やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
寅丸先輩の宝塔を探し終えた俺達は、命蓮寺へと戻った。精神的に疲れた俺は、帰るとすぐに部屋に戻って大の字で寝転がる。紅魔館同様、よその家に上がると何か起きるのは一体なんなんだ。
「八幡、ご飯出来たって」
疲れを癒していた俺のところに、封獣が障子をガラガラと開けて用を伝えに来る。重く感じる身体を起こして、命蓮寺の人間達がいる大部屋へと移動する。
「八幡連れてきたよ」
「ありがとう、ぬえ。…お待たせしました、比企谷さん。どうぞ、お座りください」
「は、はぁ…」
目の前に広がるのは、長い座卓の上に置かれた様々なご馳走。紅魔館のような洋食メインではなく、反対に当たる和食メインである。
脂の乗った刺身に、茶碗蒸し、胡瓜の和物、高野豆腐と海老の煮物に、鮎の塩焼き、エトセトラエトセトラ。懐石料理かこれは。
「ほら、八幡は私の隣だよ。早く座って」
その料理に圧巻されたまま、封獣の隣に腰をかける。こんな豪華な料理、小町が発狂すんぞ。
「さて、比企谷さんも座ったようですので、皆さんいただきましょうか」
手を合わせて、いただきます、と。まず最初に、前菜であろう枝豆のくず寄せをいただく。
「お味の方はいかがです?」
「めっちゃ美味いです」
「それは良かった」
十六夜の料理と大差ないレベル。そこらの和食専門店で出せば、金を稼げることだろう。
「いつもこんな料理を?」
「今日は特別だよ。客人には慈悲深くもてなすように、ってね。因みに、この鮎と刺身は私が釣って来たやつね」
「え、釣って来たんですか?」
「私、漁師とはちょっとした繋がりがあってね。休日なんかは、その漁師を手伝って、海に出たりするのさ」
村紗さん、って名前だったなこの人。
漁師とのパイプを持っているのも驚きだが、女子高生ながらその漁師と同じ所業を行なっていることにも驚いた。きっと将来は、立派な漁師になっていることだろう。目指すかどうかはさておいて。
「八幡、あーんしてあげる。ほら、口開けて?」
「いらんわ。自分で食えるっつの」
この刺身マジで美味い。なんというか、これ飲めるんだけど。脂凄ぇ。
「喜んでいるようで、何よりですね」
「…そうじゃの」
俺の向かいには、全く知らない人物が座っていた。一人は、スキンヘッドでフサフサの髭を生やしているいかついおじさん。もう一人は、空色の髪に、灰色がかった黒眼をしており、頭には尼を思わせる紺色の頭巾を被った女性である。
「そういえばまだ自己紹介をしていませんでしたね。私は
「どうも」
もうキラキラネームだの奇妙な名前だのは言わない。もうそれが常識と思った方がいいと、判断せざるを得なかった。
「それにしても、ご主人の管理能力の低さには参る…」
「星、また宝塔を落としたのですか?」
「えっと……あはは…」
いやぁマジで美味いなぁこれ。生きて来た中でトップランクに入るレベルの美味さだ。まぁ一番美味いのは、小町の手作りなんだけどな。今の八幡的にポイント高いな。
そうして、俺は命蓮寺からのご馳走を美味しく平らげた。
「お腹いっぱい…。ねぇ八幡、一緒にお風呂入ろ?」
「何を言っているのですか貴女は。そんなことは許されません」
「別に許さなくてもいいよ。八幡と一緒に入れたらなんでもいい」
「ダメです。この間の比企谷さんの宅に伺うことや命蓮寺に泊めることは認めましたが、決してそういったふしだらな行為を容認したわけではありません」
「いいじゃん。どうせいずれ付き合って結婚するんだから」
「そうやって比企谷さんの意思を無視した好意はやめなさい。比企谷さんのことを好いていることは分かりますが、だからといって自由にさせるわけにはいきません」
さっきまで騒がしかったこの大部屋が一転して、封獣と聖さん以外静かになる。
「ちょーっとストップストップ。客の目の前で何言い争ってんのさ」
封獣と聖さんとの間に村紗さんが割り込んで、言い争いを静止させる。
「…そうですね。見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありません」
「えっと、大丈夫です」
「ぬえは私とお風呂に入ろうか。偶には誰かと入るのもいいもんだよ」
村紗さんは封獣の首根っこを掴んで、大部屋から出て行く。聖さんは食器を積み重ねて、食器洗いの準備を進めていた。
「あっ、俺も手伝います」
「いや、いいさ。客人に手伝わせるわけにはいかないよ」
「流石に1週間泊めてもらうわけなんで、手伝い無しは気がひけるっていうか…」
「…そうか。なら、聖と共に皿洗いを手伝ってくれ。今丁度、皿洗いを始めたところだろう」
「分かりました」
台所へと向かって、皿洗いをしている聖さんに声をかけた。
「お客様に手伝わせるだなんて、そんな恐れ多いですよ」
「他人の家で食って寝てだけじゃあ流石にまずいと思ったんで。それに、俺は養われる気はあっても、施しを受ける気はありません」
「何か違いがありますか、それ。…分かりました。比企谷さんの厚意を無碍にするわけにはいきませんし、手伝ってもらうとしましょう」
こうして、俺は聖さんと共に皿洗いを行うこととなった。
みんなは他人の家でご飯を食べた時、皿洗いを手伝おうというアピールはしておくことだ。まぁ最も、俺は他人の家に上がるっていう経験が今までなかったわけなんですが。
「そういえば明後日から試験だと聞いていますが。比企谷さんは大丈夫なんですか?」
「文系は大体大丈夫です。理数系は赤点さえ免れれば…」
「ではこの後、私が教えて差し上げましょう」
「え?」
「いいですか、比企谷さん。赤点さえ取らなければいいという気概で試験に挑んではいけません。試験とは自分が今まで得た知識を試すものなのです。そのようなやり方では近い将来、苦しい思いをするのは貴方ですよ」
「は、はい…」
「残りの二日と数時間、私が貴方の知識を伸ばして差し上げます。いいですね?」
「う、うっす」
こうして残り二日と数時間、聖さんと共に勉強を行うことになってしまった。
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皿洗いを手伝い終えた俺は、そのまま部屋で聖さんに教えられながら勉強を始めていた。
「ふむ…確かに、文系の方は問題ないようですね。私が教えなければならないところは特になさそうですし、慢心のないように精進しなさい」
「は、はい…」
「次は数学です。とりあえず、この問題集を解いてください」
聖さんは、数学専用の問題集を机に置く。雲居さんと雲山さん以外は生徒なので、その生徒のために命蓮寺には問題集を粗方揃えてあるらしい。
さっきまで国語や社会などの勉強をしていたのも、命蓮寺に揃えてある問題集なのだ。
数十分後。
「…終わりました」
「よろしい。では採点が終わるまで、少し休憩してください」
聖さんは俺が解いた部分を採点し始める。そのうちに、俺は机に頭を乗せて休憩させる。
「八幡っ、一緒に………って、なんで聖がいるの」
勢いよく封獣が障子を開けて、部屋に入ってきた。しかし、聖さんの姿を見るや否や、すぐさま怪訝な表情を見せる。
「比企谷さんは今、私が教えているのです。ぬえは自分の部屋に戻っていなさい」
「じゃあ、私が八幡に教えてあげるよ。私の成績、知らないわけじゃないでしょ?」
「それは許可出来ません。貴女と比企谷さんを二人きりにさせては、危険が生じる可能性があります」
「危険って…別に何もないって」
「では問いますが、何故そこまで二人きりになりたいのですか?」
「そりゃあ、二人じゃないと八幡とラブラブ出来ないじゃん。八幡を誘惑して、あわよくばセックスって流れに持っていけないじゃんか」
「そういうところです」
聖さんはこめかみに手を当てて、溜め息を吐く。
前から思ったんだけど、JKが軽々しくセックスとか言わないで欲しい。思春期男子には心臓に悪いよ。
「一度、ぬえには説教する必要がありますね。それはまた今度にするとして、とりあえず比企谷さんと二人きりは許可出来ません。今日から比企谷さんがいる間、村紗の部屋で寝なさい」
「絶対嫌。八幡と一緒に寝たい。ね、八幡もそうだよね?」
「いや、この流れでOKを出すわけないだろ。せめてこの部屋にいる間は一人にしてくれ。毎回毎回誘惑してくると、精神的にしんどい」
「まさか、私のこと、嫌いに……」
「なったわけじゃない。が、聖さんの言うことも聞けないやつを肯定する理由はない。今まで聖さんとかに迷惑をかけたんなら、せめて聖さんの言うことくらい最低限聞いたらどうだって話だ」
「…折角、八幡と一緒に過ごせるのに……」
あからさまに封獣は気を落とす。
多分、封獣はこの1週間を楽しみにしていたのだろう。だが俺としては、いらんことに巻き込まれたのだ。紅魔館の正門で言い争ったあの時、その場凌ぎで命蓮寺に泊まるという案を出したに過ぎなかった。因果応報だが、本心を言えばさっさと家に帰りたいのだ。
これで聞いてくれるなら助かるのだが、拗れに拗れまくった封獣には聞きたくもない言葉だろう。
「…電話」
「え?」
「今までみたいに電話するくらいなら、別に構わない」
「いいの!?」
たったのこれだけで、封獣のテンションは一気に上がった。なんていうか、ここまで単純過ぎるのも心配ものだ。
「ただし、試験もすぐだ。時間制限は2時間程度。夜中の12時以降からは相手にしない。それに、聖さんの教えてもらう時間帯にもよる。それでもいいなら、別に構わない」
「いいよそれで!あ、そうだ。聖、私も勉強教えてよ!」
封獣は聖さんに、勉強の教えを乞うた。彼女の行動には何かあると考えた聖さんは、理由を尋ねる。
「…どうして?」
「だって、八幡と長く一緒にいたいんだもん。聖がいるなら八幡と二人きりじゃない。勉強の邪魔はしないから、いいよね?」
確かに、理屈は通っている。封獣の訴えに、聖さんは少し考える素振りを見せる。そして。
「…分かりました。ですが少しでもおかしな動きがあれば、この話は無しにします。いいですね?」
「うん、分かったっ」
こうして、これからの命蓮寺での過ごし方が粗方決まった。
帰宅してから、家庭教師(仮)の聖さんの授業を、封獣と共に受ける。そして時間帯によるが、封獣との2時間程度の通話を行う。
俺がゆっくり出来る時間は、風呂と寝るときくらいだろう。なかなかにハードスケジュールだ。
「…はぁ…」
最近、溜め息を吐くことが多くなった気がする。精神的疲労が大きいのだろうか。
早く我が家で篭りたい。
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翌日。中間試験前日になる。
昨日は結局、12時過ぎぐらいに眠りについたのだが、全く寝た気がしない。いつもより早く起こされてしまうのもあるのだが、聖さんの授業や封獣との電話。それに加えて寅丸先輩の宝塔探しもあって、色々と溜まっていた疲労が未だに取れていないのだ。
「八幡、どうしたの?眠たいの?」
「昨日より目に光がないが……大丈夫か?」
「…普段から目はアレなんで。気にしないでください」
封獣にナズーリン先輩、村紗先輩、そして寅丸先輩と共に登校している。こうして誰かと話しながら登校するのなんて、いつ以来だろうか。小学生の頃、集団登校なのに置いていかれた記憶がある。あの時は道が分からなくて泣いたっけか。
「そういえば、再来週からぬえ達は勉強合宿に行くんだっけ」
「もうそんな時期ですか……懐かしいですね」
先に体験したことのある先輩達は懐かしんでいた。
「全クラスで同じ旅館に泊まることは出来ないから、例年通りなら無差別にクラスを分けて別々の旅館に泊まることになる。つまり、ぬえと比企谷が必ずしも同じ旅館になるわけではないということだ」
「なる。ていうか私がさせる。ならなかったら教師達に直談判して…」
「やるなよ馬鹿者」
封獣が言い切る前にナズーリン先輩が口を挟む。こいつ俺のことになると行動力がマッハになるのはなんなの。
そうこうしていると、校舎が見えてくる。正門をくぐり、先輩達とは玄関入り口で別れて、教室まで封獣と一緒に歩いて行く。そして、先に封獣のクラスに到着する。
「じゃ、また後でね。八幡っ」
「おう」
封獣は屈託のない笑みを向け、教室に入って行く。
封獣を見送った俺は、自分の教室に向かう。封獣の教室と俺の教室までは大差ない。だから向かおうとした瞬間、自分の教室の前で誰かが鞄の中をぶちまけたのを見てしまったのである。
「いった……」
どうやら、躓いた衝撃で鞄が開いてしまったのだろう。チャック式ではなく、磁石で閉まる鞄なので、衝撃の具合次第では開いてしまうのだ。躓いた女子は、ぶちまけられた紙やらノートやらを拾っている。
教室の扉の前でぶちまけたので、中に入ろうにも入れない。もう一つの扉付近には、また違う女子達が喋っていて、通れないのだ。もしあの間を通ろうものなら。
『うわ、ヒキタニが私達の間通ったんですけど』
『マジ最悪』
ってなる。つーか久々に聞いたぞヒキタニくん。
こうならないようには、あの子の片付けを手伝って通るのが最善か。いや、だがもしあの子が。
『さっきヒキタニに紙とノート触られたんだけど』
『うわ可哀想』
みたいなことになりそうだ。結局どっちもダメなのかよ。俺ってとことん女子に嫌われるのな。なんなら男子にまで嫌われるまである。
まぁ今更嫌われたとて、俺の過ごし方は変わらんけど。
俺は自分の教室へと近づいていく。扉付近にはすぐ着いて、俺に気づいた女子は。
「ご、ごめんなさい!今すぐ片付けるから!」
焦った様子で、そそくさと片付ける。俺はしゃがみ込み、残りの散らばっている紙を拾って、その女子に差し出す。
「ほれ」
「あ、ありがとう……」
俺は立ち上がり、教室の中へと入ってゆく。
そういえばさっきの女子って、体育の時に馬鹿みたいなジャンプ力を見せたやつだったっけ。人間離れしたジャンプだったから、妙に覚えていた。とはいえ、どうせ関わらないだろうから、思い出したところで、なんだが。
自分の席に着き、一日の準備を終えて、顔を伏せる。今日あまり寝られなかった分を、この休み時間の間で少しでも取り戻さねば。
少し時間が経って、ホームルームのチャイムが高らかに鳴り響く。その音で、俺は目を覚まし、身体をゆっくりと起こす。教壇には稗田先生が立っていて、今日のことについて話をしている。
そして話を終えると、生徒名簿を持って教室から出て行った。俺が起きたと分かるや否や、前の席に座っている博麗が話しかけてくる。
「あんた、明日の試験は大丈夫なの?理数系がやばいみたいなこと言ってたけど…」
「さぁな」
「さぁなって……あんたのことでしょ」
「まぁ、なんとかなるだろ。それに、期間限定の家庭教師みたいな人もいるし」
「家庭教師なんて雇ったの?」
「雇ったっつか、知り合いの親みたいな人だな。その人に教えてもらってるし、実際分かりやすかったから、まぁ赤点はないと思う」
「ふーん…」
今までなら、赤点ぎりぎりだったのだが、今回に関しては赤点は取らないという謎めいた自信が湧いているのだ。聖さんの教えが上手いという一言に尽きる。
「まぁ赤点取らないようにね。どっかの誰かさんみたいに」
博麗はちらりと、霧雨の方へと顔を向ける。霧雨の学力がどの程度か分からないが、今の言い分だと俺より上ということではなさそうだ。なんだか可哀想な霧雨。
とはいえ、油断は禁物。特に理数系は重点的にやらないといけないのだ。いくら聖さんの教えがあるからって、復習を疎かにしていい理由にはならない。
十分な対策を取って、俺は中間試験に挑んだ。