ガンダムビルドクルセイダーズ   作:廓然大公

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第4話

 

雪の中を歩く。

 

暗闇の中を歩く。

 

その道行きに導などなく、ただ歩を進める以外に道はない。

 

突風にも似た吹雪の礫が顔に触れては消える。

 

水の中のような、肺を押し付けれたような、息苦しさがぬぐえない。

 

つめたく、

 

暗く、

 

 

 

ああ、そこはいつもの暗闇によく似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

つなぎの上からぼろ布を纏ったまま、吹雪はその布すらはぎ取るように強く吹き付けてくる。万年雪の上に薄く積もるその雪に足を取られそうになりながらも一歩一歩と歩を進める。ウィンドウを開いてみても以前としてバグによって乱れた表示に変わりはなく、為す術もないままに足を進める。疲れるはずのないGBNであるはずであるものの少しずつ体に疲労がたまっていく。吹雪は耳鳴りのように他の音を遮る。視界には吹雪のみが居座り、指先すら見て取ることはできない。表示させたマップのみを頼りに歩いていく。このままの速度で行けばあと三十分ほどでバトルエリアを抜けることが出来る。リアルタイムで二十三時過ぎ、このミッションでの設定開始時間は午後6時、ゲーム内時間でもすでに日はなく、ウィンドウの人口灯の光をわずかに雪が照り返しては消えていった。

 

「ミッション自体がバグったのか」

 

ミッションタイマーはすでにその制限時間の半分を超えているはずにもかかわらず通常であれば聞こえるはずの事件経過アナウンスもなることはない。

 

「これワンチャン詫び石あるかも」

 

自虐的にそう呟いた時、返事のように鳴り響いたのは敵に発見されたことを知らせる警告音だった。

 

「GMか誰かか」

 

ミッション中そのエリア内ではミッションに設定されたエネミーとプレイヤー以外は基本的に存在しない。同一のミッションが同一時間に受注されたとしてもそれは重複することはなく別々のエリアとして処理される。エネミーとプレイヤー以外がミッションに参加するためには受注したオーナープレイヤーの許可が不可欠となる。つまり本来は存在しないはずの機体、それが眼前に存在していた。それはつまりゲームシステムを超える権利を持った者、運営アカウントに他ならない。視界ゼロの吹雪の中、マップ上に現れたのは二つの機体反応、友軍ならば青、敵ならば赤、都市伝説で聞くのみではあるが運営アカウントならば本来はその色は緑。しかし、マップにはネームタグのない白い丸のみが二つこちらへと近づいてきていた。

 

「調査隊、かな」

 

フリーズの原因究明のためやってきた調査隊だろうか、ゆっくりとこちらへと近づいてくるその機影。相手もこちらには気が付いていることは間違いない、フリーズ時のミッションオーナーとして事情聴取されるのだろうかと焦り半分、GBに接触するという未知の体験への期待半分でマップ上の動く二つの点を眺めていた。

『SECOND POINT PASSED』

それはミッションの開始からに四十五分三十二秒を知らせるアラーム、いつも使うことはない大昔に少年が設定したミッションアラーム、その意味はこのミッション中、たった二度だけ訪れる吹雪が止み、雲の切れ間から陽光が除く絶好の狙撃タイミングを知らせるもの。

風がやむことはなく、吹雪が絶えることはない、ただ雲が一瞬切れ、一筋の光があたりを照らす。銀色の、白銀の世界に映ったそれ。。

 

 

 

風が吹いた。

 

 

 

逃げるように駆け出した。

雪にとられる足を力任せに動かして逃げた。

走り方なんて分からないとでも言うように。

踏み出し方など知らぬと叫ぶように。

ただそれから逃げるために駆け出した。

胸の底にでも穴が開いたように、何かが欠落していく。

蛇口から水が流れ出るように、傷口から血液が流れ落ちるように

手足から何かが抜けていく。

言葉にはならない何かが背中を這いずり、骨の中を貪り始める。

居心地が悪い、

気持ちが悪い、

薄気味悪い、

悪い

 

 

臓腑をちりちりと何かが焼き始める。その不快感から逃げるようにいつの間にか走り始めていた。

一瞬のことで、その二つの機体がなんだったのかすらわからなかった。

ただ、見えたのは笑みだった。

逃げる理由なんてあるはずがない、こんな状況で現れた誰か、情報の共有なり話成りしたとて不思議はない。銃口を向けてきたわけでも、ましてその姿をしっかりと見たわけでもない。

それなのに。

歪な笑みのような怖気が背中を走っていく。見られた、見られてしまった、そんな感覚が雪の中を走らせていた。

 

「くっそっ、なんで逃げてんだよっ」

 

はっとして振り向けばすでに闇の中に光が伸びてくる。自分を背後から照らすその光から逃れるように少年は走り出す。望遠の装備もなければ視界にも映らない。しかしマップに現れたその二つの敵影は確かにこちらへと着実に迫ってきていた。

 

「止まってんじゃねぇのかよっ」

 

聞こえ始めたのは小さな爆発のようなサブマシンガンの音、耳をつんざくような銃撃音と、巻きあがる雪煙は徐々に近づいてくる、咄嗟に岸壁へとその身を投げ込めば岩野砕ける破砕音と砕かれた細かな破片がその身へと振ってきた。そのまま瓦礫に紛れるように身を投げる。GBN内であれば怪我を負ったとしても痛みを感じることもなければ体力がなくなるまで動けなくなることもない。少年は瓦礫に埋もれたまま近づいてくるその機影を睨みつける。

ゆっくりと濃くなる機影とへと目を向ける。ゆっくりと、そしてぼんやりと暗闇の中へと映ったのは独特のフォトンの崩壊に揺る発光、そして雪の中に青い装甲の浮かぶ黒い影。

 

「エクシアリペアとヴィダールってなんでここに」

 

GMが用いるのは主にガードフレームとよばれる機体。自機を持ちる者もいると聞くものの少なくとも管理者用のネームタグが表示される。しかし、眼前の二機には何も表示されていない。

 

「デジャブかよ」

 

つい一時間ほど前に感じたような血の気が引く寒さを感じる。エクシアの持つGNビームライフルが発射のための発光を湛える。それは瞬きにも満たない時間。こわばる体は動くことなく、ただ茫然とその様を眺めていた。

 

 

「ああ」

 

 

ため息のような息が洩れる。

ゲームで一回死んだからなんだよ。

また、同じようにやればいい、リセット、リセット。

こんなものだよ、所詮。

心の中で何かが笑う。

心の中で何かが叫ぶ。

 

 

 

 

うつむく。

 

それでも、まだこの拳は、握り続けたままだった。

 

「ちくしょう」

 

 

 

 

 

もし、耳を澄ませば気が付いたかもしれない。吹雪の中、新たに混じり始めたその音に。

もし、目を凝らせば見えていたかもしれない、曇天の中、迫りくるように濃くなったその影を。

 

 

「どいたどいたぁっ」

 

 

彼らを引きつぶすように降り立ったガンベリーの姿を。

 

 

 

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