とある佐天の裏技遊戯(ニューゲーム) 作:RB_Broader
私、
もちろん、こんな
ただ、これが何なのかを調べるだけ。
音楽ダウンロードサイトから落とせた時点で、音声データなのは分かる。
それを繰り返し使うとするなら、まずは
ただし。
その前に気を付けないといけないことがある。
世の中には、『魔導書』という読むだけで脳が汚染される危険な本があり、その『
そんなモノを生み出してしまった
つまり、幻想御手もまた『魔導書』である可能性があるのだ。
使用者がまだ普通に生きてるのが確認できてる時点で、すぐに発狂したり、死ぬようなものでは無いっぽいけど。
……試しに一回だけなら、聴いてみても大丈夫かな?
そんな考えが頭を過るも、どういう訳か、私の警戒センサーが最大へと振り切れ、全力でお断りしてくる。
それだけは。
絶対にやっちゃいけない。
私の心の中から、悲鳴にも似た警戒信号がけたたましく鳴り響く。
唐突に。
あまりのやるせなさに、溜息をついてしまう。
すると、いつの間にか、頬を涙が伝っているのに気付く。
どういう訳か、悲しくて何も手に付かなくなり、とうとう私は訳も分からず
気が付いたら、朝になっていた。
あのまま机に突っ伏して、寝てしまってたらしい。
早くしないと学校に行く時間になるので、急いでシャワーを浴び、出掛ける準備をする。
もちろん、朝食と弁当作りも忘れない。
その日の授業には、『AIM拡散力場』に関する内容が含まれていた。
私にとっては既知の事柄ばかりの今更なもので、あまり真剣に聞く意味も無かったので、先生の話を半ば聞き流しつつ、前の席に座ってる初春にちょっかい掛けたりしてたけど。
……てか。
『人間の五感では感じ取れず、専用の機器を使わなければ計測できない』
あたしは五感のうち嗅覚でニオイを嗅ぎ取れるんだけど、それって専用の機器なみってこと?
なのに、身体検査では
もし仮に能力認定されれば、『
残念なことに、あたしの鼻からそういったAIM拡散力場は出ていないようだ。
『目下、この分野の研究は成長著しく』
『同系統の能力者による力場共鳴現象』
『力場干渉による能力の人為的制御の成功例』
まあ、この辺りの技術が幻想御手に悪用されてるんだろう。
作曲者はおそらくAIM拡散力場に詳しい研究者かも。
その日の放課後、幻想御手によって繋がったAIM拡散力場のニオイを追って街中を彷徨いてると、道路の向かい側から見知った友達の声が聞こえてきた。
「佐天さ~ん!」
試しに鼻を利かせてみたところ、微かなオゾン臭が漂ってくるのが分かる。
微弱な電磁波により大気中の酸素が化学変化でオゾンに変わったせいか。
コピー機のすぐ近くでもよく起きる現象らしいけど。
場所を変え、私と御坂さんの二人はオープンテラスのカフェで飲み物を飲みながら、雑談に花を咲かせる。
御坂さんから聞いた話では、最近『爆弾魔』が世間を騒がせてるらしく、
おそらく、これも幻想御手絡みだろうと思う。
最近、学園都市……特に第七学区が妙にキナ臭いというか、『アルミ臭』が鼻につくとともに、空気に微かに『不自然な重さ』が感じられるせいだ。
私には魔術の知識とか、力に対する嗅覚みたいなものが備わってるといえ、未だに無能力者のまま、事件解決の役に立てたことなど一度も無い。
だから、風紀委員として頑張ってる初春や白井さん、超能力者として事件解決のため絶大な力を振るうことのできる御坂さんに対し、引け目を感じてしまうのだった。
という訳なので、一介の学生として協力するため、ほんの少しだけヒントを投げてみる。
具体的には、自分が無力なせいで周囲の友達に対し引け目を感じてるという本音を漏らしつつ、それとなく幻想御手に関する話を切り出してみるのだ。
しかし、空振りに終わったようだ。
華麗にスルーされ、皆でセブンスミストへ買い物に行く話に切り替わる。
……もしかして、気を遣わせちゃったのかな?
まあ、あんまりくどいと怪しまれるから、またの機会にしとこう。
その日の夜、またもや私はパソコン画面と向き合っていた。
横にあるプリンターから、破線状の切れ込みが入った厚紙が出てくる。
両面・厚紙印刷に対応した機種で、かなりお値段の張る逸品だ。
厚紙には何枚かのカードの柄が両面にまとめて印刷されている。
裏面は、色とりどりの薔薇の花弁の周りに五色の十字架からなる紋章。
表面は、タロットカードの小アルカナの図柄が何種類か描かれている。
トート・タロットの写しである。
それを破線の切れ込みに沿って、カッターで丁寧に切り離し、カードの形に綺麗に整える。
次に、ラミネーターを使って、それらのカードを一枚一枚丁寧にラミネート加工していく。
このために、かなりの出費をしたのだ。
もちろん、能力開発とは関係のない『趣味』なので、親からの仕送りを当てにする訳にもいかず、少ない奨学金の中でやり繰りするしかなく、機器を揃えるために、数ヶ月間、晩御飯が卵とモヤシ炒めだった時期が続いた。
業者に頼む方法もあるにはあるが、一回あたりの値段が高く付くのと、なるべくこのカードの事はあまり他人に知られたくない、と言うか、大切なカードを手元から離したくないという理由で、自作にこだわることに決めたのだ。
新しく刷り上がったカードの一枚、
ピンクの蓮の花から水が注がれた先に、4つの杯の図柄。
カードの上部には数字の4。
下部には『CUPS(杯)』と『Luxury(贅沢)』のロゴが重なる。
見た感じ、杯がドンペリタワーのように積み重なっており贅沢に見える。
私は、その真新しいカードにすぐに
「今日は7月の中旬かぁ……。星座は蟹座、
確認のために、羅列した情報を口遊んでみる。
しかし、あまり気が乗らない。
先日やった儀式みたいに、お風呂場で血を吐いて具合が悪くなる惧れもあるからだ。
明日は皆でセブンスミストに買い物に行くのだから、体調を崩すかもしれない危険な作業をわざわざ今日やる必要も無いんじゃないか、と思う。
「先月(6月)下旬にも同じ蟹座でやってみたけど、やっぱり龍脈の流れが上手くいかなくて頭から血が出ちゃったしなぁ……それでも『アリエル』のテレズマは充填できたし、それで十分かな?」
というわけで、今日は儀式を中止することにした。
放課後、御坂さんや初春と約束してた待ち合わせ場所で落ち合う。
白井さんは風紀委員の仕事で来られないとのこと。ちなみに初春は非番。
最近物騒なのと、何だか胸騒ぎがしたので、念の為、テレズマ・カードを何枚か持ってきて、ポケットの中に忍ばせてある。
……それに、どうやら予感は当たったようで。
ちょうど私達三人がセブンスミストに入っていく間際、右斜め後ろ、道路を挟んだ向かい側のどこかから、以前学舎の園で向けられたものとは比較にならないほど濃密で、禍々しく捻じ曲がった『呪詛』が。
私にではなく、
…………。
私はとりあえず、周囲に目を配ることとする。
初春のすぐそばには御坂さんがいるので、直ちに何者かに襲われることは無いだろう。
なので、代わりに私が目となり、ごく自然な形で、不規則に忙しなく周囲を動き回り、視点と視野を頻繁に切り替えることで、初春の周囲から『死角』を潰していく。
一通り周囲を確認したところ、あの悪意の発信源は近くにいないと分かったため、エスカレーターで4階に上がった辺りで一度大きく離れ、目的の場所へ先回りしつつ周囲を確認する。
女性下着売り場まで行き、AIM拡散力場や魔力のニオイがしないのを確認した後、ちょうどエスカレーターから降りた初春を大声で呼び寄せる。
初春が私の呼び掛けに応じ、御坂さんから離れたことで、彼女を狙う何者かが反応するかどうかを観察するも、周囲からそれらしい反応は無かった。
わざわざ真っ先に下着売り場に行くことで、悪意の持ち主に対し、羞恥心を伴う心理的圧迫を与えることも狙ったが、どうやら空振りだったようだ。
……なんで相手が『男』だと分かったかって?
そんなの『女の勘』に決まってるじゃん。ニオイで分かるっての。
ついでに駄目押しで初春をいつものお約束なパンツネタでからかいつつも、ガールズトークを繰り広げ、周囲一帯に『女子だけの現実』を構築する。
お前はこういう世界とは違う世界の生き物なんだゾ。
なのに、いつまでそうやって見ているつもりだ?
この、
……と、言外に匂わせるのだ。ドギツいくらいに、プンプンと。
しかし、それでも『全く』反応ナッシング。
そもそも、周囲に人は疎らで、同じフロアにいるのは私達以外は店員だけのようだった。
うっわぁ……盛大に空振りかあ。
ま、まあ、初春の反応が最高に面白いから何の問題も無いんだけどね!
ははは……。
ここで気分を切り替えるため、御坂さんにどこへ行きたいか尋ねてみる。
すると、パジャマ売り場に行きたいと言うので、初春が率先して案内し始めるのだった。
……まだ、反応は無い。
このフロアにはいないのか。
でも、店に入る際のあの悪意の向け方は、絶対に逃さないという明確な意思を感じさせるものだった。
必ずどこかで息を潜めているはず。
そんな事を考えながら歩いていると、御坂さんがふと足を止め、何かを凝視し始めた。
……ピンクの花柄の、子供用のパジャマ?
御坂さん……やっぱりお子様趣味ですね。
目をキラキラさせながら子供のように破顔した御坂さんが、『ねえねえ』と手招きしてきたので、私はすかさず畳み掛けるように真逆の感想を被せることで、それとなく制して見せる。
このまま御坂さんに喋らせ続けたら、彼女のお子様趣味が完全に露呈して、あたしも初春も反応に困って、全員で微妙な空気になっちゃうンスよ。
ですから、カミングアウトするなら、まずは徐々に段階を踏んでからにしてくださいね?
とりあえず、御坂さんはピンク花柄お子様パジャマにご執心のようなので、私は『水着を見てきます』と言い、初春とともに一旦その場を離れる。
御坂さんには一人ゆっくり楽しんで貰うとして、初春を一人にする訳にもいかないので、私が付きっきりで見張ることとする。
水着選びをしながら会話に花を咲かせている間も、私は周囲への警戒を怠らず、悪意のニオイの発生源を嗅ぎつけるべく、センサーを広げる。
……その時。
ほんの僅かだが、視線を感じた。
アルミ臭。そして、重い空気。
爆弾魔の事件が世間を賑わせ始めたのと時を同じくして、第七学区に充満し始めたキナ臭いナニカ。
ここに、爆弾魔がいる。
狙いは……初春か。
私はスカートのポケットの上から手をギュッと握りしめる。
中には、テレズマ・カードがそれぞれ入れられた5枚のケース。
爆弾に即応できるのは……3枚か。
アリエル。属性は水。形は柵。爆弾を濡らし、壁を作れる。
ロケル。属性は風。形は窓。四角く区切られた範囲で爆風を相殺できる。
ナナエル。属性は地。形は手。地面から手を生やし、壁にできる。
詠唱短縮に加え、
いや。それじゃああまりに遅すぎる。
使えるのは、せいぜい1枚のみ。
しかも、詠唱短縮プラス速記でギリギリか。
……御坂さんは自力で何とかするだろうから、せめて初春だけでも。
──よし、決まった。
水着売り場から離れ、御坂さんがいると思われるパジャマ売り場へ向かう途中、私はおもむろにポケットの中から3枚の『銅』のケースを取り出し、それぞれ中身を改めた後、1枚だけ選び、ケースから取り出して逆側のポケットに忍ばせる。
「それ、何ですか?」
私の横を歩く初春が、それを目敏く見付け、尋ねてきた。
「ん? ああ。おまじない」
私は何の気無しに、あっけらかんとして、
それで何の問題もない。
ここはオカルトが『オカルト』としか見なされない科学の街。
たとえ何も包み隠さず、魔術理論を駆使して全てを詳らかにしたとしても、この力の正体がバレるなんてことは無いのだから。
パジャマ売り場へ戻ると、御坂さんがなぜか草臥れた様子で一人項垂れていた。
何があったんだろう。
知り合いにでもバッタリ出くわして、お子様趣味を笑われたのかな。
そのままお花摘みに行った御坂さんを、その場で待ち続けるのも難なので、初春と二人で近くの洋服売り場へ移動する。
そしてすぐに御坂さんが戻って来たので、手招きして呼び寄せた。
すると、ほんの微かだが匂ってくる……アルミ臭。
……爆弾魔とニアミスした?
思わず冷や汗を掻きつつ、顔を強張らせる。
そんな私の様子に気付いたのか、初春が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「佐天さん、大丈夫ですか?」
え?
ああ……うんうん。平気だよ。
気張り過ぎたせいで、却って初春に心配掛けちゃったよ。
いやぁー。メンゴメンゴ。反省。
御坂さんも、そんな顔で怪訝そうに見ないでくださいよ。
大丈夫ですから。
そんなこんなで、この場をどう誤魔化すか思案してるちょうどその時、初春の携帯が鳴った。
どうやら白井さんから急ぎの用事みたいだ。
いきなり大声で怒鳴るせいで、こっちにまで丸聞こえだよ白井さん。
『学園都市の監視衛星が、重力子の爆発的加速を観測しましたの!』
……ッ!!
「か、観測地点は──」
『今、近くの
『あなたは速やかにこちらに戻りなさい──』
初春の質問を遮る形で、白井さんが矢継ぎ早に言葉を続ける。
「ですからっ! 観測地点を!!」
『第七学区の洋服店、セブンスミストですの!!』
……やっぱりそうか!!
もう動き出した!
来るなら来なさいよ! 爆弾魔!!
「セブンスミスト……。ちょうどいいです。私今そこにいます。すぐ避難誘導を開始します!」
って。
ちょっと待って。
……ああ。そうなる訳ね。
初春、風紀委員だもんね。
てか、いきなり通話切っちゃだめじゃん初春。
白井さん、まだ何か続きを言いたそうな雰囲気だったよ。
「落ち着いて聞いてください。犯人の次の標的が分かりました。この店です」
携帯を閉じた初春が、私と御坂さんに向けて、そう告げる。
……いやいや。
落ち着くのはアンタだよ初春。
標的はおそらく、この店じゃなくて初春自身。
白井さんもそれを伝えようとしてたんだろう、きっと。
うーむ。ディスコミュニケーション。
まあ、仮に標的が初春自身と分かった所で、アンタは風紀委員としての任務を全うするんだろうね。
それが初春だし、あたしはそんな初春が大好きで仕方がないんだもんね。
だったら、あたしはもう敢えて何も言わずに協力するよ、初春。
思う存分任務を全うしなよ。あたしはそんなアンタを守ってみせるから。
「佐天さんは避難を」
…………。
……あれ?
どうしよう。
そういやあたし、完全な一般人だったわ。
しかも、御坂さんみたいな高位能力者じゃない、無能力者だし。
あたしが初春を守るために残るって言っても誰も信じないだろう。
はあ……。
しゃあない。
とりあえず、一旦避難した後で、爆弾魔を探し出しますか!
手掛かりは『アルミ臭』と『不自然に重い空気』。
そして、AIM拡散力場同士のネットワークの結節点に近い『束』の部分。
おそらく、そこを追っていけば爆弾魔に辿り着くはず!
っと。
建物の外に避難した時点で、それに面した通りが避難者と野次馬でごった返していたが、その中にキナ臭いニオイを発見。
……あの眼鏡野郎が、爆弾魔か!!!
あたしには分かる。
AIM拡散力場のニオイが一緒だから。
それに、随分と
アレはかなり
ん。待てよ?
AIM拡散力場の強さ、ネットワークの束の密度と強度。
それらに不釣り合いなほどの
つまり、コイツは誰かに面と向かって戦いを挑むことのできない臆病者で、コソコソと爆弾仕掛けた後、爆発の様子を遠くから眺めて楽しむことしか能がない正真正銘のクズってことか。
それじゃあ、遠くにある爆弾っていうのは……まだ建物の中!
まずい!!
このままじゃ初春が!!
と、そこに、ツンツン頭の男の人がやってきた。
あちこち走り回って、慌てた様子で誰かを探してる?
逃げ遅れた子がいるのかな?
そして、近くにいた御坂さんがその男の人と何か話した後、すぐにその人と一緒に建物の中に引き返して行った。
……あたしも後を追い駆けよう!
他に誰もいなくなった店内の十字路のど真ん中で、初春に近付いていく女の子が、カエルのぬいぐるみを抱えているのが見えた。
私の前には御坂さんと、ツンツン頭の男の人。
そして。
女の子から初春に手渡されたぬいぐるみからは強烈な
それが爆弾であることに気付いた初春が咄嗟にぬいぐるみを背後へと放り投げ、女の子へ覆い被さる。
御坂さんとツンツン頭の男の人が、爆弾と初春達との間に割って入る。
あたしは──。
「
速記詠唱の直後、初春と女の子を守るように覆い被さりながら、爆弾へ向けポケットから取り出した『
そして。
ゴツゴツした巨大な手が床面から生え、私達の周囲を守るように覆い隠し、その向こうから、轟音と、『キュイイイイイン』という
「……イッヒヒヒヒ……クッヒヒヒヒ!!」
爆発の威力に酔いしれているのか、復讐を果たせたことがそんなに嬉しいのか、爆弾魔は何やら考え事に没頭しつつも、気味の悪い笑いを漏らす。
「もうすぐだぁー……あと少し数をこなせば、無能な風紀委員もぉ、あの不良どももぉ、みんなまとめて吹き飛ヴァ──!?」
そこに、御坂キック炸裂。
ブツブツと独り言を呟いていた爆弾魔は一撃で吹っ飛ぶ。
そして、御坂さんの後ろには、この私がついて来ていた。
というより、私が犯人の爆弾魔の顔を直接目撃していたため、私が案内する形で御坂さんと一緒にそいつを見付けて追い詰めたのだ。
「はぁーい。用件は言わなくても、分かるわよね? 爆弾魔さん」
「な、何のことだか、僕にはサッパリ──」
「まぁー、確かに威力は大したモンよねぇー。でも残念。アンタの爆弾じゃ、死傷者どころか、誰一人かすり傷すら負ってないわよ」
「そ、そんな馬鹿な!! 僕の最大出力だぞ!!」
「……へぇー?」
「あ……やぁー、外から見ても凄い爆発だったんで、中の人は、とても助からないんじゃないかって──!」
爆弾魔は一応しらばっくれてはみたものの、爆発の威力によっぽど自信があったのか、色々ボロを出しまくった末、不意打ちで隠し持っていたスプーンを爆破しようとして、御坂さんに超電磁砲であっけなく倒されてしまった。
てか、やっぱ凄いわ『
当たり前だけど、今のあたしじゃ、何やっても全然敵わない。
「……レールガン……今度は、常盤台のエース様か」
「いつもこうだ……何をやっても、力で地面に捻じ伏せられる」
「ころしてやる……! お前みたいなのが悪いんだよぉ!!」
「風紀委員だって同じだ! 力のあるやつは、みんなそうだろうがぁ!!」
ああ。そうか。
コイツは自分の弱さに苦しんでたんだ。
だから、幻想御手なんていう
でも、だからといって、何もしてない初春を逆恨みで付け狙ったり、小さな女の子にまで危害を及ぼす言い訳になんてならない。
そんなの、弱い人間を力で捻じ伏せるのと一緒じゃないの!
もう動機も目的も手段も何もかもメチャクチャで、手の施しようがない。
分不相応な力をこんな形で手に入れてしまったせいで、脳が汚染されたとしか思えない。まるで魔術の犠牲者みたいだと思う。
何だかあんまりにも惨め過ぎて、これ以上追い詰める気にもならないんで、あたしが実は『怪我をしてた』っていうのは内緒にしとこう。
その怪我の原因も、コイツの爆弾のせいではなく、咄嗟に使用した速記詠唱で無理やり術式を発動させたことで、カードに充填されていた分のテレズマに加え、余分に魔力が必要となり、不足分を体内から直接生成してしまった結果の『魔術の副作用』によるものなんだけど。
とりあえず、避難した際に転んで頭を打ったということにしておいた。
つまり、コイツは自慢の爆弾とやらで誰一人傷付けられない一方で、あたしは転んだだけで怪我をした。
あたしが転んだだけで簡単に付く程度の傷すらも、コイツの爆弾は一つたりとも付けることすらできなかった。
ざまーみろ。
……って、勝ち誇ってやる手筈だったんだけど。
もうどうでもいいか。
……あ。御坂さんがブチキレて、爆弾魔を殴った。
そして、いつの間にかそこにいた白井さんの説教。
力を言い訳にするな……か。
でも、それは力が無くても何者にも負けない心が強い人の言い分ですよ。
本当に立ち向かうべき者に歯向かわず、何も悪くない誰かに八つ当たりする心の弱い人間もいるけど、それは決して
それが
あたしにはそれが分かる。
だから、爆弾魔のやったことは許せないけど、コイツの弱さを
あたしはコイツを笑わない。
「……爆弾魔さん」
「……!」
「あたしは、あなたが力を言い訳にして、こんな形でしか復讐できなかったことについて責め立てたりはしません。力の弱い人間は強くなれないくらい弱いからこそ弱いままなんです。それは何も悪くない。ただ、何も悪いことしていないあたしのか弱い友人に手を出したのは許せないけど。言いたいのはそれだけです」
それだけ告げて、私はその場を立ち去った。
白井さんは、何だか微妙な顔で私のほうを見てたけど。
……あたし、何か余計なことしちゃった?
あの後、現場検証のため、白井さんと初春は風紀委員としてセブンスミストの爆発現場を訪れていた。そして、私は初春に付いていき、あの時一緒にいた女の子も付いて来ていた。
白井さんが何か考え込んでる様子。
爆心地付近にできた、放物線状の境目が気になるみたい。
まるで、初春達を守るように『バリア』が展開されたように見えなくもないが、御坂さんが瓦礫を使って盾を作った可能性も鑑みれば、ありえなくもない……かなぁ?
その後、今度は後ろの方にある『ドーム状の瓦礫』が気になる様子。
あはは……。
それは爆発の衝撃で天井が落ちて、上手い具合にドーム状に被さったとかじゃないですか、ね?
「佐天さん」
は、はい?
何でせうか……白井さん?
「これ、どう見ても、床材が隆起しているようにしか見えませんわよね」
さ、さあ……。どうなんでしょうかねぇ?
「天井が剥がれ落ちてきたという訳でもありませんし、かと言って床が剥がされたようにも見えませんし、というよりかは……『
はぁ……そうなんですかぁ。一体誰がやったんでしょうねぇ?
「…………」
何ですか? 白井さん。
「佐天さん。何か隠しておいででは?」
……やだなあ。何言ってんですか白井さん。
「……怪しいですの」
うぇっ!?
「そういえば佐天さん」
今度は初春!?
「あの時、何でわざわざ駆け付けてくれたんですか?」
それは、初春の事が心配だったから……。
(これは本心だし)
「それは分かります。佐天さん優しいですもん。……けど、せっかく避難してたのに、御坂さんと
え……。
「あの場にいた方々、全員の書庫情報を改めて精査したところ、あのような能力を扱える方は一人もおりませんでしたの」
「緊急時における偶発的な能力の発現や急激なレベルアップの可能性も考え、上条さんと佳茄ちゃんの能力を実際に確認しましたが、二人ともシロでした」
つまり……?
「あとは佐天さんだけですの」
…………。
はぁ……。
しょうがないか。
「これから風紀委員の(177)支部にお邪魔していいですか?」
「……支部へ、ですの?」
「はい。色々話したいことがあるんで」
私は、ほんの少しだけ打ち明けることにした。
今、私は事情聴取のため風紀委員177支部にいる。
白いテーブルを挟んで、正面には白井さん。
後ろの方、奥のパソコンデスクには初春がいる。
テーブルの上には『
もちろん、私がポケットから出したものだ。
「これは、……何ですの?」
「
「レベル、アッパー?」
首を傾げる白井さん。
後ろの方から、初春の鋭い視線を感じる。
「聴くだけで、能力のレベルが上がる『学習キット』みたいなものです」
ここら辺は憶測を元に、断定調で話してしまう。
もし間違ってたとして、後からそれが判明したところで、私が間違った情報を鵜呑みにしていたというだけの話で済むのだから、それほど問題は無い。
前にも同じことを考えたが、繰り返し使える無形のデータと言えば、楽曲や映像などの五感に訴えるモノ以外ありえないのだから。
それと、魔術分野に存在する同様のモノとして『
魔術知識の集まりを記した魔導書の原典はそれ自体が意思を持ち、その魔術知識を広めるため、それに触れた人間に対しそうするよう働きかけることで、人間は魔導書の内容を頭に刷り込まれた上、中身を写本という形で複製する。
さらに、魔導書は必ずしも文字で書かれた本である必要は無く、例えば音であったり絵であったりしても、中身さえ伝われば形式は問われないため、口伝という形式の魔導書も存在し得る。
つまり、幻想御手を魔導書として捉えるなら、楽曲を聴くだけで魔導書を読むのと同じ意味を持つ。
なので、私の説明はあながち的外れじゃないはず。
「実際、あたしのレベルも上がりましたし」
そして、ここからが嘘だ。
私は幻想御手なんて使ってないし、そのつもりも全く無い。
でも、使ったことにする。
私がセブンスミストで爆弾を防ぐために行使した魔術を、幻想御手で身に付けた能力ということにしてしまうのだ。
その上で、幻想御手の現物を差し出すことで、この学園都市に蔓延している隠れた脅威の存在を風紀委員に知らせ、これ以上の拡散を阻止するとともに、作成者を捕まえて貰おうという訳だ。
う~ん。我ながら一石三鳥のグッドアイデア!
「つまり、あの床から生えた手のようなものは……佐天さん。あなたの仕業と言うことでよろしいのですわよね?」
「はい」
「…………」
白井さんは、何やら考え込んでる様子。
「ところで、それはどこで手に入れたんですか?」
おっ、初春ぅ~。い~い質問だねぇ~。
私が思わず満面の笑みで初春の顔を見た途端、初春は怪訝な表情となる。
「何ですか? 佐天さん」
おっといけない。怪しまれないようにしないと。
気を取り直し、幻想御手のダウンロードサイトの場所を、パソコンを使って初春に教える。
そこからダウンロードした幻想御手の楽曲データと、私の音楽プレーヤーから移動した楽曲データが同一であるのを確認。
つまり、本物と証明された。
ちなみに、私の幻想御手のデータは没収されることとなったが、該当データのみを消去した上でプレーヤーは返して貰った。
他に、幻想御手の使用者が書き込んでいる匿名掲示板のことも教えたため、不特定多数に行き渡っている状況や、効果が実証されていることも風紀委員に伝わったことで、私の話が信じて貰えることとなった。
初春が言うには、幻想御手のダウンロードサイトについては、近々閉鎖するよう働き掛けてくれるそうだ。
はぁ~……。これで一つ、肩の荷が下りる。
ここで、それまでずっと押し黙っていた白井さんがようやく口を開く。
が。
「もう一度、アレをやって見せてくださいまし」
……へ?
さっきはあたしがやったってあれほど疑ってたのに。
今度はあたしがやったっていう証拠を見せろって。
何なんですかその掌返し。冗談キツいッスよ白井さん。
「確認のためですの」
「……ここでやるんですか?」
とりあえず、風紀委員の支部の建物内でやると、床とか色々メチャクチャになりそうだし、場所は変えたほうがいいと思うので、一応確認してみる。
準備も必要だし。
「それもそうですわね。では、場所を改めましょうか」
割とあっさりしていた。
ああ。カードが勿体ないな。
確かもう一枚、あれと同じ術式のがあったはず。
去年の秋頃にテレズマ充填したやつで、もうそろそろ使わないとエネルギー切れになるだろうから、在庫処分と思えばいいか。
というわけで、準備のためと断りを入れた上で支部から学生寮へ一旦戻り、『ナナエル』と同時期にテレズマの充填を行ったカードを持ち出し、白井さんと初春を連れ、第七学区の河川敷へと出掛ける。
河川敷は左右を堤防と大きな川に挟まれ、少し離れた所を橋が跨る。
そこには私と白井さんと初春の三人のみ。
ポケットには触媒のための音楽プレーヤーと『
地脈、龍脈の流れを確認し、触媒である音楽プレーヤーへ上手い具合に流れ込むよう位置取りを決めた後、カードを取り出し、触媒へと近付けることで流れを作り、術式発動の準備をする。
初春と白井さんの目の前で、片方の手で持ったカードを目の前に掲げ、もう片方の手で触媒を掴んだまま、術式の詠唱を始める。
「
──私と初春と白井さんの目の前に。
河川敷の砂利の中から、幅7メートル、高さ10メートルを優に超えるサイズの『巨大な手』が出現した。
…………。
あっれぇ~?
「ちょ、ちょちょ、なな、何ですかこれぇ!? 佐天さん!! 佐天さん!! こんなもの、危ないですぅ!! 今すぐ止めてくださぁい!!」
初春がパニックになってる。
白井さんは無言で見上げたまま、何か遠い目をして固まってるし。
まさか、ここまでデカくなるとは思いもしなかった。
佐天さんもビックリですよ。
……あ。崩れた。
どうやらビックリし過ぎて集中が疎かになったせいか、もしくはエネルギーが切れたせいで自然と術式が解除されてたらしい。
とりあえず、近くにいたら崩落に巻き込まれるので、白井さんや初春と一緒に空間移動でその場から離れた。
「まったく……いきなり能力を暴走させるなんて、危なっかしいにも程がありますの」
返す言葉もございません。
「佐天さん」
「はい?」
何でせう?
そんな真剣な顔して、白井さん。
「貴女は当面の間、能力の使用禁止ですの」
あっちゃあ~。禁止されちゃった。
まあ守るつもりも無いんだけどね。てか、能力じゃないし。
「それと……しばらくの間、できるだけ初春のそばにいるように。勝手な行動はお慎みあそばせ。初春も佐天さんから目を離さないように」
ええ~?
初春と一緒にいるのは楽しいけど、ずっと監視されるのはちょっと。
ほら、初春も何か困った顔してるし。
「んもう、しょうがないですねぇ~」
え? 初春? 何笑ってんの?
「とりあえず、佐天さんの部屋に監視カメラ設置しておきますね」
か、監視カメラ?
初春……マジで言ってんの?
「いつものスカートのお返しですよ。今度は私が佐天さんのお部屋覗いちゃいますからねぇー?」
ああ……。マジもんの目だ。初春の笑顔が怖い。
そんなんあたしの自由とかプライバシーとか、色んなものが無くなっちゃうじゃないですかー!
やだー!
魔術でズルしたとはいえ、善意の人助けのつもりだったのに……。
こんなことになるなんて、理不尽だぁー!!
解説:
レヴィアの術式で巨大な手が出現した理由。
大きな川に面した河川敷の地脈・龍脈の流れと、触媒(音楽プレーヤー)との位置関係がベストマッチしていたおかげで、カードに充填されたテレズマに加え、龍脈から過剰なエネルギーが供給されたため。
さらに、佐天は術式を短縮せずフルに詠唱したのに加え、英語を使ったことで、より術式のエネルギー効率が上がった。
また、佐天は術式の中で手のサイズを明確に指定していなかったので、供給されるエネルギーに比例し、際限なく膨らんだ(術式が暴走しかけた)。
付録:
買い物の時、佐天が隠し持っていたカードのリスト。
(作成の古い順)
ロケル Raehel
対応カード:剣(ソード)の7
充填可能期間:2月中旬(水瓶座・第3デカン)の夜
保存容器:銀
属性・形:風・窓
作成時期:小学5年の2月中旬(学園都市に入る前)
能力開発前のため副作用無し。エネルギー切れの可能性あり。
同じ効果の術式(エイアエル)を、学園都市転入初日に不良相手に使用。
イェザレル Iezalel
対応カード:杖(ワンド)の5
充填可能期間:7月下旬(獅子座・第1デカン)の昼
保存容器:鉛
属性・形:火・蛇
作成時期:小学6年の7月下旬
能力開発中のため若干の副作用あり(無視できるレベル)。
ナナエル Nanael
対応カード:貨幣(ペンタクル)の9
充填可能期間:9月上旬(乙女座・第2デカン)の夜
保存容器:銅
属性・形:地・手
作成時期:小学6年の9月上旬
能力開発中のため副作用あり(まだいける)
虚空爆破から初春達を守るために速記詠唱で使用。
ミズラエル Mizrael
対応カード:杯(カップ)の7
充填可能期間:11月中旬(蠍座・第3デカン)の夜
保存容器:銅
属性・形:水・魚
作成時期:小学6年の11月中旬
能力開発中のため強い副作用あり(魔力使用の限界近し)。
アリエル Ariel
対応カード:杯(カップ)の2
充填可能期間:6月下旬(蟹座・第1デカン)の夜
保存容器:銅
属性・形:水・柵
作成時期:中学1年の6月下旬(超電磁砲と出会った後)
浴室で充填儀式を行う。龍脈を利用するも副作用で出血。
佐天が河川敷に持って行ったカード。
白井と初春に見せるために使用。
術式の効果はナナエルと同じ。
レヴィア Leviah
対応カード:貨幣(ペンタクル)の9
充填可能期間:9月上旬(乙女座・第2デカン)の昼
保存容器:銅
属性・形:地・手
作成時期:小学6年の9月上旬
能力開発中のため副作用あり(まだいける)。