やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
霊烏路のバカを探し出した翌日の、合宿最終日。
午前中で授業を終えて、昼飯を食べたら旅館を去って学校に戻るというスケジュールである。
ちなみに、霊烏路は足を挫いた理由で一足先に旅館を去って行った。検査のため、病院に連れていかれるんだそうだ。
そんな合宿ももう正午になり、俺達は大きい荷物をバスのトランクに詰め込んで、最初のバスの座席に座り始めた。つまり隣が霧雨、後ろが十六夜である。
「また隣だなっ、八幡!」
「寝る」
「えぇ〜」
昨日の疲れが取れていないのか、眠気が治らない。午前中の授業全部、ほとんど頭に入っていないレベルで眠いのだ。
「…今日はそっとしてあげましょう、魔理沙。きっとまだ、身体の疲れが取れてないのよ」
マーガトロイドがすんごい女神に見える。やっべ惚れそう。そんで告って振られそう。
「…そうだな。八幡、昨日頑張ったもんな」
霧雨は俺を労わろうと考えたのか、優しく頭を撫でてくる。俺は反射的に頭を振って、霧雨の手を弾いた。
「急に撫でるな。恥ずいからやめろ。むしろ寝れん」
「そう照れるなって」
霧雨は俺の言うことを聞かず、再び頭を撫でてくる。この優しい手付きがむず痒くて仕方がない。
「八幡は頑張った。偉いぞ」
「…子ども扱いすんな」
止める気配がない。これ以上止めても無駄であると考えた俺は瞼を閉じて、疲れた身体を癒すために眠りについた。
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「…ん…」
よく眠れたのか、俺は瞼をゆっくり開く。同時に、パシャパシャとシャッター音が聞こえてくる。それだけではなく、何故か俺の顔が右に傾いていた。しかも、右の頬と耳に固い感触が。
「……あ」
その瞬間、俺は全てを悟った。
「…ようやく起きたわね。この女好き」
何故、俺の顔が右に傾いていたか。
それは寝ている間に、俺の顔が右に傾むき、あろうことか、霧雨の肩を借りて寝てしまっていたのだ。そのことが分かった瞬間、一気に顔が暑くなるのを感じる。
しかし、それだけで終わらなかった。
俺の頭の上にも、若干何かが乗っているような重みを感じた。
「…まさか…」
「あんたの考えてる通りよ」
博麗はスマホで撮影した写真を見せる。そこには、俺が霧雨の肩を借りて眠り、霧雨は自身の頭を俺の傾いた頭に乗せて寝ている画像が表示されていた。
それが分かった瞬間、俺は勢いよく姿勢を戻す。
「いてっ!」
その勢いで霧雨の頭がぶつかったが、そんなこと今はどうでもいい。
うわ何このラブコメ展開。寝てる最中にそんなあるあるのラブコメを広げんなよ。しかも普通逆だろ。俺は霧雨のヒロインかよ。
「いってて……ん?なんだ、もう学校に着いたのか?」
「そうよ。貴女達がぐっすり寝てる間にね」
マーガトロイドがスマホの画面を霧雨に見せる。その途端、霧雨の顔は一瞬で真っ赤になる。
「な、なな、なんじゃこれえええぇぇーッ!!?」
「…俺ら、寝てる間にラブコメしてたんだと…」
ていうか、昨日の朝の方が余程やばかったんだけどね。はだけた状態でしがみついて寝るとか、エロ過ぎるだろ。並の男子ならあそこで襲ってるレベル。
「これじゃまるでカップルね。あのブン屋が好きそうなネタが出来てしまったわね」
「わ、笑いごとじゃねえよ!」
「早くバスから降りてください。後は貴女達だけですよ」
バスの降り口から稗田先生から催促される。俺達はとりあえず、バスから降りて、トランクの中に入れたボストンバッグを回収する。
「顔あっつ……」
「本当だよ……」
俺と霧雨は顔が暑くて仕方がなかった。写真撮られたことよりも、霧雨とそういうことをしたという事実が恥ずかしくて仕方ない。
いや、ぶっちゃけ愛してるゲームも結構恥ずかったんだけど。あの時とは違う羞恥心が芽生えてきてる。
「3日間、ご苦労だった。まぁ疲れたという者も中にはいるだろうが、明日からまた普通に学校があるからな。決して遅刻するなよ。では解散だ」
上白沢先生が短くまとめて言った。各々が解散して、学校から去って行く。
「…いつまで顔赤くしてんのよ」
「だ、だって……八幡と、こ、恋人みたいなことしてるって思ったら……」
「…普通に恥ずい。もう帰りたい。なんなら死にたい」
この3日間、特に霧雨とのハプニングが多かった。愛してるゲームに昨日の霧雨の痴態、そしてさっきのやつ。
これこのまま霧雨ルート進んじゃうのん?
「とりあえずもう帰りましょうか」
「八幡と恋人……」
「魔理沙。よく分からないトリップに嵌まってないで、さっさと行くわよ」
マーガトロイドは呆れながら、ぶつぶつと呟いてる霧雨の身体を揺らす。
「ハッ!比企谷魔理沙!?」
「恋人から何進展してるのよ。わけの分からないこと言ってないで、早く帰るわよ」
「あ、あぁ……」
マーガトロイドは強引に霧雨の腕を掴んで、引きずって行く。俺と博麗は彼女達の後を追うように、歩いていく。
「…はぁ…」
「何よ、溜め息なんて吐いて」
「この3日間疲れたなぁって溜め息だよ。そんで、明日から俺の自由がないことに対する憂鬱な溜め息」
「いいじゃない。美少女にアゴで使われるのよ?」
「自分で美少女って言うかお前」
「当たり前でしょ。自他ともに認める完璧な美少女よ」
いやまぁ間違ってはいないけど。容姿だけで言うなら、美少女の類に入るけどさ。
ただ中身が美少女と程遠いんだよなぁ。俺のこと時々人扱いしてないし、巫女らしからぬ言動行動するし。
「大体、あんたが私達の下着を見たのが原因でしょうが」
「不可抗力だっつうに…」
憂鬱な気分になっている俺とは違い、博麗は少し機嫌が良い。そんなに俺をこき使うのが楽しみですかそうですか。なんとまぁ意地汚い巫女ですこと。
博麗とそんな会話をする中、ポケットに入れているスマホから振動が伝わる。スマホを取り出して確認すると、小町から電話がかかってきた。
「…もしもし?どうした」
『お兄ちゃんもう今帰り?』
「おう」
『だったら、ちょっくら牛乳買ってきて欲しいんだよね。残りもう切れちゃってるから。あ、後ハーゲンダッツ!』
「牛乳は買うがアイスは知らん。自分で買え」
『ケチ!』
「言ってろ」
俺は小町との通話を切る。
ハーゲンダッツそこそこ高いんだぞ、全く。
「…誰からだったの?」
「妹。牛乳買ってきて欲しいんだと」
「あんた妹にまでパシられてるの?可哀想ね」
「そう思うなら金をくれよ。同情するなら金くれ」
「は?バカなの逆よ。私が同情してあげてるんだから、あんたが金渡しなさい」
初めて聞いた。同情してあげてるから金を寄越せって。こいつ金の亡者過ぎてマジ怖い。こいつのシンパとか増えたら世の中終わるまである。
そんな考えたくもない未来を考えてしまいながら歩いていると、スーパーが見えてくる。
「…じゃ、俺買い物して帰るから」
「そうなの?じゃあ、また明日」
「じ、じゃあなっ!八幡っ!」
「お、おう…」
マーガトロイドはまだ調子を崩し気味な霧雨を引っ張って去った。しかし、博麗だけはまだその場に残っていた。
「…帰らないのか?」
「私も買い物するつもりだったしね」
「あ、そう」
「じゃあ荷物持ちよろしくね、八幡」
そう言って、彼女は先にスーパーの中へと入って行った。
もうこれ罰ゲーム始まってませんか?始まってますよねそうですよね。明日からじゃなかったんですかね。
そんな文句を言わず、心の中で呟きながら、俺はスーパーに入って行く。買い物カゴを持って、彼女の後を追う。
「ん、結構買い込むからカートで良いわよ」
「…お前、気遣えたんだな」
「祓うわよ」
俺はカートを持ってきて、買い物カゴを上に乗せる。
ていうか、なんで俺律儀にこいつの言うこと聞いてんだろ。無意識のうちにこいつに従うようになってきたのか。なんてパシリ精神旺盛なんだ俺は。
将来きっとこき使われるだけ使われて捨てられそうだ。
「一人暮らしって大変なのよね。毎日毎日面倒なことこの上ないわ」
「ほーん」
「言っとくけど、明日からあんた毎日私の神社に来て家事してもらうわよ」
「は?」
ちょっと待てそんなこと聞いてない。
「あんたに洗濯されたら何されるか分かんないから、洗濯は私がするけど。それ以外は八幡がやってね」
「ちょっと待て。なんで俺がお前の神社行ってハウスキーパーしなきゃならない…」
「私の下着を見たこと、忘れたわけじゃあないわよねぇ?」
怖い怖い目が怖いよ。
何この不幸。マジ俺上条さんの性質受け継いだんじゃないのん?今なら幻想を殺す力とか発揮出来るんじゃないのん?
「…ていうか、俺料理とか無理だぞ」
「はぁ?何それ使えないわね。…じゃあもう掃除。神社内の掃除とか風呂掃除くらいなら出来るでしょ」
「それなら出来るが…」
「1週間はそうしてもらうから。後、登校時は私を迎えに来て自転車に乗せなさいよ」
「嘘だろ…」
こいつの我儘っぷりは一体なんなんだ。たかだか下着を不可抗力で見てしまったとはいえ、ここまでさせるのか普通。
「流石にそれは嫌…」
「祓って欲しいの?ん?」
「よし任せろ」
博麗に反抗するのは利口じゃないな。黙って従おう。俺の命が危ねぇよ。
「…神社から徒歩で学校ってなかなか面倒なのよね。そういうこと」
「本当、いつかバチが当たるぞ」
「当たるわけないでしょ。私は純真無垢で品行方正な博麗霊夢よ。そんな意味分からない神がいたら、逆に祓うわよ」
「そういうとこだよ、そういうとこ」
ここまで開き直ってくると、一周してなんだか清々しいな。
そんな軽口を言い合いながら、俺達は買い物を続けた。生活に最低限必要になるものを次々に買い物カゴに入れていく。
「…これぐらいかしら」
「もういいのか?」
「えぇ。じゃあ、レジに行きましょうか」
俺達はレジに並び始め、速やかに会計を済ませた。済ませたのはいいのだが。
「…なんで俺まで持たされてるの」
「言ったでしょ、荷物持ちって。女の子にこんな重たいもの持たせて帰る気?」
「全部お前のだろ……まぁ別にいいけども」
いやもう荷物持ちという言葉に合う人だろうランキング3位くらいの働きっぷりを見せてるよ俺。社畜になれる逸材だな。
そんな社畜の精神を見せる俺は彼女の荷物の一部を持って、博麗神社へと向かった。
そして到着したのが。
「ここが博麗神社の麓…」
目の前にあるのは、博麗神社と書かれた石柱。そして、森と一緒に上に繋がる階段がある。
「上に行けば神社よ」
「こんな立地の悪いところに住んでたんだな…」
「本当よ。でもわざわざここに来てまで屋台を展開したり、初詣しに来たりする人もいるわよ」
「マジかよ」
博麗が森の中に入っていき、その後を追う。長い階段を登り、ようやく頂上に着いた先には。
「ようこそ、博麗神社へ」
敷地は他所の神社と同じく、かなり広い。立派な神社と言えるだろう。
それだけではなく、頂上から千葉の街を見渡すことが出来るほどの絶景。
「…さ、それ早く持ってきて」
「あ、おう」
博麗が神社に上がり、俺は荷物を彼女に渡した。荷物を持った博麗は神社の中に上がって、荷物を置きに行く。
「…ま、これも何かの縁だ。参拝ぐらいはしてくか」
財布を取り出して、5円玉を摘み出す。その5円玉を賽銭箱に投げ入れ、本坪鈴を揺らして2回手を叩き、目を瞑る。
すると、神社の奥からドタドタという騒々しい音が聞こえてくる。
「あ、あんたいくらいれたの!?100円?500円?」
「5円だよ」
「チッ」
チッてなんだチッて。一応こちとら参拝客だぞ。巫女がそんな態度取っていいのか。
「顔見知りなんだから千円札出してもいいのよ?」
「お前の理屈凄ぇよな。地球崩壊レベルだぞ」
なんならこいつの人格も地球崩壊レベル。
「…まぁいいわ。それより、上がっていきなさいよ。茶と煎餅なら出してあげる」
「や、俺は別に…」
「うだうだ言ってないでさっさと入りなさい。この私が茶と煎餅出すだなんて滅多にないんだから、厚意ぐらい受け取りなさい。…それとも、私が出すものが気に入らないって言うのかしら?」
何その酔っ払いの上司の理屈。「俺が出した酒が飲めないってのか」的なやつだろ完全に。
「…分かったよ。邪魔するけど、長居はしないからな」
「んなことは分かってるわよ。じゃあ私の部屋案内するから、着いてきて」
俺は博麗神社に上がり、縁側を歩いて博麗の部屋に向かった。というのも、神社の正面からすぐ近くであった。
博麗が襖を開けると、JKの部屋らしからぬ光景であった。なんとも言えない質素な部屋。無駄なものはなく、必要最低限の家具しかない。
「じゃ、適当に座ってて。持ってくるから」
「あ、おう」
博麗は茶と煎餅を取りに向かい、俺はその場に座った。
なんだかんだで、ちゃんとした女子の部屋って初めてかも。レミリアお嬢様とフランドールの部屋に入ったことはあるが、あれはどちらも異性を意識するとかいうレベルではない。故にあれはノーカンである。
「ん、持ってきたわよ」
博麗は湯呑み二つと適当な数の煎餅をトレーの上に乗せて持ってきて、部屋にあるローテーブルに置いた。湯呑みを手に取って、お茶を飲む。
「…なんか老人みたいなことしてるな、これ。茶に煎餅て」
「私は普段と同じで変わらないけどね。たまに魔理沙が来るけど、その時もお茶と煎餅よ」
「…ほーん」
でもまぁ、縁側でのんびりするというのも悪くないかも知れない。
「そういや一人暮らしっつってたけど…」
なんかあったのか、と、その先まで聞くことが出来なかった。俺の言葉を遮って博麗が話した内容が。
「…母親は私が産まれてすぐに亡くなったのよ。父親はいるのかどうかすら知らない」
「…悪い。嫌な話だったな」
「いいわよ別に。知らなかったことなんだし。親がいないことも、昔から一人だったことも、今更そんなこと気にしてない」
と、言っているが、彼女の表情は雄弁に語っている。
気にしていないと言っているが、なら何故お前はそんな酷く諦めたような顔をしてるんだ。
「母親の知人だった紫……校長が私を育てたけどね」
「あの人が…?」
俺は意外な繋がりに驚いた。博麗と校長が昔からの知り合いだったことに。
「けど育てた理由は、博麗の巫女として育てるため。一昔前、つまり私の母親が先代の巫女だった時は、この博麗神社は今より賑わっていて、千葉の治安は良かったんだって。先代の巫女としての素質が良かった証拠だったんでしょうね」
彼女は空を見上げて、呟き続ける。
「博麗の巫女は強かで賢く、そして人々に恩恵を授けなければならないという暗黙の方針があるの。そのために徹底的な知識を叩き込まれ、周りを圧倒する体術や武術を手に入れた。…けれど、そこに愛なんてない」
「…博麗…」
「別に文句は言わない。結果的に、紫がいたから今の私がいる。でも時々思うのよ。……愛って、なんなのかって」
声をかけることすら許されないほどの内容。可哀想だったと、同情するなんて侮辱としか言いようがない。
俺はぼっちだ一人だと思って生きてきた。けど博麗は、産まれた頃から一人。こいつこそ、本当の孤独を知ってる人間だったのだ。愛を知らずに、生きてきたんだ。
「……俺はお前と違って、親も妹もいる。だから可哀想だなんて軽々しいことは言えない」
「誰も同情しろなんて言ってないわよ」
「誰も同情するなんて言ってねぇよ。…けど、これだけは言える。お前は一人じゃない」
「……」
「霧雨も、マーガトロイドも、射命丸も、お前のことを慕ってる。親の愛の代わりにはならないのは分かってる。悲観的になるなとか言えるわけもない。話を蒸し返したのは俺だから、虫がいいのは自覚してる。…けど、お前は一人じゃない。これだけは、誓って言える」
俺の言葉に説得力はない。だがこれは事実。
霧雨もマーガトロイドも射命丸も、博麗のことを慕ってる。慕ってるから話しかけている。でなければ、合宿で部屋が一緒になったりしないし、わざわざ外に出かけたりしない。
「…下手な慰め方ね。はっきり言って慰めにもなってないわよ」
「さ、さいで…」
「…けど、ありがと」
博麗は俺に向かって微笑みかける。先程までの酷く諦めたような表情が、今では清々しい表情になっている。
「だからって明日からの罰ゲームが無しになるわけじゃないから。それはそれ、これはこれよ。遠慮なくアゴで使ってやるわ」
「お前本当性格悪いな」
「そんなこと分かりきってることでしょ?」
「…だな」
こいつが単純な八方美人だったら多分吐くレベル。
裏表がなく、サバサバしていて包み隠さず言いたいことをはっきり言う彼女だからこそ、俺は嫌いになれないのだ。
そう。俺は彼女と、博麗霊夢と話すこの時間が、空間が、嫌いじゃないんだ。
先代の巫女のあたりの設定は適当に考えました。霊夢の家族事情がいまいち分かっていないので、こんな風になりました。許してつかーさい。