やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
もしかすれば入学先を間違えたのではないかと、常日頃から思うことがある。
学校とは、入学してから分かることが多い。学校のホームページやパンフレットなんか見ても、実際見てみるとイメージとは違ったりすることもある。
俺の場合、オープンスクールなんてものに行っていないから、こういうことになってしまっているのだろう。
俺が入学したのは、千葉市立東方学院高等学校。
千葉では海浜総合や総武と並び、ネームバリューのある高校である。総武と悩んだ末、第一希望を選んだのがこの高校だった。
特別深い理由はない。あるとすれば、同じ中学のやつらと同じ入学先に行きたくなかったくらいだ。
俺の中学時代を聞かせてやろうか?おそらく不良すら震える武勇伝を持っている。最悪の場合、その場から逃げ出す始末。何それ最強かよ。
まぁ察して分かる通り、中学では黒歴史やトラウマなるものを数々作り出してきた。比企谷八幡の軌跡とでも言えばいいのかな。
だから、同じ中学のやつらと同じ高校になりたくなかった。もし噂でもされれば、俺の静かな高校生活が終わりを告げる。
別に本当のことだからいいのだが、一々それで絡んでくる奴もいるからな。それが面倒くさい。
と、俺の入学した理由はこれくらいにして、話を戻そう。
入学式から三週間が経った。俺の周りは、少しずつグループを形成しつつある。
俺?俺は拠り所を必要としない孤高の魂の持ち主だから?グループなんて入らないっていうか?ぶっちゃけ入れないっていうか?
要するに一人だということだよ察せ。
周囲が何をしようが周囲の勝手だし、グループ作ろうがなんだろうが俺には関係ない。だが、その周囲に問題がある。
ここ東方学院は、全校生徒の8割が女子という偏った高校である。まぁ、そういった高校も無いわけではない。普通にあり得るものでもある。
しかし、しかしだ。
俺以外、全員女子は何かおかしくね?
俺は別にISを操れるわけじゃないんだぞ?喋らないとはいえ、男子をもう少し俺のクラスに寄越せよ。8割どころか9割じゃない?詐欺じゃない?
肩身狭くて過ごせないんですが。この一年間これで過ごさなきゃならないとか地獄過ぎる。クラス配分もう少し平等にして。
「…はぁ」
大きくため息を吐きながら、自分の自転車の籠に鞄を入れる。周りがこう女子女子してると、精神的疲労が絶えない。
俺は自転車を押しながら歩き始めると、目の前に何かが落ちているのに気づく。
「…でかいキーホルダーだな」
何かのキャラクターのキーホルダーだった。金髪の少女が、メイド姿らしきものを纏っているキーホルダー。
「
すると、女子が大きな声を上げながら、何かを探しているのが見えた。このキーホルダー同様、金髪であり、ヘアバンドのように赤いリボンを着けている女子であった。
上海、と彼女は言っていたが、もしかすればこれのことだったりするのだろうか。
俺はなけなしのコミュ力を使って、彼女に話しかける。
「…おい」
俺が声をかけると、彼女は振り向いた。
「何?私、今ちょっと忙しいの」
「上海ってのは、これか?」
「え?……あっ!こ、これよ!」
俺が人形を彼女に見せると、彼女の様子が一変する。どうやら、当たりのようらしい。
「どこで見つけたの?」
「すぐそこの駐輪場だ。ほれ」
俺は彼女に人形を渡す。彼女は安堵した様子を見せる。
「ありがとう。この人形、朝からずっと探してたから」
「そうか」
俺は人形を渡すと、自転車を押して正門に向かう。
「ねぇ。貴方って、私と同じクラスの人よね?確か……比企谷、だっけ?」
どうやらこの金髪女子は俺と同じクラスだったようだ。だがしかし、俺はクラスのやつなど誰一人把握していない。
「…お前、誰だっけ」
「もう入学して三週間経つんだから、クラスメイトの名前くらい覚えてよ。…私はアリス。アリス・マーガトロイドよ」
マーガトロイドと呼ぶ彼女は、呆れながら自己紹介を済ませた。まさか高校生になって初めて会話する相手が外国人になろうとは。
外国人と会話するだけで、他人に自慢できるという謎の事象はなんなんだろう。
「…
「比企谷……はなんだか呼びにくいから、八幡でいいかしら?」
なん……だと……!?
まさかの女子から名前を呼ばれる日が来るとは。中学の俺なら絶対好きになって告って振られるまである。いや、振られるのかよ。
だが、今の俺に勘違いなどあり得ない。
彼女は比企谷という名前が呼びにくいから、八幡と呼ぶと言った。つまり、何かを企んで八幡と呼んでいるわけではない。
呼びにくいからである。
とはいえ、女子から名前呼びされると、なんか良いな。えへ。
「…どっちでもいいぞ」
「そう。八幡はもう帰るの?」
「まぁそうだな。学校に残る必要もないし」
「部活とかは見に行かないの?今、体験期間だったと思うけど」
「俺は帰宅部に入ってるから。なんなら帰宅部部長まである」
「それ部活じゃないわよ」
そもそも部活行ったところで、「え、なんで来るの?」とか5回目辺りから言われそうだし。
「ということは、これから暇ってことよね?」
これ絶対面倒なパターンのやつ。「暇だよな?」って聞いてくる時は大体面倒なことがある時なのだ。
「部活体験。折角なら一緒に行かない?親交も深めるついでに」
ほーらな。親交を深めるついでに部活体験ってなんだよ。
「いや、俺別に行きたい部活ないし…」
「…ダメなの?」
出たー女子の上目遣い出たー。
なんで女子ってば頼みごとする時に意図して上目遣いをするのかな。男子にされるとイラッとくるだけなのに、女子にされると何故か罪悪感が湧いてくるのはなんでだろう。
この子、実はちょっとあざとい説あるのではないか。
「……はぁ。分かったよ。行けばいいんだろ」
「うふふ、ありがとうっ」
俺は自分の自転車を、先程まで置いていた場所に戻す。
クソっ。全く、なんてずるいんだこの外国人は。一体どこでそんな
自転車置き場に戻した俺は、マーガトロイドと共に校内に入っていく。
「私、家庭科部に入ろうかなって思ってるの」
「家庭科部?」
「えぇ。私、お人形作りやお菓子作りが趣味なの。この上海も、私が作ったのよ」
「ほぉ…」
上海と呼ばれるこの人形、何をモチーフにして作ったのは分からないが、そこそこのクオリティではある。これを作ったとなるなら、確かに家庭科部はうってつけだな。
俺達は軽い雑談を交わしながら、家庭科部の部室へと向かっていると。
「おっ、アリスじゃないか!」
「あら、魔理沙じゃない」
俺達の目の前から、片側だけおさげにして、前に垂らしたウェービーな金髪を見せる女子が現れる。どうやら、マーガトロイドの知り合いのようだ。
「…誰?」
「…ホント、貴方クラスメイトの顔も名前も覚えてないのね。他人に興味なさすぎじゃないかしら?」
マーガトロイドはまたも呆れた表情でそう言う。
ずっと寝たふりして過ごすか、ベストプレイスで過ごすかの二択だったし。
「私は
「お、おう。そうか…」
すると、霧雨は晴れやかな笑顔で、俺に手を伸ばす。
「何これ。カツアゲ?」
「違うって!単純によろしくって握手!ほら、手を出せ!」
最近のJKはよろしくする時に握手をするのかよ。こいつら日本人の皮を被ったアメリカ人だったりすんの?
「お、オーケー」
俺は彼女の手を握り返す。
手ちっちゃ。何これ女子の手ってこんな可愛らしい手してんの?
「それで、魔理沙は何してるの?霊夢と一緒じゃないの?」
「霊夢はいつも通りさっさと神社に帰ったよ。ここにいてもやることないし、帰ってさっさと寝たいってさ」
「…霊夢らしいわね」
霊夢、と呼ばれる人物が誰なのかは分からないが、俺と同じ考えを持っているのは確かだ。
ここにいてもやることない、だからさっさと帰って寝る。
これが帰宅部の定石だ。霊夢とやらは、それを分かっている。友達になれそうだわその子。
「二人は何してるんだ?」
「私達?私達、部活の見学しようかなって家庭科部の部室に向かってる途中よ。八幡にも、付いてきてもらってるの」
「ほーん…。ならさ、私も付いてっていいか?やることなくて暇だったんだ」
「えぇ、勿論構わないわ」
「よーし!なら早速家庭科室に行こうぜっ!」
きりさめがパーティーにくわわった!テテン!
変わらず、俺達は家庭科室に向かった。
道中、霧雨がやたらと絡んでくるのが少ししんどいです。ぐいぐい来るもん。怖いよこの子。
「見えた。家庭科室よ」
よくよく考えたら、ていうかよく考えなくても、家庭科部に入る者はそんなにいないだろう。
家庭科室の扉を開けると、一人の女性が本を読んで座っていたのが見えた。その女性以外、誰一人としていない。
「…あら、どうしたの?」
「あの、家庭科部の体験に来たんですけど…」
「そうなの?でも見ての通り、部室には誰一人いないでしょ。部活なんて言ってるけど、あって無いような部活よここは。それでもいいの?」
「はい。ここでお人形や紅茶、お菓子作りがしたいので」
「…そう。なら喜んで迎えるわ。えーっと、貴女の名前は…?」
家庭科部の顧問が、マーガトロイドに名前を尋ねる。マーガトロイドは自分の名前を答えた。
「アリスさんね。分かったわ。そこの二人も入るの?」
「私達は付き添いなんだ!」
「そう。まぁどうせなら見学していく?折角来てくれた生徒達に、茶菓子一つも出さないなんて悪いから」
「マジかラッキー!八幡も見学するよな?」
茶菓子用意するって言われて余計に帰りづらくなったんだが。流石に断って帰るのは、気が引ける。
「…まぁな。ただで菓子食えるし」
「なら決定ね。アリスさんも作る?」
「はいっ」
そうして、家庭科部の顧問とマーガトロイドはお菓子を作り始めた。その間、霧雨と話すことがなく、ただただ本を読んで時間を潰そうとした。
「なぁなぁ八幡!八幡って普段何してるんだ?」
残念!本を読んで時間潰す作戦失敗!
なんでこの子はこうもコミュ力高いのん?しかもちょっと距離が近いからいい匂いするんだよちくしょう。
「普段は寝てるか本読んでるかゲームしてるかだな」
「外には遊びに行かないのか?誰かと遊んだりしないのか?」
「その誰かがいないから外で遊ばないで家でぐうたらしてんだよ」
「友達いないのか?」
おっと、この子なかなか鋭いことを言ってくれるじゃないか。
まず友達の定義を教えてもらおうじゃないの。…それ友達いないやつのセリフだったわ。
「…別にいなくてもいいけどな。それに、一人でいることも悪くないもんだ。何にも縛られずに自由に過ごせるからな」
「…八幡って、相当ひねくれてるな」
「褒めても何も出ないぞ」
「いや褒めてない」
知ってる。これで褒められてると思ったやつは精神的にやばいやつだ。
「みんな、お待たせ」
すると、マーガトロイドと家庭科部の顧問が、お皿にクッキーを乗せて持ってくる。
「アリスさん、なかなかの手際の良さよ。さっき試食してみたけど、美味しかったわよ」
「アリスが作る菓子って美味いからなーっ!んじゃ、いっただきー!」
霧雨は、すかさずマーガトロイドが持ってきたクッキーを手に取って、口に入れる。クッキー独特の咀嚼音が聞こえてくる。
霧雨に続いて、俺も一枚食べる。
「…うっま」
「だろ?アリスのクッキーはいつ食べても美味しいんだぜ!」
「なんで貴女が自慢げに言うのかしら…。でも、ありがとう。そう言ってくれると、嬉しいわ」
その後、マーガトロイドと顧問の手作りクッキーは、みんなで美味しく頂きました。
軽い雑談を交わしていると、既に夕方の5時になることに気づく。
「もうこんな時間……。今日はみんなありがとう。なんだか楽しい時間を過ごせたわ。アリスさん。家庭科部はアリスさん一人だけだけど、それでもいい?」
「はい。大丈夫です」
「そう。なら明日に、部活届に記入して家庭科室まで来てね。それで入部を認めます」
「分かりました。よろしくお願いします」
マーガトロイドは、顧問に頭を下げる。
「では、今日はありがとうございました」
「えぇ、さようなら。気をつけて帰るのよ」
俺達は家庭科室を後にして、学校の玄関の入り口へと向かった。靴を履き替えながら、マーガトロイドは俺に感謝を伝えてきた。
「今日はありがとね、八幡。上海のこととか色々」
「…別にいい。それに、代わりに美味いクッキー食えたからな。それでチャラってことで」
「相変わらずひねくれてるなー」
「ふふ、そうね。…ねぇ、八幡」
「ん?」
マーガトロイドは靴を履き終えると、こちらに顔を向ける。そして、彼女は微笑みながら。
「これから一年、よろしくね」
その微笑みは、まるで女神の微笑みであった。あまりの美しい微笑みに俺は、言葉を出すのに遅れてしまった。
「…まぁ、よろしく」
こうして、俺と彼女達の高校生活が始まったのであった。
家庭科部の顧問に名前はありません。東方のキャラではございませんので、適当に名付けてやって下さい。