やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
期末試験が終わり、今日はその結果が帰ってくる日。
試験の時の描写なんて気にならんだろ?そんなわけで、期末試験の結果返しに飛んだのだ。
もっと言えば、現文以外は全て帰って来ている。つまり、今から返されるのは現代文の結果だ。
「どうなの?現文がお得意なあんたからして、今回の出来は」
「…過去最高の出来ではある」
「へぇ。そんなに自信あるのね」
今回は現代文を重点的に勉強していた。勿論、他の教科も赤点にならないように勉強はしていた。が、優先順位を考えれば現代文を重点的に勉強するのは必然である。
「では、現代文の試験を返します。秋静葉さん」
稗田先生が出席番号順に、現代文の答案用紙を返していく。徐々に自分の順番が近づき、遂には俺の前の番号の博麗が呼び出される。
そして。
「比企谷くん」
俺の名前が呼ばれた。教壇にいる稗田先生の目の前まで向かい、中身が見えないように答案用紙を渡された。答案用紙を自分の席に持って帰り、開こうとした。
開いた先は天国か、あるいは地獄か。
「……あぁ…」
「どうだったの?何点……って…」
目の前の点数に驚きを禁じ得ない。前にいた博麗でさえ、俺の点数に対して目を見開いている。
「…100……点……」
間違いが無い。全ての問題において丸を付けられた俺の答案用紙。右上には100と書かれている。
今まで良いとこ96点とかそんな辺りだった。中間だって、90点前半の成績だった。中間以上に内容が難しくなる期末試験において、俺は満点を叩き出せた。
「…はあああぁぁ……」
満点を取ったことで安堵したからか、大きな息を吐く。
「…そんなに現文に力入れてたの?あんた確か現文得意なんでしょ。そんなに力入れることあるの?」
「…まぁ、色々な」
今回の期末試験の全教科が返って来た。
期末試験は中間試験と違い、午前中に学校が終わる。結果を返してそれで終わりなのだ。
現文の時間が終わり、帰れると思ったがそうはいかない。
近々迫る体育祭の種目決めをしなければならない。その種目決めが終わって、今日の学校は終わりだ。
「八幡さん。現文、返って来たそうですね」
休み時間。わざわざ射命丸がうちのクラスに出向いて来た。それも、何やら勝ち誇った表情で。
「さぁ、どちらに軍配が上がるか確認しましょうか」
「…あぁ。つっても、俺負けねぇけどな」
「は?」
俺は現代文の答案用紙を射命丸に見せた。勝ち誇った表情が一転し、動揺の表情に。
「100……点……?」
「俺の得意分野なんだ。無理して勉強すれば、取れないことはねぇよ」
とはいえ、今回霊烏路の勉強も見ていたため、少し余裕が無かったのも事実。
「…でだ。お前は何点なんだよ。あれだけ啖呵切っておいて、俺に負けるなんてことがあったら…」
射命丸は折り畳んだ答案用紙を取り出し、俺の机に叩きつける。そこには、俺と同じく100点と書かれている。
「マジ、か…」
現文、結構努力したんだけどな。射命丸がどのくらい努力したのかは知らないが、口先だけの人間じゃないらしい。
そしてこの引き分けは、俺にとっての余命宣告に他ならない。
「…貴方のような弱者と引き分けなんて屈辱よ……!この借り、体育祭で絶対返す…!」
そう。引き分けとなった場合、次の体育祭で否が応でも決着が着く。
博麗や霧雨に次いで、身体能力は高いらしい。比べて俺は彼女達よりハイスペックとは、流石に自負出来ない。
俺と射命丸の勝負だ。すると、必然的に団体種目ではなく個人種目で決めることになる。
現文ではややリードしていたかも知れない。しかし、体育祭という身体能力がものを言うイベントでは射命丸に一日の長がある。
何が言いたいかはっきり言おう。
負け濃厚かも、これ。
「現文で満点取ったからって良い気にならないことね。次の体育祭で完膚なきまでに差を付けて、私専用の奴隷にしてやるから」
「は?」
射命丸の言葉に反応したのは俺じゃない。前の席にいる、博麗だ。
「何それ。なんで体育祭であんたが勝ったら、八幡を奴隷に出来るわけ?私聞いてないんだけど」
「霊夢さんには関係ないと前に…」
「一応言っておくけど」
博麗は席から立ち上がり、射命丸に対して距離を詰めてくる。射命丸の表情は変わらないが、冷や汗を掻いているようだ。それほどまでに、博麗の圧に凄みがあるということだ。
「もし何かこいつに変なことする気でいるなら…」
凍えそうな声色に、誰もが臆しそうな眼孔。
射命丸だけでなく、俺や遠目から見ている霧雨やマーガトロイドも、戦慄している。
「潰すから」
「ひっ」
おっといけない。あまりの怖さについ声が出ちまったぜ。
いや本当怖ぇよ。なんでそこまで怖いこと言うの?なんなら本当に博麗関係ないってのに。罰ゲーム感覚がまだ抜けていないのか?
「おいおい、なんでお前らそんな喧嘩腰なんだよ。折角期末試験終わったんだぜ?もっとパーっと…」
一部始終見ていた霧雨が仲裁に入るが、博麗は射命丸を目の敵にし続けている。射命丸は射命丸で、敵意を引っ込めずにいる。
「…貴女に何かを言われる筋合いはありません。これは私と八幡さんの問題。
「この女……」
「では八幡さん。次の体育祭にて決着を着けましょう。出場の種目はまた後で」
射命丸はそう言って、答案用紙を回収して教室から出て行った。修羅場が収まったことに対して、俺は再び安堵をする。
「八幡」
「ひゃいっ」
変わらない声色のままで、博麗は俺の名を呼ぶ。
「説明」
「かしこまりました」
俺は射命丸との出来事を掻い摘んで説明した。
「…あんた、地雷踏むのが趣味なわけ?」
「違うっつの」
「私と別れてからそんなことがあったのね…」
先程のやり取りが気になったのか、マーガトロイドや十六夜、鈴仙までもが話を伺いに来た。
「…で、どうするの?口先だけの女じゃないのでしょう?次の体育祭、どういう風に勝負を決めるのかは知らないけど、八幡の方がやや不利なんじゃないの?」
「そうなんだよな……」
体育祭の個人種目で勝負を決めるなら、100m走などの脚を使った種目になると考えている。というか、大体の体育祭は脚を使う種目なんだけど。
さて、どうしたもんかな。
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「…あの男……」
まさか、私と同点だなんて。
私は今回の現代文を重点的に勉強したわけじゃない。高1の1学期の期末試験くらい、努力も一夜漬けも必要ない。授業を聞いていれば、自然に身につくものだ。
霊夢さんには及ばないものの、私も学年上位の成績であることを自負していた。だからあんな男に負けるだなんて思わなかった。いくら文系が得意だと言っても、私が負ける未来なんて想像出来なかったのだ。
それがどうだ。負けはしていないが、私はあの男と引き分けてしまった。あんな男に、私と並ばれてしまった。
屈辱だ。あんな人生舐め腐っていそうな陰気な劣等者が、私の隣に並ぶなど。
「随分悔しそうな顔ね」
廊下の窓にもたれかかりながら、こちらを嘲るように笑うのは、はたてだ。
「もしかして八幡に期末試験の勝負に勝てなかったの?ざまあないわね〜」
うるさい。私が苛立っているのが見えないのか。これ以上騒ぐようなら美味しい軟体動物の名前で呼ぶぞ。
「ま、あんたって弱そうな奴を舐めるところあるからね。下克上された気持ちはどう?」
「…黙ってなさい。私はまだあの男に負けてない。体育祭で叩き潰してやる…!」
「…わぁ。こっわ」
私に喧嘩を売って、このままただで生かすわけにはいかない。あの男を負かして、私のための従順な奴隷にしてやる。そしてそれを基にして、色々な記事を作るのだ。
「てゆうかさ、ずっと前から思うけど文々。新聞の何が面白いのかな」
「それ分かるー。ゴシップとか嘘しか書かないし、あれ新聞じゃないよね」
私が作成者だと言うことを知らないのか、すれ違った2人の女生徒はそう批評しながらどこかに行った。最早私への嫌味を言いたいがためにすれ違ったというくらい、絶妙的なタイミングだ。
「くくくっ……あんたの写真の不出来さの証拠よね〜。笑えるわ」
うるさいほたて。焼くぞ。醤油をかけるぞ。
あの新聞の良さを理解する気もない人間が、私の新聞を批評しやがって。
先の二人覚えておけよ。下手なことをすれば私が学校中に晒して、学校の中で生活するのが嫌になるようにしてやる。
『…ただまぁ、あれだな。記事の内容云々はさておいて、読み手が楽しく読めるように工夫しているようには見えるな』
思い返せば、あの男だけが私の新聞の良さを理解してくれたんだっけ…。
目障りな劣等種だが、見る目があるのは認めてやらないこともない。記事専用の奴隷にするのもありだが、記事作成を手伝わせる奴隷にするのも悪くない。
そうだ。死ぬまでこき使えばいい。記事専用の奴隷兼記事作成の奴隷にすればいいのだ。
「…ふふふ……」
「あ、文?」
体育祭が楽しみね。
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「体育祭の種目決めを行います」
現代文の結果も返ってきて、後は体育祭の種目決めで今日の学校は終わりだ。まぁ俺は昼から生徒会があるんだけどね。
稗田先生は黒板に種目を書いていく。
100m走、障害物競走に借り者競走。棒引き、二人三脚、200m走にクラス対抗リレー。俺達が出場出来るのはこれらの種目。学年種目として、台風の目をやらなければならないらしい。
なんか一つだけ漢字の違う種目が混じっているのだが、これは稗田先生の書き間違いという認識でいいのだろうか。
「…八幡。借り者競走って何」
「知らん。俺に聞くな」
「そこ。最もな質問ですね」
俺と博麗が借り者競走とやらについて、小さい声で話していると、稗田先生が割って入る。
「毎度毎度説明するのが億劫なのですが…。借り者競走とは、読んで字の通り、者、つまり人を借りる競走となります。借り人競走、と言った方が分かりやすいでしょうか」
「なんでそんなわけの分かんない種目が入ってるのよ」
博麗の疑問は最もだ。こんなふざけた種目を入れる意図が分からん。
「…校長曰く、"借り物競走じゃなくて借り者競走の方が面白くなるんじゃないかしら"…だそうです」
あの校長余計なことばっかしかしないな。
「…ってことは、その借り者競走とやらの内容を決めるのも…」
「校長です」
職権濫用にならないそれ?
大丈夫?うちの校長大丈夫?エンターテイメントが余程お好きなのかしら校長は。
「…とはいえ、それなりに盛り上がっている様子ですし、今更取り消すわけにもいきません。…とまぁそれはさておき、以上の種目から自分が出場したい種目を決めてください」
その時、俺のスマホから通知が一件入る。射命丸からだ。
『体育祭、200m走で勝負よ。3走者目を選びなさい』
やっぱ脚がものを言う種目を選んだか…。しかも、リレーや台風の目のようなチーム形式のものじゃなく、個人種目。
「何人かは1回だけの出場になってしまいますが、それは致し方ないということでお願いします。ではまず、100m走に出場する人は挙手を」
種目決めが滞りなく進み、誰がどの種目に出るのかはこういう風になった。
100m走 博麗霊夢 火焔猫燐 クラウン・ピース
障害物競走 十六夜咲夜 鈴仙・優曇華院・イナバ
二人三脚
借り者競走 アリス・マーガトロイド
棒引き
200m走 霧雨魔理沙
クラス対抗リレー 鈴仙・優曇華院・イナバ 十六夜咲夜 霧雨魔理沙 博麗霊夢
欠席 レティ・ホワイトロック
様々な新キャラが名前で登場したところで、そこの読者の君達。何故俺が借り者競走に出ているのか疑問となっているだろう。
借り者競走の一枠が空いてしまったのだ。そこまで人気では無いからだ。ではその枠に誰が入るのか。簡単だ。
1種目しか入っていない人間同士でジャンケンを行い、負けた人間が借り者競走の最後の一枠に入る。
つまり、俺はジャンケンで負けたから借り者競走に入れられてしまったのだ。これが不幸というものである。
「…では、以上の面々で決定とします。クラス対抗リレーに出場する人はホームルームが終わった後、残ってください」
「うわ」
気怠げに呟く博麗。
博麗は元々、100m走だけで終わらせたかったらしいが、霧雨の強い押しに折れてしまい、渋々出場する羽目になったのだ。
「では、このままホームルームを始めます」
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昼飯のためのパンとマッカンを購入し、生徒会室に向かった。
「お、後輩くん。おいっす」
「…こんにちは」
生徒会室にいるのは河城先輩と鍵山先輩しかおらず、四季先輩や小野塚先輩、風見先輩がいなかった。
「…3人はどうしたんすか?」
「あぁ、3年は今ダンスの練習だよ。小町はクラス対抗リレーで呼び出されてる」
「あぁ…」
俺はその答えに納得し、空いてる部分に腰を下ろして昼飯を食べ始める。
今回、ベストプレイスで食べないのはわけがある。
体育祭が近づいている故に、生徒会の業務も今まで以上に忙しくなるからだ。そんな時に遅刻なんてしたら、有無を言わさず有罪判決を食らうに決まっている。
「…そういえば、八幡は何の種目に出るの?」
「借り者競走と200m走です」
「出た借り者競走!あれ盛り上がるよね〜!」
「その借り者競走のことなんですが。…具体的にどういう指示が出るんですか?」
「ん〜…まぁあの校長が出鱈目に作った内容だし、統一性がないから参考にはならないと思うけど。金髪の髪の子とか、眼鏡を掛けた子とか、巨乳の子とか」
なんか最後が一番卑猥なんだけど。というか、女子同士ならOKなんだろうけど、男子が女子にしたらセクハラ案件にならない?
「あーもし、頼れる先輩とかだったら私を選んでくれてもいいんだよ?むしろ推奨」
「…考えておきます」
嫌な予感しかしない体育祭だな、全く。今すぐ欠席届を出したいレベルなんだが。
「疲れたわね…」
「そうですね…」
と、四季先輩と風見先輩が遅れて生徒会室に入ってくる。ダンスの後だからか、疲れた様子である。
「小町はまだ来ていないのですか?」
「クラス対抗リレーで呼び出されてるよ」
「あぁ…彼女、確かクラス対抗リレーに出るって言ってましたね」
「八幡はもう何出るか決まったの?」
「借り者競走と200m走です」
「…意外ですね。八幡が2種目も出場するだなんて」
自分でも出るつもりは無かったんですけどね。平等なゲームであるジャンケンには逆らえないのですYO。
「1年に馬鹿みたいに足の速い子がいるんじゃなかったかしら。射命丸文…だったかしら、彼女の名前」
「…らしいですね。走ったとこ見たことないんで知らないですけど」
「中等部の頃に見たことありますが、なかなかどうして足が速い。噂では、全国大会出場の選手に匹敵するほどの速さだとか」
そんな情報聞きたく無かった。
やる前からゲームオーバーじゃねぇか。完全にクソゲーの負けイベント。
逆にどうしたらそんなやつに勝てるのか教えて欲しい。
「どしたの?目ぇいつもより腐ってるけど」
「…腐ってるのはいつものことなんで、気にせんで下さい」
「…もしかして、その女性と何かあったのですか?」
やっべ勘付かれた。四季先輩が目を細めて、こちらをロックオンする。
「何か隠してますね。話しなさい」
「い、いや、別に話すことじゃ…」
「話しなさい」
「はい」
弱い者は強い者に従うのが自然の摂理です。歯向かってはいけません。大人しく従うことが、幸せになれる秘訣であります。
「…なるほど。彼女と勝負を…」
「無理じゃん。どうやったらスピードに全振りしたやつに勝てるのさ」
「…はっきり言ったわね」
正直、勝てる気がしない。元から得意な現文の時とはわけが違う。相手は全国区みたいなもの。
「走り込んで鍛えるしか無さそうだけれどね。陸上部の練習に混ざってみる?」
「…いえ。私に心当たりがあります。彼女に頼んでみましょう」
「彼女?」
四季先輩の言う"彼女"が誰を指しているのかを考えていると。
「うっひぃ〜。超涼しい〜」
クラス対抗リレーで呼び出されていた小野塚先輩が、冷房の風を全身に浴びながら登場する。
「小町。貴女50m走は何秒ですか?」
「へ?なんすかいきなり」
「早く答えなさい」
「えーっと……6秒ジャストだったっけ?」
速ぇなおい。この人が動いてるところ見たことないけど、案外スペックが高いのだろうか。
「体育祭は2週間後です。その間に、八幡の脚力を鍛えます」
「…まさか、さっき言ってた"彼女"って…」
「はい。…小町。貴女にはこの2週間、八幡の脚力を鍛えてもらいます」
「あ、あたいがですか?」
そんなことになるとは思わなかった小野塚先輩は驚く。俺も少し、驚きはしている。
「私も時間があれば練習を見に行きます。小町の走りは目を見張るものがある。伊達に私から逃げているだけはありますね」
「それ褒めてます?」
「えぇ、褒めてますよ。…とにかく、貴女には八幡を鍛えてもらいます。身体の作りや筋肉の使い方、八幡とは諸々違いますが、それは誤差でしかありません。それを理由に教えることが出来ないのであれば、陸上部の顧問など必要がない」
「教えるのは全然良いですけど、あたいそんな的確に教えることが出来るか分かりませんよ?多分擬音語ばっか使いそうですし」
「何も綺麗に教えろとは言いません。貴女流に教えて差し上げればいいのです」
「…八幡は良いのかい?こんな頼りになるかどうか分からない先輩で」
と、小野塚先輩はこちらに視線を向け確認する。
「…まぁ負けたらちょっと個人的に色々あれなんで。教えてくれるだけでもありがたいというか」
「決まりですね。…では明日から、よろしくお願いします」
「よし。明日から頑張ろうか、八幡!」
この2週間で射命丸の速さに近づくことが出来るか否か。
負ければ学校での生活が奪われてしまう地獄の沙汰。ここから先は、俺の努力次第である。
1クラス大体20人弱にしました。ツッコミどころはあると思いますが、気にせんでくだせえ。