やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
月曜日の早朝。俺は制服に着替えて、命蓮寺の外にいる。お見送りには、封獣以外の命蓮寺の面々がいた。
「…この1週間、ありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそ、ぬえがご迷惑をおかけしたと思います」
今日で命蓮寺とはおさらばである。紅魔館ほど濃い時間を過ごしたわけじゃないが、ここの人間達もみんな善良な人間ばかりであった。
「ま、学校じゃまた会うと思うけどね。体育祭と文化祭もあるわけだし」
「そうだな。一生の別れでもあるまい。……が、ぬえはそうは思わないだろうな」
今ここに封獣がいないのは、面倒ごとを避けるため。封獣がいればごねまくって、また「1週間命蓮寺にいて」とか言いかねない。
「まぁこちらも楽しむことが出来たよ。ぬえやご主人が迷惑をかけてしまっただろうが」
「もう宝塔は失くしません!……多分」
明後日辺りにはまた失くしてそうな気がする。ある意味才能なのではないか。
「またいつでも来てください。比企谷さんであれば、喜んでお迎えしますよ」
「ありがとうございます。…じゃ、そろそろ」
「あぁ。ではな、比企谷」
「学校でもよろしくね」
俺は命蓮寺の面々に別れを告げて、普段より早く学校へと向かった。
今の時間帯にはまだ誰も教室にいないだろうし、ベストプレイスで時間を潰すとしよう。
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学校に到着するが、やはり生徒があまりいない。いたとしても朝練で早く来ている生徒ぐらいだ。
俺はベストプレイスに向かい、時間を潰すために本でも読もうと考えた。のだが、ベストプレイスには先着がいた。
「…魂魄」
「あ、八幡さん!おはようございます!」
剣道部の魂魄が、俺のベストプレイスに座っていたのだ。
「朝練終わった後か?」
「はい。別に朝練をしないといけないわけじゃないんですが、やはり練習は必要かと」
「そうか。そらご苦労さん」
「八幡さんこそ、こんな朝早くからどうしたんですか?生徒会?」
「…まぁ、なんか眠れなかっただけだ。今となってはクソ眠い」
命蓮寺は、自分家で寝ている時より早く起こされる。だからそれなりに早起きに慣れたと思ったのだが、今日はそれよりもっと早く起こされる。眠いのなんのって話だ。
しかも日付けが変わるまで封獣とずっと一緒にいた。寝た時間は6時間に満たすかどうか分からない。
「…寝よ」
俺は鞄を枕代わりにして、寝る体勢を作る。
「鞄じゃ頭が痛くなりませんか?」
「…寝てりゃ気にしなくなるだろ」
「よ、良かったらなんですけど…」
「ん?」
魂魄が何やらもじもじし始めた。トイレに行きたいならさっさと行って来い、なんて言ったら今すぐ竹刀で叩かれるからやめておこう。
「…私の膝、使いますか?」
「え」
「別に深い意味はないですよ!?ただ単純に鞄を枕代わりにして痛そうだなーって思ってただけで!決して!深い意味は!ありません!」
「お、おう…」
逆にそうグイグイ来ると、深い意味しか無さそうな気がすると思うのは俺の勘違いなんだろうか。
「そ、それで…どうしますか?」
「いや、どうするも何も……」
普通に考えよう。急に膝枕してやるって言われて、じゃあお世話になるってならないだろう。寝ている間に財布とか取られたらどうすんだよ。
まぁ魂魄の人格上、俺に何かするってのは無さそうだが……とにかく、理由が何か全く分からない以上、その誘いに乗るのも危ない気がする。
「お断り…」
「使いますか!?えぇそれなら早速使いましょう!」
「聞けよ」
最初から選択肢がなかったんじゃねぇか。
魂魄は俺の頭を掴み、強引に自身の太腿に持っていく。魂魄の太腿が頭に着いた瞬間、なんとも言えぬ心地良さが広がった。
「ちゃんと寝る時は、頭に柔らかいものを敷くのが一番なんですよ?鞄などの硬い物を頭に敷くと、起きた時に変な痛みが残りますから」
「だからってこれは恥ずかしいんだけど。別に膝枕する必要は…」
「私がしたいからそうしただけです。それ以上の理由はありません。時間になったら、ちゃんと起こしますから」
女の子の膝枕なんて人生初で、余計に眠りづらい。が、朝早く起きた反動で、突如睡魔が襲ってくる。
「おやすみなさい、八幡さん」
俺は魂魄の太腿の上で、意識を手放してしまった。
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あれだけ抵抗しておきながら、すぐにぐっすりと眠りについた。
「ふふ…」
私は彼の寝顔を見て、微笑む。
彼の目付きは、お世辞にも良いとは言えず、人によっては怖がってしまうこともあるだろう。八幡さんには悪いけど、腐った魚の目とかゾンビみたいな目とか、そんな比喩表現が似合うだろう。
でもいざ彼が眠っている姿を間近で見ると、ギャップなのか、寝顔がとても可愛らしく見えてしまう。
「八幡さん…」
私は彼が、比企谷八幡さんのことが好きなのかも知れない。たった少ししか話したことのない男性に、私は恋心を抱いているのかも知れないのだ。
彼と出会ったのは、テスト期間の時。
私が体育館で自主練を行なっていると、彼が突然やってきた。理由としては、探し物を探すためだとか。その時は、特に何も思わなかった。目付きは悪いけど、別に悪い人では無さそうだな、ぐらいしか思っていなかった。
その時点では知り合いという関係でしかなかったのだが、八幡さんを意識し始めたのはテストが終わった時の話だ。
お昼ご飯を買いに行く途中で、八幡さんに出会った。八幡さんもお昼ご飯を買いに行くということだったので、どうせなら一緒に行こうと誘った。
私はおにぎりを買うことに決めた。のだが、いかんせん具が多い。どれにしようか迷っていた時、八幡さんに手伝ってもらったのだ。正直、どれも美味しいので、迷ってしまうのだ。
八幡さんの手伝いがあって、私はお昼ご飯を買うことが出来た。先に買い終えていた八幡さんが先にどこかに行きそうだったので、私は引き止めた。
どうせなら、二人で一緒に食べようと誘った。しかし。
『なんでだよ。これから部活なんだったら、同じ部活生と食べてりゃいいじゃねぇか』
出来れば私もそうしたかった。しかし、部活生が私しかいない。
私はその時、何故か八幡さんに話を聞いて欲しいと思った。話をすることで楽になりたかったのか、何か言葉が欲しかったのかは分からない。けど、それでも聞いて欲しかった。
八幡さんは断らずに、私の話を聞いてくれることになった。
八幡さんは、ベストプレイスという場所へ私を案内してくれた。到着すると、その場で優しく吹く潮風が、私の心身を穏やかにしてくれた。八幡さんが言うベストプレイスの由縁が、少し分かったかも知れない。
八幡さんが腰掛け、私も隣に腰掛ける。
『…それで、さっきの話の続きだが』
八幡さんが私の話を尋ねる。私は、剣道部の現状を話した。
幽々子様を護衛する術を身につけるために剣道を始めた。そのために、今まで努力をしてきた。最初はそんな心算だったが、途中から剣道が楽しく感じたのだ。努力することで強くなることに喜びを感じ、誰かと打ち合うことで楽しみを感じていた。
でも、そう思っていたのは私だけ。他のみんなは、そうは思わなかったらしい。努力している私を、彼女達は疎んでいたのだ。それを知った時、なんだか罪悪感が流れ込んできた。
努力することで、彼女達の居場所を奪っている。誰かと試合することで、彼女達の居場所を奪っている。私が、彼女達の居場所を奪っている。
私の努力は間違っている。段々と、そう思い込んでしまう。
けれど、彼が。
『…間違ってないだろ。別に』
八幡さんは、私の努力を肯定してくれた。私の話を笑いもせず、ただ優しく肯定してくれた。
『幽々子様とやらを守るために努力する。楽しむために努力する。人それぞれ、努力の形は違うが、努力が悪いことにはならない。いつかそれが自分のためになるからな』
『…ですが、他のみんなが…』
『その程度の気持ちだったってことなんじゃねぇの。魂魄に勝てない、だから部活には行かない。ならさっさとやめてしまえって話だ。別にここじゃなくたって、剣道を出来るところなんざいくらでもある。なんで魂魄が負い目を感じる必要があるんだよ』
八幡さんは私を否定しないでくれていた。嬉しいのだが、それでも私は気になってしまう。私の努力が、みんなを部活から追い出しているのではないかと。
『大体、人の努力をケチ付けれる人間とかいてたまるかよ』
『え……?』
『魂魄の努力を知らないやつが、魂魄に文句を言う資格はない。そんなもんは傲慢でしかない。自分の努力は間違っている?そんなわけないだろ。努力は人を裏切らないって名台詞を知らねぇのかよ』
八幡さんはどこかで聞いた台詞を挟みながら、私の努力を肯定する。
『だから…なんだ。自分の努力が間違ってた、なんてあんまり否定すんな。努力は誇れるもので、決して負い目を感じるものじゃない』
その言葉を聞いた瞬間、私の心の重りが消えたように感じた。
『まぁ、あれだ。周りのやつの野次なんて聞き流せばいいだろ。お前が正しいと思える努力をすればいい』
私はきっと、誰かから自分が努力していることを認めて欲しかったんだ。けれど周りがそれを認めてくれなかったから、私の努力は無駄なんだと思いつつあった。
でも私の努力は、間違っていなかったんだ。誇っていいものだったんだ。八幡さんの言葉で、そんな考えが吹き飛んだ。
八幡さんの言葉で、私は何を小さいことを考えていたんだと、心の中で呆れていた。誰かが私の努力を否定しても、私が正しいと思う努力をすればいいんだ。
それに気づかせてくれた八幡さん。初めて会った時は、結構クールで物静かなイメージだったんだけど、こんなに親身になって、私の相談に乗ってくれた。
そんな八幡さんの優しさに、私は惹かれてしまったのかも知れない。こうして、普段から目付きが悪く、ちょっとひねくれている八幡さんが私の太腿でぐっすり眠っている姿を見ていると。
愛おしく思ってしまう。
「…こんなに惚れっぽかったんだ、私」
多分、チョロい人間なのかも知れない。ちょっと優しくされただけで心を許してしまうかも知れない。
けれど、彼の優しさは私を心地よくしてくれる。私の心を温かくしてくれる。きっと、こんな気持ちにしてくれる人は八幡さんしかいない。
ちゃんとした恋愛感情かははっきり分からない。もしかしたら、違う意味で彼に惹かれたのかも知れない。ともあれ、どんな意味であろうとも。
私は。
「…好きです」
貴方のことが、心の底から。
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「…まん…さん。…八幡さん…起きてください」
「…ん、んん…?」
俺が徐々に目を開いていくと、目の前には俺を見下ろす魂魄の顔が。その瞬間、一気に目を開いてしまう。
「ち、近っ…」
「もうそろそろホームルームのチャイムが鳴りますよ。起きてください」
「あ、あぁ…」
俺は起き上がり、今の状況を一度確認する。
俺は本当に、魂魄の太腿の上で眠ってしまったみたいだ。それを理解すると同時に、段々と顔が熱くなっていく。
小町にすら、膝枕してもらった覚えないのに。初めて膝枕をしてもらったのが魂魄だと思うと、ちょっと恥ずかしいどころの騒ぎじゃない。
「わ、悪いな…。その……膝枕……」
「いいですよ。さっきも言いましたけど、私がしたくてしただけですから」
と、魂魄は言ったものの、パッと見るだけで分かるくらい彼女の頬は赤らめていた。やっぱ恥ずかしかったんじゃねぇか。
「…じ、じゃあもう行きましょうか。遅刻しちゃったらあれですし」
「そ、そうだな」
俺達はそれぞれの教室へと向かった。
頭にはまだ、彼女の太腿の柔らかい感触と体温が残っていた。どれだけ忘れようとしても、フラッシュバックして仕方がない。
「お、八幡!今日は遅かったな!」
「どうしたの?顔が赤いけれど…」
「…なんでもねぇよ」
思い出す度に、顔が熱くなる。乙女か俺は。
俺が席に着くと同時に、ホームルーム開始のチャイムが鳴り響く。俺は出来るだけ思い出さないように、今日の授業に集中することにした。
そんな苦行を貫き通し、あっという間に一日が終えた。時は既に、夕方の6時過ぎとなる。
「疲れた…」
俺は久しぶりの我が家の帰路を辿る。命蓮寺に行く前に一度寄ったが、一瞬しかいなかったからな。マイエンジェルコマチエルとゆっくり話すのも、なんだか久しぶりな気がする。
しばらく帰路を辿っていると、比企谷家が見えてきた。久しぶりの我が家に少しワクワクしながら、玄関の扉を開けた。
「たでーま」
すると、リビングのところからドタバタと足音がする。リビングから出てきたのは、やはり小町であった。
「お兄ちゃんお帰り!」
「おう。久しぶりの我が家だわ」
靴を脱いで、リビングへと向かう。そして、ソファにダイブする。
「しばらくは引きこもりてぇわ…」
「お兄ちゃん、お風呂にする?ご飯にする?それとも……こ・ま・ち?」
「小町でお願いします」
「お兄ちゃん即答はちょっとキモい。そのシスコンっぷりはキモい」
「ばっかお前。今のは八幡的にポイント高いだろ」
こんなやり取りも、なんだか久しく感じる。2週間もまともに小町と話していなかったからな。これからは、たっぷり小町成分を摂取しなければ。
「お兄ちゃーん」
すると小町は、俺に抱きついてくる。
おっ、なんだなんだ?小町も寂しかったのか?何それ可愛いな。
「しばらくは小町に構ってね」
「当たり前だ。飽きるまで構ってやる」
「やっぱりシスコンだなぁお兄ちゃん」
その後、久しぶりのお風呂に入り、久しぶりの小町の手料理を食べ、久しぶりの我が部屋でゴロゴロした。
「やっぱ我が家が一番だなぁ……」
紅魔館も命蓮寺も、別に悪いわけではない。しかし、住み慣れた家がやはり一番なのだ。
ベッドでスマホを操作していると、電話が掛かってくる。着信先は、まさかの魂魄であった。
「…もしもし?」
『八幡さん、今少し大丈夫ですか?』
「…大丈夫だが。どうした?」
『あのですね…。八幡さんのことを幽々子様に話したら、"あらあら、いい人じゃない。今度その子連れて来てよ〜"って、言われて…』
他人の家に上がんのはもういいんだけど。上がる度に何かしら面倒なことが起きてる気がするんだけど。
「…それで?」
『それでですね…。再来週の土日のどちらか、私の家に来てくれませんか?その時、私も部活が休みなんです』
どうしよう。すっげぇ断りたい。
別に魂魄に何かあるとかいうわけじゃなく、誰かの家に上がると何かしらのイベントが起きるってのが嫌なのよ。誰かの家行く時点でイベントなわけだが。
『…ダメ、ですか?』
おいお前ちょっとズルいぞ。そんな言い方されたら断りづらいじゃねぇか。
「…分かったよ。とりあえず行くから、また詳しい話は今度な」
『本当ですか!?ありがとうございますっ!それじゃあ、その旨を幽々子様に伝えますので!』
「はいはい。じゃあな」
俺は通話を切って、スマホを消す。
「…はぁ」
小さく溜め息を吐き、俺は本棚からラノベを何冊か抜き取る。そして、ベッドで寝転びながら、ラノベを読み始めて行く。
「…ラブコメの主人公って面倒な立場だよな」
そう一人でボヤいた。
何もないモブが、なんだか羨ましく感じてしまった。何にも巻き込まれず、何もする必要がない。景色に溶け込むだけの存在。
俺って実は、ラブコメの主人公?