とある佐天の裏技遊戯(ニューゲーム)   作:RB_Broader

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絶対能力進化(レベル6シフト)・完結編
とある運命(レール)の運行再開(リカバリー)


 8月19日20時頃──全身包帯塗れの白髪の少年が隔離病棟のベッドの上で目覚めた。

 

 まず真っ先に彼の目に入ったのは、真っ更な純白のキャンバスに毒々しい真紅のスプレーを撒き散らして描かれた前衛芸術を意図した落書きの様な、血飛沫で乱雑に汚れまくった白い天井。

 ……ほんの少し前までここで誰かが暴れていた事、その際、血飛沫が飛び散ったであろう事が、ありありと見て取れる。

 

 首を回して左右をグルリと見渡すと、ベッドの掛け布団が捲れて思いも寄らぬ所へ落ちていて、それを含め周囲の物が滅茶苦茶に散乱しているのが視界に入る。

 壊れたテレビと思しきスクラップの欠片。ひしゃげた冷蔵庫。割れた蛍光灯に窓ガラス。

 そして、体をガチガチに縛っていたと思われる千切れた拘束具の成れの果て。

 

 ベッドから上体を起こしたところ、全身が今までに無いくらい『疼いて』いるのに気付く。

 彼は──天性の異能のおかげで体験するキッカケすら無く、さらに生まれてから一度は体験した事があるのかどうかすらも定かではないが──通常人が『筋肉痛』と呼ぶ、その感覚が何なのかを定義できずにいた。

 

 そう、この少年は──学園都市第一位の超能力者(レベル5)──通称『一方通行(アクセラレータ)』である。

 

 白い少年は覚束ない足取りで、ガラス片等が散らばった床に素足のままベッドから降り立つ。

 

 包帯が巻かれているとはいえ靴もスリッパも靴下すらも履いていない足が、床のガラス片を踏み割るも、血は一滴も流れ出ない。

 上に患者衣を着たミイラ男の幽霊が病室の床の上にポゥっと浮いて立っている様にも見える。

 その有り様は非現実的と呼べるし、滑稽ですらあった。

 

 今が何時なのかを確かめるため周囲を見回すも、あいにく携帯電話は手元に無く、時計やテレビ等の日時が分かる物は尽く破損してしまっており、確かめようが無いので、病室の外を探すため、仕方なく病室から出ようとした、その時。

 

 割れた窓の向こうから、無機質な視線と──()()()()()()のベクトルを感知した。

 

 思わず反射的に振り向いた少年の視線の先には──()()()()()()()()()()()()()の姿があった。

 


 

──ふむ……第一位はようやくお目覚めか。

 

『リカバリー用のバックアッププランへの移行準備は既に完了。()()()により、被検体の測定値の変化を反映しつつ遅れを取り戻すため実験計画の軌道修正も完了しております』

 

──再演算……『樹形図の設計者』(ツリーダイヤグラム)を模したのか。

 

“神官”(ハイエロファント)を核とし、補助として“女司祭”(プリーステス)“技”(アート)を配置する事で微調整を加えてあります』

 

──なるほど……だが、あれの消失は既に周知の事実。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『既に手は打ってあります。ダミーの都市伝説をいくつか撒いておきましたので』

 

──……ご苦労。残りの懸案は……幻想殺し(イマジンブレイカー)の介入への流れか。

 

第三位(レールガン)のほうは既に動いているのを確認済みです。重要施設2件に対し重点的に警備を配置した上で外部とのネットワークを切断し、それ以外の関連施設で誘導のための囮としてネットワークの防御を捨てた結果、既にサイバー攻撃によるこれらの施設の破壊が確認されています』

 

──……第三位をここで討つか。

 

『既に()()()()()()を派遣しましたが、成功率はかなり低めと判断し、重要施設から必要なデータや機材の退避を進め、引き継ぎ施設も既に秘密裏に確保してあります』

 

──なるほど……考えたな。しかし、それは()()()()()()()だろう?

 

()()()()()()()()()()()により立案された作戦です』

 

──少なくとも、これで第三位の心は折れるか。舞台は整いつつあるな。

 

『念のため、検体番号10031号および10032号の外部研修ルートを第三位および幻想殺しの少年との接触確率が高いルートへそれぞれ設定し直しました』

 

──10031号との遭遇により第三位は実験の継続を知り絶望し、10032号は幻想殺しと接触する事で救われる(ヒロイン)役となるか。

 

『その場合、1()0()0()3()1()()()()()()()()()()()()()()()と予測できますが』

 

──幻想殺しを研ぎ澄ますには十分な刺激だ。『禁書目録の件』による記憶破壊のせいで使い物になるのか不安視されたが、きっかけさえ与えられればヒーローの性質を取り戻し十全な働きをするのは『三沢塾の件』で既に証明されているからな。

 

『ただ……』

 

──ん?

 

『場を乱し、シナリオを崩壊させる“愚者”(フール)のカードがまだ一つ残っております』

 

──……佐天涙子(さてんるいこ)か。

 

『実家のある熊本市で一旦所在が確認されましたが、()()()()()()()()()()です』

 

──例の『超能力者を名乗る学生による学外での能力使用』の件か。

 

水流操作(ハイドロキネシス)発火能力(パイロキネシス)かが証言によりまちまちで、書庫との照合結果では該当生徒が見付からず、証言が信用性に欠けるとして、現時点では調査が止まっております』

 

──(発火能力は『(テト)』だろうが、水流操作か……妙だな。今のところ『(ケス)』と『(ヌン)』は弾切れで、再充填するには時期外れのはず。……属性魔術を使ったのか? あれに破壊力と呼べる程度の出力を持たせるにはかなりの修練を要するが……まあいい)

 

──……幻想殺しが第一位と衝突するまで、足止めは可能か。

 

『現在、各所へ打診中ですが、“原石の可能性がある”とはいえ()()()()()()()()()()を相手に重い腰を上げる者は有力組織(ネームド)の中からは一人も現れず、一般の無能力者を標的にする事が多い下部組織のほぼ全てから、学園都市外での活動は難しいと断られ、結局、箸にも棒にも掛からない最底辺の弱小組織しか引き受けてくれそうにない状況です』

 

──警察への捜索願は?

 

『既に家族が出していますが、恐らくはもう管轄外に逃げていると思われ、足止めは難しいかと』

 

──ふむ。罪状が無ければ、全国指名手配も不可能か。

 

『一件だけ、農作物窃盗の容疑で女学生を目撃したという地元農家の証言がありますが……』

 

──……??? もう一度頼む。

 

『……熊本市郊外にある農村部で農作物窃盗被害が発生し、現場では主犯と思しき人物とともに、一人の女学生が被害者の地元農家により目撃されており、その特徴は佐天涙子本人とほぼ一致』

 

──…………は??? ……何だと???

 

『主犯と思われる人物──高齢男性が地元警察に捕まった後、野菜泥棒の常習犯と判明し、女学生が共犯者であるとの証言を強く否定し単独での犯行を主張したため、潔白となりましたが』

 

──ふむ……?? ……その老人に、証言を引っくり返させる事はできないのか?

 

『不可能です。なぜなら、その高齢男性は既に()()()()()()()し、現在は行方不明なので』

 

──……!! ……なるほど、『阿蘇山の奇跡(アレ)』は()()()の仕業だったか。

 

『一応、イギリス清教に情報提供し(タレコミ)ましょうか』

 

──不要だ。あの女狐(アバズレ)に、こちらからわざわざ手助けする義理も無かろう。情報源を探られるのも具合が悪い。

 

『では、弱小組織による足止め依頼のみという事で』

 

──どの程度まで長引かせられる?

 

『最長でも2日程度。今からであれば21日深夜から22日未明まで』

 

──充分だ。それまでに()()()()()()()()としよう。

 


 

 時刻は8月19日15時頃まで遡る。

 

 私、佐天涙子(さてんるいこ)が謎の黒髪無表情少女・ミサから『独り言』として聞かされた話は、とても言葉では言い表せないくらいの衝撃的過ぎる内容だった。

 

 ……いや、話に聞く有名な魔術儀式の中にも大概──『人身御供(ひとみごくう)』とか『血の(わし)』とか『血の供儀(くぎ)』とか──残酷極まりないものはあるにはあるけども……それにしたってねぇ……。

 まあ科学側のほうでも残酷な人体実験が行われてきたのは、歴史の授業で習った事があるけど、この21世紀にもなって、人権意識が向上した世の中にあってなお、しかもよりにもよって科学側の旗印と言える学園都市の中で、このような人道無視の所業が()()()()()で行われていようとは……学園都市のあちこちにこびり着いている()()()()()()()()から、薄々勘付いていたとは言え、実際起きた話として聞かされると……やっぱりショックはでかいものがある。

 

 それに加え、どうやらミサ──いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は、()()()()()で追われる身らしい。

 つまりそれって……聞いたが最後、放っとけないって話じゃん。

 何が『ひとりごと』で『嫌なら聞こえないふりをして忘れて』だよ!!

 嫌でも聞こえないふりとか忘れるとかできないし、そんな場合じゃないでしょ!!

 

 お漏らしやら何やらで色々手間の掛かる面倒臭いガキンチョだから、ヴァーニーとか神裂火織(かんざきかおり)とか信頼できる大人達にでも預けようかと考えてたのに、学園都市の大人達に狙われてる……いや、ひょっとしたら()()()()()()()()()()()()()()()()()()追手が来るかも知れない状況で、あたしが目を放したまま一つの場所に置き去りにするなんて、とてもとても……。

 

 まず避難所に置いて行くのは論外──うちの家族が巻き込まれるし。

 ヴァーニー達に預けたとしても責任者になれる大人は同行している副理事長一人だけで、あの人が()()()()()()()()なんて未知数だし、ロンドンに一旦送られた後(ヴァーニー達も知らぬ間に)学園都市の関係者に引き取られた後連れ戻されるのはほぼ確定だろう。

 神裂は……震災ボランティアの──恐らく魔術を扱えるであろう──心強い仲間達もいるし、事情を話せば『か弱い子供』の側に付いて学園都市から守ってくれる確証はあるけど……正直な話、彼らに対し、()()()()()()()()()そこまでの負担を掛けられるくらいの信頼関係を築けていない。

(こんな事なら彼らともっと仲良くしとくんだった……『抹香臭い』なんて毛嫌いせずに)

 

 ……とはいえ。

 このまま()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それじゃあ元の木阿弥だろうから。実験は現在進行形で続行中だろうし。

 

 ……はあ。

 とりあえず今分かっている事、ミサ本人から直接聞いた『断片的な情報』を整理していこう。

 

 まず、ミサと名乗る少女の正体は──超能力者(レベル5)御坂美琴(みさかみこと)のクローン。

 精神年齢不明、外見年齢はおよそ14歳の、生まれたての赤ちゃんな模様(???)

 しかも、よく分からないうちに見た目が全く別人の子供に変わっていたそうな(?????)

 その影響か、能力のレベルが元々あった異能力(レベル2)から低能力(レベル1)までダウンしたらしい。

(遺伝子レベルで変わったせいなのか、体が小さくなったせいなのかは分からないが)

 

 次に、彼女を被検体として行われている実験について。

 超能力者の軍用クローンを量産する『レディオ・ノイズ』なる計画が土台としてあった模様。

 しかし、その計画は頓挫。何でも『クローンは超能力者に届かない』と分かったかららしい。

 一旦凍結されるも、別の実験に流用するため、クローンそのものは量産されたとの事。

 

 その実験とは、学園都市最強の超能力者をさらに一段強化するための『レベル6シフト』計画。

 

 ……『絶対能力(レベル6)』か……あの魔女(クソババア)の顔がチラつく()()()()()だ。

 

 そして、肝心の実験の中身は──超能力者第一位の『レベル上げ(レベリング)』のためだけに、生きた人間をまるでRPG(ロープレ)に出てくる雑魚(モンス)の如く扱い消費すると言う、耳にしただけで血肉の腐った悍ましい臭いで鼻が捻じ曲がりそうな……ただ考え付くだけなら怖いもの知らずの中二病患者(ガキンチョ)にでもできそうではあるけど、いざ実際に行動へ移すとなると……『きけしゃん冒険心(クリエイティビティ)溢れる先駆者(パイオニア)』を於いて他に実現できる者がいないレベルの、相当にキテる内容だと思う。

 狂信的科学者(マッドサイエンティスト)木原幻生(きはらげんせい)の手で能力を暴走させられた上で昏睡させられた置き去り(チャイルドエラー)の子供達を、絶対能力者を生み出すための生贄同然に扱おうとした魔女(テレスティーナ)の所業ですら可愛く見えるレベルで。

 

 それにロンドン留学の少し前、学園都市の駅のコインロッカーで御坂さんの『そっくりさん』を目撃した時に感じた──今あたしのそばにいるミサから感じられるのと同じ──あの()()()匂い。

 しかも、それらは束となって学園都市の広範囲を蜘蛛の巣みたいに覆っていると思われる。

 あれって恐らく、幻想御手(レベルアッパー)のAIMネットワークを作り出した大規模魔術理論と同じ……つまり、木山春生(きやまはるみ)にあの理論を授けたと思われる科学者の手によるものだろう。

 ミサは『ネットワークが繋がらない』とか何やら(こぼ)してたけど、レディオノイズとやらの仕組みにはそのネットワークも含まれていると見て間違いない。

 幻想御手の場合、本来は人間の脳同士を連結してグリッド・コンピューティングを実現する目的で形成されたネットワークが、能力者の能力レベルを底上げするための演算能力向上に流用された経緯があるけど、こっちのほうはどうやら『仲間同士の通信および連携』や『経験と記憶の同期』を狙ったものらしい。つまり、生身の肉体を大量消費する形での『分身の術』みたいなものか。

 

 とにかく、そんな悪逆非道(アタオカ)な計画が学園都市の上層部がガッツリ噛んだ形で現在進行中らしい。

 

 ──学園都市に来た直後から薄々感じてはいたけど、あの血なまぐさい臭いの出所がこんな代物(ゲテモノ)だと目に見える形で事細かに説明されると、改めて胸糞悪くなってくる。

 

 しかも……あのそっくりさんを目撃した日、御坂さんを連れてマネーカード探しした時点では、御坂さんに特段変わった様子は無かったけど、次の日には打って変わって妙に上機嫌だった。

 皆で買い物をした後、オープンカフェで駄弁(だべ)りながらゆったりと寛いでたっけ。

 その時、あたしが御坂さんのそっくりさんの話を切り出した後、彼女の様子が明らかにおかしくなったのを覚えている。確か、そのすぐ後に『もしも自分のクローンが現れたらどうする?』って話題に変わって、それを受けて御坂さんが『(もしクローンがいたら)目の前から消えて欲しい』みたいな事を言ってたっけ。

 

 …………。

 

 ……恐らくだけど、あたしとマネーカード探しした日から一夜明けるまでの間に()()()()()な。

 レディオノイズとやらについて、あの日初めて知ったとか?

 御坂さんの性格(キャラ)なら、自分のクローンを軍事目的で量産されるなんて事に自ら進んで協力なんかするわけ無いし、もし知ってしまったなら、それこそ全力で泣いて嫌がるだろう。

 でも、多分……その計画が『既に失敗した』事も併せて知ったなら……安堵するに違いない。

 ただ、()()()()()()()()()()までは知らないし、知りようが無かったと思われる。

 ……こう考えると、御坂さんの態度が不自然にコロコロ変わったのも納得できる。

 そう……パズルのピースが丁度ピッタリ嵌まる感じで。

 

 加えて、ミサの話では、既に御坂さんと『出会った』との事。

 8月15日の夜9時に予定されていた自分の『実験』の番が始まる前に『実習』と称して学園都市をプラプラ出歩いてた所(これを許可する実験関係者はマジで何考えてんの??!?)を御坂さんに見付かり、外が暗くなるまで付き纏われたらしい。

 何でも、御坂さんはクローンの後に付いて行けばそのまま製造者に会えると思っていたらしく、それに対し、ミサはそのまま実験場へ直行するので会えないと答えたそうな。

(……食い意地が張ったミサの事だ。そんな御坂さんを釣って、夜遅くまで回答を引き伸ばしつつ色々ご馳走して貰ったんだろう……目に浮かぶようだ)

 

 そして御坂さんと別れた後、予定通り『実験』が行われ、ミサは第一位の手で()()()()

 ……本来なら、ここで彼女は『一巻の終わり』。

 その後は記憶や経験が別の個体へと引き継がれ、滞り無く次の実験へと進む──はずだった。

 

 ここら辺からの説明は、あまり要領を得ない感じだったけど……。

 何はともあれ、ミサは()()()()()()()

 第一位の超常によって打ち上げられたコンテナに押し潰されたかと思った瞬間、()()()()()()()()()()()()に寄り添われ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、気付けば病院と思しき場所まで連れて行かれ、そこのベンチに座らされたと言うのだ。

 そして、実験終了と共に終わるはずだった自身の意識が途切れずに続いている事、いきなり別の場所にいる事等に対し冷静さを失った彼女はその場を離れた後、片足の欠損した体で意識朦朧としながら、()()()()()()()()()()()もなくあちこち彷徨い歩いていたら水の中へ落ちて溺れて気を失ったらしい。

 そして()()()()()真っ暗で上下左右を壁に囲まれた狭い場所に閉じ込められており、壁が開いて明るくなったと思ったらまた()()()()()()()()()()()()()、さらに体が小さくなっていた上に全くの別人の姿に変わっていたそうな。

 

 ……多分、肝心な所で『隠蔽(ボカシ)』が入ってると思う。

 だって、この一連の話()()では、ミサが()()()()()()()()()()事や、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事の説明が付かない。

 まず、キチンとした身なり──あたしと出会った時に彼女が身に着けてた、そして今彼女が身に着けてる子供服一式は、いつ、どこで揃えたの?

 実験で殺されそうだった所から助け出されて、瀕死の体であちこち彷徨った挙げ句、溺れて気を失ったにも関わらず。

 てか、()()()()()()()()()()()()()って言うか、コールドスリープでもしたのって感じだよね?

 その『空白の数日間』に『真っ暗で狭い場所』の中でずっと飲まず食わずのまま無事でいられるはずが無いし、彼女の話の中にクロトン女学院との接点が一切出てこないにも関わらず、シャンの名前を知ってたり、そこの制服を見分けられるのは不自然。

 そもそも『ミサ』って名乗る事そのものが、あたしと出会うまでの数日間に『何かあった』証明じゃないの?

 実験で文字通り『消費』され続ける量産クローンの一体一体にそれぞれ『個人名』が付与されるのもおかしな話だし(そもそも数が多過ぎてパターン不足で名前が被るか、逆にパターンを増やすために誰も覚えられないレベルで名前を長くし過ぎてしまうかもだし)、命を命とも思わない学園都市の非道な科学者連中なら、実験動物(モルモット)には個人名ではなく『番号』が付けられるほうが、むしろしっくり来るだろう。

 ……『ミサ』って何となく十字教っぽい響きがあるし、十字教徒……ロンドンにいる英国(イギリス)人の誰か……クロトン女学院の関係者に命名して貰ったに違いない。

 

 つまり、ミサは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う事だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……これは、彼女を狙う()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事を意味すると見て良いだろう。

 そして、その手はまだ熊本(ここ)にまでは及んでいない。

 さらに見た所、シャンの名前を知っていても、ヴァーニー達とは初対面の模様。

 つまり、ヴァーニー達の与り知らぬ所で、()()()()()()()()()()()()()()()()と言う事だ。

(……これは、ヴァーニー達には言わないほうが無難か)

 

 そして、あたしがこれから行動の指針を決めるに当たり、どうしても気にしないといけない懸念事項がいくつか挙げられる。

 

 まず、白井(しらい)さん。

 ミサを逃がしたと思われる『ツインテールの赤髪の少女』は、十中八九、空間移動能力者(テレポーター)

 どう考えても、白井さん一人しかいない。

 そもそも()()()()()()()()()()()()()であり、生きた人間と一緒に遠く離れた病院までジャンプできるとなれば、どんなに低く見積もっても大能力(レベル4)以上だろう。

 しかも、ミサが落下するコンテナに押し潰されるか否かの、既に勝負は決しており、実験結果に影響しない、秘密裏かつ絶妙なタイミングでの割り込み。

 純粋に人命救助目的であり、かつ()()()()()()()()()()()()()()()()()風紀委員(ジャッジメント)としての一線を超えない、学園都市そのものが主導する実験の邪魔にならないギリギリでの苦渋の判断か。

 

 次に、白井さんが行動を起こした以上、初春(ういはる)も絡んでいるのは確定。

 と言うか、()()()()()()()()()()()()()()のはもう確認するまでも無いだろう。

 何たって、ハッキングの天才だもんね。実験の事なんかとっくに調べ済みでしょ。

 

 最後に、御坂さん。

 ミサとは既に遭遇済なので、ミサ個人の実験の『顛末』までは秒で辿り着いている事だろう。

 ……御坂さんの性格から考えると、既に()()()()()()()()()()()()()()()()()()けど。

 初春からそれらしい知らせが無いって事は、とりあえず無事と判断してもいいか。

 ただ、御坂さんからのメールがここ最近来てないから、何かしら不穏なのは間違いない。

 ……何も起きてないといいけど。

 

 そして、これは言うまでも無い事だけど。

 たとえ御坂さんがどれほど抵抗しようとも、実験は既に始まってしまっており、後戻りできない所まで進んでしまってる以上、それを力ずくで中止させようとするのは無謀だと思う。

 そもそも第一位が御坂さんに力で捻じ伏せられるようなら、そんな弱い人をわざわざクローンと戦わせてレベル上げ(レベリング)するより、御坂さんのほうをレベル上げ(レベリング)するほうが手っ取り早い。

 つまり、第一位は御坂さんに対し『絶対的優位』であり──絶対に勝てないと言う事。

 そこから導き出される答えは──()()()()()()()()()()()()と言う事だ。

 ……裏技使用(メタゲーム)OKの場合は、無論その限りでは無いが。

 


 

 そんな私、佐天涙子と逃亡被検体少女ミサは──熊本空港から博多駅(福岡県福岡市博多区)を目指し、久留米(くるめ)市(福岡県)の市街地に入るまで(私がミサをおんぶしながら)『騎馬のルーン(Raiđō(ライゾ))』を使って全速力で走り続けた後、疲れたので市街地を徒歩で移動していた。

 仮に福岡空港から飛行機に乗ったとして、空中で身動きが取れない上に、ハイジャックを装った学園都市からの追手に捕まる(おそれ)があり、そうなった場合はそのまま学園都市第二十三学区まで強制帰還コース必至なので却下。

 同様に電車や高速バスも乗車中を追手に狙われ戦闘にでもなったら周囲を巻き込みかねないし、列車事故やバス事故にまで発展したら目も当てられないので、そっと選択肢から外す。

 フェリーも恐らく無理だろう。学園都市からの追手は海の上からでも襲って来そうだし。

 

 …………。

 

 ん? ……ミサ、手なんか挙げて何やってるの?

 

「へい、タクシー」

 

 いやいや……タクシーなんかで学園都市まで乗せて貰ったら一体いくら掛かると思ってんの?

 

「ヒッチハイクよりマシでは? ……と、ミサ……は、せいとうせいをしゅちょうしてみます」

 

 私が露骨に嫌そうな顔を向けたのを見るなり、内心を察したミサがそんな反応をする。

 

 ……まあ、うん、確かにそうなんだけど。

 

 女子中学生1人、小学生くらいの女の子1人をタダで車に乗っけてくれるだろう運転手の方々が、皆が皆、邪な気持ちなど一切持ち合わせてなどいない、清廉潔白な聖人君子しかいないと決め打ちするのは、世の中の善性と言うものに些か期待し過ぎとも言えるし。

 

 かと言って、タクシーで長距離乗るとなれば、目玉が飛び出るくらいの金額になるだろう。

 手持ちのマネーカードにいくら残ってたっけ……?

 

 ……とりあえず、博多駅までタクシー使って、その後の事はそれから考えよう。

 もうすぐ夕方で、空も暗くなるし。

 学園都市からの逃亡者を引き連れてはいるけど、それでもいずれ戻る事になるのだから、まずは帰る方法を探さないといけない。

 そもそも、遠くへ逃げたまま初春達を放って置く事なんかできるわけが無い。

 今頃どんな修羅場が繰り広げられているか、怖くて想像できない。

 

 まず最初に(福岡県北九州市門司(もじ)区と山口県下関(しものせき)市を結ぶ)『関門橋(かんもんきょう)』か『関門(かんもん)トンネル』を通って本州へ行くルートを考えよう。

 そこさえ過ぎれば、後は学園都市のある東京西部までは陸続きなのだから。

 

 ……山陽(さんよう)新幹線で一気に新大阪まで行けたらなあ。走り続けるのもう面倒臭(メンド)い。

 新幹線だと片道1万6千円、大人1人子供1人で合計2万4千円……時間は2時間半くらいかな?

(さっき電車や高速バスを選択肢から外した事は、そっと無かった事にして欲しい)

 

 物思いに耽りつつ、疲れた顔でスマホ片手に地図アプリのルート検索画面とにらめっこしていた私の服の裾をチョイチョイ引っ張る手が。

 後ろを振り返ると、ミサが近くにある店のショーウィンドウを()()()()()()指差していた。

 

 ……ん? 電動キックボード? ……“公道走行可能”?

 そもそも2人乗りは危険だし、(公道での)制限速度(時速)20キロとは言え車が行き交う道路を走るのは流石におっかないかな。

 歩道の場合は6キロ制限だけど、自転車と比べたらかなり遅いし、それなら『騎馬のルーン(Raiđō(ライゾ))』を使って走ったほうがずっと速い。

 

 ……え?? 自分も運転したい? 1人1台ずつで??

 

 ショーウィンドウに展示されているキックボードには『8万円(税込)』の値札。

 

 1台8万円×2台……締めて税込16万円也。……勘弁してくれ。

 

 と言うか、手持ちの現金とマネーカード確認したら5万円も残って無かったよ……ハァ。

 最初は9万円くらいあったと思うけど、ロンドン留学から色々と入り用だったからね。

 これじゃあどの道足りねぇわ。おねだりガキンチョ大人しく諦めなさい(フフン)

 

「……さてんは、びんぼうなんですね」

 

 え。ミサよ……何、その目は?

 そんな哀れむような目で、あたしを見るなあああああァァァァァーーー!!!

 


 

行間

 

 公道を走れる電動キックボードは『特定小型原付自転車』に分類され、16歳以上で運転可能。

 また、自賠責保険の加入とナンバープレート取付が必要で、ヘルメット着用が努力義務。

 

 なので、財布の中身が間に合ったとしても、佐天とミサの2人が乗れるのは数年経ってから。

 いずれにせよ、買ったその場ですぐには乗れない。

 


 

 結局、ミサを宥めるために電動ではないキックボードを買い与える羽目になった。

 

 子供用キックスケーター電池不要LED付き(車体と車輪が光るタイプ)……1万円(税込)、

 キックスケーター折りたたみ収納バッグ……2千円(税込)、

 自転車通学用ヘルメット……3千円(税込)

 ──締めて税込1万5千円也。

 

「さてん。そろそろばんごはんのじかんですね。『くるめラーメン』というものをたべたいのですが。……と、ミサ……は、さいそくをしてみます」

 

 ああ、あたしの残り少ない現金とマネーカードがどんどん溶けていく……。

 新幹線……乗れるかな……?

 

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