やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。   作:セブンアップ

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彼の前にはいつも、面倒ごとが降りかかる。

 博麗の罰ゲームも終えて、今日は金曜日。ついでに放課後。ホームルームが終わり、帰りの支度を始めていると。

 

「八幡」

 

「へ?」

 

 廊下から、何故かあの人の声が聞こえてきた。そう、あの人の声。

 誰もが恐れる閻魔のごとく風格を見せる生徒会長、四季先輩が俺のクラスの前に立っていた。

 

「あの女…」

 

 隣にいた博麗が忌々しそうに呟く。

 

「あの人って、生徒会長だよな?全校集会とかでよく見るけど……何しに来たんだ?」

 

 霧雨が俺にそう尋ねるが、俺も知らん。ただ、また修羅場の予感しかしないのだ。それは何故か。

 簡単な話だ。博麗と四季先輩がいるからだ。これだけで修羅場を展開出来る。

 

 四季先輩はわざわざクラスに入り込んで、俺の目の前までやってくる。

 

「八幡、早く行きましょう。生徒会の時間です」

 

「や、それは全然いいんですけど。なんでクラスに入ってきたんですか」

 

「細かいことはあまり気にしないでください。さ、行きましょう。自己を満たすためだけの下らない罰ゲームも終わったことですし。…それに、貴方が昨日どこで何をしていたのかも問う必要がありますからね」

 

 その皮肉を込めた言葉に博麗は。

 

「あんた喧嘩売ってんの?」

 

「あら、そう聞こえました?」

 

 ほら見てみそ。すーぐ修羅場が展開しちゃったじゃない。霧雨とマーガトロイドなんて置いてけぼりだよ。

 

「何、この人?霊夢と生徒会長ってどういう関係なの?」

 

「色々よく分からんけど、とりあえず互いが互いのこと嫌い合う関係ではあると思う」

 

「霊夢何したのよ…」

 

 博麗が何かしたかってより、多分俺が原因なんだと思う。てへぺろりん。

 

「もう貴女の罰ゲームとやらは終了しました。もう八幡は貴女の下僕ではない。大人しく巫女の仕事に専念することですね」

 

「そうね。あんたの言う通り、もう罰ゲームは終了したわ。けど、有意義な1週間だったわ。私()()に尽くしてくれて、ね。他の、()()()()()じゃなくて、私()()にね」

 

 ねぇさっきからなんでそんな刺激するようなこと言ってるの?怖いよもう怖い。目が合ったら争いが始まるとかポケモンかよ。お前らトレーナーかよ。

 

「そうやって強調していないと奪われてしまうと心配なんですね。余程余裕がないと見える」

 

「放課後になった瞬間わざわざうちのクラスにやってくるあんたに言われたくないわね」

 

「あの」

 

「何?」

 

「なんですか?」

 

 俺が彼女達の修羅場に横割りして、話を遮る。

 いや怖。2人揃って殺し屋みたいな目しやがって。

 

「喧嘩するならよそでやりませんか。この間もそうなんですけど、廊下とか教室じゃ目立ち過ぎる」

 

 ついでに言うなら、俺の胃も痛いからやめて欲しい。

 原因の俺が何言ってんだみたいな感じだが、噂になって封獣や射命丸の耳に入ったら面倒事しか起きない。

 

「…確かに、八幡の言う通りですね。それに、ここで彼女と言い争うだなんて時間の無駄でしかありません」

 

「そうね。こんな幼児体型の生徒会長と言い争うなんて、私も子どもね」

 

 だからそういう皮肉を込めた言葉を使うなと言ってんの。2人の言葉一言一言が修羅場を発展させてることに気づかないのん?

 

「じゃ、私は帰るわ。またね、八幡」

 

「あ、霊夢!じゃあな八幡!また月曜日にな!」

 

「さようなら、八幡」

 

 3人は教室から去っていった。残った四季先輩は不敵な笑みをこちらに浮かべ。

 

「さぁ、八幡。行きましょうか。この1週間何があったのか、余さず報告してもらいますよ」

 

「…お手柔らかに」

 

 俺は生徒会室へと連行された。部屋に入ると、既に全員が集まっている。

 

「おっ、後輩くん!久しぶりだね!」

 

 と、パソコンを片手に手を上げる河城先輩。

 

「四季映姫から大体は聞いたわ。貴方、女子の下着を見たのね」

 

 と、やや悪戯風な笑みを浮かべている風見先輩。

 

「…不幸だったわね」

 

 と、心の底から同情している鍵山先輩。

 

「おっす八幡。おっす」

 

 と、気さくに挨拶する小野塚先輩。

 四季先輩と小野塚先輩以外は、合宿以来まともに顔を合わせていない気がするため、なんだか久しぶりに見る。

 

「さて」

 

 四季先輩は自分の席に、生徒会長専用の席に着いてこちらを睨む。

 

「全て話しなさい」

 

「えっと。黙秘権は…」

 

「あると思いますか?」

 

「デスヨネー」

 

 いつの間にか、四季先輩による裁判が開廷されていた。

 

「そういえば下着を見たことしか聞いていないけれど、その後どうなったのか私詳しく知らないのよね。確か、罰ゲームとやらで博麗の巫女の奴隷に成り下がった、までは聞いたのだけれど」

 

「えぇ。だから詳しく聞くんです。昨日のことも含めて、ね」

 

「あのですね、それについて質問が…」

 

「何か?」

 

「なんで昨日、小野塚先輩のスマホで電話してきたんですか?出たのが四季先輩だったし」

 

「あぁ、そのことですか。私のスマホより小町のスマホを使った方が貴方が出るんじゃないかと踏んだまでです」

 

 いやまぁ確かに四季先輩から電話来たら躊躇うけど、小野塚先輩まだまともだから普通に出たんだよな。

 

「それより私も貴方に質問です。何故昨日、途中で電話を切ったのですか?何故昨日、私からの着信を拒否したんですか?何故昨日、私の電話やラインを全て無視したのですか?」

 

「そういや四季様なんか昨日着拒されてましたね」

 

「まぁ大方の予想は付きます。博麗の巫女の仕業でしょう?」

 

 完全に見抜かれとる。まぁ状況が状況だけに、博麗が疑われても仕方ないけども。

 

「それで?」

 

「はい?」

 

「彼女に、何をしたのか。全て吐きなさい。もしまた嘘をつけば…」

 

 四季先輩はどこからか取り出した芍を俺の喉元に突きつける。

 

「極刑です」

 

「うっ…」

 

 芍を突き付けられた俺は観念して、今までのことを話してしまった。特に黙らなければならないプライバシーに関わるようなことはしていないし、何より命が惜しいのだ。

 

 何故俺の周りにいる女子は命を刈り取るような視線を向けるのだろうか。狩人しかいない学園とかマジ狂気。

 

「…忌々しい…」

 

 話の顛末を聞いた四季先輩は、憎しみを込めてそう呟いた。

 

「貴方は彼女に甘過ぎる。博麗の巫女だけじゃない。封獣ぬえにも。だから揃って付け上がるのです。彼女達に甘さなど必要ない」

 

「や、別に甘くしてるつもりはないですよ。あいつらの押しが強いだけで」

 

「結果甘くしてるじゃありませんか。押しが強いから諦めて、彼女達の思う壺になる。…気に入らないですね」

 

 ドロドロと濁ったような瞳でこちらを捉えて、底冷えするほどの声色で威圧する。

 

「これではっきりしました。貴方に私以外の女性は必要ない。私であれば、彼女達のように私利私欲のために貴方を利用しない」

 

 ヒートアップしそうな四季先輩を、小野塚先輩が宥める。

 

「ちょ、四季様少し落ち着いてくださいって。そんなガチギレしなくても…」

 

「何故止めるのですか?彼に警告しなければ、また他所の女性が彼の押しが弱いことを良いことに甘えてしまう。私以外の女性の所に行ってしまう」

 

「彼女でもないのに束縛し過ぎですよ。八幡だって八幡の生き方があるんですし」

 

「彼の生き方が社会として不道徳だから、生徒会長である私が更生するのです。八幡の隣に私以外の女性は必要ないのですよ。誰一人として」

 

「四季様…」

 

「八幡が必要なのは私の指示だけ。私の言葉を聞いて実行すればいい。それで彼は社会に相応しい人間になる」

 

 どこへ行っても、胃に穴が開きそうになる俺って本当可哀想だと思うんだけど、どうだろう。俺が原因の一部とは言っても、ここまで人格破綻するレベルになるなんて誰が想像するだろうか。

 

「では八幡。今日の仕事です」

 

 四季先輩は書類の束を俺に渡す。四季先輩は生徒会長専用の席に着き、仕事を行う準備を始めた。

 

「くどいようですが言っておきます。貴方はこの生徒会、いや、私のものです。逃げることもやめることも許しません。もしそのような行動を取ったならば、貴方はその瞬間から私以外何も見えなくなることでしょう。そのことを頭に入れておいてください」

 

 四季先輩の圧を含んだ言葉に対して、俺はただ黙って頷くことしか出来なかった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「…マジか」

 

 俺はスマホの画面を見て、そう呟いた。

 小町曰く、どうやらお友達とお泊まりするらしい。夜飯は大体小町が作ってくれているのだが、小町がいない場合は別。外で何か食って帰るか、買って帰って食うかのどちらかだ。

 

「あら、八幡じゃない」

 

 そんな時、聞き馴染みのある声をした人物が俺の名前を呼んできた。その方向に顔を向けると、そこにいたのはマーガトロイドであった。

 

「今から帰りなの?」

 

「まぁな。お前は何してんだよ」

 

「部活帰り。それで今から裁縫道具買いに行くの。上海や蓬莱のメンテナンスのためにね」

 

「上海や蓬莱……なんかの名前か?」

 

「えぇ、私が作った人形よ。八幡も拾ってくれたじゃない。上海」

 

「…あれか」

 

 マーガトロイドと初めて出会ったあの日。駐輪場付近に落ちていた精巧な人形を拾った。あれ上海って名前だったのか。

 

「ねぇ。今暇だったりする?」

 

「今から帰るから忙しいんだけど」

 

「なら暇よね。今から私の買い物に付き合ってくれるかしら?」

 

「えぇ…」

 

 前にも言ったが、女子の買い物はすぐじゃ済まない。必要な物プラス余計な物まで買おうとして、まだまだ買い物を続行しようとしやがる。結果買い過ぎて、男に荷物持ちをさせる。目に見えてるのだ。

 

「大丈夫よ。裁縫道具以外買わないから。荷物持ちにもさせないし」

 

「なら尚のこと俺いらんだろ」

 

 そう言い返す俺に、マーガトロイドはムッとする。

 

「そんなに私と一緒が嫌なの?」

 

「いや、そうじゃなくて…」

 

「いいじゃない。どうせまだ夕食も食べていないのでしょう?出会ったついでになのだし、夕食も一緒にしましょうよ」

 

 なんでこいつ人の話聞かないの?グイグイ来すぎじゃない?

 マーガトロイドが嫌だとかじゃなくて、単純に面倒だから嫌なんだけど。

 いやまぁどうせ夜飯は外で食うつもりだったけどさ。

 

「…はぁ。分かったよ」

 

 きっと四季先輩が言っていたのは、こういうところなんだろう。

 勢いが強いから俺が折れて従ってしまう。勢い強い云々も勿論あるが、個人的にはこれ以上の問答が面倒だと俺は思っている。

 

「じゃあ、行きましょう」

 

 なんだか少し上機嫌なマーガトロイドの後を、自転車を押しながら追う俺。その後を追った結果、着いた先は。

 

「またららぽーとかよ」

 

「ここなら様々な裁縫道具売ってるからね」

 

 ゴールデンウィークや中間試験の勉強などで何度か赴いたららぽーと。何か困ったらとりあえずららぽーとだ。そうすれば大概解決すること間違いない。

 

「では行きましょうか」

 

 ららぽーとに入り、裁縫道具が売っているだろう店へと向かった。

 マーガトロイドが必要な裁縫道具を買っている最中、店の外で彼女を待っていた。

 

「あや?こりゃまた偶然ですねぇ」

 

「…射命丸」

 

 敬礼のポーズをしながらこちらに寄ってくる射命丸。

 

「八幡さんもららぽにいたんですね」

 

「あれの付き添いだ」

 

 店の中にいるマーガトロイドを指差す。

 

「まさか……お二人は放課後にデートを!?」

 

「なわけないだろうが。付き添いっつったろ」

 

 ゴシップ好きはこれだから困る。何かネタがあるとすぐ食いついて来やがる。憎たらしい笑みで徹底的に追及して来そうな記者になりそうだわこいつ。

 

「それよか、お前はなんだ。買い物か?」

 

「えぇまぁ。デジカメ、新しいの買おうかなと下見に」

 

「ほーん」

 

 わざわざららぽーとに来なくても、そこら辺の家電量販店に行けばあるだろうに。

 

「そういえば、今日また噂になってましたよ?霊夢さんと生徒会長の修羅場がまた起きたって」

 

「そういうの本当早いよな回るの」

 

 確かに教室の中だったし、生徒会長がいるだけで普通に目立ちはするんだけども。にしても他クラスに噂が回るの早すぎるだろ。

 

「お待たせ……って、なんで貴女までここにいるのよ」

 

 買い物を終えたマーガトロイドが店から出てくる。だが射命丸を見た途端に、不審の目を向ける。

 

「私も買い物に来てたので。アリスさんは何をお買い上げに?」

 

「裁縫道具を少しね」

 

「あっそうだ!折角こうして会えたんですし、3人でご飯に行きましょう!」

 

「…別に構わないけれど。どうせ八幡と食べに行く予定だから」

 

「決まりですね!八幡さん、どこか美味しいご飯屋さんは知りませんか?」

 

 普通に腹は減っている。なんならガッツリ食べれる。

 サイゼも良いが、もう一つ行きつけの店でも良いな。最近行ってなかったし、それにしよう。

 

「良いところ知ってるぞ」

 

「本当ですか?どこですか?」

 

「サイゼに次ぐ、俺のお気に入りの店だ」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 俺達はららぽーとから出ていき、俺のお気に入りの店へと向かった。そのお気に入りの店とは。

 

「…確かに行きたいところはどこかって聞いたのは私ですけど…」

 

「何、これ……」

 

 射命丸とマーガトロイドが、目の前の品に顔をひくつかせている。

 

 俺の行きつけの店。

 それは、こってりラーメンなるたけ。有名なチェーン店ではないが、ラーメン好きの間では有名だと思われる。

 

「いただきます」

 

 俺は箸を持って、麺を啜る。

 うむ。この背脂を活かしたスープと、そのスープに絡む太麺が美味い。いつも通りの美味しさだ。

 

「せ、背脂が浮いてる…」

 

「こ、これは中々カロリーが高そうな料理ですねぇ…」

 

「早よ食わんと伸びるぞ」

 

「え、えぇ。…いただきます」

 

 二人は箸を持って、恐る恐る一本の麺を掴む。そして勇気を振り絞ったかのように、その麺を啜った。

 

「っ!」

 

「こ、これは…!」

 

 箸が少し止まり、そして再び動き出す。先程よりも多量の麺を掴み、啜る。麺を啜る音が飛び交い、気付けば三人とも完食していた。

 

「…驚きです。気付けば全部食べてしまいました」

 

「何故あんな高カロリーなラーメンを食べ切ってしまったの…?」

 

 どうやらなるたけの味は彼女達の舌を満足させたようだ。

 これが千葉県民を虜にするこってりラーメンである。日本には6店舗しかないらしいが、もう少し有名になっても良いのではと思う。

 

 それぞれ会計を済ませて、なるたけから退店する。

 

「でも美味しかったですねぇ〜」

 

「毎回は流石にあれだけど、偶になら来ていいかもね」

 

 男女問わず胃袋を掴むなるたけ、恐るべし。

 

「じゃあ私、早く帰って人形のメンテナンスに取り掛かりたいから。八幡、今日はありがとう」

 

「おう。じゃあな」

 

 マーガトロイドは一人、人混みの中に紛れて帰路を辿った。残ったのは射命丸と俺。

 

「帰りますか」

 

「…そうだな」

 

 射命丸は電車で帰るらしく、駅まで送ることになった。道中、射命丸があれやこれやと話題を出して話してくる。

 

「それでですね、椛が…」

 

 射命丸文。

 客観的に見れば元気で、少し人をおちょくる悪戯心を秘めた女の子に見えるだろう。しかし、あくまで客観的だ。

 

 では、俺的に彼女を分析した結果を報告しよう。

 まず、彼女は胡散臭い。八雲紫校長のように、本性を見せていない。何度か彼女が笑う場面を目撃するが、全て作り笑顔。心の底から笑ったところを見たことがない。

 

 けれど、つい先程、予想外なところで少しだけ素顔を見せた。

 それは、なるたけのラーメンを見た時だ。その時の彼女の表情は、ドン引きしていた。まぁ常にカロリーとか体型を気にしている女子からすれば、あれは凶器みたいなもんだけども。

 

 しかし、それだけだ。

 初めて出会った時も、合宿の時も、そして今も。彼女は本性を見せない。胡散臭いと言われる所以は、きっとそのせいなんだろう。

 

 未だに彼女がどういう人間かは知らない。別に理解したいとも思わない。だが、その胡散臭さが絶妙的に気に入らないのも否めない。

 

 正直な話、こいつは苦手だ。

 

「…お前さ」

 

「?はい?」

 

「誰にでもそういう態度なのか?」

 

「へ?」

 

 何言ってんだ俺。なんか嫉妬深い彼氏みたいなセリフが出て来たぞ。言い方間違えた。

 

「どういう意味、ですか?」

 

「いや、なんでもない。忘れてくれ」

 

 思わず意味分からんこと口走ってしまったが、よく考えなくても聞く必要性0の質問だった。

 

「なんですかなんですか?気になりますよ〜」

 

「…じゃあ聞くけど、お前なんでそんな作り笑顔なわけ?」

 

「え?」

 

「初めて出会った時も、今も。博麗が胡散臭いっつってんのが共感出来る」

 

 いつでも人当たりがよく、自分に合わせて接してくれる。正に男子からすれば理想の女の子。だが理想は現実じゃない。故にどこか嘘くさい。

 

「お前に似合う言葉を知ってる。八方美人だ」

 

「八方美人…」

 

 まぁそれが必ずしも悪いわけじゃないし、誰彼構わず分け隔てなく接することが出来るのも才能の一つだろう。しかし俺からすれば八方美人もこいつも苦手な部類だ。

 

「お前がどう関わろうが知らんからいいけど、俺に対してそんな胡散臭い態度されると絶妙的に面倒くさい。だから…」

 

「八幡さん」

 

「うん?…ってうぉっ!?」

 

 射命丸が俺の腕を掴む。突然掴まれた俺は自転車を離し、建物と建物の間の路地裏へと連れて行かれた。そして今度は胸ぐらを掴まれ、俺を壁に押し付ける。

 

「ぐぇっ」

 

 変な声が出たのはさておき、先程までの射命丸の様子が一転した。険しい目をして、戯けた様子の影もない。

 

「文系で上位の成績を取ってるも、理系は絶望的。ハイスペックなんて自惚れていながらも将来性皆無の貴方が、私にそんな偉そうな口を聞けるのかしら?」

 

 なんだこいつ。急に豹変しやがった。

 

「私もね、貴方のこと気に入らないと思っていたのよ。弱い人間のくせに粋がっていることがね」

 

「別に粋がってないだろ…」

 

「そうだ。ねぇ、そんなにハイスペックだってことを証明したいなら、私と勝負しなさいよ」

 

「は?勝負?」

 

 俺は呆れた声を出す。

 射命丸は胸ぐらを離し、話を続ける。

 

「次の期末試験、並びに体育祭。私と勝負よ」

 

「意味が分からん。やるメリットもない勝負を受けるわけないだろ。面倒くさい」

 

「じゃあ負けた方は一つ、なんでも言うことを聞くってどう?安直だけど、これなら引き受けるわよね?」

 

 もうその手の罰ゲームはもう懲り懲りなんだが。まだ霧雨とマーガトロイドの分も残ってるし、これ以上増やしたくないんだけど。

 

「もし貴方が私に勝てれば、どんなことだって聞いてあげる。エッチなこともね」

 

 自信満々にそう断言した。

 一般男子は、こう言った提案に惹かれるのかも知れない。しかし、百戦錬磨のぼっちにはそんな提案は通用しない。

 

「それに、貴方が本当に私のことが気に入らないなら、金輪際近づくなって命じることも出来る」

 

「ちょっと待てなんだそのナイスな提案は」

 

「反応おかしいでしょ」

 

 別にこいつは俺に害を与えたわけじゃない。博麗や霧雨のようにそれなりに関わって来たわけじゃない。

 

 だが、これ以上関わると面倒ごとが起きそうだという予感がする。

 既に今、俺が余計なことを言ったせいで面倒ごとが起きてしまったが、もし今以上に面倒ごとが増える可能性があるのなら。

 

「分かった。やろう」

 

「反応がおかしいのはちょっと意味分からないけど。…そう来ないとね。勝負形式はまた改めて連絡するわ」

 

 射命丸はそう言い、元の人通りの多い道に戻ろうとする。戻ろうとした瞬間、こちらに振り返り。

 

「私が命令する内容は決まっているわ。貴方を私の奴隷にしてあげる」

 

「またかよ…」

 

「ただの奴隷じゃないわ。私が作る記事専用の奴隷よ。無茶無理無謀に絶対服従だから」

 

 やっべぇこいつ博麗とかより断然危ねぇじゃねぇか。

 

 つまり、記事のネタになりそうな無茶ぶりに従って、それを校内の廊下に貼られるってことだ。そんなことになったら、間違いなく俺の学校生活は終わる。

 

「手加減してあげるから、本気でかかって来なさい」

 

 射命丸はそんな決め台詞を吐き捨てて、目の前から去って行った。嵐が去り、取り残された俺は一言溢す。

 

「え、どうしよ」

 

 勝てる見込みが低確率の勝負の約束を交わしてしまった。しかも負ければ実質人生終了もんの罰ゲームが待っている。

 

 転校、しようかな…。

 

 

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