とある佐天の裏技遊戯(ニューゲーム)   作:RB_Broader

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武装無能力集団(スキルアウト)と(無?)能力者狩り

 7月27日早朝。

 

 私、佐天涙子(さてんるいこ)は、早起きした後、訓練のため遠くの河川敷を訪れる。

 朝日が眩しい中、愛用の金属バット『ゲイ・ボルグ』を構え『素振り』を繰り返していた。

 服装は、夏休み中にも関わらず学校の制服(セーラー服)。

 その理由は、何となくこの格好のほうが()()()()()からだ。

 

「──(おん)にして(かん)

 

 そう()()()()()()何度も同じ言葉を呟きながら、延々とバットを振り続ける。

 

 およそ10分程度、同じ動作を繰り返した後、私は一息入れる。

 

「ふうー。あっづー。まだ朝なのにー」

 

 汗ばんで火照った顔を冷ますため手で扇ぎつつ、持参したマグボトルから水を飲む。

 てか、ぬるい。氷入れたのに全部溶けてるじゃん。なんで。

 このマグボトル、まだ新品なのに。

 

 ふと何かに気付いた私は、自身の周囲に鼻を利かせてみる。

 すると、やはり。

 

「──“火”のテレズマのニオイが充満してる」

 

 そう呟き、朝の陽射しへ目を向ける。

 眩しい。

 

 今の時期、太陽を守護星とする『獅子座』が支配しているから、朝の陽の光からは、獅子座の火属性のエネルギーが地上に降り注いでいる。

 それらのごく一部、それも私自身の近辺に降り注ぐエネルギーは、私が繰り返し唱え続ける『術式』に反応し、私の周囲に留まり続けている。

 しかし、術式そのものは、私の『練度』が低すぎるせいで発動までには至らないため、使われないままのエネルギーだけが漂っているのだろう。

 

 いや、ごく微小な範囲で発動はしてるっぽい。

 威力がほとんど無い上に、特に狙いも定めず、制御もしていないため、私の周囲のランダムな場所の温度を僅かに上げるだけに留まっているが。

 マグボトルの中の氷水が、すぐに氷が解けた上にぬるくなったのもそのせいか。

 

 もし今の私が魔力を普通に使えるのなら、小さな種火程度は出せるだろうが、魔力を封じられた状態で、火のテレズマを引き込む形で利用したせいで、こんな珍妙な現象が起きているのだろう。

 

 まあ、この程度でも部屋の温度を上げたりとか色々利用できそうではあるけど、普通にヒーター入れるなど、異能を使わず道具を使ったほうが早い。

 せいぜい、テレズマを集めて、天使の術式発動の補助に使うくらいか。

 

 ただ、生半可に威力が上がったりしたら、今度は制御が甘いせいで暴発するのが怖いかも。

 近いうちに、この術式の制御の訓練もしとかないといけないか。

 照準を付けるための『触媒』を使う事も視野に入れよう。

 

 そして、家に帰るため、ここから立ち去ろうとした矢先──。

 

「何だあ? 最近河原で能力ぶっ放してるガキがいるっつうから、仲間に引き込もうと思って来てみれば、よりにもよって、()()()()じゃねーか」

 

 やばっ。

 変なのが来た。

 

 私の目の前に、柄の悪そうな……いや、()()()()男子学生の二人連れが立ちはだかるようにして、こちらに対し見下すような視線を向けている。

 

()()……って何のですか? よければ話を聞かせて貰えたら嬉しいなぁーって思います」

 

 とりあえず、時間稼ぎと情報の引き出しも兼ね、私は愛想笑いをしながら質問を投げかける。

 ──が。

 

「ああん? 無能力者が何口利いてんだ?」

「こいつ笑ってやがるぜ。これから俺達の獲物になるとも知らずにな」

 

 ……なるほど。

 こいつら、典型的な『能力を笠に着て低レベル能力者を見下す高位能力者』か。

 

「バカなガキだ。チョロいぜ」

「お前らは大人しく俺達正義の手で、成敗されときゃいいんだよ。ったく、ただ無能なだけじゃなく、最近はズルして能力上げようとして皆に迷惑掛けやがって。もう居るだけでお前らは悪なんだから滅んどけや」

 

 さて。

 下らない()()()()は聞き流して、初春(ういはる)白井(しらい)さんにでも知らせとくか。

 ()()()()に魔術一発ですら使うのがもったいない。

 

「おっと。通報とかしても無駄だぜ」

 

 私がスマホを掛けようとする素振りを察知したのか、二人のうち優男のほうが、牽制する。

 

 構わず、私はスマホをアンロックして通話しようとするも……通じない!?

 

 見ると、アンテナが『圏外』になってる。

 ……妨害電波か?

 

「この俺の能力は『電波障害(レディオ・ジャム)』。強能力(レベル3)だ」

 

 なるほど。コイツからは『電磁波ノイズ』みたいなニオイを感じる。

 御坂(みさか)さんの下位互換か。『弱い犬ほどよく吠える』と言うけど、本当みたい。

 

「そして、この俺様の能力は『熾火再燃(エンバー・スプレッド)』。強能力(レベル3)だぁ!!」

 

 もう一人の坊主頭のほうは、取り出したマッチ棒を擦った後、点火した種火を手の上で一気に巨大な火球へと膨張させる。

 

 ……!? って、ちょっと待ってよ!

 何この火力?

 先月、銀行強盗起こした発火能力者(パイロキネシスト)強能力(レベル3)相当だって聞いてる。

 それでも、こんな火力は出ていなかった。

 発動条件とか色々あるみたいだけど、出力だけなら大能力(レベル4)じゃん!

 

「どうだ! ビビったか! 無能力(レベル0)のお嬢ちゃん!」

 

 そうドヤ顔で語る坊主男と、隣に控える優男の様子に対し、私は若干ビビリつつも、頭の片隅は冷静なまま、ある種の違和感に気付いていた。

 

 この火球男のAIM拡散力場そのものはそれほど強くない。

 一方、ノイズ男のほうは相方に寄り添ったまま何もしてこないのが気になる。

 能力を笠に着てる能力者っていうのは、何かと()()()()()()()となり、普通に『殴る蹴る』事をしなくなるから、補助担当の能力者が補助に徹して何もしないのは別段おかしな事でもない。

 ただ、攻撃を仲間に任せるにしても、巻き添えを避けるため距離を取るとか、色々できる事はあるはず。

 

 つまり、ノイズ男は()()()()()()()()相方をアシストしてる。

 火球男のほうは、ノイズ男の補助を受けてる状態で、能力の制御に気を取られ、両手を頭上に掲げたまま、巨大な火球を維持する事しかできていない。

 もちろん、アレをそのままぶつければ、標的は火達磨にされるだろう。

 

 あとは、相方がどんなアシストをしているかが分かればいいだけの事。

 

 ……見付けた!

 

 コイツ……『気体』のニオイがする!

 

 電磁波。

 御坂さんのような発電能力者(エレクトロマスター)が操る事のできる力場だけど、それを応用すれば、ある種の『気体操作』も可能となる。

 

 空気中の酸素(O2)に電気を流すと、オゾン(O3)に変わる事はよく知られている。

 

 そして、あまり知られてないけど、波形を整えた赤外線を極小空間に集中して照射すると、化合物の分子結合を振動させる事で切断できるという研究があるらしい。

 この『赤外線』ってのは要するに、可視光線=光より周波数の低い電磁波の一種だ。

 それの波形を整えて、水(H2O)に集中して当てると、酸素と水素(H2)に分離できる。

 

 ここは河川敷で、すぐそばに大量の川の『水』が流れている。

 

 コイツの能力の本領は『妨害電波』なんかじゃなく、電磁波を応用した『水の分解』と『化学変化』による『気体操作』だった!

 

 川の水から水素と酸素を取り出し、酸素を比重の大きいオゾンに変えた後、それで比重の軽い水素を上に押しやって、さらに空中に妨害電波を飛ばすことで空気中の酸素をオゾンに変え、水素の逃げ道を塞ぎつつ、さらに火球へ注ぎ込むことで火力を増大させる。

 

 種が割れれば、もう()()()()()()()()

 

 そんな私の顔色一つ変えず、物怖じしない態度に気付いたのか、ノイズ男が露骨に不快な表情となる。

 

「何だ? てめぇ……。無能力者の癖に、何でそんなに落ち着いてられんだ。自分の立場分かってんのかコラァ!?」

 

 そして、露骨にキレ始める。やっぱり、“弱い犬”だったか。

 

「こ、こいつ……もしかして、大能力者(レベル4)とかじゃねぇのか……?」

 

 そんな私の毅然とした態度から絶対的な自信(スゴみ)を感じ取ったのか、今度は火球男がビビり始めた。

 

「い、いや、そんなはずはねぇ……コイツの制服、柵川(さくがわ)中学だろ。あそこは低レベルしかいねぇはずだ。大能力(レベル4)なら、常盤台とか霧ヶ丘(きりがおか)とかに行くだろ」

 

 それに対し、ノイズ男が理路整然とした説明で、相方の不安を払拭する。

 

 ……もうそろそろいいか。時間がもったいないし。

 

「温にして乾」

 

 私は、自分の周囲を渦巻く『人工的な』気体の流れに身を任せながら、火球男とノイズ男の間くらいに狙いを集中し、『力ある言葉』を唱え始める。

 

 ……パチッ。

 

 ノイズ男の頭の横くらいの空間に、一瞬だけ『火花』が散った。

 

「温にして乾。温にして乾。温にして乾」

 

 バチッ! バチッ! ボッ!!

 

 今度は、火球男の後ろに一回、ノイズ男の頭上に一回、巨大な火球の横っ腹に一回、破裂するように『火花』が散る。

 

「な、何だぁ……? こんガキ、何ブツブツ言ってやがる」

 

 私の()()()()()()()()挙動に対し、ノイズ男が訝しむも。

 

「やっぱ、こいつ……能力使ってるんだ……きっと掛け声だよ……」

 

 火球男が悪い方向に考え、また弱音を吐く。

 

 そして、次に私は。

 

「……温にして乾」

 

 今度は金属バットを『杖』のように掲げ、狙いを指し示した上で、()()()()()を紡いでみせた。

 

 ボッッッ!!!

 

 火球男とノイズ男のちょうど中間に大きな火花が散り、それが『迎え火』となり、巨大な火球から空気中の水素を導火線とし燃え広がることで、二人の体に炎が燃え移った。

 

「「……あぎゃあああああああ!!!!!」」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()火達磨になった『自業自得』な二人が阿鼻叫喚の苦しみにのたうち回る様子を、私は無感情な目線で見下ろしていた。

 

 そして、頃合いを見計らい、私は金属バットを『剣』のように構え。

 

「……温にして湿(しつ)

 

 突きを放つ仕草とともに、これまでとは()の力ある言葉を放つ。

 

 ビュワッッ!!

 

 一瞬だけ、火達磨の二人に対し鋭い突風が吹き付けるも……火は全く消えていない。

 

「うわ。やば。消えてないし」

 

 まだまだ練度が足りてないかぁ。

 折角カッコ付けたのに……剣のポーズまでとって。みっともないなぁ。

 

 とりあえず、火が消えれば何でもいいか。

 

 そう思い直し、私はこいつらを金属バットで思いっ切りぶっ叩いて転がし、川に突き落とした事で、ようやく鎮火に成功したのだった。

 てか、火傷より金属バットの打撲のほうが酷くなってるし、川面にプカプカ浮かぶ水死体(ドザエモン)みたくなってるけど、背に腹は代えられないから、勘弁してよね。

 

 ……その時、背後から『ねっとり』とした『監視者』のニオイがした。

 思わず振り向くと、()()()()()()()その場所に白井さんが空間移動してきた。

 

「やりすぎですの……って、何見てますの?」

 

 あはは……白井さん、見てたんですね。

 もっと早く来てくれれば……。

 

「あの二人の火傷は自業自得ですよ……あたし()()()()()()()()

 

「ウソおっしゃい。あのでっかい火の玉はまあ、そうでしょうけど、あなたの手品か何かで能力の暴発を誘導とかなさったのでしょう? それに金属バットで滅多打ちも、消火のためとはいえ些かやりすぎですの」

 

 うう。白井さんに隠し立ては通用しないなあ。

 でも、今回はあたしは完全に悪くないから言わせてもらう。

 

「この人達、二人して強能力者(レベル3)ですよ。そんなのが無能力者(レベル0)のあたし一人に寄ってたかって、大掛かりな“合体技”なんか叩き込もうとするなんて、いくら何でも酷すぎません? 仮にあたしが何か仕掛けたとしても、“緊急避難”のための正当防衛ですよ」

 

「う。ま、まあ……確かに、佐天さん一人に能力者二人掛かりでここまでするのは尋常ではありませんわね。ただ、緊急避難かどうかは専門的な話なので、白黒付けるなら裁判沙汰になりますの」

 

 うーん。もう一押しか。

 

「それに、たとえ()()あたしが何か仕掛けたとして、それが何なのかを白井さんが分かってたとしても、みんなに証明できますか?」

 

「ゔ。……そ、その言い方はズルいですのー……」

 

 よし。勝った。

 

「兎に角、この人達はあたしが無能力者だと分かった途端、『獲物』呼ばわりして襲いかかってきたんですよ。もしあたしが無能力者じゃなかったら『仲間に引き込む』つもりだったみたいです。何なんでしょうね。能力者が徒党を組んで無能力者狙いの『人間狩り(マンハント)』でもやからすつもりだったんでしょうか」

 

 そして、私は堰を切ったかのように、滔々と事情を述べ上げる。

 まるで非難するかの如き物言いに、白井さんの顔が見る見るうちに青ざめ、表情が曇っていく。

 

「佐天さん……」

 

 ……少し、言い過ぎたか。

 白井さんは何も悪くないのに。

 それに、私は自分が無能力者だという理由で『被害者』としてなんか振る舞いたくない。

 それは私にとって『超能力者の夢を諦める』という敗北宣言に等しいのだから。

 私は被害者になんかならない。そんなのになるくらいなら、()()()()()()()()だと思う。

 

 だから。

 

「まあ、少々重たい話になりましたけど、あたしはこんな下らない連中に負けるつもりなんて全くありませんし、悪い奴らなんか、御坂さんみたいに軽く蹴散らせるくらい強い超能力者(レベル5)になる夢を諦めてませんから」

 

 と、毅然と言い放って見せる。これは決して強がりなんかじゃない。

 

 すると、白井さんの顔色が少しだけ元に戻ったようだ。

 さらに、私を見る目が何だか以前と少し変わったようにも見える。

 

「兎に角、()()()()()()の件については風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)のほうで調べておきますの。佐天さんは事件の被害者として、一応聞き取りは済んだ事になりますので、もしさらに何か聞く事があれば、改めてこちらからお知らせしますの。……それでは」

 

 白井さんは気を取り直し、私にそう伝える。

 そして、加害者の二人を川から引っ張り揚げ、手錠を嵌めた後、二人の身柄とともに、空間移動でその場を後にした。

 


 

 河川敷での一件の後、私はそのまま足早に帰宅した。

 そして、シャワーで汗を洗い流した後、朝食(また素麺)を済ませ、()()を整え、替えの制服に着替える。

 

「さて。魔女っ子(シスター)ちゃんと眠れる騎士(ナイト)を『魔女狩り狩り(オカルトハンター)』の佐天使(さてんジェル)さんが助けに行くとしますか」

 

 そう言って、目的地へ向け、意気揚々と自宅を出発するも……。

 

「あれ……? そういえば、上条(かみじょう)さんとシスターちゃんって、今どこにいるんだっけ。てか、そもそも上条さんの自宅とか電話番号とか知らないし、それどころか面識すら無いんだった。黄泉川(よみかわ)先生と小萌(こもえ)先生からちゃんと聞いとけばよかった……」

 

 早々に断念するのだった。

 はぁ……何ともしまらないなぁ。

 

「……あ。そうだ」

 

 初春に聞けばいいじゃん。

 

 そう思った私は、初春に電話を掛けようとした矢先、スマホが鳴り出した。

 ──って、初春!?

 

「もしもし、初春?」

 

『あっ。佐天さん?』

 

「どしたー?」

 

『聞きましたよ! 大丈夫ですか?』

 

 ああ。(あたしが無能力者狩りに襲われたの)もう伝わったのか。早いな。

 

「うん、平気」

 

『よかった……ところで、今から会えませんか? 相談したい事があるんで』

 

「え? 今から?」

 

 どうしよう。これから上条さんを探しに行こうと思ってたんだけど。

 ……あ。それで初春に場所を探して貰おうと思ってたんだから、会えば手っ取り早いじゃん。

 

『駄目ですか?』

 

「あ、ああ。うん、いいよ。今からそっち行く」

 

『じゃあ、場所はjoseph's(いつものところ)で』

 

「うん。じゃあ」

 

 さて、と。

 いつの間にか路地裏を歩いていたようだ。

 もはや体が道を覚えてしまってて、習性にでもなってるのか。

 そんでもって……。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()マズイと思ったのか……随分慎重な連中だなぁ。

 気配の消し方が、()()()()じゃない。

 ほんの僅かにAIM拡散力場のニオイが漏れてるおかげで、何とか『人間がいる』って気付けたくらいだし。

 

 この『用心深さ』は、おそらく無能力者(レベル0)……しかも人数が多く、微かに『火薬』の匂いも混じってる。

 武装した無能力者集団──スキルアウト。

 それも、これだけ統率されているなら、トップにキレ者がいるんだろう。

 

『──キィィィィィン……』

 

 !? 何だ、この音。

 ヤケに耳障りだけど、攻撃か何かだろうか。

 モスキート音みたいな。

 それにしても、ただ耳障りな事以外、何とも無いけど。

 

 ……もしかして、『魔術』!?

 でも、無能力者(レベル0)とはいえ能力開発を受けてる以上、魔術なんか使ったら必ず()()()が出るはず。

 あたしみたいに元々魔術の経験があって、後から特殊な事情で魔力を封じられて、代わりに他の力を使う方法を探ったとかいうのは、例外中の例外だろう。

 いや、世界中探せば、あたし以外にも一人か二人くらいはいるかもだけど。

 スキルアウトに魔術なんか使えるとはとても思えない。

 使えるとするなら、学園都市の外から来た雇われの魔術師くらいか。

 

『…………』

 

 と、思ったら、音が止んだ。

 一体何だったんだろう……。

 

 いや、まだ油断はできない。周囲の気配は相変わらずだ。

 

 その時、いかにも柄の悪そうな金髪鼻ピアスの不良男が、私の目の前に立ちはだかった。

 

「よう、お嬢ちゃん。お一人かい? ちょっくら俺に金貸してくんねえか?」

 

 まるで『ガサツ』をそのまま絵にしたような不良男が、ステレオタイプな三下の台詞を吐く。

 ……この手の人達って、自分の言葉に疑問とか持ったりしないのかな?

 ほら、漫画の悪役みたいだなあー……とか。

 

 そんな私の白けた視線に気付いたのか、三下男は顔を引きつらせ、蟀谷(こめかみ)をピクピクさせながら、何やら次のリアクションを思案しているようだった。

 

「お嬢ちゃん、もしかして俺のこと見えてない? あるいは耳が遠いのかな? ……ゴメンなー。俺、そういう知り合いとかいねえから、どう気ぃ遣えばいいのか分かんねえんだわ。……だからお嬢ちゃん、俺に教えてくんねえかな? コミュニケーションの取り方とかをよぉ!!」

 

 脅しなのか気遣いなのかよく分からない台詞を吐きながら、三下男はズボンの腰から抜き出した伸縮式の特殊警棒を振って伸ばし、それを思いっ切り壁際の配管に叩きつけ、大きな音を立てる。

 

 ……コイツ()()()相手に、あたし一人で勝てるか?

 

 逃げ道は──ない。

 この人数だ。あっという間に退路は絶たれる。

 

 ……この場合、相手に『総力戦』は無意味だと悟らせつつ、さらに余計な遺恨が残らないよう、()()()()ですらない『誰も不幸にならない円満な決着』へと持っていくしかない。

 

 そもそも、相手の目的は何だ?

 あたしはコイツらから何も恨まれるようなことはしていない。

 今朝の無能力者狩りの二人組だって、言ってみれば、コイツらスキルアウトの敵でもあるはず。

 強いて挙げれば、一年くらい前、学園都市に来たばかりの頃、一度だけ不良達を魔術で撃退した事はあるけど、あれだって顔を覚えられてる訳でもないし、相手からは能力者だと思われてたみたいだし、あれから何ともないから、今回のとは関係ないだろう。

 

 目の前の三下男は、妙にゆったりした動きで、まるでこちらの出方を伺ってるようにも見える。

 

 ……あたしを試してる?

 

 兎に角、ここであたしが何か『手札』を切らない限り、この状況は終わらないのだろう。

 ……しゃあないか。

 

 覚悟を決めた私の表情を見て取ったのか、三下男は特殊警棒を前に出して身構える。

 私はポケットに入れてあった鉛のケースからカードを1枚取り出す。

 

「──温にして乾」

 

 そして、金属バットを()()()()力ある言葉を紡ぎ出す。

 

「温にして乾。温にして乾。温にして乾。温にして乾。温にして乾……」

 

 そして、矢継ぎ早に同じ言葉を念仏の如く延々と唱え続ける。

 目の前の三下男は何も邪魔をしてこない。

 

 あたしがこれから何かすると分かっていながら、この行動を()()()待ち構えている?

 つまり、先に撃たせるつもりか?

 ……なるほど。

 先に尖兵一人を当て馬にし、()()()()()()()()()()()状況を作った上で、あたしの手札に応じて制圧する作戦を立て、残りの大勢で一気に仕留めるつもりですか。

 

 三下男はせいぜい、自分の特殊警棒を近くの配管に当てて音を立てたに過ぎないし、()()()()()()()()と言い張ろうと思えばできない事もないか。

 

 あちらさんのトップもかなり嫌らしい手を考える。

 これが、『弱者の戦略』というヤツですか。

 

 なら、こちらは敢えてそれに乗りましょう。

 先に撃って欲しいのなら、撃ってやりますよ。

 それが、あたしの『強者の戦略』ってヤツですから。

 

「──温にして乾。

そして、火──すなわち獅子座のテレズマを代価とし、V.(ヴァウ)H.(ヘー)V.(ヴァウ)御名(ぎょめい)を唱える──」

 

ヴェフエル。(Vehuel.)杖(ワンド)の5と照応。(Corresponding with five of Wand.)

慈悲(ケセド)は錫。(Chesed is Tin.)峻厳(ゲブラー)は鉄。(Gevurah is Iron.)

錫と鉄の間、テト。(Between Tin and Iron is Tet.)その意味は『欲望』。(It means Lust.)

属性は火。(Element is Fire.)その形は蛇。(Form is Snake.)

我が手の指し示す先に、(In The Point My Hand Shows,)その力を顕現せよ(Manifest the Power.)

 

 路地裏に満ち満ちた火のテレズマを吸収し、巨大な炎の蛇が生まれいづる。

 ()()は、三下男を遥か高みから見下ろしていた。

 

「……~~~~ッッッ!?!?!?」

 

 蛇に睨まれた蛙のように、腰を抜かし地面にへたり込んだ三下男は、しばしの間、何も言えなくなり、やがて乾いた笑いを漏らし始める。

 

「はは、ははは……な、何だよ……コレ。どこが無能力者(レベル0)だよ……こんなの聞いてねぇ……」

 

 さっき三下男が派手な音を立ててぶっ叩いた配管が、炎の蛇の高熱で見る見る溶けていく。

 まあ、こうでもしないと連中()()()()()みたいだし、弁償ならスキルアウトにツケといてね!

 

 仲間の窮地に居ても立ってもいられなくなったか、他の連中が堪えきれずに一斉に出てきた。

 そしてそれを、中心人物らしき大男が手で制して押し止める。

 

「……それは、『非科学(オカルト)』というやつだな?」

 

「……これ、ただの『手品(マジック)』というヤツです」

 

 大男は、霊長類みたいな見た目に反し、目の奥から『知性』を感じさせる『冷たい光』を放っており、まるでコピー機から紙が吐き出されるように無味乾燥な喋り方で、私がやった事を()()()()()()()()と看破してみせた。

 

「そうか。……呼び方などどうでもいい。貴様が()()()()()()()ほど『強い』事に変わりはない」

 

「お褒めに預かり光栄ですけど、あたし手品が使えるだけの、ただの()()()()()()ですよ?」

 

 ……どうやら今朝の一件は早くもスキルアウトの間に広まっていたようだ。

 まいったなぁ。

 これ、リクルート活動ですよ、多分。

 あたしスキルアウトなんかやるつもりないし、能力者と戦争起こすつもりもないんだけどなあ。

 

「……そうか。だが、貴様とそう変わらない()()()()()()()()()が、闇の組織で活動している事も珍しくはない。……能力者か、そうでないかにかかわらずな」

 

「なら、なおさらお断りします。あたし同い年の友達沢山いるんで、そういう子達とも喧嘩したくないんですよ。この力も、誰かを()()()()ためじゃなく、誰かと()()ために磨いてるんです」

 

 この際なので、ハッキリ言ってやる。

 

「……“競う”……だと?」

 

「ええ。あたしこれでも超能力者(レベル5)になりたくて学園都市に来たんです。にも関わらず、無能力者(レベル0)の判定を受けてから一年以上も全く伸びないままの才能無しなんですよ。だから、マトモな方法じゃ無理だと判断して、あたしなりに別の方法(うらわざ)を模索して、超能力者(レベル5)を目指すことに決めたんです。なので、能力者は敵じゃなくて、乗り越えるべき競争相手(ライバル)なんです。たとえそれが、無能力者狩りをするようなクズであっても」

 

 そう、あたしは宣言してやる。

 たとえスキルアウトを目の前にしたって、あたしは自分の言葉を曲げたりなんかしないんだ。

 文句があるなら、全員まとめて、かかってきなさい!

 一人残らず、病院送りにしてやるから。

 

「……ッ」

 

 私を見る連中の目が、羨望もしくは嫉妬が色濃く混じったものへ変わり、誰かが舌打ちする。

 そうだ。

 コイツらは『魔術』なんか知らない。知りようもない。

 何の逃げ道も保険も無いまま、学園都市にやってきたそばから『捨てられた』連中だ。

 仮に、私みたいに何かの特技があれば、ここまで卑屈になる事も無かっただろう。

 どうにもならないと諦めたからこそ、スキルアウトなんかやっているんだ。

 それが今更、私みたいに前向きに進む道があると見せ付けられたところで、嫉妬か怒りしか湧いてこないだろう。

 

「……一つ、教えてやる」

 

 ここで、リーダーの大男が別の話を切り出す。

 

「?」

 

「……『キャパシティ・ダウン』。これが貴様の()()()の能力者相手に使われている裏技(チートアイテム)だ。先程、貴様に対し浴びせた耳障りな音の正体だ。これを能力者どもに聞かせると、音で演算ができなくなるらしい」

 

 え?

 そういえば、最近、常盤台の生徒がスキルアウトに襲われたって聞いてたような。

 もしかして……。

 

「……何者かが、我々とは別のスキルアウトにバラ撒いて使わせているらしい。……それを偶然手に入れた。作り主の意図が読めない上、そいつの正体も分からないから、我々はそれを戦力には数えていないがな。……今回は、貴様が能力者か否かを判別するのに使わせてもらった」

 

 つまり、この連中は、あたしに手の内を晒すよう仕向けるため、わざと『悪者』を演じた?

 そもそも最初から、戦うつもりなんて無かった……?

 

「……そもそもこんな玩具など使わずとも、我々は()()()()()相手に負けるようなヤワな鍛え方をしていないがな」

 

 ──()()()は、『強い』。

 

 もちろん、総力戦をすれば、相手のほうは甚大な被害が出るだろう。

 あたしの術式を『全力』でお見舞いすれば、間違いなく沢山の『人死に』が出る。

 だからと言って、あたしが『勝つ』見込みは()()()()()()()()()()

 

 おそらく、この男一人だけが相手でも、()()()()()()()

 この男の人望が恐ろしく篤いのは、周りの連中を見れば分かる。

 あたしに対し爆発寸前の不満を抱えてそうな輩もチラホラいるにも関わらず、誰一人、この男には逆らえない。──いや、()()()()()

 メンバー全員が、それほどの『忠誠心』と『士気』を保っているなんて、尋常じゃない。

 それだけではなく、個人としての戦闘力も、()()()()()()に違いない。

 

 おそらく、この人はスキルアウトにとっての救世主(ヒーロー)であり、無能力者が能力や魔術などの異能に頼らず、純粋に物理的な力のみで頂点を目指せるという一つの可能性なのではないか。

 

 ──私はそう考える。

 

「……邪魔したな。……行くぞ」

 

 そう言い残し、大男は大勢の手下を引き連れて、その場から去っていった。

 

 …………。

 

 はああああああ~~~~~~。(クソデカ溜息)

 

 怖かったぁー。

 

 術式への集中が切れたのか、それともテレズマが枯渇したのか、巨大な炎の蛇はいつの間にか消えており、私はその場にへたり込んで、女の子座りをする。

 周囲の壁は炎で焼け焦げ、壁面を這っていた配管はドロドロの飴細工みたいに溶けていた。

 

「佐天さん!!」

 

 そこに、後ろから初春の声がした。

 振り向くと、空間移動(テレポート)してきた白井さんとともに初春がいた。

 

「あはは……」

 

 私は頭を掻きながら、笑って誤魔化しつつ……。

 

「いやー。能力者狩りに襲われちゃって……あたし能力者と間違えられたみたいでさ」

 

 と、適当に辻褄合わせをする。

 詳しい事情なんか話したら、どうなるか分かんないし。

 

「ウソおっしゃい」

 

 ああ、また白井さんに見抜かれた。

 

「佐天さんがいつまで経っても来ないし、電話しても電波が届かなくて、GPSでも位置情報が分からなかったので、衛星からの映像で佐天さんが通りそうな場所を隈なく探したんです。そしたら、建物の間が凄い燃えてるから」

 

 その初春の説明に、私は改めて戦慄を覚えた。

 『電波が届かない』って、もしかして通信妨害仕掛けられてたのか。

 (GPSとか衛星からの映像とかの(くだり)は聞かなかった事にする)

 

 そして、ふと地面を見ると、何か溶けた金属片みたいなのが転がっているのが分かる。

 

「ん? これは何ですの?」

 

 それを白井さんが目敏く見付け、摘み上げて確かめつつも、何なのか分からず首を傾げる。

 他にもいくつか地面に転がってるのを初春が携帯端末のカメラで撮影し、その写真を元にネットで色々調べ始める。

 

「えーと……。これは『撹乱の羽(チャフシード)』──電波撹乱兵器の一種みたいです。これをバラ撒かれたせいで、電話やGPSが繋がらなかったんですねぇ」

 

 げ。そんなケッタイなものまで……一応、あちらさんも手札は切ってたって事なのね。

 あたし、そんな丁重な扱い(おもてなし)を受けるほど偉くなんかないのに。

 

「こんなものまで用意するなんて、一体何者ですの……?」

 

 白井さんも何だか興味津々って感じだし、これは早めに逃げるしか……。

 

「佐天さーん」

 

 はい? 何でせうか? 初春さん?

 

「ちゃーんと洗いざらい包み隠さず全部(ぜーんぶ)話して貰いますからねぇー」

「逃しませんの」

 

 ひえーん。

 白井さんだけじゃなく、初春まで怖いよう。

 

 何でこんなのばっかり……。

 もういい加減、言わせて欲しい。

 

 ……不幸だぁぁぁーーー!!!

 


 

 『コーヒー&レストラン“joseph's”(いつものたまりば)』にて。

 

 店のテレビから、大人気魔法少女アニメ(マジカルパワードカナミンインテグラル)の主題歌が流れ始める。

 私はそれに反応し店内を見回すと、時計の針が(午前)9時ちょうどを指しているのが見えた。

 

 ……よし。現時刻を以て魔力使用制限回数リセット、と。

 さっきのは魔力を一切使わず、純粋にテレズマのみで発動できたって訳だ。

 属性魔術と『明白なる御名(シェム・ハ・メフォラシュ)』のコンボを構築できたのは結構でかい。

 これであとは、テレズマ充填の儀式も魔力を使わずに行えるようになれば、魔力に頼らずとも、魔術を副作用無しで好きなだけ使いこなせるようになる。

 そしていずれは、能力のレベルも上がっていけば──。

 

「佐天さん? 何を他所見してますの」

 

 はあ。魔法少女(カナミン)の衣装カワイイなあ。あたしも一度でいいからああいう格好してみたい。

 

「コラ。聞いてますの?」

 

 はい。聞いてますよ。アニメの主題歌(カナミンのテーマ)のほうですけど。

 

「佐天さん、駄目ですよー。真面目に答えてくれないと、いつまで経っても帰しませんからねー」

 

 ええ……。初春、それってアンタの(サボりたいっていう)願望入ってるでしょ。

 ほら、白井さんも何だか睨んでるし。

 

「ま……ったく。どこの世界に、日に二度も『○○(なんとか)狩り』に襲われて二度も無事生還する無能力(レベル0)の女子中学生がいますのやら。超能力者(レベル5)のお姉様じゃあるまいし。大概になさりませ」

 

 あはは……てか、三日前なんて幻想猛獣(AIMバースト)と戦った後、魔術師と聖人に二人掛かりで一晩中追い掛け回されたんですが。

 

 って、あたしの日常ってホントもう何なんだろ。

 あのイギリス清教の変装ババア女に体弄られてから何かもう色々とおかしい。

 もしかして、不幸を呼ぶ呪いでも掛けられてる?

 

「おっすー。お待たせー」

 

 おっと、噂をすれば何とやら、ですね御坂さん。

 

「お姉様、遅いですの!」

 

 よし、これであたしから注意が逸れた。

 

 あたし達グループが大体いつも座る場所は、窓際の4人から6人掛けのテーブル。

 御坂さんの定位置は、通路から見て右側の一番奥と相場が決まってる。

 その隣が白井さんで、向かい側にあたしと初春で、大体あたしが窓側。

 

 現在、あたしは窓際のテーブルの通路から向かって左側の奥にいて、その向かい側の長椅子に奥から初春、白井さんの順に座っている。

 ここに御坂さんが加わると、初春と白井さんが一旦席を立ち、御坂さんが奥に座った後、その隣に白井さんが座り、初春はあたしの隣に移動するはず。

 

 ここで、どさくさに紛れ、あたしが席を立った後、トイレに行くと言い残し、そのままこっそり店を出れば、しばらくは身を隠せる。

 後は、スマホの電源を切った上で地下街に逃げ込めば、衛星から初春に見付かる心配もない。

 そこから、上条さんとシスターちゃんを探せば、まだ助けに行ける。

 

 そう考え、私が席を立つために体を右の方にズラすと、突然白井さんが隣に空間移動してきた。

 ……うわ、あぶなっ!

 

「お姉様はそちらにお座りくださいませ」

 

 そう言って、白井さんは抜け目無い動きで、自分の飲み物をサッとこちら側へ移動させる。

 と同時に、初春が素早い動きで御坂さんに奥の席を譲るのだった。

 

 ……この二人に定位置が無いの、忘れてた!

 いつもは白井さんが御坂さんの隣に座るから、自然とあたしと初春の位置も決まってただけ。

 てか、どっちかって言うと、あたしも大体左奥が定位置になってて、隣が初春だったっけ。

 

 今回に限り、白井さんと初春の二人が『佐天さん絶対逃しませんよシフト』を組んでるせいで、こうなったって訳ね……。はぁ。

 風か地……山羊座(地・眼)か水瓶座(風・窓)の天使による空間移動術式でも考えるか。

 もしくは聖人ばりに身体強化術式を自分に掛けまくった上で、窓ぶち割って逃げるとか。

 身体強化……心肺機能……心臓は五行思想では『火』に属するから、射手座(火・支柱)か。

 どっちにしろ、白井さんにソッコーで拘束されるか。金属矢で服穴だらけとか嫌だなあ。

 

「佐天さん。長い考え事で現実逃避してないで、いい加減質問に答えてくださいよー」

 

 うおっ。びっくりした。

 

 いきなり初春がテーブルに身を乗り出して私の顔を覗き込んでくる。

 

「え? 質問って何の話? 佐天さん何かあったの?」

 

 ここで、御坂さんまで話に乗ってくる。

 

 これは逃げられないなぁ……。

 しゃーない。

 

 私は、今日起きた事を『魔術』に関する部分のみ伏せた上で掻い摘んで説明した。

 


 

「つまり……佐天さんが能力者二人を撃退したと思われて、スキルアウトから誘いの声が掛かったと言う訳ね」

「信じられませんの」

「佐天さんが……」

 

 御坂さんは私の話にすんなり納得したようだけど、白井さんと初春はいまだに信じられない様子で訝しんでいる。

 

 いや、あたしだって信じられないよ。

 いくら魔術が使えるからって、こんな女の子捕まえて、いきなりスキルアウトやれだなんて。

 しかも、同い年くらいの女の子が闇の世界で戦ってるだなんて、アニメや漫画じゃあるまいし、佐天さんだってにわかには信じられませんのことよ!

 

「まあ、佐天さんがスキルアウトに誘われたという眉唾な法螺話は兎も角──」

 

 ん? 初春、その言い方はちょっと色々と傷付く。

 

「能力者狩りに非合法な武器が使われてるのは聞いてますけど、その主力の武器が数攻めじゃなく『キャパシティ・ダウン』と呼ばれる()()()()()の『音響兵器』だったなんて……」

 

「現場に落ちていた電波撹乱兵器と言い、近頃スキルアウトの武装強化が目に余りますの」

 

 ……白井さんの前で言うのは憚られるけど、正直お互い様だと思う。

 悪質な一部の高位能力者による、一般の無能力者に対する『人間狩り(マンハント)』と呼べる行為。

 それに対抗するためのスキルアウトの武装強化と組織化。その中で起きた能力者狩り。

 白井さん達風紀委員にとってみれば、どんな事情を抱えていようがスキルアウトに善玉も悪玉も関係無く全て一緒だけど、それはスキルアウトにとっても同じ。

 彼らにとって、風紀委員だろうと無能力者狩りだろうと善悪関係なく同じ能力者なんだと思う。

 

 あたしは偶々それに巻き込まれて板挟みに遭った形なんだろうけど。

 能力者だの無能力者だの、一々色分けして、どちらかに付くなんてのはあたしには無理。

 

 けど、誰に付くべきなのかは分かる。

 あたしは初春を守るためなら誰とだって戦える。白井さんや御坂さんの味方にもなってみせる。

 アケミやむーちゃんやマコちんのためにだって、実家にいる家族のためにだって戦える。

 でも、愛する人間以外のために誰とだって戦いたいとは思わない。

 あたしはあたしの日常を守るため以外に戦いたくはないのだから。

 

 だけど、何だろう。このモヤモヤする感じ。

 ……上条さん……ほとんど話したことは無いけど、顔を少し合わせた程度で、面識なんて無いに等しいけど……あのボロボロになって倒れてる姿が目に焼き付いて離れないよ……!

 あたしの魔術が通じるなら、できることなら助けたいけど……。

 そもそもどこにいるのかすら分からないし……いや。分かったところでどうする?

 そして仮にあの魔術師達をもう一度退けられたとして、それで万事解決なのだろうか。

 もしあの組織──イギリス清教と敵対したら、いずれはトップの最大教主(アークビショップ)──つまりあの変装女とも対峙する羽目になる。

 そうなれば、あたしでは勝負どころか、同じステージに立つ事すら叶わないだろう。

 

 いや。それなら。

 もし万が一、億が一、()()()が初春や白井さんを狙って襲ってきたら、あたしは『勝てない』という理由で戦わないのか?

 

 ……それは違うでしょうに。

 

 つまりそれは、あたしは上条さんを知り合いじゃないという理由で()()()()()ってことで、その事をあたし自身が認めたくないのだ。

 そうだよね。

 あたしなんか、その程度の()()()人間だもん。

 関係ないから、その人がどうなってもいいだなんて……あの魔術師達と何にも違わない。

 あたしって……つまらないヤツだ。

 そんなだから、いつまで経っても無能力者(レベル0)なんだ。

 

「……ッ」

 

 私は思わず顔をしかめた状態で舌打ちをしてしまい、初春から心配そうな目で見られた。

 


 

 ──上条当麻(かみじょうとうま)は、昼間のオフィス街を一人歩いていた。

 この街で働く人々の多くは現在オフィスビル内で勤務中のため、人通りは疎らである。

 彼は先日、神裂火織(かんざきかおり)という聖人の手で満身創痍と呼べるくらいの大怪我を負わされたはずだ。

 にも関わらず、どういう訳か彼の体には傷一つ無く、ピンピンしている。

 

 そんな彼が手提げカバンを肩に乗せ、のんびり歩いていると、ビルの壁面に張り付いた大型スクリーンに突如、水着姿の少女が映し出される。

 

 その茶髪の少女は、年齢にそぐわぬ幼稚なデザインの水着をいかにも楽しそうに着こなしつつ、スクリーンの中で一人はしゃいでいた。

 

「……何やってんだ? ビリビリ」

 

 それを見た少年、上条当麻は、呆れた様子でそう呟いた。

 

 ────。

 

 いつの間にか、上条は公園まで歩いて来ていた。

 

 そこには、いつもビリビリする女子中学生がキックをお見舞いする故障自販機があり、そばにはそのビリビリ中学生本人がいて、買った缶ジュースを開けているところだった。

 何やらワナワナと震えており様子が変だが、彼女はおもむろに、後ろを歩いている上条のほうへ振り向いたので、目が合った彼は何の気無しに片手を挙げて挨拶する。

 

「よう。ビリビリ」

 

 しかし、少女は手を震わせながら、缶を握りつぶし、いきなり体から電気を放出しだす。

 

「アンタの……仕業かぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!」

 

「なにぃぃぃぃぃぃーーー!?」

 

 少女が放った電撃が上条に襲いかかるが、彼が右手を前に掲げた瞬間、電撃が掻き消される。

 

「な、何しやが──!」

 

「とぼけんな!! アンタでしょう? ここんとこ、あたしをジロジロ見てたのは……アンタだったんでしょう!!」

 

 何やら全く身に覚えのない誤解をされているようだった。

 

「あの、一体何の話でしょう?」

 

「だから!! アンタがあたしをー!!」

 

「……ったーく。大体なんで俺がお前のこと見てなきゃなんねーんだよ?」

 

「“なんで”って……その……それは……」

 

 上条は呆れて溜息を吐きつつそう尋ねると、少女は途端に顔を赤くし、慌てた様子となる。

 しかし、鈍感な上条には、全く意味が分からない。

 

「顔赤いぞ? 熱でもあんのか?」

 

 なので、こんな空気を読まないことまで言ってしまう。

 

「……う、うう、うるさい! 勝負よ! とにかく勝負よ! アンタが犯人かそうでないかここでハッキリ──」

 

 その結果、少女は赤くなったのを誤魔化すかのように、再び電撃を浴びせようとするも──。

 

「こらー! こんなところで能力まで使って、何やってる?」

 

 警備員に見付かり、怒られてしまうのだった。

 おまけに『学生カップルの痴話喧嘩』扱いまでされる始末。

 

 上条は慌ててその場から立ち去るのだった。

 

 ────。

 

 上条は目を覚ました。

 

 目の前には、見慣れない天井。

 全身には包帯が巻かれ、痛みで動きが取れない。

 そして、傍らには、白衣のシスターが付きっきりで看病していた。

 

 どうやら彼は夢を見ていたようだった。

 しかし、どんな夢だったのか、終ぞ思い出す事は無かった。

 


 

 あの後、私は御坂さんと白井さんから、能力者狩りを行う『ビッグスパイダー』という組織の事と、黒妻綿流(くろづまわたる)という男がその組織を率いている事、そして、()()()が能力者狩りを『止める』ために動いている事を聞かされるのだった。

 

 ……ん? どゆこと?

 自分で組織引っ張って命令しといて、部下の任務を正面からぶち壊すって……意味分かんない。

 自作自演……いや、マッチポンプ? 自分をヒーローに仕立て上げるため?

 てか、そんな事したら部下達から総スカン食らって、反乱起こされちゃうじゃん。

 

 まるで二重人格……いや、そもそも()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()なら、()()()()()()()()()()()()()()

 それに、固法(このり)先輩のかつての知り合いで、2年前までは『善良』な組織だったっていうし。

 その2年前に()()があって、それをキッカケに『黒妻』が別人と入れ替わった……という可能性だって無くはない。

 兎に角、固法先輩から直接話を聞くしか、これ以上を知る術はないと思う。

 ところが、彼女は黒妻と再会してから風紀委員の支部に来ておらず、連絡も取れないらしい。

 

 という訳で、私達4人は固法先輩が住む学生寮へ押しかけたのだった。

 




解説1:
 上条当麻の出番について、時系列の破綻を防ぐため、本作品では辻褄合わせのため、超電磁砲に登場した際のいくつかのシーンにおいて、彼を幽体離脱した幽霊として登場させることとした。
 彼が神裂火織に大怪我を負わされ昏睡している7月24日~27日の3日間は動ける状態ではなく、さらに27日の午前中から28日未明まで、全身包帯姿のまま小萌先生の家から一歩も出ていないため、幻想御手(レベルアッパー)事件を24日とすると、記憶喪失までは御坂と遭遇できないことになる。
 これをクリアするため、昏睡状態であることを利用し、その間に幽体離脱した彼が街を彷徨い、夢として見ていたシーンを挿入した。

解説2:
 波形を整えた赤外線を照射する事で分子結合を切断する研究について。
 東京大学生産技術研究所の2019年8月30日のプレスリリース:
 【記者発表】旋律を整えた赤外光で分子反応を操作
 (参照URL:https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/3147/
 に詳しく載っている。

解説3:
 『(おん)にして(かん)』、『(おん)にして湿(しつ)』は、アリストテレスの『四元素』の性質に基づく、属性魔術。
 火、風、水、地の四属性は、『(おん)(かん)』と『湿(しつ)(かん)』の組み合わせによって生じると考えられ、術式もそれに沿ったものとなっている。
湿
風:温にして湿火:温にして乾
水:寒にして湿地:寒にして乾

 本編では、新約18巻から登場した『黄金』の創設者の一人『サミュエル=リデル=マクレガー=メイザース』が使用。
 大技でなく通常技であるにも関わらず、その攻撃の一つ一つが絶大な威力を誇る。
 その上、オート防御すらも備え、御坂美琴と食蜂操祈の合体技『液状被覆超電磁砲(リキッドプルーフレールガン)』すらも防ぐという無敵振りを発揮した。
 言うまでもないが、練度の低い佐天が使っても雀の涙ほどの威力でしかない。

解説4:
 無能力者狩りは、本編の物語開始前の時点から、悪質な高位能力者により、スキルアウト以外の善良な無能力者に対し一方的に繰り返されている凶悪犯罪。
 元々はスキルアウトと高位能力者の口論が発端だったが、高位能力者側が、無能力者への正当な報復という名目でやり始めた。
 標的とされた中には、低レベル能力者の児童達が通う小学校すら含まれる。

解説5:
 撹乱の羽(チャフシード)は、電波撹乱兵器の一種。
 スキルアウトが風紀委員の無線通信を封じる目的で用意したもの。
 竹とんぼの羽根のような形の薄い二枚羽の金属膜を辺り一帯に無数散布し、電波を撹乱する。
 マイクロモーターでゆっくりと回転し続ける事で、空中でピタリと静止しつつ自立制御を行う。
 東南アジアに分布するフタバガキ科の植物の種子を参考にした構造。
 シャープペンシルの芯ケースほどの大きさを持ち、スプレー缶のような容器に入っている。

解説6:
 無能力者狩りの二人組の能力は、作中のオリジナル。
 だが、彼らの能力に関する佐天の考察には、一部誤りがある。
 『電波障害(レディオ・ジャム)』は電磁波の操作を軸とし、その応用として気体操作が可能だが、気体そのものを操作できる訳ではなく、精密操作性には限度がある。
 いくら空気中の酸素をオゾンに変え続けたとしても、それだけで水素の逃げ道を塞ぎつつ火球までの通り道を維持し続けるのは無理があり、別途、気体操作能力者の助けが必要となる。
 一方で『熾火再燃(エンバー・スプレッド)』は既に存在する種火を増幅する能力であり、その原理は空気中の可燃性・支燃性気体(水素、酸素など)と不燃性・難燃性気体(窒素、二酸化炭素など)の分布を操作する『気体制御』(外伝『とある科学の一方通行(アクセラレーター)』に登場する能力『空気分断(エアロセパレーター)』と類似)である。
 つまり、火球を大きく燃え上がらせるための酸素と水素の()()は相方に任せつつ、供給は能力者自身が行っており、自身の炎で火傷しないよう、周囲の窒素・二酸化炭素濃度を上げるなどの対策も行っていた。
 相方が近くに寄り添っていたのは、単にそこが安全圏の中だったからに過ぎない。
 佐天がそれを正しく見抜けなかったのは、二人のAIM拡散力場のニオイが混ざり合って判別が難しくなっていたのと、あまり時間が無かったせい。
 佐天の術式は、結果的に気体の分布を撹乱する事で、彼ら二人の自滅を誘う働きをした。
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