やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
「小町と同じく、貴方までサボるとは……」
四季先輩にありがたい説教を小一時間受けると、時刻は夕方の6時を過ぎていた。
「まだまだ言いたいことはありますが、最終下校時間も過ぎてしまったようですし、このくらいにしておきます。小町はこれから、私の屋敷で書類を片してください」
小野塚先輩は「えぇ〜…」と項垂れていた。
「八幡くんは今日は帰ってよろしいです。明日からは、本格的に生徒会の仕事に加わってもらいますから」
「…はぁ」
そう言われた俺は四季先輩達と屋上で別れ、自分の教室に戻って鞄を取りに行く。
道中、俺のポケットからバイブ音が聞こえてくる。ポケットからケータイを取り出し、着信先を見てみると、小町からの電話だった。
「もしもし」
「お兄ちゃん何してんの?もう夕方の6時過ぎてるけど」
「あぁー……その話は後でするわ。夜ご飯は先に食べててくれ」
「んーん。お兄ちゃんが帰ってくるまで待つよ。だって、お兄ちゃんと一緒にご飯食べたいんだもん、あ、今の小町的にポイントたかーい!」
「…最後の一言さえなけりゃな。じゃ」
通話を切って、ポケットにしまう。教室に到着し、鞄を持って駐輪場まで向かった。
駐輪場に向かうと、そこには二人、大人の女性が立っていた。片方は、金色の長髪の毛先をいくつか束にしてリボンで結んでいる女性。もう片方は、同じ金色の髪ではあるがロングではなく、ショートボブの髪型をした女性である。
どちらも背中姿しか見えていない。
目を合わせないように、ナチュラルにスルーしよう。そう決め込んで、その二人をスルーして自転車を取りに行く。
「おい。もう最終下校時間は過ぎているぞ。何をしている?」
スルー出来ませんでしたとさ残念。俺に気がついた二人が、声をかけてくる。長々と話すのも面倒なので、端的に答える。
「…まぁ、残業ですかね。生徒会の」
「生徒会……。貴方、一年生よね?まだ生徒会選挙は始まっていないけれど?」
なんで俺が一年生って知ってんだこの人。
この学校は、学年によって色を分けられているわけではない。例えば、学年によって、ネクタイの色が違うとか。しかし、この学校はそんな色分けをされていない。
にもかかわらず、この人は俺が一年生だってことを、初対面で見抜いた。
「…まぁ、色々ありまして」
「ふうん……」
俺はいち早くここから立ち去りたかった。多分、この人達はここの先生なのだろう。早く帰りたい時に限って先生に絡まれるのが面倒だったから去りたかった、というのも一つの理由。
だが、もう一つの理由は。
それは、この金髪ロングの先生が危険過ぎるからだ。
この人が誰なのかは全く分からない。分からないが、この人を見た瞬間、相手にするのは危険、関わるべきではないと、頭の中で危険信号が鳴り響いている。
胡散臭く、この人の心が全く読めない。さっきからずっと笑顔だというのに、それが
「どうしたの?私の顔に、何か付いているのかしら?」
「い、いえ…」
今後、この人に関わらないようにしよう。そうだ。それでいいんだ。でないと碌でもないことに巻き込まれる可能性がある。
俺は自転車を動かして、そのまま二人の間を通り抜ける。そして正門を潜り抜けた時、一目散に自転車を漕ぎ始めた。
「怖ぇ……」
あんな人間が学校にいるとか聞いてない。あの人を一言で例えるならば、魔王だ。
帰ろう。帰って小町に癒してもらおう。
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私は
「どうしたのですか、紫様。先程から、ずっと正門の方ばかりを見て……」
「さっきのあの子……確か、比企谷八幡、だったわね…?」
「え、えぇ…。それが、どうかしたのですか?」
先程から紫様は、ずっと正門の方ばかりを見つめている。それも、なんだか嬉しそうに。
「藍…。貴女は、さっきの彼の表情を見ていたかしら?」
「表情……?」
紫様の質問の意味が分からず、短く聞き返す。
「私達、いえ、私と目が合った途端、彼は怯えた表情をしていたの。上手く誤魔化していたようだけれど、私からすれば、まだまだね」
「紫様……?」
「…なかなか、面白い子ね。比企谷、八幡…。…ふふふ……」
紫様は、何やら怪しげな笑みを浮かべていた。長年付き添っているから分かるのだが、こういう表情をしている時は、碌でもないことを考えているということを示している。
比企谷八幡とやら。紫様に目を付けられたことが運の尽きだと思ってくれ。本当にすまない。
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我が家に帰った俺は、小町と共に夜ご飯を食べていた。遅れた理由とか
「お兄ちゃんが生徒会ね……まぁコミュ力なしの性格がひん曲がったぼっちのお兄ちゃんにはいい薬なんだろうけど」
「ちょっと小町ちゃん?そんなに言われるとお兄ちゃん泣き喚いちゃうからそこまでにしてね?」
「だって事実じゃん。大体、そんな内容で改心の出来だーっとか。頭沸いてるの?」
小町の鋭い言葉に、八幡は大ダメージ!効果は抜群だ!
小さい頃はあんなに可愛かったのに……。まぁ今でも十分可愛いけどね?そりゃもう天使だよ?なんなら天使を越して女神だよ?
「…でも、お兄ちゃんが帰ってくるの遅くなるのは、小町ちょっと寂しいな」
「小町……」
小町はほんの少し、シュンと寂しそうな表現を見せる。
これからの方針は決まった。生徒会の仕事をちゃっちゃと片付けて、家に帰るとしよう。小町が寂しがらないようにさっさと…。
「…なーんて。今の小町的にポイント高かったでしょ?」
こいつ実は女神の皮を被った悪魔じゃないのかな。妹が知らぬ間に悪魔に成り果てていたなんて、八幡信じたくない。
これが比企谷兄妹の、いつもの会話であった。
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翌日。
俺は普段通りに学校へと登校する。自転車を駐輪場に置き、上靴に履き替えて教室に向かった。
自分の教室が見えて来たそんな時、後ろから肩を叩かれる。誰かと思い、後ろを振り返ると。
「おはよう、比企谷くん」
「……」
俺の後ろには、昨日駐輪場にいた謎の金髪ロングの女先生がいた。無意識に、俺は身構えてしまう。
「そう警戒しなくていいわよ。貴方に話があるから」
「俺に……ですか?」
「えぇ。昼休み、校長室にいらっしゃい。待っているわよ」
そう一方的に伝えて、彼女はどこかへと去っていく。
関わらないようにしようと意気込んだ次の日に、化け物があっちから来ちゃった。
RPGで例えるならば、最初の草原とかでスライムやゴブリンが出てくるはずが、気分が良かったのか魔王からわざわざ勇者の前にやって来るということだ。完全な無理ゲーで詰んでいる。
教室に入り、机の上に顔を伏せて心を落ち着かせていた。こういう時は、深呼吸に限る。ひっひっふー。ひっひっふー。
違うこれラマーズ法だわ。全然落ち着けてないじゃん。
「よっ、八幡!おはようなんだぜ!」
今の俺とは真逆のテンションで、霧雨が挨拶をしてくる。後ろには、博麗とマーガトロイドも。
「朝からなんて顔してんの。目がさらにゴミみたいになってるけど」
「腐ってるって言いたいんだろうけど人の目をゴミみたいって言うのはやめようね」
「……何かあったの?」
マーガトロイドが労るような表情で、俺に尋ねる。
やだこの子ってば天使だったりするのかしら?博麗が悪魔にしか見えなくなってきた。
「この学校の魔王に目を付けられた」
「何を言ってるの?」
「多分、今日が俺の命日」
「何を言ってるの?」
分からん。俺も自分で何言ってるか分からん。分からんけど、ただ確実に言えること。
それは、あの女性に目を付けられたらただでは済まないことである。これだけは、確信して言える。さよなら、俺の高校生活…。
昼休みにあの女性と会わなければならないという事情に気が滅入る中、午前の授業をしっかり受けた。
そして、決戦の昼休み。
「…バックれようかな」
「本当、あんた今日どうしたの?」
「実は……」
博麗に事情を話そうとした瞬間、校内放送のチャイムが鳴る。鳴り終えると、女性が放送で話し始める。
「1年F組比企谷八幡、1年F組比企谷八幡。至急、校長室に来てください」
あの人校内放送で呼びやがった。俺がバックれる可能性も頭に入れて、手を回していた。
その放送だけが校内で流れ、終了する。周りの人間は、「比企谷?誰?」みたいな話で持ちきりになっている。
「……こういうことだよ」
「あんた本当何したのよ」
「俺に聞かれても知らん」
俺は自分の席から離れて、重い足取りで校長室へと向かった。校長室を目指して、そこそこの距離を歩く。
すると、段々と校長室の扉が見えてきた。扉の隣には、もう片方の金髪のショートボブの女性がこちらを見つめて立っている。
「来たな。さぁ、入ってくれ」
「は、はぁ…」
金髪のショートボブの女性が扉を開く。俺は「失礼します」と言って、校長室に入っていく。周りには、様々なトロフィーや賞状、盾などが飾られている。来客用の長机と長椅子が置かれている。
そして、大きな窓から学校の外を見ている、金髪ロングの女性が立っていた。
「…来たわね。そこに掛けてちょうだい」
「はぁ……」
俺は長椅子に掛けて、女性の背中姿を見つめた。
「藍。お茶を出してあげなさい」
「分かりました」
藍と呼ばれる金髪ショートボブは、お茶を入れる支度を始めた。その間に、金髪ロングの女性は180度回り、こちらに視線を向ける。
「そう緊張しなくていいのよ?ただ私は、貴方とちょっとした雑談をしたいだけ」
「…雑談の相手にすらならないと思いますけど」
「ふふふ……」
彼女は口元に扇子を当てて、怪しげに笑う。その笑みは、さながら魔王の笑みとでも言うのだろうか。
「お茶が入りました」
藍という人物が、俺の前に熱いお茶を置いた。それと同時に、向かいの長椅子には金髪ロングの彼女が掛けた。
「…改めて紹介するわね。私はこの学校の校長、八雲紫よ。そっちは、私の秘書の八雲藍」
「よろしく頼む」
魔王はどうやら校長だったようです。何もしてないのに校長に目を付けられる俺ってば可哀想。
「…それで、俺に何の用なんですか」
「言ったじゃない。貴方とちょっとした雑談がしたいだけって。そうね、例えば………こんな作文のこととかね」
八雲校長は、どこからか一枚の用紙を取り出して、読み始める。
「青春とは嘘であり、悪である。青春を謳歌せし者達は……」
「ち、ちょっとストップストップ。なに読み始めてるんですか…」
八雲校長が取り出した用紙は、紛れもなく俺が綴った作文である。そして、生徒会に入るきっかけとなった作文でもある。
「私は面白いと思ったけれどね。一般的な生徒なら、友達や恋人と過ごす生活を指し示すはずなのに、貴方のはそれら全てを否定した文面。しかも、あながち全てが間違いではないから、また面白い」
「そりゃどうも…」
校長はなんだか楽しげに話を進めていく。こちらは全く楽しくないというのに、何が面白いのだろうか。
いやほんと。さっきからお腹が痛い。
「それに、昨日」
「昨日?」
「えぇ。昨日、駐輪場で私達と会ったでしょう?その時のことも聞きたかったの」
駐輪場の時のことを聞きたかった?
昨日、特にこの人達と話はしていない。単純に、生徒会の仕事で帰るのが遅くなったことしか言っていない。
「生徒会のことですか?」
「いいえ。生徒会のことなどは把握しているわ。貴方が面白い作文一つで生徒会に入ったこともね」
作文のことといい、生徒会のことといい、この人は俺の情報を把握し切っている。おそらく、俺の小学校や中学校でのことも知っている可能性が高い。
いや、怖いよ。ストーカーかよ。校長が生徒のことをストーキングするとか何それヤンデレかよ。
「私が聞きたいのはそんなことじゃない。昨日、私と貴方は二言、三言くらいしか話を交わしていない。にもかかわらず、貴方は………私を
「ッ…」
「あら、何を驚いているの?まさかあの程度のポーカーフェイスで、私を出し抜けると思って?」
バレていた。この人に
「別に怒りはしないのよ?人に対する捉え方なんてそれぞれなんだから、いちいち気にしたりはしないわ。気にしてはないけど………気にはなるのよ」
そう言って、校長は立ち上がる。立ち上がって、今度はどこに座り始めのかというと………俺の隣であった。
俺の隣に座り、校長は艶かしく両手を俺の両肩に置く。そして、彼女は俺の耳元で。
「何故、貴方は私に怯えるの?」
甘く、温かい吐息と共に、彼女は俺の耳元でそう囁いた。
未だに、八雲校長の感情が読み取れない。嬉々として聞いているのか、または悲しみながら聞いているのか、怒りを持って聞いているのか。笑みを浮かべたままなのに、それが本当の表情なのかすらも分からない。
この人は、一体なんなんだろうか。
「…紫様。そろそろ良いのではないでしょうか。このまま話し込んでは、比企谷の昼食を摂る時間が無くなってしまいます」
「あら…。もう少しゆっくり話したかったのだけれど…仕方ないわね」
八雲校長の顔が俺から少し離れていく。
「今日はわざわざありがとう。次は、もう少しゆっくり話せるといいわね。二人きり、で」
「…校長に呼び出しくらうとか目立つんで、控えてください」
「ふふっ、そうね。気が向けば……ね」
俺は長椅子から立ち上がり、校長室の扉のドアノブを握る。
「…失礼しました」
それだけきちんと言い残して、校長室を出て行く。
校長室を出ると、俺は壁にもたれて、大きく息を吐いた。たかだかちょっとしか会話を交わしていないのに、その疲労が俺を一気に襲う。
それほど、俺はあの人に呑まれていたということだろう。
「…本当、関わりたくねぇわ」
あの人相手だと、マジで命がいくつあっても足りないわ。いよいよ入学した高校を間違えたと、実感する。
八雲紫と陽乃さんのキャラはなんか似てる気する。