やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
6月も中旬に差し掛かり、後2週間もすれば期末試験が始まる。
意識が高い人間は2週間前から勉強を始めている人がいるが、俺は自意識高い系だから、1週間前に始めるのだ。…まぁ関係ないが。
今日も変わらず、放課後は生徒会室に集まって仕事を行なっている。そんな時、部屋の扉を叩く音がした。
「どうぞ」
四季先輩が許可を出すと、部屋に入ってきたのは保健の先生である八意永琳先生だった。
「仕事中に申し訳ないわね。少し、依頼がしたいのだけれど」
「依頼…ですか?保健の教員がわざわざ?」
「生徒会に…というより、そこの彼にかしら」
八意先生は俺を指名する。
「何故八幡を指名するのか、その理由を尋ねても?」
「私が依頼したい内容は、男手が必要になるの。無理にとは言わないけれど、彼が手伝ってくれるのなら優曇華も救われるの。…だからお願い」
理由を全て述べ、八意先生は頭を下げる。
これは義務的に頭を下げているとかじゃない。本当に、本気で助けを求めている時の姿だ。
「…別にいいですよ。ていうか、先生の指示を断れる生徒なんていないでしょ」
「…ありがとう」
「では、依頼内容をお話しください。我々生徒会も、出来る範囲であれば助力いたします。小町、お茶を」
「うっす」
八意先生は席に着き、小野塚先輩はお茶を提供する。八意先生はお茶を口に含み、それから依頼内容を話し始めた。
「優曇華…1年F組の鈴仙・優曇華院・イナバのことなのだけれど……実は彼女、ストーカー被害に遭っているようなの」
「ストーカー…ですか?」
「えぇ……これを見て。優曇華宛に手紙が来たのだけれど」
八意先生が手紙を差し出す。俺達はその手紙の内容を拝見したのだが。
『元気にしてる?
俺は元気だよ。いつも君の仕事姿、そして学校の登下校の姿を見てる。昨日も薬を届けに行ってたよな。
俺体調悪いから、また鈴仙ちゃんに薬を届けに来て欲しいんだ。俺の家の場所は分かるだろ?何回も来てくれたもんな。
その時に話があるからさ、良かったら家に上がってってくれよ。親は仕事でいないし、二人きりだから。
待ってるよ。』
その内容に、俺や生徒会の面々は戦慄した。
八意先生の話を疑っていたわけじゃないが、この文面を見るとかなりガチなストーカーだ。四季先輩ですら、冷や汗を掻くほど。
「これが今回で4枚目らしいのよ」
「らしい?」
「永遠亭に届くものは鈴仙が確認して、そこから私に報告してるの。だからストーカーもこの手紙の存在も、私がたまたま見なければ知らないままだった」
「鈴仙…という方から相談は?」
四季先輩の問いに、八意先生は首を横に振る。
「…優曇華は責任感が強い子なの。きっと、私や永遠亭に迷惑をかけまいとして黙っていたのだと思うわ。彼女の師匠として、もう少ししっかり気をつけていれば…」
後悔を嘆く八意先生。
あの時ああしていれば、こうしていればなんて後悔は人生の中で腐るほど存在する。でも人間は、その後悔を二度としないための策を練ることも出来る。
「…状況は分かりました。鈴仙という者をストーカーから保護し、可能であれば証拠を揃えてこの罪人を警察に引き渡すと。これが、貴女の依頼ですね?」
「えぇ。お願い」
「ではまず、その鈴仙という者にも話を尋ねる必要があります。彼女は?」
「あぁ、ちょっと待って」
八意先生がスマホを取り出し、鈴仙に電話を掛けた。少しすると、鈴仙が恐る恐るといった様子で生徒会室に入室して来る。
「お、お呼びですか…?」
「貴女が鈴仙・優曇華院・イナバさんですね。私は生徒会長の四季映姫・ヤマザナドゥです。貴女にお話があって、生徒会室にお呼びしました」
「話…?」
「貴女が受けているストーカー行為について」
「ッ…」
鈴仙は身体をビクッと震わせ、あからさまに反応する。
「私達生徒会は、貴女が受けているストーカー行為を阻止するために協力します。ですので、貴女の話を聞きたいのです。小町、お茶を」
「うっす」
鈴仙が八意先生の隣に腰を掛け、小野塚先輩が鈴仙にお茶を出す。
「もし答えづらい問いがあれば、答えなくて大丈夫です」
「は、はい…」
「ではまず。貴女宛に手紙が来ているそうですが、それはいつ頃ですか?」
「勉強合宿が終わってから…でしょうか」
「ふむ……。次に、手紙以外で何か被害を受けましたか?」
「…気のせいだと思うんですけど、下校中にやたらと視線を感じるようになりました」
「なるほど……」
今のところ、付き纏われているだけ。鈴仙が気づいていないだけで、盗撮されている可能性もある。
「…一ついいか?」
「な、何?」
「この文面見る限り、鈴仙がストーカーの家に尋ねたって書いてあるけど、これはどういうことだ?」
「優曇華には、薬の配達をしてもらっているのよ。事情があって永遠亭に来られない人や、検査を受けた人には定期的に薬を配達したりするの」
「ってことは、このストーカーは永遠亭の配達を受け取っているやつってことになる。何回もってことは、定期的に受け取るやつがいるんだろ。永遠亭に来ていなくて、かつ何度も薬を受け取っているやつ。そして、今後も薬を受け取るであろうやつが、鈴仙を追うストーカー」
「…八幡の推測がもし正しいとはいえ、状況証拠にしかなり得ません。定期的に受け取るとはいえ、それなりに永遠亭を利用する者がいる。その中から、ストーカーをどう見抜くか。これがポイントになりそうですね」
「そう。だから比企谷くんにお願いしたいの」
「え?師匠、どういう…?」
「ストーカーは人に付き纏う人種。優曇華が付き纏われているのは、貴女が登下校の際に一人だから。けれど姫様は引きこもりだし、中学生のてゐを一緒に付かせるわけにもいかない。だから、この学院で数少ない男性の比企谷くんとしばらく一緒にいて欲しいの」
俺個人を依頼した理由はこういうことか。
ありがちな策ではあるが、鈴仙の隣に知らない男がいれば、それはストーカーを牽制する好手になる。ボロを出せば、それだけで儲けもんだからな。
「…私は、遠慮しておきます」
「え?」
「師匠にご迷惑を掛けた上に、生徒会の皆さんや彼に迷惑を掛けるわけにはいきません。私の問題は、私が解決すべきなんです」
「優曇華…」
鈴仙は何がなんでも、一人で決着させたいようだ。
物事一つ、一人で解決出来ることは世の中には沢山ある。だが同時に、一人で解決出来ないことも世の中には沢山ある。
一人で解決することが悪いわけじゃない。だが出来ることを一人ですることと、出来ないことを一人ですることじゃ意味が全く違う。鈴仙の場合、後者に当てはまる。
そもそも解決出来る事案であれば、八意先生がここに来ることも、4枚もストーカーから手紙が届くこともない。
「…無理だろ」
「…は?」
鈴仙の言葉を、俺は真っ向から否定した。途端、鈴仙は険しい表情になってこちらを睨む。
「お前がどうやって解決するかは知らん。けど、相手は神出鬼没のストーカー。どんな奴か分かってない以上、単体で動くのは危険だって言ってる」
「き、危険じゃない。私だって、自己防衛の術くらいは…」
「
「…どういうこと?」
「化粧か何かで誤魔化してたんだろうけど、目の下の隈が見えてんぞ。眠れてない証拠だ」
「ッ……」
図星を突かれたのか、鈴仙は黙り込んだ。
「大方、ストーカーの存在に恐れてるんだろ。その状態でストーカーとかち合って、勝てるわけがない。例え勝てたとして、無傷で済むとは思えないけど」
「…だったら、貴方がいたらそれが回避出来るって言うの?」
「少なくともお前一人でいるよりかは成功率は上がる」
先程の話の続きをしよう。
一人で解決することは悪くないことだ。だが誰かを頼る、支えてもらうということも人間の常である。誰彼迷わず頼れとは言わないし、言えない。
けれど偶には誰かを頼ること自体は、悪いことではない。
「………なら、お願い。…私を、助けて」
「…了解」
さて、ラノベ展開あるあるのストーカー退治といこうか。五体満足で生きていればいいけどね。
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生徒会が終わり、俺は今日から鈴仙と共に帰ることになった。帰ると言うより、永遠亭まで送ると言った方が正しい。いつストーカーが現れるか分からない以上、鈴仙の隣には誰かがいなければならない。
「……」
「……」
共に帰るとは言ったが、俺達の間に会話は無かった。比較的、最低限のコミュニケーションしか取っていない。
読者の皆様も知っての通り、俺のコミュ力は壊滅的だ。しかし、鈴仙もそこまでコミュ力がないと見た。
そんな二人が一緒にいれば、当然会話が生まれるわけもなく。
「ねえ」
「…どうした?」
「なんで助けてくれるの?」
「…いや、お前が助けてって言ったからだろ」
何を急にわけ分からんことを聞いてくるんだこいつ。会話下手くそかよ。俺でももうちょい上手いぞ。
「違うわよ。…助けてとは言ったけど、貴方にだって危害が及ぶかもしれない。いくら生徒の悩みを解決する生徒会だからって、何でもかんでも請け負わなければならないわけじゃない。あそこで貴方が依頼を断っても、誰も文句は言えない。なのに、貴方は…」
「別に深い意味はねぇよ。お前の師匠とやらに頼まれたから動いているだけ。そんでもし俺に危害が加わったとしても、それは俺の責任。要するにお前が一々気にする必要はない」
「…そう」
それでも、どこか納得のいかない表情であった。
自分から助けてって言っておいて、よく分からんやつだな。
「…あぁそういや」
「何?」
「連絡先、交換しといた方がいいんじゃねぇかって思ってな。なんかあった時に」
「…それもそうね」
鈴仙と連絡先交換を行なった。
連絡先の数が日が経つにつれて増えていくが、全部女子だと思うと、モテ期が来てるのではないかと錯覚してしまう。
「…貴方がいるからか、久しぶりに安心して永遠亭に帰れる気がするわ」
「一人で帰ってたんだっけか」
「前まで当たり前に帰れていたのに。…今では怖いの」
男子がストーカーされるのと、女子がストーカーされるのでは恐怖の度合いが違う。人によるが、女子相手にストーカーするやつは大抵、下心見え見えのやつなのだ。そんなやつにストーカーされて、怖くないわけがない。
「早く捕まるといいな。ストーカー」
「…うん」
俺は周りに気をつけながら鈴仙の後を付いて行き、永遠亭に辿り着いた。
「こりゃまた随分広いな…」
外観は白玉楼のように和風であり、そこらにある地域の病院に比べれば、遥かに大きい。
「…どうした?」
永遠亭に着くなり、彼女は何やら思い詰めたような表情をしていた。
「今日も薬の配達があるのよ。定期的に永遠亭を利用する人間もいるんだけど…」
「…そういうことか」
ストーキングされていないにしても、ストーカーは永遠亭を定期的に利用する人間。もし今日、いきなりストーカーとかち合ったら、ヤバいことになる。
「…依頼の範疇で、その仕事を手伝うってのは出来ないか?」
「え?」
「配達が一人とは限らないし、最悪俺がいることを尋ねられたらバイトの研修だとでも言えばいい。俺がいれば、少なくとも仕事中もストーカーは手は出せないだろ」
「…じゃあ、お願いしていい?」
「おう」
こうして、鈴仙の仕事を手伝うことに。今日運ぶ分の薬と配達先を確認し、永遠亭を後にした。
「いつも自転車で配達してたんだな」
俺達は市街地の中を自転車で走っている。
「流石に永遠亭の近所だけが利用してるわけじゃないから。場所に寄るけど、バイクで配達もザラにある」
「免許とか持ってたのか…」
「普通二輪ならね」
うちの学校はわりかし自由で、バイクの免許を取っていてもお咎めはない。流石にバイク登校は許されてないと思うけど。
そんな雑談をしながら、薬を配達していった。
後ろから見た限り、やはり鈴仙はコミュニケーションが得意ではない。それなりに話せる人間、少しおぼつきのある人間と別れている。おそらく前者が定期的に利用している人間なんだろう。
「次で最後か…」
「次は……罪さんの家よ」
鈴仙が持っている顧客リストを覗いてみると、何やらまた凄い名前が書かれていた。
「…じゃあ行きましょう」
俺達は最後のお届け先の罪さん家に向かった。
自転車で約10分程度かかり、罪さん家に到着。鈴仙がインターホンを鳴らすと、向こうから男の声が聞こえる。
鈴仙が薬を届ける旨を伝えると、中から現れたのは。
「鈴仙ちゃん、いつもありがとうな」
ヤベェやつが出てきた。
罪と書かれたパーカーに、罪と書かれたマスクを被った、明らかな変質者。
「いえ、仕事なので」
何故鈴仙はこんな冷静な対応出来るのん?いくら定期的に利用してるとはいえ、こんなザ・変質者みたいな人間出てきたらビビるだろ。
「良ければお茶飲む?配達で疲れただろうし……って…」
やっと俺の存在に気づいたのか、罪さんは俺の方に顔を向ける。
「…彼は?」
「新しく雇ったバイトの後輩です。研修中ですので、一緒に付いて来てもらいました」
「へぇ…バイト…」
と、罪さんは疑わしく呟く。
なんだ。俺がバイトしてるのにそんなおかしいことなのか。俺やっぱ働かない方がいいんじゃね?
「…そうか。バイトくん、頑張れよ。鈴仙ちゃんに迷惑をかけないようにな」
「…はぁ」
「では、私達はこれで」
俺達は軽く頭を下げて、罪さん家を後にし、自転車で再び永遠亭に戻った。到着する頃には、夕日は落ちて暗くなっている。
「今日はありがとう。貴方のおかげで、心置きなく仕事に集中出来た」
「依頼だからな。…それより、気を付けとけよ」
「うん。気を付けるわ」
俺は鈴仙と別れて、我が家まで突っ走って行った。
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三日後。
依頼を請け負ってから、俺は永遠亭まで鈴仙を迎えに行っていた。そして今日も、彼女を迎えに行ったのだが。
「また手紙が来た?」
「…うん…」
これで5枚目の手紙らしい。しかも今回は、ご丁寧に写真付きだそうだ。
鈴仙からその手紙を受け取り、封筒から便箋を取り出す。
『鈴仙ちゃん。この写真の男は誰?
俺鈴仙ちゃんが彼氏作ったとか聞いてないんだけど。しかもこんな見るからに冴えないようなやつ。
もし彼氏なら別れた方がいい。そいつ絶対鈴仙ちゃんのこと分かってない。俺なら君のことを理解してあげれるし、幸せに出来る。
それとも、鈴仙ちゃんはこいつに脅されてるのかな?だったら、俺がなんとかしてあげるよ。俺がこいつを排除して、鈴仙ちゃんを助けてあげるからさ。』
冴えないようなやつで悪かったな。いくら知らん相手だからってボロクソ言い過ぎだろこいつ。
「…で、確か写真が入ってたんだったな」
封筒から写真を撮り出すと、そこに映っていたのは、俺と鈴仙が二人で下校している様子であった。
「…マジで盗撮されてやんの」
いよいよ本格的に俺を排除する気になったようだ。ここから先は本気で命に関わる事になりそうだ。
「…もう、いいの」
「あ?」
「これ以上私といたら、貴方まで被害に遭ってしまう。だから、今日で依頼は終わり」
鈴仙は俺の横を素通りし、先に歩いて行く。
「お、おいちょっと待て。お前何勝手に決めて…」
彼女は振り返り、作り笑いで。
「短い間、ありがとね」
そう言って、鈴仙は走って行く。そんな彼女を俺は止めることが出来ず、ただ立ち尽くしてしまうだけだった。気づけば彼女の背中が少しずつ、少しずつ小さくなり、次第に彼女を見失ってしまう。
「…どうしろってんだ」
人間は時に無力である。
フィクションのような、主人公が苦悩している人間を救うなんて綺麗事、俺には出来ない。
鈴仙にとって、きっと俺は荷物でしかなかったのだろう。俺がいることで、ストーカーがなりふり構わずになってきている。
俺がストーキングを増長させていると言っても、過言ではない。俺の存在が、鈴仙を更なる危険に招いたのかも知れない。
結局、人を守るなんて都合の良い力はない。
封獣や霊烏路の件で、心のどこかで思っていたのかも知れない。自分には、人を助ける力があるのだと。
けれど全ては幻想でしかない。何でもかんでも首突っ込んで助けることなんて出来はしない。
そんな幻想を抱いていた自分が本当に気持ち悪くて仕方ない。それこそ、ストーカーと同じくらいに。
それに、あいつ確か自衛の術があるとか言ってたんだ。鈴仙の言葉が本当かは知らないが、もしかしたらあいつ一人でストーカーをやっつけることが出来るかも知れない。
俺の手は、あいつは最初から…。
『私を、助けて』
脳裏に彼女の言葉がチラつく。
短い言葉。しかし、その言葉には切実な願いが込められていた。
「…クソッ!」
俺は自転車を漕いで、鈴仙の後を追った。
この際、幻想だろうが自己満足だろうが余計なお世話だろうが関係ない。
助けるって約束したから。
俺が動く理由は、これだけで充分だ。劇的な登場も、英雄じみた行動もいらない。泥臭くても、間抜けでもなんでもいい。
俺が出来ることをするだけだ。