やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。   作:セブンアップ

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巫女と生徒会長は相見え、修羅場り始める。

 勉強合宿も終わり、再び通常の学校生活が始まる。のだが、俺の学校生活は普段から通常でもなんでもない。

 

 今日から俺は、彼女のパシリとなる。

 

 俺は博麗神社の麓で自転車を止めて、博麗を待っている。今日から彼女のパシリをするのだと思うと、憂鬱で仕方ない。

 

「ちゃんといるわね。偉い」

 

 森の中の階段から偉そうなセリフを吐いたのは、俺をパシリにした博麗霊夢である。俺はお前を許さないからな。絶対に覚えておけよ。

 

「じゃ、行くわよ」

 

「あぁ、ちょっと待て。これ敷いとけ」

 

 俺が博麗に渡したのは学校専用の鞄である。

 

「ほとんど教材は学校に置いてるし、筆記用具以外何もない。直だと痛いだろ」

 

「…あんた、気遣えるのね」

 

 何その驚いた顔は。気ぐらい遣える。なんなら普段から気遣ってる。偉いだろう俺は。

 

「ありがと」

 

「それ敷いたらさっさと行くぞ」

 

 博麗の鞄を自転車のカゴに入れて、博麗は後ろに座る。

 

「こういう時はしがみついてた方が嬉しいの?」

 

「いらん。どっか掴むところぐらいあるだろ。そこ掴んどけ」

 

 しがみつかれたら運転に集中出来ねぇっつの。小町ならば全く気にしないが、それとこれとはまた別である。

 

「…じゃ、行くぞ」

 

 普段よりやや重い自転車を漕ぎ始め、俺と博麗は学校に向かう。

 

「自転車登校はやっぱり楽ねぇ〜」

 

「そうだな。お前がいなけりゃ普通に楽だったんだけどな」

 

 俺は腹いせのつもりで皮肉で呟いたのだが。

 

「いってぇ!」

 

 あろうことか、運転中の俺の身体を力強く抓ったのだ。

 

「何か言った?風の音で聞こえなかったわ」

 

 こいつ絶対聞こえてるだろ。聞こえた上で抓っただろ。

 悪魔乗せて登校とか正気の沙汰じゃねぇ。後ろにいて余計なことしかしないボンビーかよこいつは。

 

「…なんでもねぇよ」

 

 初っ端からこれは精神的にきつい。パシリにされて、パワハラを受けて。踏んだり蹴ったりラジバンダリってか。面白くねぇ。

 

 しばらく彼女を乗せて自転車を漕いでいると、前方に見覚えのある二人が歩いていた。

 

「魔理沙とアリスね、あれ」

 

「あいつらも徒歩か」

 

 俺は気にせず彼女達を追い抜いていくのだが。

 

「あ、あれ!?霊夢と八幡!?」

 

「…二人乗りしてるわね」

 

「ずりーぞ霊夢!私も乗せろーっ!!」

 

 後ろからそんな喧しい声が聞こえてきた。相変わらず朝から元気だよね、彼女。その原動力一体どこから来てるの?やる気元気リュックに詰めてたりするのかな。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 学校の正門前に到着し、博麗は満足げな表情で自転車から降りた。俺も自転車から降りて、駐輪場まで押して向かった。

 

「快適だったわね」

 

「朝からなんで疲れにゃならんのだ…」

 

 二人乗りで2、30分漕ぐのはそこそこ体力を使うし、小町じゃない人間、しかも同じクラスの女子が後ろに座っている事実にゴリゴリ精神が削られたので、妙に身体が疲労していたのだ。

 

「さ、八幡。この鞄もお願いね」

 

「マ?」

 

「マ。1週間私の下僕。従者。奴隷。小間使い。分かってるわよね?」

 

「聞きたくもない単語を次から次に並べやがって…」

 

 俺は彼女の鞄を持って靴を履き替え、教室に向かう。

 本当こいついい性格してる。いつか逆の立場になったら今以上のことをやらせてやるからなこのやろー。

 

「後この1週間、生徒会休んでよ。神社の掃除とかしてもらうんだから」

 

「いや流石にそれはな…」

 

 無断欠勤なんてしたら、四季先輩がなんて言うか分かったもんじゃない。

 

「休んで」

 

「…?」

 

 …なんだ、この圧は。例えようがないのだが、こいつが俺に脅しをかけている時の圧とは何か別種のものだ。

 

「…無理だったらどうすんだよ。一回俺ちょっとやらかしてるし、会長が1週間の休みを与えるとは思えないんだけど」

 

「PCで出来そうな仕事や書類系統なら神社でやればいい。大体生徒会って、そんなみんな集まってする必要ないと思うんだけど」

 

「…まぁ会議ならともかく、個々の業務を別に集まってする必要ないとは思うが」

 

 それでも、仕事云々を差し引いても、四季先輩がいる。本心を言わない限り、認めるわけがない。仮に本心を言おうとしても、内容が内容だ。紅魔館の時とは明らかに違う。

 

「あんたどうせ庶務でしょ?あんなの雑用係みたいなものなんだし、別にいてもいなくても変わらないと思うんだけど」

 

「それ、普通は俺のセリフなんだけどね」

 

「朝から何を騒いでいるのですか」

 

 このタイミングで聞きたくない人物の声が聞こえてしまった。誰であろう、四季先輩本人である。と、隣に小野塚先輩もいる。

 

「お、八幡。おっす」

 

「うっす」

 

「それで、何を騒いでいたのですか?」

 

「あんたが生徒会長、よね。確か全校集会で見た」

 

 博麗がやや睨み気味に四季先輩を見る。そんな彼女の態度が気に食わないのか、四季先輩も対抗するように睨む。

 

「…貴女は?」

 

「私は博麗霊夢。八幡のクラスメイトよ」

 

「…貴女が博麗の巫女ですか。貴女のことは知っていますよ。博麗の巫女でありながら、この学院の入試を主席合格だとか。そんな方が、八幡と何をしていたのですか?」

 

「あんたが生徒会長なら話は早いわ。八幡の生徒会業務、ちょっと休ませて欲しいって話なのよ」

 

「は?」

 

 博麗が話を持ちかけた瞬間、凍えるような低音の声を発した四季先輩。

 

「今日から1週間、八幡の放課後は私に使ってもらうから。生徒会より余程大事な用事があるのよ。ねぇ?八幡」

 

「…そうなのですか?八幡」

 

「え、あ、まぁ、はい。博麗に先言われましたけど、1週間ちょっと休ませて欲しいなと。休むというか、個人で行う仕事は持ち帰ってするんで……ダメですかね?」

 

「えぇ、ダメです」

 

 きっぱりと即断られてしまった。分かりきっていたことなんですけどね。

 

「そもそも休む理由を述べていません。余程重大な、家庭の事情であれば認めますが……博麗の巫女が関わっているということはそこまで重大な理由ではないでしょう?」

 

 はいその通りです。そこまで重大な理由ではありません。なんなら今すぐ放棄したい内容でございます。

 

「私、こいつに下着を見られたのよ」

 

「は?」

 

「えっマジ?」

 

 四季先輩は瞳孔を開いた目で視線をこちらに向け、また小野塚先輩は驚きの表情でこちらを見る。

 

「俺にも言い訳ぐらいあるんです。あれは不可抗力です不可抗力。部屋の扉開けたら着替えてて…」

 

「でも見たのよね?」

 

「…いや、まぁそうだけども」

 

「八幡」

 

 うわやべ。これガチギレのやつや。絶対死ぬやつやんけこれ。

 

「私、言いましたよね。妙な行動を取れば貴方に自由はないと。よもやお忘れでしたか?」

 

「う…」

 

「…まぁ不可抗力であるなら、多少は目を瞑ってあげましょう。しかし、多少は、です。貴方には罰を下します。覚悟することですね」

 

 結局罰はあるのね。まぁ多少和らいだだけでも良い…んかなこれ。

 

「…で、どうなのよ。八幡の休み、受理してくれるのかしら?」

 

「誰が許すと思いますか。彼は生徒会のもの。貴方に費やす時間などありません。その用事は休日にでも済ませてください」

 

「わっけ分かんない。なんでそうまでして生徒会に拘束するわけ?八幡が副会長、って立場なら分からなくもないけど、庶務なんでしょあいつ。本人が持ち帰って仕事するって言ってるんだし、庶務なんていなくても生徒会は機能するでしょ?」

 

「いいえ。生徒会は全役員揃って初めて機能するのです。何の用事か分かりませんが、貴女の私的理由に八幡を振り回さないでください。不愉快です」

 

「たかだか庶務が1週間いないだけでガチギレし過ぎじゃない?それとも、他に八幡を生徒会に縛る理由でもあるの?」

 

「そうですね。強いて言うなら、彼の更生のためです」

 

「更生?」

 

「彼は社会的に危ういと判断され、生徒会に参加しました。彼が真っ当な人間になれるように、ね。だから八幡が貴女に費やす時間はありません。彼の時間は全て生徒会……いや、私のものです」

 

 …何この修羅場。小野塚先輩とかちょっと怖がってるし。なんなら周りがすっごい注目してるんだけど。

 

「何、あんた八幡のこと好きなの?そんなに八幡を束縛して」

 

「…えぇ。ひねくれてはいますが、仕事を真面目にする八幡に、私は好感を持っていましたし、信頼もしていました。彼もまた、私のことを信頼しているのだと思っていました」

 

「?何の話よ」

 

「…内容は伏せますが、どうやら現実的ではない内容で生徒会を休んだようです。が、それでも本当のことを言って欲しかった。連絡がつかなくなり、何かあったのかと心配もした。…けれど、彼は嘘をついた。何があったのか話さず、変な嘘で私を誤魔化した。彼が嘘をついたのは、私を信頼していなかったから」

 

 紅魔館に連れ去られた、なんて言っても信じてもらえるわけがなかった。だから俺はあの時、安易に嘘をついた。知らないところで四季先輩を傷つけてしまったのだ。

 

「…嘘をつく人間は嫌いです。嘘をつかれることで、裏切られたような気持ちになるから。だから私も、八幡に嘘をつかれたあの時、ショックでした」

 

 四季先輩は少し悲しげに、そう呟いた。

 

「…四季様さ、昔からああいうバカ真面目だったんだ。でもそれを良しとしない人間が出て、四季様に出鱈目な嘘をついたんだよ。その時の四季様、疑うことを知らなかったからさ。全部本当のことだと思い込んでたんだよ」

 

 小野塚先輩が小さな声で、四季先輩の昔の話を囁いた。

 

「結果、嘘をついた連中は四季様が制裁。怒った四季様は得意の説教で泣かせたんだと」

 

「怖ぇ…」

 

「以来四季様は、嘘をつく人間が大嫌いになっちまった。だから八幡が嘘をついた時、ショックだったんだと思う。四季様、生徒会のメンバーのことを話す時だけ、特に八幡のことになると、ちょっと楽しげな感じだったから。四季様は生徒会を信頼しているし、逆に生徒会から信頼を得ていると思っていたんだ」

 

「…そう、だったんすか…」

 

 なら、彼女を病ませた原因は俺にある。四季先輩についた嘘は、彼女の人格を大きく変えてしまったのだろう。

 

「…もう私は八幡に嘘をつかれたくない。だから、私が八幡を根本から作り替えるのです」

 

「何言ってるのよ、あんた…」

 

「…話し過ぎましたが、要のところは貴女の私的理由で八幡と私の時間を割くのが気に入らないのです。私は彼を更生する義務がある。貴女の身勝手な都合で、彼を振り回すなと言っているんです」

 

「あんたのそれだって、完全な私情でしょ。更生する義務って言ってるけど、その実八幡との時間を独占したいだけに見えるんだけど?」

 

「ええそうです。ですが、それも全て八幡の将来のためを思ってこそです。貴女のように、私利私欲の目的ではありません」

 

「私利私欲は互い様でしょうが」

 

 互いに口論がヒートアップ。どちらも引く気を見せない。これぞまさに修羅場である。

 

「四季様、少し落ち着いてください」

 

「私はすこぶる落ち着いていますよ」

 

「…博麗も、ちょっと落ち着けって」

 

「何よ。別に私間違ったこと言ってないでしょ」

 

 小野塚先輩は四季先輩を、俺は博麗を宥める。博麗は更にイラつきの表情を見せ、今度は俺を睨む。

 

 かなりの敵意を見せているのは第三者から見ても分かるほど。既に騒ぎになりつつあり、このままだと教師陣が現れてくる可能性がある。そうなると、色々弁解が面倒になる。

 

 原因が俺である以上、俺がさっさとこの場を鎮めなければならない。

 

「四季先輩、お願いします。1週間、休みをください」

 

 俺は頭を下げて、四季先輩に懇願する。彼女の表情は見えないが、きっと凍えるような視線を向けられていることだろう。

 

「…貴方は私よりも、彼女を選ぶのですか?」

 

「…実際、不可抗力とはいえ俺がこいつの下着を見たことは否定出来ません。その贖罪をする義務が俺にはある。それは、四季先輩が目指す俺の更生に繋がるんじゃないんですかね。社会に出るための真っ当な人間を目指すなら、自分で犯した過ちは自分の手で償う必要がある」

 

 こいつとイチャイチャするみたいなラブコメなんざ一切発生しない。俺が博麗神社に行くのは、罪を償うために博麗の言うことを聞くこと。博麗の言うことを聞くことで、罪がひとまず消える。

 

「…確かに、貴方の意見に一理はあります。罪を認め、それを償うことで人間は大きく変わることが出来ます。貴方の言う罪が、彼女の用事とやらに付き合うことで償えるのであれば、認めましょう。それが貴方が今出来る善行だから」

 

「…ありがとうございま…」

 

「しかし」

 

「…す?」

 

 俺が感謝を告げようとすると、四季先輩がそれを遮る。

 

「覚えておくことです。貴方は博麗の巫女のものでも封獣ぬえのものでもレミリア・スカーレットのものでもない。我が生徒会、いえ、私のものです。貴方を更生するという目的は、今でも変わりありません。貴方の隣に、我々生徒会以外の、私以外の女性は却って悪影響を及ぼします。ゆめゆめ、お忘れなきように」

 

「う、うっす」

 

「返事は"はい"です」

 

「は、はい」

 

「よろしい」

 

 四季先輩は先程のような敵意を収め、普段のお淑やかな笑みを見せた。しかし、すぐまた博麗に敵意を見せて。

 

「…八幡に何かしたら、有無を言わさず貴女を地獄に叩き落とします。博麗の巫女であろうが関係ありません」

 

「やれるもんならやってみなさいよ。受けて立つわ」

 

「…それと八幡。休みを与えましたが、きちんと生徒会の仕事を怠らないようにお願いします」

 

「分かりました」

 

「では行きましょう、小町」

 

「は、はい!じゃあな八幡!」

 

 四季先輩は小野塚先輩を連れて、目の前から去って行った。ようやく、修羅場が収まった。

 

「…俺達も行くか」

 

「八幡」

 

「…ん?」

 

「先に言っておくけど、もう罰ゲーム断るとか許さないから。あの生徒会長と出会う前の段階では、土下座すれば罰ゲーム断ることを許してもいいと思ったんだけど。あんたが罪を償うとか言って、こっちを優先するから。この1週間、もう絶対にあんたを離さない。罰ゲームを断ることも、今更生徒会に行くことも許さない。私のためだけに、尽くしてもらうからね」

 

「ッ!?」

 

 …さっきの圧が普段と何が違うのか、なんとなく分かった気がする。どこかで似たような圧を受けたことがある。

 

 これはまるで…。

 

「封獣…?」

 

「?何を言ってるの?」

 

 俺が思わず呟いた一言に、博麗は怪訝な表情になる。さっきまでの圧が消え、普段の博麗に。

 

「いや…なんでもない。そろそろ教室に行くか」

 

「そうね」

 

 俺達は教室へ向かった。

 さっきの博麗のあの圧は一体、なんだったんだろうか。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 放課後。

 休み時間はパシリにパシられてしまった。そんな俺を見て笑う霧雨、満足げな表情を見せる博麗、ちゃんと働いているのだなと意外そうに見るマーガトロイド。

 

「…にしてもお前、昼休みにパン買ってこいってなんだよ。部活の先輩かよ」

 

「いいでしょ、あそこのパン安いんだから。それに昼休みになると混むし」

 

 俺はぶつくさ文句を言いながら、博麗神社の敷地の掃除を行なっている。博麗は縁側から、こちらを見て楽しんでいる。

 

「しかしこれ、かなりの重労働だろ。よく一人でこんな掃除出来てたな」

 

「慣れよ。それに神社は綺麗じゃないと、参拝客はやって来ないからね」

 

 なんだかんだで神社のことを想っているあたり、巫女としての責任はきちんと理解しているようだ。

 

「ほらほら無駄口叩かないでさっさと掃除して。こんなんじゃ終わる頃には夜になってるわよ」

 

「腰と足が痛ぇ…」

 

 家の大掃除でもここまで身体に負担はかからない。ただただ汚れた敷地を箒で掃くだけの作業なのに、これが地味にキツいのだ。しかも、徐々に気温も暑くなるこの頃。なかなかの地獄である。

 

 結局、敷地の掃除が終わったのは始めてから1時間後である。

 掃除が終わった俺は、休憩がてらに縁側で生徒会の仕事を行なっていた。休憩まで仕事をしてるあたり、ガチの社畜に近づいているのではないだろうか。

 

「それ、ひと段落したらでいいから、お風呂掃除お願いね」

 

「へいへい」

 

 パソコンのキーボードをタイピングしながら、適当に返事を返す。敷地の掃除の次は風呂掃除、か。まぁ洗濯は流石にダメだし、料理もそんなに作れない。つまるところ、ここには掃除しかしに来ていない。清掃員か俺は。

 

 …それにしても。

 

「…なんなんお前。そんなに俺が滑稽に見えたのか」

 

 あいつ、笑みを浮かべながらこちらをずっと見ている。

 

「そうね。あんたが私のために汗水垂らして必死に尽くしてる姿が、もう最高。写真に収めてあげようかしら?」

 

「やめろ。メモ帳持って飛んできそうなやつの食いつきそうな写真になるぞそれ」

 

 下着見たって言う事実がある上に、博麗神社で無給のパシリとか笑いもんだろ。

 

 これが1週間も続くとか、正気の沙汰じゃねぇや。やっぱやめたい。頭下げてまでこっち優先したの間違いかも知れない。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 一昨日から楽しみで仕方なかった。あいつを、八幡をこき使う日が来るのが。

 経緯は言わずもがな、八幡が私達の下着姿を見たことである。その行為は万死に値するが、優しい私はそんなことはしない。八幡に一つ、なんでも言うことを聞かせることが出来るという、魔理沙の突発的な提案で私達は満場一致で了承した。

 

 私は八幡に、1週間私の下僕になれという案を出した。八幡はぶつぶつと文句を言っていたが、八幡に逆らう権利などない。私の下僕は絶対なのだ。

 なんなら昨日、八幡に私が買った重たいものを持たせた。八幡は変わらず文句を言うが、なんだかんだ持ってくれるあたり、人がいいと言えないことはない。

 

 八幡はひねくれていて自虐的で、面倒くさいやつだ。魔理沙とは違う意味で面倒くさい。

 けれど嫌いにならない。嫌いになれない。一般的な男としてあいつは多分終わってる人種の方なんだろうけど、私はあいつのことが嫌いじゃない。

 

 嫌いじゃないから、彼の隣にいても悪くないと思える。むしろ、彼と過ごすことが楽しいと思いつつあるのだ。

 

 私は最初、ただ都合の良い小間使いがいればそれでいいと思い、八幡に罰ゲームで命じた。けれどもしかすれば、八幡の隣で過ごしたかったから、八幡と一緒に楽しい時間を過ごしたかったから、そういう命令にしたのかも知れない。

 

 私があいつに抱く気持ちは異性に対する想いではない……と思いたい。実際、出会ってまだ2、3ヶ月程度。すぐに誰かを好きになれるほど、私はそこまで恋愛脳じゃない。だから八幡のことを、異性として見てはいない。

 

 でも、今日のあいつにはイラついた。

 

『八幡に何かしたら、有無を言わさず貴女を地獄に叩き落とします。博麗の巫女であろうが関係ありません』

 

 私は、四季映姫・ヤマザナドゥとかいう我が学校の生徒会長に、少なからず嫌悪感を抱いた。

 更生という言葉を使って、八幡を束縛しようとするやつ。

 

『何の用事か分かりませんが、貴女の私的理由に八幡を振り回さないでください。不愉快です』

 

 煩わしい。不愉快なのは自分だけだと思ったら大間違いだ。私もあんたのことが気に食わない。

 

『彼は生徒会のもの。貴方に費やす時間などありません。その用事は休日にでも済ませてください』

 

 八幡を我が物顔で言ってんじゃないわよ。少なくともこの1週間、八幡は私だけの下僕なの。小間使いなの。奴隷なの。あんた達に費やす時間なんて、1分もないのよ。

 

 八幡は、生徒会長のものでも封獣ぬえのものでも誰のものでもない。私の、私だけの下僕。

 だと言うのに、生徒会長は食い下がる。私は更にイラつき始める。そんな私に、八幡は宥めてくる。

 

 八幡まで、あの生徒会長の味方なのか。そう思ったのだが。

 

『四季先輩、お願いします。1週間、休みをください』

 

 私を宥めていた八幡は、生徒会長に頭を下げてそう頼み込んだ。その瞬間、私の心の中の優越感が膨れ上がったのだ。

 八幡は生徒会長を選ばず、私を選んだんだ。その事実が、私の優越感を膨れ上げた。

 

 正直な話、本当に嫌で土下座までされたらやめようかと思っていた。不可抗力で見てしまったのは、分かるから。だからあの場で生徒会長を選んでも、仕方ないと思いたくはないが、仕方ないと思わざるを得ない。

 

 でも八幡は私を選んだ。生徒会長じゃなく、私を。

 

 ならもういいわよね。

 今更嫌だって言っても、離さなくてもいいのよね。だって八幡が私を優先するということは、私の罰ゲームを認めるということなんだから。

 

 もう私は八幡を離さない。少なくともこの罰ゲームの期間中は、誰にも八幡を渡さない。あの生徒会長にも、メンヘラな封獣ぬえにも、腐れ縁の魔理沙やアリスにも、誰にも渡さない。渡してなるものか。

 

 八幡が私のためだけに必死に働く姿を見ていると、私の気持ちは昂ってしまうのだ。他の女が、八幡に執着するのも分からなくもない。自分のために尽くしてくれている人間に、執着しない方がおかしい。

 

 明日は八幡に何を命令してやろうかしら。それを考えるのが、楽しみで楽しみで仕方ない。

 

 全部あんたが悪いんだから。責任、取りなさいよ。

 

 

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