やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。   作:セブンアップ

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魂魄妖夢は、常に誠実な人間である。

 

 今日は土曜日。普段なら家で寝て過ごすスタンスを取る俺だが、今日は違う。

 

 魂魄の家、白玉楼にお邪魔する日である。

 前に一度行ったことあるが、紅魔館、命蓮寺と共に並ぶ、大きい建造物であった。

 今日はそんなお家にお邪魔する日だが、白玉楼には向かわず、白玉楼の最寄駅で魂魄を待っている。彼女曰く、「客人を迎えに行くのが礼儀ですから」だと。

 

 あーなんていい子なんだろ。本当いい子。マジ毎朝お味噌汁作ってくれたりしないかなぁ。

 

「八幡さんっ!」

 

 言ってるそばから魂魄がやって来た。こちらに向かって駆け寄ってくる。

 

「お待たせしました。随分と早いんですね」

 

「1本早く乗っただけだ」

 

「そうですか。では、参りましょう。昼食も作り終えてますので」

 

「え、昼食?」

 

 確かに今もう昼飯時だけど。どっか寄って食うとかじゃなかったのか?

 

「はい。手前味噌ですが、料理には少々自信があって。ぜひ八幡さんに食べて欲しいなって…。…それとも、もう食べてしまいましたか?」

 

「食べてないけど…」

 

「それなら良かったですっ」

 

 なんだこの子マジどんだけいい子なんだよ。いやもう惚れちゃいそう。本当好感度カンストして告っちゃいそう。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 魂魄の案内で、白玉楼に到着。来るのは二度目だが、やはり和風感が凄い。紅魔館が洋風の館であれば、こちらは和風の屋地である。

 

「では、中へどうぞ」

 

 魂魄に連れて行かれるがまま、俺は白玉楼に入る。靴を脱いで縁側に上がり、そのまま魂魄に案内される。しばらく縁側を歩き、とある部屋の前で彼女が止まる。

 

「ここで幽々子様がお待ちしています」

 

 魂魄が襖を開けると、畳の部屋で幽々子様となる人物がお茶菓子を楽しんで寛いでいる。

 

「あら〜、いらっしゃい」

 

「ども。お邪魔してます」

 

 俺は軽く頭を下げて幽々子様に挨拶する。

 

「では幽々子様、私は用意していた昼食を運んで来ますので」

 

 魂魄が一旦この場から離れ、作り置きしていた昼食とやらを取りに向かった。

 

「どうぞ入って〜。そんな所でボーっと座ってないで、ね?」

 

「あ、はい。お邪魔します」

 

 俺は部屋にお邪魔して、幽々子様の向かいに腰を下ろした。幽々子様はニコニコと笑みを浮かべながらこちらを見る。

 

「…なんですか?」

 

「八幡くんって、彼女がいたりするの〜?」

 

 開口一番が彼女の有無かよ。ていうか聞く相手間違えてるよ。

 

「あれですよ。気ままに1人で過ごしてます」

 

「じゃあ妖夢はどうかしら〜?家事とても出来るし、気配りが上手だし、可愛らしい子でしょ?逆に今まで妖夢に彼氏がいなかったのが不思議だもの」

 

「あ、そうですか」

 

 魂魄を見てる感じ、恋愛は二の次と言うところかも知れない。部活や家でやることが多いため、恋愛に浸る余裕がないのではないか。

 まぁ魂魄の恋愛事情を知ったからと言って、別にどうという話ではないが。

 

「幽々子様」

 

 襖を開けた魂魄が、神妙な面持ちで部屋に入り、俺の隣に座る。

 

「幽々子様、改まってお聞きしたいことが」

 

「まぁ何かしら〜?改まって」

 

「実は本日の昼食の件で少しお話が」

 

「確か、八幡くんのための…」

 

「えぇ。八幡さんを迎えに行く前に料理を作っておいたのですが…」

 

「朝から頑張ってたものね〜」

 

 何?この状況何?

 

「ところで幽々子様。私に何か隠してること、あるんじゃないですか?」

 

 幽々子様が次のお菓子に手をつけようとすると、魂魄がお菓子入れを手前に引いて幽々子様が食べないように阻止した。

 

「あっ…」

 

「正直におっしゃってくだされば怒ったりしませんので」

 

 何その反応。「あっ…」とか、可愛いかよ。この人一体何歳なんだよ。

 

「幽々子様」

 

「へっ?」

 

「食べちゃったんですよね。私が作っておいた、八幡さんの料理」

 

「え、マジ?」

 

 いや作ってくれると言っていたからちょっと期待していたけど、この人客人が食べるはずの料理に手をつけたのかよ。どんだけ食べたかったんだよ。

 

「な、何のことかしら〜…」

 

 もうちょっと隠す努力しろよ。普通に図星を突かれたような反応してるじゃねぇか。

 

「というか、私が出る前に普通に食べてたでしょう。なんでまた綺麗に全部平らげてしまうんですか…」

 

「だ、だって〜…つまみ食いしようと思ったら、手が止まらなくてぇ〜……」

 

「はぁ……」

 

 シュンと落ち込む幽々子様なんか可愛いな。主従揃ってどこかしら可愛いとか意味が分からん。

 

「…今から八幡さんの料理を作るには時間がかかりますので、どこかで食べて来ます。夕食の食材も買って来ますので。行きましょう、八幡さん」

 

「え?あ、おう」

 

 魂魄が先に部屋を出て、俺もそれについて出て行く。そのまま靴を履き、白玉楼を出て道を歩き始めた。

 

「幽々子様がすみません…」

 

「いや、別に気にすんなよ。お前のせいじゃないんだし」

 

 あのカービィを擬人化した人が平らげただけで、魂魄は別に何も悪くない。

 

「それよかどうする、昼飯」

 

「そうですね……私もまだ食べていないので、お腹は空いているんですよね」

 

 俺が1人で行くとなれば大体なるたけかサイゼの2択になる。しかし、ラーメンは昨日行ったし…。

 

『次の期末試験、並びに体育祭。私と勝負よ』

 

 昨日のやりとりがフラッシュバックしそうだし。ていうかもうしてるし。

 

「…八幡さん?どうかしました?」

 

「え?な、なんだ?」

 

「いや、何か悩んでいるような表情をしていましたので……大丈夫ですか?」

 

「…なんでもねぇよ。昼飯どうするのか悩んでただけだ」

 

「あ、それなら。あそこにしませんか?」

 

 魂魄が指差す店は、有名寿司チェーン店のくろ寿司。一皿大体100円あたりで、5皿で1回自動ガチャが出来るという、子どもも楽しめる店である。

 

「…そうだな。寿司はありだな」

 

 昼飯はくろ寿司に決定し、店内へと入った。

 休日だということで中では少し待ったが、すぐに案内されて席に着いた。

 

「なんだか久しぶりにくろ寿司なんて来ました」

 

「そうなのか?」

 

「休日の昼間は大体白玉楼で済ませますし、外食なんてあまりしないんですよ」

 

「あまり好きじゃないのか?」

 

「いえ、幽々子様の暴食がお店にご迷惑をお掛けする時もあるので…」

 

「あぁ、そういう…」

 

 そういえば前にサイゼで魂魄が幽々子様に怒ってたな。なんか凄い量の料理を食べていたとかで。

 

「何にしようかな……」

 

 魂魄がタッチパネルを操作しながら、どの寿司を食べるか考えていた。

 俺も何にしようか。無難にまずはまぐろやサーモンあたりにでもしようかな。

 

「八幡さんは何頼みますか?操作してますから、ついでに注文しておきますけど」

 

「じゃあまぐろとサーモン。後ホタテ」

 

 とりあえずその三品を頼んで、後は流れてきた品を適当に取るとしよう。

 

「私は無難にきゅうり巻き、いかにはまちにしましょう」

 

 いかとはまちは分からんでもない。だが何故きゅうり巻きが無難判定になるのだろうか。人の嗜好はそれぞれだから、きゅうり巻きが無難になるって言う人もいるんだろうけど。

 

「そうだ。あの、八幡さん」

 

「どうした?」

 

「近々、剣道の女子個人の県予選大会が始まるんです。その、もし良ければ見に来ていただけませんか?」

 

 ほう。剣道の県予選大会か。剣道を見たことあるのはテレビでしかないし、直で見ることなんて今までなかった。

 とはいえ、大会は大体休みの日と決まっている。そんな時にわざわざ見に行くのも面倒ではある。

 

「八幡さんが来てくれたら、頑張れるんだけどな……」

 

 魂魄は小さくそう呟いた。聞こえないようにそう呟いたつもりなのかも知れないが、俺は難聴系主人公ではない。故に聞こえてしまった彼女の言葉。

 

 こいつ本当にあざとくない?まさかの無意識?だとしたらめちゃタチ悪いんだけど。

 

「…分かった。後で場所と時間教えてくれ」

 

 そう答えた瞬間、彼女はパァっと表情を明るくした。

 

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

 この学校に入学してから思ったことなんだが、休日出勤が多すぎるんだよな俺。どこの社畜ですか。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「お寿司美味しかったですね!」

 

「お前結構ガッツリ食ってたな」

 

 20皿ぐらいは行ってたんじゃないだろうか。

 

「幽々子様ほどじゃないですけどね。運動し始めてから、食べる量も自然に増えていたんですよ」

 

「ほーん」

 

 それでも男子目線からすれば、魂魄は女性らしい細い肉体に見える。いつもあれだけの量、もしくはそれ以上の量の食事を摂っているのにも関わらず、今の体型を維持出来ているのは、剣道という激しい運動のおかげなんだろう。

 

「さて、後は夕食の買い物ですね。八幡さんも食べて行きますよね?」

 

 今日も小町がいない。昨日から友達の家に泊まって明日に帰ってくるそうだ。そしてついでに、そのまま明日うちにその友達が来るとか。

 

 要するに、今日の夕食も元から外で食べるつもりだったので、断る理由はない。

 

「…じゃあ頂くわ」

 

「はいっ!」

 

 夕食のための食材を買いに行くために、帰り道の道中にあるスーパーに寄った。俺はカートを押して、魂魄が食材を次から次に入れていく。

 

「多…」

 

 あっという間にカートの上も下も埋まった。これだけ買い込んでいると、幽々子様の食費って一体どれだけ掛かるのか気になってしまう。

 

「これ、まさかいつも部活帰りに買ってんの?」

 

「買い置きもしてますから毎日ではないですけど、週に4日か5日ですかね」

 

「嘘だろおい…」

 

 部活で疲弊している上に、こんなクソ重いもんを週に4日か5日持って帰ってんのかよ。いつか身体をぶっ壊しそうだぞ。

 

「…あんま無理すんなよ」

 

「大丈夫ですよ。もう慣れてますから」

 

 そう微笑む魂魄。

 ただ慣れていても、崩れる時は崩れる。慣れたからと言って大丈夫とは限らない。何が起きるか分からないのが人生である。

 

「まぁあれだ。なんかしんどくなったら誰かを頼ればいい」

 

「…それって、遠回しに俺を頼れって言ってたりします?」

 

「え?いや、別にそういうつもりじゃ…」

 

 魂魄がそうかえしてきたので、思わずたじろぐ。確かに聞きようによれば、そういう風に捉えられるかも知れないが、俺はそんなつもりはなく、ただ提案しただけだ。

 

「じゃあもし、これから私が困るようなことが起きたら、助けてくれますか?」

 

「…そんなもん、時と場合によるだろ」

 

「そう言うと思いました」

 

「なら聞くなよ」

 

 つかなんで分かるんだよ。何、俺の思考って常にオープンなのん?やだ何それ恥ずかしい。

 

「…でも、なんだかんだで助けてくれると思うんです。だって八幡さんって、優しいから」

 

「そんなの分からんだろ。ていうか、俺にそういうの期待すんな」

 

「期待じゃないですよ」

 

「ならなんだ」

 

「ただの予感です。八幡さんは困ってる人を助けるって。だって、私のことも助けてくれたから」

 

「…助けた記憶、ないけどな」

 

「かも知れません。でも、私は助けられました。私は貴方の言葉に救われました」

 

 違う。俺はこいつを助けるつもりはなかった。

 ただ魂魄の周りにいた連中にムカついたから愚痴っただけ。助けたいだなんてこれっぽっちも思ってない。

 

 魂魄は俺が誰かを助けるだと言っているが、俺にそんな道理はない。

 俺の目の前で起きた出来事を解決するための最善の策を取った結果、たまたま誰かを助けてしまっただけだ。

 

 こいつも含め、助けられたと思っているのは勘違いでしかない。

 

「だから、私は八幡さんに感謝してます」

 

「…別にする必要ねぇけどな」

 

 俺は頭をガシガシと掻いて、目を逸らした。

 

「ふふ…。では、お買い物の続きといきましょう。まだ買い込む必要がありますので」

 

「え、マジ?」

 

 これ以上まだ食材買うのかよ。どんだけ食べるんだよ幽々子様。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「重かった…」

 

 白玉楼に到着し、台所に多量の食材が入った大きなレジ袋を置いた俺はそう溢した。反対に、魂魄は顔色一つ変わらない。

 

「持ち慣れていないと、やっぱりそうなりますよね」

 

 俺と同じく、両手に重いレジ袋を持ってたはずなのに、何故こいつは平気でいれるんだ。慣れたっつっても限度があるだろ。その細腕のどこにそんな力あるんだよ。

 

「そろそろかな…」

 

 魂魄がスマホの画面を見て、そう呟いた。

 

「何が?」

 

「いつも休日の午後3時には、1時間素振りを行なっているんです」

 

「マジかよ……」

 

 休む日に休まないとは、こいつどんだけクソ真面目なんだ。

 

「では、私は道着に着替えて来ますので。どうぞごゆっくりしていってください」

 

 魂魄はそう言い残して、別の部屋に向かった。

 

「ごゆっくりって言われてもな…」

 

 とりあえず台所を後にして、白玉楼の中を散策し始めた。縁側を歩いていると、串に刺さっている三色団子が大量に乗った皿を持った幽々子様と出会す。

 

「あら、八幡くん。何してるの〜?」

 

「…暇だし、白玉楼を見て回ってました」

 

「なら、ちょっと付いてきなさいな。妖夢の自主練、一緒に見ましょうよ〜」

 

「は、はぁ…」

 

 幽々子様に言われるがまま、俺は白玉楼の中を歩く。

 とある部屋の襖を開けると、木の床で作られた部屋が。目の前には、道着を着て、防具を着けた魂魄が竹刀を手にして構えている。

 

「やああァァッ!!」

 

 大きな声を発声し、竹刀を勢いよく振り下ろす。振り下ろし、時には横にも振る。相手がいるとイメージしながら、彼女はひたすらに竹刀を振り続けた。

 

「…学校での妖夢は知らないの」

 

「え?」

 

「妖夢ね、辛そうな表情でずっと素振りしていたの。自分のことを話さないから、何があったのかも分からないままだった」

 

「そうですか…」

 

「でも、最近は明るくなった気がするの。特に八幡くん、貴方の名前が出始めてからね」

 

「は?」

 

「妖夢に何があったのかは分からないけど、今の妖夢が明るくなったのは、多分八幡くんのおかげだと言うのは分かる。貴方が妖夢に、何かしら良い影響を与えたということを」

 

 魂魄だけでなく、この人までもが俺に感謝をしてきた。

 

「ありがとう。妖夢の助けになってくれて」

 

「…別に何もしてませんよ。そんな礼を言われるようなことはしてません」

 

「妖夢から聞いていた通り、中々捻くれているわね。可愛いわぁ〜」

 

 魂魄然り、幽々子様然り。この二人が相手だと、どうも調子が狂ってしまう。いや、この二人だけでなく俺が関わってきた人間全てに当たることだ。

 どいつもこいつも助けられただの優しいだの言っているが、俺は自分の都合でしか動かない。その結果が助けてしまっただけで、そこに善意はないというのに。

 

 …いや、やめよう。あれこれ言い訳したところで過ぎたことだ。余計なことは考えないでおこう。

 

 そこから1時間、魂魄の自主練を眺めた。1時間が経った後、面を取る魂魄。

 

「ふぅ……」

 

 暑い中、暑苦しい道着や防具を着ていた彼女は汗をかいていた。いや、何も不思議なことではない。不思議なことではないのだが。

 

 なんだろう。汗をかく彼女の姿が、どことなく艶っぽく見えてしまう。そんな彼女の姿に、俺は思わず魅入ってしまう。

 

「あら〜?もしかして八幡くん、今妖夢の姿に魅入っちゃったのかしら〜?」

 

「へっ?」

 

 なんで分かるんだよ。俺そんなに分かりやすいのかよ。

 

「そ、その……あまり見られると恥ずかしいです…」

 

 やめろ照れるな。余計に俺の心をざわつかせるな。

 

 こいつと関わってよく分かった。

 魂魄は天然小悪魔だ。無意識な行動や言動が男を魅了するという、一番タチの悪い能力の持ち主だ。

 

「わ、私、シャワー浴びて来ますのでっ!」

 

 赤面した魂魄は、そそくさとその場から立ち去った。

 

「八幡くんも男の子ねえ〜」

 

 俺を揶揄う幽々子様。クソうぜぇなちくしょう。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 魂魄がシャワーから上がり、少し早めに夕食の支度を始めた。幽々子様がいる故にかなりの量の料理が出されると思い、手伝おうとしたが。

 

「お客様を手伝わせるわけにはいきません。それに八幡さんには、私が作った料理を食べて欲しいので」

 

 ねぇ本当俺貰っちゃうよ?大丈夫?魂魄ルートまっしぐらだけど大丈夫?

 

「妖夢の手料理は美味しいのよ〜。毎日食べていたいくらい」

 

「いや毎日食べてんでしょ。食べ尽くしてんでしょ」

 

 この人の胃袋はどうなっているんだろうか。本当にブラックホールだったりするのだろうか。胃袋に入った瞬間、分子レベルで塵にでもなっているのだろうか。

 

 本気でこの人の体内が気になった瞬間である。

 

 しばらく時間が経ち、午後6時半。

 

「お待たせしました」

 

 魂魄が料理を次から次へと運び込んできて、木製の大きなローテーブルいっぱいに、様々な種類の料理を置く。まるで宴会料理だ。

 

 にしてもこれは…。

 

「多過ぎじゃね?」

 

「八幡さんがいるから、少し多めに作りました」

 

 いや、少し多めとかいうレベルじゃないのよどう考えても。7、8人いてやっと食べ切れるんじゃないかって量なの、これ。

 

「では、いただきましょう」

 

 手を合わせて、「いただきます」と呟く。まず、近くにある唐揚げを箸で掴んで口に運ぶ。

 

「どう、ですか?」

 

「…コメントに困る美味さだわ」

 

「それは良かった…」

 

 十六夜といい魂魄といい、最近の学生の料理ってみんな凄え美味いんだけど。遠月学園でも行ってたの?食戟でもしてたの?

 

「やっぱり妖夢の手料理はいつでも美味しいわねぇ〜」

 

 と、モグモグ頬張りながら魂魄を褒める。食うか話すかどっちかにしろよ。

 

 にしても、本当美味ぇなこれ。これもう普通に金取れるレベルだろ。

 

「これなら、お嫁さんに出しても問題ないわね〜」

 

「ゆ、幽々子様っ!?」

 

 幽々子様の言葉に、魂魄は顔を赤面させて慌てる。

 

「わ、私はそういうのはまだっ…」

 

「えぇ〜?でもいずれ、誰かのお嫁さんになりたいでしょ〜?例えば、は…」

 

「幽々子様少し黙ってください!」

 

「うふふ、可愛いわねぇ〜。青春してるわねぇ〜」

 

 昼間とは違い、立場逆転。幽々子様がマウントを取り、魂魄を揶揄い始めた。揶揄われた魂魄は依然、赤面して挙動不審に陥っている。

 

 目の前のことにしか集中していないというか、あまり恋愛に興味ないという勝手なイメージであったが、魂魄も普通の女子なんだなぁ。

 そんな考えを巡らせながら、俺は目の前の料理に黙々と手を付けていく。

 

 約1時間弱で料理は全て平らげた。まぁ半分以上、幽々子様が食べてしまったのだが。

 

「ご馳走さん」

 

「お粗末様でした。では私、お皿を洗いますので」

 

「なら俺も手伝うわ」

 

「いえ、八幡さんはゆっくりしててください」

 

「流石にこの量の皿を一人はしんどいだろ。それに、流石に何もしないわけにはいかねぇからな。養われる気があっても、施しを受ける気はない」

 

「違いがあまり分かりませんけど……なら、お願いしてもいいですか?」

 

「おう」

 

 汚れた皿や器を一緒に台所に持って行き、二人で協力して皿洗いを始めた。魂魄が洗剤で皿の汚れを取り、濡れた皿を俺が拭いていく。

 

「八幡さんは、誰か気になる異性っているんですか?」

 

「は?え、いや、急にどうした」

 

「いえ、少し気になって。八幡さんの周りには様々な女性がいますし、誰か気になる異性がいてもおかしくないのではと思って…」

 

 最早女子しかいないけどね、俺の周り。魂魄含めて。

 

 俺だって、恋愛について直向きになっていた時期がある。けれど全て俺の痛々しい勘違いで失恋しまくった。あれらを好きだったというのかどうかも、今になっては分からない。

 

 今でも、誰かを好きになれるのかと聞かれたら、分からないとしか言いようがない。好きになるということは、そうなる事情があるし、俺じゃなくても他の人を好きになる可能性がある。

 

 例えば封獣。

 病的なまでに俺に依存しているが、あれは俺だから依存しているわけじゃなく、あいつが依存体質だっただけだ。俺じゃない誰かが優しい言葉を掛けていれば、きっと封獣はそいつに依存していたことだろう。

 

 そんな風に、俺は人の好意を信じることが出来ない。

 人の好意には、何かしら裏があるはずだから。あるいは、別に俺じゃなくても良いはずだから。

 

「…いねぇよ。そもそも、いつも独りだからな」

 

 そう。俺は今までも、そしてこれからも独りである。

 

「独りじゃありませんよ」

 

「え?」

 

 皿洗いを止めて、真剣な眼差しでこちらを見る。

 

「私がいます。貴方を、独りになんてさせません」

 

「魂魄…」

 

 そんな言葉を言い放つ彼女から、俺は目を離せずにいた。

 すると。

 

「あっ、いや、その!今の言葉に意味はなくてっ!ただ八幡さんの周りには縁があると言いたかっただけで、決して深い意味は…」

 

 と、三度顔を赤面させた魂魄が慌てながら弁解する。

 

「…カッコいいな、お前」

 

「そ、そんなことはありませんよ…」

 

 魂魄は顔を逸らし、再び皿洗いを始めた。俺はそんな彼女の姿に思わず笑みが溢れてしまい、自分も皿拭きを再開した。

 二人で協力したからか、皿洗いは早く終わる。終えた俺はスマホを取り出し、時間を確認する。

 

「もう8時過ぎか…」

 

 時間はいつの間にか午後の8時を過ぎていた。

 門限があるわけじゃないが、そろそろ帰らないとな。長居は無用だ。

 

「じゃあ俺、そろそろ帰るわ」

 

「では、駅まで送りますよ」

 

「いや、いい。流石にそこまでしてもらうのは気が引ける」

 

「ですが…」

 

 魂魄は納得いかないといった面持ちだが、こちらとしては夜道に魂魄一人で帰らせる方が不安で仕方ない。なんかあったら夢見が悪いからな。

 

「ならせめて、白玉楼の出入り口まで送ってくれ。中が複雑だから出入り口がどこだか分からん」

 

「…分かりました。では出入り口まで案内します」

 

 魂魄の先導で、白玉楼の出入り口に到着。そこには、団子を持った幽々子様も。ていうかまた団子食べてんのかよ。

 

「八幡さんがお帰りになります」

 

「八幡くん、また機会があればいらっしゃいね〜。いつでも歓迎するから」

 

「どうも」

 

 次はもうないと思うけどな。そんな何回も訪ねないぞ俺は。

 

「八幡さん」

 

 俺の右手を、彼女の小さい両手が優しく包む。

 

「な、何を…」

 

「ずっと、八幡さんの隣にいますから。自分は独りだなんて、もう言わないでくださいね」

 

「え、あ、お、おう…」

 

 大丈夫?なんだかプロポーズみたいに聞こえるのは、俺の願望が強いから?

 

「では八幡さん。また学校で」

 

 魂魄はゆっくり手を離し、頭を下げる。

 

「お、おう。じゃあな」

 

 俺はポケットに手を突っ込み、白玉楼を後にする。

 ポケットに突っ込んだ俺の右手が熱いのは、彼女の小さい手から伝わった温もりのせいではないと思いたい。

 

「ねぇ妖夢。今のって、プロポーズなのかしら?ずっと八幡くんの隣にいるって部分」

 

「…あ」

 

「あらあら。本当、妖夢って可愛いわねぇ〜」

 

「ああああぁぁーッ!!」

 

 何やら後ろから魂魄の叫び声が聞こえるが、それすら気にならない程、彼女の手の温もりが印象に残った。

 

 

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