ハウンテッド・キャンプ。但し此の地縛霊は無害且つ影が薄い物とする。   作:馬汁

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二人の行商人

 私は亡霊だ。亡霊以外の何者でもない。

 生前の記憶は無い。故に亡霊という言葉以外に私を示すものは無い。

 

 ただ、どうにもこのキャンプから離れる気になれないだけの、それだけの亡霊だ。

 

 

 

 

「お、キャンプ跡地か?」

 

「火が消えて随分と経ってる、誰も使ってないだろうな」

 

「じゃあ使わせてもらおうぜ」

 

 静かに佇んでいると、二人の男がキャンプに近寄ってきた。

 彼らはどうやら行商人の様だ。向こう側には荷物が積まれた馬車が二台置かれている。

 

「草が青々しい、馬も食事には困らないだろう」

 

「そこらじゅうに生えてるだろーに」

 

「馬だろうと、食べるからには美味しいものが良いだろう」

 

 荷台から解かれた馬が、もそもそと草を食い千切り始める。何処か硬い口調の男が馬を撫でる。

 その後ろでもう一人の男が、薪に火を灯した。

 

「次の分かれ道までの縁だと思っていたが、繋ぎ止められてしまったな?」

 

「構わない。村や街を行き来する行商人は、友を多く持っていて損はない。自分が廻る以上に情勢を知れる」

 

「あくまで実益ってか。いや俺は悲しいぜ、そんな打算しか無いような関係だったなんて。およよ」

 

「……つい先程偶然合流しただけだろう」

 

 嘘っぽくおよよと泣く軽い口調の男は、数秒で何事も無かったかのような態度に戻る。

 

「お前は何処へ行く? いや、積荷と方向で想像がつくな。アクア・デュータウンか」

 

「おう、流石に知ってるか」

 

「ああ、海に面しているのにも関わらず、その日の食料に困っていると聞く」

 

 男たちは、揃って南東の方を向いた。

 

「可愛そうだからって、パンや肉を持て余してそうな所と何往復かしてるんだが、なかなか改善の兆しが見やしねえ」

 

「原因は聞いているのか?」

 

「海でモンスターが幅を利かせるってさ。クラーケンとか言うバケモンが漁船を次々とひっくり返し、仕方ないからと巨体の乗り込めない浅瀬に近い所でしか動けないと」

 

「クラーケンというのは、大きいのか」

 

「直接は見てねえぞ? だが立派な砦と背くらべして、良い勝負らしいな」

 

 両手を広げ、その指先一杯までを使ってその大きさを体現する。

 

「お陰でこっちも商売上がったりだぜ」

 

「お前は好きでデュータウンの商売を続けているんじゃなかったのか?」

 

「勿論好きでやってる。飢えた奴らにはパンを、肥えた奴らには宝石を。が信念だからな。最も、その宝石というか、真珠の類も仕入れられない訳だけども」

 

「そうか……。良い心がけだな、利益重視ばかり連中とは違うようだ」

 

 ふん、と感心したようなそうでないような顔で鼻を鳴らした。

 亡霊の私は、ふと馬車の方を見た。片方は木箱ばかりで中身がわからないが、もう片方は何やら物々しい事になっていた。

 

「そっちはすっげえよな。剣、弓、斧、槍、何より弓矢の数がとんでもねえ。ナマモノだったら"腐るほど在る"ってレベルだぜ」

 

「ベル・アーステックスで兵力の増強を推し進めているらしい。だが鉱物資源が手に入らないから、遠くから武具を買い集めているのだ」

 

「そっちはそっちで物騒だな。どっかと戦争でもする気か?」

 

「いいや、それにしては向こうが求めている武器が偏りすぎている」

 

「……つーことは?」

 

「恐らく、クラーケンの討伐隊だ」

 

「あ~」

 

 それを聞いて、一人が納得して何度も頷いた。

 

「恩でも売るつもりなんかね?」

 

「どうだろうな」

 

「どうだろうな、って……おいおい、行商人がそんなんで大丈夫か? 情報が大事なんだろ」

 

「流石に、彼らの思惑など分からない。人というのは、協力しあえても共感しあうのは難しいからな」

 

「……んだよ、いきなり哲学語っちゃってよ」

 

「…………山賊の噂が立ったり、モンスターの情報が出た時以外は、よく護衛を連れずに行商するだろう?」

 

「なんか話変わったな。まあ、今まさに俺達二人がそうなんだが」

 

 男が空を見上げて、重々しく語りを続ける。

 

「そういう道中で、偶然出会った二人。相手も同じく一人で行商していた」

 

「まさに俺たちだわな」

 

「お前が、或いは俺が襲いかからないと、誰が断言できる? もし俺が行商人を装った山賊だったらどうする?」

 

 その仮定を聞いた男は、しばらく硬直してから、ドッと笑い出した。

 

「アッハッハッハ! マジか、そんな所から疑ったらくっそキリが無いぜ!」

 

「……笑い事と一蹴するぐらいには、それを想定していない」

 

「ああそうさ。そんな事一ミリも考えてねえ。何故なら……」

 

 男がさらに笑みを深め、ガバっと大きく手を広げる。

 

「この俺が、山賊だからなぁぁぁああストップストップ! その魔法は他所に撃ってくれ、俺じゃなくてな!」

 

「……冗談もほどほどにしたほうが良い。護身程度の武装しかしていない奴だと油断したら、それが釣り餌だっていう事もありえるのだ」

 

 冗談を吐いて後悔している男へ向けられた火の玉は、そのまま焚き火へと標的を変え、このキャンプ場を照らす灯火の足しにした。

 

「大半の場合、人を理解し共感するには、その対象を知る時間と、知ってもらう時間が必要だ。目的を同じくしているというのが知れれるなら、心を通わずとも協力関係が得られる。」

 

「う、うす。そういや、遠くの国で活躍してる魔弾の三銃士は、どうなんすかね」

 

「互いの弱点を補うという取引条件を交わしていると聞いたことがある。……随分と話が逸れたな」

 

 男が咳払いをして、しばらくこの空間が沈黙する。

 

「兵力増強の裏の意図がどうとか、だったな。俺の持論だが、幾ら俺たちが裏側を探ろうと、それをどうこうする力も意味もない。だから基本は事実のみを汲み取って、裏側は軽い予測に利用する程度で丁度良い」

 

「ま、隠されし裏を突いて損するのは俺らっすからね。当て付けの罪で牢屋行きはごめんですわ」

 

「ああ。……ところで、何故敬語を崩した口調に変わったのだ?」

 

「暖かいを通り越して熱くなった焚き火を見ながら、じっくり考えてみてくださいっす」

 




息抜きしたいときに書くので完全不定期です
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