やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
時は過ぎ、今日は日曜日である。休みの日なので、勉強と並行しつつ、館の仕事を行なっていた。紅魔館にいられるのも今日が最後であり、明日には命蓮寺に向かうことになる。
いい加減我が家に帰りたい今日この頃。それでも、1週間もここで過ごしていると、それなりに愛着が湧くことも否めない。
さて、紅魔館での一週間を振り返るのはここまでにしよう。今俺は朝から、紅美鈴と一緒に門番をしている。
「ふあ…あ……」
大きく欠伸をする。因みに、今は午前6時半でございます。
「眠たいんですか?」
「こんな朝っぱらから起きてりゃあな。プリキュアの時間までまだまだあるってのに」
「プリキュアとか観てるんですか…」
ちょっとあからさまに引くのはやめようね。
「まぁな。それより、門番の仕事って暇なんだな」
「そうですね。暇過ぎて、私時々寝ちゃうんですよね。ここで」
「ここで?」
「えぇまぁ。立ったままで」
なんつう器用なやつだ。
今まで門番の仕事が暇過ぎて寝てしまっていた。その結果、立ったまま睡眠というテクを手に入れたというのか。
うん、結構無駄なテクだったりする。
「…今日で最後なんですよね。ここの仕事をするの」
「…まぁな」
「この1週間どうでした?」
「疲れた」
一癖も二癖もある人物もいるし、仕事だって手伝わされる。泊まっている代わりに働くのが筋なのは分かるが、もともとお嬢様が強引に拉致ったんだ。当然、不満はある。
俺の短い感想に、紅は「ですよねー」と返す。
だが。
「…まぁ、なんだ。仕事はクソだけど……あれだ。紅魔館の住人は、別に悪くなかったな」
「八幡さん……」
一癖も二癖もある人物と言った。それに関しては嘘偽りない。まともな奴がいるとするなら、十六夜とノーレッジ先輩くらいか。それでも、彼女達と関わったこの1週間、決して悪いものとは言えないものだった。
「…そんなに話したことないが、今まで世話になった。ありがとな」
「いえいえ!八幡さんが来てくれたおかげで仕事がサボ……じゃなかった、仕事がやりやすくなりましたし!私だって、八幡さんと過ごした日々はとても良かったです!」
えっ何この子めっちゃいい子やん。俺が来たおかげでサボ……のところさえ言わなかったらすごいいい子や。惜しかったな。
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「今日で紅魔館の従者は終わりなのね」
「…そうですね」
午前の門番の仕事は終わり、昼食後の1時間程度の休み時間を、俺は静かな大図書館で、中間試験の勉強を行なっていた。ノーレッジ先輩は相変わらず、本を読み耽っている。
「この1週間、ありがとうね。貴方と話していた時間、嫌いじゃなかったわ」
「奇遇ですね。俺も嫌いじゃないですよ」
本に精通している者だから、それなりに話しやすかったのだ。それに大図書館という巨大な図書館を使用させてもらっていた。彼女を嫌う要素はどこにもない。
「……そう」
彼女の頬が、心なしか赤くなる。
ちょっと、そんな顔を赤くしないでください。並の男子ならば、うっかり告白してしまいますよ、その反応。
「…もうここには来なくなるのよね」
「用がなければ別に来ませんね。まぁあるとすれば、本借りる時くらいですかね。あ、ちゃんと金は払いますよ」
「いらないわよそんなの。…でも、そうね。お金の代わりに聞いて欲しいことがあるの」
「なんですか?」
「本を借りる時、私の話し相手になってくれないかしら。この館で、本について話せる人がいないの。だから…」
「いいですよ別に」
むしろそれはこちらとしてもありがたい。金を払わずに済むこともだが、本について語り合うのは結構楽しかったりする。俺も本を読むことを趣味にしてるし、ノーレッジ先輩と感想を交換することも悪くないのだ。
「…ありがとう。じゃあこれ、私の連絡先」
ノーレッジ先輩はケータイを操作して、QRコードを見せてくる。
「もし紅魔館に来る時は私に言ってちょうだい。美鈴か咲夜に話を通しておくから」
「分かりました」
俺は不慣れな連絡先交換の操作を行いながら、ノーレッジ先輩との連絡先交換を果たす。
「…ありがとう。貴方が来ること、楽しみにしてるわね」
「…そうですか」
「勉強がひと段落したら、フランのところへ行ってあげなさい。紅魔館にいるのが最後だってこと、知らないだろうから。せめて彼女に付き合ってあげなさい」
「うっす」
ある程度を区切りを付けて勉強を終え、大図書館を後にする。
次に俺は、フランドールの地下部屋へと向かい始めた。地下部屋に到着し、俺はドアをノックする。
「だーれ?」
「比企谷だ」
「お兄様?!すぐ開けるね!」
駆け足の音がドア越しに聞こえてくる。ドアが開くと、フランドールが笑顔で迎えてくる。
「入って入って!」
フランドールは俺の手を引っ張って、無理矢理に部屋へ連れ込んだ。連れ込んだって言い回しってなんかエロい。
そして、彼女のベッドまで連れられる。フランドールはベッドに腰掛け、俺が隣に座るように促す。
「お兄様っ」
フランドールは突然、俺の身体を抱きしめる。抱きしめている彼女は、幸せそうな表情を浮かべる。紅魔館にいられるのも最後だし、今日はフランドールの好きにさせよう。
サービス精神旺盛な八幡でございます。
俺はフランドールの頭を軽く撫でてみる。小町にしてみるように、優しく。
「えへへ……お兄様のなでなで、気持ちいいよぉ…」
あかんこれあかんやつ。めっちゃ可愛いやつだ。
天使かっつの。コマチエルとフランエルってか?なんだそれ最高かよ。
「お兄様……好き…大好き……」
「…そうか」
少し前まで、歪に笑うことしか出来なかった少女も、今では天真爛漫な笑顔を見せるようになっている。暴走したという報告も受けていないし、しばらくは安全だろう。
「お兄様の身体…あったかい……ずーっと、このままがいい…」
…これいつまでしてるんだろ。いくら小町と歳が同じだとはいえ、相手は女の子だ。これだけ引っ付かれて、ドキドキしないほど俺は大人じゃない。
「お兄様……」
「ん?どうした?」
フランドールは顔を赤くし、息を荒くしながら俺を見上げる。気のせいだろうか、目もどこかおかしい。
「お兄様と、ちゅーしたい…」
「……」
間違いない。発情してるこの子。
ていうかなんで急に発情してるの?そんなビッチな子なの?やだ淫らだわ。
「お兄様が好き。お兄様の声が好き。お兄様の目が好き。お兄様の綺麗な肌が好き。お兄様の匂いが好き。お兄様の暖かいのが好き。好き好き好き、大好き。お兄様に抱きしめられてるだけで、なんだか太腿の間がきゅんきゅんするの。身体が熱くなっちゃうの」
これどっかで見たことあるんだけど。何これデジャヴ?
俺は冷静になって分析をするが、フランドールは止まらない。
「ううん、それだけじゃないの。お兄様の綺麗な肌を見てると、噛みつきたくなる。お兄様の口を見てると、私の口と合わせたくなる。お兄様のベロが見えると、私のベロで舐めたくなるの」
「…わぁお」
あっもう手遅れですね。さーてどうしよう。このままだと封獣より先に襲われちゃうかも。
「お兄様ぁ……ちゅーしたいよぉ……」
「ブレーキ踏んで?ちょっと止まって?」
「やだぁ……」
フランドールは聞く耳を持たず、遠慮なく自身の顔を俺の顔に近づける。残り10cmもあるかないかぐらいの距離。フランドールの荒々しい吐息が、俺にかかる。
俺は近づけまいと抵抗するが、男子顔負けの力を持っているフランドールには一切の無意味だった。力強いなおい。
「お兄様……」
「フラン、少し話が……あ」
フランドールのぷるっとした唇が当たろうとした瞬間、地下部屋の扉が開いた。その音に反応した俺とフランドールは、扉の方へ顔を向ける。そこには、フランドールの姉であるレミリアお嬢様がいた。隣には十六夜もいて、目を見開いている。
「…フラン。今すぐ八幡から
「やだ。今からお兄様とラブラブするんだから。後にしてよ」
「後になればなるほど、貴女が苦しい思いをするだけよ」
「…どういうこと?」
フランドールは怪訝な表情でレミリアお嬢様に聞き返す。というか、俺も実はなんの話か全く分かっていなかったりする。
「今日で八幡とはさよならよ」
「………は?」
その言葉にフランドールは呆気に取られる。逆に俺は、その話か、とすぐに理解した。しかし、フランドールはそうではなかった。
「一生会えないってわけじゃないけれど、八幡が紅魔館にいるのは今日で最後よ」
「…お姉様でも冗談を言ったりするんだ。全然面白くないけど」
「事実よ。もう決まっていることよ」
「嘘だ」
「だから、嘘じゃないって…」
「嘘だッ!!」
突如、フランドールは叫んだ。どっかのひぐらしみたいなセリフだが、そんなことは置いといて。
「なんで!?なんでお兄様が紅魔館から出て行くの!?意味分かんない!」
「八幡にだって八幡の生活があるのよ。いつまでも紅魔館に居てもらうわけにはいかないでしょう」
「そんなの知らない!!お兄様はずっとここにいるんだもん!!」
「フランドール……」
薄々は分かっていた。封獣同様に、フランドールは俺に依存している。そのきっかけがあるとするなら、フランドールの暴走を止めた辺りだ。
しかし、封獣のように狂ったようではなく、歳上のお兄ちゃんに甘えているような接し方だったから、俺の勘違いという説もあった。だから俺は俺であまり気にすることなく、小町と同じような接し方をしてきたのだ。
異性への好意か、単純に歳上のお兄ちゃんへの好意か分からないが、今フランドールがヒステリックになっている以上、依存していることに変わりはない。
「お兄様も何か言ってよ!お兄様もずっとここにいるんだよね?ずっと、ずーっと一緒にいるんだよね?」
フランドールは俺にしがみついて、そう尋ねる。
「……悪いが、それは出来ない」
「…お兄様……!?」
「お嬢様が言った通り、いつまでもここで世話になるわけにはいかねぇ。俺にも自分の生活があるしな」
「やだやだやだやだ!!お兄様とずっと一緒にいるの!!どっかに行っちゃうなんてやだ!!」
フランドールは次第に泣き崩れてしまう。理由が理由だけに、断るのは仕方のないことだが、こうして泣かれてしまうと、少し弱ってしまう。
「…フランドール、よく聞いてくれ」
「うっ…ぐすっ……」
「確かに今日で紅魔館とバイバイする。けど、何も一生ここに来ないってわけでもないんだ」
「え……?」
「俺は時々、本を借りに大図書館に来る。もしかしたら1週間後に来るかも知れないし、明日来るかも知れない。…いつ、とは言えないが、紅魔館には立ち寄ることになる。だからその時、俺はお前の部屋に行くと約束する」
「ほ、本当……?本当に、会いに来てくれるの……?」
「あぁ。だからもう泣くな」
フランドールの頭を優しく撫でる。徐々にフランドールの涙が止まり、手の甲で涙を拭き取る。
「…じゃあ、約束だよ?」
「おう。約束だ」
「嘘ついたら許さないから。もし来なかったら、お兄様を一生私の部屋に閉じ込めるから。私が満足するまで、壊しちゃうから」
「尚更行かなきゃならん理由が増えたわ」
これでとりあえず、フランドールも納得しただろう。
この間、朝食の時にレミリアお嬢様に言ったのだが、その時フランドールはまだ自分の部屋で寝ていたから知らなかったのだ。
言ったら言ったで、もしかすれば的なことは考えたが。納得してもらって何よりだ。
「お兄様、だーいすきっ!えへへっ」
夕飯の支度までは、フランドールと遊ぶことになった。スキンシップが激しいのは変わりなかったが、なんとか受け流していった。
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十六夜の手伝いで、夕飯の支度を行なっていた。その時、十六夜が仕事をしながら話しかけてくる。
「この間の女にフランお嬢様。八幡って、結構女に依存される体質なのかしら?」
「…中学までは、女子とほとんど関わりなかったからな。あんまそういうのは知らん」
「…まぁ、フランお嬢様達が言ってることも分からないわけではないわね」
「?どういうことだ」
「貴方って甘いもの。他人に対してね」
そんなはずがない。俺が甘くしているのは、俺と小町とコーヒーだ。他人に甘いわけがない。
「フランお嬢様に苦い過去があったと聞かされても、貴方はフランお嬢様に寄り添ったじゃない。女の子って、自分を見てくれる人に弱いのよ。貴方は他人のことをよく見てる。本質を理解してる。だから、寄り添える」
「…そこまで美化されるほど俺は主人公じゃねぇよ。むしろ敵の下っ端辺りがベストだろ」
「確かに、貴方が主人公ってところ想像出来ないわね」
十六夜は揶揄うように笑った。
実際、俺でもそう思う。俺が主人公になった日には、多分物語がバッドエンドに出来上がる。
「…けど、少なくとも彼女達にとっては貴方が主人公だと思うわよ」
「んなこと言われてもな……」
「貴方は他人に優しい上に甘い。だから彼女達は、その甘さに依存して、何がなんでも縋ろうとする。そして、自分じゃない誰かがその甘さに縋ろうとすると、一気に独占欲と嫉妬が膨れ上がる。これは自分だけのものだ、他の人が触らないで欲しい…的な感じね。貴方って、女の子をダメにしそうな男ね」
俺は誰かに優しくしていないし、甘くしているわけじゃない。俺はただ単に、現状打破の策を講じただけに過ぎない。好感度を狙ったわけじゃない。好かれるなんて筋違いだ。
「…アホらし」
俺は小さく呟いて、夕飯の支度を続ける。
出来上がり次第、俺と十六夜は食事専用の部屋へと持ち運ぶ。
「お待たせしました、お嬢様」
「ありがとう、八幡」
全て運び終えて、俺と十六夜が席に着いた。そして、紅魔館での最後の晩餐が始まる。相変わらず豪華な料理に場違い感を感じながらも、それを口に含む。
「うっま」
「ふふ、ありがとう」
無意識に出た感想に、十六夜が感謝の言葉を返す。
普通に美味くてコメントに困るレベル。外でこれを出せば、金を巻き上げることが出来るだろう。十六夜の家事スキルはカンストしてやがる。
「八幡」
「はい?」
「食事を終えたら、貴方と二人で話したい。ひと段落したら、紅魔館の屋上で待っているわ」
「はぁ……」
要点だけ言うと、再び食事に戻る。
俺は食事をしつつ、お嬢様に呼び出される心当たりを探していた。
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食事を終え、さらに皿洗い等も済ませた。お嬢様が伝えた場所である屋上へと、俺は足を運んだ。屋上に向かうと、月の光に照らされるお嬢様の姿がそこにあった。
「…来たわね」
「…何か、用ですか?」
「そう焦らないで。隣に来て」
一応警戒はしつつ、レミリアお嬢様の隣に立った。もう夜だと言うのに、月の光が地上を照らして明るく見える。
「月が綺麗ね」
「は?」
突如として、彼女は短くそう呟いた。あまりに突然のことで、気の抜けた声が出てしまった。
これって、告……。
「先に言っておくけれど、愛の告白とか隠していないから。単純に月が綺麗ねって話よ」
「あ、あぁ……」
あー焦った。急に呼び出されて急に告白されたと思ったわ。うっかり返しそうになったわ。
でもレミリアお嬢様の言う通り、本当に月が綺麗だ。満月でもなければ三日月なわけでもないが、はっきり見える月の光は冬のイルミネーションより綺麗だと思う。
「…今日までありがとう。無理に連れてきたのに、貴方は紅魔館のために尽くしてくれた」
「仕事はもう真っ平御免ですけどね。働きたくないんで」
「ふふ、そうね。八幡って、面倒くさがりだものね」
仕事=クソである。だからこそ、専業主夫というのは勝ち組だということなのだ。
「…フランを窘める手前でああは言ったのだけど」
「…なんの話ですか?」
「私個人としても、貴方には紅魔館に残っていて欲しかったの。貴方のような従者を、手放したくなかった」
フランドールがヒステリックに叫んでいた時、レミリアお嬢様は、俺には俺の生活があるから無理に居させるわけにはいかない、と窘めていた。
「ただ純粋に、貴方の運命が気になって連れてきたのにね。いつの間にか、そんなことがどうでもいいくらい、私の中で貴方という存在が大きくなっていたの。フランを助けた、あの日から」
「お嬢様……」
「明日から命蓮寺のところで働くのでしょう?それが終わったら、またこの館に来てくれないかしら?また、私の従者になってくれないかしら?」
レミリアお嬢様は真剣な眼差しで懇願する。きっと、こんな真剣な眼差しで押されたら断れなかったかも知れない。
だが、俺は。
「…家には小町がいます。2週間も家を空けると、きっと寂しい思いをしてると思うので。お断りします」
「…そう、よね。家族は大事よね」
「けど、大図書館に寄ることはあると思うんで。その時は、顔くらい出しますよ」
「…えぇ、ありがとう。…ねぇ、八幡」
「はい………ッ!?」
何の気なしに返事をした刹那、レミリアお嬢様は俺の耳元で、甘い吐息混じりで囁いた。
「好きよ。貴方のこと」
「ッ……!」
「本当、可愛い反応するんだから。あまりそういう姿、女の子に見せない方がいいわよ。襲われても知らないから」
レミリアお嬢様は、俺の反応を見て揶揄う。
顔がすんごい熱い。多分、顔が赤いのは見なくても分かるだろう。りんご病だって言われても納得できるレベルだ。
「おやすみなさい、八幡」
そう端的に就寝の挨拶をして、館の中へと戻っていく。顔が熱いせいか、夜風がとても涼しく感じる。
こうして、俺の紅魔館での業務は終了した。