とある佐天の裏技遊戯(ニューゲーム)   作:RB_Broader

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超電磁砲(レールガン)×守護神(アンテイア) VS 知的傭兵(アドバイザー)

 8月16日。

 超能力者(レベル5)第三位・御坂美琴(みさかみこと)が、自らのクローンを犠牲にした絶対能力進化(レベル6シフト)計画の存在に気付き、第9982次実験の顛末を目撃した次の日。

 

 無断外泊(野宿)の上、朝帰りを決め込んだ御坂を待っていたのは──

 

 ルームメイトの白井黒子(しらいくろこ)と、鬼のオーラを身に纏う恐ろしい寮監だった。

 

 ──そして、夕方17時過ぎ。

 

 無断外泊の罰としてプール掃除を命じられた御坂は、鬱々としながら、朝から何時間も掛けて、一人でプールの全面をデッキブラシでゴシゴシ擦り続けていたのだった。

 

「……ったく、黒子のヤツ。無断外出の門限破りを『いつまでも帰らない私を探しに行った』とか何とか言い訳したせいで、あいつの分まで私が被る羽目に……しかも風紀委員(ジャッジメント)の任務があるからーって、一人だけ免除され(バックレ)やがって……ブツブツ」

 

 そう愚痴りつつも、昨日殺された『(クローン)』の事と、自分が第一位(アクセラレーター)にまるで歯が立たなかった事を思い出し、何もできない無力感と歯痒さのあまり、俯き加減となりつつ歯噛みしてしまう。

 

(こんな事……やってる場合じゃないのに……)

 

 完全下校時刻まで後30分となった所で、寮へ帰るため、作業を終わらせ、後片付けをする。

 今度は如何なる理由であろうと門限破りは厳禁だからだ。

 

 そして、大急ぎで寮へ戻った後、寮監からの視線とプレッシャーを気にしながら、落ち着かない状態で夕飯を食べる羽目になる。

 昨日()()()()があったため、食欲が全く湧かないし、飯も喉を通らないが、キチンと食べないと寮監からどんな風に勘ぐられるか分かったもんじゃないので、『振り』だけでもするしかない。

 

 ……その後、慌ててトイレに駆け込んだため、()()()()()()()()()に終わったが。

 

 御坂は部屋へ戻り、『体の具合が悪い』と言って、すぐにパジャマに着替えベッドに就く。

 その様子を見届けた寮監は、部屋から出て行った。

(なお、白井は風紀委員の夏季公募で忙しく、遅くまで居残りのため、門限オーバーすると御坂を通じて寮監へ事前連絡し許可を取っており、遅くまで帰って来ない)

 

 部屋の中や近くの廊下に誰もいないのを『電磁波』で確認した後、御坂はこっそりとベッドから這い出て、ベッドの下に隠してあった『きるぐまー』のヌイグルミを身代わりとしてベッドの上に寝かせて布団を掛けた後、音を立てずに急いで着替える。

 そして念のため窓の外にも誰かいないか電磁波で確認した上で、窓を開けようとした矢先──

 

『ヴーッ……ヴーッ……』

 

 ──携帯電話(マナーモード)がブルブルと震えた。

 

 思わずビクゥッ!! となって息が止まり、喉がカラカラに干上がる。

 

 二つ折り携帯(ゲコ太モデル)を手に取り、画面を開くと、『メール着信』と表示されていた。

 

「何だメールか……ビックリさせないでよ、もう」

 

 そう呻きながら、メールの差出人をチェックすると……その部分は『空白』だった。

 

「ちょっと……何も無いとか、迷惑メールにしたってあり得ないじゃない。どうなってんのこれ」

 

 念のため、メールの中身を開かないまま、メールヘッダー情報だけを見る。

(御坂のハッキング能力で、携帯のメーラーを本来と異なる動作をさせたのだ)

 

 ヘッダー情報を辿る事で、メールが送信されてから受信側のメールボックスに届くまでの経路を知る事ができるのだが、その部分も『真っ更』で、何も無かった。

 

「これじゃあ、まるで……私の携帯に直接データを送り付けたみたいな……」

 

 そこで、御坂は()()()()()()()()を思い浮かべ、ハッとして息を呑む。

 

(いや、でも……黒子は昨晩私を探しに行ったらしいけど……もし、()()()()()()()()()()()()んだとしたら……ひょっとして……私を()()()()()けど、言わない……とか)

 

 頭の中でグルグル回る考えが、ドンドン悪い方へ転がりそうになり、ブンブンと首を振って否定する。

 

「とりあえず、メールの中身を確かめないと……」

 

 御坂は自身の能力で携帯電話のメモリーに記録された磁気情報を直接読み取り、電気信号に変えた新着メールのデータをPDF端末に送りバイナリエディタで開く事で、携帯のメーラーで開かずにメールの中身を見ようとした。

(どんな経路で送られたかも分からないメールなので、開いただけでウィルス感染するトラップが仕込まれているかも知れないリスクを考えた上での判断だった)

 

 すると。

 

「何……これ……」

 

 エディタに表示されている文字データ部分には、『ゼロデイ攻撃』(アプリの脆弱性を利用したウィルス攻撃)のためのウィルスコードが長々と記述されていたが、御坂が見ているのはその部分ではない。

 

 ウィルスコードの動作に影響しない箇所──『コメント文』に、こう記述されていたのだ。

 

『これを読んでいる時点で、あなたを止められる人間は誰もいないと言う事になります。

なので、あなたが失敗しないよう、こちらもできる限りお手伝いさせて貰います。』

 

 そして、御坂が窓の外を見ると、寮の建物の向かい側に設置されている監視カメラが部屋の方を向いており、さらに向かいの建物の窓には、こちらの寮の上の階の窓から外を見張っている寮監の姿が反射して映っているのが見えた。

 どうやら、御坂が窓からこっそり飛び出さないかどうか見張っていたようだ。

 ただ、監視カメラまで付けられたとなると、窓を開けようとした時点で、既に寮監に見付かっているはずだが、その様子は見られない。……つまり、監視カメラは別物か。

 

 なぜそれに気付いたかと言うと、コメント文の続きに、こう書かれていたからだ。

 

『あ、それと、窓の外には見張りがいるので、仮に出ようとしてもすぐに見付かるでしょう。

なので、外出は控えたほうがいいと思います。』

 

「コイツ……! あの監視カメラでこっちを見張ってやがるのか。しかも出ようとしたタイミングで届いたメールに書き込んであるとか、この状況を予期してたとでも言うの?」

 

(ん……? 待てよ……?)

 

 ここで、御坂が気付く。

 差出人の『無い』ウィルスメールが携帯電話に()()届いたと言う事は──

 

(──既に、乗っ取られてる……携帯も……()()()()()

 

 御坂が息を呑み、全身から力が抜けていく感覚に襲われている中、端末の画面に出ている文字が徐々に書き換わっていき──

 

『状況はある程度は予測していましたけど、細かい部分は臨機応変に軌道修正しています。

ほら、こんな感じでですね。^^』

 

 ──御坂の声に応えるように、コメント文の内容が変わっていく。

 

(どういう事? このデタラメなハッキング能力もさる事ながら、今このタイミングでちょっかい掛けてきたって事は、コイツは『あの実験』の事も、私が今から動こうとしている事も全て把握している。しかも『お手伝い』って……)

 

「あ、あんた……一体何者よ」

 

 そう呻く御坂に対し。

 

『そう言えば、名乗るのを忘れてましたね。大変失礼しました。

私の名前は“Antheia(アンテイア)”。情報世界に花を咲かせる女神です。

よろしくお願いします、電子の女神様。』

 

 ()()()()のハッカーは、コメント文で、そう名乗ってみせるのだった。

 


 

行間

 

 イギリス・ロンドンのクロトン・エメラルド研究所の所長室にて。

 時刻(英国夏時間)は8月16日の朝10時過ぎ。

 

 昨晩酔い潰れて眠っていたビンフェイス所長は、遅く起きた後、二日酔いに悩まされていた。

 そんなタイミングで(と言うか、そのタイミングしか無かったので)、研究所に所属する女生徒の一人であるシャンが訪ねてきたのだった。

 

 コンコンコンと、ドアのノック音が頭に響くので、所長は堪らずドアを解錠する。

 椅子から立ち上がるのも億劫なので、手元にあるリモコンのボタンを押すだけだが。

 

「失礼します。おはようございます。ビンフェイス所長」

 

 シャンが挨拶をしながら部屋に入ってきた。

 彼女の後ろには、ブカブカのワイシャツ……いやブラウスをスッポリと被った小さな子供が寄り添うように立っている。

 下は裸足だが、浴室用のサンダルを履いていた。

 

 妙な雰囲気だった。

 体はビクビクと小刻みに震えているものの、顔には能面のような()()()が張り付いていた。

 肌の色と顔立ちからは、東洋人だと丸分かりだが。

 

(……初等部に、こんな子供いたか?)

 

 ゴミ箱の被り物の下で怪訝な表情をする所長だが、被り物のせいで周りからは表情が見えない。

 

「えーと……」

 

 所長は目の前にいる見覚えの無い子供の名前を言おうとして、思い出すのに時間が掛かって中々言い出せない素振りを見せる。

 もし女学院の生徒だったりしたら、面識の無い初対面として接するのは失礼に当たるからだ。

 

「彼女は、()()()()()()()子供です」

 

 空気を察してか、シャンが先に話を切り出す。

 

『箱から出てきた』

 

 この()()()()()言葉に反応し、所長は大体の事情を察する。

 そして安堵したのか、リラックスした格好となり。

 

「名前は、何と言うのかね?」

 

 と、偉そうにふんぞり返りながら、()()()()質問する。

 どうやら今のやり取りで、彼女が()()()()()()()()()()と言う事まで把握済みらしい。

 

「み……みさ、か……」

 

 聞かれた子供のほうは、初対面でなおかつ『変な被り物』をした高圧的な男性を目の前にして、たじろいでいるのか、はたまた緊張で言葉が上手く話せないのか、覚束ない口調でポツリ、ポツリと僅かな言葉を漏らすのみだった。

 

(ミサ……? 十字教における『聖餐(せいさん)式』(ミサ(missa))の事か……?)

 

 所長のほうも、相手の辿々しい口調が聞き取り辛かったのか、若干聞き間違えた上、それが名前の一部だと理解できないまま、首を傾げる。

 

「ほら、日本人って碌に意味も調べないで中途半端に西洋風の名前付けるの好きですから」

 

 所長が何に首を傾げているのか、何となく察しが付いたシャンは、そう取り繕うも、これもまたズレた反応にしかなっていない。

 彼女もまた、この子供の本当の名前を()()()()()()()()()()()ままなのだ。

 

「なるほど……『ミサ』か。私はここの研究所の所長・ビンフェイスだ。よろしく」

 

 少しだけすれ違った形で理解した所長が挨拶をしたので、ミサと呼ばれた子供はお辞儀をする。

 ()()()()()であれば、直立不動のまま銀行のATMの音声案内みたく平板な調子で、淡々と挨拶を述べる所だが、どういうわけか言葉が上手く出て来ないので、仕方無くお辞儀で済ませたのだ。

 

(……ことばが、うまくでません。それに、──ネットワークにも、つながりません。いつのまにか、みさ──のなまえは、ミサ……になって、しまいました。そもそも、ここはどこでしょう? なぜ、みさ──のからだが、まったくのべつじんに、かわってるの、でしょう)

 

 所長室から女子寮の管理人室へ連れて行かれる途中、ミサは歩きながら、両手を目の前に持って来て、左右の人差し指を近付けて、静電気のような火花をパチパチと鳴らす。

 

「へぇ~。それが学園都市の能力なのネ。『電撃使い(エレクトロマスター)』なんて、アッシは初めて見たヨ」

 

 その様子を、隣を歩くシャンが興味深そうに覗き込みながら、片言の日本語で話し掛ける。

 

「ですが……みさ……は、うまくできません。これでは、『低能力者(レベル1)』ていどです」

 

 それに対し、ミサは無表情ながらも、若干不服そうに答えるも。

 

「へー。()()()レベル1? 確か、学園都市の最高位はレベル5だって話だから、その人達はもっと凄い事ができるんだろうネ」

 

 さらに感心したように、シャンは猫目をキラキラさせながら、ポジティブな反応を返す。

 

「おねえさま……超能力者(レベル5)超電磁砲(レールガン)は、そらからカミナリをおとしたり、じりょくをつかって、コインをマッハのはやさで、うちだしたりできる、らしいです」

 

 ここで、張り合うかのように、ミサは超能力者の御坂美琴の事を持ち出して見せる。

 若干誇らしげに見えるが、その理由は、彼女の()()を知らないシャンには分からない。

 

 それから、シャンはミサの入寮手続きを行い、正式にルームメイトとして迎え入れる事となる。

 

 一応、手続きのために名前をフルネームで書かないといけないため、ミサ本人から聞いた名前を管理人が代筆する形となったのだが、ファーストネーム(名前)のみでファミリーネーム(苗字)をどうやっても聞き出す事ができなかった。

 ……と言うか、どうも本人が『覚えていない』ようなのだ。

検体番号(シリアルナンバー)の概念が2人に上手く伝わっていないのも関係している。そもそも、彼女をここに送り込んだ人物からして理解していなさそう)

 そこで、彼女の保護者を任されたシャンは彼女が記憶喪失ではないかと結論付け、身元引受人としてファミリーネームを新たに付ける事となった結果──

 

 “Missa Estera(ミサ=イーステラ)

 

 ──これが、彼女の暫定的なフルネームとなった。

 名前の由来は、聖餐式(ミサ)の最後に唱えられる言葉──“Ite, missa est.”(行け、彼女は送られた)を捩ったもので、復活祭(イースター)の語源である『春の女神(Estera)』とも掛けている。

 

 ちなみに能力名は『短絡電気(ショート・サーキット)』と名付けられた。

(手から電気ショート(short circuit)の火花をパチパチと鳴らしていたから)

 なお本人は『欠陥電気(レディオノイズ)』と自己申告したものの、英語話者のシャンと管理人からは、『レディオ(radio)(無線)』でも『ノイズ(noise)(雑音)』でも無いだろと突っ込まれ、渋々折れたのだった。

 


 

 日本時間、8月16日の深夜。

 

 『品雨(しなあめ)大学付属DNAマップ解析ラボ』と言う長々しく仰々しい名前の研究所の第Ⅰ棟にて。

 

 『異常現象』が発生した。

 いや……現象と言うよりは、『事態』と言うか、『珍事』と言うか。

 とにかく、『わけのわからないナニカ』が起こっていた。

 

「── 完 全 消 去(バルス)!!

 

 唐突にそう叫びだした研究者の一人は、セキュリティ管理者権限を持っていたのだが、いきなり自分が管理する全てのサーバーのデータを一つ残らず『完全消去』し始めたのだ。

 

 また、別の場所──『磁気異常研ラボ』、『蘭学(らんがく)医療研究所』、『バイオ医研細胞研究所』、『動研思考能力研究所』および『品雨大学DNAマップ解析ラボ第Ⅱ・第Ⅲ・第Ⅴ棟』など、多くの施設でも同時多発的に同様の事が起こっていた。

 

「所長! 何をやってるのですか!?」

 

 動研思考能力研究所で助手を勤める女性研究員が、セルフテロ決行中の上司に問いかけるも。

 

「うん。必ずしも泥棒が悪いとはKsitigarbha(クシティガルバ)も言わなかった」

 

 などと、意味不明な答えしか返っては来なかった。

 その後も引き続き。

 

IngSoc(イングソック)じゃあ常識なんだよ!」

 

 と、さらに意味不明な事ばかり言い続けるので、堪りかねた助手が上司を後ろから羽交い締めにするとともに、首を絞め落とす事で強制的に意識を断って動けなくしてしまう。

 

 しかし、時既に遅く──研究所のほぼ半数近いサーバーが『漂白』されていた。

 それだけに留まらず、他の何人かの研究員達も異常行動を取っていたため、手の付けようが無くなっていたのだ。

 

「皆何やってんのよぉ……」

 

 あまりの事態に呆然としつつ今にも泣きそうになっている助手の耳に、()()()()()()()()()()()が響いてくる。

 

『──裋裋裋裋裋裋裋裋裋裋(まつりのおそなえもののかざりの)磊磊磊磊磊磊磊磊磊磊(いしころがいっぱいごろごろしてて)痼痼痼痼痼痼痼(きんにくがこりかたまり)痼痼痼痼痼痼痼(ながわずらいでなおらず)磆磆磆磆磆磆(なめらかなるいしで)砉砉砉砉砉砉砉砉砉砉(ほねとかわとがはなれるおとをだし)众众众众众众众(ひとがあつまるこえがして)辴辴辴辴辴(おおわらいして)閄閄閄閄閄閄閄閄閄(ものかげからきゅうにとびだして)閄閄閄閄閄閄閄閄閄(ひとをおどろかせるときにはっする)閄閄閄(こえをだし)顉顉顉顉顉(あごがしゃくれて)飍飍飍飍飍(おどろきはしる)──』

 

「……??!!」

 

 その音を聞いていると何だか気持ち良くなってくると言うか……『危険だ』と分かっていても、耳を塞ぐ事ができないまま、聞き入ってしまう。

 

「…………」

 

「……【ピ──】の【ピ──】は蟹も夢見る非線形!? いざ()かーん!」

 

 そして、とうとう助手までもが素っ頓狂な声を上げ、おかしな事を口走り始めたのだった。

 


 

 絶対能力進化計画に携わる研究施設群の警備を統括するコントロールセンターでも、異常事態は()()()進行し始めていた。

 

「──警備主任!」

 

 他の職員と話しながら廊下を歩いている金髪の男性に対し、廊下の向こうから息を切らしながら走ってきたスキンヘッドの男性職員が呼び掛ける。

 

「何かあったのですカ?」

 

 スキンヘッドの男は顔中から汗が噴き出し、見るからに尋常ではない様子だったので、金髪男は何か大きなトラブルがあったのだろうと察し、詳細を尋ねる。

 すると。

 

「いえ。()()()()()()()! ()()()()()()! ()()()()()()()()()()()()()!」

 

 そう、顔に書いてあるのと()()の答えを返してくるも、その()()()()()()()()()()()()()()()

 

 金髪男は若干眉を顰め、怪訝な表情となり、スキンヘッド男の様子をじっくりと観察する。

 

()()()()()()()()()()! ()()()()()()()()()()! 例えば……」

 

 続けて、スキンヘッド男は()()()()()()()()()()()()()も、話の途中で唐突に──

 

「こぉぉぉんな事までできちゃうくらい、私は()()なのでぇぇぇぇぇす!!!」

 

 ──黒目をグリンと回して焦点の合わない奇怪な目付きになったと思ったら、金髪男の隣にいた職員に全力で突進し、その顔面に頭突きを喰らわせて昏倒させてしまう。

 スキンヘッド男は続けて金髪男に狙いを定め、タックルを仕掛ける予備動作に入りかけた所で、いつの間にか背後にいた金髪男に、首筋にスタンガンを当てられ、即座に意識を刈り取られた。

 金髪男がスキンヘッド男を『不審者』と判断し、無力化したのだ。

 

「やれやれ……職員に成り済ましたスパイですカ……あるいは対立組織に攫われて洗脳でも施されたのカ……」

 

 溜息を吐きながら、金髪男は落ち着いた様子で携帯を取り出し、頭突きで鼻を潰され倒れた職員の様子を見ながら、救急車を呼ぶ。

 

『はい。こちら第七学区消防本部です』

 

 電話の向こうから、()()()()()()()()()()()()()()が流れてくるも、特に怪訝に思う事もなく、金髪男は滞りなく事情を説明し、そのまま通話を切る。

 

 そして、異常があったと思われる場所──怪しいスキンヘッド男が走ってきた方向の先にあると思われる()()()()()へと、急いで駆け付けるのだった。

 

 金髪男が最重要施設であるコントロールルームへ入ると……そこは既に『異界』と化していた。

 

 目の前にいる『人達』が、全て『ゴブリン』だったのだ。

 動きや雰囲気からは、彼らが『職員』と分かるものの、白衣を着た異形(モンスター)にしか見えない。

 

『ギギギッ!! ギャギャッ!』

 

 入口のすぐそばの席にいるゴブリンが金髪男の方を向いて、耳障りな声で何かを叫んでいる。

 その服装から、恐らく女性職員であると見当は付くものの、顔も『言葉も』分からないのでは、意思疎通を図ろうにも、どうしようもない。

 

(これは……何者かの『能力』……?)

 

 即座にそう思い至るも、確証が無い。

 と言うか、そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(さて。これはどうしたものカ……)

 

 ここで、金髪男は目を瞑り、周囲の『雑音』から耳を塞ぐような形で、思索に没頭し始める。

 

 この金髪男の名は、『カイツ=ノックレーベン』。

 警備強化部門の『知的傭兵(アドバイザー)』を自称する西洋人である。

 絶対能力進化計画の実験における警備主任として雇われ、()()()()()の施設への攻撃に対処する指示を出す仕事などを、今まさに任されている所なのだ。

 

 したがって、アドバイスするにあたり意思疎通は必須なのだが、その手段そのものが初っ端から封殺されてしまっている。

 

(私自身の視覚や聴覚を狂わされてしまっている以上、会話は不可能でスし、筆談すらも、もしかしたら幻覚で邪魔されるおそれがあるかも知れませんネ……)

 

(……! いや、まだありまス。意思疎通のために残された最後の感覚──『触覚』が)

 

 ここで、早くもその事に気付いたものの。

 

 ……ゴッ!!

 

(──!?)

 

 目を瞑り音を遮断している隙に、彼の後頭部に強い衝撃が加えられ、体のバランスを失う。

 

(やられ……ましタ……ここでハ、いつ誰が敵になるか分からないと言うのニ……)

 

 意識を失う直前、彼の目に映ったのは、青白い肌をしたスキンヘッドの醜いオークの姿だった。

 

 しかしながら、彼がここで倒れたのは却って幸運なのかも知れない。

 この状況下で、知的傭兵であるカイツ=ノックレーベンにできる事など、高が知れている上に、もし下手に動いたとしても、結果が悪い方に動けば彼の責任にされ、追い出される事で警備に関わる事ができなくなるのだから。

 

 仮に彼が動けたなら、『モールス符号』(相手の掌を指で突いて『トン・ツー』と合図を送る)か『点字』を使ってでも、職員と意思疎通を図るつもりでいた。

 それが無理な場合──相手が正常な判断力を失っており、彼の事を『敵』と錯覚させられ一斉に襲ってきた場合などには、彼一人がどこぞのヒーローばりに逃げ回りながら『的確に』動く事で、外部との通信を遮断したり、電源を落としたりなどの緊急避難を行うつもりだったのだ。

 その結果、彼自身が施設襲撃の加害者とされるリスクを負う羽目になるとしても。

 

(……そういえば、あの鼻を潰された職員は無事救急車に乗れたのでしょうカ? ……消防本部の電話の女性……()()()()()()()()()ネ……まるで、()()()()()ナ……??)

 

 そこで、カイツの意識は途切れたのだった。

 


 

 御坂美琴は寮から一歩も出られないまま、寮の電源コンセントから電気を流し込み、正体不明のハッカー『アンテイア』から送られた『設計図』通りに電気的ネットワークを作る事で、学園都市第七学区全域に『巨大な電子回路』を構築した。

 要は、御坂の発電能力と守護神(アンテイア)の設計思想の合わせ技で強引にでっち上げた即席の電子部品(デバイス)だ。

 それを各研究所の建物内に張り巡らし、天井や壁などをスピーカーとして振動させる事で超音波を発生させ、中にいる全ての人間の脳に『毒音波』を叩き込んで判断能力を狂わせたのだ。

 

 これにより彼女達の行動はそれ自体が犯罪として露見する事なく、正気を失った研究員達自身の手で研究施設のデータなどの破壊が行われたため、ただの『集団ヒステリー』もしくは『怪現象』として扱われる事となる。

 ……あくまで限られた関係者の内輪での話であり、公にされる事は無かったのだが。

 さらに言えば、その話すらもあくまで『表向き』に過ぎないのだが。

 


 

 病院に運ばれたスキンヘッドの男は、病室で頭を抱えていた。

 

「うう……何でこんな事に……」

 

 しばらく暴れ回った後、正気に戻ったのだが、その時には既に周囲はメチャクチャに破壊されており、傍らには警備主任のカイツが頭から血を流して倒れていたのだ。

 

 全く憶えてはいないものの、明らかに自分がやったような雰囲気だったので、ショックで茫然となり、膝から崩れ落ちてしまう。

 その後、いつの間にか救急隊員が大勢やってきて、周囲で倒れている人達とともに病院へ運ばれて今に至る。

 

「……祟りだ……」

 

 彼の向かいのベッドでいつの間にか起き上がっていた年配の男性が、震える声で呻き始める。

 動研思考能力研究所の所長を務めて()()、あの意味不明なセリフを喚いていた男性だった。

 

「……私達は、あまりにも多くの『死』に触れ過ぎて、『彼らの怨念』に取り憑かれたんだ」

 

 そう口走る元・所長自身も薄々自覚はしているのだろうが、聞いているほうも『流石にオカルトじみてやしないか?』と疑問を覚えてしまう。が、否定し切れないのもまた事実。

 

 病院に運ばれた研究員の大半が同じ考えに至ったため、やがて彼らはこの研究から手を引く事となる。

(もっとも、こんな計画に関わっている時点で多かれ少なかれ倫理観の壊れた人間が結構な割合を占めており、クローンを実験動物程度にしか見ていない上に実験動物を可哀想と思わない研究者もかなりの数に上るので、残る研究員はそれなりにいて、替わりの補充もいくらでも利くのだが)

 


 

──ふむ。やり口が、()()()()()な。

 

()()()()()()()ですか』

 

──ヤツの直情的な性格からは予測不可能な、回りくどい方法だ。()()()からの入れ知恵か。

 

『……年頃の女の子の部屋を覗いたり聞き耳を立てるのは感心できませんね。今更言っても詮無い事ですが』

 

──だが、()()()()()()()()()()()()()()()()ようだ。

 

『それは……この()()()()に気付いているのは他にもいると?』

 

──あれだけ派手に()()()()()()のだ。私にしか分からぬ程、この街は知恵に事欠くまい。

 


 

 カイツ=ノックレーベンもまた、病院に運ばれ、頭に包帯を巻いて、ベッドに横たわっていた。

 頭部に軽い打撲と出血があったのみで、命に別状は無かったが、念のため検査入院している。

 

『次のニュースです。昨夜、学園都市第七学区の全域で局地的な強風が発生し、一時、電力供給が不安定となった模様です。統括理事会の調査によれば、強風に煽られた風力発電のプロペラが回転のし過ぎで動作不良を起こしたのが、電力供給が不安定になった主な原因と見られ……』

 

 テレビから流れてくる朝のニュースを聞き流しつつ、ボーッと虚空を見詰めていたカイツは。

 

「……ン?? プロペラが強風に煽られ回転のし過ぎで動作不良?? おかしいですネ。風力発電のプロペラは、強風ではそのような事にはならないはずですガ……」

(風が強過ぎる場合は負荷が掛かるのを未然に防ぐためプロペラの回転を止めるのデ、電力供給が不安定になる事はあっても、回転のし過ぎで壊れる事などあり得ないのでス)

 

 ニュースで引っ掛かる言葉を耳にしたので、しばし考え込んだ後、部下に連絡を取り始める。

 それからしばらくして、部下から折り返しの連絡が来たので、二言三言話した後、いよいよ確信を深めていく。

 

「そうですカ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。強風だったのは第七学区のみ」

(つまり……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ト)

 

 そして、彼の目に怪しく光が灯り始めるのだった。

 

 時刻は既に、8月17日朝7時を回っていた。

 


 

 同時刻、自室で目を覚ました御坂は、携帯に届いていた『差出人無し』のメールの内容を見て、愕然としていた(今度のメールにはウィルスは仕込まれていない)。

 

『どうやら、昨晩の影響で第七学区全域の風力発電のプロペラが一斉に逆回転したようです。

もう二度と同じ手は使えません。恐らく犯人の目星も付けられているかも知れません。

私の作戦ミスです。ごめんなさい。

これからは十分に注意して、軽はずみな行動は控えてください。それと無理だけはしないように。

食事が喉を通らないのは、気持ちは分かりますが、最低限何か食べて、どうかご自愛ください。

また何か動きがあれば、逐一伝えます。それでは。』

 

「…………。」

 

「何なのよもう! 正体不明のメールで平謝りとかされても、こっちはどう反応すりゃいいのか。全く、その()()()()()()のせいで、あんたの正体ダダ漏れなのよ……!」

初春(ういはる)さん……気持ちはすっごく嬉しいけど、これからどんな顔で会えばいいのやら)

 

 御坂の顔は、嬉しさ半分、切なさ半分と言った感じになっていた。

 

 なお隣のベッドでは、昨夜遅くにクタクタに疲れて帰ってきた白井が泥のように眠りこけていたため、御坂と正体不明のハッカーとのやり取りを盗み聞きされるような事はなかった。

 


 

行間

 

 英国夏時間、8月16日の夕方4時半過ぎ。

 

 ヴァーニーの能力『寓意画家(サイファー・ペインター)』で佐天涙子(さてんるいこ)から読み取った脳内情報を暗号化した『寓意画』を、ファティマの能力『告解魔眼(ファイブ・アイズ)』で解読した結果……またもやファティマが倒れた。

 

 知らせを受けた彼女の()()のシャンは血相を変え、彼女が寝ている部屋まで駆け付けた。

(知人が倒れたなんて言う辛い場面を子供に見せたくなかったのか、はたまた置いて行かれただけなのか、ミサは部屋で留守番させられた)

 

 なお、この事は佐天には知らされていない。

 本人の責任ではない事に関して、気に病ませるような情報を不必要に与えるべきではないとするヴァーニーの配慮に基づく判断だった。

 同様の理由で、ファティマが()()()()()()()を寓意画にしたものを解読している途中で倒れたと言う事情は、ファティマを特に心配するシャンを含め、他の誰にも知らせてはいない。

 なので、この事が原因で()()()()()()()()()()と言う事は無いだろう。

 

 シャンが駆け付けてから1時間後、ファティマが目を覚ます。

 しかし、ヴァーニーからアイコンタクトを受け取った彼女は事情を察し、何も言わなかった。

 おかげで表向きは、彼女が一昨日倒れた後遺症で貧血を起こしてまた倒れたと言う事になった。

 

 ただ、微妙な空気を鋭く察知したシャンは、何か隠し事をされたと流石に気付いたようだが。

 

 そして、シャンは部屋にミサを置きっぱなしにした事を思い出し、急いで帰ろうとした矢先──

 

 ──佐天と出くわした。

 

「……ぅワッッ??!!」

 

 留学初日に『寝込みを襲われた』トラウマからか、お化けでも見たように、大袈裟に驚いて飛び退く佐天に対し、シャンは居心地を悪くし、悲しみに包まれた顔となる(自業自得だが)。

 

「って……ああ、すいません」

「いや、別に構わないネ」

 

 そして、そのまますれ違おうとした所で、シャンはふと()()()

 

「……今から()()()()()ネ?」

 

 そう佐天に尋ねた所。

 

「ええ……? と、トイレ……ですけど? ……!! ま、まさか……!?」

「アッシはそこまで見境なしじゃないネ!」

 

 露骨に警戒されたので、堪りかねたシャンはプンスカ怒り出し、そのまま足早に去って行く。

 その後姿を見送りつつ、佐天は安堵の溜息を吐くと同時に、『どの口が言うか』と言いたげな、大変ゲンナリした顔となる。

 

 シャンは部屋までの帰り道を歩く途中で、()()()()へと至っていた。

 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()との理由からだった。

 

(佐天は恐らく、ファティマが倒れた事を知らされていない。……なぜ??)

 

(確か今日は佐天の能力を調べる予定があったはず。その担当はヴァーニー先輩とファティマ)

 

(……ファティマが倒れたのには佐天が関わっている。だから、先輩は本人に情報を伏せた)

 

(恐らく、原因は一昨日倒れた時と同じ。あの『謎の胎児』も佐天も学園都市から来たのは同じ)

 

(佐天にも、あの胎児にも……そして、ミサにも()()がある。一度、()()()に相談してみるか)

 

 そして、部屋に戻ったシャンは再び『黒い(こばこ)』を取り出し、学園都市にいる仲間(まじゅつし)と連絡を取り始めるのだった。

 


 

『件の侵入者が外へ向けて発する(ポケベルの)電波と同質のものを()()()確認しました』

 

──ふむ。とうとう向こうから尻尾を出し始めたようだ。

 

『具体的な位置情報は……ロンドン・イーストエンド……クロトン・エメラルド研究所ですね』

 

──やはり、裏切り者(ユダ)はそこにいたか。釣り糸を垂らし続けた甲斐があったと言うものだ。

 

『……銛で仕留めますか?』

 

──いや。まだ泳がせる。気付かれぬよう網を張れ。逃さぬうちに、一網打尽にする。

 

『では、“木原(きはら)”を使いますか』

 

──()()()も兼ねて、最も足の速い()()で追い込む。明朝、私から直接頼むとしよう。

 

『……かしこまりました。ではそのように手配いたします』

 


 

 日本時間の8月17日朝9時頃。

 

 御坂は朝食も食べずに寮から抜け出し、監視カメラの死角となる場所を縫うように飛んで行った後、第十五学区の繁華街にある公衆電話ボックスの中にいた。

 いつもの行動範囲(第七学区)から離れている上、人通りの多い街中に埋もれれば目立たないとの算段によるものだった。

 

「もう尻尾を掴まれているって言うなら、今更バレた所で関係無いわよね」

 

 そう独り言を呟きながら、御坂は公衆電話からの回線を通じて、研究施設へのハッキングによるサイバー攻撃を敢行する。

 

 昨日の攻撃による被害状況を確認した結果、研究員を狂わせる攻撃が及ぼす計画へのダメージは限定的と言う事が分かってきたため、ダメ押しとして機材そのものを徹底的に破壊する事に決めたのだった。

 たとえ研究員を使い物にならなくして、研究データと一部の機材を破壊しても、バックアップがどこか秘密の場所に保管されていたのか、すぐに復旧したらしく、その上さらに、研究員も新たに補充されたため、いくら研究員を潰した所でキリが無いのだ。

 

(初春さん……いや、アンテイアさんには、あまり無茶をするなと釘を差されたけど……)

 

「やっぱり、手段を選んではいられない。一刻も早く実験を止めないと、あの子達が……どんどん死んでいってしまう。だから……次は、研究機材を跡形もなく、焼き尽くす。奴等の研究資金を、底を突かせてやるんだから」

 

 そう意気込んで見せるも、やはり人命に直接手を下す事まではできない、優しさを捨てられない御坂だった。

 

 そして、ハッキングの途中で気付かれたのか、向こうから回線を切断される。

 

「……ッ。やっぱり気付かれたか。昨日やったみたいに、上手くは行かないものね……」

(初春さんなら、もっと気付かれないようにできるんだろうけど)

 

 しかし、それでもある程度は功を奏し、現存する研究施設の7割を破壊し再起不能にした。

 

 ……はずだった。

 

『駄目ですよ。そんな事したら、器物損壊および放火、威力業務妨害罪になっちゃいます。

そうならないために、ネット回線をダミーのサーバーにリダイレクトしときました。

なので、研究施設は攻撃されてませんし、犯罪も成立していません。

今ならまだ見逃して貰えると思いますよ。引き返すなら今のうちです。

まずは落ち着いて冷静になってください。

……あ、そうそう。風紀委員のK・Uさんが、同僚のK・Sさんに頼まれて、あなたのために安心堂の期間限定・水まんじゅうを買っておいたらしいですよ。

いつもの溜まり場(支部)で待ってるので皆で一緒に召し上がりましょうとの事です。』

 

 唐突に、御坂のPDA端末に、長々とした奇妙なエラーメッセージが表示される。

 と言うより、正体不明のハッカー『アンテイア』から攻撃され、端末を乗っ取られたのだ。

 

 昨晩も携帯と端末をハッキングされたため、他にウィルスが仕込まれていないか、セキュリティホールがどこかに無いかなどを徹底的に洗い出し、考え得る限りの脆弱性を除去したつもりだったのだが……ハッキングした先の研究施設のサーバー自体に巧妙な攻性防壁(ファイヤーウォール)が仕掛けられており、そこから逆ハッキングされた模様。

 

 リダイレクト先に関しても、御坂のサイバー攻撃による破壊を防ぐため、世界中の不特定多数のサーバー上に間借りする形で仮想サーバーを設ける事で負荷を分散させた上で、研究施設の機材が破壊されたように見せ掛けていたのだろう。

 

 状況を即座に把握した御坂は、息を呑む。

 そして端末から公衆電話に繋げた回線ケーブルを乱暴に『ブチッ』と引っこ抜いた後、そのまま電話ボックスを飛び出し、第七学区へと引き返す。

(同時に、御坂の頭の血管からも『ブチッ』と音がしたような、しなかったような)

 

「……もう頭きた!! いくら初春さんでも、ここまで大きなお世話を焼かれる筋合いは無いわ! 私は1秒だって止まれないのよ!! 一刻も早く研究施設を一つ残らず潰さないと、あの子達が死んじゃうんだから!! それが分からない子なら、もう()()したっていい!!!」

 

 怒り心頭で我を忘れた御坂は、チェスト関ヶ原と叫ぶ薩摩の猪武者も斯くやの猪突猛進振りで、初春が待っていると思われる第七学区の風紀委員第177支部を目指し、弾丸のように駆けていく。

 

 ……その時、後ろから追い縋るように付いてくる影があった。

 

(……!?)

 

 御坂は即座に身を翻し、背後からの攻撃を避ける。

 すると、姿を現したのは、御坂に飛び蹴りをかまそうとした()()()()()()()()()()()──

 

「風紀委員だよ。久しぶりだね、御坂美琴お姉ちゃん」

「あ……アンタは……!」

 

絶対能力進化(レベル6シフト)実験に関連する研究施設へのサイバーテロ未遂容疑と、ついでに初春お姉ちゃんへの暴行未遂容疑も付け加えて、事情聴取のため風紀委員の支部へ連行するよ?」

 

 ──風紀委員第49支部所属の全身サイボーグ少女・木原那由他(きはらなゆた)だった。

 


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