書いている途中で文中で経過している日付を計算したところ、シャドウはティナが幻想郷に来てから3日目にこの地にたどり着いていることになります。
ティナ編本編はこれより以前の作品ではちょうど4日目が終了したところになります。
(まだ一週間も経ってなかったのか……)
空腹だったその男はレミリアの計らいによってようやく飯にありつけた。
だがレミリアはある賭けを彼に提案するのだった……。
がつがつがつ……
「…………」
がつがつがつ……
「…………」
俺はこの館に来て主に食事をねだることに成功し、ひたすら食いものにありついていた。
だが俺と戦ったこのメイド――咲夜――はさっきから何も話しかけてこない。
ただ冷たい青く光る瞳を俺のほうに投げかけてくるのみだった。
俺は軽い冗談を彼女に言ってみた。
「なぁ、メイドさん、俺に惚れちまったか?」
「面白い冗談ですわね、食後にこれ、召し上がりますか?」
彼女はそう言って手元に大量のナイフを取り出す。
「いくらでもいただいてやるさ、だけど食事が終わるまではまだまだかかるからな」
そう言って彼女をなだめた。
「……ッ、お嬢様の許可さえあればいますぐにでも……」
彼女がそう言うやいなや、次の瞬間あっという間にナイフは消え去った。
俺はゆっくりコーヒーをすすりながら考える。
(ナイフが突然現れ、消えるのには何か理由があるのか、また目の前に戦っていたはずなのに気が付いたらかなり離れた位置にいたのはどういった原理なのか……、まぁここの主には歓迎されているみたいだからしばらくは身の安全も食事も保障されるといったところか……)
しばらくメイドと冷ややかな空気の中の食事を楽しんだ(?)あと、彼女は私について来いと言った。
どうやらレミリアが俺に用があるらしい。
「くれぐれもお嬢様にはご無礼無きようお願いしますわ」
俺はその忠告を聞き流し、そのまま部屋に入る。
すると、広い空間の中に玉座があった。
彼女はそこに小さく収まっていた。
だがその姿はかわいらしいお子様というよりもどこか厳かな雰囲気さえ感じられるほどだった。
「やぁ、我が屋敷の食事は気にいってくれたかしら」
「飯は旨かったが、このメイドは最悪だな。食事中の客人に刃物を向けるなんてな」
「…………」
咲夜は無言でこっちを睨んでいた。
「ふふっ、本当に面白い男だ。悪魔の目の前にいるにもかかわらず物怖じしない、その堂々とした態度ますます気に言ったわ」
「ふん、何せ俺の記憶が途切れて最初に出会ったのが死神だからな、今更悪魔が出てきたところで何も変わらん」
「そうか……、驚かないなら話は早い。私は運命を見ることができると言ったらお前は信じるか?」
「そんな面白いことができるのか、と言っても証拠もなく信じることはしないがな」
俺の発言にレミリアは余裕のある表情を見せ、こう告げた。
「あなたが知らない自分の名を私は知っている」
「なっ!?」
俺の動揺を見てレミリアは大層愉快そうに微笑む。
俺は深く考えた。
記憶の手がかり……、自分が何者なのか分かるかもしれないのだ。
「知りたい……と言えば教えてくれるのか?」
「そうねぇ……、だけどタダで教えるのは詰まらないからねぇ……、だから、私と賭けをしないかしら?」
「賭け、だと?」
「そう、今から二時間咲夜と鬼ごっこをするの。ルールは簡単。咲夜にタッチされればそこで勝負は終了。もしあなたが逃げることができるのなら教えてあげる」
「できなかった場合どうなる?」
「ふふっ、名前だけは教えてあげる。ただしこのレミリア・スカーレットの駒となりなさい」
「悪魔の駒か……、悪くないな。その賭けに乗った!」
「なら決まりね、それとフィールドはどこに逃げてもいいことにするわ。屋敷の外でもどこでもね。あと咲夜はあなたが逃げてから10分後に追跡を始める。では行きなさい!」
「そのハンデ、後で後悔することになるぞ」
「できるならそれはそれで楽しみね」
俺はレミリアの部屋を後にし、全速力で出口へと走った。
最初に侵入を図った時はあまりにも長い廊下を延々と進むだけだったが、出口に向かうのは割と簡単であった。
外に出ると、先ほどしばらくいなかった門番の女性の姿が見えた。
だが俺はわき目もふらずその横を全速力で駆け抜けた。
「えっ、あっ、侵入者……、待てー!」
だがそう言った時にすでに距離は広がっており、また走っても俺に追いつけるスピードでもなかったようで簡単に彼女を撒くことができた。
俺はその追手がいないことを確認すると茂みに身を隠し、館のほうをじっと見つめる。
(そろそろ10分、あいつも追ってくるはずだ……)
だがスタートから10分、20分待っても、咲夜らしき姿は屋敷から出てこない。
(やはりどこでもいいと言った以上屋敷の中をくまなく探しているのだろう、まあそんな悠長なことして俺は捕まら――!!)
俺は何かの気配を感じ、体を左に転び回避行動をとった。
するとさっきまで俺がいた場所に数本のナイフが刺さっていた。
俺は真後ろを振り返るとそこには先ほどまで誰もいなかった場所に咲夜がいたのだった。
「お嬢様はかくれんぼではなく鬼ごっこと言ったはずよ?」
そう言いながら次々とナイフを投げつけてくる。
だが俺はそれを躱しつつ、少しずつ距離をとっていく。
「お前さんのそれは鬼ごっこなのかい?」
「ええ、動けなくなったあなたにタッチをすればそれでもゲームは終了ですからね」
「ふっ……、狂ってやがるぜ」
会話をしている隙を狙って俺は身を反転させその場から全力で逃げた。
ナイフが飛んでくるが自然の障害物に遮られ攻撃は俺に届かなかった。
(それにしてもあいつはどこから現れたんだ……)
そのまま走っていると集落が見えてきた。
あの屋敷以来かなりの多くの人がその中にいた。
(人ごみの中に紛れればうまく逃げられるかもしれん、ましてやあいつもナイフを投げたりはしないはずだ)
集落に入ると店、建物が、人が来ている服装が目に入る。
ただそれらはどれも自分にとって見慣れないものだった。
(そういえばなぜ見たことがない造りなのか……、俺は記憶がないはずなのに……?)
だが、目の前からそのどれとも不釣合いな格好をした者が迫ってきていた。
「あんたもしつこいな」
「鬼ごっことはそういうルールだったでしょう?」
咲夜は集落の中でもお構いなしにナイフを投げつける。
一本だけだったために難なく避けることができた。
「避けてよかったのかしら?」
ナイフが飛んだ方向を見ると通行人の男性がその軌道上にいることがわかった。
「おい!しゃがめ!!」
俺は彼に向かって大声で警告した。
「ん?」
当たる!!
だがそう思った瞬間ナイフの影形は一瞬にして消えてしまった。
「あの~……、どうかされましたか?」
「……、すまん、何でもない」
「あ~、はい」
彼は何事もなかったかのように去っていった。
俺が唖然としていると、咲夜は歩いて俺のすぐそこまで迫ってきていた。
「くっ……!」
慌ててこの集落の出口へと駆けた。
先ほどの通行人が怪訝そうな表情で見ていたのにも構うことなく。
(クソッ、一体どうなってやがる!?奴は一体何をしているんだ!?)
何かをあいつは仕掛けている、そう考え、また走ること三十分が経過した。
この30分常に全力で走っていたため疲労の色は徐々に濃くなっていった。
ちょうど目の前には竹林が広がっていた。
(わずかばかりかもしれんが休めるかもしれん……)
俺は茂みに潜り込もうとしたその瞬間だった。
「きゃっ!?」
その時俺は少女を跳ね飛ばしてしまった。
「っ、大丈夫か?」
その視線の先には若草色をしたポニーテールの少女が尻餅をついていた。
俺は彼女に手を差し出した。
「え、ええ。なんとか…」
彼女は俺の手を掴み立ち上がった。
一瞬目と目が合う。
彼女の顔は整っており、優しく、それでいてどことなく憂いを感じた。
「すまない、慌ててたんだ。じゃあな」
「え、えぇ……」
俺はわずかに胸が高鳴ったが、いい言葉が思いつかず、わずかばかりの詫びの言葉を述べ、その場から離れた。
ただそこから走ること数分、先ほどの女性の顔が頭に浮かんだ。
はじめばかりは一種の恋心のようにも思えた。
だが1歩ずつ足を動かすにつれ、そうではないことに気付く。
(あの顔……、どこかで会った気がする……どこの記憶だ……?)
思い出そうと足を止め、空を仰ぎ見る。
ただ時は待ってくれず、上空からナイフが俺に降り注いだ。
とっさにバク転で回避し正面にいる咲夜に目を向ける。
「私との鬼ごっこ中にもうほかの女性に夢中ですか?」
「なんだ、嫉妬してるのか?」
彼女の挑発に挑発で返す。
「その減らず口もここで終わりです」
咲夜はナイフではなくカードらしきものを構える。
「幻在「クロックコープス」」
すると次の瞬間には本人のいない角度から大量のナイフが降り注いだ。
予測不可能の攻撃になすすべなくたくさんのナイフが突き刺さる。
「ぐうっ!?」
全身から一気に血が流れ出る。
立っていることができず、片膝をつき咲夜を睨みつける。
だが今の攻撃でようやく彼女についての謎がわかったのだ
「おま……え、時間を……操れるのか?」
「あら、お気づきになりましたか」
「ああ……急に現れたり、ナイフをどこからか出したり消したり……、それらすべては……、そう仮定した時成り立つからな」
彼女はふと笑みを浮かべる。
「ええ、お気づきになられましたか。ですが私の本当に種も仕掛けもない手品にわかったところであなたはすでに虫の息……、この状況をどう打開するおつもりで?」
あぁ、もっともだ。
ぶっちゃけると足も一回動かしたらもう動けないくらい傷は深い。
血もとめどなく流れ続けている。
だがなぜか死というものにそれほど恐怖はない。
むしろ生に対する執着が薄いのかもしれない。
俺は静かに立ち上がり彼女に向けてダガーを向ける。
「一撃だ……一撃で決めてやる……」
「……」
俺は死にもの狂いで突進を仕掛ける。
「愚かな……」
彼女はナイフを次々に投げる。
俺はそれをダガーで弾く。
だが、手にべっとりついた血のため、ナイフの衝撃でダガーが手から零れ落ちた。
「これでチェックメイトですわ」
彼女はナイフを投げることなく突進し俺にとどめを刺そうとした。
(ここで終わりか……)
だが、俺の脇から突如として黒い犬が現れ、彼女の細い右腕に噛みついた。
「うあああああっ!?」
彼女は今まで冷静に努めていたが、突如の激痛に声にならないような悲鳴を上げた。
だが俺にはもうその時点で力尽き、その場で倒れた。
気が付いた時には俺は布団で横になっていた。
俺のすぐわきには先ほど俺を救った犬がぐうぐう寝ていた。
そして咲夜も腕に包帯をぐるぐる巻かれた状態で俺の横になって寝ていた。
「目が覚めましたか?」
声のする方を見ると兎耳の少女がそこにいた。
「あなたたちもずいぶんと無茶をしたわね、ここが永遠亭っていう幻想郷一番の診療所があるから何ともなかったけど、本当ならあなたは失血死しててもおかしくないくらいだったのに」
「そうか……」
「咲夜だって、腕の骨が折れかかっている状態で手負いのあなたを背負い、かつそのワンちゃんからかまれ続けたもんだから今はゆっくり休んでいる状態よ」
いずれにせよ、咲夜に触れられたようなので、鬼ごっこには負けたようだ。
「それとそのワンちゃんには麻酔が打ってあるわ。ずっと吠えて吠えて治療できなかったからね。よっぽどあなたを慕っているみたい」
俺はその犬をそっとなでる。
なぜか懐かしい心地がした。
俺が懐かしさに浸っているとその少女は一人愚痴をこぼした。
「全く今日は大変な一日よ。突然来た二人にぼこぼこにされるわ、あなたたち急患が来たりで……まぁ普段も……」
一人苦悶の表情を浮かべながら愚痴る少女をみて、俺はあることを思い出した。
「なぁ、あんたが言う突然来た二人の中に若草色をしたポニーテールの少女はいなかったか?」
「ん、ああ、いたわね。ティナって言ったかしら?」
(ティナ……か)
あの小町とやらが言っていた女性かもしれない。
運命が見えるというあのレミリアに聞けば何か手がかりはあるかもしれない……。
だが、ひとまずはゆっくり休んでからだ。
そう思い、また瞼を閉じゆっくりと深みへ落ちてゆくのだった。
やっぱり長くなってしまった……
ちなみにFF6では彼の技の多くは消費アイテム頼りでしたが、FF4の忍術のようにMP消費で技を出す設定にしたいと思います。
なお、現時点では使えることを本人が知らないという体で進めていきます。
次回、ティナ編。どこに行こうか……