やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。   作:セブンアップ

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彼と彼女達との距離は、少しずつ詰まる。

 私こと比企谷八幡は、博麗達の買い物と封獣の家庭訪問以外は、大体家で引きこもってゲームをしていた。

 

 そしてゴールデンウィーク最終日。生徒会のメンバーで、俺達はふなばしアンデルセン公園へと赴いていた。子ども連れの家族などが多いことで有名な、大きい公園である。

 

「…これ、私が来て大丈夫?周りの人達が不幸に見舞われたりしないかしら」

 

「そんなこと言ってたら、どこにも行けないっての。もうちょっとあんたも楽しみな!ほら、八幡も!」

 

 先輩達の後ろ姿をぼーっと見ていると、小野塚先輩から声がかかる。俺は短く返事し、後から歩いていく。

 

「ふなばしアンデルセン公園……。この景色を見れると思うだけで、疲れが取れそうです」

 

「あたいが選んで良かったですよ。四季様がチョイスしたら、どこに行くことになるか…」

 

「失礼ですね小町。私の判断に誤りがあると言うのですか?」

 

「いや、四季様にゴールデンウィークにどこ行きたいか聞いたら、一発目に潮干狩りって言ったじゃないですか」

 

 なんで潮干狩りなんだよ。ゴールデンウィーク最終日に生徒会メンバー揃って砂浜で潮干狩りとか、どんな絵面だよ。シュール過ぎるわ。

 

「…そりゃ、四季映姫に任せたくなくなるわね」

 

「なっ!何故ですか!?潮干狩り……あれはいいじゃないですか。生徒会の皆で、協力しながら貝を拾う…。絆が深まる、良いイベントでしょう?」

 

「いや、絆を深めるなら体育祭とか文化祭だけで大丈夫だと思うんですよ。誰がゴールデンウィーク最終日に貝拾って絆深めるんですか」

 

「むぅ……」

 

 小野塚先輩の厳しいツッコミに、四季先輩が頬を膨らます。

 え、何あれ可愛い。無意識なのだとするなら、すっげぇ可愛いんですが。

 

「まぁまぁ。とりあえず、歩いて回ろうよ。ここ、ボートにも乗れるらしいよ」

 

 ふなばしアンデルセン公園には、いくつかコースが設けられている。子どもが遊ぶアスレチック主体のコースだったり、ただただこの公園を見回るコースだったり。

 まず俺達向かうのは、南ゲートである。

 

「これは、19世紀のデンマークの民家をイメージした建物です」

 

「流石四季様。博識ですね」

 

 船橋アンデルセン公園には、ところどころにデンマーク要素が詰まった施設が建てられている。ここにいるだけで、デンマークに旅行に来たというお得感がある。

 

 南ゲートを潜った先にあるのは、花壇や噴水が設置している広場である。その先に見える様々な花や、聳え立つ風車が、風情を感じさせてくれる。

 

「綺麗ね…」

 

 鍵山先輩が呟いた。それには俺も同意する。確かに、目の前に広がるこの景色は綺麗だ。

 どうせなら、写真を撮って小町に送ってやろう。

 

「折角ですし、ここでみんなで写真撮りません?生徒会の思い出ってことで」

 

 小野塚先輩がケータイを取り出してそう言った。

 

「…そうですね。こうして集まるのもそうないですし、撮りましょうか」

 

「じゃああたい、撮影してくれる人に頼んできますね」

 

 小野塚先輩は近くに観光客に撮影をお願いする。その観光客は快く承諾してくれ、小野塚先輩が連れてきた。

 

「じゃあ、お願いしまーす」

 

 小野塚先輩はケータイを渡し、噴水の前に立つ。それに続いて、四季先輩、風見先輩、河城先輩、鍵山先輩も並ぶ。

 

「あ、八幡は真ん中な」

 

「いや、別に端でいいんですけど…」

 

「つべこべ言わずに早く来なさい。貴方に拒否する権利はないのです」

 

「裁判官目指す人がその言葉っていいんですかね」

 

「貴方だから大丈夫です」

 

 被告人になった時、裁判官が四季先輩じゃないことを祈ろう。強制的に黙らされて有罪にされてしまう可能性がある。弁解の余地なしかよ。

 

「ほら、早く来なっ!」

 

 小野塚先輩に強引に引っ張られてしまう。

 俺は鍵山先輩、小野塚先輩の間に入れられてしまう。俺の前には、一番背の低い四季先輩が立っている。河城先輩は鍵山先輩の左隣に、風見先輩は小野塚先輩の右隣に立つ。

 

「では撮りますよー。ハイ、チーズ!」

 

 2、3枚くらい撮ってもらい、集合写真は一度、そこで終えた。撮影してくれた観光客にお礼を言って、先程撮った写真を見返す。

 

「…いい写真ね」

 

「そうですね。…良き思い出が出来そうです」

 

「じゃあ、とりあえず回りましょうか。あたい達、まだ南ゲート潜ったばっかですし」

 

「そうですね。では、行きましょうか」

 

 噴水広場から向かうのは、企業花壇のエリア。ここは、企業が出展した多種多様な花々が花壇に植えられているところである。花が好きな風見先輩にとっては、一番楽しめるエリアだろう。

 

「綺麗ね……。ねぇ、八幡。あの花、何か分かるかしら?」

 

 風見先輩が指差した先に咲いていたのは、中心辺りが白く広がっており、その周りには赤紫色に染まっている花々。しかし、俺は花に関しては詳しくないので、風見先輩の尋ねに対して首を横に振った。

 

「あれはインパチェンス。またの名をアフリカホウセンカ。ホウセンカくらいは聞き覚えあるでしょう?」

 

「小学校の頃に花を観察するときに…」

 

「インパチェンスは、アフリカのタンザニアからモザンビークにかけて分布されている花。19世紀にはヨーロッパに紹介され、観賞の対象になったりしたの」

 

 流石は生徒会きっての園芸家、風見先輩。花の知識ならば他の追随を許さない。よっ、生徒会のフラワーマスター。

 

「まだこんなところで楽しみ尽くさないで下さいよ。まだ先はあるんですし」

 

「あらいけない。花となるとどうしてもね」

 

 企業花壇のルートを通り、先程から目立つ場所に聳え立っている風車の前にやって来た。

 

「…本物の風車なんて、初めて見たな」

 

 プロペラ型の風車は何度か見たことあるが、こういうオランダとかにありそうな風車は初めて見た。

 小町に自慢するために、風車を撮り始める。

 

「八幡!」

 

「はい?…って、うぉっ!」

 

 風車を撮っていると、小野塚先輩に強引に引っ張られる。そのまま、右肩に手を回されて引き寄せられる。左腕には、小野塚先輩の二つのメロンが直撃する。

 

「そんじゃ撮るよ」

 

 そう言って、遠慮なく写真を撮った。

 

「あたいとのツーショット。後で送るからね」

 

 小野塚先輩はそう言って離れて、今度は風見先輩と撮り始める。

 あぁ焦った。急に肩とか組んでくるから、俺のこと好きなのかと思っちゃっただろ。

 裏表がはっきりしている人格なだけに、無意識だっていうのがタチ悪い。

 

「後輩くんっ、私達とも撮ろっ!」

 

「あ、はい」

 

 今度は、河城先輩と鍵山先輩との3人で撮ることとなる。河城先輩がケータイを上に掲げて、隣に俺、その隣に鍵山先輩がいるという構図だ。

 そして揃ってから、シャッターボタンを押して、写真を撮る。

 

「ありがと!後輩くんとの写真、そういえばないなって思ってさ」

 

「まぁ会って1ヶ月も経ってないですしね」

 

「後で写真送るから、LINE教えてよ」

 

「別にいいですけど」

 

 俺はいつものように、ケータイを直接預ける。

 

「私がやるの?」

 

「登録方法知らないんで」

 

「そうなんだ…」

 

 河城先輩は素早く操作して、あっという間に登録を終わらせる。

 

「後輩くん、生徒会のグループ入ってなかったっぽいし、ついでに登録しとくね」

 

 引き続き、河城先輩は操作していく。ていうか、生徒会のグループとかあったの?何、俺だけハブられたの?やだそれ泣きそう。

 

「…よし、完了。返すね」

 

 河城先輩からケータイを返してもらい、LINEの友達リストを確認してみた。確かに、河城先輩と生徒会のグループが追加されていた。

 

「…ねぇ」

 

「はい?」

 

 今度は鍵山先輩に声をかけられる。

 

「迷惑じゃなかったら、私も追加していいかしら?」

 

「え?いや、別にいいですけど」

 

 そんな追加されただけで迷惑になることは何一つないし、断る必要がない。

 

「そう。ありがとう」

 

 彼女は単的に礼を言って、ケータイを操作する。少しすると、鍵山先輩のアカウントから追加される。

 グループからアカウントを見つけて追加したのだろう。俺も、彼女に対して追加し返す。追加の方法は知らないが、あちらから追加して来た場合はなんとか出来る。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

 

 四季先輩が先頭を切って、風車のエリアを抜けていく。そのまま歩き進むと、右側には池、左側には草花が咲いており、両方の風景を同時に楽しむことが出来るエリアに到着する。

 水辺には、ボートを貸し出しして漕いでいる客がいる。

 

「楽しそー……あれ、後で私達も出来るんだよね」

 

「…私のせいで沈没しないといいけれど」

 

 この鍵山先輩という人は、どうやらだいぶネガティブ思考である。俺が言えた立場ではないが、何故かネガティブな言葉を発し続ける。

 

「…鍵山雛は、中学の頃に厄神様なんて呼ばれていたらしいですよ」

 

「厄神様って…」

 

 厄神とは、つまるところ災厄を起こす神のことである。四季先輩は、鍵山先輩の話を続けていく。

 

「彼女の周りにいる者は不幸に見舞われる。雛は別に他人が嫌いとかじゃないし、どっちかっていうと交友を深めようと頑張っていました。中学の頃、彼女の周りにいた人達は様々な不幸に遭ってしまったのです。ある時は烏の糞を落とされたり、ある時は水溜りで転んでしまったり」

 

「…でも、それって別に鍵山先輩悪くないんじゃないんですか?」

 

「そう、彼女は何一つ悪くない。しかし、彼女の周りにいた人達は、そうは思わなかったのでしょうね。受験前日に突き指して腹痛起こして熱出して捻挫してって言う、不幸のオンパレードになった人もいましたしね」

 

 それは不幸過ぎる。どこぞの異能を打ち消す最弱さんより不幸じゃねぇか。

 

「…結果的に、鍵山雛は"自分のせいだ"、"私は周りの人を不幸にするんだ"って思い込むようになってしまったのです」

 

 周囲の人間達の悪意が原因で、人一人の人格が歪められてしまったのだ。いつかの封獣の時のように。

 

 周囲が、環境が、世界が間違っていることなんて沢山ある。多数派がいつだって正しいなんてことはない。にも関わらず、世界は多数派の意見が尊重されている。1人が正解を叫んでいても、多数が間違いを叫んでいれば、正解の叫び声は薄れて消える。

 

 まるで、呪い。集団が作り上げた呪いだ。鍵山先輩は悪意により、その呪いをかけられたのだ。つまり、一番の不幸者は他でもない、鍵山先輩本人である。

 

「彼女には、河城にとりや小町がいるから大丈夫でしょうけど。私や風見幽香が生徒会にいる時間は長くない。ですので、もし何かあった場合、彼女を支えてあげてください」

 

「まぁ、なんとか出来る範囲でなら」

 

「…ありがとうございます。貴方が生徒会に来てくれて、良かったです」

 

「…そうですか」

 

 俺にお礼を言われても困る。本当にお礼を言うのならば、俺を生徒会に強制的に入れた稗田先生に言った方がいいだろう。俺は別に、何一つお礼を言われることはしていない。

 

「あら、何の話をしているの?」

 

 鍵山先輩の話をしていたその時、風見先輩が入ってくる。

 

「いえ何も。それより、もうここのエリアはいいのですか?」

 

「2年生達は仲良く歩いているわ。次に向かうエリアはボートハウスらしいわね」

 

「確か、次のエリアではランチが出来る場所があったはずです。少し遅いですが、昼食時間といたしましょう」

 

 もうかれこれ2時間近くは経っており、現在は午後1時半だ。時間が経つのが早いな。

 

「そうだ。八幡には言ってなかったですが、実は私、サンドイッチを作って来たのです」

 

「はぁ……それで?」

 

「八幡の分も作って来たと言っているのです。勿論、小町や風見幽香達の分も作っています」

 

 全然知らんかった。おそらく、生徒会のグループでそういう話になっていたのだろう。

 

「じゃあ、後でお金渡します」

 

「え?いや、別に大丈夫ですよ。私が好きで作って来たのですから、お金はいりません」

 

「俺は養われる気はあっても、施される気はありません」

 

「何が違うの?」

 

 好きで作ってきたのなら尚更のこと、何かを返さなければならない。その意思表示に対して四季先輩は一度、ため息を吐く。

 

「…はぁ。つくづく面倒な人間ですね、貴方は。そういうところが問題なのです」

 

 彼女はそう呆れ呟いたが、何故か笑みを浮かべていた。

 

「こういう時は、会長の顔を立てなさい」

 

 そう告げて、彼女は歩いて行く。ほんの少しだが、小さな身体である彼女の背中が、凛々しく見えた。

 

「四季映姫もああ言ってるんだし、甘えられる時は甘えておくものよ。貴方達と過ごせる時間は、あまり残されていないしね」

 

「……うっす」

 

 風見先輩と俺は、四季先輩の後を追うように歩いて行く。花壇と水辺エリアを通り抜けた後、ボートハウスに到着。

 ここで一旦、昼食時間となる。四季先輩は手に持っていたバスケットを置き、サンドイッチを取り出す。

 

「私がサンドイッチを作ってまいりました。味に関しては小町の保証済みです」

 

「このために今日早起きしてたんですか、四季様。なんだかんだで、一番楽しみにしてたんですね。いつも厳しいけど、そういうとこ可愛いですね」

 

「ふざけたことを言わないで小町。貴女のサンドイッチは抜きにしますよ」

 

「褒めたのに!?」

 

「四季先輩、いただきまーす」

 

「いただきます」

 

 みんながバスケットからサンドイッチを取り出していく。

 

「八幡、早く取りなさい。後は貴方の分よ」

 

「あ、はい。いただきます」

 

 四季先輩からサンドイッチを受け取り、その場に腰掛けて一口。

 

「…うっま」

 

 めちゃくちゃ美味い。おそらく、俺が食べてきた中でダントツの美味さを誇るサンドイッチである。

 

「…そうですか。それは良かったです」

 

「あっ、四季様照れてる。可愛いですね〜……っていったぁ!?」

 

 四季先輩は徐に、漫画の中の閻魔大王が手に持つ笏を取り出し、小野塚先輩の頭を引っ叩く。ていうかどこから出したのその笏。

 

「お黙りなさい小町。それ以上私を揶揄うと、黒だと判断して有罪にしますよ」

 

「理不尽過ぎません!?」

 

 そんな二人のやりとりを見ていた河城先輩、鍵山先輩、風見先輩の3人は微笑む。それに釣られて、俺も笑みを浮かべた。

 

 これが生徒会の当たり前の日常だと、改めて理解した。こういう日常も、たまには悪くない。そう思いながら、サンドイッチを一口、また一口と食べていく。

 

 美味いわ。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 昼食を終えた後、俺達はついにボートを貸し出しすることとなった。一槽あたり3人までらしく、丁度6人いたので2つに分けた。

 結果、俺は河城先輩と鍵山先輩のいるところになった。時間の目安は40分程度。早速ボートを貸し出しして、先程見えた池にボートを浮かべる。

 

「すっごい楽しそう!」

 

「…沈没とか横転しなければいいけど」

 

「今日の天候的に大丈夫だと思いますけどね。つか、沈没しても何も鍵山先輩のせいとはならんでしょ」

 

「だって、私がみんなの不幸を呼び込んでいるから…」

 

 俺とは若干違うようなネガティブ思考。俺も、そこそこネガティブでペシミスティックなところがあると自負しているが。

 

「とりあえず乗ろっか!早く乗らないと、楽しめないよ!」

 

「…そうね」

 

 俺達はボートに乗り込んで、ゆっくりと漕いでいく。漕ぐのは勿論、私比企谷八幡でございます。

 

「しんどくなったらいつでも交代しなよ?」

 

「じゃあ交代してください」

 

「まだ1分も経ってないでしょ…」

 

 ボートを漕ぎながら、太陽の池と呼ばれる水辺を適当に進んでいく。爽やかな風と暖かい陽気がいい感じの眠気を誘ってくる。

 

「なんだか、眠くなっちゃうね…」

 

「絶妙に揺れるから余計にね」

 

 例えるなら、電車の揺れな。疲れた時にあの絶妙な揺れは反則レベル。そのまま終点に着いてしまうルートな。

 ていうか、俺も眠ぃわ。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 40分程度、池をボートで漕ぎ回った。ただただボートに乗って、同じところを回っていただけだが、それでも有意義な時間であったと思う。

 ボートハウスでボートを返却し、次にどこに向かうのかを確認するため、マップを開く。

 

「次は、自然体験のエリアですね。どうやら、樹林地や湿地を活かして作られたエリアのようです」

 

 マップに記された道筋の通りに、俺達は歩いて行く。先程のデンマークを感じさせられる華やかなエリアとは一変し、自然体験エリアは、まるで田舎の道を思わせる風景だった。

 

「一気に変わったねぇ」

 

「でも、私はこういう風景も嫌いじゃないわ。落ち着くわね」

 

 ここには、先程のような華々しい花壇がない。しかし、こういう田舎道のようなところも、風情を感じることが出来ていいのではないだろうか。これぞ、自然体験ということなんだろう。

 

「このままマップに記された道筋通りに行くと、太陽の橋に到着します。そこが、最後のエリアになるそうです」

 

 俺達は自然体験エリアを十分に満喫して、最後のエリアである太陽の橋エリアに到着した。橋の端には、綺麗な花々が飾られている。

 彼女達は、橋の(たもと)の金網に身を乗り出して、周りを眺望する。

 

「いい眺めだねぇ」

 

「すっご。まるで人がゴミのよう…」

 

「やめなさいにとり」

 

 この初音ミク擬きは今何を言おうとした。この人、まさか大佐の血を受け継いでるとかじゃないよな。ラピュタかよ。

 

 俺達は最後のエリアを堪能し、最初のスタート地点である南ゲートへと進んでいった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「楽しかったぁーっ!」

 

「…そうね。私も、楽しかった」

 

 みんなは満足した様子だ。午後の3時過ぎではあるが、だいぶ遊び尽くしたという感じである。

 

「四季様は楽しかったですか?」

 

「…えぇ。有意義な時間でした」

 

「そりゃあ良かったです!」

 

 博麗達ともそうだったのだが、こうやって誰かと遊んだりするのは今までの俺じゃあ中々なかったな。大体はハブられたりするし、ハブられてなくても、勝手に比企谷菌鬼ごっこが始まるし。

 

「八幡はどう?楽しかった?」

 

 風見先輩がそう尋ねてくる。俺が返す言葉は、一つだけ。

 

「…悪くなかったです」

 

 少なくとも、今日の一日は悪くない日であった。もっと言うなら、この人達だから、悪くなかったのかも知れない。

 まぁそんなこと口が裂けても言いたくないけどな。言ったら完全にドン引きだよ。

 

 こうして俺のゴールデンウィーク最終日は、幕を下ろしたのだった。

 

「次は必ず、潮干狩りに……」

 

「まだ言います?」

 

 どんだけ行きたかったんだよ潮干狩り。

 

 


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