も効かない能力を持つ男』だの、取っ掛かりすら掴めない眉唾物の噂くらいしか耳にする事ができなかった。

 

 御坂さんが脱ぎ女に遭遇したという話も、白井さんの勘違いと分かったし、今のところ手掛かりを掴み掛けてる幻想御手一本に絞る形で追い続けようかと思案中である。

 

 自室のパソコンで幻想御手に関する情報を一通り調べたところ、幻想御手に関する匿名掲示板を発見。

 そこでは、ネットリテラシーの低そうな不良達が実名で幻想御手の使用感を書き込んでいたので、こちらの身元が特定されないよう、わざと無知を装ったアンチコメントを書き込むことで反応を誘い、情報の引き出しを試みる。

 一部の煽り耐性の低い利用者が引っ掛かって、断片的な情報をゲロってくれるも、他の冷静な利用者によって私のコメントは荒らし扱いされたため、それ以上の収穫は見込めなかった。

 

 その結果分かった事は、以下の2つのみ。

 

『幻想御手は繰り返し使用することで、段階的にレベルが上がる』

 

『幻想御手はタダで手に入る』

 

 つまり、繰り返し使えて、一度の使用のみで即効果が上がるものではなく、タダで手に入る。すなわち、無形物。

 

「……データ、か」

 

 私には、この手の代物について、嫌というほど心当たりがありすぎる。

 

 『魔術』の呪文詠唱。

 

 聖化発声(しょうけはっせい)

 

 声明(しょうみょう)

 

 歌。

 

「そして、使用者同士のネットワーク」

 

 大人数で繋がる。

 

 グレゴリオの聖歌隊(グレゴリオ・クワイア)

 

「……!!」

 

 この時、私は心底ゾッとする感覚を味わう。

 

「まさか……大人数によるAIM拡散力場の共鳴?」

 

 …………。

 

 これは、駄目だ。

 

 もう大体分かってしまった。

 能力レベルが上がる効果については共鳴の副産物と捉えれば説明が付く。

 具体的な方法はともかく、大勢の能力者を共鳴させ、『大規模魔術の生贄』にするなんて、正気の沙汰じゃない。

 

 こんな危険なものを考え、能力アップを餌に伸び悩んでる大勢の能力者達にばら撒くなんて、残酷だし狂ってる!

 

 作ったヤツの正体を突き止めて、絶対に阻止しなきゃ!

 

 そう息巻きながら、私は心の中で気炎を上げる。

 

 だが、これまでに無いほどの激しい怒りと興奮のあまり、つい手が震え。

 そのせいで手が滑ってマウスにぶつかった事で、カーソルがずれ。

 直後、開いているニュースサイトに隠しリンクがあるのに気付く。

 

「あれ……? これって……」

 

 リンクを開いた先に、ポップアップと……。

 

作品名:Level Upper

アーティスト名:UNKNOWN

 

「レベル、アッパー?」

 

 ……探し求めていたものが、私の目の前にあった。

 




解説1:
 佐天は幻想御手を『AIM拡散力場の共鳴による大規模魔術』と評したが、あくまで彼女の私見に過ぎない。

解説2:
 佐天は魔力の他、地脈や龍脈、天使の力(テレズマ)までも当たり前に感知しているが、本来、地脈や龍脈、天使の力は普通の人間はおろか、魔術師ですら感知できない。(巫覡や風水師などの例外は存在する)
 しかし、佐天は魔術の知識をデフォでインプットされているだけで、魔術師との関わりを持ったことが無いため、このような『常識』を知らない。

 また、佐天の感知は嗅覚の応用であり、直接感知している訳ではなく、微妙なニオイの違いを嗅ぎ分けることで間接的に把握しているに過ぎない。
 一方通行(アクセラレータ)がベクトル感知で人の流れを把握し、そこから間接的に地脈の流れを把握することができたのと似たような仕組み。

解説3:
 天使の力をカードに封入する際、1枚に2体(同じカードに対応するもの)を封入する手法と1枚に1体のみを封入する手法があるが、前者は難易度が高く、後者を採用するのが無難と言われている。
 佐天は1枚1天使を採用している。

解説4:
 天使の力を封入したカードは充電済の蓄電池に喩えられる。
 カードを保管するケースは漏電防止のための絶縁体に喩えられる。
 天使の種類別に対応するケースの材質は決まっており、天使に合ったものでなければ漏電しやすくエネルギーが空っぽになるのが早くなる。

 また、天使の力をカードに封入する際に思い浮かべる天使のイメージ(テレズマ像)を構築するのに、必ずしも自分で絵を描き起こす必要は無く、他の人(熟練した画家など)に頼んで描いて貰っても構わない。
 要は自分でしっかりしたイメージを持つことが重要であり、自作か他作かはあまり関係が無い。
 ただ、無能力者の佐天は貧乏なので、画家の絵が買えないだけである。
 同様の理由で、カードケースの素材に金と水銀が使えないため、それに対応する天使の力を扱えない。
 なお、水銀は常温で液体なのでそのままの形では扱えないが、常温で個体の辰砂(硫化水銀)という化合物として扱うことなら可能。
 いずれにせよ佐天にとっては高価過ぎて手が出ないことに変わりないが。
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