ハッピーシュガーライフ future life 神戸あさひの原材料 作:しゅが
「お疲れ様でした。」
2019年。牧巣原市内のとある工事現場。
神戸あさひは帰りの支度をするために工事現場の休憩室に向かっていた。
まわりはがっしりとした髭面の中年男性が多く、
その中で細身で端正な顔立ちのあさひは少し浮いていた。
休憩室に着いたあさひが自分のロッカーで着替えを始めると近くにいた酒臭い中年の男、飯原が声をかけてきた。
「お疲れさん神戸。」
「・・・どうも」
あさひは素っ気なく返事する。
「相変わらず暗い顔してんなぁお前。
せっかくの可愛い女みてぇな顔が台無しだぜ?」
そういって飯原はあさひの服の中に手をいれた。
「ちょ・・・」
「その辺にしとけ。あさひ困ってるだろ?」
飯原を強面の男、中田が制した。
「飯原のことは気にすんな。さっさと帰れ。」
中田に助けられたあさひは礼をして工事現場を出た。
帰り道歩きながらあさひは今日の給料に目を通す。
封筒を開けてみると5000円といくらかの小銭が入っていた。
「これだけあればしおにいいもの食べさせてあげられそうだな。」
あさひの妹、しおが8才だった頃。今から4年前の2015年にしおは1人の女子高生に誘拐されたことがあった。
その女子高生は松坂さとうといったが、彼女がどうしてしおを誘拐するに至ったのか、その動機をあさひは最後まで知ることはできなかった。
なぜなら、あさひがしおを連れ戻そうとさとうのもとへ向かったとき、さとうがしおを監禁していたマンション「ディアホメーズ」は放火されていた。
屋上に追い詰められたさとうは転落死してしまい、動機を聞くことが今となっては不可能なことだからだ。
そのときしおも転落してしまったがさとうの体がクッションになり幸いにも一命をとりとめた。
ならしおに聞けばいいと考えていた。
しかし帰ってきたしおはずっと言葉を発することなく、どこかを見つめている。
この4年間、まともな会話ができたことは一度もない。
誘拐されていた間さとうに酷いことをされたのかとも思ったが、しおはあさひが来たときさとうと一緒にいることを選び、自分に向けてガラスの破片を向けた。
自分の手をズタズタにし、血を流しながら。
なんでしおは自分達家族じゃなく、さとうを選んだんだ?
そんなことを考えていると気付けば家の前にいた。
今あさひはしおと二人暮らしで、あさひが働いている間しおはずっと家に1人でいる。
あさひが家に帰って二人で食事をしていても、あさひがその日あったことを話してみても、しおが言葉を自分から発することはない。
そんな生活も四年間続けているとそれが当たり前に感じられてきた。
・・・もう昔のようにはいかないのだろうか。
そう思いながらあさひは玄関を開けて家に入り、しおがいる部屋に向かう。
「ただいま、しお・・・」
そこであさひは信じられない光景を目にした。
眠ったしおを抱き抱える少女がいたのだ。
その少女の姿を見て、すぐにあさひはある名前を口に出した。
ピンクの長い髪と大きな瞳、赤いリボンと青いブレザーの制服・・・。
「・・・松坂さとう!?」
有り得ない。あいつはすでに死んだはずだ。
そんなことを考えているとさとうと似た少女はしおを抱き抱え窓から飛び出した。
「待て!」
あさひは少女を裸足のまま追った。
また4年前のようにしおを奪われるわけにはいかない。
だが走ってもなかなか追い付けない。
そうしていると少女はどこかに隠れたのか、姿が見えなくなった。
「あの女・・・どこへ行った?」
バチン
あさひが周囲を見渡していると突然首に衝撃が走った。
「・・・し・・・おぉ」
遠退く意識の中でしおを名前を呼び、そのまま気を失った。
少女は眠ったしおをどこかの倉庫に運んだ。
「やっと見つけたよ・・・しおちゃん」
少女はしおの頭を優しく撫でてみた。
さらさらの髪の毛。
ずっと触っていたい。
いとおしそうにしおを見つめて、やさしく抱き締める。
「やっと私は、あなたに・・・あなたは帰ってくる。私の元に。」
「・・・つっ」
まだ少し痛みがある首をさすりながらあさひは目を覚ました。
周りが明るくなっているのをみて
一晩中ここでのびていたことに気付いた。
あの少女・・・さとうはとっくにどこか遠くへ逃げてしまっただろう。
四年前と違って今回はしおが連れていかれるその瞬間を目撃していたのに、何もできなかった。
「・・・何やってんだ俺はッ!」
そう思うともうイライラした気持ちを押さえられなくなって近くにあった電柱を殴りはじめた。
イライラが押さえられないのは今回がはじめてではない。
この四年間、しおとうまくいかないことによるストレスなのか、また別のことが原因なのかはわからないがこうしてものにあたることでしかイライラを押さえられなくなってしまっていた。
そしてその度にあさひは自分の姿を父に重ねる。
かつて自分と母さんを暴力に晒した男、それを見て見ぬふりをした大人達。
そんな大人にもうすぐあさひはなろうとしている。
これまで子供として、醜く汚いと思っていた大人に自分がなろうとしている。
それもイライラの原因かもしれない。
灰色だった電柱が真っ赤になったころには頭も冷えてきた。
息を切らしながら、今自分がするべきはもう一度しおを連れ戻すことであると自分に言い聞かせる。
なぜあのとき死んだはずのさとうが現れたのか、そもそもあれはさとう本人なのかもわからない。
だが、そんなことをじっと考えていても仕方ない。
何かをしないと何も起こらない。
「もう一度連れ戻すんだ・・・しおを!」
あさひはしおを取り返すことを決意したその足であるメイド喫茶に向かっていた。
さとうに関する情報を少しでも集めるためである。
しばらく記憶を頼りに歩いているとようやくそれは見えてきた。
喫茶店の名前は「キュアアキュート」。
かつてさとうが働いていたメイド喫茶だ。
時計をみると時間は12時前、もう開店しているはずだ。
こうした店に入るのは初めてなので少しドキドキするし客ではないので入るのに少しためらいはあるが、入ってみないことには始まらない。
入り口を開けてみるとあさひの前に二人、くま耳の女の子が出迎えに現れる。
「おかえりなさいませ~ご主人様!」
「あ、すいません・・・おれ・・・僕は客じゃないんです。ここのバイトリーダーの方に用事があって。」
「?リーダーですか~?彼氏さん?」
まさか。あさひは首を横に振る。
彼氏かと訪ねた方の子の頭を軽く叩いてもう1人が「ちょっとまってくださいね」といい奥のスタッフルームに捌けていった。
しばらくすると奥から1人のメイド服姿の若い女の人が出てきた。
あさひの前にたって銀髪の頭を軽く下げる。
「はい・・・ここのバイトリーダーの但馬みとりです。」
「あ、お忙しい中すみません。僕は・・・」
「あ、君どっかで見たことあると思ったら三星くんが助けた子だよね?」
「そうですけど・・・どうして知ってるんですか?」
「あぁ、あのときは君気絶してたっけ?我はバイトリーダー。後輩や後輩に関係することはしっかり覚えとかないとね。今は三星くんやめちゃったけど。」
「・・・なるほど。すごい記憶力ですね。」
「いや~そんなことないよ~・・・君こそ会ったことないのにどうして私のこと知ってたの?」
あさひは四年前にここのバイトだった三星太陽に会っていた。
太陽は一度しおからあさひを遠ざけるために嘘の情報を流したが、それはあさひにばれて、太陽はさとうの住所を探るようあさひから命令されたのである。
そのときに太陽は「話の通じやすい先輩がいる。」としてみとりをあさひに紹介していたのだ。だが住所を探れということは履歴書を盗めと言ったに等しい。
そんなことを太陽に命令してその中でみとりを知ったなど言えるわけがない。
「三星くんから聞きました。」と適当にごまかし、さっそく本題に移った。
さとうに似た女のことを聞かないといけない。
「さとうに似た女の子ね・・・知ってる。私の後輩ちゃんも見たっていってるよ。」
「但馬さんのまわりにも現れたんですか?」
「うん・・・しかしさとうとおんなじようにしおちゃんを誘拐するなんてほんとにほんとにさとう本人なんじゃないかって気がするね」
しおのことは4年前、ディアホメーズ放火事件の際にマスコミに取り上げられていて、さとうがしおを誘拐したことも女子高校生が当時8才の幼い少女を誘拐した極めて珍しい誘拐事件として一時期有名になってしまっていたのである。
「・・・あの」
「なに?」
「あいつ・・・松坂さとうってここじゃどんなバイトでしたか?」
そんなあさひの質問にみとりはわざとらしくうーんと唇に指を添えて考え込み、やがてまとまったのか口を開いた。
「まぁ、できるバイトって感じかなぁ。なんか夢があるって言っててね?
モチベーションも高くて自分の仕事は器用にこなして、仕事がうまくない後輩のフォローもさらっとしてて・・・。
あの子が今もいたらバイトリーダーはあの子に任せてたかもね。」
「・・・夢、ですか」
「うん、夢。今となってはしおちゃんに関することだったんだろうと思うけど。
しおちゃんがいなくなった4月の終わり辺りから、それまで他の子と同じくらいのシフトいれてたのが急にシフトそれまでの倍以上詰めるようになって。」
「・・・しおのためだったんですかね」
「さとうがなんでしおちゃん誘拐したのかはしらないけど、しおちゃんを監禁?
するなら面倒も見ないといけないしそのためのお金がほしかったんじゃない?
元々おばさんと二人暮らしだから生活費を稼ぎたいって言ってこの仕事を始めたんだけどねあの子。」
「え、松坂さとうの親は?」
「・・・あ、知らないよね。さとうの両親はあの子が幼い頃亡くなってるの、事故で。」
「親がいなかったから叔母のところに・・・」
「そうそう。まさかその叔母さんがあんな事件起こすなんてね・・・正直今でも思うんだよね。
さとうってずっとなんか1人で抱え込んでる感じがしてて、もしあのとき私がなんかしてあげてたらあの子助けられたんじゃないかなって・・・」
その言葉にあさひはさとうのしてきたことが頭をよぎりつつも、
「あなたがそこまで深く考える必要はないですよ。」とフォローをしておいた。
「・・・ありがとう。さて、わたしはそろそろいかなきゃ」
立ち上がったみとりに「今日はお忙しい中ありがとうございました」とあさひは頭を下げる。
「いいっていいって。で、これからどうするの?警察に通報?」
「・・・警察はあてにならないのでできるだけ自分で調べようかなと。」
「一応相談くらいはしてもいいと思うけどな~・・・ま、なんか会ったらお姉さんに相談してくれ。」
軽くウインクをしてみとりは部屋を出る。
「・・・優しい大人もいるんだよな。」
あさひはキュアアキュートを出た。
あさひはキュアアキュートを出た後一旦自宅に帰りしおの捜索ビラを作ることにした。
ビラを作るのはこれで2度目で、4年前に作ったときは家にパソコンはなかったので、手書きで汚いものになってしまっていたが今は家に中古のパソコンがあるから
簡単に作ることができた。
印刷機は無いのでコンビニで刷らないといけないのはかわりないのだが。
ある程度の数が必要なのでしばらくコンビニの機械を独占しないといけないし、まわりからの白い目に耐えないといけない。
4年ぶりにやってみると久しぶりにくるものがあったが、今はそんなことを気にしてる場合ではない。
あまり長時間独占するのもよくないのでとりあえず20枚ほど刷って店を出る。
そのときあさひはゆっくりまわりを確認する。
4年前にビラを抱えてまわりを見ずに飛び出してチンピラにぶつかってリンチされた苦い思い出があるのである。
しおを見つけることにだけ集中したいし、余計なトラブルは避けるに越したことはないだろう。
駅や学校、ショッピングセンターなどたくさん人の目に止まる場所を選んでビラを貼っていく。
そうして街をまわっているとある公園についた。
あさひはこの公園が、4年前にチンピラにリンチされた場所であることに気がついた。
そのとき助けられたのが太陽との出会いで、リンチをされたのは苦い思い出だが
ここでリンチされていたからこそ太陽やさとうと接触できたのもまた事実。
ここなら、なにかヒントを得られるような気がする。
あさひはとりあえず公園をまわってみることにした。
目線だけ動かして歩いて、公園を一週し終えようとしていた時ゴンッと鈍い音がして背中が痛んだ。
後ろを振り替えると足元に石が転がっていて、少し離れたところにに二人のサングラスをつけた男が見えた。
「今投げた石、あいつの臭いがする。ここにいるんだ。」
「ああ、やっぱ俺ら鼻と耳はよく効くわぁ。」
なんの話をしているのかはよくわからなかったが男たちの顔には見覚えがあった。
あの時この公園で自分をリンチしたチンピラ、レンとかいだ。
「お前らか・・・何の用だ?もう服汚した分は十分殴られたはずだがな。」
「用?あぁ・・・」
レンとかいがサングラスを外すと、そこにはあるべきものがなかった。
「っ!?お前ら・・・目は・・・?」
目のなくなった瞼に手をやりレンが口を開ける。
「お前殴り終えたあとまだムシャクシャして公園歩いてたんだけどよ。
そしたらお前の妹見つけてさ。」
「あの時公園にしおが?」
「まぁ聞けよ」
かいがあさひの言葉を遮り続ける。
「しおだったっけ?そいつ使えばまたお前ボコれると思ってさぁ。
そしたらフード被った女が出てきて、何したと思う?」
二人の脳裏であの夜の出来事が再生される。
二人が色のついた世界を見ることができた最後の夜のこと。
意識がもうろうとした二人の眼球は近づいてくる刃物を映し出して・・・。
「俺らの目をくりぬきやがったんだよぉ!あれからなんも見えなくなっちまって、そのはずなのになんかあの時、目がくりぬかれた時のことだけはきれーに頭に流れるんだ!
それからはずっと俺達は真っ暗な世界で、だれかが目の見えない俺達に近づいてきて殺されるんじゃないかって震えながら生きてきた・・・いまにも頭おかしくなりそうだよ。」
あさひはこの二人が目をくりぬかれたことやその犯人がさとうであると新聞を通して知っていた。
さとうがしおを守るためにそんなことをしていたのは意外だったが。
「・・・知ってるよ。同情はするが俺には関係ない。」
「いいや関係あるね。
そもそもお前が俺らにぶつからなければ俺達はあの松坂さとうに目をつけられることもなかったんだ。
でももうあの女はいない・・・代わりにお前が責任とれよ。」
かい達はナイフを取り出し、あさひに飛びかかった。
今はこいつらにかまっている暇はない。
あさひは走り出した。
「逃げても無駄だぜ!」
レンがあさひに追い付いて腕をつかむ。
「なんでお前ら目が見えないのに俺のいる場所がわかる?」
「目が使えないからなぁ、気付いたら鼻と耳がすっげえ聞くようになったわけ。」
レンはあさひの腕にナイフを突き刺す。
「・・・っ!」
あさひは痛みをこらえてナイフを腕から引き抜き、持っていたバットでレンの鼻を殴り付ける。
「ぐはっ!」
臭いを嗅がせないようにして、レンに自分の場所がわかる情報を与えないようにしたのだ。
「次はもう一人を・・・」
そう思ってあさひが振り替えると、かいが物凄い勢いでナイフをもって突進してきた。
ナイフはあさひがバットを持っている方の腕に突き刺さり、痛みであさひはバットを離してしまう。
「しまった・・・」
かいはあさひがおとしたバットをつかむ。
「バットにナイフ・・・これで無敵だなぁ?」
武器を失ったあさひは逃げようとするが痛みのせいでうまく走れない。
そんなあさひの足をかいはバットで殴り付け、あさひは倒れてしまう。
かいがあさひを押さえつけ、レンもナイフをもって近づいてくる。
「なにする気だ・・・?」
かいはあさひの瞳に包丁を近づける。
あさひの大きな瞳に映る刃は大きくなっていく。
「おい・・・やめろ!」
「大人しくしてろよ。松坂さとうと違って優しくしてやるからさ。」
激痛を覚悟しあさひが目をつむったその時だった。
「どあっ!」
かいとれんが叫んだと思って目を開けてみると二人が吹き飛ばされていた。
きょとんとしているとあさひに手が差しのべられていた。
「大丈夫!?」
その手をつかんで顔をあげてみるとそこにはみとりがいた。
「但馬さん?」
「いや~仕事終わってこの公園通りかかったらあさひくんが襲われてるのが見えてさ。
で、あいつら何?かわいい男の子が好きな変質者?」
「・・・よくわかりませんけど、今説明してる暇はないです。」
かいとレンが二人に向かって迫ってくる。
「だね・・・まずはあいつら大人しくさせないと。」
武器を失ったかいとレンは二人に殴りかかる。
「おらぁっ!」
「甘いわ!」
かいの拳をかるくいなしてみとりはかいをつき飛ばす。
あさひはバットを取り戻し、レンとかいの足を殴り付け、動きを封じた。
「ぐっ・・・」
「ちょっと危ないことしちゃったけど、まぁ刃物持って襲ってくるようなやつだし正当防衛ってことで・・・あとは警察に連絡ね。」
みとりはそう言うとあさひの腕の怪我に気付く。
「ちょ、あさひくんひどい怪我・・・」
「いや、大丈夫ですよ・・・これくらいなら慣れてるから」
「もし慣れてるとしても、慣れてる慣れてないとかそういう問題じゃない!
危ないの!こいつら警察につきだしたら病院行くからね?」
「・・・なんで?」
「え、何が?」
「なんでまだ会って少ししかたってない俺を助けてくれたんですか?」
「そりゃ困ってる人いたら助けるよ。ほっとけないもん。」
「・・・それだけ?」
「うん。」
意外だった。
いつもまわりの大人は誰も助けてくれなかったのに。
この人は他の大人とは違うと思う。
いや、この人だけじゃなくて他にもこんな人はいるのかもしれない。
「・・・やっぱりあなたは変だ。」
「え!?なにが!?そりゃ私友達からいまだに中二病気味とか言われたりするけど!・・・あれ、笑ってる?」
あさひの顔が少し緩んだのをみとりは見逃さなかった。
「笑ってませんよ」
「いやいや笑ったよ。君最初会ったときから笑ってる顔見たことないから心配だったけど。よかった~一安心・・・」
心配・・・か。
意外な言葉に戸惑ってあさひはごまかすようにまわりをキョロキョロしてみる。
すると木の影にピンクの髪が見えた。
「松坂さとう!?」
「え?松坂!?どこどこ!?」
「あっちです!」
あさひは腕の痛みをこらえて走り出した。
「待って!」
みとりもそれに続いた。
暫く走り続けたがどこにもさとうに似た少女の姿はなかった。
「逃がしたか・・・」
「ま、私たちよりもかなり遠くにいたし逃げるのはそんなに難しくないよね・・・とりあえず戻ろう?あいつら見張っとかないと。」
それもそうだ。
あんな危ないやつらを放置するわけにはいかない。
あさひ達はレン達が伸びていた場所に戻ったが、そこにレンとかいの姿はなかった。
「あっちゃあ・・・逃げられたね。」
どこかの古いマンション。
そこにはかいとレンがルームシェアをしている部屋があった。
昨日あさひとみとりがいなくなった一瞬の隙を狙って二人は逃げ出し、このマンションに帰ってきた。
そのあと二人はシャワーを浴びて体を乾かした後一緒にベッドに入り、時間をかけてゆっくりと、互いの唇を絡めあう。
「「んんっ・・・♥️」」
光のない真っ暗な世界の中で信頼できるのは、家族でも、好きだった女でもなく、同じように目が見えない存在だった。
「お前だけだよ、レン。俺が唯一安心してそばにいられるのは。」
「俺だってそうだ・・・お前がいてくれるから俺は、怖いものばかりのこの世界でも安心して歩いていられる。」
「・・・お前の固い体を抱いてる時、俺スッゴク安心するんだよ。
守られてるような感じがしてさぁ。」
「俺だってそうさ・・・外ではこんなことできないから。家の中だからこうしてお前の体を誰にも邪魔されずに抱き締めて、雑音がないこの静かな部屋の中でお前の声をゆっくり聞いて、お前のいい匂いを嗅いで、かいと一緒にいることを実感できるんだ。」
そのままかいとレンは互いを抱き締めたまま眠りについた。
そんな二人の部屋を見つめる影があった。
さとうに似た少女だ。
ピンク色の髪の毛をいじりながら少女は呟く。
「私も・・・あんなことをしてみたかったなぁ。
なんかそう思うと羨ましくて羨ましくてたまらなくなってきた・・・。」
少女はかいとレンの部屋に向かっていく。
「いいよね、別に。二人くらい。」
少女は玄関のドアに細工をして鍵を開け、二人のいる部屋に入った。
玄関から誰か入ってくる音に気付いてかいとレンは目を覚ます。
「誰だ、お前?知らない臭いだな。」
「あーそっか、見えないんでしたよね。
あなたたちはこの姿を見たらびっくりするだろうけど。
臭いと声だけじゃわかるわけありませんよね、私のことは。まぁいいや、私はあなた達の体に興味があってきたんですよ。」
「体?やりたいってか?」
「えぇ・・・やりたいんです。まずは瞼から。」
「お大事に。」
昨日の傷の治療を終え、あさひとみとりは病院を出た。
「しかし昨日は驚いたなぁ。さとうに似た女の子、後輩から話でしか聞いてなかったけど実物見ると80%本物のさとうだったわ。」
「ほんとそっくりですよね・・・でも、80%って?どこか違うところがあるんですか?」
「ん?なんとなくなんだけど、さとうにしては少し小さかったような・・・遠目だからたぶん気のせいだと思うんだけどね。」
「・・・」
「あれ?あさひくん?」
「・・・あぁ、すいません」
「どうした?なんか考え事してる?」
暫く黙りこむあさひ。
みとりはその間声を出さず、じっとあさひが話し出すのを待つ。
「俺、思うんです。しおを助けようとしたのは本当に正解だったのかなって。
あいつを・・・松坂さとうのことを、これまでずっと友達を平気で殺すような異常な女だと思っていました。
だからしおも殺したいから誘拐したんだって。俺も松坂さとうのことを四年間、その認識のまま知ろうとしなかった。」
「うん」
「でもまたしおが誘拐されて、あいつがしおの生活費のために必死に働いてたこととか、しおが外に出て一人になってあのチンピラから体をはって守ったこととか聞いてたら、あいつが羨ましくなってきて。」
「というと?」
「・・・俺はしおのために何もできなかった。ただしおと一緒にいたいと祈りながら暴力に耐え続けるしかなかった。
でもあいつは、しおを守るために自分から動いていた、戦っていた・・・。
そう思ってたらしおを助けたつもりでいたのは俺がそう考えていただけで、しおにとっては松坂さとうと一緒にいた方が幸せだったのかもしれない。
しおを笑顔でいられる場所から引きずりだしただけなんじゃないかなって」
「・・・なるほどね。しおちゃんに余計なお節介しちゃったかもって、悩んでるんだ?」
「簡単に言うと、そんな感じですね。」
「うーん、あさひくんはしおちゃんが幸せってさとうが死ぬ前にわかってたら、助けないでいた?」
「え?」
意外な質問だった。
「どうかな?」
「・・・それでも助けたいって気持ちは変わらなかったと思います。
いや、俺がしおと一緒にいたかっただけなんです。
松坂さとうと同じ、俺の自分勝手です。」
「それだよ」
「え?」
「あさひくんはしおちゃんと一緒にいたいってわがままを言ったんだ。
でも、それでいいんだよ。人間なんてみんな自分のわがままで生きてるんだ。
だから君が自分のわがままを我慢する必要なんてない・・・まぁ人に迷惑かけない範囲だけどさ、私の言うわがままって。」
「わがままですか?」
「そう、わがまま。大切な人といたいなんて当たり前じゃない?
しおちゃんを助けたいってわがままは大切にしていい、何も負い目を感じることはないんだよ。」
「でもしおはわかってくれますかね?
俺・・・最近感情押さえられなくてものに当たること多くなって。
そうしてるといつかしおにも手を出してしまうんじゃないかって。」
「そりゃわかんないね~。
でもそんな簡単に通じるものじゃないよ?わがままって。
時間かけてぶつかっていくしかないんじゃないかなぁ?
人間だし感情抑えられないこともあるかもしれないけどそれを怖がってばかりじゃ動けないしね。」
「・・・ありがとうございます。ちょっと気持ち楽になりました。」
「ならよかったよ。」
「じゃ、行ってきます。」
「どこに?」
「もう一人、松坂さとうについて話を聞きたいやつがいるんです。」
関東拘置所。
死刑が確定した犯罪者が収容されている場所である。
警察官が厳重に警備している重苦しい施設内を渡り、面会の手続きをに向かうあさひとみとり。
やがて手続きは終わり、面会室に通された。
カメラやレコーダーが複数設置され、アクリルボードで向こう側は遮られている。
「面会時間は10分です」
向こう側にいる警察官がそう告げると、警察官の近くにある扉が開いた。
そこから一人の女性が出てきた。
髪は所々跳ねていてバラバラにきられていて、顔には包帯が複数巻かれている。
それを見てあさひは傷だらけだった昔の自分を思い出していた。
席につくと、女は口を開いた。
「どうもー、私はさとうちゃんの叔母ちゃんです!あなた、しおちゃんのお兄さんよね?」
「なんで知ってる?」
「さとうちゃんからあなたの写真を見せてもらってたのよ。可愛い顔してるなーっておもってぇ、一度あいたいなーって。」
元気よくしゃべっているが、この女こそディアホメーズに放火した犯人なのである。
「お前、自分の立場わかってるか?よくそんな呑気に喋ってられるな。」
みとりも言いたいことはあるが、貴重な面会時間が惜しいのであさひに任せて自分は黙って様子を見ていた。
「・・・あぁ、そうだ、おめでとう。
しおちゃんを取り戻せたのよね?しおちゃん元気ぃ?」
「そんな挨拶いいから俺の質問に答えろ。しおが松坂さとうに似た女に誘拐されたんだ。お前なにか知らないか?」
「えぇー!?さとうちゃん!?」
「本人かはわからないし、あり得ないとは思うけど・・・」
「う~ん、私にはわからないわねぇ~・・・でももうあの子は葬式を終えてしまったものね。
さとうちゃんのおばけかもねぇ~?」
あさひは時間の無駄だったと思い始めていた。
そんなあさひを見て叔母は微笑む。
「時間の無駄なんて思わないで」
「なんでわかる?」
「うーん、そんな顔してたから?せっかく来てくれたんだから話せることは話してあげるわ。
時間はまだあるよ?なにかない?」
せっかくなのであさひはさとうについて聞いてみることにした。
「お前、なんでマンションに火をつけた?松坂さとうに頼まれたのか?」
「えぇ、そうよ。あの子はしおちゃんのために人を殺した。
さとうちゃんは自分で自分の責任とれない子供なの。
だから私にはあの子の責任を取ってあげないといけなかったの。」
「親・・・じゃないけど、あいつの保護者だったんだろ?
責任とるっていうなら警察に通報すればよかったんじゃないのか?」
「それはダメよ。愛に飢えていたあの子が、やっと愛を見つけたのだから。
あの子がそれを守ろうとするなら私は手伝わなきゃ。私はあの子を愛しているのだから。
裏切ることはできない。」
「愛に飢えてる?」
「そう。飢えていたの。
たくさんの男の人と出会っても満たされなかった。
でもしおちゃんは違った。
空っぽだったあの子を唯一満たした存在。
さとうちゃんを愛していた人はたくさんいたけどさとうちゃんが愛することができた子は一人だけ。
本当にたくさんいたのよ?さとうちゃんが好きでたまらなくて、ずっとさとうちゃんをつけ回す先生がいたり、何でもさとうちゃんの真似をする後輩の女の子もいたりしたわ・・・。
今あの人たちはさとうちゃんがいなくなってとても悲しいでしょうね。」
「・・・何でも真似する後輩って、すーちゃんのこと?」
それまで黙っていたみとりが口を開いた。
「但馬さん知ってるんですか?」
「うん、宮崎すみれちゃん。
あんまり仕事できない子でね、さとうがいつもフォローしてた。
それで好きになったみたいなんだけど・・・すーちゃんがいきなりバイトやめるってきったときあの子のロッカー開けてビックリしたよ。
中身がさとうのロッカーと全く同じなんだもん。」
「・・・お前は悲しくないのか?家族が死んだんだぞ?」
「それはもちろん悲しいよ?でもいいの。なくなった愛は詰め替えればいいじゃない。」
その言葉をあさひとみとりは最後まで理解できないまま二人は拘置所を後にし、叔母は笑顔でそれを見送った。
[
拘置所を出たときには昼の2時になっていた。
「お疲れ・・・あさひくん」
「・・・但馬さんも」
「叔母と二人暮らしとは聞いてたけど、なんかやばそうというか、なんと言うか・・・ん?」
みとりはあさひがずっとしたを向いていることに気がつく。
「どうした?」
「いや、少し考えてて」
あさひはこれまでのことを整理していた。
しおを誘拐したあの女を追っていく中でこれまで知る由もなかったさとうのことをたくさん知ることになった。
さとうはしおに危害を加えるために監禁していたのではなく、むしろ愛していたということ。
愛するしおを、あらゆる手を使って守ってきたこと。
そして、さとうを悪魔のような女だと思っていたが、そんなさとうを愛しているものがたくさんいたこと。
好きで付きまとうというのはまだ理解できる。好きな人が心配でずっと見守りたい、そんな気持ちが爆発することもあるだろう。
「・・・俺もあのとき、しおのそばにいてやれていたら。」
今さらそんなことを考えても仕方ないが。
しかし、好きでその人の真似をするというのはあさひにはよくわからなかった。
ロッカーの中身をさとうとほぼ完全に同じにしていたというのだからますますわからない。
・・・真似?
さとうと同じ髪の色、同じ目の色、同じ制服、さとうと同じようにしおを誘拐した・・・。
「みとりさん。俺、しおを誘拐した犯人がわかったかもしれません。」
「え?」
「そいつは多分・・・ディアホメーズの跡地にいる。」
「なんでわかるの?」
「真似ですよ。松坂さとうと姿が同じなのも、しおを誘拐したのも全部」
みとりのなかで点と点がすべて繋がって、ある人物の名前がはっきりと浮かぶ。
「嘘、まさか。」
「そのまさかですよ。犯人は・・・」
「「宮崎すみれ」」
ディアホメーズ。
さとうの叔母に火を放たれてからは修復もされず廃墟になっていた。
その奥にしおとすみれはいた。
部屋には血のべっとりついたノコギリやドリルなどが散乱している。
すみれは二人の男の遺体の解体をしてい
て、ちょうど腕を切断し終えたところだった。
顔に飛び散った血を拭ってふぅと一息つく。
「思ったより大変だなぁ。さとう先輩こんなこともしてたんだ。」
その様子を見つめていたしおがすみれに声をかける。
「それもさとちゃんの真似?」
「そうだよ。さとう先輩がしてたことは全部真似しなきゃね。」
バン!
すみれ達のいる部屋のドアを開けてあさひとみとりはすみれと対峙する。
「しお!」
「しおちゃん!」
「あぁ、お久しぶりです。みとり先輩。」
「・・・やっぱりすーちゃんなのね?」
「もうすみれなんて名前は必要ありません。
わたしの名前は松坂さとうですよ?」
「は?」
「大好きだったさとう先輩はもういないんです。
あの日死んでしまったから。それをわたしはテレビで見ることしかできなかった・・・受け入れられなかった!
それからは世界が真っ白になりました。
さとう先輩がいない世界なんてなにもないのと同じだから。
エイラーバラの神に救いを求めたこともあったけど、それでも何も変わらなくて・・・。」
すみれは備え付けられたクローゼットからキュアアキュートの制服を取り出して顔に当てて、思い切り息を吸う。
「はぁ・・・♥️そんなとき思ったんです。わたしがさとう先輩として生きていけばいい。
さとう先輩になればいい・・・そうしたらこの世界にさとう先輩は存在しているのと同じだって。
わたしみたいななんの価値もない人間の存在なんて必要ない。
わたしはさとう先輩としてさとう先輩が愛したしおちゃんと生きていくんです。
そうしたらさとう先輩は生き返ったと言える!」
「・・・意味不明だな。」
すみれのめちゃくちゃな理屈に困惑していると、すみれは部屋の奥のベッドに男が二人寝ていることに気がついた。
その顔には見覚えがある。あの二人のチンピラだ。二人の体には違和感があった。
目を凝らしてみるとその違和感の原因がわかった。
「おええっ・・・!」
みとりは生まれてはじめてバラバラになった人間の屍体を見た。
それはとても正視できるものではなかった。
「気付きませんでした?
人間ってあんまりすごい臭いがすると鼻がバカになるらしくて。
まぁわたしは平気ですよ?こんなの。
だってわたしはさとう先輩になるんですからこれくらい平気でないとね」
「そんなくだらないことのためにしおを誘拐したのか?」
あさひは椅子に腰を掛けているしおに目をやる。
「今すぐ帰るぞしお!」
あさひがしおに手を伸ばすがその手をすみれがつかむ。
「またそうやってしおちゃんを連れていくんですか?
あなたといてもしおちゃんは幸せになれないのに。」
「なに?」
「さとう先輩はしおちゃんを守るために無理をしながら働いて、しおちゃんを守るためなら人を殺すこともためらわなかった。でもあなたはどうです?
知ってますよ。あなたはただじっと暴力に耐えていただけでしょう?
しおちゃんを守るためになにもしないでただじっとしてただけ!」
「うるさい」
「なのにあなたが生き残ってさとう先輩は死んだ!
あなたがさとう先輩を殺したんですよぉ!」
「黙れえぇぇっ!」
感情が溢れだしたあさひはバットをすみれに向かって叩きつける。
ゴンと鈍い音がしたがすみれの体に当たったわけではなかった。
ベッドに置いてあった足を持ち上げて盾として使ったのである。
そしてその足から溢れだしたいた血をあさひの顔にぶちまける。
「ぐあっ・・・!」
目に血が染みてうまく前が見えなくなるあさひ。
すみれはそんなあさひの隙を見逃さない。
スタンガンを取り出してあさひの首に当てる。
バチン!
「あさひくん!」
みとりの叫び声がとても小さく聞こえる。
ダメだ。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「おぉ、なかなかしぶといですねぇ。
そこはすごいと思いますよぉ。
でもそれがいつまでもちますかぇ?」
「散々いじめられてきたからなぁ・・・」
「もう無茶だよあさひくん!一旦逃げよう!ねぇ!」
すみれの言う通り、いつまでも持つはずがない。はやく勝負をつけなれば。
「いいこと思い付きましたよ?
いまこの場であなたを殺せばいい。
そうすればさとう先輩の無念は晴らせる・・・わたしはさとう先輩になれる!」
「・・・お前は松坂さとうなのに、さとう先輩さとう先輩って、そればかりなんだな・・・」
「何?」
「本当にお前が松坂さとうなら・・・まずしおのために動くはずだ。
お前は松坂さとうにこだわっている時点で宮崎すみれでしかないんだよ。
いまならわかるよ、あいつのしおを想う気持ちは本物だ。」
「黙れ!知ったような口を利くな!」
冷静さを失ったすみれは近くにあったノコギリを手に取り、あさひに突っ込む。
「うわあぁっーーーーー!」
すみれは勢いに任せてノコギリの刃をあさひに叩きつける。
「今だ!」
自分に向かってくる刃をかわしてカウンターでバットをすみれの腹に直撃させる。
バンッ!
「ぐはぁっ!」
血を吐いてすみれは吹き飛ばされた。
「ぐっ・・・」
あさひはすみれの顔にバットを向ける。
「もう終わりだ。諦めろ宮崎すみれ。」
「なんでわたしが、お前なんかに・・・」
「お前は松坂さとうになることに必死になりすぎてたんだよ。でも俺にはしおを守りたいっていう気持ちがあった。お前にとってのしおは松坂さとうの代わりになるための人形でしかないだろ?
でも俺にとってのしおは・・・この世界に一人だけの妹だ。」
「なんで?」
それまで口を閉ざしていたしおが口を開いた。
「なんでわたしのためにそこまでしてくれるの?わたしは、あなた達の愛を裏切ったんだよ?」
あさひは少し息を吸って口を開く。
「しおがいない世界なんて想像できないよ。
しおと幸せに暮らす、それしか俺にとっての幸せはないし、やっぱりそれしか理解できない。
昔も今も、これからもずっとな。」
「でも、あなたの知ってるしおちゃんは帰ってきませんよ・・・彼女はさとう先輩だけを愛している。
もう貴女にも見向きもしない・・・むしろ、あなたが最愛の人を奪ったこと恨んでるかもしれませんよ?はははっ・・・」
「それでもいいさ。」
「ははは・・・はぁ?」
「例えしおに恨まれたとしても、俺はしおを守るよ。例え悪魔でも、俺はしおを愛しているから。」
「恨まれても・・・愛する・・・?」
「ひとつだけ教えてやる。どんなに真似をしたところでお前は松坂さとうにはなれないよ。お前の中に松坂さとうが生き続けている限りな。」
「ならどうしたらいいんですか!?さとう先輩のいないわたしなんて生きてても仕方ない!」
「お前も自分の人生を生きたらいいさ。松坂さとうの真似じゃない、自分だけのな。
あいつもやり方は間違いだらけだった。
でも間違ってるなりに自分の信じる生き方で最期までしおと生きたんだよ。」
あさひはしおのもとに歩みより、しおに手を伸ばす。
「帰ろう、しお。」
「・・・ありがとう」
しおはあさひの手をとった。
宮崎すみれからしおを取り戻してから2ヶ月。
あさひは20歳の誕生日を迎えた。それはあさひが見にくくて信用できないと恐れていた大人に自分自身がなったことを意味していたが、今の気持ちは少し爽やかなものだった。
自分の心のなかには抑えられない感情もたくさんある。
本当にこれで良かったのかと迷うこともあるし、これからもずっと答えはでないかもしれない。
でもそんな感情と向き合うことを怖れたら、いつまでも前に進めないし、大人になったからといってしおを守りたいという気持ちは絶対嘘にならない。
しおはまだ、あさひと一言も話してくれないけど、それを悲しんだりはしない。
きっといつか、しおが自分の気持ちを理解してくれるはずだから。
また家族みんなで笑っていられる日がやってくるはずだから。
・・・もしこなくても、例え一人ぼっちでも、しおを守り抜いてみせる。
「・・・それまでは、わがままでい続けよう。」
「おーい、あさひくーん!」
「但馬さん!」
あさひはみとりに向かって走り出す。
「訂正、一人ぼっちということはなさそうです。しょうこさん。」
モノローグを終えたあさひの顔には暗い夜の街を照らし出す、朝日のような笑顔があった。
終