それは深い深い森の中だった。
小さな町ほどあろうかというほどの大河を取り巻くようにどこまでも熱帯雨林が広がっている。どこからともなく聞こえてくるのは鳥類の鳴き声だろうか、歓声のような、それとも罵声にも聞こえるような様々な鳴き声があたりから聞こえては消えていく。せわしない音の海、生き物の息吹。頭上は無数の葉が茂り、青い空は見えない。昼だというのにわずかに暗い密林。苔むした倒木とシダ類の下草があたりを覆い、生き物の腐敗のようなにおいが流れていく。地面から、そして頭上からも覆いかぶさるような熱気、吐く息のようにねっとりとしたぬるい空気は呼吸をすればそれだけ人間の肉体すらも腐らせてしまうようなそんな予感すら与えてくる。人体の中のような生命と腐敗の森。あるべき平穏
そして一発の銃声がその全てを壊していった。
「見つけた、ポイントF9からG9に向けて進行中、繰り返す、敵はポイントF9」
見方から入った通信に彼は咄嗟に返答を返す。
「敵の種類はっ」
「青いオーガンダムと黒いνガンダムだ」
「周りに敵信号は」
「見当たらない」
マップ内に共有された敵機体を表す二つの赤い点。その二つを眺め彼は隊の全員へと指示を飛ばす。
「フラッグはそのまま敵の追跡と牽制だ、ジェスタは他二機の索敵と合流の牽制を頼む、私はフラッグの援護に回る」
「了解ボス」
「今日は装甲マシマシだぜ」
「ボスこそ落とされないでよ」
耳元から聞こえる仲間たちの声に適当に答えながら青い空を飛ぶ。ウイングの翼が空をつかみ、一直線に軌跡を残す。
その時だった。
「なにっ」
接敵を知らせる警告音が鳴った。
「こっちも見つけたぜ」
ジェスタの青年が見つけたのは市街地にほど近い川べりだった。少し開けた広場には今まで動物でもいたのだろうかぬかみ、荒れている。その広場の中央、一抱えほどライフルを持った機体を発見する。あたりを見回すような挙動の相手に対して、青年はその後方、まだ遠い森の中、熱源感知すらもされないような場所。
「ジム、いいやネモ、それも違う気がする、あんなバイザーあったかな」
目標はどうやらどうやらZガンダム系の改造機にも見えたが特有の背部の翼は見られず、特徴的なシャープな顔も量産機のようなバイザーの顔が乗っていた。
「変なクリーム色、結局やっちまえばこっちの物、今日はどんかつだ」
それは避けようのない一撃、敵が認識する前の背後からの射撃。当たるべくして放たれた弾丸.
果たしてその応答はその後方、大きな水柱だった。
「えっ」
外した、その認識よりも早く聞こえたのは警告の音。危険物が近くにある時に発せられる警報。見つけたのは広域爆弾。効果範囲は半径1㎞。その残り時間はすでに無く、自分が、いいや誰もが逃げ切ることができる時間はとうに過ぎ去っていた。
「時間短いのかよ、自爆かよっ」
しかし、マップを確認すればすでに赤い丸は認識範囲内からは見つけられない。最悪の置き土産だけを残しすでにその姿はない。
「立つ鳥跡を濁しまくってんじゃん。それにおまえ、それってもうガンダムってか」
臨界を迎えた小さな小箱があたりを焼く。
「ジェスタがやられたっ」
敵からの攻撃を避けながらフラッグの男はそういった。
「合流されていたのかっ」
チームメイトからの通信が耳元で鳴りやまない。
「わからん、だが通信が切れたっ」
「リーダーはっ」
「マップにはまだいるが通信はできない、リーダーのあたりにミノフスキーでも巻かれたらしいっ」
「あのガンベリーに発生装置なんて載せてやがっだ。仕方ない、お前がおとりになってでもポイントに誘い込めっ」
「無茶いう」
そう口ではいいつつも笑いながら囮役を買って出る。
幸いにも向こうは移動に優れた機体とはいいがたい。退避のみで飛行状態のまま行けば振り切れるだろう。しかし、
「其れじゃぁ、面白くねぇもんなぁ」
彼らへの反撃を加えながら移動していく。二体対一、勝つことはできないだろうがじりじりと粘ることはできる。
「しまっ」
右慾に被弾し、体勢を崩す。ファイターモードのまま地面に転がり失墜する。そこは市街地の中央、小さくくぼんだ大きな広場、それはつまり。
「トレイン成功ってな」
彼の耳元を過ぎるのは地獄のような日の光。
その根元はジャングルの中、山の中腹。焼けただれた光線の痕跡が森を、そして山肌をとかすように焼いていた。動くことはできず、装甲も薄い。然しその分すべてを一射にかけた。薬莢を排出する。鉄の大きな塊が地面に落ち、低く鈍い音を響かせる。放熱のための排熱が水蒸気となって上がった。
「地球ステージだと見えにくいな、どうなった、やったかっ」
「かてぇ野郎だ、νガンがオーガンダムをかばった。でもその分もうIフィールドは使えねぇ、ぼろぼろ、ん、なんだあれ」
「んってなんだよ、んって」
「まてこいつ、あか」
その言葉を最後に通信と痕跡が消える、
「待て一体何がっ」
警告とともにビッグガンから離れると引き抜いた斧を手にする。来るのはビームサーベルの一閃をその手に受ける。じりじりと打ち合い、そしてその期待を払いのけた。
「まさか今の一瞬でこっちまで来たってのかよ、ありえない話じゃねぇなぁ」
眼前にいるのは先ほどまでは青かったはずのオーガンダムの姿。そして今目の前にあるのは燃えるように真っ赤に染まったその姿だった。
「ありぇねぇトランザムを使っていればの話だがよぉっ」
紅く輝く敵の背中、そこにある蓮のGN[ドライブはなく粒子貯蔵タンクの角ばった背中だけが見える。
「第三世代でもない奴が、トランザムを使っていてもなぁ、すぐに機体スペックが切れるってもんだがよぉ」
三キロ離れたここまでの移動とすでに数度の打ち合い、無理やり付けたシステムではそのあたりが関の山。そして彼の予想通り、ふと、炎を消したようにその赤い光が消える。
「待ってましたぁ」
切りかかる。
「あれ」
青年が見たのは見慣れた自らのザクの下半身と焼き切れた腰部、そして再び赤く輝くその機体。
そして、自分が地面につくよりも早く、排莢の音に似た、何かが落ちる音がした。
「おい、みんな、ダリルっ、誰か返事をしろって」
既に見方基の反応は消えた。あたりに散布されたミノフスキー粒子、通信阻害のため、連絡は取れずともその安否だけは見て取ることができる。
「このっ」
狙いを定めて引き金を引く、バスターライフルの閃光が伸びる。
「くそ」
そのライフルはその体躯には似合わず、もとより金s熱戦に使うようなものでもない。
「いってぇ」
背後からの一撃、それもマニュピレーターによる直接的な一撃。力はなく、ダメージもない。しかし、放熱のための排出孔の熱暴走エラー。粘着質のそれが排出光を、そして駆動していく関節を覆い、そして止める。表示にはすでに変形不能の文字が躍る。
「ちっ」
段々と動かなくなっていく機体、そこ子から繰り出される砲撃をそれは容易く回避してはヒットアンドアウェイを繰り返す。羽虫のように早く、つかみどころのない。
「まじかよ」
そして最後の一撃、それもこともなげにかわされる。
残弾ゼロ、ビームサーベルすらもすでに叩き落とされた。
「ガンダム風情がっ」
左右のバルカンはしかして当たることはなく、ただ時間だけが過ぎていく。
ウィングガンダムの高い機動性、しかし、彼のてがそれをとらえることはなく、転がるように、手から零れ落ちるように逃げていく。互いの機体の耐久値が減ることはなく、ただ残弾だけが無駄に減っていく。
「なんだこいつ」
そして
「BATTLE ENDED」
アナウンスが流れ、敗北を告げる。
現れたウィンドウ、そこに映し出されたのは飾り気のないデフォルトのチームエンブレムと打ち込んだだけのような簡素な名が躍る。
ビルドクルセイダーズ、それが彼らの名前だった。
気が向けば続くかも