やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
紅魔館での仕事は終わった。
彼女達はいつもリムジンで学校に向かうため、俺より館を出るのが遅い。
先に館から出て行き、学校への道を歩いていると。
「八幡っ」
後ろから、陽気な声で誰かが俺を呼ぶ。振り返ると、そこには病みに病みまくった封獣ぬえがいた。
「今日からだね、命蓮寺に来るの」
「…そうだな」
紅魔館に続いて、今日から命蓮寺に住み込むこととなった。正直、不安しかない。理由は言わずもがな、この封獣がいるからだ。それこそ、命蓮寺にいる間は周りを警戒しないといけないレベル。いつ襲われるか分からんからだ。
「ただ、一旦家に帰らせてくれ。ここ一週間、小町と会ってないんだ。顔ぐらい出しておきたい」
「…分かった。でも八幡の家まで付いていくから」
「勝手にしろ。でもあんま小町の前に出るなよ。教育に悪いから色々と」
「何それ」
封獣はあからさまにムスッと頬を膨らませる。なんてあざといんだこいつは。そんなあざとキャラじゃなかっただろうが。
そんな封獣に悪態を吐きながらも、共に学校へと向かった。
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月曜日の学校はどうしても憂鬱になってしまう。休みを終えた次の日に学校だからだろうか、普段以上にやる気が出ない。
「今日の学校もかったるいわぁ……」
「そうか?私は全然だぜ?」
「いつも元気だしね。魔理沙は…」
学校が始まれば、このトリオの変わらない会話が目の前で繰り広げられる。
ホームルームまで時間あるし、マッカンでも買いに行こうかな。あれ飲んだら憂鬱な気分も少しはマシになるだろう。
思い立ったが吉日。俺は立ち上がり、学校に設置されている自動販売機に行こうとした。
「どこに行くんだ?」
「マッカン買いに自販機にな」
「あ、じゃあ私の分も買ってきて。緑茶で」
流石博麗さん。その厚かましさは自然体でしょうか。将来大物になれそうだね。
「少し喉が渇いてたし、私も行くわ」
マーガトロイドが行動を共にするようになった!テッテレー。
「じゃあ、行きましょうか」
そうして、俺とマーガトロイドは近くの自販機まで足を運ぶことにした。
道中、彼女との間に会話がなかった。マーガトロイドと二人というのは、なんだか久しぶりな気がする。
「…今回の試験、大丈夫そうなの?」
「え?…あぁ、まぁ大丈夫だろ。理系もなんやかんやで大丈夫だろうし。知らんけど」
「曖昧ね…」
今週が終われば、しばらく平穏に暮らすことが出来る。試験も終わって、さらに命蓮寺の仕事も終えてやっと我が家で過ごすことが出来る。
「来週からやっとゆっくり出来る…」
「けどすぐ、また行事があるじゃない」
「なんかあったか?」
「聞いてないの?再来週から2泊3日の勉強合宿があるって。確か数学の時間に言われていたけど」
なん、だと……!?
数学の時間って、俺が寝てる時じゃねぇか。そりゃあ聞いてなくて当然だけれども。
再来週は早過ぎる。しばらくゆっくり出来ると思った矢先にこれか。
あれ?ちょっと待って。
「勉強合宿ってことは、どっかの宿泊施設とかホテルとかで勉強するってことだよな」
「何当たり前のことを聞いてるのよ。確か神奈川県って聞いたわ」
「場所はどうでもいいけど。てことはあれよね。つまりお泊まりってことだよね」
「…何が聞きたいの?」
「や、俺、男」
「あ……」
俺の伝えたいことを理解したマーガトロイド。
説明しよう。極端に男女比が偏ったこの学校。1クラスが大体30人。そのうち、男子が10人程度ならば多い方である。しかし少なければ、2、3人程度。
だがよく思い出して欲しい。俺のクラス。
まだまだ知らない人物がいるとはいえ、周りは女子だらけ。IS学園の主人公状態だ。そして、この学校の教諭も全員、女教諭だ。
そんな中、突如聞かされた勉強合宿。勉強合宿とはいえ、みんなクラスメイトと泊まってワイワイしたりするだろう。ルームメイトと一緒に遊んだりするだろう。
しかし、俺は?
この男子一人という中で、合宿。泊まることになる。大体のルームメイトの人数は2、3人程度。広ければもう少し増えることだろう。
2、3人程度だろうがそれ以上だろうが、俺を待っている現実はただ一つ。
女子だらけの部屋で寝泊まりすること。
男教諭がいれば、その人物と寝泊まりしていただろう。あるいは、もう一人男子がうちのクラスにいれば、その男子と寝泊まりしていただろう。
ところがどっこい、現実は残酷なのです。
女子だらけの部屋で寝泊まりなんて夢みたいだーって思ってるやついるだろう。
そんなわけがない。女子から好かれていれば、両方ウィンウィンでハーレムになっているだろうが、嫌われている、またはあまり知らない男子と寝泊まりなんて、女子からしたら絶対に嫌なことだ。男子からしても、女子の知り合いがいなければ肩身が狭いのだ。
よし決めた。
「…休もう。多分体調不良になるから」
「何をバカなこと言ってるの。それを霊夢の前でも言える?彼女も貴方と同じ、面倒くさがりな人間なのよ」
「そんなつまらんこと言ってる場合じゃないだろ。仮に、だ。マーガトロイド、霧雨、博麗、そしてその中に俺が入って、寝泊まりするとしよう。お前は気にしないのか?つーか俺が気にするわ」
「別に気にしないわよ、そんなこと」
あれれー?おっかしいぞぉー?なーんで気にしないんだぁー?
「貴方が襲ってくるとは思えないしね。もし貴方が性欲の塊だったら、封獣ぬえの好意を利用して襲ってる可能性があるでしょ。それに、多分あの子達も気にしないわよ」
いつの間にか謎の信頼を得ていたんだが……。
「つーかお前がよくても俺は嫌なんだが。肩身狭いし落ち着いて寝ることが出来ん」
「仮に私達がルームメイトになったとして、そんなに嫌なの?結構一緒に長い時間いると思うのだけど」
「お前はもう少し嫌がってね?普通なら嫌なあまり涙するとこだぞ。女を泣かして俺も泣く的な」
「言ったでしょう。貴方はそんな人間じゃないって。だから嫌がる必要もないし。……それに」
「ん?」
「…八幡と一緒にいる時間、嫌じゃないもの。嫌がるわけがないわ」
謎の信頼と共に謎の好感度も得ていた私。あの、頬を赤らめると勘違いしてしまうからやめようね、それ。
そんなマーガトロイドの恥じらいの表情を見た俺も、多分顔を赤くしているだろう。
「まぁ肩身が狭くなるのはもうどうにもならないわ。諦めなさい」
「急にあっさり言ったなお前」
そろそろ胃腸薬が欲しくなってくるぞ。一旦家帰るときに、胃腸薬も持って行っとこ。
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今日も今日とて、変わらない一日を過ごした。そして今から、俺は命蓮寺の従者となる。
その前に、一度家に帰ることにする。一週間も小町の顔を見ていない。早く見たい。早く会いたい。
…これ禁断症状じゃね?小町依存症か俺は。
「それでね、今日の体育さ……」
隣では、封獣ぬえが絶え間なく話し続けている。ずっと話し続けて疲れないのかこいつは。
そんな彼女の話をしばらく聞き続け、我が家へと帰路を辿っていると、段々と我が家が見え始めた。
「久しぶりだな……」
一週間とはいえ、なんだか懐かしく感じる我が家。
「封獣はここで待ってろ。小町がお前を見たら面倒なことになる」
「えぇー」
ぶーぶーと文句を言う封獣を放置して、俺は玄関の扉を開いた。開けて入った途端、家の中でドタバタと駆け足のような音がする。
「お兄ちゃん!」
なんと、制服姿の小町が玄関まで走って迎えに来たのだ。
「おう、小町。ただいま」
「うん!おかえり、お兄ちゃんっ!」
何この笑顔めっちゃ癒されるわぁ。心の闇が取り払われるかと錯覚してしまうほどの女神の笑み。
やっぱ小町サイコー。
だがしかし。感動の再会も束の間で終わるのだ。
「今日の夜ご飯どうする?久しぶりに帰って来たし、今日はお兄ちゃんの好きなものを作ってしんぜよう!あ、これ小町的にポイント高くない?」
「悪いな。俺の分は作らんでいい。また一週間、家から離れる」
「えっ、そうなの……?なんで?」
この間は紅が小町に電話をかけて了承を貰ったが、今度は俺が小町に言わなければならない。たまに鋭いところがあるからな、こいつは。
「あー、あれだ。また友達のとこに泊まるんだよ。違う友達の」
安心しろ小町。俺に友達なんていない。
「また友達……?この間もそうだったけど、お兄ちゃん高校に入ってからなんかあったの?小町の知らぬ間に高校デビューとかいうのしたわけ?」
「違う。…まぁとりあえず、また家を空けるから。悪いな」
「…そっか。でも、中学の頃に比べたら大躍進だよね!お泊まりするくらい仲の深まった友達がお兄ちゃんにいるんだから!楽しんでおいでよ!」
本当は仲を深めるわけでもなく楽しんでくるわけもなく、泊まり込みで仕事をするという社畜の所業である。
「とりあえず、色々準備したらすぐに出るわ」
服や下着に関しては、封獣が何故か男物の服を用意しているから、まぁ必要はないだろう。
持っていくものは充電器と、予備の制服に体操服、それに胃腸薬ぐらいか。衣食住が最低限揃ってるなら、他には何もいらないだろう。
俺はすぐに準備を終えて、再びローファーに履き替える。
「じゃあな、小町」
「行ってらっしゃいっ!あっちで粗相なんてしたらダメだからね!」
「大丈夫だ。大人しく過ごすつもりだ」
俺は我が家を出ていき、待っていた封獣と再び、命蓮寺に向かって歩き始めた。
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「お兄ちゃん……」
またお兄ちゃんが家を空ける。お兄ちゃん曰く、友達だと言っていたのだけど、何か嘘くさい。小町に何か隠してることがある。
それが本当のことならば、それはそれで良いと小町は思う。お兄ちゃんのことを知って尚、付き合ってくれているんだから。
小学、中学の頃は今より違った。すっごい素直で、詐欺に引っかかるんじゃないかってくらい不安だった。
けど、そんな素直なお兄ちゃんはもういない。お兄ちゃんの周りが、お兄ちゃんの人格を変えてしまったんだ。お兄ちゃんは何も悪くないのに、みんながお兄ちゃんのことを嫌っている。
一度、告白もしたらしいがそれも大失敗。挙げ句の果てには、その告白は周りの笑いのネタになる始末。
勘違いしやすかったのは仕方ないことかも知れない。けど、人様が勇気を振り絞った告白を笑いものにするなんてあり得ない。
そんな苦い過去の積み重ねで、捻くれて面倒くさいお兄ちゃんが出来上がってしまった。相変わらず小町に甘いところは変わりないんだけど。そういうところは小町的にポイント高いかな。
だからお兄ちゃんに友達が出来たことは本当に良かったと思う。さっきも言った通り、お兄ちゃんが何か隠すために嘘をついてる可能性があるから、まだ断定は出来ないんだけど。
でも、最近のお兄ちゃんは帰りが遅くなった。生徒会に入ってから、帰ってくるのは夕方の6時とかになる。まぁ高校生にもなったんだから、当たり前っちゃ当たり前なんだけど。挙げ句の果てには、2週間も家を空けてしまう。
この間お兄ちゃんから電話がかかって来たが、知らない女の人の声がお兄ちゃんの友達だと言っていた。嫌われやすい謎属性持ちのお兄ちゃんのことを、友達だと言っていたので、その時はお泊まりすることをOKした。
でもまた、お泊まりでお兄ちゃんは家にいない。久しぶりに帰って来たと思ったら、すぐに家から出て行った。
「カーくん……」
リビングで転がっているネコのカーくんを撫でながら、お兄ちゃんのことをずっと考えていた。
お兄ちゃんは引くくらいのシスコン。リアルにこんなお兄ちゃんがいたら、妹は鬱陶しがると思う。だからそろそろ小町から離れないかなって常々思ってるんだけど。
「小町も大概だなぁ……」
たった2週間、お兄ちゃんがいないだけで、こんなに寂しくなるなんて。小町も当分、お兄ちゃん離れは出来ないかも。
…早く帰って来ないかな。
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命蓮寺に到着。いつもならば、ここで封獣とさよならバイバイするのだが、今日からは命蓮寺に泊まることになる。
「…今更なんだが、俺がここに来ることを聖さんは了承してるのか?家主みたいな感じなんだろ?」
「八幡なら泊まってもいいって言ってたよ。他の連中は知らないけど」
聖さんがいいならいい……わけではなくね?他の人達からの了承も一応いるくね?
「おっ、ぬえじゃん。何してんの?」
「ムラサ…」
封獣の名前を気さくに呼ぶ女の子が現れた。
学校の制服を、まるで水兵服かのように改造した制服を着用した、ウェーブをかけた短い黒髪の女の子。
その姿はまるで、海上を走る船の長である。
「おっ、君がぬえが度々言ってた八幡?」
「へ?あ、はい」
「私は
「比企谷八幡です」
「うん、よろしくね。とりあえず中に入って行きなよ。ずっと立ち話するのもなんだしさ」
そう促され、俺は命蓮寺の中へと入っていった。社会見学でもなければ、絶対に入ることはないであろう施設だ。少しだけ、楽しみにしている自分がいる。
中に入ると、なんだか屋敷と思わせる風景であった。村紗さんが先導して歩き、俺と封獣はそれに付いて行く。そして、村紗さんが途中で止まり、障子を開くと、聖さんがお茶を飲んで寛いでいた。
「お帰りなさい、ムラサ、ぬえ」
「おいっす、ただいまー」
「ただいま」
「ゴールデンウィーク以来ですね、比企谷さん」
「そうですね。お邪魔してます」
「いえいえ。今日からゆっくり、この寺でお寛ぎください。ぬえ、比企谷さんの部屋を案内して差し上げて。間違っても自分の部屋には連れて行かないように」
「…はーい。それじゃあ行こ、八幡」
封獣は俺の手をぎゅっと握って、部屋から連れて出て行く。しばらく廊下を歩いていき、俺が寝泊まりする部屋へと向かう。そして目的地に到着し、封獣が障子を開ける。
開かれた先にある部屋は、机だけがある何もない和室であった。
「客人用の部屋だから。襖を開けると布団があるから、寝るときはそこから出して。後、今日から私もここで寝るから」
「何を言ってんの?」
「自分の部屋に連れて行くなとは言われたけど、八幡の部屋に行くなとは言われてないからね。1週間も八幡がここにいるんだよ?八幡がここにいる間は、私ずっと八幡の隣にいるから」
「嘘だろ……」
「あ、心配しなくても私からは襲わないよ。
あからさまに含みのある言い方をする封獣。
「もし八幡がそういうことをシたいと思ったのなら……」
封獣はすかさず、俺の耳元で囁く。
「私のこと、好きにしていいよ」
男を誘惑する破壊力のあるセリフ。
こいつ、自分からは襲わない代わりに俺から襲うように仕向けようとする。おそらくこの1週間、ハニートラップなるものを仕掛けてくるに違いない。普段よりスキンシップも激しくなるだろう。
理性をセーブしろ比企谷八幡。たった一回の過ちが、この先の人生を左右するのだ。
絶対に、こいつの思惑通りになってたまるものか。
…これ本当にラブコメの小説なのかな。