やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
罰ゲーム二日目。昨日と同様、神社まで博麗を迎えに行き、学校へと連れて行った。生徒会の仕事と並行で、博麗の下僕はなかなかな重労働だと言える。
「いいよなぁ霊夢は。まだ後6日八幡をこき使えるんだもんな」
「…その八幡はいつも以上に目が腐っているけれど。大丈夫?」
「いいのよ。八幡がやるって言ったんだし、今更文句は言わせないわ」
この巫女マジで鬼。ちょっとぐらい気を遣うという配慮はないのだろうか。
「…なんだか喉渇いたわね。八幡」
「はいよ。緑茶だろ」
俺は博麗から金を受け取り、その場から立ち上がる。
「あっ八幡!私も買ってきてくれよ!私カフェオレで…」
「ダメよ」
「…え?」
霧雨の言葉を否定したのは俺ではなく、何故か博麗であった。気のせいか、博麗の表情が普段より暗い。暗いというか、むしろ怖い。
「魔理沙、自分で買いに行きなさい。今、八幡をこき使っていいのは私だから。あんたがこき使ったら何のための罰ゲームか分からないじゃない」
「別にそれくらいいいだろー?」
「ダメよ。許さない」
「…霊夢、どうしたの?」
普段と何かおかしい博麗の様子を読み取ったマーガトロイドが、怪訝な顔で尋ねる。
「…何もないわよ。とにかく、私の罰ゲーム期間中は八幡にこき使うのは禁止だから」
「ケチだなぁ〜」
「ほら、早く買って来て」
「お、おう…」
昨日からどうも博麗の様子がおかしい。罰ゲーム期間が始まったことが、何か関係しているのだろうか。昨日の一日を思い出しつつ、俺は自販機に向かった。
その廊下を歩く途中。
「あ」
「お」
目の前から松葉杖を使って歩く霊烏路と、隣に火焔猫がいた。
なんでも、この間の足を捻ったのが結構な怪我で、一応念のために松葉杖を使わなければならないらしい。
「今からどこかに行くのかい?」
「あの鬼巫女にパシられてるからな。……それより、何お前。昨日からずっとこっち見てきて」
実は昨日からこんななのだ。休み時間、授業中、霊烏路からずっと視線を向けられている。俺は彼女からレーザーポインターを浴びせられるほどの何かをしたというのだろうか。
しかも気のせいだろうか、なんだかその視線は熱を帯びている気がする。
「…お空?」
「うにゅ!?」
火焔猫の呼びかけで、霊烏路は変な声を上げてハッとした。
「な、何?」
「何って、ずっと八幡のこと見てただろ?」
「え、あっ…その……いつもより目がゴミってる?」
急にディスられたんだけど。どうしたお前。腐ってたって言いたかったのかな。今日の俺そんな目腐ってたか?
…いや、心当たりはある。博麗にパシられてることがきっと影響しているに違いない。うん、そうだ。絶対そうだ。それしかあり得ない。
「だからって見過ぎだよ」
「ご、ごめんなさい…」
「いや、別にそんな謝る必要ねぇよ。…じゃあ悪いが、さっさと行かねぇと鬼巫女が怒るから」
「あぁ、じゃあまた後でな」
「ば、ばいばいっ!」
俺は彼女達を後にして、外にある自販機に向かった。
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「最近どうしたんだい?学校でも屋敷でもボーっとして」
お燐がそう聞いてきた。
最近、私はずっとあることを考えている。
目が死んだ男の子、八幡。上の名前は忘れた。
勉強合宿で、私は森の中に迷ってしまった。なんで迷ったのかは忘れたけど、とにかく迷ったのだ。
雨も降ってて、暗くて怖かった。お燐やこいし様、さとり様に会えなくなるんじゃって思った。
けどそんな時、八幡が現れた。
本の中の主人公みたいに、現れたんだ。その瞬間、私は八幡が王子様に見えた。お姫様を助ける、王子様に。
八幡におぶってもらい、暗い森の中を迷いながら帰り始めた。八幡の背中が大きく、それでいて暖かった。
八幡はスマホのライトを使って前を明るくして歩いていくけど、しばらくして光が消えてしまった。また暗くなったことで、私は怖くなって八幡の身体にギュッとしがみついた。
『…霊烏路、目閉じとけ。今度目開ける時は、旅館に着いた時だ』
私はそう言われて、目を閉じた。次開ける時が、私達の帰る場所とのこと。
けれど雨の音は消えず、八幡もなんだかしんどそうになってきていた。10分、15分と時間が進んでも、まだ着く感じがなさそうだった。
『…まだ…?』
『…もう少しだ。だから怖がるな』
八幡はそう優しく言った。私はその言葉を信じて、旅館に着くことを願った。
すると。
『…おい霊烏路。あれって…』
八幡が何か言っている。私は閉じていた目を開くと、見えたのは私が寄ったコンビニだった。
戻ってきたんだ。私はそのことがたまらなく嬉しくて、喜んだ。
『…ここまで来れば、旅館はもう目と鼻の先だ』
帰って来られたんだ。あんな暗い森の中から、私達は帰ることが出来たんだ。
私が八幡のことを考え始めたのは、きっとそこからなんだ。多分。
気付けば八幡のことを考えてる。地霊殿でも学校でもお風呂の中でも布団の中でも、ずっと八幡のことを考えてる。
八幡のことを考えてると、なんだか胸がぽわぽわする。なんて言った方がいいのか分からないけど、嫌な感じじゃない。むしろ、八幡のことをずっと考えてると、気持ちいい。
八幡と一緒に出かけている。八幡と一緒に地霊殿か学校で過ごしてる。八幡と一緒にお風呂に入ってる。八幡と一緒に寝てる。八幡と二人で、ずっと、ずーっと一緒にいる。
八幡のことを考えていると、こんなことをずっと考えている。それだけじゃない。
八幡は今何してるのかな。八幡は誰と喋ってるのかな。八幡は何食べてるのかな。八幡は今お風呂に入ってるのかな。八幡はもう寝たのかな。
八幡が今何してるかも考えてしまう。気になって気になって仕方がない。
八幡のことを考え過ぎて、お燐やさとり様の言葉もあまり聞こえない。ずっと八幡のことを考えているからか、あまり聞こえないのだ。
気がつけば、私はずっと八幡を見てた。八幡と一緒にいられるのは学校の時だけ。
八幡が他の女の子と喋ってるところも、何か本を読んでるところも、顔を伏せて寝てるところも、全部見てる。八幡より後ろの席だから、それがよく見える。
八幡、と呼ぶことすらなんだか気持ちいい。呼びたい。ずーっと呼びたい。八幡がいてもいなくても、八幡って名前を呼びたい。
八幡、八幡、八幡、八幡。
あぁ、なんだか気持ちいい。とっても、気持ちいいな。
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放課後。
結局、博麗の様子が分からないまま放課後を迎えた。普段通りに霧雨やマーガトロイドと接してはいたのだが。
『ダメよ。許さない』
あれはなんだったんだろうか。似たような様子であれば、昨日の四季先輩との修羅場の後もそうだ。昨日も今日も、はっきりとは言えないが博麗らしからぬ様子ではあった。
「何ボーっとしてんのよ」
「いや、何もねぇよ。…ていうか、なんでこいつらまでいんの?」
「八幡の働きっぷりを見たかったからなんだぜ!」
「私専用の従者というのもいいわね…」
霧雨とマーガトロイドが面白がって見に来ていたのである。暇人かよこいつらは。
そんな彼女達に対して溜め息を吐きながら、生徒会の仕事を片していく。7月に行われる体育祭のことやボランティア活動のことなど、そこそこ仕事が多い。
「そういえば、みんな8月の28日か29日って空いてるか?」
「えらくまた先の話ね……って、その二日って確か」
「あぁ!夏祭りだ!」
夏祭り、か。別に誰かと行く必要はないし、第一一緒に行くような人間もいなかったので、基本的に家でゴロゴロしてスルーしていた行事だ。
「金が集まるからいいけど、わざわざ知らない人間の前で舞うなんて面倒なことこの上ないわ」
「舞う…?」
「八幡は夏祭りに博麗神社に来たことないの?霊夢が神社の目の前で踊るのよ」
「巫女舞か…」
そういえば中身が下水道なやつだけど、立派な巫女だったんだっけ、博麗は。まぁ巫女らしい立ち振る舞いを俺は一切見たことないんだけども。
「今年は八幡もいるしさ!みんなで行こうぜ!」
「いや、普通にめんどいからパスしたいんだけど。なんでそんなクソ混んでる時に…」
「行こうぜ、な?八幡もいなきゃ嫌なんだよ」
「ッ…」
ちょっと。その口説き文句は少々あざといんじゃないんですかね。並の男子であれば、コロッと落とされているレベル。
「…分かったよ。行くよ」
どうせ今断っても後で断っても、ごねるに決まってる。俺はそんな面倒なことに付き合うつもりはない。あくまで、未来を危惧した結果の選択だ。
「本当か?!やっぱ八幡って優しいなっ!」
そう言って、霧雨は俺にしがみつく。
あのですね、そういう無邪気な行動がですね、多くの男子を勘違いさせ、結果死地へ送り込むことになるんです。分かったら今後、ボディタッチはしない、放課後男子の席に座らない、忘れ物をしても男子から借りない、徹底してくださいね。
「…あのな…」
「魔理沙。八幡が困ってるから離れなさい」
「え?あ、わ、悪い!つい反射的に…」
霧雨は突然に頬を真っ赤にして、即座に離れる。反射的に誰かに抱きつくのはいいけども、それは女子にしてあげてね。俺に抱きつくと比企谷菌が感染しちゃうよ。
姦しい声が飛び交う中で、俺は仕事だパシリだと社畜の如く働きで全てをこなした。霧雨もマーガトロイドも結局、暗くなる直前まで神社に居座っていた。
「そろそろ帰るぜ」
「暗くなってきたことだしね」
「俺も帰るわ。もうほとんどやることないだろ?」
「そうね。今日はよく働いてくれたわ。褒めて遣わすわ」
何様だこいつ。
「じゃあな」
「また明日な、霊夢!」
俺達は博麗神社を後にして、麓に降りる。途中まで帰る道が同じなので、一緒に帰っている。
「…ねぇ八幡。少しいいかしら?」
「ん?どうした」
マーガトロイドが突然、話を振ってくる。何故だか神妙な面持ちである。
「今日の霊夢、何か様子がおかしくなかった?」
「そうか?普段通りだったと思うけどなぁ」
普段通りではあった。が、時々様子がおかしく見えたのもまた事実。何が起爆剤で豹変してるのかは知らないが、罰ゲームが関わっている可能性はある。
「…まぁそうだな。ていうか、あいつは普段からおかしいとこしかないだろ。俺に対する扱いとか」
「霊夢の八幡に対する扱いはいつも通りだろ」
そんないつも通り嫌だ。いい加減にそのいつも通りを変えて欲しい。俺に危害を加えない、そんないつも通りでお願いします。
「…なんて言うか、時々彼女のような表情になっていたのよね。八幡に付き纏う……封獣ぬえ、だったかしら」
「気のせいだろ。あれが何人もいてたまるか。胃に穴開くぞそんなん」
気のせい、だと思いたい。しかし、マーガトロイドが言っていることはあながち間違いじゃない。
昨日も、そして今日も。博麗の表情と封獣の表情が重なる時があった。気のせいだと俺が言うのは、単なる現実逃避。もし仮に、博麗が封獣のようになってしまえば、胃に多大な負担が掛かることもあり得てくる。
「あ、私達そこ渡って帰るから」
途中の横断歩道に着いたあたりで、マーガトロイドが指差す。
「おう。じゃあな」
「じゃあな八幡!また明日っ!」
そして別々の道を帰路を辿り、俺達は別れた。押していた自転車に乗り、ペダルを漕ぎ始めようとすると。
「あっ、八幡さん!」
「お」
俺を呼んで引き止めたのは、重そうなレジ袋を両手に持った魂魄であった。
「奇遇ですね。今帰りですか?」
「あー、まぁな。…つーかそれ…」
「はい。全部食料です。幽々子様の」
サイゼでも騒いでいたが、幽々子様という魂魄の主は結構な食いしん坊らしい。
「…ん」
魂魄に向けて、手を差し出す。
「え?」
「…重いだろ。チャリの籠に乗せる。ついでに家の入り口まで送る」
「い、いえいえ!それは八幡さんに悪いですし…」
「俺から言ってんだ。悪いもクソもねぇだろ」
それに、流石にこんな重そうなレジ袋を持ってるやつを見かけて放置するほど俺は鬼じゃない。まぁ知らんやつならスルーしてただろうけど。
「ほれ」
「…八幡さんって、女性に対する気遣いが良いですよね」
「なんだ急に」
「そこが八幡さんの美徳なんでしょうけど。では、お言葉に甘えさせてもらいます」
魂魄はレジ袋を籠に詰める。その瞬間、自転車の前部分だけが異様に重くなったのを感じる。
「それでは参りましょうか」
魂魄の案内で、俺は魂魄が住む家へと向かった。
一応、帰るのが少し遅くなると小町に連絡しておこう。最近家を空けすぎたせいか、だいぶ戯れついてくるのだ。
いやまぁそこがね?うちの小町の可愛さって言うかね?むしろもっとウェルカムである。
脳内にコマチエルを浮かべながら、魂魄の後を付いていく。そして辿り着いた先にあるのは。
「ようこそ。ここが我が屋敷、白玉楼です」
もう規模については驚きはしない。紅魔館、命蓮寺、博麗神社、何かと規模の大きい敷地に足を踏み入れた猛者である。今更高級ホテルが目の前にあっても、驚かない。
「では、中へ」
俺は自転車を正門前に停め、レジ袋を持って中に入る。
中に入ると、それはそれは広い敷地が広がっている。庭には、池やその池を跨ぐ桟橋がある。
その桟橋を渡ると、そこが屋敷の縁側である。俺はレジ袋を縁側にゆっくりと置いた。
「あら、お客さんかしら〜?」
間延びした声を発しながら襖を開けて現れたのは、ピンク髪のミディアムヘアーに、水色と白を基調としたフリルのような着物に、妙な帽子を被った女性。
そして何と言っても、思春期男子を引き寄せる二つの大きな丸い何か。小野塚先輩や風見先輩、八雲校長とそのお付きの人も大概であるが、この人もヤバい。マジっベーレベル。
無意識に目を引き寄せられてしまうのは、決して俺に下心があるわけではない。そう、決して下心が…。
「八幡さん」
「ひ、ひゃい!」
変な声出た。
「見過ぎです」
魂魄は静かな笑みでそう注意するが、瞳は一切笑っていなかった。
怖いよ魂魄。後怖い。
「こちらが私の主、
「…どうも。比企谷八幡です」
「貴方が噂の八幡さん、ね?妖夢がお世話になっているわ」
「はぁ…」
別に世話をした覚えはない。ちょっと話すだけの関係でしかない。一体魂魄は俺の何を話しているのだろうか。
「幽々子様、夕食の材料を買って参りました」
「あらありがとう。折角だし、八幡さんも食べて行ったらどうかしら〜?」
「それはいい考えですね。材料を持って貰った恩もありますし、ぜひ上がってください」
「や、妹が夜飯作って待ってるし。悪いけど、その誘いは無しにしてくれ」
「そう、ですか……」
だから。
だからなんで揃いも揃ってそういう、悲しげな表情になるんだよ。どいつもこいつもあざといよ本当。
「…来週の休日」
「え?」
「お前が来週の休日辺りになんか来いって言ってただろ。そん時にご馳走させてもらおうかな……つって……」
いささか厚かまし過ぎたか。他人の家に上がるだけでなく、飯まで作ってもらおうとしてるからな。
「は、はい!腕によりをかけてお待ちしてます!」
そんな気合い入れんでも。食わせてもらうだけでありがたいんだから。気遣うわ。
「…まぁ、楽しみにしてる。じゃ、俺は帰るから」
「はい!さようなら、八幡さんっ!」
「またおいでね〜」
俺は白玉楼の屋敷を後にし、正門に置きっぱなしのチャリに乗る。「今から帰る」と小町に連絡し、ペダルを踏み込み始めた。
「…今日も一日疲れたな」
毎日飽きない日常が繰り広げられている。俺が目指した静かなる生活とは程遠いが、なんだか充実している気がする。
俺もついにリア充の仲間入りってか。下らねぇジョークだよ、全く。