やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。   作:セブンアップ

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思いがけず、彼は生徒会に加入してしまう。

 マーガトロイドの部活見学の次の日。

 今日も今日とて、変わらぬ面倒な1日が始まった。俺は、イヤホンを耳に挿し、机に顔を伏せて寝たふりをする。

 

 すると、誰かが俺の右肩を叩く。一体誰なのだろうと、顔を上げてみると。

 

「よっ!元気か、八幡!」

 

「おはよう、八幡」

 

 俺を叩き起こしたのは、マーガトロイドと霧雨であった。この金髪コンビは、一体なんの用だろうか。

 

「…おう。なんか用か?」

 

「へ?単純に話に来ただけだけど?霊夢もいるし」

 

「別にわざわざ来る必要ないでしょ。休み時間なんてたった10分しかないんだし、話すこともないでしょ」

 

「まぁまぁ、細かいことは気にすんなよ!」

 

 要するになんの用もないと。暇人なのかこいつは。

 

「そういえば魔理沙達、この目が腐ったやつと知り合いなの?」

 

「おう!昨日、アリスの部活見学に一緒に付いて行ったんだぜ!」

 

「ふうん……。…あんた、名前は?」

 

 霊夢と呼ばれる人物が、こちらを見て名前を聞いた。端的に、自分の名を彼女に伝えた。

 

「八幡、ね。私は博麗霊夢(はくれいれいむ)。魔理沙とアリスは、まぁ腐れ縁みたいな感じ。よろしく」

 

 ということは、博麗も霧雨やマーガトロイドと同じ中学出身ということなのだろう。

 

「こいつ、実は神社の巫女でもあるんだぜ?」

 

「…そうなのか。どこの神社なんだ?」

 

「博麗神社って聞いたことあるでしょ?この近くにある神社」

 

 マーガトロイドが神社の名を挙げる。この千葉県に昔から伝わる由緒正しき神社。

 ということは、この博麗という人物、なかなか大物だったりするのだろうか。

 

「…別に大した神社じゃないけどね。参拝客は来ないし、来るとしても魔理沙達くらいだし。せめて参拝くらいしろっての」

 

「だからいつもお菓子持ってってやってんだろー?ていうか、なんだかんだでお前食ってるし」

 

「そりゃ当然よ。私の神社に手ぶらで来るとか無礼にも程があるでしょ。これで許してるんだからまだ優しい方よ」

 

「…巫女って怖ぇ」

 

「なんか言ったかしら?」

 

 ひぃっ。 

 なんて目つきしてるんだこいつ。「お前それ以上言ったら無事でいれると思うな」みたいな目つきしてたよ。殺人鬼の目だったよ。

 

 すると、ここで休み時間終了のチャイムが鳴り響く。マーガトロイドと霧雨はそれぞれの席に戻り、俺は前を向いた。

 

 次は国語。国語の先生であり、我らの担任である、稗田阿求(ひえだのあきゅう)先生が教室に入ってくる。幼女と見間違えるほどの幼さと背の低さ、そしていつも黄色い着物を着ている和風な先生である。

 例えるなら、学園都市に存在しそうな先生だ。あれに着物を着せたのが稗田先生である。

 

「この一時間は、"青春とは何か"を、自分なりに論じてもらいます。提出した人から、自主学習とします」

 

 青春とは何か、か。…すぐ終わりそうだ。終わらせて、とっとと寝よう。

 俺は回ってきた用紙を後ろに回し、早速シャープペンシルを走らせていく。

 

 用紙に書き込んで30分後。出来上がった俺は、稗田先生がいる教壇に用紙を提出した。

 あれぞ、会心の出来だ。高得点は間違いない。俺は、そう思っていたのだが。

 

 放課後ーーー。

 

「…書き直し?」

 

「当たり前です。なんですかこの邪悪な文章は。砕け散るのはそちらの方です」

 

 稗田先生に呼び出しをくらった俺は、職員室へと赴いた。何の用かと伺った結果、俺の会心の出来が書き直しとのこと。

 

「……いえ。やっぱり書き直しはいいです。今どうせ書き直しても、嘘だらけの文章になりかねませんし」

 

 大体の人間、全部が全部本当のことを書いていないと思う。ところどころに嘘を織り交ぜて、文章を作り上げていることだろう。それに比べれば、嘘一つない俺の文章は逆説的に正しいのではないか。

 

「…比企谷くん。友達は……………いないからこんな文章になってるんですね多分」

 

「なんで勝手に納得しちゃってんすか。いやまぁそうなんですけど」

 

 友達くらいいるよ?多分ね?知らんけど。

 

「放課後とかは暇ですか?」

 

「まぁ大抵は。バイトもしてないですし、放課後に遊ぶような人もいませんから」

 

「なら、ちょっと付いて来てください」

 

 稗田先生はそう言って、俺をとある場所まで連れて行った。そのとある場所というのは。

 

「…生徒会室?」

 

「君には生徒会に入ってもらいます。確か空いてる係があった筈なので、そこに加入するという形で」

 

「いや、なんでそうなるんですか」

 

 俺はどこかのラノベ主人公か何かか。

 

「このままだと貴方は、社会に出た時に苦労することになります。他の人より。別に友達がいないことが悪いとは言いませんし、一人でも出来うることはあるでしょう。ですが、やはり人として生まれている以上、誰かと関わり、生きていくことは必須になるんです。これは、社会に出た際の訓練とでも言いましょうか」

 

「俺、専業主夫志望なんですけど…」

 

「舐めてるんですか?」

 

 こっわ稗田先生こっわ。めっちゃ笑顔なのになんでそんな冷たい声が出てくるの。

 

「生徒会長には話を通しています。では」

 

 稗田先生はそう言って、俺の前から去っていった。

 このままバックれようとも考えたが、明日になって稗田先生に連れて来られるのは目に見えている。

 

「…はぁ」

 

 俺はため息を吐いて、生徒会室の扉を開いた。

 扉を開くと、ショートの緑色の髪の女生徒が紙を前にして、ペンを走らせている。扉を開けた音に気づいた彼女は、こちらを見る。

 

「…貴方が比企谷八幡くん、ですね。話は稗田先生から聞いています」

 

「は、はぁ…」

 

「私は、3年の四季映姫(しきえいき)・ヤマザナドゥ。東方学院高等学校の生徒会長です。以後、よろしくお願いします」

 

 こりゃまた、なんつーキラキラネームだ。いや、俺もあんま人のこと言えることではないけど。

 

「貴方には、庶務を行なってもらいます」

 

「…要するに生徒会の雑用をしろってことですか」

 

「確かに、庶務は会計や書記とは違い、雑務をこなしてもらうことが多いでしょう。けれど、それも誇りある一つの仕事です」

 

 雑用が誇りある仕事なわけがない。まるで、ブラック企業に染まり切ってもう手遅れな人間が言いそうな言葉だよそれは。

 

「そしてもう一つ。貴方の、そのひねくれた感性を更生します」

 

「…は?」

 

「聞いたところ、貴方は授業で出された課題に対して、かなり悪質な文章を書いたとか。そういった者達は、いずれ反社会勢力に加わってしまい、悪事に手を染めることとなります。そうならぬように、貴方を更生します」

 

 なんだか仰々しい話になってきた。たかだか変な作文を書いただけで反社会勢力に加わったりはしないと思う。多分、知らんけど。

 

「…別に変わる必要はないと思うんですけど。今の俺は嫌いじゃないし、むしろ好きまであります」

 

「そういうところが危ういです。少しは変わらないと、社会的に問題があると言っているのです」

 

「…変わるだの変われだの、他人に自分を語られるのは嫌なんですけど」

 

「貴方のそれは逃げているだけじゃないのですか?」

 

「変わるって言うのは、現状の逃げとも言えるんじゃないんですかね。なんで過去の自分や今の自分を肯定することが出来ないんですか」

 

「…どうやら、相当手遅れなようですね」

 

 俺の言葉に、四季先輩は呆れて頭に手を乗せる。

 

「もういいです。とにかく、貴方は今日から生徒会の一員として働いてください」

 

「…具体的には何するんですか」

 

「…そうですね。まず、この人物を探して来てください」

 

 四季先輩はケータイをいじり始め、画面を俺に見せる。画面に映っていたのは、この学校の女生徒。クセ毛の赤髪をツインテールにした女子。

 

「名前は小野塚小町(おのづかこまち)。2年生で副会長を務めていますが、彼女はどうも仕事をサボるクセがあります。そんな彼女を、ここに引っ張って来てください。おそらく、まだ学校の中にいると思います。探して来てください」

 

「小町、ですか…」

 

「えぇ。知り合いですか?」

 

「いや…」

 

 全くの他人だ。しかし、うちの妹と名前が被っていたため、少し驚いただけである。

 

「ていうか、そんなの四季先輩がその人にとっとと来いって言ったら…」

 

「あの子、サボる時はケータイの電源をオフにしてるのです。ここのところ、サボり方が上手くなってきています」

 

 なるほど、そんなサボり方があったのか。どうやら、小野塚という先輩は、サボり方を熟知しているようだ。

 

「そういうわけで、探して来てください。私は手元の書類で忙しいので、手が離せません」

 

「…了解しました」

 

 俺は生徒会室を出て、小野塚先輩を探し始める。だが、校内はそこそこ広い。絞って探さなければ、単純に苦労するだけだ。

 例えば、人目に付かないところだったりな。

 

「屋上から行ってみるか…」

 

 俺は屋上に続く階段を探した。未だに、校内を完全に把握していないため、手探り状態で探さなければならない。屋上に続く階段を探していた、そんな時。

 

「おっ、八幡!どこ行ってたんだよ?」

 

 霧雨やマーガトロイド、博麗が一緒になって、俺に声をかけてきた。

 

「あんた、稗田先生に呼び出しくらってたけど、何したの?」

 

「…まぁあれだ。作文再提出しろって言われてな」

 

「呼び出しくらうほどの酷い内容だったということなのね。全く、何をしてるのよ」

 

 マーガトロイドも呆れた表情でそう言った。

 俺も呼び出しくらうとは思わなかったんだよ。なんなら会心の出来だったんだよ。

 

「そうだ。あんた、これから暇?魔理沙が近くの駄菓子屋に行きたいって聞かないから……」

 

「悪い。今日は暇じゃない。じゃあな」

 

 俺はさっさと別れを告げて、再び小野塚先輩を探し始めた。少し、急ぎ足で探し始める。

 別に急を要するわけではない。ただ、とっとと見つけて帰らせて欲しいだけだ。

 

 少しすると、屋上への階段を見つけた。その階段を上がり、屋上への扉を開く。するとそこには、鞄を枕にして優雅に仰向けになって寝ている女生徒がいた。

 

 その人物は、クセ毛の赤髪をツインテールにしている。これだけの情報で、すぐ判別出来た。

 

 この人が、小野塚小町。

 

「あのー……すいません」

 

「…んー?なんだい、あんた。あたいになんか用?」

 

「生徒会に入った比企谷八幡なんですけど。会長に引っ張って来いって言われたんで」

 

「おっ、マジ?あんた新しく生徒会に入ったの?」

 

 小野塚先輩は会長のことよりも、俺が生徒会に入ったことに対して食いつきが早かった。

 

「強制的にですけど」

 

「強制的に?あんた一体何したんだい」

 

「それは知りません」

 

 作文の内容が不適切だったから生徒会に入れられましたーとか笑うしかない。

 

「まぁいいや。あたいは小野塚小町。八幡って言ったね?どうだい、あんたもサボらないかい?ここ、いい風吹いて気持ちいいんだよ」

 

 この人、本当に副会長で大丈夫なのだろうか。こんな人がいる生徒会は、本当に大丈夫なのだろうか。色々と大丈夫なのだろうか。

 

「どうせ後から生徒会室に行くし、あたいを探してて時間がかかりましたって言えば大丈夫大丈夫」

 

「はぁ…」

 

 小野塚先輩に言われるままに、俺はしばらく屋上で過ごすこととなった。俺は先輩から距離を置いて、その場に座り込む。

 

「なんでこっち来ないんだい?」

 

「別に近くにいく必要もないでしょう」

 

「それじゃあ話しにくいだろ。もっとこっちに来な」

 

 小野塚先輩が手招きする。少しだけ、俺は距離を詰めたが。

 

「そんなにあたいの近くにいるのが嫌なのかい?」

 

「嫌ではないですけど……抵抗感とかありません?」

 

 小学生の頃、比企谷菌と呼ばれて誰も近づかなかった記憶がある。近づいても、みんなが離れていく。

 それに、あんま女子の近くにいたくないんだよな。別に嫌なわけじゃない。ただ、めっちゃいい匂いするし、なんか申し訳ないし、逆にこっちに抵抗感が出るんだよ。

 

「あたいが来いって言ってんのに抵抗感もクソもないだろ。ほら、つまらないこと言ってないで、さっさと来な」

 

 小野塚先輩は俺の腕を掴んで無理矢理近くまで引き寄せた。近くにいると、小野塚先輩のメロンに目を奪われてしまう。これが万乳引力か。

 

「話してて分かったけどさ、あんた相当な人嫌いだろ」

 

「…まぁ、人間好きな人もいれば嫌いな人もいますし。俺の場合、嫌いな人の割合だけが高いだけです」

 

「人嫌いでひねくれてるときた……全く、可愛げない後輩が入って来たもんだね」

 

 小野塚先輩は雑に俺の頭を撫で始める。俺はすぐに頭を振って、小野塚先輩の手を退ける。

 

「照れてるのかい?もしかして、あまり女子に免疫がなかったりするのかい?」

 

「…免疫がないわけではないです。中学の時だって、俺はモテてたんですから。クラス替えでアドレス交換してるときに、ケータイ取り出してキョロキョロしてたら、"あっ、じ、じゃあ……交換しよっか"って声かけられるくらいはモテてましたよ」

 

「それはモテてないじゃないか。優しさって、時々残酷なものに変わるんだなぁ」

 

「哀れまないでください…」

 

 自分で言ってて悲しくてなってきたんだから。それからメールもしたが、「ごめーん、寝てたー。また連絡するねー」と、連絡を終わらせるときの決まり文句が送られてきた記憶がある。

 

 全く、健康的で奥ゆかしい子であったなぁ。なんだか涙が出てくるよ。

 

「じゃあ、あたいと連絡先交換しようか。LINEやってるだろ?」

 

 唐突に小野塚先輩はそう言い出した。おそらく、生徒会のこととかで連絡先を交換しようってことだろう。

 

「…別にいいですけど」

 

 俺は連絡先ではなく、ケータイ本体を小野塚先輩に渡す。

 

「あたいがやるんだね…」

 

「連絡先の登録の仕方とか知りませんし」

 

 さっき言っていた奥ゆかしい子にも、ほとんど任せっきりだったし。俺の連絡先は家族くらいだ。

 

 小野塚先輩は素早い手捌きで連絡先を登録していく。すると、彼女の手が不意に止まりだした。

 

「どうしたんすか?」

 

「あんたの連絡先に、小町って名前がいるからさ。あたいと同じ名前で驚いただけさ」

 

「それ、俺の妹なんです」

 

「へぇ。八幡の妹も小町って名前とは、妙な巡り合わせだね」

 

 そう感嘆の声を上げて、連絡先の登録を終わらせる。

 終わらせた小野塚先輩は、俺にケータイを返してくる。連絡先には、新たに"小町"という名で追加されていた。

 これでは、妹の小町と被って分かりづらい。後で小野塚って名前を変えておこう。

 

「今は何時だい?」

 

「もう夕方の5時ですよ?小町」

 

「え」

 

 俺が伝えたわけではない。

 

 では誰が?

 

 恐る恐る、後ろを振り向くと、そこには腕を組みながら仁王立ちでこちらを睨む、四季映姫先輩がいた。

 

「し、四季様ぁッ!」

 

「小町。毎度毎度、生徒会の仕事をほったらかしにするのはなんなんですか。それでも貴女は副会長ですか。副会長ならば、副会長らしく…」

 

 小野塚先輩は四季先輩に何度も土下座をしていた。え、この人そんなに怖いの?まさか命とか取られたりすんの?やだ俺まだ死にたくない。

 

 そう思い、俺はこっそり屋上から出て行こうとすると。

 

「何を逃げようとしてるんですか?貴方も同罪です」

 

 四季先輩は、俺の制服の襟を力強く掴む。

 俺も小野塚先輩と同じく、正座の体勢になり、四季先輩のありがたい説教を一時間も聞く羽目になってしまった。

 

 マジすんませんでした。

 

 


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