やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
色々あった昨日から夜明けを迎える。俺は、紅魔館から徒歩で学校まで歩いてる途中であった。
今朝、朝食の際にレミリアお嬢様が従者の仕事の件を話していたのだが、どうやら従者の仕事期限は1週間だということを認めてもらえたのだ。とはいえ、言い切ってからはなんだが、やっぱりこのまま家に帰りたくなってきた。
登校は一人で行っても構わないし、休み時間や放課後は何をしても構わないらしい。だが、もし紅魔館に帰って来なければ。
『貴方の人生はこれから一生、私のために尽くしてもらうから』
と、レミリアお嬢様に釘を刺された。あの時のお嬢様の笑顔はめちゃくちゃ怖かったです。ちびりそうだったよ。
「…はぁ…」
ため息を吐きながら歩いていると。
「あっ…」
「ん?」
道中で、小野塚先輩と四季先輩と
俺は昨日のやり取りを思い出す。嘘をついたがために、四季先輩を怒らせてしまったことを。謝るのなら、今だろう。
「…四季先輩」
「…なんですか?」
「昨日のことなんですけど……」
「謝らなくて結構です。行きますよ、小町」
「ちょ、四季様!…悪いね、八幡」
四季先輩は、俺に謝罪すらさせてもらえず、その場から去って学校へと向かった。小野塚先輩も、四季先輩の後を追っていく。
「はぁ……」
「あら、八幡じゃない」
再びため息を吐くと、後ろから俺を呼ぶ女性が現れた。そちらに顔を向けると、風見先輩が声をかけたのが分かった。
「…風見先輩」
「清々しいほど突き放されたわね」
「…嘘をついたのは俺ですから。やっぱり怒られても仕方がないですよ」
「でも、別に
「…まぁ、そうですね。言い訳してるようであれですけど…」
「…よかったら聞かせてくれない?昨日、なんで生徒会に来なかったのか」
ここで嘘をつけば、また軋轢を生むこと必至。俺は、昨日の放課後からの話を、学校に向かいながら話した。
風見先輩は疑いもせず笑いもせず、ただただ話を聞いてくれた。
「転校生の分際でなかなか面白いことをするわね」
「…信じるんですか?」
「夜になっても電話に出ないって四季映姫が焦っていたしね。ケータイを使えないほどの急用なんじゃないかとは思っていたけど、まさか拉致されていたとはね」
「…まぁ、漫画と小説の中だけの話だと思っていたので」
「それで嘘をついた、と…。分からない話ではないわね」
そう。昨日の件は、リアルなんかではあり得ない話だ。その話を理由にしても、信じてくれるとは限らない。むしろ、小町が熱を出した方がまだ信用される。
「…それで、今日は生徒会に来るの?小町から聞いた話、生徒会に来るなって言われたんでしょう?」
「謝ります。言わなきゃ伝わらない。言わなくても伝わるなんてのは幻想でしかない。勝手に理解してくれるなんてのは傲慢な考えです。…しっかりと話します。それでも無理だったら……」
「無理だったら?」
「…生徒会をやめたいと思います」
四季先輩からすれば、俺みたいなやつは邪魔でしかないはずだ。そもそも感想文のミスで生徒会に入ったわけだし、元からやる気はなかった。そんなやる気のない人物を置いておくわけがない。
「……そう。貴方がそうしたいのなら、私は止めないわ。元から生徒会に入りたくて入ったわけじゃないし、別にいいと思うわよ。…ただまぁ、私としてはね」
「……?」
「…貴方には、生徒会をやめて欲しくないの」
「え……」
彼女はそう言って、先に歩いていく。彼女の言葉の本当の意味を知るのは、放課後であった。
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「四季様、なんであんな態度取っちゃってるんですか?八幡、さっきなんか言いかけたのに…」
「彼とはもう話す必要がありません」
「別にたった一回嘘つかれただけでそんな怒らなくても……」
あぁもう小町はうるさい。小町ったら、こんなにうるさかったかしら?
私は昨日から、気分が優れない。別に体調が悪いわけではないし、今日もいつも通り。
なのに、昨日の電話一本。あれだけで、私は気分を害してしまった。
今の八幡とは、出来れば話したくはない。嘘をつく彼とは、あまり会いたくはない。
私は、彼の嘘が許せない。
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教室に到着し、今日の時間割の教科書やらノートやらを準備し終えて、俺は机の上に顔を伏せた。
『…貴方には、生徒会をやめて欲しくないの』
風見先輩が言った言葉が脳裏にチラつく。もしあれが好意なのだとしても、俺は彼女から好かれることはしていない。逆に、庶務に人手が足りないのだとしても、他の人間を補充すればいいだけだ。
それに。
『謝らなくて結構です』
あそこまで完璧に突っぱねられたら、俺個人としても生徒会には行きにくいのだ。人から嫌われたのは、久方ぶりだ。
「あんた、学校に来たらいつも顔伏せてるわね。友達いないの?」
「…残念ながらぼっちなんでな」
俺の前の席である、博麗が登校してきたようだ。
「別にぼっちじゃないだろ?私達がいるじゃないか!」
「まぁ、貴方の周りにはたくさん人が集まるようだしね。ぼっちと言うには、そろそろ苦しくなったんじゃない?」
そして金髪コンビ、霧雨とマーガトロイドも登校してきた模様。
なんだろう。この三人、なんだか久しぶりに見た気がする。昨日会ったばかりなのに、なんだか1週間と少し話していない気がする。まぁリアルな話はさておき。
今の四季先輩に謝りに行って、また突っぱねられてしまう可能性がある。そもそも怒った原因を明確にしなければ、何に対して謝るんだって話になる。
原因は、俺が嘘をついたこと。裁判官を目指す人だし、怒るのもあり得ない話ではない。嘘を嫌う人間だったのかも知れないし。
ただ、少し気になる点があるとすれば。
昨日の通話履歴。封獣が一番多かったのは分かりきっていたのだが、二番目に多かったのが四季先輩だったのだ。生徒会の面々からも電話がかかってきていたが、四季先輩はその人達より倍近くは電話をかけてきている。
『夜になっても電話に出ないって四季映姫が焦っていたしね』
「…まさかな」
放課後での生徒会。そこで全てが決まる。
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一日の授業が終わった。掃除をする者、即座に帰る者、部活動や委員活動に向かう者で騒がしくなる。
「じゃあな、八幡!また明日!」
「…ん」
霧雨達と別れ、俺は鞄を持って生徒会室に向かった。生徒会室との距離が近づくほど、その足取りの重みは少しずつ増していく。一般生徒や部活生達の喋り声の中を歩き続け、そして、到着した。
生徒会室に。
「……はぁ…」
深呼吸をして、俺は生徒会室の扉を開ける。部屋に入ると、中にいたのは、生徒会長の四季映姫・ヤマザナドゥただ一人だけ。四季先輩は一度こちらに視線を向けるが、興味が失せたように再び書類に視線を戻す。
「何か用ですか?」
「…話があります」
「話?私は貴方と何の話もない。…それに言ったでしょう?貴方はもう生徒会に来なくていいと。この生徒会は、規律を重んじ、人を導くためにある空間です。下らない嘘をついて休んだ
やっぱり分かってはいたが、攻撃的だ。嘘をついた結果がこれだ。
それでも、俺は謝らなければならない。自己満足でもいい。彼女に謝ることが、今俺がすべきことなのだ。嘘をついたことを。
「…すみませんでした。連絡も無しに休んだ挙句、変な嘘をついてしまいました」
「……」
俺は頭を深く下げて、謝罪の言葉を切り出した。対する四季先輩は、ただの一言も言わなかった。
「…はぁ」
四季先輩は大きくため息を吐き、そして。
「……顔を上げなさい」
四季先輩がただ一言、そう言葉を発した。その言葉通り、俺は顔を上げる。
「……何故、私が怒っているか、分かりますか?」
「…変な嘘をついたから、じゃないんですか?」
「私は貴方が嘘をついた瞬間、貴方のことを信用することが出来なくなりました。生徒会長としてではなく、一個人としてです」
彼女は、淡々と言葉を連ねていく。俺は遮ることもせず、ただ黙って聞いていた。
「嘘をついたことに怒っているのは確かです。ですが、私は……」
「…?」
「私は、
「え……」
嘘をついたことではなく、俺が嘘をついたことに怒っていると、彼女は言った。
「…昨日は気が気でなりませんでした。私達が電話をかけているのにも関わらず一向に出ない。小町や風見幽香の言うように、ケータイに出ることすら困難な急用だったのかと、一時は思いました。…それでも、私は気になった。もしかすれば、事故に遭ったのではないか、と」
「あ…」
「ですが貴方は夜になって連絡を返しましたね。そこで、何もなかったようで良かったという安堵と、何故連絡してこなかったという疑問が浮かびました。私は貴方に問いましたね。急用とはなんだ、と。貴方はこう返しました。…妹が熱を出して看病していた、と。……何故、そんな嘘をついたのですか?」
「…内容が内容だけに、信じてもらえるわけがないって思ってました。言ったところで、結局は嘘だと思われてしまうんじゃないかって」
「ふざけないでッ!」
すると突然、机を思い切り叩いて俺を怒鳴る。今まで四季先輩のこういう姿を見たことなかったため、少し
「信じてもらえるわけがない?嘘だと思われてしまう?八幡からして私は、そんなに信用出来ない存在ですか!?私は貴方の言うことを信じないと、疑っていたんですか!?」
図星で返す言葉もなかった。
俺の言うことを信じるわけがないと、俺は四季先輩を疑っていたのだ。
「貴方に嘘をつかれた時、正直、ショックでした。貴方は私のことを信頼してくれているのだろうと。そうずっと思っていました。……ですが、どうやら違ったようです」
「四季先輩……」
「…貴方は私のことを信頼していなかったんですね。信頼しなかったから、私に本当のことを言わなかった。そういうことですよね」
なんと返せばいいのだろうか。結果的に言えば、俺は四季先輩のことを信頼していなかったわけになる。だが、何も彼女の全てを信頼していないというわけでもないのだ。
「…そうじゃないです。ただ、内容が突飛的すぎたんですよ。おそらく、小町……妹でも信じられないような展開だったんです」
「……話しなさい」
俺は四季先輩に、本当の事実を告げた。
「…貴方を拉致したレミリア・スカーレットとその他の人間……。つまり、貴方に余計な嘘をつかせたのは彼女達となりますね」
「え…?」
「私は嘘が嫌いです。どんな意味を含まれていようが、良い意味が含まれた嘘なんて存在しない。……あぁ、そうだ」
彼女はゆっくりと立ち上がる、顔を俯かせながらこちらに歩み寄ってくる。
「…確か、貴方は社会的に問題があると指摘されて生徒会に入ったのでしたね。それを私が更生すると。忘れていました」
「四季先輩……?」
「…そうです。八幡はあんな嘘をつく子ではない。嘘が下手な八幡が、私に嘘をつくわけがない。私のことを信頼していないわけがない。八幡は何も悪くない。……私は何を怒っていたのでしょう」
なんだか四季先輩の様子がおかしくなっている。俺はもう一度、四季先輩に声を掛けた。
「…四季先輩、どうしたんですか?」
「いえ何も。…貴方の嘘は不問とします。私も怒ってすみませんでしたね」
明らかに四季先輩の様子がおかしい。これじゃあまるで、封獣と一緒じゃねぇか。
「よく聞いてください。貴方が指摘された部分は私が責任を持って、更生してみせます。私が生徒会長である限り……いや、生徒会長を引退したとしても、貴方の更生に努めます」
「や、俺そこまで問題児なんですか?」
「そう、貴方は問題児。だから貴方は嘘をつく。貴方はレミリア・スカーレットという女のせいで、嘘をつき、無断で生徒会を休んだのです。問題児である貴方が、更に問題児になるなどもっての他」
四季先輩の凛々しく、澄んだ瞳が、今では封獣と同じように、瞳を濁らせている。
「ひねくれた感性を今すぐ正すことは出来ません。しかし、私が貴方を導く者となれば、それは可能になります」
「…何するつもりなんですか?」
「私の言うことを絶対に従ってもらいます。…まず、先程の件で問題になった嘘をつくという行為。それを正します。今後一切、私に対して嘘はつかないこと」
「そこまでしなくても嘘はつかないと思うんですが…」
すると、四季先輩はどこからか笏を取り出して、俺の喉元に突きつける。
「黙って従いなさい」
「っ…!?」
ナイフのような刃物を突きつけられているわけではない。だからそこまで臆することはないのだが、四季先輩の淀んだ瞳と鋭い目付きが、俺に有無を言わせなかった。
「掃除で遅れましたー……ってえぇ!?な、何してるんですか四季様!?」
タイミングが良いのか悪いのか、小野塚先輩が部屋に入ってきた。入ってくるなり、彼女は大きなリアクションを取った。
「あら小町。貴方も手伝いなさい」
「いや、その前にその笏を直しません?」
「黙って私に従いなさい。八幡を更生……いえ、矯正するのです。彼の人格、立ち振る舞い、人間関係、それら諸々、全てを私が正します」
「そういや、八幡ってなんか問題があって生徒会に来たんだっけ…。ですが、そんな急がなくても、まだこいつには先があるじゃないですか」
「いいえ。私が見ていなければ、彼は今よりもっと酷くなる。つく必要もない嘘をつかされ、する必要もない行動を強いられて、八幡は更に問題児になってしまうでしょう。ですから、八幡に近づく有害は全て、私が取り除かなければなりません。全ては、八幡を正すために」
「…流石にそれって、どうなんですかね。束縛が強い彼女ですか?」
「バカ言わないでください小町。彼とは生徒会の先輩後輩という関係なだけです。そんな淫らな関係ではありません」
小野塚先輩が擁護しても、四季先輩はすぐさま切り返してくる。たった一つ、嘘をついただけで、四季先輩を追い詰めてしまったのか。
「これからは貴方の全てを私が管理します。貴方を正すためにね」
「か、管理って、実際何をするんですか?」
「まずは、私に一時間おきに報告してもらいます。誰といたのか、何をしていたのか、どこにいるのかを、ね」
「いやいや、流石にやりすぎじゃないですか?彼女でもない人に、一々そんなこと聞かれるなんてたまったもんじゃないですよ」
「いいえ、これは決定事項です。でなければ、彼が害されてしまう。害されてしまうし、害されたかどうかが分からないじゃないですか。私が彼を矯正するのだから、彼の全てを把握する義務があります」
「でもそれって、裏を返せば八幡のことを信用していないってことになりません?」
「意図的ではないとはいえ、一度嘘をつかれてしまいましたからね。もう彼のことは信用出来ません。…分かりましたね、八幡。今日から、私に報告することを怠らないように。こちらから一時間おきに電話を掛けます。必ず出なさい」
嘘をついた結果がこれだ。封獣に加えて、四季先輩までが病んでしまった。小野塚先輩も、もうお手上げという様子だ。
「さぁ、私に従いなさい」
「……はい」
「ふふ、よろしい。それでこそ、私の後輩です」
四季先輩の表情は一変し、いつものような凛々しい笑みを浮かべ、笏を直す。そして、自分が座っていた席に戻り、書類作成を始めた。
小野塚先輩はこちらに近づいて、小声で話し始める。
「…マジで言うこと聞かないと、八幡やばいかもね」
「…何されるんですか?」
「あの人、常識や価値観が一般的な人間とかけ離れている節がある。この間の潮干狩りがいい例さ」
「あぁ……」
確かに、ゴールデンウィークに潮干狩りをチョイスする人間は、あまり存在しないと思う。
「多分、監禁とか拉致とか平気で言い出すかも知れない。あたいもなんとかしてみるけど、無理だったら先に謝っとく」
「…俺が蒔いた種ですし、仕方がないんじゃないですかね」
「あたいは納得出来ないな。他人に縛られて、その通りに育ったとしよう。でもそれって、本当の自分じゃないと、あたいは思うけどね」
確かに、先輩の言う通りである。他人の言う通りに生きて育つのは、操り人形となんら変わらない。だが、嘘をついた結果がこれなのだ。俺が清算しなきゃならない。
「こんにちは〜……って後輩くん!」
「…八幡」
河城先輩と鍵山先輩が生徒会室に入室し、こちらにやってくる。
「昨日、全然連絡なかったけど、何かあったの?生徒会にも来なかったし、心配したんだよ?」
「そういえばあたいも聞いてなかった。なんで来なかったんだい?」
「実は……」
昨日の出来事を彼女達に話した。ただ、フランドールの件は紅魔館の問題のため、そこだけは伏せて話した。
「…大変だったのね」
「まぁ……」
「そりゃそんな事情、誰だってすぐ信じられないと思うわな。嘘をつきたくなる気持ちも分からなくはないね」
すると三度、生徒会室の扉が開かれる。入室してきたのは、風見先輩であった。
「あら、八幡。来たのね」
「…うっす」
「で、どうだったの?見た感じ、もうなんともなさそうだけど。生徒会やめる必要はなくなったの?」
「や、やめる!?どういうことだい!?」
「もし謝っても伝わらないようなら、生徒会をやめるって言ってたの。まぁ八幡なりのケジメの付け方なんでしょうけど」
「…やめさせませんよ。彼を」
風見先輩がそう説明した瞬間、書類作成をしていた四季先輩が口を開いた。
「やめさせるわけにはいかない。彼は、私の手が届くところにいないといけないのです。全ては、彼を正すために」
「…どうしたの?あれ」
四季先輩の様子を変に思った風見先輩が尋ねる。その理由を、一部始終見ていた小野塚先輩が説明する。
「封獣ぬえに続いて四季映姫まで……。八幡って、結構面倒な女に好かれる体質なの?」
「中学の頃まで、女子どころか男子にすら好かれてなかったんですが…」
「そんな自虐ネタは雛で間に合ってるよ。……でも、会長がそんな風になるなんて…」
軋轢を生まなくて済んだ……が、今度は違った問題が生まれてしまった。病的なまでに、俺を更生しようとする姿勢。封獣とは違う理由で、病んでしまったのだ。
封獣とは違い、好意を向けているわけではない。ただただ、俺を正すために死力を尽くそうと躍起になっている、といったところだろう。
全ては、彼女の正義感と、責任感が強い故に。