やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
ゴールデンウィークも終えて、再び学校生活が始まろうとしていた。後2週間くらい休みがあっても良かったと思うのよ俺は。
「はぁ…」
「朝からなに辛気臭い顔してんのよ」
自分の席でため息を吐いていると、前の席者である博麗が登校してきた。
「この辛気臭い顔はデフォルトだよ」
「そうね。あんた元から妖怪みたいな顔付きしてるし。自覚するのは偉いじゃない」
相変わらず小馬鹿にしやがって。このダメ巫女!ばーかばーか!
「あ?」
「ひぃっ」
暗殺者の眼力再び。俺まだ何も言ってないのに睨まれたんだけど。こいつ勘が鋭過ぎないかね?
「霊夢、八幡!おはようだぜ!」
「おはよう」
霧雨とマーガトロイドが登校して、こちらの席にやってくる。
「今度はうるさいのが来たわね」
「私そんなにうるさくないだろ!なぁ八幡?」
「俺に聞くなよ。知らん」
「なんだよそれ!…あ、そうだ!うちのクラスに、転校生が来るらしいんだぜ!」
転校生とは、また学校らしいお約束展開だ。まぁ関わることはないから、あんまり興味はないが。
「それ、誰が言ってたの?」
「文から聞いたぜ!」
「嘘じゃないの?あいつの作る新聞って大体嘘だらけのゴシップばっかじゃない」
酷い言われようですが、大丈夫ですか文さんとやら。
「いえ、元々空いてる場所に机を置いているあたり、あながち嘘ではないと思うわ」
「じゃあ本当に転校生来るの?私全く興味ないんだけど」
「それは俺も同感だ」
そうして話していると、ホームルーム開始のチャイムが流れる。霧雨とマーガトロイドは自分の席に戻る。教室には、稗田先生が入ってくる。
「おはようございます。ゴールデンウィーク明けで突然ですが、私達のクラスに転校生が来ます。では、入ってきてください」
教室に入ってきた新たなクラスメイトは、どこかで見覚えのある顔だった。銀髪にボブカットで、もみあげあたりから三つ編みで結び、その髪の先には緑のリボンを付けた女の子。
「では、自己紹介を」
「…十六夜咲夜と申します。以後、お見知り置きを」
あ、思い出した。メイド姿をしてたあの時の女の子。まさか転校生があの時のメイドさんって、何この偶然。なんか誰かに運命を操られてそうで怖い。
とりあえず目を合わせるのはやめとこう。面倒なことになりかねない。そう考えた俺は、すぐさま顔を伏せたのだが。
「あら、八幡じゃない。奇遇ね」
空気読めこらメイド。俺目を合わせたくないから顔伏せたのになんで名前呼ぶかな。
「あんた、あの転校生と知り合いなの?」
「知らん。知ってても知らん」
「結局どっちよ」
「十六夜さんに知り合いがいたのでしたら話が早い。比企谷くん、彼女に学校のことを教えてあげてください」
ほら見たことか。やっぱり面倒くさいことになったじゃねぇか。最初から机に伏せておけば良かった。
いや、まだ諦めるのは早い。ここは粘り強くいかなければ。
「いや、俺じゃなくても…」
「いいですね?」
稗田先生の笑みが怖く感じたのは俺だけですかそうですか。何なのあの圧。怖い。
「では、あそこの席に座ってください」
「分かりました」
十六夜は、空いた席に向かって歩き始めた。途中、俺の席の近くで立ち止まり。
「よろしくね、八幡」
とだけ言って、自分の席へと向かって行った。
転校生って基本的にあれだよな。面倒ごとしか持ってこない存在だよな。ソースはアニメとラノベと漫画。
最近の漫画やラノベでは、ある転校生は教室の後ろ側を破壊して入ってくるし、ある転校生は男装をした女の子だったりするし、ある転校生は男性アレルギーって言ってなんか怖いし。
高校生諸君よ。転校生に淡い期待をするべからず、だ。勉強になったな。
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時は昼休み。
「八幡」
俺が席から離れようとすると、十六夜が話しかけてくる。
「校内を案内してくれるかしら。10分間の休憩じゃ行けるところなんて限られてるし」
「私が教えてやるぜ?」
「遠慮しておくわ。私は八幡に頼んでるから」
「…あんた、折角教えてやろうって人間に対しての態度じゃないわね」
「あらごめんなさい。気に障ったのなら謝るわ。それで、教えてくれるのかしら?」
え、何今のミニ修羅場展開。八幡今の付いていけなかったんだけど。
正直、教えるのは面倒だが、稗田先生に何か言われる方が尚更面倒な気がする。ベストプレイスでゆっくりしたかったのだが、仕方がない。
「…分かった。って言っても、入学してまだ1ヶ月で知らんところもあるが……それでもいいか?」
「えぇ、構わないわ」
「そうか。ならさっさと行くぞ。早くゆっくりしたい」
俺は十六夜をを連れて、教室から出て行った。俺はこの時、彼女のことを頭に入れていなかった。
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とりあえず、授業などで使いそうな教室や体育館、食堂など、最低限の場所を教えて回った。
「…粗方教えて回ったからこれでいいだろ」
「えぇ、ありがとう」
すると、そんな時。
「……八幡。誰、その女」
背後から、凍えるような低音の声で俺の名を呼ぶ。この声は、間違いなく彼女である。
振り向くと、そこには。
「…封獣」
封獣のことを完全に忘れていた。今日は珍しく、休み時間に来ないもんだったから、頭に入れていなかった。
彼女は、こちらに対して淀んだ瞳で鋭く睨みつける。
「…お前、誰だよ」
「私?私は十六夜咲夜。八幡のクラスに転校してきたの」
「あっそ。じゃあ単刀直入に言うけど、今後一切、八幡に近づくな」
「?どうしてかしら?何か近づかれると困ることでもあるの?」
「八幡は私のものなんだよ。私以外の他の女が近づいていいわけないだろ」
「私のものって……八幡は誰のものでもないじゃない。あまり束縛はよろしくないわよ、エゴイストさん」
「あぁ?」
仲良くしてっ!…と言いたいところだが、多分これもう無理なやつ。封獣はおそらく、誰に対しても相性が悪い。俺のことになると尚のことだ。
どうしよう、この修羅場。原因が俺なわけなんだけど。
「転校生は大人しく教室にいればいいじゃん。ていうか、なんで八幡と二人で一緒にいるわけ?」
「私は転校生よ?校内のことは知っておかなければ、後々困るでしょう?」
「だったら博麗の巫女や人形使いにでも聞けばいいじゃん。よりにもよってなんで八幡なんだよ」
「八幡とは以前に会っていてね。ナンパされていた私を、颯爽と助けてくれたのよ」
「はぁッ!?ど、どういうこと、八幡!?」
聞き捨てならないといった表情で俺に詰め寄って、しがみつく封獣。
あのメイド余計なことばっかり言ってくれる。事実なのはともかく、今の封獣にそれを言えば間違いなくアウトなのだ。
「お、落ち着けって。確かに助けた……のかどうかは分からんが、ただそれだけだっつの」
「嫌だ!私以外の女に八幡が手を差し伸べるなんて嫌だ!確かに、八幡のそういうところは優しいよ?…でも、私は嫌だ。私以外に、八幡が手を差し伸べるなんて、死んでも嫌だッ!」
封獣は相変わらず支離滅裂なことを叫び始める。過ぎたことをあれこれ言われてしまっても、俺にはどうしようも出来ない。
「…大体、あんなやつ放っておけば良かったのに。八幡が助ける必要なんてないよ」
「お前……」
「どうやら初対面でだいぶ嫌われてしまったわね、私は」
「うっさい。お前もうどっか行けよ。邪魔」
封獣は憎しげな目付きで十六夜を睨みつける。対して十六夜は臆せず、ただ一つ、ため息を吐いた。
「…校内の案内、ありがとう八幡。先に教室に戻ってるわね」
「お、おう……」
十六夜は一人先に、教室へと戻っていった。封獣は変わらず、俺にしがみついたままだ。
「…そろそろ離してくれ。まだ昼飯食ってないんだよ」
「嫌、嫌だから。私以外に優しくしないで」
結局、昼休みが終えるまで封獣は離れなかった。十六夜の登場で、俺に対する束縛や独占欲が激しくなった。
ほら、やっぱり転校生とは面倒な存在なのだ。
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放課後。いつものように、封獣を命蓮寺に連れ帰り、その後再び学校に戻ってきた。すると正門の前には、大きいリムジンが停止している。
金持ちな生徒もいるのだと思い、あまり気に留めなかった。
声をかけられるまでは。
「あら、八幡じゃない」
「え?」
聞き覚えのある声に名を呼ばれ、反射的にそちらに振り返る。そこには、十六夜と、見知らぬ人物達が立っていた。
「帰ったのではないの?」
「生徒会だよ。まぁ生徒会の前に野暮用があったから一時的に外に出ただけだ」
十六夜と話していると、十六夜の周りにいる人達がこちらに注目する。どうやら、見た感じ十六夜の知り合いのようではあるが。
「…咲夜、この人間は知り合いなの?」
「はい。以前にお話しした殿方です」
「あぁ……確か咲夜を下品な男どもから助けたって言う…」
「へぇ〜。いい人じゃないですか」
なんだか知らんが、知らんうちに俺のことが周知されているようだ。すると、日傘を差している少女がこちらに歩いてくる。水色が混じった青髪に、血のように紅い瞳。
ある程度近づくと、こちらを確かめるかのようにじっと見つめてくる。
「…な、何ですかね?」
「……ふうん。貴方のその濁った瞳、天性のものじゃないわね。きっと、過去に苦く辛い体験を幾度となく受けたのでしょうね。でなければ、このように荒んだ目は出来ない」
この人の瞳を見ていると、あの人を連想してしまう。何故か俺に目をつけてきた、この学校長に。
「…貴方、確か比企谷八幡と言ったわね。咲夜から聞いたわ」
「あ、はい」
「うちの従者を助けてくれて礼を言うわ。中々、肝が据わってるのね」
「そこまで大したことしてないんすけど…」
「へぇ……ふうん……」
彼女は引き続き、俺を見つめる。俺を、というより俺の目を。
「…決めたわ。貴方、私の従者になりなさい」
「は?」
従者になる?誰が?俺が?
「実は私ね、他人の運命を見ることが出来るの。例えばあそこにいる仲睦まじい男女は、後1週間で別れるわね。原因は彼女の浮気」
「え、ちょ…」
「あの中年は、近いうちに解雇される。お金を横領した罪でね」
この少女は、次から次へと予言めいたことを放ち始める。これは他人の運命を見るって言うより…。
「未来予知、が得意なんですか?」
「まぁ簡単に言えばそうなるわね。一眼見れば、大体その人間の運命は読めるわ。例えば、誰がいつ、何が原因で死ぬかも、ね」
「嘘だろおい…」
そんな突飛的な話を聞かされても、はいそうなんですか、と簡単に納得することが出来ない。大体それが本当の話なのなら、今頃世界はこの少女に掌握されている。
「…本当よ。信じることは難しいけれど、事実なのよ」
とはいえ、本当の話かも知れない。何故なら、彼女がそういう出鱈目を言うメリットがないからだ。たかだか俺にそれを言ったことで何になるというのだ。加えて、今の十六夜の擁護。これも、嘘をつくメリットがない。
「話を戻すわね。私は一眼見れば、その人間の運命を見ることが出来る。その気になれば、私が介入して運命を操ることもね。…けれど、貴方の運命は分からないの。貴方の運命だけは不確かなのよ。そんなの、今まで見たことがない」
「…つまり、俺の未来が分からない、ということですか?」
「そうなるわね。私にとって、見えない運命なんて初めてのことだから。だから、貴方を従者にしたい。私の側に置くことで、貴方の運命を見定めたい」
俺はあれか。その辺のやつとか、その他大勢の中ですら、特殊になれる逸材なのかよ。俺いつの間にそんな能力持ってたのん?神かよ。
「名を申し遅れたわ。私はレミリア・スカーレット。今日からこの学院に転校することになった3年よ」
背丈だけならば四季先輩や稗田先生と変わらないレベル。年上ってこんな人ばっかりいるのかしら。
「それで、私の従者になってくれるかしら?」
「遠慮します。面倒なんで」
はいクールに断ってやったぜ。誰が知らぬ人間の従者になるかよ。大体、働きたくないっつの。
「……へぇ」
「っ!?」
スカーレット先輩の表情が変わった。先程の和やかな雰囲気ではなく、目先の獲物を捕らえることに執着する狩猟者の表情。
「私に逆らうなんてこと、出来るの?言ったでしょう?私が介入すれば、その人間の運命を操ることも出来るって」
「生憎、偶然も運命も宿命も、俺は信じないんで。他人に自分の運命を決められるなんて、真っ平御免です」
確かに彼女が介入すれば運命は変わるのだろう。しかし、そんなものは本物じゃない。他人の強制的な介入で変わる運命なんざ、その程度の運命だってことだ。酷い偽物だ。
俺の返答に対して気に入らなかったのか、スカーレット先輩は。
「…咲夜。捕らえなさい」
「え」
「分かりました、お嬢様」
素早い動きで十六夜がこちらに向かってくる。これ捕まったらやばいやつや。完全に死ぬやつやこれ。
俺は全速力で校舎の中へと逃げ込む。逃げる先は決めていないが、とりあえず彼女を撒くことが先決だ。
「撒けるとお思いで?」
「げっ」
気付けば、十六夜が背後にぴったり忍んでいた。そして、制服の後ろの襟を掴まれてしまい、敢えなく捕獲されてしまった。
「大丈夫よ。流石に誘拐なんてことはしないわ………多分」
「多分って言うなよ怖いよ」
最後の一言でめっちゃ怖くなったんだけど。え、俺食べられちゃうの?捕食されるの?
俺は十六夜に連れられ、正門へと逆戻りになってしまった。
「ひとときの抵抗は気が済んだかしら?」
「無理ゲーでしょ普通に。気づいたらすぐ後ろにいるとか怖ぇよ」
「ふふ……咲夜は中々スペックが高いからね。万能と言っても過言ではないわ」
「…それで、俺捕まえてどうすんですか。俺従者とか嫌なんですけど」
「あら、お給料は出してあげるから心配はいらないわよ?」
「いや、単純に働きたくないだけなんですが」
「そんな言い訳世の中に通じないわよ?諦めなさい。…咲夜、美鈴。リムジンに乗せなさい」
やっぱりこれ誘拐じゃない?この人ら軽く罪を犯しているんですが、大丈夫なんですか。
「大丈夫よ。何も牢に入れるわけでもないし、拷問をする気もない。ただ、しばらくは家に帰れないと思いなさい」
「や、うち妹がいるんですけど……」
「なら、妹さんに"しばらく友人の家に泊まるから"って伝えなさい」
「俺友達とかいないんですけど……」
「えぇ……」
そんな呆れられても。事実なんだから仕方ないだろ。自分で友達いないって悲しい思いする俺の気持ちにもなってみろ。
「…じゃあ妹に電話なさい」
「俺拘束されてんですが。ていうか、鞄を教室に置きっぱなんですが」
「貴方本当に面倒がかかるわね。咲夜、この人間の鞄を持って来なさい。美鈴、ケータイを取り出して妹に電話をかけなさい」
「分かりました」
十六夜は校舎の中に戻り、美鈴とかいう人は俺のポケットを探ってケータイを取り出す。そのままケータイを弄って、小町に電話をかけた。
え、ちょっと待って。
「パスコードは?」
「指紋が一番濃く付いている場所を見極めれば開けました」
何その神業は。この人本当に人間かよ。
そんな神業に心の中でツッコんでいると、小町の声が聞こえてくる。
『もしもしお兄ちゃん、どしたの?』
「あ、すいません。八幡さんの妹様、ですか?」
『え?は、はい。そうですけど…』
「私、八幡さんの友人の
「こっ…!」
小町に助けを呼びかけようとするが、紅のもう片方の手で強引に口を塞がれる。
小町、頼むから気付いてくれ。そいつは生粋の大嘘つき野郎だということに。
『あ、はい!全然構わないですよ!むしろどんどんお兄ちゃんをお誘いしてやってください!』
小町いいぃぃぃぃッ!!何をあっさり承諾してるんだ小町いいぃぃぃぃッ!!
「あ、そうですか!ありがとうございます!では、失礼します!」
そうして、紅はピッと通話を終えて、ケータイを返してくる。
「妹様の許可はいただきました!」
「よくやったわ、美鈴」
よくやったじゃないよ?何してくれてんの?人の妹に嘘ついて誘拐するとか悪魔かよ。
「お嬢様。八幡の鞄を持って来ました」
「…これで、もう逃げられないけど。まだ抵抗する?」
命の危険性はとりあえずないし、痛めつけるということも無さそうだ。このスカーレット先輩の楽しみのためだけに誘拐されるのは意味分からんけど、これ以上抵抗出来るカードがない。
「…分かった。どこへでも連れて行け」
これ以上は何をしても無駄だ。潔く諦めることも、時には必要なのだ。
「よろしい。では、向かいましょうか。我が館、
俺はリムジンに乗せられ、逃げることが敵わず、スカーレット先輩が住んでいる紅魔館とやらへと出発して行った。
小町よ。お兄ちゃん、小町が悪徳詐欺とかに騙されないか心配になるんだけど。