ガンダムビルドクルセイダーズ   作:廓然大公

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第5話

「ドックの位置は分かったかい」

 

少年が整備ドックに改造されたガンベリーのコンテナから操縦室へと入るとそう声をかけられた。

 

「機体も随分ダメージ受けてたんでしょ。ミドルクラスドックだから中破までは修繕できるよ、時間かかるけど」

「すいません、なにからなにまで」

「いいのいいの、困った時はお互い様ってよ」

「ありがとうございます」

 

 

そうからからと笑うのは丸っこいボールだった。

 

 

その招致はRB-78、スペースポッドを戦闘用に改造したボールと呼ばれる小型の戦闘ポッド型、正確に言うならばそのアバターを用いたプレイヤーが器用に操縦桿を握り吹雪の中を巧みに飛行していく。

 

「おっちゃんのことはボールさんとでも呼んでおくれ、君は」

「ザンクといいます」

「キミもなかなかけったいなミッションでこんな災難に合うとはなぁ」

 

大仰な反応とともに差し出されたマニュピレーターを少年は握り返した。

 

「まぁ」

「おっちゃんもちょっと仕入れに行ってたけどまぁ帰りにこんなんなるなんて予想もしてなかったっからもうてんてこまいよ」

 

世界中にプレイヤーのいるGBNには各国それぞれに中央サーバーを中心としたエリアが設定されている。日本からのアクセスならば日本サーバーに、アメリカからならば北米サーバーといったようにそれぞれのそれぞれメインとなるサーバーが存在しており、必然的にそれぞれのサーバーには各国の国民性が現れたような独自のイベントやアイテム、衣装など運営のアイテムだけでなくユーザー作成の物品まで無数に流通している。GBN内ではそういった遠方サーバーのアイテムやクエスト情報などを仕入れては別サーバーで売るという商人のようなプレイを楽しむトレーダーと呼ばれるプレイヤーたちが存在し、ボールもその類らしかった。

 

「しかもみたらあれでしょ、遠征で来てたんでしょ。このままリタイアしたらマスケアまで戻れるけどデスペナルティも大きいでしょ。それならデスルーラより歩いて戻ったほうがいいよ」

「そうですか」

「まぁこのフリーズの状況だからリタイアすらできないならそれしかリタイアの方法もないし、なんでかGMコールもつながらないし。まぁおっちゃんとしては旅の道連れができた分ちょうどいいんだけど」

「はぁ」

 

そこはフリーズしたバトルエリアから離れ、中央都市マスケアまであと十分といった地点、空を行くガンベリーの中に彼の姿はあった。

 

 

 

 十分前、少年を狙っていたモビルスーツを轢くように着陸したガンベリー、その操縦者であったボールに訳も分からぬまま連れ込まれ、逃げるようにエリアから脱出していた。

 

 

 

「それにしても今回みたいな大きいのはさすがに久しぶり、三年ぶりくらいかな」

「そんなに大きいんですか、あのバトルエリアだけじゃなくて」

「大きいも大きい、何せ北極圏からこっちまで巻き込んでんだもの、サーバー一つってレベルじゃないよ」

 

北極基地から来たという彼の話によればこのノヴゴラーダエリアの各所でも同じようなクエストの中断やフリーズ、強制的な終了が起きているらしかった。

 

「システム内の通信は切られてるけどブラウザは生きてるからね、案外こういう時に掲示板の住民とかの逆に古臭いおっちゃんが情報を握っていたりするのさ」

「はぁ」

 

二本しかないマニュピレーターで器用にサムズアップしながらボールは得意げに言った。

 

「そういや、結局、ザンク君はあの二つの機体のことは知らないの」

「まったく。俺がミッションを始めたときにいませんでしたし、ミッションへの乱入も許可してませんでしたからどこから来たのかも分からないです」

 

彼を襲っていたはずの二つの機体。しかし、その二つともがガンベリーに体当たりされた後、忽然とその姿を消していた。マップへの痕跡も、降り積もった雪への足跡も、そして何よりいるはずのパイロットの信号さえ現れることはなかった。

 

「運営だったら基本はガードフレームだろうし、ましてフリーズ調査とはいえミッションへの介入、わからないなぁ」

「運営じゃなければプレイヤーじゃないんですか。運営があんなのを使うって聞いたことないですし」

「プレイヤーならプレイヤーでそれはそれで問題だけどね。機体に乗っていないダイバーを攻撃するのはご法度だから」

「運営でもプレイヤーでもなければあれは」

「まぁ、ここで頭をひねっても答えは出ないし。とりあえず運営からの返答を待つのがいいんじゃないかな。ワンチャン詫び石あるかもね」

 

ボールは笑いながらそのままハンドルを手繰っていく。

 

「そういえばなんでわざわざこのミッションなのかきいてもいい」

「何がですか」

「いや、この『補給線を叩け』ってミッション、なんていうかそんなにいい素材落ちたかなぁって思って」

「そんなに特別な理由はないです。普通に利率がいいからですよ」

「確かにそれなりにコインは稼げるけどそれにしては難易度高いからさ、視界悪いし、成功条件厳し、敵硬いし」

「全部達成する必要はないので最低限達成して六割報酬達成の繰り返しをするだけです」

「分からなくはないけど、日本サーバーならそっちのほうがもっと簡単で利率いいのあると思うよ、こう見えてもおっちゃんもトレーダーの端くれだからね、僕からも紹介してもいいし」

「慣れてるのでそっちのほうが早いんですよ、ルーチンワークというか、周回というか」

 

なるほど、とボールは頷きながら少年の話に相槌を打つ。

 

「単騎でやってるの」

 

うなずくとボールは考え込むようになると顎を掻くように球体の下部をなでた。

 

「もしかして武装ってオーバーコストのやつってこと」

「はい」

「成るほどそれで遠征ってわけね、後で見せてもらっていい」

「いいですよ、載せてもらってますし」

「いいねぇ、コストオーバーになるレベルの武装ってのはそれだけ出来がいいって事だからね、腕のいいビルダーのプラモ見るのはワクワクする」

 

少年は小躍りを始めたボールに曖昧な笑みを返す。

 

 

 

 

そして、地面が傾いだ。

 

 

 

 

 

 

 

『右ローター破損、みぎろたー破損』

「こんどはなによもう」

「さっきのやつらかよっ」

 

無機質なアナウンスが船内に響き渡り、傾いだ地面に置かれたコンテナたちが雪崩を引き起こす。咄嗟の雪崩から抜け出し這い上がるとすでにボールは操縦桿を強く握っていた。

 

「悪い、ザンク君、マップ開いてくれるっ」

「ここのですか、」

「速くっ」

 

彼の言葉とともに大きく操縦桿を倒した直後、窓のそばを光の川が落ちていった。当たりには無数の打撃音と、実弾が装甲にはじかれる音が響いてくる。窓に張り付くように見れば、後方にいくつかの機影が見えることだろう。

 

「確認してもらいたいんだけど、ここって非戦闘エリアのはずだよねっ」

「だったはずですけど」

 

ノイズ混じりながらも開いた地図、本来であれば安全地帯であることを表す緑色に染められていたはずの地図、しかし、そこには戦闘エリアであることを表す赤色一食に染まっていた。

 

「書き換えられてる、今このサーバー自体が戦闘エリアになってますっ」

「そりゃもう、バグっていうかサーバー攻撃なんじゃないのってくっそっ」

 

操縦桿を右へ左へ大きく振りながら追撃を振り払うように紙一重で避ける。

 

「こんなんだったら南極基地で整備しとくんだったっ。ケチったのが仇になったっ」

 

レーダーには先ほどと同じように謎の白い丸が二機、現れている。じりじりとこちらへと迫りながら追撃を加えている。

 

「何か兵装ないんですかガンベリー」

「詰んでないんだよっ、輸送用だから兵装とかそういうの何にもないのっ」

 

少年はその言葉に一つ舌打ちをしながら、扉へと走り出す。

 

「とりあえず俺が出て、牽制します。から、開けてくださいっ」

「固定用のわいやーがあるから、それつけておいてくれよ。振り落とされても知らんぞっ」

 

ドックに置かれた黄色いリックディアスに乗り込むと、待ち構えていたように右の扉が開き、その姿をあらわにする。

 

『NPC、レッドプレーヤーか知らないけど、とりあえず、あと五分持たせてっ、そうすればマスケアまで突っ込む、そうすればもうそこまではおってこられないっ』

「了解」

 

ガンベリーの後方、曇天の空の下、中破まで修繕されていたハイパーメガランチャーのスコープにつなげる。二キロ後方、真っ白くなった視界にその輪郭が見える。

「六時方向、距離3000、二機、機影確認、やっぱりあの二機だっ」

「ってことはさっきのはヴィダールのライフルかよっ、よくこの吹雪で流されなかったよ全くっ」

 

エクシアからの狙撃をよけながら、ボールは応対する。

 

「何発行ける」

「良くて二発っ」

「リックディアスだろ、クレイバズーカとかないのっ」

「ビームピストルくらいしかないっ」

「そんなんで間に合うのかよっ」

「とりもちよっかましだろっ」

 

近接メインの敵機に対して、中破の一機、もとよりこちらは近接装備など持ち合わせていない、取りつかれれば敗北は明白、虎の子もまだ修繕途中、多よりないビームピストルとバルカンだけで彼らを散らすように牽制していく。

 

「しめたっ、ワイヤつないでるなっ」

「なんていったっ銃声で聞こえないっ」

「ワイヤ紛じばっとけっていった、吹雪の中に突っ込むぞっ」

 

目の前には竜巻のように膨れ上がった吹雪の雲、雷鳴が鳴りび響き、龍の巣とでも呼べるほどの雲の塊。確かに単独の飛行性能が高いとは言えない弐機がおってくるのは難しいだろう、しかし

 

「これもばらばらになるんじゃねぇの、俺まだ外だけどっ」

「だから死んでもワイヤー話すなよっ」

 

こちらの意図に気が付いたのか、二機も速度を上げてこちらへと休息に近づいてくる。

 

「つられちゃってまぁ」

 

一瞬、急いだその判断、気づいた時にはもう遅く直線的な軌道へと変わったヴィダール、日々クロック音、伸びるその閃光は青黒い軌跡と交わり、そして曇天の灰色の中赤く燃え上がる。しかし同時に響く警告音、振り返るより早く感じた違和感に手を離すと手にしていたライフルには一本の白いビームサーベルが突き刺さり、そして燃え上がる。

 

「二回目かよって」

 

投げはなったエクシアの後継を最後に嵐の中へと逃げ込む。

 

「張り付いてるか」

「何とか、ってマスケアまで持つのかよ、それまでに木っ端みじんになってりゃしねぇだろうなっ」

「ビルドセンスはないけど、機体の操縦に関しては任せときなっ」

 

彼の言葉通り、確かにガンベリーは嵐の中を外れることなく、雷に打たれることも、巻き上げられたものにぶっつけることもゼロといっても過言ではない視界の中、確かにマスケアまでその操縦桿を手繰る。

 

「エクシアは折ってこれてない」

「流石に単騎でこの荒らしに入ってくるのは自殺行為だよ」

 

ガタガタと震える機体、そしてその期待よりも振動音より強く響く接敵音

 

「そういうのを、フラグっていうんだよっ」

「後二十秒でもう突っ込むからっ」

 

後方から迫る影、ビームピストルで狙う、嵐の中揺れる足場、嵐の中MS一機を手繰ることすらままならないはず、しかし、その影は的確にその射線を逃れ、ゆっくりと近づいてきた。

 

「エクシアにそんなの在処よ、おーライザーでも乗っけたってかっ」

「突っ込むよ、5」

 

イヤホンから聞こえるその声に呼応するように、ただライフルを打ちまくる。

 

「4」

 

それは薄い弾幕を自在に掻い潜る、

 

「3」

 

弾切れのライフルを投げつけ、影はそれを払った。

 

「2」

 

近づく影は手を伸ばし、真っ暗な嵐の中、雷鳴がその影を取り去った。

 

「1」

 

 

 

 

「黒い、ガンダム」

「0」

 

 

 

 

エリア移動の暗転が彼らを包んだ。

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