悪女が逆ハーレムを夢見るとき、生贄たちは推しのユメを見る 作:paruco
主人公たち≠ユウリ・マサル
複数主人公
夢・腐的要素あり
勘違い要素をふんだんに盛り込む予定
捏造設定・特殊設定有り
とにかくなんでも有りが大丈夫な人のみ閲覧推奨
三人中二人が色々なものを喪失したものの無事に入浴を終えた私と42Aと68Cは、もう何年もお世話になっていた薄汚いぼろ雑巾のような服とさよならバイバイし、代わりにジョーイさんが用意してくれていた真っ白なローブを装備していた。なんだか少しだけ防御力が上がったような気がする。
久しぶりに汚れていない服を着たことにテンションが上がって三人でクルクル回っていたら、ジムリーダーの皆さんがまたも肩を震わせながら天を仰いでいた。なんで皆して突然の萌え投下に死んだヲタクみたいなことをしているのだろう。アレか、笑いを堪えているのか。ごめんな、私たち割とどうでもいいことでも一喜一憂できるレベルに色々低下しているんだ。
「にしても、改めて考えたらこの空間の顔面偏差値、やべぇくらいに高ェな」
「さっきまでは割と推しに会えた喜びがキマってたけど、冷静に考えてわたしたちの場違い感が凄いよね。えっ、ここにわたしたち居ていいんですか? ってなってる」
「寧ろ壁か空気になりたい」
「「わかる」」
それか観葉植物にでもなっていたい。
推しに認知されたことへの喜びは勿論あるけれど、やっぱり日陰の使者であるヲタクは影からそっと推しの日常を観察する方が性にあっている。
そんなヲタクトークを炸裂していたら、慌てた様子でダンデさんが病室に来た。
よくよく思い出してみると、ダンデさんが登場する時って大抵慌てているような気がするのは私だけだろうか。68C曰く、ダンデさんは極度の方向音痴だからじゃないかな、と言っていた。
……それは、ダンデさんにGPSを仕込んでおいた方がいいのでは?
「でも無敗を誇るチャンピオンの唯一の欠点が方向音痴ってギャップがヤバくない? 幼女じゃん? 軽率に推せる。ってか推してるし、なんなら欠点が欠点じゃない。寧ろ欠点なんて存在しない、全てが美点」
「お前それ、ただのダンデ全肯定BOTじゃねェかよ。まあ、気持ちは分からんでもない」
「いつだってヲタクは推しの奴隷であり信者」
そしてヲタクは推しに貢ぐことこそが推し事であり日課であり通常業務であるからして、決して推しから貢がれるような存在ではないはずなんだ。
だからただでさえこれから居候させてもらう身である私たちの為に、あれやこれや用意しようと打算するのはやめて頂けると幸いです、ハイ。
居た堪れなくて既に瀕死だというのに心が死んでしまいそうです。主に42Aの心が。
なんて面と向かって言えるわけないんですけどね。知ってた。
居候先をキバナ様宅に決めたことを越えられない言語の壁のせいでなんとかボディランゲージで伝えた後、メロンさんとルリナさんはそれはそれは楽しそうに私たち三人の衣類調達へと赴き、ダンデさんはとぼとぼと悲しそうに片やキバナ様はスキップでもしそうなほど上機嫌で食器類などの生活必需品を買いに出掛けてしまった。
そんなヲタク敗北者な私たちは現在、カブさんが管理しているエンジンジムにてお留守番中である。
なんでも、買い物先は人が大勢居るからとかなんとかで私たちを連れていけないのだとか。キバナ様が今にも血涙を流しそうな顔でそう言っていた。
確かに小さい子を三人も連れて買い物なんて行ったら大変だもんね、主に迷子とか。
「言葉が通じないから中身は既に成人していますなんて言えないし、ついて行ったらついて行ったで実質推しとのデートっていう現実に耐えられなかっただろうなぁって思うと、これが一番良かったのかもね」
「ハッハッハ、俺はこれから常に推しと自宅デートなんだけどなァ! ってか普通、ポケモンに変身できるような明らかに問題しかねェ子供を引き取ろうと思うヤツがいるか!? これがいるんだよなこんちくしょう、それでこそキバナ様!」
「つまり、私はいま推しと自宅デート中……?」
「「いや、ジムは家じゃない」」
でもカブさんが管理していて尚且、一日の大半をここで過ごすって事は実質家といっても過言ではないのではなかろうか。
そう思って二人に視線を向けるも、二人はそれはノーカンですというような目で見返される。
そうか、ジムは家じゃないのか……
「話は変わるけど、わたしずっと気になってたことがあってね?」
「ああ」
「なんで21Sは推しを目の前にしてもそんなに冷静でいられるの……? 本当に同じヲタク……? 感情をどこかに置き忘れてきたとかない? その表情筋みたいに」
「喧嘩か?」
よろしい、売値どころか倍で買い取ってやんよ。
スッと片手で拳を作りながら振り上げれば、68Cは即座に謝ってくれたのでそのままゆっくりと元に戻す。流石にね、ここで暴れたら推しに迷惑を掛けちゃうからね。
とはいえ冷静っていうほど冷静にはなれてないけど、敢えて言うなら……
「私の愛はマリアナ海溝じゃない」
「えっ、それは深さがってこと? それとも圧がってこと? どっち??」
「おい待て、事の返答によってはここが戦場と化すぞ? 処すぞ??」
「あまり強い言葉を遣うなよ……弱く見えるぞ」
「「よろしい、ならば戦争だ」」
私たちの間でカーン、と見えない闘いのゴングが鳴り響くと同時に三人ほぼ同じタイミングで地面を蹴った。
始まったのは血みどろリアルファイトではなくただの鬼ごっこである。鬼は42Aと68Cの二人で、どんな手を使ってもいいというルールはある意味リアルファイトよりエグいけど、そうでもしないと私のスピードに追い付けないんだよね。
最終的に一緒に留守番組となっていたパプリカくん……じゃなかった、オニオンくんも交えての鬼ごっこにまで発展した。
最初はカブさんに通された事務室の中で『こうそくいどう』と『テレポート』を駆使して簡易鬼ごっこをしていたのだけど、オニオンくんの参加と見兼ねたカブさんがジムの一部を解放してくれたことで通常の鬼ごっこへと移行したのだ。オニオンくんは普通の男の子だからポケモン技は使えないからね。
まあ、途中から楽しくなり過ぎて68Cがオニオンくんと一緒に高速移動やら瞬間移動やらを駆使し始めたので最初の遊びにシフトチェンジしていたんだけど。オニオンくんも楽しそうだし、問題ないよね!
「みんな、一旦休憩にしようか」
その一言で私たちは一瞬でカブさんの周囲に集まる。ホント、瞬間移動って便利だ。
みんなで最初にいた事務室へと戻ると、カブさんと一緒にジムを切り盛りしているらしいジムトレーナーの皆さんがお菓子とジュースを用意して待っててくれた。
てっきり、一緒にお茶をするもんだと思っていたのだけれど、彼らは私たちと入れ替わるように部屋を出ていこうとしていたので、お礼だけでもと思いぺこりと頭を下げておいた。本当はちゃんと伝えたいんだけど如何せん言語の壁があってですな。
でも出ていく時に小さく手を振ってくれていたからきっと伝わったと思う。
「さあ、好きなだけお食べ」
「……いただきます」
まずは私が手を合わせてから、目の前の焼き菓子を取り一口齧る。
どうやら中身は特に入っていないみたいだけど、ほんのり甘くて美味しい。こういうのを素朴な味っていうんだろうね。
「……どう?」
「ぷまい」
「……大丈夫か?」
「大丈夫」
じいーっと私が食べ終えるのを見ていた二人にめちゃくちゃ美味しいことを伝えれば、漸く二人もお菓子に手を伸ばし始める。
実はこの二人、私たちがまだ研究所にいた時に一度めちゃくちゃ不味い残飯を出されてから食べたことのない食べ物には過敏なほど警戒するようになったんだよね。
いやぁ、思い出してもアレはめちゃくちゃに不味かった。二、三日は体調不良起こしたもん。
「スコーンはクリームかジャムをつけて食べるといい。どちらも美味しいよ」
カブさんは新しい焼き菓子を取ると、それを半分に切ってそれぞれ真っ白なクリームと真っ赤なジャムをつけて私の皿に盛りつけてくれた。紅白なんてめでたいですな。
わぁすっごく美味しそう! ……ってそうじゃないな??
待て、冷静に考えろ私。今、目の前にあるのはただのお菓子じゃない。推しが私のためにと手ずから盛り付けてくれたお菓子だ。夢か?
えっ、何? もしかしてこれまでの苦行は全てこのご褒美の為の過程だったの??
いや、それにしては苦行がエグいな。飴と鞭の量がおかしいです先生。
「───わぁ、カブさんだぁ!」
全てのものに圧倒的な感謝を捧げ、一口一口噛み締めながら至福のひとときを堪能していたところに、突然私たち以外の声が響いて驚きのあまり噎せそうになった。
あっぶない、もう少しでクリームが喉じゃなくて鼻に行くところだった。そうなったら放送事故どころの騒ぎじゃなかったし、寧ろそんなところを推しに見られたりでもしたら笑顔で首を吊ってたわ。
一先ず隣に用意されていたミックスオレを一気飲みして胃と心を落ち着かせ、先程の声の主を見た。
そこには金髪ロン毛に緑の瞳をした十歳にいくかいかないかぐらいの年の女の子がいて、なにやらカブさんに話し掛けていた。
いやぁ、やっぱり誰にでも真摯に対応するカブさんは老若男女問わず好かれますなぁ。
嗚呼でも眉を下げて困ったような顔をしているカブさんもかわいい……いっぱい好き……
いや待って。
なんでカブさんは困った顔をしているんだ。
ハッとして女の子とカブさんの会話に聞き耳を立ててみると、どうやらカブさんはここから女の子を追い出したいらしい。だけど、女の子は全く聞く耳を持たない様子。
なるほど、それでカブさんは困っているのか。
「ターゲット、ロックオン」
「待てまてまてまて! おまっ、それ『はかいこうせん』を撃つ構えだろ!? 早まるな、推しの目の前だぞ?!」
「違うぞ『てっていこうせん』だ」
「ヤバいこいつ、自分のライフを半分犠牲にしてでも確実に攻撃を与える気でいるじゃん」
「カブさんを困らせる輩は排除するに限る」
「さては21S、実はカブ過激派だな??」
全く此処にはとち狂ったヲタクしかいないね、と呟く68Cだけどそれは自虐ネタということでいいのだろうか。
私、知ってる! こういうのをおまいうって言うんだよね!
荒神を抑えるが如く二人から抑えつけられていれば、不意に女の子が此方に視線を向けてきた。
宝石を嵌め込んだような作り物に見える瞳が私を捉えた瞬間、零れ落ちる程に見開かれたその目がゆるゆると細められたその奥、まるで獲物を狙う肉食動物のようにギラついた光が怪しく輝いた気がした。
う、うん?? あれ、なんか……凄く既視感を感じる目だな???
どこで見たのかは思い出せないけれど、まるで喉に刺さった小骨のように心に引っ掛かる。
だけどその引っ掛かりが取れる前に女の子の視線は私から42Aに、それから68Cへと移動した途端、女の子はカブさんには見えないようにしつつも顔を歪めたのを目撃してしまった。
それは男を取られまいとする女の醜い嫉妬で染められたもので、到底生まれて十年ほどの子供がするような顔ではなかった。アレはもっと大人の女が見せる顔だよ。
……大人の、女?
もしや、あの女の子って……あの時のヤベェ夢女子なのではなかろうか。
【カブ side】
他のみんなが必要な物を買いに行っている間、子供たちは僕が管理しているジムで一時預かりということになった。本当は本人がいた方が良いのだが、ただでさえ時々人を怖がるような素振りを見せている彼らを大勢の人で賑わうデパートなんかに連れていけば、恐怖と混乱で下手をすれば暴れ出してしまうかもしれないという結論に至ったのだ。
子供たちにはそれっぽい理由を述べておいたけれど、僕らが想像している以上に彼らは賢いので恐らく真意に辿り着いてしまうだろう。下手をすれば、既に感づいているのかもしれない。
今はジムチャレンジの時期ではないのでそこまで忙しいわけではないものの、設備のメンテナンスやその他事務作業などは常に存在するので僕や共にジムを支えるジムトレーナーのみんなは休日以外はほぼ毎日エンジンジムに出勤している。
無論、今日も彼らは既にジムに来て各々仕事を始めていて、僕は子供たちとオニオンくんを普段僕が仕事に使っている事務室へと通したあと、みんなを集めて事の顛末を説明した。
最初こそ突然のことに困惑気味だった彼らも、子供たちがどんな場所でどういった扱いを受けていたのかを知るとその劣悪な環境に激怒し、そして彼らが幸せになれるならばと喜んで僕に協力することを宣言してくれた。
とはいえ、いま僕から彼らにお願いすることは子供たちと必要以上に関わろうとしないであげてほしい、ということだけ。
子供たちもいきなり環境が変わって戸惑っているだろうし、環境に慣れるのにも心を落ち着かせるのにも時間を有するのは分かりきったことで、彼らもそれには賛成だと頷いていた。
もちろん、子供たちから何かしらの接触があればそれには真摯に対応してあげてほしいと言うのも忘れない。
人生は止まることはない。常に移ろっていく、天気のようなもの。
今はしとしとと雨が降っているかもしれないが、それでもやまない雨はない。
いつかきっとその分厚い曇天から光が差す時がくるはずだ。
最初は瞬きの間に消えうせてしまうかもしれないほど小さく弱々しい光かもしれない。だが、光は必ず晴れ間となり快晴を呼ぶ。
子供たちにとってそれは茨の道となるだろう。凡庸な僕が歩んできた道でさえつらく厳しいものだと思ったのだから、元より地獄の窯からいつ切れるかも分からない一筋の糸を頼りに這い上がってきたあの子たちにとっては、なにも視えない真っ暗な闇の中を小さな蝋燭の炎一つで進むようなものだ。
───不安だろう、怖いだろう、つらく苦しむことだろう。
せめて、僕が……僕たち大人が、その道中の宿り木となれるように。
彼らが、悲しみに囚われてしまわぬように。
導いてあげられればと真に思う。
「だが、想像以上に業が深い」
オニオンくんを含めた四人が楽しげに始めた鬼事を見て、僕はそんなことを考えた。
事務室に戻ってきた僕が最初に見たのは、目にも止まらぬ速さで室内を移動する子供たちの姿だった。時々、着地点とは別の場所に現れたりしているところから察するに『テレポート』を使っているのかもしれない。
人でありラルトスでもある68Cくんならばエスパータイプの技を使っていてもさほど驚きは少ないが、だがストライクである21Sくんやミニリュウである42Aくんまでもとなると話は別。
本来、ポケモンは自己に存在する適正に合った技しか使えない。長きに渡る努力の末『技レコード』や『技マシン』は開発されたが、それでも適正のない技を覚えさせることは決してできなかった。
しかし、目の前の子供たちは先人の努力を嘲笑うようにそれを凌駕してみせたのだ。
背中を嫌な汗が伝う。恐らく、彼らはそれ以外にも様々な技を扱えるとみていい。
「だというのに、それを僕たちに向けることはない……か」
純粋に強い子たちだと思う。
いっそ感情に任せて猛威を振るった方が楽になれるだろうに、しかし敢えてそれを選ばないというのは並大抵の精神ではできないことだ。
こんなにも歳をとっている僕でさえ、同じ境遇に立ったとしても彼らと同じ選択を選ぶ自信はなかった。
みんなが気を利かせてお菓子や飲み物を用意してくれたので、一度子供たちを休憩させようとジムミッションで使うエリアで遊ぶ彼らに声を掛ければ一瞬で目の前にやってくる四人。
僕の数歩後ろを歩く21Sくんに、楽しかったかい? と問えば、彼は初めて会った時と変わらぬ涼しい顔でコクリと頷いた。
そういえば、こうして移動する時の先頭はずっと彼だったような気がする。
「さあ、好きなだけお食べ」
机の上に並ぶ様々なお菓子や飲み物を前に席に着いた子供たちにそう言えば、珍しげな目でそれらを見つめた後何故か42Aくんと68Cくんが21Sくんを見た。
どうしたのだろうかと僕とオニオンくんが首を傾げた時だった。
「……●#¥*★&」
21Sくんが手を合わせて何かを呟き、スコーンを一つ取ると口に入れた。
もぐもぐと何度か咀嚼を繰り返し、少し三人で話したかと思えば漸く残る二人もお菓子に手を伸ばした。
それだけ、たったそれだけの動作が浮き彫りにする事実に僕はただ目を見開くことしかできなかった。
後悔することさえできない。懺悔するにはあまりにも遅すぎた。
知らなければよかった、だって、そんな……こんなのはあんまりじゃないか。
こんなにも幼い子供たちが、毒味をしなければ安心して食事もできないだなんて……!
絞り出した声で何も付けていないスコーンばかり食べる21Sくんにクリームやジャムの存在を教えつつも、僕の中では名も知らぬ顔も見たことがない研究員たちへの怒りや憎しみが炎となり燃え盛っていた。
そんな最中、この空間に飛び込んで来る者がいた。
金色の長い髪をした緑の瞳の女の子は、事務室へと飛び込んで来るや否や一目散に僕の元へと駆け寄ってきた。
おかしいな、今日は来客予定なんてなかったと思うんだけどね。
「こんにちは、えっと……」
「はじめまして! 私、イランって言います!」
「そう、イランくんか。すまないけど、今日は用事があるのでお引き取り願えるかな?」
「用事……? あっ、もしかしてあの子たちのことですか? 大丈夫です、私仲良くなれますから!」
そう言って、子供たちの方へ向かう少女を追うように視線を向けて僕は目を見開いた。
42Aくんと68Cくんが青い顔をして必死に21Sくんにしがみついている。それは今まで何度か見ていたが、僕が驚いたのは21Sくんだった。
無表情なのは変わりない。
だがその額には血管が浮き上がり、表情は変わらないというのに全身から怒気が溢れ出ていた。
あまりにも見たことのない光景に呆然としていれば、少女は明らかに警戒している21Sくんへ手を伸ばし……
「やめっ───」
「触るな」
平坦な声とは裏腹に今まで感じたことがないほど重く、息が詰まるほどに苦しい空気が部屋を覆い尽くした。
正直、立っているのがやっとであった。声を出そうにも、見えない何者かが押さえつけているかのように上手く音とならずヒュウヒュウと空気が漏れるのみ。
大人の自分でさえこれほどまでの恐怖を覚える空間で、子供の、それも発信源に近い少女はもっと恐ろしいだろうと思い、せめて彼らから遠ざけてやらねばと手を伸ばしかけ……その手は止まった。
少女は笑っていた。
まるで、玩具を見つけ喜ぶ子供のように加虐の笑みを浮かべていたのだ。
「ふぅん、
「失せろ」
「ふふ、可哀想に。貴方、あの女に囚われているのね。でも大丈夫、私が絶対に助けてあげる。だって───」
───王子様に護られるお姫様は、二人もいらないでしょう?
そう言ってクスクスと愉しげに笑う少女は異質で、本当は僕と同じ人間ではないんじゃないかとさえ思ってしまった。
それと同時に湧き上がったのは未知との遭遇による恐怖。
なんだアレは、なんだ、なんなんだ。
逃げなければ。戦わなくては。
子供たちを助けなくては。
脳内でけたたましい警鐘が鳴り響き、どんどん思考が斑と化していく。
「失せろ。三度目はない」
「……ふふ、今日のところは引き下がってあげる。どうせ偽物のお姫様なんて、すぐに化けの皮が剥がれるもの」
少女は吐き捨てるようにそう告げると、クルリと子供たちに背を向けた。
そうなると必然的にその後ろにいる僕の方へ振り返ることとなり、少女と目が合うと先程とは違う愛らしさを振りまく笑顔を浮かべた。
けれど今の僕にはそれさえも得体の知れないものに見えて、愛らしいと思うよりも恐ろしいと思ってしまう。
だが、そんな僕を見ても少女は特に何か言ってくることはなく横を通り過ぎて扉の方へと歩いて行く。
やっとこの恐怖が終わるのかと、僕が息をつこうとしたその瞬間、僕はそのまま息を止めることとなった。
「……なんだ、生きてたんだ」
恐らく誰かに聞かせるつもりのない独り言だったのだと思う。
けれども、その発言が示唆するのは……───
その時、思考を遮るように誰かに服を引かれた。
慌ててそちらへ顔を向けると、そこに居たのは21Sくんだった。
「21え───」
「ごめん、なさい」
抑揚のない平坦な声。
だけどその音は何度か聞いた覚えがあるものだった。
色々なことが一気に起こり、脳がついていけず固まってしまう僕を見て、21Sくんはもう一度「ごめんなさい」と謝る。
そこで漸く、僕は服を掴む彼の手が小刻みに震えていることに気がついた。
怖かったのだろう。
そうだ……どれだけ彼が果敢で冷静な子だとしても、彼もまた他の子と同じ小さな子供なのだ。
どうして、そんな簡単なことさえ忘れていたのか。
「……すまない。怖かったね」
僕は地面に膝をつくと、怖がらせないようにゆっくりと21Sくんを抱きしめた。
彼は一度ビクリと大きく肩を揺らしたが、突き飛ばすことはなくされるがままとなる。ただ、その身体は緊張からかとても力が入っていた。
「本当は僕がどうにかしなくちゃいけなかったというのに……自分が情けないよ」
「カブ、さん……」
「よく、頑張ったね」
彼は何も答えなかった。
そして、彼の小さな震えも止まることはなかった。
【68C side】
「やっぱりあのクソアマ、わたしたちを生贄にしたあの夢女子だよね」
「ちょっとプリンセス~、口調が乱れているザマス」
「ヤンキー時代がもろび出てるザマス」
「よおぉぉぉし、そういうスタンスね。よおぉぉぉし! テメェら覚えとけよ」
それはそれは愉しそうに笑う42Aと、いつも通りの無表情だけどどことなく楽し気な21Sは「ヤダァ」と口を揃えて言った。しかも口調に揃えてか動作にも無駄に優雅さを出している。
いや、そもそもわたし姫(笑)じゃないし。それもこれも全部あの夢女子なクソアマのせいだ!
クソアマ乱入事件から数時間後、買い物から帰還した各々をカブさんが連れて行ってしまったので物凄く暇になったわたしたちは再びカブさんが解放してくれたジムの一室にやってきて雑談に勤しんでいた。
オニオン君曰く、この場所はジムチャレンジの際に利用する部屋なのだとか。ああ、だから室内なのに草むらがあるんだね。因みにオニオン君のジムでは自分がボールになるタイプのピンボールな内装らしい。ごめん、何言っているかお姉さんには分からないかな。
そういえば、あのクソアマに喧嘩を売られたあとからどういう原理なのか少しだけ会話できるようになっていたんだよね。だからこうしてオニオン君と素直にお喋りできているんだけど、それでも三人で話している時なんかはやっぱり何を話しているのか分からないんだって。
流石に推し語りしているのをご本人に聞かれていたら全力で入水してたよね。恥の多いヲタクだけどそこまで恥を晒すことはできないです先生……!!
「そういえば、ずっと、気になっていたんだけど……その、パプリカって、誰?」
「そ、れは……」
さっきまでほのぼのとした空気が包んでいたというのに、オニオン君の一言で一気に気まずい空気に変わったような気がした。変えたのは十中八九わたしたちなんですけどね……!
っていうか、どうする!? 実はオニオン君の名前が分からなくて適当に呼んでただけだよって言うの!? こんないたいけな少年に!?!?
そんなの無理だよできないよ!?!?
焦りに焦りながら42Aと21Sを見れば、二人も悩んでいるようで苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「彼は……良い子だった」
「21S!?」
えっ、何言ってんの!? という意味で名前を呼べば、大丈夫任せろという顔で返される。
し、仕方ない……ここは21Sに任せよう。何か秘策が思いついたのかもしれないし。
「キミによく似ていた」
「ボク、に?」
「ああ」
「じゃあ、その子はもう……」
21Sが意味ありげに目を伏せた。
あー、これかなり意味深ですね! 過去に何かあった感じの空気ですね!
あったことは他人の名前を間違えて呼んでいたという事実だけなんですけどねぇ!!
オニオン君も流石にこの空気の中ではあれこれ聞きにくいようで、この話題はここまでとなった。
その後、何ともいえない空気をどうにかしようと三人で研究所時代に生み出した替え歌を披露したら、どうしてかオニオン君に号泣されてしまった。
えっ、もしかしてわたしたち音痴だった……?
誕生日を祝おう! みたいなノリの曲だったのにオニオン君を泣かせてしまいぴえん状態なわたしたち。
でも一頻り泣いた後、本人が全力で上手かったとヨイショしてくれたから少しだけSAN値は回復した。
なんでも歌詞を聞いて泣いちゃったんだって。そんなに感動できる歌詞だったのかな? 研究所時代にあったことを練り込んだだけだったんだけども。
そうしていると、カブさんたちの方も用事が済んだみたいで帰ってくるように声を掛けられた。
ふよふよと宙に浮きながらみんなと共に部屋を出て受付の方へと戻ると、そこには今朝会ったジムリーダーの皆さんが勢ぞろいしていた。
わぁ、顔面偏差値くっそ高い空間だぁ。
「みんな、良い子にしてたか~?」
そう言ってにぱーっとワンコスマイルで笑う顔面600族。
はぁぁぁあああ、顔が良い!!
この暴風に耐えきれず沼にドボンする人が相次いでいるのを本人は全く自覚していないんだろうなぁ……
いや、それはダンデさんも一緒か。
「比較的そうだったと言える、かなぁ」
「部分的には」
「はわっ、その、少しは……」
「お前らそこは嘘でもウンって言っておこうな」
流石に限界ヲタクが居る前でそいつの推しに対して嘘なんて言えないかなぁ。
なんて、口が裂けても言えないのでにっこりと作り笑いだけを返しておく。知ってるか、口は禍の元だけど、その口さえ開かなければ禍は来ないんだぜ。
まあでもキバナはそんなわたしやいつもと変わらない21S、動く・喋る・生きてるな推しに感極まっている42Aの様子よりも、会話が成立している事実に興味がそそられているようで特にツッコんでくることはなかったのだけれども。
「っとそうだ、ホラ、ダンデ。渡すんなら今だぞ」
「ああ、そうだな!」
渡す? 何を?? 誰にですか??? (食い気味)
返答によってはわたしがマジカルなシャイニーになるか、サイコなパワーを発してしまうが????
なんて思いつつ、いつでもその振り上げた拳を降ろせる状態にしていれば、ダンデさんは綺麗にラッピングされた袋を手に持ってこちらへとやってきた。
「これは未来ある君たちへチャンピオンからの特別な贈り物だ!」
そう言ってダンデさんは最初に21Sに、次に42Aに、そして最後にわたしにそのプレゼントを差し出した。
えっ、待って、うわっ、あっ、顔が良い……!! えっ、めちゃくちゃ良い匂いする……なんの香水かな? とりあえず買う、絶対一緒の香水買う。ってか、推しの香りとか買わない選択肢あるんですか??
唐突な供給過多で、はわわ状態だったわたしは受け取る時に一瞬落としそうになってしまい、慌てて抱え込むようにして持つ。
あっぶない、推しからの贈り物を落とすとか万死に値する。首落ちて死ぬ、わたしが。
「ありが、とう……!」
感謝感激の極み過ぎてめちゃくちゃ声が震えてしまった。ヤバい、推しが目の前にいる事実に感動して涙も出てきた。
世界よ、ダンデさんという神をこの世に生まれ落としてくれたことを心から感謝申し上げます……!
後ろから「おっ! これピッピにんぎょうじゃね!? えっ、想像以上にデケェ!」だとか「これはなかなかの感触」とか聞こえてくるけど……って、開けるの早いな!? もっと開封の儀を楽しめ??
目を細めて微笑むダンデさんに心臓を滅多刺しにされながらも、わたしも震える手でゆっくりと袋に付いた紫色のリボンを解く。……このリボン、後で髪飾りにしよう。
出てきたのはピンク色をした全体的に少しまん丸としたフォルムのピッピにんぎょう。表面は滑らかでありながらも、綿をケチることなく詰め込まれているからかモッチりとした肌触りのソレ。
あ~~~~~~これは確かに癖になりますなぁ。なんで人形一つで戦闘から離脱できるのか、割と本気で理解できなかったけどこれなら納得ですわ。
これはね、クルものがある。主にポケモン遺伝子に語りかけてくる熱いパトスがある。
あれだ、人間の「キャー可愛いー」のポケモン版。
「おーおー、気に入ってくれてるじゃん。良かったな、ダンデ」
「っああ!」
「ハハッ、こう見えてコイツ、最初はモンスターボールを贈ろうとしてたならな」
アレでしょ、贈り物をしようと思いついたはいいけど何を渡せばいいのか分からなくて、とりあえず自分が貰って嬉しい物を贈ればいいだろうという思考に行き着いた結果なんでしょ。
知ってるよ、ダンデさん幼女なところあるからそういう一面もあるよね。(強めの幻覚)
その後、三人仲良くピッピにんぎょうを抱き抱えたまま全員にありがとう爆撃をかまして、キバナと共に今日から拠点となるキバナ宅へと向かったのだった。
あっ、リボンは髪飾りにせずピッピにんぎょうに付けることにしました。
偶然にもみんな推しカラーのリボンだったからね。
これで間違えて持っていくこともないね!
その日の晩、キバナから宛がわれた元客室・現わたしたちの自室と化した部屋の中。
怒涛の入浴シーンのリベンジマッチも終わり、現在部屋でのんびりとしていた。
余談だけど、メロンさんとルリナさんが21S用に買ってくれた下着がまさかの男児用だったのを入浴前に気がついてみんなで爆笑した。いや、買ってもらっている身で文句を言うつもりはないけどね。21Sも使えればなんでもいいと思っているみたいだし。
というか、研究所に居た時に比べればそんなちっぽけなことは気にならないというのが本音。
「でも、本気でご都合展開過ぎて草なんだけど……」
「絶対会話できるようになった理由って、あのヤベェ女との会遇が引き金だよなァ」
「……その者の血はその者を拒む」
「……えっ、なにそれカッケェ」
「どこのゲームの台詞??」
忘れた、と続ける21Sだけど案外馬鹿にできないかもしれない。
だってこういうのってなにかと補正があったりするし、特に逆ハー補正は対になる側が色々やって補正が解けることが多かった気がする。
ごめん、そこらへんの記憶も結構曖昧だから……
だから、あのクソアマに会ったことでわたしたちに掛けられていた〝何か〟が解けて会話ができるようになった、とわたしは踏んでいる。
「わっかんねぇ……まあでもあのヤベェ女は警戒しておこうぜ。特に68Cは……フフッ、プリンセスバトルになるかもしれねェしな」
「おい、42Aテメェマジでそろそろシメんぞ?」
いつまでそのネタ引っ張るつもりなの? 本気で怒るぞ??
*21S(♀のすがた)
過激派疑惑が浮上したカブ過激派。
尚、悪女との会遇の際に『じゅうりょく』を発動した張本人。
キレていたのはカブさんが困っていたから。推しを困らせるだなんてヲタクとして民度低いよ! (プンプン)(殺意MAX)
推しの大抱擁で無事死んだ。
下着事件はただのうっかりかジョークだと思っている。残念ですが本気で性別を間違われている。知らぬは本人たちのみ……
貰ったピッピにんぎょうには赤と黒のストライプ柄のリボンが巻いてある。
*42A(♂のすがた)
本日割と空気だったキバナ限界ヲタク。
歴戦の戦友が姫(笑)と騎士(笑)呼びされて内心笑いを耐えていた。
二度目の入浴シーンでは即堕ちなんてしないんだから……! と女戦士ばりに意気込んでいたが生まれたての推しの姿に即堕ち二コマした。ひいん、推しがカッコ良すぎてしんじゃう……
貰ったピッピにんぎょうにはオレンジ色のリボンが巻いてある。
*68C(♀のすがた)
悪女(少女のすがた)に姫バトルを挑まれた元ヤン。キレると昔のあれやこれやがもろび出る。
どう考えても一番姫とは程遠い性格。
歌唱力は抜群。チャームボイスやうたうが使える実力は伊達じゃない。
ダンデさんのことはかっこよく、美しく、可愛く、大人で幼女なパーフェクト推しだと思っている。つまり何しても全部肯定派BOT。
貰ったピッピにんぎょうには紫色のリボンが巻いてある。
*イラン(悪女のすがた)
長い金髪に緑の瞳の少女。
世界で一番お姫様を自称。
彼女の周囲にはあまいかおりに似た甘い匂いがするよ!
*カブ
本日一番の苦労人かもしれない。
三人のせいで気苦労が絶えない。申し訳ない。
尚、三人のことは孫のように可愛がっている。
色んな勘違いが脳内でティータイム中。
*あるかもしれない次回
「は────ー闇堕ちしそう」
「つまり愛嬌と愛想を振りまけばいい、と」
「どういうことなの」
「右の頬をぶたれたら? 相手の顔面が崩れるまでボコボコにすればいいんじゃない?」
気が向いたら書きます。多分。