やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
命蓮寺の中を一通り案内してもらった後、俺は客人用の部屋、つまり一時的な俺の部屋に戻った。勿論、封獣も付いてくる。
試験は明後日から。俺は机に教科書やノートを置いて、試験勉強を始めた。文系はなんとかなるが、理数系はどうにもならん。そう思い、赤点を取らないように勉強を行なったのだが。
「八幡って字綺麗だよね」
隣でずっと俺の勉強姿を見つめている。じっと見つめられていると集中力が削がれてしまう。
「お前は勉強しないのかよ」
「私は大丈夫だよ。大体全教科70点以上は取ってるから」
地味に頭良いのかよこいつ。
「理数系苦手なんでしょ?私が教えてあげよっか?」
「いらねぇ。それを盾に嫌な要求をされかねん」
「ちぇっ」
ここで教えを乞うてもらおうものなら、やばい要求をされるのが目に見えてる。例えば、俺との性行為とかな。自分で言ってて恥ずかしいが、ゴールデンウィークのことがあるから、ないとは言い切れない。
何考えてるか分からない以上、こいつに弱みを見せるわけにはいかない。借りを作るわけにもいかない。
「ひーまー」
「じゃあ自分の部屋に戻れよ。なんでいるんだよ」
そんな俺の返しに、封獣は「え、何言ってるの?アホなの?死ぬの?」と言いたげな表情をしていた。
「言ったでしょ。今日からはずっと八幡と一緒にいるの。こうやって話すときも、お風呂に入るときも、寝るときもね」
「風呂と寝るときはやめて?思春期男子に毒だからやめて?」
「やーだっ。にひひっ」
クソッ。このメンヘラめ。
仕方ない。イヤホンを付けてでも、勉強に集中しよう。俺はポケットからイヤホンを取り出して、音楽を流そうとしたのだが。
「ダメだよ。音楽聴きながらじゃ、歌詞の方に集中しちゃって勉強なんて出来ないよ」
正論だよちくしょうが。大体こんな手を使わせたのは一体どこのどいつだ名を名乗れ。
「そんなに何か聴きながら勉強したいなら……」
封獣が背後から俺の両肩に手を置いて、耳元で囁き始めた。
「私の声を聴きながら勉強しよ?」
「却下だアホが。余計勉強しづらくなっちゃうじゃねぇか」
そんなちょっとエロいASMRなんて求めてねぇよ。
「はぁ……」
この調子じゃ、今は勉強出来ない。ゴールデンウィークの時のように少し脅すか…?いや、そうしたら騒ぎになって面倒なことになりかねない。しかし、勉強しなければ間違いなく赤点を取る。
「頼むから勉強させてくれない?別に部屋にいるのは構わんけど、ずっと話しかけられると気が散って勉強出来ない」
「…じゃあ終わったらかまって?勉強した分、私にかまってよ」
「前向きに検討する」
大体人の勉強を邪魔するな。こちとら赤点回避のために理数系を必死にやってんだぞ。
とりあえず、一旦封獣は静かになったため、その隙に勉強を始めた。ずっと見られていることは気にしないでおこう。
「また落としたのか、ご主人?」
「はい……どうしましょう……」
何やら表が騒がしい。何かあったのだろうか。
「また宝塔落としたんだ……」
封獣は呆れたように呟いた。というか宝塔を落とすってなんだ。
まぁ何を落としたのかは知らんが俺には関係のないことだ。大人しく勉強してよう。
「何騒いでんの」
封獣が障子を開けて騒ぎの中心に声をかけた。
「ご主人が宝塔を落としたんだ。これでもう60回目だぞ」
落としすぎだろ。いい加減管理能力上がらんのか。
「…そういえば、何故客人用の部屋から出てきた?誰か客人がいるのか?」
「そういや言ってなかったね。八幡、来て」
うわ面倒くさい。だが、これから1週間同じ施設で過ごす人間だ。話さないとはいえ、邪険にする必要もないか。俺は一旦手を止めて、客人用の部屋から出る。
表には、二人の女の人がいた。一人は金と黒の混ざったショートに、花を模した飾りを付けている者。そしてもう一人は、レミリアお嬢様や四季先輩のように背が小さく、ダークグレーのクセ毛のセミロングの髪型をした者。
この二人が騒ぎの原因か。
「…比企谷八幡です」
「比企谷……。あぁ、聖から話は聞いてますよ。ぬえの件、ありがとうございました」
「む、この者が?」
「えぇ。改めまして、命蓮寺へようこそ。3年の
「2年のナズーリンだ。よろしく頼む」
寅丸先輩に、ナズーリン先輩と、各々簡単な自己紹介をしてもらった。さて、一体何の騒ぎだったのだろうか。宝塔というキーワードしか聞こえなかったのだが。
「それで?また宝塔を落としたの?」
「はい……面目ありません…」
寅丸先輩がシュンと分かりやすく落ち込む。
「宝塔って、仏塔の建築形式の一つだろ。落としたってどういう意味だ?」
「君は宝塔に詳しいのか?」
「社会はそこそこ出来るんで」
といっても完璧に把握してるわけじゃない。形が串刺しのおでんに似ていたから、少し気になって調べただけだ。
「知っているのなら話は早い。彼女は宝塔を落としたんだ。…といっても、見た目が宝塔というだけで、使い方としてはランプみたいなものだ」
「なんでそんなもんずっと持ち歩いてるんですか……」
60回も落としたということは、少なくとも60回は持ち歩いているということ。中身が懐中電灯ならば余計に持って歩く必要はないだろ。
「さてね。にしても、ご主人の管理能力の低さには参るよ。この間も、"あぁーっ!バッグ・クロージャー失くしましたー!"って言っていたし」
「バッグ・クロージャー?何それ、映画?」
「多分それトゥ・ザ・フューチャーだな。ナズーリン先輩が言ってんのはパンに付いてるプラスチックのあれだ。止めるやつ」
「あれそんな名前だったんだ…」
つか、それ失くしても輪ゴムとかで代用しろよ。そんな重宝するようなもんじゃないぞあれ。
「ともかく、管理能力の無いご主人の落とし物を毎回毎回私が探しに行かなければならない。困ったものだ」
「すみません……」
「いつか寺の鍵失くされそうで怖いよね」
もうやめてやれ。彼女のライフはとっくにゼロよ。これ以上はオーバーキルになる。
「ぬえ達も手伝ってくれないか?人手が多いと助かるのだが……」
「自業自得でしょ。勝手にやってなよ」
「そこをなんとか頼まれてくれないか。正直、もう私だけでは疲れるのだ……」
ナズーリン先輩は頭を下げて懇願する。ここまで頼まれると、断りづらい。
「……丁度、マッカンを買いに行きたかったので。それのついでであれば、別にいいですよ」
「本当申し訳ありません。客人にご迷惑をおかけして……」
「すまないな。して、ぬえは…」
「八幡が手伝うなら私も手伝うよ」
素晴らしいほどの手のひら返し。清々しいな全く。この凄まじい手のひら返しに、寅丸先輩もナズーリン先輩も怪訝な表情をしている。そんな表情に対して、封獣は睨む。
「…何?」
「いや、すまない。余程、比企谷のことを慕っているのだなと、思っただけだ」
「八幡の言うことは絶対だから。私はそれに付いていくだけ」
「そ、そうか……まぁ手伝ってくれるなら何も言うまい。では改めてご主人の宝塔を探しに行くのだが……どこで失くしたとかは当然…」
「覚えてないです」
「…だろうな」
落とし過ぎてこれが彼女達の当たり前の日常となっているのだろうか。大体当然のように宝塔を無くすなよ。サイズはどれくらいは知らんけど懐中電灯ならそこそこ分かるだろ。なんで無くした場所忘れんだよ。
「ではいつものように、ご主人がその場にいた場所をしらみつぶしに当たるしかない。まだ学校は開いているだろうから、早いところ行こう」
こうして再び、宝塔を探すために学校へと戻った。
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夕焼けの学校へと戻ってきました。試験期間だというのに部活を行う者、残って勉強を行う者など、そこそこ生徒が残っている。
「ご主人、今日赴いた場所は?」
「3階にある私の教室と女子トイレ、体育館に女子更衣室……あと食堂ぐらいです」
体育館ってことは、おそらく体育だったのだろう。そのための女子更衣室だ。ということは、体育館に宝塔がある可能性は低い。懐中電灯を体育に持って行くか?答えは否である。
「女子更衣室周辺はぬえが、教室と女子トイレ周辺はご主人が。食堂は私が行く。比企谷は体育館に向かってくれ」
「私と八幡が離れるとか嫌なんだけど」
「効率重視の結果だ。それに、男性である比企谷を女子更衣室に向かわせるのは違うだろう。どうせ後で合流するのだから我慢してくれ」
「……分かったよ」
「正門でまた合流するとしよう。見つけ次第、私に連絡してくれ。比企谷はぬえに連絡してくれ」
「いつでも連絡OKだよ、八幡っ」
「そんな連絡しねぇよ」
「では解散」
俺達は解散し、各々が向かう場所へと歩いていった。俺は体育館周辺を探すことになった。
体育館に到着し、俺はまず体育館の周りを散策することにした。しかし、宝塔らしきものは見つからない。まぁ目立つ場所にあったのなら、誰かが落とし物専用箱とかに置いているだろう。
「はぁッ!はぁッ!」
体育館から誰かの発声が聞こえる。聞いた感じ部活生の誰かだろうか。体育館の入り口からこっそり覗いていると、剣道の防具を身にした白髪のおかっぱボブの女子生徒が、素振りをしている。なんかどっかで見たことある。
彼女以外に人はいない。ということは、自主練習か。
部活が終わるには時間がまだ早い。部活が休みの中でも、自主練習しているということになる。
彼女は一旦素振りをやめ、いろはすを飲み始めた。その時にこちらに振り向き、俺の存在を確認した。
「…誰ですか?」
「あ、えっと……比企谷八幡です。ちょっとこの体育館に用があって、少しだけ入っていいですかね」
「どうぞ。お構いなく」
俺はローファーを脱いで、体育館の中へと入る。パッと見渡した感じ、宝塔はない。念のために、倉庫とか舞台の裏側も探しておこう。
「…よければ、私も手伝いましょうか?」
「へ?」
剣道少女がそう買って出る。
しかし、流石に見知らぬ人間に手伝わせるわけにはいかない。
「や、大丈夫です。さっさと探してさっさと出て行くんで」
練習の邪魔だから手伝ってさっさと出て行ってもらおうって魂胆か。だとしたら迷惑をかけてんな。
引き続き、俺は体育館の倉庫の中を探す。だが、予想通りここもない。次に舞台裏を探すが、ここもない。となると、やはり体育館に宝塔はないか。
「終わったんでさっさと出て行きますね」
俺はこれ以上彼女の邪魔にならないように急いで体育館から出ようとしたのだが。
「…待ってください」
何故か彼女に引き止められる。
「私の名前をまだ名乗っていませんでした。私は
同期だったのか、このおかっぱちゃんは。
ていうかよくよく見ればこのおかっぱちゃん、この間サイゼで怒号を飛ばしてたやつじゃねぇか。
「貴方の噂は聞いています。F組唯一の男で、あの封獣ぬえを更生させたという」
そんな噂が流れてることを知らなかった今日この頃。
「実は私も彼女に様々な悪戯をされたんです」
こいつも封獣の被害者だったのか…。少しだけ、封獣に悪戯されたことに同情してしまう。
「椅子の上にブーブークッションを敷かれたり」
それは恥ずかしいわな。
「私の水筒の中にハバネロを入れたり!」
それは辛いわな。
「砂糖だって騙されてコーヒーに塩を入れてしまったり!!」
最後。本当に封獣のせいなのだろうか?
というか、何回もやられているのを学習しないのかこの子は。
「本当、今まで迷惑していたんです……」
「そうだったのか…」
そのご迷惑をおかけした悪戯っ子と、今では同じ屋根の下で寝泊まりする状況と化したのだが。
「…それにしてもあれだな。試験期間中だってのに自主練とは、余程剣道が好きなのか?」
「好き……というか、護衛のためです」
「護衛?」
「幽々子様……うちの主人を守るために身につけたに過ぎません。幽々子様に近づく悪い輩を、この竹刀でこうバシッと」
それ空手と柔道で良くね?
ていうか往来でその幽々子?って人に近づくやつに対して竹刀で叩くとか怖ぇよ。
しかしあれだな。おかっぱのボブカットに剣道部に属している少女って、どこぞの妹みたいだ。明確に違うところと言えば、髪の色と身体のどこかである。どこかとは言わんけど。
「…そうか。まぁなんだ。頑張れ」
「ありがとうございます。それより、探し物は見つかったんですか?」
「いや全く。とりあえず邪魔したようだし帰るわ」
俺は体育館の出口を出て、集合場所である正門で一人、彼女達を待つことにした。
しばらくして、みんなが正門に戻ってくるが。
「どうやら見つからなかったようだ」
「完全に無駄足だったね」
「…はぁ……」
この感じだと、命蓮寺に帰るのはいつになるだろうか。最悪、警察に誰かが届けてくれていたらいいのだが。
「私達が来た登下校の道にも落ちていなかった。今日は私と一緒に帰ったが、寄り道などしていないし、道に落としたということもなかった」
「ていうか、あんなランプまた買えばいい話じゃないの?ああいう珍しいやつならドンキとかで売ってそうだけど」
「あれ、実は一点ものなんです。霖之助さんから買い取ったんですよ」
「あぁ、あの古道具屋ね」
「といっても、あのような古道具がまた売っているとは思えない。誰かが警察に届けてくれているといいのだが……」
「その心配はいらないわ」
ナズーリン先輩の言葉に、この場の誰でもない者が返答する。この短い声だけで、俺は今すぐ回れ右して帰りたくなった。
何故なら、その場に現れたのは。
「校長!?それに、八雲先生!?」
八雲紫校長に八雲藍先生が現れたのだ。
「職員室に妙な物が届いたのでな。宝塔のような形をしているし、話から聞いて、探し物はこれだろう?」
「あ、そうですそうです!届けてくださってありがとうございます!」
「ふっ、礼には及ばないさ」
これで寅丸先輩の探し物は終わりだ。さて、一足先に命蓮寺に帰るとしよう。
俺は先に正門を出ようと足を踏み出すと。
「そう逃げることないじゃない。そんなに私が怖いかしら?」
八雲校長が逃すまいと、俺の肩を掴んで引き止める。
怖いか怖くないかという問いに対して私が答えるのは、怖い、です。こんな胡散臭い人間、関わらない方が身のために決まってる。
「折角こうして出逢ったもの。少しくらいお話ししましょうよ」
しかし、忘れてはならない。この場には、良い意味でも悪い意味でも空気を読まないヤンデレちゃんがいることを。
「私の八幡にベタベタ触るなよババア。いい歳した教師が生徒を誘惑するとか、淫乱教師じゃん」
「…うふふ。そういう生意気なところは変わらないのね、封獣ぬえ。少しは変わったのかと思ったのだけれど、そうでもなかったみたいね。先生に向かってその言葉遣いは乱暴よ?」
「は?知らないしそんなこと。いいから離れろっつってんの。エロババアが。ババアはとっととお茶でも飲んでたら?」
封獣は校長に対しても変わらず、我を貫き通す。ていうか、あまり校長にババアって言わない方がいいと思うんですが。
「ババアババア連呼し過ぎなのよ小娘が。えぇ?貴女の目の前にいる人物が誰だか分かってるの?この学校の校長、八雲紫よ」
ほーら怒った。こめかみめっちゃピクピクしてるじゃねぇか。
この人を前に年齢の話はタブーなのだ。原作のように、ファーストブリットが飛んでくるわけではないのだが、神すら恐れるであろう冷酷な瞳が死を思わせるのだ。
つまりクソ怖いってことだ。
「まだ私はアラサーではないのよ。したがってババアじゃないのよ?お姉さんよ、お・ね・え・さ・ん。ババアじゃないの」
大事なことだから二回言いましたよこの人。
「紫様、その言い訳はちょっと苦しいかと。というかもう立派なアラ……」
「ん?」
「な、なんでもありません」
側近の八雲先生ですら一睨みでKOだ。誰がこの人を止めれるのだろうか。
「ねぇ、比企谷くん。私って、そんなに老けているように見えるかしら?魅力あるお姉さんよね?」
「え」
「そんなことないよね八幡。こんなババア、全く魅力ないよね」
「え」
すると唐突に、俺に話を振ってくる。
だから唐突に話を振ってこないで?どういう対応が正解なのか分っかんねぇんだよ。
「仮に、仮によ?私が校長でなければ、貴方は私のことを好きになってしまうわよね?こんなに美しいお姉さんがいたのなら、真っ先に告白したくなるわよね」
「そういうキモい妄想は家でやってよ。ねぇ八幡?八幡はいつだって、私を選んでくれるよね?私だけを見てくれるよね?こんなババアのこと、付き合うどころか見向きすらしないもんね?」
なんかよく分からん二択を迫られている私、比企谷八幡。
さて、考えてみよう。どうやって、ノーダメージでこの場面を脱することが出来るのか。
ではまず、八雲校長の言葉に賛同してみたとしよう。
『あらあら。やはり比企谷くんはお姉さんのことが好きなのね?こんな小娘じゃなくて、美しいお姉さんである私のことが』
『え?八幡なんで?おかしくない?こんなババア選ぶとかラリってんの?八幡には私がいるじゃん。八幡はこんなババアがいいの?え、意味分かんない。八幡は私だけいればいいでしょ?ねぇ?』
ヤンデレ封獣に詰め寄られてアウトになる。だから校長に賛同する選択はノーだ。
では逆に、封獣の言い分に賛同してみたとしよう。
『だよね?こんなババアより私を選ぶもんね。これってもう私達好き同士だよね。恋人同士だよね。高校卒業したら、結婚しようねっ』
『私のことババアと思っていたのね。あらあらあら……………心外ねぇ』
夜道を怯えて歩かなきゃならなくなってしまう。それどころか、学校の中ですら怯えなきゃならんくなる。ていうかまた封獣に詰め寄られるのかよ。
まぁ要するに。
これどっちもオワタ。
「八幡は」
「誰を選ぶのかしら?」
どっちを選んでもアウトの完全無理ゲーな選択肢。一体どうしろってんだ。
「えっと……」
二人は更に詰め寄ってくる。彼女達の目付きは、鋭く、獲物を捉えるかのような目付きと化している。
絶対絶命になったそんな時。
「そこまでだ」
「そこまでです」
封獣をナズーリン先輩が、校長を八雲先生が同時に引き止める。
「比企谷が困っているだろ。やめてやれ」
「紫様。生徒相手に何ムキになってるんですか…」
あ、危なかった…。下手なホラーより怖ぇよこれ。
「すまんな、比企谷。それに八雲先生も」
「いや、こちらにも非がある。紫様の無礼を謝罪したい」
「なんで謝んの?別に私悪いことしてないじゃん」
「数分前の自分を省みろ馬鹿者」
「藍、なんで止めるのよ。あいつ、私をババアって言ったのよババアって。生徒が校長に向かってババアとか退学ものでしょう」
「封獣ぬえの無礼は目に余りますが、もっと大人な対応をしてください。仮にも校長でしょう?」
ナズーリン先輩と八雲先生は、身内に向かって説教をしている。俺が安堵を吐いているところに、寅丸先輩が心配そうに駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、はい。まぁ、新しいトラウマが出来かけたくらいで……」
「それ全然大丈夫じゃない!?」
いや本当。すごい目付きで詰め寄られたらトラウマ出来るって。いくら顔が整ってるからって、行動がもう化け物のそれだよ。
「とにかく帰るぞ。ご主人の宝塔も見つかったのだから、長居は無用だ」
「紫様も。まだ仕事があるのですから」
「チッ…」
「チッ、じゃありません。…では、私達は戻る。気をつけて帰るんだぞ」
八雲先生は校長の腕を強引に引っ張って、校舎の中へと戻っていく。去り際の校長先生は、普段と違ってなんだか不恰好に見えた。
「では私達も命蓮寺に戻ろう。行くぞ、ぬえ」
「あのババア……今度会ったら絶対ぶっころ……」
「やめないか馬鹿者」
「あうっ」
ナズーリン先輩は、校長に対する敵意剥き出しの封獣の頭を引っ叩き、強引に引っ張って、元来た道を辿って歩く。そんな、先に進む彼女達の後ろ姿を見た俺と寅丸先輩は、同時に笑みをこぼした。
本当、いつだって俺の周りは騒がしいな。