やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。   作:セブンアップ

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高貴なる彼女は、苦悩していた。

 前回の話を少し振り返ろう。突然、うちのクラスに以前、俺が助けた十六夜咲夜が転校生として現れる。その日の放課後、十六夜咲夜の関係者であるレミリア・スカーレットに目をつけられ、誘拐された。以上。

 

 なんだこのあらすじ。悪い予感しかしないあらすじだな。

 

 そんなあらすじを振り返っていると、目的の地に到着した。

 

「さぁ、降りなさい」

 

 俺はリムジンから降りる。目の前を見ると、スカーレット先輩の瞳のような、紅を基調とした外装の館が聳え立っていた。

 

「あっか…」

 

「これが私の館、紅魔館よ」

 

「名前すげぇな」

 

 外装はほぼ紅色しかない。規模にも驚かされるが、館の名にも驚かされる。どう考えても異世界にありそうな館だこれ。最近出来たにしても、こんな目立つ館が千葉にあるのなら、噂になっていたはずだ。

 

「では、入りましょうか」

 

 スカーレット先輩に連れられ、紅魔館の庭へと入っていく。大きな門に大きな扉。おまけに庭には噴水や花園が備えられている。

 

 ついに館に入ると、外装と同じく、内装の色は紅を統一している。目がチカチカしそうになる。ついでに言うと、中広い。

 

「私は部屋に戻るわ。咲夜、後のことは任せるわ」

 

「分かりました。…では行くわよ、八幡。美鈴はいつものように、門番の仕事よ。眠ったりしたら、叩き潰すから」

 

「えぇ……」

 

 紅は文句を垂れながら、目の前から去っていく。

 

「まずは、服装ね。更衣室に行くわよ」

 

「お、おう……」

 

 これからしばらく、強制的な仕事が始まるのだ。まだ志望すらしてないのに無理矢理連れられて、無理矢理仕事を強いられる。ある意味ブラックだなこれは。

 

 長い廊下を歩かされて、更衣室に連れて行かれる。男性用と女性用の二つの更衣室の扉の前に到着する。

 

「クローゼットには男性用の制服も揃っているから、勝手に調整して着てちょうだい。着替え終わったら、廊下に出て待ってなさい。私も着替えるから」

 

「あ、おう…」

 

 そう告げた十六夜は、女性用の更衣室に入っていく。今周りには誰いないし、頑張って逃げることくらい出来そうだ。

 

「ちなみに言っておくけど、外に出ようとしても無駄だから。至るところに監視カメラが付いているし、問題が発生した瞬間に警報がなるから」

 

 大人しく着替えるとしよう、うん。勝手に逃げるだなんて失礼なこと、誰がするかっての。

 

 俺は男性用の更衣室に入り、制服から執事服に着替え始める。鏡を見てみると、中々に似合わない俺ガイル。

 

「コスプレかよ……」

 

 そう呟きながら廊下に出ると、同じタイミングでメイド姿の十六夜も出てくる。

 

「…似合わないわね」

 

「うるせぇ」

 

「それじゃあ、まずは館内の説明ね。先程の私達が入った玄関がエントランスホールよ。次は、大図書館に向かうわ」

 

「大図書館?この館図書館もあんのかよ」

 

 紅魔館ってスケールでかいな。館の中に図書館まであるとは。書斎、ならまだ分かるが。

 

「じゃあ行くわよ」

 

 十六夜の案内により、俺は大図書館とやらに向かった。どうやら館の地下にあるらしく、階段を降りていく。階段を降りて、また廊下を歩いていくと、入り口らしき扉を発見する。

 

「ここが大図書館。ここには世界中の本が揃っているわ」

 

「嘘だろ…」

 

「本当よ。そして、この大図書館を管理しているのはパチュリー様。レミリアお嬢様の友人よ」

 

 ということは、スカーレット先輩と同じ三年生ってことか。

 あれに友人とかいたのかよ。唯我独尊過ぎて、友達がいないものだと思ってた。

 

「じゃあ開けるわ。決して粗相のないようにね」

 

 十六夜が大図書館の扉を開ける。開けた先に見えたのは、多量の本棚。大学の図書館やそこら辺の図書館すら小さいと思わせるほどの部屋の大きさ。

 

「でけぇ…」

 

「ここが大図書館。あのまま奥に進めば、パチュリー様がいるわ。一応今日からしばらく紅魔館の執事なのだし、挨拶くらいはしておきなさい」

 

「無理矢理なんですけどね。分かってる?そこ」

 

「レミリアお嬢様の申し付けは絶対よ。そろそろ諦めなさい」

 

 命に関わらないからといって、自由を奪われるのは納得いかない。自由が欲しい。

 

「パチュリー様」

 

 十六夜が奥へ進み、パチュリーという名の人物に声をかける。

 

「…何かしら。私、本を読んでいる最中なのだけれど」

 

「本日、紅魔館に新しい執事がやって来たということで、ご紹介をと」

 

「執事?ということは、レミィも認めたということ?」

 

「実際には、レミリアお嬢様が連れてきたと言うところです」

 

「…レミィが人を連れてくるなんて。意外なこともあるものね。…で、その執事とやらは?」

 

「はい。…八幡、こっちに」

 

 俺は本棚と本棚との間を通り、パチュリーという人物がいるところに向かう。段々と、その姿は見えてくる。

 

 長い紫髪の先をリボンでまとめ、紫と薄紫のが入った縦縞(たてじま)が入った、ゆったりとした服を着用している。さらにその上から薄紫の服を着ており、ドアキャップに似た被り物を被っている。

 

「死んだ魚の目みたいだけど。大丈夫なの?この執事」

 

「それは私にも……。ただ、レミリアお嬢様が唯一、運命を見ることが出来ない人間でしたので」

 

「…それで彼を連れてきたのね。大方、その運命を見定めるために従者にしたってところでしょう。……貴方、名前は?」

 

「比企谷八幡です」

 

「私はパチュリー・ノーレッジ。この大図書館を管理している者よ。まぁ貴方の仕事ぶりなんて興味ないから、精々頑張りなさい」

 

 そう言って彼女は、ノーレッジ先輩は目線をまた本に移す。彼女が今読んでいるのは、フランソワ・ラ・ド・ロシュフコーが執筆した本。

 その名は。

 

箴言集(しんげんしゅう)…」

 

「…驚いた。貴方、この本を知ってるの?」

 

「え?あ、はい。…この本は、ロシュフコーの辛辣な人間観察がそのまま浮かび上がる内容ですよね」

 

 彼が執筆した内容は素晴らしいに尽きる。大先輩と言っても、過言ではないだろう。

 

「…意外。貴方、本を読むの?」

 

「まぁ暇な時があれば」

 

「そう…。…ここには、ありとあらゆる本が揃っているわ。貴方も生粋の読者なら、気になる物はあるはずよ。この部屋は開けているから、暇があれば来てもいいわよ」

 

「あ、どうも」

 

 捕らえられている身で暇があればいいんですがね。

 

「では、私どもはこれで失礼します。行くわよ、八幡」

 

 俺達は大図書館を後にして、廊下へと出て行く。

 

「では、次はお嬢様の部屋ね」

 

 長い廊下を歩いていると、暗闇に包まれた階段を発見した。

 

「十六夜。ここは?」

 

「…貴方には関係のないところよ。後、そこ普段から立ち入り禁止だから。決して入らないようにね」

 

 あからさまに、十六夜の様子が少しだけ変わる。人間観察が得意とする俺にはすぐ分かった。こいつは、何か隠している。俺に、他人に見られてはいけない何かがあるのだろう。

 

 とはいえ、隠すということは、何か教えたくないことがあるのだろう。普段から立ち入り禁止らしいし、俺もあまり面倒ごとには突っ込みたくない。気にしない方がいいのだろう。

 

「…分かった。元からそんな興味ねぇし」

 

「話の分かる人で良かったわ」

 

 謎の階段を一旦スルーして、スカーレット先輩の部屋へと赴く。あちらこちらと歩き回り、ついにその部屋へと辿り着いた。部屋に辿り着いた時には、俺は息を切らしていた。

 

「…広くね?この館」

 

「地下もあるから余計にそう感じるだけよ。それじゃあ、入るわよ」

 

 十六夜はドアをノックし、「失礼します」と一言を言ってから入室する。面接か何かかよ。

 

「八幡、早く入りなさい」

 

「あ、悪い」

 

 俺も慌てて部屋に入る。大きいクローゼットにカーテン付きのベッド、煌びやかなシャンデリアなど、一人の部屋にしては豪華すぎる部屋であった。

 スカーレット先輩は、片手にワイングラスを持って玉座に座っていた。中の液体は、異様に赤い。

 

「…咲夜は一度、仕事に戻ってちょうだい。八幡と話したいことがあるから」

 

「分かりました、お嬢様」

 

 十六夜はスカーレット先輩の指示に従い、部屋から退出していった。十六夜が出て行くと、スカーレット先輩が話を切り出す。

 

「さて、今日から私の従者になったわけだけども」

 

「そこまで家事得意なわけじゃないんですけど」

 

「咲夜に教わればそこそこ上達するわよ。大体、私はそんなことのために貴方を連れてきたわけじゃないの。言ったでしょう?貴方の運命を見定めたい。そのために、私の手元に置きたいの」

 

 封獣も校長もそうなんだが、俺の周りに集まる女子ってこうもエゴイストばっかりなんだろうか。

 

「…で、それで俺にどうしろと?」

 

「とりあえず、話が聞きたいわ。もしかすれば、何か見えてくるかも知れないし」

 

「アメリカンジョークなら持ち合わせてないですが」

 

「貴方の話だってこと流れで分からなかった?」

 

 怒られちった。

 といっても、あまり他人に自分の話はしたくないしな。あまりよろしくないことばかりだし。

 

 何か面白い話はないだろうかと、ふと考える素振りをして視線を右に向けると、部屋にある机に、小さなフォトフレームが立てられていた。

 写真には、十六夜に紅に、ノーレッジ先輩、そしてスカーレット先輩が写っていた。隣には、スカーレット先輩に似ている金髪の髪色をした女の子が写っていた。見た感じ、妹っぽく見える。

 

「…先輩に妹とかっていたんですね」

 

 単なる確認。別に何か企んでいたわけでなく、興味本位で聞いただけだった。

 なのに、スカーレット先輩の様子は一変している。この光景、先程の十六夜と同じ状況だ。ということは、聞かれたくない内容なのだろう。

 

「……まぁね」

 

「まぁ家庭の事情は色々あるでしょうし、部外者の俺が首突っ込む筋合いはないですから、あまり聞かないでおきます」

 

「…全てお見通しってこと?」

 

「いや、地下の階段と妹さんがなんらかの関係があるんじゃって勝手に思ってただけです」

 

 地下の階段にスカーレット先輩の妹。そしてこれだけ案内されていたのにも関わらず、妹の姿を見ていない。様子を見た感じ、妹をなんらかの理由で地下に住まわせている、といったところだろうか。

 

「…そうね。従者である以上、貴方にも話す必要があるわ」

 

「や、別に無理して話さなくても…」

 

「いえ、いいの。どのみち、後々知ることになるでしょうし。それが早いか遅いかの話よ」

 

 スカーレット先輩は大きく息を吸って、そして吐く。一度、間を取って、改めて話を始めだして行く。

 

「…私の妹、フランドール・スカーレットっていうの。私と違って、天真爛漫でいい子だと思っていた。()()()までは」

 

「あの時?」

 

「実はフラン、重度の精神的な病気を患っていたの」

 

「えっ…」

 

「気がついたのは私が中学1年生の頃。フランは突然暴れだして、辺り構わず壊し始めたの。咲夜や美鈴がなんとか取り押さえたけど、それでも暴れていた」

 

 重たい話だった。従者という肩書きだけの部外者が、軽く聞いていい話ではなかった。

 スカーレット先輩は、話し続ける。

 

「フランのそれは、突発的に起こるの。一度、パチェ……パチュリーを殺しかけたこともあったの」

 

「マジ、ですか…」

 

「そんな状態のフランを病院に向かわせたら、間違いなく他の人間にまで被害が及んでしまう。だから私は考えた。…大図書館の更にある地下部屋に、フランを閉じ込めてしまおうと」

 

 この後の話は、大体読めた。突然暴れだすスカーレット先輩の妹、フランドールと一緒のテーブルでお茶したり、食事をするわけにはいかない。なら、被害が及んでも大丈夫な地下に幽閉すれば、フランドールは誰も傷つけずに済むし、誰も傷つかずに済む。

 

「でも、私はこれが正しいと思っているわ。間違いだとは思わない」

 

「…そうですか」

 

「…私のこと、嫌悪したかしら?」

 

 妹のため、そして十六夜達のために、そういう手段を取ったのだ。それが最悪の手段である幽閉だったとしても、誰も彼女を責めることなんて出来ない。

 

「…妹のために、十六夜達のためにそうしたのならいいんじゃないんですかね。妹さんは納得してるんでしょ」

 

「…いえ。フラン、暴れた時の記憶だけが曖昧なの。だから自分が周りを壊したことや、パチェを殺しかけたことを覚えてないの。けれど、閉じ込めた当時、フランは小学生。そんなことを言って、パニックになるのが目に見えてる」

 

「ということは、事情を話さずに幽閉したってことですか?」

 

「…今の彼女の歳なら、おそらく自分の症状に気付いているだろうけどね。けれど、なんで私を閉じ込めたって、私を憎んでる。恨んでる。…姉として失格よね。きっとあの時の私は、暴れるフランを危険視していた。だから、暴れだしても大丈夫な地下に幽閉したの。自分の身を優先して、フランをあんな暗闇に閉じ込めて。挙げ句の果てに間違ったことをしていないと、自分を正当化して…」

 

 彼女は酷く後悔しているようだ。妹を地下に幽閉したことを。

 

 おそらく今のフランドールは、精神的に病んでいる。地下に幽閉されて尚、その歪みが大きくなっていることだろう。

 

 話し合いは、不可能に近い。だがこのまま放っておけというのだろうか。他人の家の事情に首を突っ込むなんて傲慢でしかない。だが、妹を持つ兄として、あまり見過ごしたくはない現実なのだ。

 

「…分かりました。じゃあとりあえず、話してみます」

 

「い、いいわよ、そんなことしなくても。これは私達紅魔館の問題。部外者である貴方が動く必要なんてないわ」

 

「…まぁ紅魔館の問題は紅魔館が解決すべきですけどね。けど」

 

 しかし。

 今の俺はただの比企谷八幡じゃない。高校生でありながら、職を持っている今の俺は。

 

「強制的とはいえ、今の俺は紅魔館の執事で、あんたの従者です。従者なら、主人の悩み事ぐらいスパッと解消するんじゃないんですかね。知らんけど」

 

「あっ……」

 

「俺に妹がいるのはさっき知りましたよね。困っている妹のために、兄や姉は動かなきゃならない……。年上の役割って、中々面倒ですよね」

 

 小さい頃の小町が家出したくらいだからな。あの頃は、俺が探しまくって見つかったけれども。年下を持つ者は、色々と大変なのだ。

 

「…まぁそういうことなんで」

 

 俺はそれだけ言い残して、先程の謎の階段へと向かう。

 

 今、俺が動いているのは、頼まれたからではない。単なる自己満足のために動いているのだと思う。余計なお世話だと、言われてしまうかも知れない。

 それでも、妹という存在は、いつだって幸せにならなければならない。そのために、兄や姉がいる。妹を幸せにするのは兄、あるいは姉の義務である。

 

 つまり、小町を幸せにするのは俺である。異論は認めん。

 

 

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