悪女が逆ハーレムを夢見るとき、生贄たちは推しのユメを見る 作:paruco
主人公たち≠ユウリ・マサル
複数主人公
夢・腐的要素あり
勘違い要素をふんだんに盛り込む予定
捏造設定・特殊設定有り
とにかくなんでも有りが大丈夫な人のみ閲覧推奨
【キバナside】
行き倒れたトレーナーを運んでいたのがポケモン、それも恐らく野生であろうことが分かったわけだが、だからといってこの問題に終止符が打たれるということはなかった。
人ではなくポケモンの仕業だと分かったのは良いが、今度はこのポケモン達をどうするかで、ダンデも他のジムリーダーも頭を抱えることとなってしまったのだ。
勿論、みんな三匹のポケモンが行っている救助活動に感謝こそすれば文句を言うつもりは微塵もない。
しかし、問題は彼等が〝野生〟のポケモンであることだった。
曰く、野生のポケモンなので今は救助活動をしているがいつ攻撃的になるか分からない。
曰く、本来ならばワイルドエリアに生息しないポケモンが居るのはガラル地方の生態系破壊に繋がるのでは。
曰く、色違いポケモンは希少で野生のままにしていると最悪密猟されてしまうかもしれない、等々。
上げればきりがないほどリーグ協会から上げられた問題点に、ならばいっその事この中の誰かが捕獲してしまえばいいのではないか、という案も出たが、しかし上に立つ者である前に彼らも一人のトレーナー。
流石にそんな身勝手な理由で捕まえるのは忍びないので、最終的に先ずは当人たちに事情を説明し、その上でどうするかを選んでもらおうという方向で決議した。
だが、一難去ってまた一難とはいったもので、今度はどうやって彼らに遭遇するかという難易度が高い問題が発生する。
「キバナは一度会っているし、きっと彼らも警戒しないと思う。頼めるか?」
ポン、と優しくもしっかりと肩を叩いたダンデは、その声と同じような明るい笑顔を浮かべていたが、その実、目は全くもって笑っていなかった。
あれは確実に副音声で「やれ」と言われていた、とキバナは先日のことを思い出しながら、いつも通りにSNSを開く。
そこから「ワイルドエリア」「ストライク」「ラルトス」「ミニリュウ」という単語で検索を掛け、己が欲する情報により近いものを探した。
そうして年頃の少女のように慣れた手つきで画面をフリックしていた時、不意に見つけたとある書き込みと共に添付されていた動画を見て、キバナは動きを止めた。
「────は?」
【42Aside】
キバナ様を推し始めたきっかけは何だっただろうか。
あのワンパチのようなシャイニング・スマイルを見た時だったか、それともジムチャレンジでナックルシティのジムリーダーとして対面した時だったか、はたまたダイマックスの際の自撮り顔だったか、はたまたあの手持ちを信頼し勝利することを諦めない顔を見た時だったか。
俺の知るキバナ様は他人がプログラム・グラフィックしたもので、定められた文でしか会話ができない相手だったけれど、それでも胸を張って彼こそが推しだと断言できるほどにはドップリとキバナ様沼にハマっていた。
だから、少し手を伸ばせば触れられるほどの距離で倒れている推しを見つけた時は、心臓が止まるかと思うほどの衝撃を受けた。寧ろ、何秒か止まっていたかもしれない。
それから、額から流れる鮮やかな赤色を見て、一瞬にして血の気が引いた。
慌てふためきパニックになっている俺を落ち着かせるためにと、繰り出された『めざましビンタ』には感謝しているが、正直、それを許すか許さないかは別だと今もなお思っているのはここだけの秘密だ。アレ、結構痛かったしなァ。
で、何故いまそんなことを思い返しているのかといえば……
「あ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙! 助けてくれ、
大声で助けを求めながら、四方八方から投げられる青と黄色が特徴的なボールを避ける。
そうだよな、戦闘開始にはクイックボール投げるよな!?
俺もゲームしてた時は投げてたわちくしょう!!
今日も今日とてガラル地方では珍しいミニリュウの、それも色違いということで熱烈なモンスターボールという愛から逃避するだけの、簡単じゃないお仕事をしている俺。
ただ、いつもと少し違うのは普段は共に行動している21Sと68Cが近くにいないという点だ。
勿論、仲間割れをしたわけではなく、単純に21Sは少し前に仕留めた(気絶させた)トレーナーをどこぞに運んで行って、68Cはお腹が減ったからときのみを取りに行っている。
残った俺はといえば、同じくガラル地方で珍しいポケモン部門にランクインしているラプラスの姐さんと共に水面を遊泳していたのだが、突然現れた六人のトレーナーに囲まれ、今に至るわけだ。
「野生のポケモンに対して六人で挑むとか有りなのかよ!? レイドバトルでさえ最大四人だろ!?!?」
あまりにも突然の出来事に俺は一瞬焦ったが、しかしすぐ冷静に姐さんを巻き込まないようにしなければと考え、地上に向かって泳ぐ。
背後で姐さんの「誰かあの子らに伝えておくれ!」という声と、バサバサと羽ばたく羽の音が聞こえたので、もう暫くすれば二人がすっ飛んでくるだろう、と考えたのが数分前。
勿論、俺だって戦おうと思えば戦える。
他の二人のように技だって出せるし、そもそも俺は物理攻撃特化型として弄られているから、こんなトレーナーたちのポケモンなんぞ一捻りにできるだろう。
そう、文字通り〝一捻り〟に。
思い出すのは、初めて俺が実戦実験に参加させられた時のこと。
相手はゲームでいう、始まりの場所で出会うようなレベルの低いコラッタだった。
野生のまま連れてこられたからか、その子はとても興奮状態で、目の前の全てがその子にとっては敵だったのだと思う。
噛みつかれて、叩かれて、体当たりをされて、痛いと言ってもやめてくれなくて
だから、ほんの少し、尾で叩いた、だけだったのに
めのまえを あざやかなあかが まう
いっしゅんの ともしびのような だんまつまが
ふたつにさけた からだが
ごとりと ころがり そのめが おれを────
「今だ、捕まえろ!」
しまった、と思った時には目の前まで迫る赤と白のコントラスト。
いや、こんな時にボール代ケチるのかよ。さっきまでクイックボール投げてただろ。せめてハイパーボールにしろよ、というツッコミを心の中でしながらも、反射的に目を閉じたその時
「大丈夫?」
淡々と、抑揚のない、だけどどこか安心する声が近くから聞こえたかと思えば、遅れてやってきた風がふわりと俺を撫でる。
パッと目を開けて最初に見えたのは、ぴんとした緑の背中と、細かく刻まれたモンスターボールだった。
伝書鳩よろしく、友だちのマメ吉(マメパト)から42Aがまた襲われていることを聞いた私がマッハで戻ってくると、そこには六人のトレーナーにモンスターボールを集中砲火されている彼の姿があった。
私は考えることなく、彼に迫るモンスターボールを切り刻むと、トレーナー集団と対峙するように体を滑り込ませた。
目に見えて顔色の悪い42Aの様子から、このトレーナー集団は宜しくない部類の連中なのかもしれない、と考えていると不意にトレーナーの一人が宙に浮いていたスマートフォンに向かって口を開いた。
「おっと、ここで乱入者登場でーす。ワイルドエリアでは見掛けないストライクのようですね。まあ、邪魔なので俺ちゃんのポケモンでサクッと倒しちゃおうと思いまーす」
成程、さしずめY〇uTuberならぬポケチューバーなのだろう。
まるでエンターショーのようにクルクルと周囲を回る、恐らくスマホロトムだと思われるものが、とてつもなく鬱陶しいので、ひとまず周りのポケモンを倒してから、スマホをサイコロステーキにしてやろうと思う。
人のことを舐めている奴に遠慮は要らない。
恐らくポケチューバーの手持ちであろうニャイキング、その他ほかトレーナーの手持ちの皆さまには何の罪もないけれど、これはもうこんなトレーナーに捕獲されてしまった過去を恨んでほしい。
トレーナーと同じように三下みたいなことを言いながら突っ込んで来るのを、いなし、躱し、時に反撃を喰らわせていれば、気づけば私と42A以外のポケモンは戦闘不能となっていた。
あまりにも味気ないバトルにその場のノリと勢いで「笑止!」とか叫んでしまったが、誰もツッコミを入れてこなかったので、ノーカンということにしておこう。
流石にトレーナー集団もまさか自分たちが惨敗するとは思っていなかったのか、ザワザワと騒がしく騒ぎ立てる。
生放送かライブ放送かをしていると思われるので、恐らく今コメントでは「大草原不可避」だとか、「草」だとか、「m9(^д^)プギャー」だとかネットスラングが飛び交っているかもしれない。
など思っていたのもつかの間、逆上したトレーナーの一人がその辺りに落ちていた石をこちらに投げつけてきた。
それを鎌で切り裂けば、更にキレ散らかしてくる。
しかもそれだけでなく、その一連の流れを見ていた他のトレーナー達も面白がって石を投げつけてくる始末。
一つ一つはそう問題なくいなせるのだが、数が多いと流石に潰しきれないが、しかしトレーナーというものはめちゃくちゃ肩が良いようで的確に急所を狙って投げてくるのし、避けると後ろにいる42Aに当たってしまう。流石は、毎日飽きもせずモンスターボールを投げまくっているだけあるなぁ。
あと、どさくさに紛れに42Aに向けてボールを投げる不届き者もいるようなので、仕方なくボールをサイコロステーキにすることを優先した。
のが、いけなかったらしい。
「ッ、21S!」
ゴッと硬いものが当たる音がしたと思えば、続けてグチャリと柔らかいものが潰れる音と、ビリッという何かが破れる音がした。
一瞬にして少し狭まった視界と、遅れてやってきた、じんわりとした痛みに、ああ、怪我をしたのかと脳が理解する。
「21S、お前、目が」
「問題ない」
「いやお前……めちゃくちゃカッコイイヒーローみてェなこと言ってるけど、今のお前、絵面がヤベェからな」
「……問題ない」
え、なに、そんなにヤバい見た目してるの……?
近くに鏡になる物もないので確認はできないけど、42Aの声色から察するに、乙女として認知できないレベルの顔面崩壊なのだとは思う。下手すれば「見せられないよ」という画像が貼られるかもしれない。
落ち着いて、冷静に『じこさいせい』を使用して少しずつ治しながらも、何やら盛り上がっているトレーナー集団から目を離すことなく、さてどうやって懲らしめてやろうかなどと思案していると、不意に不自然な冷気と嫌な予感を感じた。
「テメェら、覚悟はできてんだろうな。あ゙ぁ゙?」
「元ヤン覚醒」
「ヤベェな、これ、死んだわ」
──トレーナー集団が。
『こごえるかぜ』を吹き荒れさせながら、元ヤン顔でブチ切れている68Cの登場に、私も42Aもトレーナー集団に向けてそっと心の中で合掌した。
【キバナside】
「クソっ、ストライク達を保護した後でアイツら絶対〆る。なんならトレーナー権限剥奪してやらァ」
キバナは激怒していた。
必ずや、かのポケチューバーだか、悪質トレーナーだかな集団を起訴してやるといわんばかりの剣幕で激怒していた。
それもそのはず、あの時キバナが見た動画はとあるポケチューバーが炎上した原因となっているライブ放送を切り抜いたもので、そこには例のストライクがポケチューバーたちに石を投げられ、大怪我をするまでの一部始終が映っていたのだ。
もはや今、キバナを動かしているのは、己の内で燃える怒りであると言っても過言ではない。
それほどまでに、キバナは激怒していた。
だが、怒り狂っているのはなにも人間だけではない。
「フリュルラァァア!!」
「そうだよな! フライゴンも許せねェよな! 早く見つけ出してボコボコにしてやろうな!」
「フラァァァアア!!」
普段は主人に似て、温厚そうな笑みと少しトーンの高い声で「ふりゃふりゃ」と鳴いているフライゴンさえも、バリバリの雄味溢れる顔と声をしていた。
どんなに可愛い顔をしていても、ドラゴンはドラゴンだった、ということだ。
そうして怒り狂ったドラゴン使いなジムリーダーとドラゴンなポケモンは、数分間飛び続け、漸く目的の人物を見つけることができた。
少なくとも、野生のラルトスからは聞いたこともないような、ドスの効いた声で鳴きながら件のトレーナー集団を念力で浮かせたままグルングルンと回しているのを横目に、キバナはフライゴンから飛び降りるとストライクの方へと走り寄る。
「大丈夫か!?」
じっと荒ぶるラルトスの姿を眺めていた視線が動き、それがキバナを捉えた時、一番に感じたのは強い畏怖の念だった。
無意識に唾を呑んだのは、今まで出会ったトレーナーともポケモンとも違う〝強者〟と相見えた恐怖か、はたまた歓喜か。
だが、当の本人はちらりとキバナを見ただけで、また直ぐにラルトスへと視線を戻してしまう。
たった数秒、それだけで充分だといわんばかりの態度に、キバナは膨らんでいた気持ちが、高揚が、一気に萎んでいくのを感じ、その代わりというように心を埋めたのは『何故』『どうして』という疑問と、『認めて欲しい』という、どうしようもない承認欲求だった。
「待っ……」
もう一度だけでも、その目に映して欲しい。
そう思うのと、足が動くのはほぼ同時だったが、しかしその足は一歩しか踏み出せなかった。
ゆらりと鎌首をもたげたミニリュウの、夜を溶かしたような瞳がキバナを捉えた瞬間、どっと押し潰されるほどの圧力が襲いかかってきたからだ。
一瞬にして思考が停止し、呼吸の仕方を忘れたようにただただ、はく、はくと酸素を求めるトサキントの如く、口を開閉することしかできない。
それはただ、キバナを殺そうという明確な意思がないだけの、殺意に似た威圧だった。
「キバナっ! 大丈夫か!?」
聞き慣れた羽ばたきと聞き慣れた声がしたかと思えば、ふっと己に降り注いでいた圧が消え、自然と呼吸も落ち着きだす。
「わりィ、もう大丈夫だ」
「いや、無事で良かった。それで、なにがあったんだ?」
未だ荒ぶる神と化しているラルトス、それを静かに傍観する大怪我をしたストライク、そしてその首に巻き付いたまま苛立たしげに尾を揺らし、フーフーと荒い息遣いをしたミニリュウの順に視線を向けた後、心底分からないといった顔をしてダンデは首を傾げた。
そんな様子のダンデを見て、キバナはどうして己がここにやってきたのかを思い出し、途端に先程まで消沈していたはずの怒りがぶり返す。
だが、感情のままに話すことはせず、キバナは努めて冷静にことの成行を説明した。
「成程、状況は分かった。だが、あちらに非があるにしても、流石にこのままにはできないな……」
口を大きくへの字に曲げているダンデの視線の先には、未だ制裁を受けるかのように、空中でグルグルと降り回されているトレーナー集団の姿。
その時、ずっと無言だったストライクが短く「フシュー」と鳴いた。
それとほぼ同時にピタリ、とトレーナー集団が止まったかと思えば、ゆっくりとラルトスが振り返り、そしてその目がダンデとキバナを捉える。
見つめ合う形で固まる二人と一匹、そしてそれを見る二匹のポケモンという、まさに『混沌』と呼ぶのが相応しいとさえ思える状況の中、最初に動き出したのはラルトスだった。
「……ラ、ラル?」
「……シュー」
「! 、ばきゅあ!」
「ふりゃ! ふりゃりゃ!」
リザードンとフライゴンも混ざり、何やら話し込んでいる様子に、キバナとダンデは互いに顔を見合わせた。
途中、ドサリと何か重いものが落ちる音と折れる音が聞こえたが、二人は気づかなかったことにした。
ガラルの顔ともいえるチャンピオンであろうと、ガラルのジムリーダー界No.1であろうと、その前に良識あるトレーナーであるキバナとダンデにとって、彼らが仕出かしたことは到底許されるものではないと思っていたからだ。自業自得、この結果も全て己が蒔いた種なのだ。
「とりあえず、警備隊には連絡しといたから、後でアイツらは回収されンだろ」
「あとは、あのポケモン達をポケモンセンターに連れて行ければいいんだが……」
恐らく、その説得に勤しんでいるのだろう己のポケモン達の行く末を見守りながらも、半ばそれは難しいかもしれないとキバナは考えていた。
何より、近づいてくれるなと言わんばかりに此方を凝視するミニリュウと、チラチラと視線を向けては青い顔を更に青くしているラルトスがいるのだ。
共に寄り添って生きていると推測されるこの三匹の内、二匹がトレーナーに対して良いとは言えない感情を抱いているとなると、いくらストライクが気にしていなかろうと他二匹を優先するだろう。
本当になんてことをやらかしてくれたのだ、と気絶してピクリとも動かないトレーナー集団に内心舌打ちをしていると、どうやらポケモン達の方も結論が出たようでキバナの元にフライゴンが戻ってくる。
その顔は、喜びに満ちていた。
突然の推し訪問により挙動不審となってしまった二人をなんとか収め、キバナ様の手持ちであるフライゴンとダンデさんの手持ちであるリザードンからの「お願い、一緒にポケモンセンターに行って治療してもらお?」という、幼女顔負けのきゅるるん顔でお願いを申し出された私が即落ち二コマの如く了承するや否や、流れるようにエンジンシティへと急行。
そして待ってましたとばかりに、何故かスタンバっていたカブさんとダンデさん、キバナ様の三人と、ニューフェイスなカブさんの相棒であるマルヤクデを含めた三匹に連れられやってきたのがここ、ポケモンセンターであった。
終始、42Aと68Cは「待って。今、推しに認知された喜びと推しに認知されてしまったことの解釈違いに内なる己が全面戦争している」と早口で私に訴えてきていたが、その思いは私も一緒なので、「もう
ジョーイさんとラッキーさんにあれやこれやと診察と治療をされ、至る所に包帯をグルングルンに巻かれた私と、同じく診察と軽い治療を受けた42Aと68Cの二人は、三人で使うには広すぎない? と思うような、キッズルームみたいな部屋に通されていた。
しかも、通路側の壁は一面鏡張りとなっているので余計に部屋の中が広く見える。
そこで各自、思い思いの場所でのんびりしていると、私たちを診察してくれたラッキーさんがワゴンを押して入ってきた。
ワゴンには茶色い固形物を山ほど乗せたペット用のフード皿があり、どこか既視感を覚える物体に、もしやアレはかの有名なポケモンフードなのでは? と、朧気な記憶を必死に手繰り寄せている私へ、笑顔で差し出されるソレ。
「いっぱい食べて、早く元気になりましょうね」
「……ハイ」
脳内で「お残しは許しまへんで!」と怒る誰かが過ぎったが、そんなことは今はどうでもよくてと一旦頭の片隅に追いやり、私は改めてじっと目の前に置かれたソレを見た。
茶色く、俵型に成形された、恐らく小麦粉を主原料としたソレは、どこか懐かしい匂いがした。
アレだ、BBQ味と題したお菓子と同じ匂いだ。
「毒とかは入ってないから大丈夫よ? それとも、あまりお腹は空いてないかしら」
あまりにもじっと見つめ過ぎたのか、ラッキーさんが悲しそうな瞳で見つめてきたので、慌てて変身を解くと茶色い山から一つ掴んで、流れるように口へと投げ込んだ。
味はやはり匂い同様で、食感はしっとりとしたスコーンに似ている。うん、なかなかに美味い。
「……美味しい?」
「ぷまい」
「ぷ、ぷまい……」
「ぷまい」
なかなか踏ん切りがつかなかったらしい68Cも「ぷまい」「ぷまい」と繰り返す私の言葉を信じてか、変身を解いてポケモンフードを口に入れた。
元の世界で例えると、ドックフードかキャットフードを目の前に出されているようなものだから、確かに戸惑う気持ちも分かる。
続けて食べ進める私と68Cを見て、最後に42Aも恐る恐る口にして……後は言わずもがなであった。
腹を満たしたが故なのか、ウトウトし始めた42Aと68Cを見て、子守唄にとラッキーさんが『うたう』を炸裂なさった結果、見事にスヤァ状態と化した二人。
ラッキーさんが用意してくれた毛布に二人を包んでやった後、特性ふみんか? と問いたいぐらいに睡魔がやってこなかった私は、何故かラッキーさんから質問攻めに遭っていた。
「それで、貴方たちはどうしてワイルドエリアに居たの?」
「……見てみたかった」
一番の理由はやはり、推しを見てみたかったから、である。ただ、誤算だったのはワイルドエリアからの出入りに条件があったということだが、これは別に言わなくてもいいことだろう。
他にも「何処から来たのか」だとか「名前はなんというのか」だとか、色々と根掘り葉掘り聞かれ、その都度答えていたのだが、ふともしやこれは尋問なのではないか、と思い口をつむぐ。
ポケモンフーズショックが大き過ぎて気にしていなかったが、そもそもポケモンが人間に変身するのも、人間がポケモンに変身するのも、この世界ではかなり珍しいことではなかっただろうか。
唯一、映画でラティアスが女の子に変身していたぐらいの事例なのに、このラッキーさんは最初こそ目を丸くして驚いていたが、慌てることも怖がることもなかったし、質問中もそれに触れるようなものは一つもなかった。
えっ、ガラル地方ってもしかしてあの研究所と何かしらの繋がりがあったの……? いつからポケモンセンターは安地じゃなくなったです??
「……殺す、のか」
「えっ?」
「私たちを、殺すのか」
目を大きく見開いて固まるラッキーさんの様子に、私はただそっと目を伏せた。
こんな時、読心術マイスターな68Cが起きていれば何を考えているのか分かるんだけどなぁ!
そんな私の内なる訴えも知らず、42Aと68Cはすよすよと寝息を立てていたのだった。
【ダンデ視点】
三匹が収容された部屋は特別処置室という、普通の病室には収容できないポケモンに宛がわれる部屋で、壁にはマジックミラーが取り付けられ外から中の様子が見えるようになっているだけではなく、室内に取り付けられたカメラやマイクから常時映像や音声を聞くことができる。
その大きな鏡越し、向こうからはただの鏡にしか見えていないはずのそこから、ジッとこちらを見つめる漆黒の瞳に、ダンデは心臓をわし掴みにされているような苦しさを感じていた。
最初に、三匹を診察した女医から、採取した血液の中にメタモンと人間の遺伝子が存在している、と聞いた時から、ダンデは嫌な予感がしていた。
できれば当たっていないでくれと思った時ほど予感というのは的中するもので、監視用モニターで三匹が人間の姿へ変貌する瞬間を目の当たりにしてしまい、ダンデは目の前が真っ暗になりそうになりつつも、なんとか踏ん張って耐えた。
だがその後、特別処置室から戻ったラッキーの言葉を人語に翻訳した医療用パッドロトムの話を聞いて、ついにはダンデだけではなく誰しもが言葉を失った。
「あの子たちは、〝自由〟を見てみたくて、研究所を脱走したらしいロト」
その一言から始まった、彼らの過去はダンデが想像していたよりも遥かに惨たらしく、残酷なものだった。
昼も夜もない部屋の中で、ただひたすらに〝数値〟や〝結果〟のために血反吐を吐くような思いをし、それを耐え忍ぶだけの日々。
徐々に人ではない別のものへと変化していく身体と、その変化についていけない精神との摩耗と疲労。
たった一つの、家族との結びつきや己を己とたらしめる名前さえも、自己の防衛本能により忘れてしまったと言うではないか。
それも、自分の弟とそう変わりない年の子供が、淡々と語ったのだ。
「あの子は、なにもかも全て諦めた様子で『殺すのか』と聞いてきたらしいロト。きっと、研究所から脱走した自分達は捕まれば〝処分〟されるんだと思っているロト。だから、殺すのなら自分だけにしてほしい、せめて二人はどこか安全な場所で平和に暮らせるようにしてほしい、と頼んできたって言っているロト」
恨み言を言うでもなく、己の過去を悲観し嘆くでもなく、ただただ、他者を思いやるこの心優しき子供を歪め、傷つけ、壊したのは、間違いなく自分たち〝大人〟だった。
ダンデからすれば、それは己とは無関係な大人の仕業であるが、しかし、彼らからすれば自分たち以外は全てが〝同じ大人〟に見えているのだろう。
だからこそ、彼らはそれをしなかった。そもそも、彼らには既に『誰かを頼る』という選択肢すら無かったのかもしれない。
なにせ、彼らを救ってくれた人など、存在しないのだから。
下唇を噛み締め、嗚咽を呑み、ただただ流れ出る涙を拭うことしかできない己を恥じたのは、ダンデがチャンピオンとして君臨した時から、いやもしかするとジムチャレンジに挑むよりももっと前まで振り返ったとしても、初めてのことのように思う。
仕方のないことなのだと、割り切れればどれほど良かっただろう。
己には関係の無いことだった、で終わればこんなにもやるせない気持ちを抱えずに済んだではないか。
己を納得させるだけの言葉は、水に落ちたインクのように浮かんでは消える。
目の前の事実が、己がただ〝バトルに強いだけ〟な常人なのだと指をさして批難し、見えない傷をつけていく。
なにが『無敵のダンデ』だ、なにがチャンピオンだ。
そう考えても、現実は何一つ変わることはなく、代わりに、そう思うことこそがただのエゴであると思い知らされる。
──嗚呼、己はなんと無力なのだろう。
「オレが……ッ、オレが、お前らを、護ってやる! だから、だから……そんな悲しいこと言うなよ! なあ!」
ダンっと壁を殴り、流れる涙もそのままに叫ぶキバナもまた、己のエゴに苛まれているのかもしれない。
ポケモンセンターに連絡を入れ、事の行方を見守っていたカブも目頭を抑え、グッと嗚咽を堪えているのが見えた。
そうだ、守ってやればいい。
昨日のことが変わらないように、彼らの過去を変えることはできないが、それでも、〝今目の前にいる〟彼らの為に動くことはできるのだ。
そうと考えれば、ダンデの行動は早かった。
「戸籍だ、戸籍を作ろう」
「こ、せき……?」
「ああ、あの子たちの戸籍を作るんだ。恐らく、彼らはあの研究所の生き残りなのだと思う。このままだと、彼らはあの問題を担当している地域の管轄下に引き渡されるだろう」
「ッそうか、彼らをガラル地方の人間だということにして引き渡さなくて済むようにするんだね」
ハッと思いついたカブに、ダンデは力強く頷いた。
チャンピオンという地位に立っているからこそできる荒業ではあるが、されどこれしか彼らを守る術が思い浮かばなかったのも事実。
不甲斐ないと己を恥じたところで、それが何かの役に立つわけでもないことを痛感したダンデは、決意するようにグッと拳を握る。
「ガラルで暮らす全ての人が、ポケモンが、俺たちが愛し守るべき者たちだ」
例え、ポケモンに変身できようと
例え、ワイルドエリアを住処としていようと
例え、彼らが周囲の誰も信用していなかろうと
──彼らは、己が守るべき愛しい国民なのだ。
21S(♀)
今回踏んだり蹴ったりな役目だった可哀想な人。
ラッキーさん含め、ガラル地方実はヤバいんじゃないか疑惑を持ってしまっている。
尚、自分の発言において言葉が足りないことを自覚していない。
推しであるカブさんを見れて内心めちゃくちゃハッピー。
表情筋はしんだ、この人でなし。
42A(♂)
モンスターボールに対する回避率がえげつないことになってきた被害者。
怒涛の推しラッシュにテンションは天元突破。
戦闘にはかなりのトラとウマを抱えている様子。
唯一のオスなのに溢れ出るヒロイン臭がヒドイ。
おやすやぁ。
68C(♀)
[[rb:仲間 >マブ ]]がやられてうっかり元ヤンがもろびでちゃった加害者。
怒らせたら一番怖いのはこの人。恐らくきっちり末代まで呪えるタイプ。
推しにやべぇとこ見られてぴえん。
ぷまいの意味はしらん。でも割とイける味してたよ。
おやすやぁ。
ダンデ
突然のSAN値チェックに見事失敗、知識ロールもクリティカルしてしまったレベルの衝撃を受けた人
ガラルに関係ない問題が関係ある問題になっちゃった!
色々考えた結果、どんな手を使ってでも三匹改め三人を幸せにするぞという思考に至る。
三人は人間不信なのだと思っている。そんなことは無い。
まずは戸籍を作ろう、勿論俺の兄弟ってことでいいよな(ニッコリ)
キバナ
SNSで動画を見た時は般若になった。フライゴンも般若になった。
気絶したフリをしていた時は気づかなかったけど、いざご対面した際にストライク達が〝かなり強いポケモン〟だと知りテンションが上がってしまった。
ミニリュウやラルトスからは嫌われていると思っているし、話を聞いてそれも当然だと受け入れているがその考えは全て勘違いだ。
そもそもストライクには興味されもたれていないと思っている。勿論勘違いだ。
三人の親権は自分が取ると意気込んでいる。
勿論、キバナ様と兄弟になるんだよな!(ニッコリ)
カブ
突然キバナから連絡がきて驚いた人。
酷い怪我をしたストライクにもビックリしたし、異常なほど此方を警戒する(勘違い)色違いなポケモン達にもビックリ。
更に待ち構えていた三人の過去にもビックリを通り越してなんかもう感情が大混雑していた。
三人のことを可哀想だと思うだけでなく、これから誠実な人として歩めるように守ってあげようと決意。
このことはジムリーダー間で情報共有していた方がいいだろうと思い、慣れないスマホをポチポチしている。
【このことはジムリーダー間で情報共有していた方がいいだろうと思い、慣れないスマホをポチポチしている。】\_(・ω・`)ココ重要!
ジョーイさんとラッキー
ストライクの怪我は勿論、何故か三匹とも栄養失調なのにも関わらずピンピンしていることに首を傾げていたら、まさかの事実に立ち合ってしまい絶句。
あの問題についてはポケモンセンター間でも有名で、ラッキーの話から直ぐにそれを察知した。
三人には絶対に幸せになってほしいと思っている。
念の為に三人をドクターに見せた方が良いと考えているので、この後ダンデ達に進言するつもり。
人間にポケモンフードを食べさせてもいいのかしら……でも天然素材しか使っていないから大丈夫よね?
ポケチューバーなトレーナー集団
炎上オブ炎上にてチャンネルはBAN。
トレーナー権限は剥奪されなかったけれどジムチャレンジにはもう推薦してもらえないかもしれない。
彼らは 未来に 攻撃を受けている。
*あるかもしれない次回
「前門の
「キバナ様のキバナ様はキバナ様だった」
「大丈夫じゃないし問題しかないけど、大丈夫」
「大人になっても報・連・相がままならない人にとやかく言われる筋合いはないわ」
書くかもしれない。