とある佐天の裏技遊戯(ニューゲーム) 作:RB_Broader
微熱が続いて中々下がらないらしく、家で安静にするとのこと。
あたしを監視カメラで見張るって息巻いてた矢先にこれかあ。
まあ、喜ぶのも不謹慎だし、今日はお見舞いにでも行ってあげようかね。
ここしばらく『連続
挙げ句、自分が狙われて危険な目に遭わされるんだから、堪ったもんじゃないよね。
なので、初春にはもうちょっと優しくしてあげようと思う。
もう七月半ばも過ぎた頃か。
窓の外から『ジーコ、ジーコ』と蝉の声が聞こえてくる。
お空は真っ青。
こんないい天気の日には、外でゆっくり羽根を広げたいよね。
授業なんてかったるいなぁ。
「──以上の事柄から、学園都市で行われている能力開発カリキュラムにおいて重要なのは『パーソナル・リアリティ』──つまり、『自分だけの現実』を獲得するということ──」
「これは、超能力と言われるものの基盤に他ならない──」
「パーソナル・リアリティを理解する上で、避けて通ることのできないものが、ハイゼンベルグが提唱した『不確定性原理』を元にする『量子論』──」
「パーソナル・リアリティと量子論。ともに共通するのは、それが『確率論』に根差してる──」
『自分だけの現実』かぁ……。
魔術の場合、神話や伝承などの『他人の現実』──つまり、『同好の士が集まり共有するシェア・ワールド』みたいなもの──『位相』を現実世界に差し込むことで、物理法則に『位相』のそれを無理やり当てはめ、捻じ曲げる。
それに対し超能力の場合、能力者の脳内で思い描いた『自分だけの現実』を現実世界に押し付けることで、その法則を捻じ曲げる。
そのために必要なのが、自分だけの現実を強固にするための意思の強さと、より大きく完成度の高い世界として正確に観測できる高い演算能力。
ここまではあたしにも理解できる。
でも、不確定性原理を利用して『自分だけの現実』と『それ以外の現実』とを量子論的に並立させた上で、『自分だけの現実』の発生確率を100%に押し上げる仕組み──これが分からない。
量子論は
だから、能力者がミクロ世界を『思い込み』で観測することで、状態を思い通りに確定させ、マクロな世界である現実を変える。
……でもどうやって?
『シュレディンガーの猫』がよく持ち出されるけど、箱の中の猫の生き死にを自分の思い通りにするなんてこと、本来はできない。
量子論的に確定してない間も、まだ観測されてない現実は存在する。
可能性の数だけ現実が並立して存在するのはあくまで概念の話。
先に観測が存在し、後から現実が決まるというのは些か詭弁な気がする。
それよりもむしろ、能力者の強い思い込みの力で『自分だけの現実』という名の『位相』を作り、それを『AIM拡散力場』と呼ばれる『魔力とは別の力』によって現実へと差し込むと説明されるほうがまだ理解しやすい。
この考え方なら、能力者が魔力を生成しようとする時、体が拒否反応を起こすという所謂『魔術の副作用』についても、能力者が魔力と別の力を生成する代わりに、魔力を生成できない体になったのが原因と説明が付くし。
「──
え?
あ、やば!
「あ……あ、はい!」
考え事に夢中になり過ぎて、上の空だった……やっちゃったなあ。
「何だか随分余裕あるなー。今んとこ、簡単に説明してみろ」
「は、はい!」
先生に当てられ、慌てて立ち上がる。
あちゃあー。
授業内容は特に目新しいものが無いけど、今の先生の話、半分以上聞き漏らしてたせいで、どこから説明したらいいのか分かんないよー。
その時、チャイムが鳴った。
はぁ……時間切れか。
「あー、もういい。次までにパーソナル・リアリティについて勉強しておくように」
……へ?
授業が終わり、私は先生に言われた宿題を終わらせるため、放課後の教室で一人居残り勉強していた。
理論や例え話はもう十分聞き飽きたし──。
「はぁ……」
手っ取り早く『自分だけの現実』を獲得できる方法、見付からないかなあ。
──そうは言っても、簡単に見付かる訳無いよね。
そんなのがあるなら、
あたしなんてとっくに
私は窓の外の青空を見上げつつ、そう心の中で独り言つのだった。
それから私はさっさと宿題を片付け、学校を後にした。
学校帰りに公園の近くを通りかかると、
白井さん、急いで食べたせいで頭がキーンってなってる。
てか、ツインテールがすごい波打ってるし。
「御坂さん! 白井さーん!」
「佐天さん」
私が二人に呼び掛けると、御坂さんが応じた。
……白井さんは、何か言いたそうな顔でこっちのほうガン見してるし。
「おいしそうですね」
そう言って、私はごく自然な笑顔で二人に笑い掛ける。
御坂さんの前で色々込み入った話なんかしたくもないし。
幻想御手を使った(振りをしてる)こととか、能力(に見せ掛けた魔術)を使ったこととか、この人にだけは知られたくないと言うか……ね。
そんな私の心情を態度で察したのか、白井さんは私から視線を外し、再びカキ氷を食べ始める。
せっかくなので、私もご
「ん~~~~~!」
ついつい急いで食べたせいで頭がキーンとなったので、どうせだから白井さんの真似してみる。
まあ髪の毛が波打ったりまでは真似できないけど。
「それってもはや、夏の風物詩よねぇ」
「分かってても食べたくなっちゃうんですよねぇ」
そう言って、私は御坂さんと笑い合う。
そして、御坂さんの持つカキ氷がふと気になり、視線を移し尋ねてみる。
「……あ、それってイチゴ味ですかー?」
「うん。よかったら一口どう?」
「あっ、いいんですか? いただきまーっ……あむ」
ん~! おいひぃ~!
「お返しにレモン味食べます~?」
「ありがとー」
そうやって、私と御坂さんとで食べ合いっこしてると。
「ああああああーーーっ!!!」
白井さんがアラクネみたく髪を波打たせ、白目を剥きつつ、マンドラゴラみたいな悲鳴を上げ。
「「ん?」」
私と御坂さんは不思議そうな顔で白井さんの方を見る。
「な、な、な、なに、何をしてるんですの……?」
「えっ。食べ比べですけど」
「食べ比……くら……くら……くら……」
白井さん……もしかしてそういうの苦手な潔癖性なのかな?
いや、何か手をワキワキさせてたり、ヤケに意識してそうな雰囲気が。
ああ……これはもしかして。
てか、何か思い付いたって感じの顔してるし。
「で、では~、わたくしとも間接キッ──もとい、食べ比べを──」
「あんた私と同じイチゴ味じゃない」
「──がっ」
いや、間接キッスって聞こえちゃってますよ白井さん。
御坂さんは天然スルーでサラッと突っぱねてるし。
って、同じ味ですか。お揃いのつもりですか。
自己嫌悪のあまり、自分で自分の頭を地面に打ち付ける白井さん。
あはは……ご愁傷さまです。
「そういや佐天さん。初春さんは一緒じゃないの?」
「夏風邪で今日学校休んだんですよ。それであたしはこれから薬を届けに」
そう言って、私は薬が入った紙袋を出して見せる。
その後、私は御坂さん達と一緒に初春の所へお見舞いに行くのだった。
ってことで、初春宅。
「う~いっはる~ん! お見舞いに来ったよ~ん!」
「お邪魔しま~す」
「お邪魔いたしますの」
玄関に初春が出てきた。
一人暮らしだとこういう時、大変だよねぇ。
病気で安静にしなきゃいけないのに、自分が出なきゃいけないんだもん。
ずっと立たせとく訳にもいかないので、とりあえずベッドに寝かせる。
おでこには冷えピタ。いつもの花飾りは付けていない。
熱で頬に赤みが差している。ばっちり風邪引きさんだねぇ。
「すいません、わざわざ」
「気にすんなって」
水臭いよ、初春。
そして、すぐに彼女の体温を測る。
……37.3℃、まあ微熱か。
「今日は一日寝てること。もうお腹出して寝ちゃだめだよー」
「佐天さんが私のスカート捲ってばっかりいるから冷えたんですよー」
おっと。そうくるか。
「いやぁ~、そりゃあだって、初春が毎日ちゃんとパンツ履いてるか気になるじゃないですかぁ、ねぇ?」
うむ。我ながら秀逸な切り返し。
そしてさりげなく御坂さんと白井さんに振ってしまおう。
「……! ちゃんと履いてます! 毎日!」
初春はベッドから起き上がり慌てて打ち消しにかかる。
よっぽど焦ったのか、汗だくで顔が赤くなってる。
「はいはい、分かったから。ほら、病人は寝て寝て」
御坂さんが宥め、初春はムスッとしながらもベッドに横たわる。
それを見た私は、冷たいタオルを作るため、台所へ向かう。
私が台所でタオルを絞っている間、初春が白井さんに虚空爆破事件の進展について尋ねているのが聞こえた。
犯人の
それに加え、常盤台狩りの眉毛女や、私が御坂さんと初めて会った日に銀行を襲った
やっぱり、幻想御手を提出したのは正解だった。
それに、私がそれを持ってたことは上手く伏せた上で、最初に『河原で能力ぶっぱなして遊んでた
……まあ嘘は言ってないけど、言い方が危なっかしいなあ。
もし御坂さんに知られでもしたら、能力を使って見せろとせがまれるかも知れないし、最悪勝負を申し込まれる惧れすらある。
私の魔術は何度も繰り返し使えるものじゃないから、御坂さん相手にとてもじゃないけど対応できっこない。
少なくとも、あの『地面の手』は既に切らしてて、次に充填できるのは今年の9月上旬の間だけだし。
かと言って他の魔術を使ったら、複数の属性を使えるのがバレて、一人一能力の原則から外れるから、いよいよ誤魔化しが利かなくなる。
まあ最悪、カードを触媒にして様々な能力を使い分ける念動力だと言い張る手もあるけど、流石に苦しいか。
絞った冷たいタオルを初春の額に掛けてあげた後、私は御坂さんや白井さんがいるテーブルに着き、話の続きを聞く。
「わたくし、まだ解せないことがありますの」
「何? 黒子」
「幻想御手は音楽……ということですけれど、それを聴いただけでなぜ能力が上がるのか」
……なるほど。
魔術の観点から見れば、音で伝える魔導書ということで説明は付く。
けれど、それでは
使用者同士のAIM拡散力場がネットワークで繋がる事による共鳴が原因だと説明はできるけど、ネットワーク云々に関してはあたしの嗅覚で気付いた訳だから、それを説明するのも面倒だし。
どうしたものかねえ。
「…………」
ここで、白井さんが無言のまま、私に目配せする。
……いやいや。
あたしに振られても、理系についてはサッパリですことよ??
「音楽……ということは、好みが分かれるわよね?」
「はあ? お姉様……」
「ってことは~、曲にビビッと来た人だけに作用があるとか」
ほう。
心が揺さぶられることで、効果が出てくるってことですか。
つまりは、効果が出た時点で曲のファンになったと。
ファン──即ち、
幻想御手は『カルト』で使用者は信者だから、それによって植え付けられた『宗教心』が自分だけの現実に作用し、信者同士の共鳴により『新たな位相』として共有化され、能力アップ効果が現れると。
割と的を射ているかも。
「お姉様、それでは当たり外れがあるということではございませんの?」
「アンタねぇ。そこんとこは『確証バイアス』でしょ」
「ああ、なるほど……」
つまり、幻想御手の効果が現れた人だけが能力アップして事件を起こすなどして存在が確認されるから、たとえほとんどの人に効果が無かったとしても、見かけ上は100%効果があるように見えるってことですか。
その可能性は見落としていたわ。
流石レベル5。科学の申し子の頭脳はハンパないです。
『確証バイアス』の一言で意味を理解する白井さんも白井さんだけど。
「……ちょっと試しに聴いてみようか」
「!」
だが、ここで御坂さんがちょっと危ない橋を渡りそうになり、白井さんがピクリと反応。
私が白井さんに無言で目配せすると、意図を察してくれた様子。
「……それはおすすめしませんの。どのような副作用があるか予想も付きませんもの」
そう言って、やんわり止めに入る。
御坂さんは、何だか釈然としない表情をしてる。
仮に何の副作用もなくレベル6だの7だの(そんなのが存在するかは知らないけど)に上がったとしても、それはそれで大問題だろうし、やっぱりマズイでしょ。
何より、御坂さんには
「いずれにせよ、サンプル数が少な過ぎて、まだ確証が持てる段階ではございませんの。ですから、とりあえず他の使用者にも当たってみないことには」
「それなら、この掲示板を見たらどうですか?」
ここで、ベッドの上にいる初春がいつの間にか開いていたノートパソコンの画面上に映った匿名掲示板を見せてくる。
そこは、幻想御手使用者が風紀委員や警備員に見付からないよう隠れて感想を書き込んでいるパスワード制の裏サイトだった。
幻想御手を入手した人にしか分からないよう、楽曲ファイルのデータを元に『暗号学的ハッシュ関数』により生成される『ハッシュ値』というランダムな文字列をパスワードにする、ガチガチなのかザルなのかよく分からないセキュリティだったため、私でも簡単に入る事ができたのだが。
ブツさえあれば誰でも入れるし、初春なら楽勝だろう。
「……あっ! そこの裏サイト、前にあたしが見付けたやつじゃん!」
見覚えがあったので、私は思わずそう叫んでしまった。
あ、そう言えば。
これ以上地下に潜られるのもなんだったので、敢えて泳がせるため、こっちのほうは白井さんと初春には教えてなかったんだっけ。
私が前に二人に教えたのは、表のサイトのほうだけだった。
これは、やってしまいましたなあ。
「あれ、佐天さん知ってたんですか……」
いや、初春。そんな露骨にガッカリしなくても。お手柄だよ?
白井さんも、『何でもっと早く教えてくれませんでしたの』と言いたそうな顔でこちらをガン見してきてるし。
「あ~、いや……都市伝説について調べてる時に、ちょっとね」
そうやって、何とか誤魔化した。
そういえば、白井さんと初春に対し、あたしが幻想御手を入手して使った振りをしてるの、御坂さんには伏せてるんだっけ。
色々ややこしいし、思わずボロが出ちゃうところでしたよ。てへっ。
「……オホン。とにかく、後は幻想御手を使っている連中の素性や溜まり場が調べられれば」
「素性までは分かりませんけど、溜まり場ならほら……よくこのファミレスに集まってるみたいですよ」
そう言って初春が指差す先には、『ジョナGに集まろうぜ!』という書き込みが。
ジョナG──ファミレス『ジョナガーデン』か。
「ありがとう初春さん。行ってみるわー! ……あ、お大事にね!」
言うが早いか、御坂さんが稲妻の如き速さで飛び出して行く。
「お姉様! それはわたくしの仕事ですのよ!」
そして、後から白井さんが慌てて付いて行くのだった。
全く、慌ただしいなあ。
「大丈夫ですかねぇ?」
「あの二人なら心配無いでしょ。学園都市が誇るレベル5とレベル4だもん」
「まあそれもそうですねぇ。……あ、佐天さんは首突っ込んじゃ駄目ですよ? ただでさえ幻想御手使って能力暴走させちゃってるんですからね!」
あはは……耳が痛い。(ホントは使ってないけど)
それから、初春の晩御飯を作ったり、体を清拭してあげたり、世間話をしたりして、色々世話を焼いてあげたのだった。
その最中、突然停電し、部屋が真っ暗になったのには驚いたが。
……冷蔵庫とか、大丈夫かなあ。
ウチの学区、落雷による停電とかがヤケに多いから、あたしの寮部屋では雷サージ対策のタップ使ってるけど。
落雷……あっ(察し)。
ウチの家電に何かあったら次から御坂さんに請求しようかな。
翌日、停電のせいで部屋の中が蒸し風呂状態な上、冷蔵庫の中身も全滅してて地獄絵図と化していた。
冷蔵庫とレンジ、炊飯器、洗濯機、給湯器、エアコンも壊れて修理しないといけないし、こりゃあ真剣に御坂さんに苦情入れようかな。
雷サージ対策のタップに差してたテレビ、パソコン、周辺機器が無事だったのは不幸中の幸いだったけど。
これらまで全滅してたら、佐天さんちの家計破産してましたよマジで。
寮の管理会社に電話を掛け、家電の修理を頼んで貰い、備え付けの冷蔵庫と洗濯機、給湯器は管理会社持ちでその日のうちに業者を呼んで修理して貰ったけど、エアコンの修理は専門の業者にしかできないらしく、予約がいっぱいなせいで数日待たされるらしい。
ちなみにレンジと炊飯器は私物なので普通に買い換えることに。
はぁ……。明日から夏休みだと言うのに、とんだ災難だわ。
こりゃ数日間は初春の部屋にお邪魔するかな。
ついでにレンジと炊飯器、御坂さんに買って貰えないか相談しよう。
ホントにマジで。
おっと。そういえば、初春と待ち合わせしてるんだった。
急いで出掛けなきゃ。
そんな矢先、スマホの着信音が鳴った。
……初春かな?
もしかして待ちくたびれて催促の電話でも掛けて来たのか。
──と思ったら、白井さんからだった。
何の用だろう。
『佐天さん? そちらは何ともありませんの?』
「あ、白井さん。急に電話なんか掛けてきてどうしたんです? ……あたし、能力なんて使ってませんからね」
『ああ、いえ……。何とも無いのでしたらそれでよろしいんですの』
「?」
『もし何かあれば、いつでもわたくしか初春にお電話掛けてくださいまし』
「……はあ」
そう言って、通話は切れた。何だったんだろう。
あからさまに歯切れが悪かったし。
あ、今はそれは置いといて、初春待たせてるんだった!
早く出掛けないと……。
街は昨晩の停電により信号が止まり、風紀委員が交通整理を行っている。
非番の初春はオープンテラスカフェの近くの公園で、佐天との待ち合わせで一人立っていた。
「はぁ……。遅いなぁ、佐天さん」
おっ。
初春はっけーん!
気配を消し、後ろから音を立てずに近付いて……。
スカートに手をかけ、そーっと持ち上げて。
秘技『サイレント・スカートめくり』!
「今日は青のストライプかぁー!」
青いお空と真っ白な雲に、初春の青と白のパンツ。お揃いだね!
初春も泣きべそ掻きながらポコポコ叩いてきて可愛いし。
平和だねえ。
今日の予定は、初春と一緒に街の家電量販店で、炊飯器やレンジなどの買い替えをすること。
初春のほうも炊飯器とレンジが落雷による停電でオシャカになったようで、私と一緒に商品選びするつもりらしい。
「御坂さんに請求ですかぁ」
「そうそう。カードで買って、後で事情を話して弁償して貰うの」
「あんまり気が進みませんけど……証拠もありませんし」
「白状して貰えば問題無いって。それに弁償する代わりに風紀委員に見逃して貰えるなら、お互いWin-Winでしょ?」
「それってユスリですよ? 佐天さんって意外と腹黒いですね?」
「初春に言われたくないなぁ」
「んもー」
そんな会話をしていると、少し離れた場所にあるファミレスの窓の向こうの座席に白井さんと御坂さんらしき人物が座っているのが見える。
その向かい側に座っているのは、白衣の女の人? ……誰だろう。
「あれって白井さんと御坂さんじゃないですか?」
初春がそう言って指差す。
やっぱりあれは白井さんと御坂さんだよね。
まあ、丁度いい。
御坂さんを一緒に買い物に連れて行って、色々おねだりしよう。
それが一番手っ取り早いし。
とりあえず、満面の笑みで窓に張り付いて存在感をアピールしてみる。
……あ、白衣の女の人のほうが先に気付いた。
ってか、よく見たら、目の下のクマ凄いですね。
私と初春はレストランで御坂さん達と同じテーブルで相席になる。
初春は白井さんと御坂さんの間で、私は白衣の女の人の隣。
そして、私はドリンクバーのコーラと、プリン・ア・ラ・モードをご馳走になる。
「へー。脳学者さんなんですかぁ」
白衣の女の人──
脳学者──学園都市だと能力関係かな?
「……はっ、白井さんの脳に何か問題が!?」
って、初春黒いよね。特に白井さん相手だと。
「幻想御手の件で相談してましたの」
……幻想御手?
そういえば、今日の白井さんからの急な電話、気になるところが。
何かあったのかな?
「黒子が言うには、幻想御手の所有者を保護するんだって」
……へ?
もしかして、あたしも保護されちゃうの?
「どうしてですか?」
「まだ、調査中ですので、ハッキリしたことは言えませんが、使用者に副作用が出る可能性がありますの」
……!!
副作用が出る
いや、白井さん。
もっとハッキリ言ったらどうなんですか?
今更、改めてそう言うってことは、
私は思わず歯噛みした。
とうとう幻想御手の
アレがヤバイ代物だって、早くから分かってたのに。
自分の秘密とかを隠し続けるため、見て見ぬ振りをして、のんびり手を抜いて、風紀委員に任せれば何とかなると楽観してた。
ああ。
あたしって最低だし、無能だ。
そうだ。
あたしは無能力者だけど、別に能力を使わなくったって、それ以外の特技か何かでできることは沢山あるはずだ。
それを正直に自己申告すれば、色々手伝えることも増えたはず。
なのに、あたしはどうせ理解されない、隠し続けるほうが無難だという理由で、保身に走るばかりで、結局何もしてこなかった。
犠牲者は、あたしが見殺しにしたようなものだ。
「あ、どうかしました? 佐天さん」
私の様子が変わったのに気付いた初春が声を掛けてくる。
「あ、いや……別に……」
私は慌てて否定するも、動揺したのか手元が狂い、コーラの入ったコップに右肘が当たることでコップを倒してしまい、零れたコーラが隣にいる木山さんのスカートに掛かってしまう。
「あ」
「ああっ! すみません!」
やば! やっちゃった!
どうしよう!
と、思ったら、木山さんがおもむろに立ち上がった後、いきなりスカートとストッキングを脱ぎ出し始めた。
それを見ている初春と御坂さんが固まって赤面してる。
「気にしなくていい。掛かったのはストッキングだけだから、脱いでしまえば──」
いや、そういう問題じゃないでしょ。
何なのこの人。どうなってんの。
「だーかーらー!! 人前で脱いじゃ駄目だと言ってますでしょうがぁ!! ねぇ!?」
ああ、白井さんすっごい怒ってる。
てか、既に
これはもう、この人の癖か何かなんだろう。
「しかし、起伏に乏しい私の体を見て、劣情を催す男性がいるとは──」
「趣味嗜好は人それぞれですの! それに殿方でなくても歪んだ情欲を抱く同性もいますのよ!」
なるほど。これが『脱ぎ女』ですか。本当に実在したんですね。
白井さん、疑ってごめんなさい。いやマジで。
あと、『歪んだ情欲を抱く同性』の
何かもう、色々悩んでたのがまとめて吹っ飛んじゃったよ。
どうしてくれるんですか。木山さん。
でもまあ、これからどうするかは状況を見て改めて考えよう。
焦って考え無しに突っ走るより、きっとそのほうがいい。
その後、脳学者の木山さん──木山先生から色々話を聞くことができた。
理系分野に疎い私にとって、大半がチンプンカンプンだったけど、所々魔術に符合する部分もあったため、より深い考察に繋がるような興味深い話も色々聞けたと思う。
まあ、脱ぎ女だったことは未だに衝撃だけど。
「お忙しい中、色々教えていただき、ありがとうございました」
「いやあ、こちらこそ教鞭を振るっていた頃を思い出して、楽しかったな」
「教師をなさってらしたんですか」
「むかーし、ね」
そして、木山先生は軽く手を挙げて去っていく。
「何というか、ちょっと変わった感じの方ですの」
「白井さんよりですか?」
「……む?」
まあ、変わってるというか、どことなく、
何をかって? そりゃ、
そう……私は直接会ったことは無いけど、どこかで話に聞いた『魔術師』と似た生き方をしているような、そんな気がする。
あと、初春はいつもさりげなく白井さんに対して黒いよね。
「一度、支部に戻らないといけませんわね」
「乏しいけれど、木山先生に渡すデータも揃えておかないと」
「そうですわね」
さて。
白井さんと初春は風紀委員の仕事に戻るみたいだし、もう夕方で、完全下校時刻も近い。
今日の買い物はお預けで、また今度にするしかないか。
御坂さんも誘っておきたいし。
って、御坂さん?
いきなり走り出してどこに行くんで……?
ああ。向こうにツンツン頭の……
何か、色々とご愁傷さまです。
「──という訳で、わたくし達は支部へ戻りますの……って、お姉様は?」
「御坂さんなら、急用でどこか行ったみたいですよ」
「ああ、そうですか。……佐天さんは帰らなくてよろしいので?」
何ですか、白井さん。つれないなあ。
「ちょっと……話があるんですけど、お時間いいですか?」
「? ……はあ。よろしいですけど」
私は、白井さんと初春に、ある程度まで打ち明けることにした。
今、私と白井さんと初春は、私の自宅にいる。
「あまり時間がありませんので、手短にお願いしたいのですけれど」
「もうちょっと待ってください」
私は白井さんと初春を居間のテーブルの所で待たせたまま、クローゼットから小物類を取り出しそれを持ってくる。
左手には、神秘的な記号が印字された一枚のカード。
「まずは、白井さんと初春をずっと騙しててごめんなさい!」
そう言って、私は二人の目の前で土下座をした。
「! ……ちょ、佐天さん! いきなり土下座なんて、どうしたんですか! と、とにかく、頭を上げてください!」
そんな私に驚いた初春が慌てふためいて土下座を止めさせようとする。
その一方で、白井さんは何かに気付いたのか、神妙な顔となった後、無言で続きを見守る感じになる。
「あたし、幻想御手を
「へ……?」
それを聞いた初春は信じられないといった顔をするが、白井さんはやっぱりといった表情で小さく溜息を吐く。
「気付いてましたわ」
「え?」
今度は、私が驚く番だった。
どうやら、白井さんは私のウソに薄々気付いてたらしい。
「幻想御手使用者はズルをしてレベルアップした方々です。スキルアウトのように開き直っているなら兎も角、誰しも多かれ少なかれどこかに後ろめたさが見え隠れするものですの。ですが、佐天さん。あなたはご自身が幻想御手を入手し使ったと『自白』しておきながら、後ろめたさの欠片も無いばかりか、その『能力』をこれ見よがしにわたくし達に披露しました。まるで何か別の『隠したい真実』から目を背けさせるように」
「……!!!」
白井さんの名推理……というか、私の心を見透かしていたかのような看破に対し、初春は目を真ん丸に見開いて、驚きをあらわにしている。
てか、佐天さんもビックリですよ。
「それに加え、昨日、初春の部屋でお姉様が幻想御手を試しに聴いてみようと言い出された時──あなたはわたくしに目配せした。まるで『やめておけ』と言わんばかりに」
……ごくり。
思わず喉を鳴らし、音を立てて生唾を飲み込む。
「……あなたは幻想御手に副作用があることを見抜いていたのでしょう?」
ここで、私は無言で頷く。
初春は、そんな私を驚いた顔で見る。
「そして、あなた自身はそれを使っていないため副作用の恐怖が無く冷静でいられた。ですから、あなたはお姉様が巻き込まれないよう副作用の可能性を冷静に考え、わたくしに注意を促した」
「!!」
ほぼ当たっている。
初春もようやく理解したようで、確信を得た表情となる。
「ここでわたくしは確信しましたの。佐天さんが幻想御手を使っていないと。……今日の安否確認の電話は、一応念の為ですのよ」
流石、白井さん。それでこそ
「でも──」
誤解が無いよう、一つだけ付け加えておく。
初春からの刺すような目線が痛いからだ。
「一つだけ補足しておきますけど、あたしは幻想御手にどんな副作用があるかなんて知りません。と言うか正直、その曲の正体が何なのかも分からない。ただ、あたしの嗅覚がコレを危険なモノだと教えてくれただけです」
「──どうして」
ここにきて、ずっと黙っていた初春が口を開く。
「どうして佐天さんは今までその事を黙ってたんですか。というか、曲の正体も分からないのに──多分、一度も聴いてすらもいないんでしょうけど、何で副作用があるって分かったんですか?」
初春……。
「佐天さん、もしかして──」
ああ。あたし、疑われてるのか。
まあ、ウソ吐き続けてたんだから、仕方無いよね。
「初春。それは違いますわ」
ここで、白井さんが遮るように助け舟を出し、さらに続ける。
「幻想御手で不正にレベルアップした能力者のAIM拡散力場を他の能力者のそれと区別するのは、専用の機器を使えば理論的には
「!」
そして、サラッととんでもないことを言う。
初春も何か思い当たるフシがあるような顔してるし。
……そういえば、AIM拡散力場を専用機器で測定する技術については授業でちょっとだけ触れてたような。
学生達のAIM拡散力場を常日頃から計測し続け、統計を取っていれば、不自然なレベルアップは即座に『異常値』として検出されるということか。
あるいは、幻想御手使用者のAIM拡散力場同士が網の目のように繋がってるのも計測できるかも知れないし。
「そもそも、虚空爆破事件の時、セブンスミストから避難した群衆の中から犯人を探し当てたのは佐天さんですが、犯人へ直接つながる目撃者は爆弾として使われたヌイグルミを手渡された女の子──
……うえっ!?
「しかしながら、彼女から佐天さんへ犯人の情報が伝わった形跡が見当たらないばかりか、時間的にも不自然なため、佐天さんが先に犯人を特定していたと考えると辻褄が合いますのよ」
ああ……。
犯人追い駆けることに夢中になって、そこまで気が回らなかったような。
そこでボロが出てたのか。ははは。
「で、でも……あの地面から生えた手はどう説明するんですか? 佐天さんは
初春……事実だけど、言い方。ヘコむわ。
「学園都市の先端技術は日進月歩を超えていますのよ。能力を使わなくても、あの程度の
手品扱いですか。
まあ、魔術と説明しても理解されるかどうか怪しいから、仕方ないか。
でも、ちょっと悔しいな。
貰い物の知識と他者の力を使ったインチキな裏技でも、それなりに苦心して使い物になるよう改良を重ねてるんだよ。
「……まあ、そういう事ですよ」
それでも私は、敢えて肯定してみせる。
これが『魔術』であることを明かすのは、まだまだ先になりそうだ。
まあでも、ほんのちょっとだけでもひけらかしてやるか。
私の左手にあるのは、平仮名の『く』に似た記号が記されたカード。
──これに、『
「こんな感じの『
ピシッ。
私の中で、どこかが
ボッッ!!
瞬間、カードが破裂音を立てつつ焼けて消えた。
そして──。
私の意識は遠のき、真っ暗な闇へ沈んだ。
目が覚めると、白い天井が見えた。
あれ?
あたし、何してたんだっけ?
…………。
うわ。
やらかした。
ここは、病院か。
たぶんあたし、部屋で血流して倒れたんだろう。
初春と白井さんの目の前で。
それで、救急車を呼ばれ、病院に運ばれたってことか。
嫌だな。また心配掛けちゃった。
嘘吐いたこと、初春と白井さんに謝るだけのつもりだったのに。
「おや。目が覚めたのかい」
ん? 誰?
「何があったのか詳しくは知らないけど、君は全身から血を流して倒れていたんだね」
ああ、おそらく病院の先生か。
首が動かないせいで、顔がよく見えないや。
「君に付いてきた子達が言うには、能力の暴走らしいけど、僕が調べた限り、原因は分からないんだね」
手品の事は伏せたのか……まあ、普通に能力の暴走ってことにしないと色々説明が面倒臭いから、仕方ないか。
「とりあえず大事な神経や血管に異常は見られないけど、二~三日安静にすれば動けるようにはなるから。一応退院前に脳の精密検査を受けるんだね」
2~3日……か。
そういえば。
「あの、今、何日ですか?」
あたしはどのくらい寝てたのだろう。
まさか、三日間眠りっぱなしなんていう、マンガの主人公が強敵に惨敗して重傷を負った後みたいになってないよね?
「ああ、今日は7月21日なんだね。ついでに言うと、もう昼過ぎだね」
ああよかった。一晩寝ただけか。
って、学校! ……って、ウチの学校は今日から夏休みだった。てへっ。
……こうしちゃいられない!
もうこれ以上、犠牲者を出し続けて見殺しにしちゃいけないんだ。
幻想御手使用者に副作用が出る前に、できるだけ早く見付けて保護しないといけない。
そのためには、あたしが風紀委員に協力して、嗅覚センサーで見付けるのが一番手っ取り早い。匿名掲示板から取引場所を虱潰しに探すよりも。
体が氷のように冷たく、力が入らない。
起き上がり手足を動かそうとするも、若干チクチクと痛みが走りつつ、幽鬼のようにフラフラとしか動けず、まるで自分の体じゃないみたい。
それでも、何とか立ち上がらないと。
先生が病室から出て行ったのを見計らい、まずは病院から抜け出し──。
「……何してるんですの」
……へ?
白井さん? いつからそこに? あ、初春もいる。
「まったく……大馬鹿にも程がありますの」
呆れ果てて溜息を吐く白井さん。
初春は私のほうをすごい怒った目で見てる。
「何ですかそれ。どういう風の吹き回しですか!? 病院から抜け出そうとするなんて、いきなりベタなヒーローにでもなったつもりですか!? どれだけ心配したと思ってるんですか!? いい加減にしてください!! 佐天さん!!」
そして、堰を切ったように怒り出す初春。
はあ。……ごめん。
「あなたの
それに白井さんが続ける。
確かに、今重要なのは幻想御手の事だよね。
「これからわたくし達は幻想御手使用者の保護を急ぎますの。本当に申し訳無く思ってらっしゃるのなら、このような肝心な時に動けなくなった事を反省しながら、そこで大人しく寝ていてくださいまし」
全く、返す言葉もない。
「そもそもあなた、そんな『お菊さんの亡霊』みたいな顔でよく動けますわね」
ええっ……あたし、そんなに顔色悪いの?
そして、初春が私のベッドの周囲のあちこちにカメラを設置し始めた。
「ずっと見張ってますから、逃げないでくださいよ?」
はあ……やっぱりそうなるか。
でもトイレの時は見ないでくれると助かるかも。
まあ初春の手に掛かれば、わざわざ病室内にカメラを設置するまでもなく、病院中全ての防犯カメラをハッキングできそうなものだけど。
ここのところ、あたしって駄目駄目だなあ。
……もう寝るか。佐天さん、いいかげん疲れたよ。
そして、私は瞼を閉じたのだった。
解説1:
夏休み開始日について。
原作禁書で主人公の上条が通うとある高校は7月20日に夏休みに入るが、超電磁砲では虚空爆破事件が7月18日に起こり、次の日(7月19日)に初春が熱を出して学校を休むのに加え、授業で上の空だった佐天が教師に当てられ宿題を出される展開となった。
夏休みの前日(終業式の日)にそのようなやり取りは不自然なため、佐天と初春が通う
なお、超電磁砲において、虚空爆破事件の次の日に御坂達が初春の家へお見舞いに行き、そこで幻想御手使用者の集合場所を特定し、御坂が手掛かりを掴みに出掛けた後、紆余曲折を経て、電撃をぶっ放して街を停電させるが、この大停電そのものは禁書と超電磁砲の両方で共通して起こる確定した出来事で、これが無ければインデックスが学園都市へ侵入できなくなり、7月20日に上条との出会いが起きなくなるので、初春の風邪(および大停電)と虚空爆破事件の日付も連動する形で固定される。
解説2:
佐天が白井と初春の前で使ってみせたカードは『ルーン(Rune)』。
平仮名の『く』に似た文字は、『松明』を意味する『ケナズ(kēnaz)』。
本編中ではステイルや最大司教(ローラ)が発破の術式として使用。
術の発動と同時に、ルーンが印字された紙(カード)そのものが燃えて消えるため、すぐに効果は消える。
ルーンの魔術は、文字を刻み、インクを流し込むことで効果を発動し、文字を消すことで効果を終わらせるまでの一連の手続きで構成される。
解説3:
暗号学的ハッシュ関数は、『MD5』、『SHA3』などが例に挙げられる。
ファイルの中身(データ)を暗号化し、ハッシュ値という文字列に変換することで、ファイルの同一性を確認するなどのセキュリティに用いられる。