やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
罰ゲームから日が経ち、遂に最終日。
今日本日を以て、博麗霊夢の罰ゲームが終了いたします。わーわーぱふぱふー。
なんだかんだで長いようで短く感じたこの1週間。ようやく自由を取り戻すことが出来る。そう考えると、少しワクワクしている自分がいる。
やや高めのテンションで博麗を迎えに、博麗神社へと向かったのだが。
「…来ねぇな…」
いつもだったら来るであろう時間に博麗が来ない。何かあったのなら、連絡ぐらい入れてくると思ったのだが。
俺は博麗のラインにメッセージを送る。しかし少し待っても、全く返信する様子がなかった。
あいつが先に行くとは考えにくい。「歩くのが面倒、チャリが楽」とか言ってたやつが、先に学校に行ってるとは思えない。なら普通に考えて、まだ神社の中にいる。
「…行ってみるか」
自転車を麓に置いて、博麗神社へと向かった。階段を登ると神社が観えて来るのだが、やはり外にはいなかった。
「…おーい、博麗ー?」
気怠げに彼女の名前を呼ぶ。だが声は返ってこない。ここまで無反応だと、何かあったのかと心配にはなる。
中を確認したいのは山々だが、いかんせん気が引ける。無反応なのが気になるが、別にこのまま放っておいて学校に行ってもいいのではないか。
俺は別にあいつの彼氏でもなければ家族でもない。俺が乗り込んで心配する必要性はどこにもない。…のだが。
もし何かあって、それで家に引きこもっているやつを放っていくのも気が引ける。
我ながら面倒くさい性格になったもんだ。
「…しゃーない」
俺は勝手に神社の中に上がる。縁側を歩き、博麗の部屋へと向かっていく。
博麗の部屋の前で、俺はもう一度、彼女の名前を呼ぶ。
「博麗?生きてるか?」
「……なんで来たの…」
部屋から博麗の声が返ってくる。しかし、どこか不調を思わせる声色であった。
「なんでって、いつも来てる時間帯に来てなかったら不思議に思うだろ」
「…別に先に行けば良かったでしょ……どうせ今日で罰ゲーム終わりなんだし…。あんたからしてみたら、私がいない方が良かったんじゃないの…?」
なんだか今日の博麗は卑屈に見える。姿は見えんけど。
「…まぁお前に今まで苦労かけさせられたしな。下着見た俺が言うのもなんだが」
「だったら放って行きなさいよ…」
「そうだな。これが罰ゲーム期間でなけりゃあ、普通に放置してたかもな」
「なら…」
「でもまだ罰ゲーム期間は続いてる。今日が最終日とはいえ、一応お前の言うことを聞く義理はある。何か買って来て欲しいもんあるなら買ってくるし」
変なところで罰ゲームが有耶無耶になって、元気になった時に「あの時罰ゲームしてなかったから今日は特別に」とか言われても困るからな。
「つかお前風邪かなんかだろ。そもそも病人放置するほど俺もそこまで鬼畜じゃねぇよ」
「……」
「まぁお前が帰れって言うなら、遠慮なく帰るけど」
本人が帰れって言ってんのに無理矢理に居座るわけにもいかない。
「……じゃあ、来て…」
「…おう」
俺は襖を開ける。そこには、布団を敷いて寝込んでいる博麗が。
「大丈夫か?」
「って見えるならあんたの目は本当に腐ってるわよ…」
そりゃそうだ。大丈夫じゃないから寝込んでんだよな。
「…薬は飲んだのか?」
「まだ…身体が怠くて動きたくない…」
見た感じ、布団から一歩たりとも動いていないようだ。
一人暮らしのリスクのうちの一つ。風邪や熱、体調不良を起こした時、誰も助けてくれない。
「…とりあえず頭を冷やす。今、濡らしたタオル持って来るから待ってろ。タオルはどこだ」
「そこの…引き出しにある」
博麗が指差した引き出しを開き、タオルを手に取る。それを冷たい水で濡らして絞る。冷えたタオルを折り、博麗の額に。
「冷たい…」
「すぐにまた濡らせるように、バケツかなんかに水汲んでくる。ついでに学校を休むことも伝えとく」
「うん…お願い…」
誰かの看病をしたのは小町が熱を出した以来だ。まぁそもそも誰かの看病なんてあまりしないものだが。
にしても小町といい博麗といい、普段から姦しい彼女達がここまで静かになるとは。熱って身体だけじゃなく、地味に精神的に辛くなるもんなんだな。
俺は水を汲めるバケツを見つけて、ありったけの水を注ぐ。注いでいるそのうちに、俺は学校へと休む連絡を入れ始める。
『はい。東方学院高等学校職員室です』
この声は、稗田先生?
「先生、比企谷です」
『比企谷くん?一体どうしたと言うのですか?まだ学校に来ていないですし…』
「それが…」
博麗が熱を出て休むこと、そしてついでに看病するために俺も休むことを伝えた。正直、俺が博麗のことを説明するとどういう状況なんだと疑われそうだが。
『…分かりました。ですが、風邪である以上欠席扱いになります。彼女は勿論、貴方も。よろしいですね?』
「…うす」
『では、貴方達を欠席扱いにしておきます。彼女もそうですが、貴方も十二分に身体には注意してください』
「分かりました。じゃ、失礼します」
俺は通話を切って、ポケットにスマホを入れる。
スムーズに話が進んで助かった。状況説明とか色々面倒だったし、変に疑われたりしたら敵わないからな。
水が多量に注ぎ込まれたのを確認して、俺はバケツを持って部屋に戻った。
「…ありがと…」
「気にすんなよ。…後あれだ、どうせその感じだと朝飯食ってねぇんだろ?動きたくないのは分かるが、とりあえず食えるもんは食っとけ。お粥ぐらいなら俺でも作れるから」
「…うん…」
「じゃ、またなんかあったら言えよ」
すぐそこの縁側で座って時間を潰そうと考え、立ちあがろうとしたのだが。
「待って…行かないでよ…」
博麗が俺の左手を弱々しく握る。
「いや、部屋の前の縁側にいるだけで…」
「嫌…行かないで…」
普段の博麗であれば、こんなことは言わない。熱にうなされているのだろうか。
捨て犬みたいな表情されると、こっちも気分が落ち着かない。落ち着いて眠れるように、一応配慮をしたつもりだったのだが、逆効果だったか。
「…分かった。出て行かねぇからお前は大人しく寝とけ」
俺はその場に座り、普段から学校に持って行ってるラノベを開いて時間を潰し始めた。
しばらくすると、博麗がゆっくりと起き上がる。
「おい、安静にしとけ」
「…ねぇ、背中拭いてくれない…?」
と言って、博麗は徐に寝衣を脱ぎ始める。俺は慌てて彼女から目を逸らした。
「ち、ちょちょ待て待て待て待て!急に脱ぎ出すなって!」
「汗かいて気持ち悪いのよ……背中くらい別にいいでしょ……」
下着見られただけで罰ゲームさせたやつが今や「背中くらい別にいいでしょ」とのこと。熱って怖。
「わ、分かった分かった!別のタオル取るからまだ脱ぐな!」
俺は引き出しから別のタオルを取り出し、さっき汲んできたバケツに突っ込んで濡らした。
「もういいでしょ…」
博麗は遠慮なしに寝衣を脱いだ。背中とはいえ、目の前にはクラスメイトの裸体が。つーか背中だけでも十分エロいっての。
「早く拭いて…」
「お、おう…」
落ち着け比企谷八幡。背中ぐらいどうということはない。大体こんな状況、小町の時にもあったろうが。
それに、俺には封獣の過激なスキンシップで鍛えた理性がある。これぐらいで揺らいだりはしない。
「じゃあ、拭くぞ」
俺は博麗の背中に、濡れたタオルをゆっくりと。
「んっ…」
おい変な声出すな。ただ冷たいタオルが背中に触れただけだぞ。そんな艶かしい声出すのやめろ。
心頭滅却だ。余計なことを考えるからダメなんだ。無心だ無心。
「ん…冷た……っん…」
ごめん無心無理。心頭滅却出来ねぇわ。
「おい…頼むから妙な声出さんでくれ」
「あんたの手付きがやらしいんでしょ…」
「俺のせいかよ」
何?俺無意識に博麗の背中をやらしく触ってたの?それもうセクハラ案件じゃねぇか。ただでさえ女の人をチラ見しただけで視姦されてると勘違いされてポリスに話しかけられるって言うのに、やらしく触ってたら確実に死刑じゃねぇか。
あぁもうさっさと拭いちまえ。
「あっ…」
出来る限り早く、かつ身体を傷つけない程度の力具合で博麗の背中を拭いた。
「はい終わり。流石に前は自分でやってくれ」
「当たり前でしょ…見たら祓うから…」
「見るか」
博麗にタオルを渡して、俺は彼女とは反対の方角に身体を向けた。女子の背中ですら結構揺れたんだ。これ以上見てたら間違いなく不味い。というか上半身裸の女子と同じ部屋にいる時点でもう既にアウトな気がする。
「…ちょっとさっぱりした…。ねぇ、そこの引き出しから着替え取ってくれない…?」
「へいへい」
引き出しから彼女の服を取り出す。それを彼女の姿から目を逸らしながら渡した。
「…もうそろそろ昼時だな。お粥作るし、食材買ってくるわ」
「だから…なんで病人放って行くのよ…」
博麗はまた、弱々しく俺の手首を掴む。
「食材なら神社にあるから……だから…」
彼女のその表情は、見捨てることすら許されない、寂しそうな表情であった。本人は多分否定するだろうが、どう見てもこれは捨て犬の表情だ。
「…分かった。けどお粥作るのにも、台所を借りる必要がある。一旦この場から離れる必要があるが…」
「…それなら、いい……」
縁側行こうとしただけで引き止めていたのに。引き止める基準が分からんな。
俺は一旦博麗の部屋を出て行き、台所に向かった。冷蔵庫や野菜室の中には、それなりに食材が保管されている。調味料もあるし、これならお粥ぐらい作れるな。
「さっさと作っちまうか」
お粥ぐらいなら、俺でも作れるのだ。
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頭が痛いし、身体も怠い。
昨日の夜からなんだか調子がおかしいとは思ったけど、まさか風邪を引くとは思わなかった。
しかも、八幡の罰ゲーム最終日に。
運が悪過ぎる。八幡が私に尽くす最後の日に限って、風邪を引いてしまった。
だがそんなことよりも、頭が痛いし身体も怠い。これが一人暮らしのデメリットである。
誰も助けてくれる人もいない。風邪薬を取りたくても、汗を拭きたくても動けない。
最初は肉体的に辛いのが、徐々に精神的にも辛くなってきた。
苦しい。痛い。
独りは、辛い。
……誰か、助けて。
「…ーい。……れいー?」
この声は。
いや、そんなわけがない。あいつがこんな所にいるわけない。神社の麓で待ちかねて、私を置いて先に行ってるに違いない。
どうせ、上機嫌で学校に行ってるんだろうな。罰ゲーム自体、半ば強引だったし。八幡からしてみれば、さっさと終わらせたいに決まってる。そんなあいつが、来てるわけがない。
「博麗?生きてるか?」
…嘘。本当に来てた。
なんで?
「……なんで来たの…」
私はそう尋ねた。
八幡がわざわざここに来る道理がない。
「なんでって、いつも来てない時間帯に来てなかったら不思議に思うだろ」
それだけ?それだけの理由だけで、わざわざ来たというの?
「…別に先に行けば良かったでしょ……どうせ今日で罰ゲーム終わりなんだし…。あんたからしてみたら、私がいない方が良かったんじゃないの…?」
私はそう卑屈気味に返した。
私なんていない方がいい。私がいなければ、罰ゲームを受けることが出来ず、最後の一日は無事に何もなく終わり、罰ゲームも終わるんだから。
「…まぁお前に今まで苦労かけさせられたしな。下着見た俺が言うのもなんだが」
「だったら放って行きなさいよ…」
「そうだな。これが罰ゲーム期間でなけりゃあ、普通に放置してたかもな」
「なら…」
「でもまだ罰ゲーム期間は続いてる。今日が最終日とはいえ、一応お前の言うことを聞く義理はある。何か買って来て欲しいもんあるなら買ってくるし」
…何よそれ。
わざわざ罰ゲームを受けに来たって言うの?バカじゃないそれ。ドMでしょ。絶対八幡ドMでしょ。
「つかお前風邪かなんかだろ。そもそも病人放置するほど俺もそこまで鬼畜じゃねぇよ」
バカみたい。受ける必要のない罰ゲームを義理堅く守って、わざわざ部屋までやって来て…。
「まぁお前が帰れって言うなら、遠慮なく帰るけど」
…こういうところが八幡らしい。八幡の一言一言が、私をざわつかせるんだ。
なら、いいわよね。私の看病しに来たのだったら。
今日はずっと甘えさせて。
私に、精一杯尽くして。
独りに、しないで。
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「ほら出来たぞ。八幡お手製のお粥」
「…ありがと……」
博麗はゆっくりと起き上がる。
「食えるなら自分で食えよ」
俺は器と木の匙を渡そうとするのだが。
「食べさせて…」
「は?」
「まだ身体が怠いし…力があまり入らないから……。だから食べさせて……」
単なる風邪でここまで弱るのだろうか。確かに身体が怠くなるのは分かるが、両手の力まで抜け切ってるってのか。
「罰ゲームなんだから…言うこと聞きなさいよ…」
「…分かったよ。ほら、口開けろ」
博麗は目を閉じて、口を開ける。ただあの中にご飯を入れるだけなのに、なんでこんなエロく見えるんだろう。こいつの顔が赤いから余計にそう見えてしまう。
「…いくぞ」
俺はご飯を掬って、博麗の口内へゆっくり入れる。
これが餌付けってやつですかそうなんですか。
「……不味くはないわね…」
「…お前らしい感想だな」
飲み込み、次の一口に備えて口を開く。俺は掬って、また彼女の口内へ。それを何度も繰り返して、彼女はお粥を完食した。
「…ごちそうさま」
「おう。とりあえず、飯食ったら薬だな。どこにある?」
「台所の周辺にあるわ…」
「じゃあ、片付けるついでに持ってくるわ」
器を持って、台所へと戻ろうとするが。
「…風邪薬も器も後でいいから……」
三度に渡り、博麗は俺の腕を掴む。
「…アホか。薬飲め薬。そら放っといても治るかも知れんけど、薬飲んだ方がいいだろ」
博麗は納得いかないといった表情でこちらを見上げている。
「……治らなくていいわよ……」
「はぁ?お前何言ってんだ」
熱にうなされているにしても、今日の博麗は変だ。俺は彼女の腕を振り払う。振り払われた彼女の表情は、それはそれは悲しみの表情である。
「…すぐ戻るっつの」
器を持って、今度こそ台所へと戻った。
水で流し、洗剤で器の隅々まで洗う。洗い終え、綺麗な雑巾で水気を拭き取る。
「…で、薬はっと…」
確か台所付近にあるって言ってたな。それに従い、薬が置いていそうな棚や引き出しを探る。
「お、見つけた」
薬やら体温計やら置いている引き出しを見つける。
「薬と…後体温計も持って行くか」
その二つを手に取る。次にコップに水を注いで、博麗の部屋へと戻った。
「遅い…待たせないで…」
「そんな時間経ってねぇだろ。ほれ、薬と水だ」
「…ありがと」
博麗は薬と水を受け取り、それを飲んだ。
「飲んだら寝転んどけ。飯食って薬飲んだし、そのうち眠くなるだろ」
「うん…」
彼女はゆっくり寝転ぶ。寝転んだと同時に、また博麗の額に冷たいタオルを乗せる。
後は特にすることがなく、引き続きラノベを開いて読書を再開した。しばらくすると、博麗が寝息を立てる音が聞こえてきた。
「…寝たか」
正直、彼女の豹変っぷりには落ち着けなかった。普段が普段だけに、尚更。
『嫌…行かないで…』
だからあんなことを言う博麗には驚かされた。普段の彼女であれば、絶対に言わない言葉。
ただ、それが仮に本音だとしたら?熱にうなされたのがきっかけで、誰にも言えない本音が出てしまったとしたら?
博麗曰く、産まれた頃から独りだったそうだ。八雲紫校長が育てたとはいえ、それは先代の博麗の巫女と同じスペックを身につけるため。義務教育的な育て方だ。
愛情が何かを知らずに生きてきた結果が、普段の博麗だったのかも知れない。愛情を知らない博麗は、人よりも多く愛情を求めてしまうのだろう。そして愛情を知ってしまえば、きっとその愛情に執着してしまう可能性が高い。
『行かないで…』
そして、その対象が。
「まさかな」
…色々仮定を並べたが、あり得ない。何故なら、そこまで執着されるほど何もしていない。
封獣が依存したのは分からないでもないが、博麗に関しては何もしていない。単純に罰ゲームで博麗の言うことを聞いてきたくらいで。
「…やめやめ」
いくら考えても分からねぇもんは分からねぇ。
もし仮に、博麗を何かから助けたり、何か依存させるような言葉をかけたなら分からなくはない。が、博麗にそんなことした覚えも言った覚えもない。
そもそも、俺が博麗に何かしてやれることがない。俺が介入して、それで彼女が変わるわけがない。
完全なお手上げである。
こいつの境遇を、俺が理解も同情も出来るわけがない。
ただ、こいつは誰かからの愛を求めているように見える。それだけが鮮明に感じ取れる。
「…封獣と同じ穴の狢、だったりすんのかね」
俺はそう呟いて、ラノベの内容に集中し始めた。そこからしばらく、数時間が経過して。
「おーい!霊夢ー!八幡ー!」
相変わらず喧しい霧雨の呼ぶ声が聞こえてくる。おそらく隣にはマーガトロイドもいるのだろう。見舞いか。
襖を開けると、いち早く霧雨が俺に気づいた。やはり隣にはマーガトロイドも。
「八幡!」
「霧雨、静かにしろ。博麗寝てるんだから」
「あ、悪い…」
俺は人差し指を立てて注意する。
「それで、どうなの?具合は」
「まぁ食欲もあったっぽいし、今うなされずに眠れてる。この分には、早けりゃ夜あたりには治りそうだと思う。知らんけど」
「そう…。そうだわ、これ。お見舞いの品」
マーガトロイドがスーパーの袋を渡してくる。中を覗くと、スポーツドリンク、そしてりんごがある。
「と、後ノート。今日の分」
「悪いな。今写真撮るわ」
俺はマーガトロイドの各教科のノートをスマホで撮影する。そして全て撮影し終え、ノートを返した。
「早く元気になれよな。お前がいないとつまんねえんだから」
霧雨は眠る博麗に向けてそう呟いた。
なんだかんだで、こいつらって仲がいいよな。
「後、八幡もだぞ」
「え?」
「お前今絶対他人事みたいに思ってたろ。八幡もいなきゃ、嫌なんだからな」
「お、おう…」
だから何このイケメンっぷりは。こいつ絶対女子からモテるやつだろ。なんなら危うく俺まで惚れそうになったわ。
本当、こいつ仲間意識強すぎだろ。
「…じゃあ、私達は帰るとしましょうか。病人のところに多人数でいるのはあまり良くないからね」
「そうか。お前らが来たことは起きた時に伝えとく」
「えぇ。行くわよ、魔理沙」
「おうっ。じゃ八幡、またな。待ってるぜ」
二人は部屋を静かに出ていき、神社から去って行った。そして彼女達が去ってから、また数時間が経ち、外もやや暗くなり始めた。
「…ん…んん……」
同時に、博麗がゆっくり目を覚まし始めた。
「…今何時…?」
「夕方の6時過ぎだ」
「結構寝てたのね……」
「まぁな。そういえばさっき、霧雨とマーガトロイド来てたぞ。見舞いの品持って」
「魔理沙とアリスが?また後で礼を言わなくちゃね」
ゆっくり起き上がり、目を擦る。
「具合、どうだ?」
「寝てたらだいぶマシになったわ。まだちょっとだけ身体が怠いけど、朝昼に比べたら」
「そうか」
風邪薬を飲んで寝たら大体は回復する。博麗の症状が風邪か熱かは知らんけど、まぁこれだけ回復したなら、明後日辺りには学校行けそうだな。
「…あんたにも、迷惑かけたわね」
「お前急にしおらしくなるの何?」
「うっさいわね…。…罰ゲームでも、わざわざ看病なんて面倒だったでしょ。それに色々言ったし…」
「別に気にしてねぇよ。つか、病人なんだから何かあれば色々言うだろ」
逆に何も言わねぇ方が怖いし。
「とりあえず、熱測るか」
薬と一緒に持って来ていた温度計を博麗に渡す。博麗はその温度計を腋に挟み、じっとしている。
しばらくすると、体温計から機械音が鳴り始める。
「何度だ?」
「37.1度…」
「そんだけ下がりゃあ直に治るだろ」
もう後は何か特別しなきゃならんことはないな。体温計で見た感じ、治りつつある。俺が何かすることはもうない。
「夜飯は食えるのか?」
「ちょっと小腹が空いてる…」
「じゃ、今度はうどんにでもするか。さっき冷蔵庫の中あったし、使っていいか?」
「あ、うん。別に構わないわ」
「じゃあそれ作ったら、俺帰るから」
「えっ」
「もう熱がぶり返すことはないだろうし、今の状態だと風呂も入れるだろ」
まだ熱が高かったら安静にしていろって言ってたが、ここまで引けば大丈夫だ。
「ま、待ちなさいよ。帰っちゃダメだから」
「は?」
「私が寝るまで、ここにいなさいよ。病人放置する気?」
「いや、別に大丈夫…」
「罰ゲーム。私の命令よ。もし背いたら1週間延ばすから」
「えぇ…」
傲慢な博麗……に見えるが、この言葉の意図がうなされていた時の本音と同じ意味だったら。
まぁどのみち、命令に背いたら1週間延ばされるとか地獄みたいなことされるわけだし、従っておこう。
「…分かった。だが寝たって分かった瞬間帰るからな。命令したいがために起きてるのもなしだ。眠たい時はしっかり寝ろ。じゃなきゃそれこそ熱をぶり返す可能性があるからな」
「…分かってるわよ」
「本当かよ…。…じゃ、風呂掃除してうどん作ってくるわ」
今日最後の仕事だ。風呂掃除を済ませて、その次にうどんと、味の付いた汁を作り始める。うどんを茹でている間に、小町に帰るのが遅くなると連絡をする。
「最近こんなのばっかだな…」
家に帰れなくなったり、帰るのが遅くなったり。
そのせいか、小町と若干距離がある気がする。今度どこかに連れて行ってやろうか。財布の中には200円程度しかないけど。
「…出来たか」
うどんも茹で終え、汁も出来上がった。食堂や回転寿司とかでよく見るかけうどんである。ただし、具はない。
出来上がったうどんと箸を持って、博麗の部屋に戻った。
「ほれ。もう一人で食えるだろ」
「ありがと。いただきます」
料理が出来ないって言っても、肉じゃがやハンバーグと言った手の込んだ料理の場合。お粥やかけうどん程度なら、俺でも作れる。
「…お粥もそうだけど」
「ん?」
「誰かの手料理を食べたのって、いつ以来かしら…」
そう懐かしむような表情する博麗。
「料理が作れるまで、藍の手料理しか食べてなかったから……なんだか懐かしいような、新鮮なような気がするわ」
藍…となると、あの八雲藍先生か。八雲紫校長が巫女としての立ち振る舞いを教えていた傍ら、家事全般は八雲藍先生が行なっていたということか。
「手料理っつっても、うどん湯掻いて湯に味付けしただけの簡易的な料理だけどな」
「それでもよ。…なんだか温かい気持ちになる」
「そりゃ温かいうどん食ってるからだろ」
「違うわよ。物理の話じゃなくて、精神的な話」
「…分からんでもないけどな」
人の手料理ほど、身に染みるものはない。今まで小町が作ってくれていたから、それはよく分かる。
「まぁ藍の方が美味しかった気がするけどね。八幡のより断然」
「中途半端に下げるのやめてくんない?」
そもそも俺手料理なんて作らねぇんだから。
「…でも、嫌じゃないわ」
「…そうかい」
博麗はうどんを平らげ、薬を飲んだ。
「私今からお風呂入るけど、帰らないでよ。帰ったらどうなるか分かってるわよね?」
「はいはい。早よ入ってこい」
ていうかフレーズ的にそれ、「覗かないでよ」だろ。
博麗は寝衣とバスタオルを持って、浴室へと向かった。俺はうどんの器を洗うために、再び台所へ戻った。
それから1時間後。
「…なぁ、やっぱり帰って良くない?俺要らなくない?」
「ダメ。私が寝るまで帰るなって言ってるでしょ。夕方に起きたからか、あまり眠れないのよ」
風呂から上がった博麗は髪を乾かし、布団へと戻って座っていた。
今の時刻は午後の8時前。確かに、高校生が寝る時間帯ではないが…。
「明日、保険でもう一日休もうかしら」
「お前単純に休みたいだけだろ」
まぁ念のためにもう一日休む必要もないわけではないが、博麗が言うとただサボりたい口実に聞こえてしまうのは普段の行いからかな。
そうして博麗と、雑談を交わして過ごした。2時間程度が経過した辺りで、博麗の目はうつらうつらし始めた。
「眠たいならそろそろ寝ろよ。さっきも言ったが、変に起きてまた体調崩したら敵わないからな」
「…まだ眠たくない」
「なんでそんな嘘つくの?お前めっちゃ眠そうだぞ」
今ここで絵本とか読み始めたら序盤で寝る可能性が高いぐらい眠そうだぞ。
「…はよ寝ろ」
「……」
博麗はそれでも納得いかない表情を浮かべている。ごねられることも想定していなかったわけではないが、実際にごねられてしまうと、どうしたらいいのかと思ってしまう。
もしここで俺が折れてしまって、また体調崩したら元も子もない。
「…ならこうしよう。今日の罰ゲームは無効だった。俺の善意で看病した」
「…何言ってるの?」
「つまりだ。今日の罰ゲームは無効だから、明日に延ばすかって聞いてんだよ」
その言葉を聞いた博麗は、目を見開いた。納得していなかった表情が一転して、少し明るくなる。
「…いいの?」
「ただし、明日が正真正銘の最終日だ。それ以上の延長は却下だ」
「…分かった。じゃあ明日に備えて、ちゃんと眠らないといけないわね」
よし、とりあえず本人を納得させることが出来た。俺の罰ゲームの行方よりも、こいつの身体をちゃんと治すことが重要なのだ。一日増えたからってさして問題はない。
「…じゃあ、明日また学校でな」
「今日はありがとね、八幡」
「おう。じゃ、おやすみ」
「えぇ。おやすみなさい、八幡」
俺は博麗と別れと就寝の挨拶を交わして、部屋から出て行った。縁側から夜空を見上げると、地を照らす月が鮮明に見えた。
「…さてと」
帰ろう、我が家に。