やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
中間試験が始まって三日目。ついに中間試験が終わった。最後の教科を終えると、周りは「やっと終わった」と口々に言う。中間試験を終えたら、開放感が半端ないのはなんなんだろうか。
「どうだった?最後の教科。数学だったでしょ?」
「中学と比べて、赤点がないって自信が少し湧くぐらいの出来だったよ」
これも全て、聖さんのおかげと言っても過言ではない。今度マッカンを布教してあげようかな。
「みなさん、中間試験お疲れ様でした」
稗田先生が教室に戻って、みんなに労りの言葉をかける。これで帰れる……とはいかず、最後の時間には道徳があるのだ。
「この時間は、再来週の火曜日から始まる勉強合宿についてです」
マーガトロイドから聞いた話だが、再来週にどうやら勉強合宿があるらしい。しかも他のクラスと泊まるところが別々になるという。
「とりあえず、私が作成したしおりを配りますので、まずそれをご覧になってください」
稗田先生がみんなに勉強合宿のしおりを配り始める。前から後ろに渡していくスタンスで、博麗から俺に、俺から後ろの人に渡していく。しおりを開き、パッと全体的に見ると、一日の時間割や、何時に到着、何時に就寝などが書かれていた。
「今回、神奈川県の施設をお借りします。少し山の中ではありますが、温泉付きの大旅館です。朝と昼の食事は、こちらからお弁当を提供しますが、夜の食事は旅館の方々から振る舞ってもらいます」
勉強合宿ごときにそれはやりすぎだろ。修学旅行でも満足するぞそれ。
「私達と同じく泊まるのは、A組、C組です」
ということは、D組の封獣とは違う場所ということか。あいつマジで直談判したりしないよな。
「で、今日この時間を設けたのは、バスの座席と、部屋割りを決めたかったからです」
地獄のような時間が始まった。バスの座席指定くらいは、なんとかなるだろう。
だが部屋割りは?俺男だぞ?そんな気軽に誘ったら、一瞬で嫌われるに決まってる。陰口であーだこーだ言われるに決まってる。嫌われることに慣れてなくはないが、変に嫌がらせとかされたらこれからの学校生活に支障が出る。
「一部屋に4人。ですが、一人は欠席になるので、どこかの部屋は3人だけになってしまいますが、そこはご了承ください。ではまず、部屋のメンバー決めから始めてください。決めたら教壇の上に、部屋のメンバーを書き込む紙がありますので、そこに書き込んでください。では始めてください」
よし俺も欠席しよう。俺が休んだところで何か困るわけではあるまい。
「先生ッ……!?」
俺が先生の名前を呼ぼうとすると、博麗が俺の顔を鷲掴みにする。しかもすんごい痛いんですけど。
「何あんたまで休もうとしてんの?そんなことしたら、あんた祓うわよ」
「ひ、ひゃいっ」
殺人鬼のような表情をした博麗は、恐怖心を煽るのに十分な声色で俺を脅した。あかん、マジで殺される。
「こっちだって面倒な行事に参加するっていうのに、あんただけ休もうたってそうはいかないわ」
「そうだぜ、八幡」
いつの間にか、俺達の席の近くには霧雨とマーガトロイドが立っていた。
「折角みんなで泊まれるんだぜ?行かなきゃ損だろ?」
「いや、お前馬鹿なの?そらお前らは女子同士だから気兼ねなく過ごせるだろうけど、俺男だぞ?馬鹿なの?死ぬの?」
「あんた一応そんなこと気にしてたのね。意外だわ」
「お前俺をなんだと思ってんの?」
「見た目妖怪の中身性欲の塊」
「俺そんな様子どっかにあった?」
というか俺に限らず、思春期男子は性欲の塊だぞ。思春期男子を舐めるなよ小娘。
「それに、八幡は手を出さないでしょ。そんな勇気ないだろうし」
それは俺をチキンだと言っているんですかそうですか。
マーガトロイドに続いて、こいつらからも妙な信頼を得ている。そんなに信頼を得るほど俺は何かした覚えはない。
「じゃあ、私達4人で決定!いいだろ?」
「私はいいわよ」
「旅館ってことは、おそらく川の字的な感じで布団を敷かれるだろうけど、とりあえず寝るとき魔理沙端っこね」
「それ賛成。魔理沙って少し寝相が悪いんだもの」
「えぇーっ!?」
なんでだろう。霧雨が寝相が悪いっていうのを聞かされて、どこかで納得する俺ガイル。
「端っこは魔理沙でその隣は八幡で。いいわね?」
「え、マジ?」
「隣に魔理沙がいたんじゃ寝れないしね。こいつと寝泊まりして何回起こされたか」
「まぁ最悪、魔理沙は押し入れの中に入れたらいいんじゃない?」
「いいわねそれ。みんなハッピーじゃない」
「お前ら私への扱いどうなってんだよ!」
思いの外、部屋のメンバーが早く決まった。霧雨は文句を言いながら、教壇の上に置いてある書き込み用紙に俺達の名前を書き込んでいく。書き込んだ霧雨は、素早くこちらに戻ってくる。
「どうせ次にバスの座席とか決めるんでしょうし、早いところ決めておきましょう」
「じゃあ私は八幡の隣な!」
「なんでだ」
「今まで八幡と二人で喋るってことなかっただろ?だからさ、バスの時ぐらいは八幡と喋りたいなって思ってよ。なっ、いいだろ?」
こいつカッコいいな。結構男勝りなところはあるのは知ってたけど、何このイケメンっぷりは。やっぱ女子から告白されたりするんかな。
「じゃあ私とアリスね。バス中でも静かで助かるわ」
「ふふ、そうね。魔理沙ってずっと喋りっぱなしだし」
「だって、お前らと一緒にいると楽しいんだから仕方ないだろ!」
「本当、魔理沙って男子より女子に好かれるよね。前から思ってたけど」
「そうそう。八幡よりよっぽど男らしいわね」
「お前ら三人の会話なのに、無闇に俺をディスるのはやめてくんない?」
「あははっ!」
「ふふふ…」
こうして、誰かと馬鹿みたいな会話をするのは初めてかも知れない。やはり、こいつらといる時間は、悪くない。
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学校が終わり、博麗達と別れた。俺は鞄を持って、とある場所へと歩いていく。1週間ちょっと行っていないだけなのに、なんだか懐かしい気がするあの場所に。
その場所とは。
「おっ、八幡じゃないか!久しぶりだね」
「ご無沙汰ですね、八幡」
生徒会室である。扉を開くと、先に来ていた小野塚先輩と四季先輩が挨拶をする。
「ども」
生徒会室に入り、机の上に鞄を置く。小野塚先輩は突然に、俺に尋ねてくる。
「今回の試験、どうだった?」
「赤点はないと思いますけど」
「当然です。生徒会にいる以上、赤点など回避してもらわねば困ります。もし赤点などを取ってしまったら……」
「取ったら?」
「ふふふ……貴方の脳を死力を尽くして改造して差し上げます。貴方を地下に監禁して、私が満足できる点数を取るまで外には出しません」
据わった瞳で俺を捉える四季先輩に、身震いしてしまった。この人は冗談なんて言わない。全部が全部ガチなのだ。つまり、俺が赤点を取ってしまったら、確実に監禁生活を送ることになる。
「貴方の全てを私が矯正します。勉強面でもそれは変わりありません」
病み気味の四季先輩が出たよ。小野塚先輩はその豹変ぶりに、少し引いている。
「うわぁ久しぶりだねえ!」
「…そうね」
タイミングよく、河城先輩と鍵山先輩が部屋に入ってくる。
「やぁ後輩くん!元気だったかい?」
「まぁ変わらずです」
この人達も相変わらずのようだ。そして少しすると、彼女がやって来た。
「あら。もうみんな揃ってるのね」
最後の一人、風見先輩が部屋に入る。これで再び、生徒会メンバーが全員揃った。
「八幡が早く来ているのは珍しいわね。あのメンヘラ女はどうしたの?」
「…あいつは先輩と一緒に帰りました」
当初、いつものように封獣と帰ろうとしたが、生徒会があるならそちらを優先してくれと、ナズーリン先輩が言ってくれたのだ。結果、ナズーリン先輩と寅丸先輩、村紗先輩が封獣を連れて命蓮寺へと帰ったのである。
「そういえば後輩くん、再来週から少しの間いないんでしょ?」
「…あぁ、もうそんな時期なのね」
「?なんかあったかい?」
「彼は再来週から勉強合宿です。一年生が通る、一番最初の行事ですね」
「確か神奈川でしょう?懐かしいわね」
正直、面倒の一言に尽きる。
俺個人としても、やはり同じ部屋に女子が3人もいるのは心臓に悪いし、そもそも神奈川まで行って泊まって、何故勉強せにゃならんのか分からない。
「あれ?でもさ、八幡のクラスって確か八幡だけだろ、男子は。部屋割りはどうしたんだい?」
「物好きな連中と一緒の部屋になりました」
「ということは、女子だらけの部屋に八幡一人ってことかい?ハーレムだねぇ〜」
「後輩くんとしては、そっちの方が嬉しいんじゃないの?」
「アニメや漫画だけですよ、そんなの。実際には肩身が狭いだけです。息苦しいことこの上ない」
「うわやっべ嬉しいわあはは」という気持ちより、「えっどうすればいいんだ」っていう不安しかない。
「…貴方のことですから、分かっていると思いますが、敢えて言わせていただきましょう。もしその合宿中に、貴方が誰か一人にでも妙な行動をしたら……」
「…したら?」
「今後、貴方には自由がないと思ってください」
怖えよ。あと怖い。なんなのその脅しは。手は出さないけどさ、もし手出したら俺どうなるの?ずっと監禁生活なの?怖えよ。あと怖い。
「それはさておき、そろそろ昼食の時間ですね。生徒会活動は午後の1時半からにしましょう。それまで各自、昼食を済ませてください」
現在、12時半過ぎだ。1時間の間はフリーになる。昼飯も買っていないし、売店でパンでも買うとしよう。
「あたいと四季様は生徒会室に残って食べるけど。あんたらはどうするんだい?」
「私と雛は食堂で食べよっかなぁ。いいでしょ、雛?」
「…えぇ。構わないわ」
「私もお弁当持って来ていることだし、ここで食べるとしようかしら。八幡は?」
「適当にパンでも買って、適当に一人で食べてきます」
俺は鞄の中から財布を取り出して、部屋から出て行く。
今日は午前で学校が終わりだし、売店や食堂にはいつものような人集りは出来ていないだろう。いつもこの時間帯ならば、売店や食堂は生徒で溢れかえっている。それを考えると、ゆっくり売店に向かうことが出来る。
「あ、八幡さん」
「ん?」
売店に向かう途中、俺の名前を呼ぶ誰かの声が耳に入る。俺を呼ぶ方に顔を向けると、剣道部の魂魄がそこにいた。
「売店に向かう途中ですか?」
「おう。昼飯を買いにな」
「私も午後から部活なので、一緒に昼食を買いに行きましょう?」
「別に構わんけど…」
途中で遭遇した魂魄と共に、売店へと向かった。売店に到着すると、予想の通り、普段より人集りが少ない。
「何しよう……」
「俺は決まってるから先に頼むぞ」
売店のおばちゃんに、いつも食べているパン二つと、そして食には絶対に欠かせないマッカンを頼む。ちょっとしたルーティーンと言っても過言ではない。というより、俺のルーティーンはマッカンを飲むことである。
「…それだけで足りるんですか?」
「いつもこんな感じだからな。じゃあな」
会計を済ませた俺は、パンとマッカンを持って、ベストプレイスなるところへと向かおうとしたのだが。
「ちょっと待ってください」
突然、魂魄が俺の制服の裾を掴む。
「え、何?」
「おにぎりの種類が多すぎます。迷ってしまうので選ぶのを手伝ってください」
「なんでだよ」
そんなの自分で選べよ。なんで俺が手伝わなきゃならないんだ。魂魄は俺の言葉に耳を傾けず、売店に置かれているおにぎりを品定めしていく。
「鮭、昆布、梅……いや、ここは変化球で炒飯おにぎりか…」
「ツナマヨとかも割とオーソドックスだけどな」
「高菜もいい……いっそのこと塩おにぎりもありかも…」
あの、これ勝手に帰っていいよね。この調子だと、十数分の間は魂魄を待たなきゃならん。気付かれずにひっそりとこの場を去ろう。
ステルスヒッキー発動して、俺は売店から徐々に離れて行こうとする。
「どこに行く気ですか?」
うわバレテーラ。すんごい眼光でこっち見てるんだけど、何あれこっわ。
「ちゃんと考えてください。全くっ」
魂魄はむんっ、として俺を叱る。何故俺は叱られなければならないんだろうか。
「…つってもな」
魂魄の嗜好が分からない以上、どれを選べばいいのか分からない。ならば、王道を行く以外ないだろう。
「俺が頼むとするなら、鮭や明太子、それに昆布だな。おそらく、この三つが王道中の王道だろう」
「ふむ……確かに、この三つの具はおにぎりの中で人気と聞きます。…すみませんっ、おにぎりの鮭、明太子、昆布を一つずつください!」
すぐに決まっちゃったよ。これ別に俺いらなかったんじゃないの?王道であればなんでも良かったんじゃないの?
「これで私の昼食は確保出来ました。ありがとうございますっ」
「あぁそう。そら良かったな」
今度こそもう俺に用はないだろう。俺は感謝だけ受け取って魂魄と別れ、売店前から去っていく。そして、普段から利用している俺だけのベストプレイスへと向かった。
だがしかし。
「いつもどこで食べてるんですか?」
「うん待って」
「みょん?」
みょん?ってなんだその返しは。ちょっと可愛いじゃねぇか。
「何ナチュラルにいるの?」
「私もどうせ一人ですし、ご一緒したいなと思いまして」
「なんでだよ。これから部活なんだったら、同じ部活生と食べてりゃいいじゃねぇか」
別に普通のことを言ったはずなのに、魂魄はバツが悪そうな表情へと変えた。
「……部活生、私しかいないんです」
「は?」
剣道部の部員は魂魄しかいない?
しかし、この間の部活の予算案の話し合いでは剣道部は間違いなく存在してる。魂魄一人じゃ、剣道部は同好会扱いだし、そもそも同好会ごときに部費を割く必要がない。
ということは。
「…幽霊部員ってやつか」
「察しの通りです。事実上では、剣道部は私を含め28人ほど存在します」
「27人も幽霊部員になるとは……」
揃いに揃ってサボるとはえらい仰々しいなおい。
「…詳しい話は後で話します」
「…分かった。そういう話なら、ベストプレイスが誂え向きだ」
「ベスト……プレイス?」
魂魄は怪訝な顔をしてこちらを見る。俺は彼女を先導して、ベストプレイスへと向かう。少し歩くと、ベストプレイスが見えてきた。
「あれが俺のベストプレイス。普段は誰かがいるわけでもない俺だけの場所。この時間帯に吹く潮風が心地いいんだよ」
俺は段差のところに、ゆっくりと腰をかける。
「…座らないのか?」
「あっ、いえ。じゃあ失礼します」
魂魄が隣に座り、先程買ったおにぎりを取り出した。すると、優しい潮風が突然吹き始める。
「確かに……なんだか安らぎますね…」
「だろ。この昼は決まって潮風が吹く。それに誰もいないから静かに食事が出来る。まさしくベストプレイス」
入学して次の日に、女子だらけの教室で食べることを恐れた俺が探しに探しまくって見つけた場所だ。まぁ、雨の日は流石に無理だけど。
「…それで、さっきの話の続きだが」
「あ、はい。…私が入ったときは、剣道部は全員揃っていたんです。私を含め、新入生も入りました」
「おう」
「幽々子様を守るために、私は誰よりも努力して、努力して、努力して、力を身につけました。いつしか、三年の部長や副部長を倒してしまうくらいに」
「そら凄ぇな……」
この短期間で三年達を倒した実力をつけたのだ。並大抵の努力じゃないことが窺える。もしかすれば、魂魄には剣道のセンスがあったのかも知れない。
「この間、八幡さん聞きましたよね?剣道好きなのかって…」
「そうだったな」
試験期間中に一人で練習していた姿を目の当たりにしたあの時。剣道が好きじゃないと出来ない努力だと思ったからだ。
「あのときは、幽々子様の護衛と言いましたけど……あれから少し考えたんです。幽々子様の護衛のためだけではなく、もしかすれば、私自身が剣道を好いているのではないか、と…」
「…それで、考えた結果は?」
「三年生達との試合で、失礼ながら気分が高揚していたんです。本当なら胸を借りるつもりのはずなのに……。…あの時、八幡さんに言われて、気づいたんです。それが"楽しい"ということなのだと」
いいのではないかと、俺個人としてはそう思う。何かにのめり込むことで、楽しみを見出すことは決して悪くないからだ。
「ですが、周りはそうではなかったようなんです」
「…27人の幽霊部員か」
「手前味噌になりますけど、今の私は剣道部一の実力を誇ります。三年生達が敗れた今、私に勝てる者は存在しない。…彼女達はそう悟ったのでしょう。私と試合をする者はおらず、いつしか部にすら来なくなりました」
「なんでだよ…」
「彼女達曰く、私がいたら部活が楽しくない、とのことです」
なるほど……大体は読めたぞ。
本来、部活とは実力をつけた上で、本番で発揮して良い成績を取ることを目的とされている。あるいは、部活単体を楽しむだけという目的もある。
魂魄は一年生。しかも話の内容的に、高校から剣道を始めたのだろう。そんなやつが短期間で馬鹿みたいに強くなって、今や剣道部では魂魄に敵う者はいないと言う。
同期達からすれば、「魂魄は天才」とか、「天才に勝てるわけないじゃん」とか、「一人だけガチ勢がいる」とか思うだろう。先輩達からすれば、1年、あるいは2年、それ以上の年月を経て強くなったというのに、たかだか2、3ヶ月程度練習した一年生に負けることは、これまでの練習全てを否定されることに等しい。
要するに、魂魄という存在は剣道部から邪魔認定されているようなもんだ。彼女を相手にしても、楽しめないし、努力したって無駄だと思わされる。
「…私が悪いんでしょうか」
「え?」
「努力することで大切な人を守ることが出来る。または努力するから、楽しみを得られる。そう思っていたんですが……私は何か間違えていたようです」
彼女が今まで一人で練習出来ていたのは、幽々子様とやらを守るという目的があったからだ。しかし、生半可に周りの情報を得てしまい、今では努力することに疑問を抱いている。
彼女の努力は俺には理解出来ない。実際見たわけではないし、努力したと言えるわけがない。
だが、少なくとも。
「…間違ってないだろ。別に」
「えっ…?」
「幽々子様とやらを守るために努力する。楽しむために努力する。人それぞれ、努力の形は違うが、努力が悪いことにはならない。いつかそれが自分のためになるからな」
「…ですが、他のみんなが…」
「その程度の気持ちだったってことなんじゃねぇの。魂魄に勝てない、だから部活には行かない。ならさっさとやめてしまえって話だ。別にここじゃなくたって、剣道を出来るところなんざいくらでもある。なんで魂魄が負い目を感じる必要があるんだよ」
それでも、魂魄はまだ納得のいかない表情であった。自分が悪いのだと、本気で思っている。
しかし、そんなことは間違っている。
「大体、人の努力にケチ付けれる人間とかいてたまるかよ」
「え……?」
「魂魄の努力を知らないやつが、魂魄に文句を言う資格はない。そんなもんは傲慢でしかない」
人の努力を知らないくせに、人の力を天才だの才能だの言うやつも俺は許せない。9割の人間が、何かしらの努力をしているんだ。そんな人間の努力に対して意見するやつがいるなら、俺は許せない。
「自分の努力は間違っている?そんなわけないだろ。努力は人を裏切らないって名台詞を知らねぇのかよ」
「…どこかで聞き覚えがありますね、それ」
「だから…なんだ。自分の努力が間違ってた、なんてあんまり否定すんな。努力は誇れるもので、決して負い目を感じるものじゃない」
「…そう、ですか…」
「まぁ、あれだ。周りのやつの野次なんて聞き流せばいいだろ。お前が正しいと思える努力をすればいい」
「…そうですね。……ふふっ」
魂魄は唐突に、笑みをこぼした。
「…八幡さんって、結構クールで無口なイメージがありました」
「彷徨える孤高の魂だからな」
「ちょっと何言ってるか分からないですけど……こんなに饒舌だったなんて、知りませんでした」
「気のせいだろ」
「ふふ、そういうことにしておきます。……八幡さん」
「ん?」
魂魄は、清々しい笑みをこちらに向ける。
「相談に乗ってくれて、ありがとうございますっ」
「……おう」
…あっぶね。並の男子高校生なら、うっかり惚れて告白するレベルだぞ今の。控えめに言って、俺も惚れそうになったよ。
「そうだ。今度、私の練習を見てくださいよ。そろそろ大会も近いって顧問の方が言ってて…」
「俺剣道の知識とかないんだけど」
「見てくれるだけで大丈夫ですよ。もしよければ、今日からでも」
「生徒会あるし、やめとくわ」
「そうですか……あっ、じゃあ私と連絡先交換しましょう?今度またお誘いしたいですから」
「…別にいいけども」
ケータイを取り出して、魂魄と連絡先を交換した。この学校に来て何度も連絡先を交換してるからか、もう連絡先交換のやり方が分かるまでになった。
「相談してたせいで、昼食を取っていませんでした。いただきますっ」
「…俺も早く食わんと」
俺も魂魄に続いて、パンを食べ始める。そして、マッカンを一口。
「美味ぇ…」
うむ。いつも通り、マッカンは最強の美味しさを誇る缶コーヒーである。