やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
体育祭までの2週間は自主登校という形になった。
とはいえ、生徒会は体育祭の運営に関わっているため、学校に行かなければならないのだが。体育祭に向けて練習している者もいれば、単純に自習のために学校に来ている者もいる。
3年はダンスの練習を体育館で行なっており、グラウンドを見てみると所々体育祭に向けて練習を行なっている者がチラホラ。
「あたい達は空いてるところで練習だね」
「…よろしくお願いします」
「おうよ。大船に乗ったつもりでいな!」
なんだろう。まだ何もしてもらってないけど、頼りになる人って借り者競走で出たら一番最初に思いつきそうなくらい頼れる人に見えるんだけど。
「じゃ、とりあえず50m走ってみようか。今の八幡が何秒なのか、そんでどういう走り方をしているのかを見たい。タイムはあたいが計るから」
「うっす」
空いている部分を使って、50mを走ることに。
「それじゃ行くよ。よーい……スタート!」
俺は足に力を入れて、地面を蹴る。腕と足に力が入るように、満遍なく行き渡らせて目の前のゴールに向かって走る。
そしてその結果。
「6秒74…ね。八幡も意外に速いじゃないか」
「無茶して走れば、出来ないことはないです」
ただ全速力で走ったから、ちょっと息切れなんですがね。
「直線の速さは大体分かった。んじゃあ次は、コーナーで走ってみようか」
「コーナーですか?」
「直線の速さをコーナーで保つためには、走り方が微妙に違ってくるからね。200m走なら、当然コーナーも走るだろ?」
「あぁ…」
なるほど。確かに意識したことないが、逆に意識することでコーナーでも変わらない速さで走れるという寸法か。
「気合い入れていくよ」
そこからしばらく、小野塚先輩の指導?により脚力とフォームを鍛えた。
疲労が出始めたあたりで小野塚先輩が休憩を取ると言い始め、その場に座り込んで休憩する。
「八幡、ほれ。あたいの奢りだ」
小野塚先輩が冷えたスポーツドリンクを渡す。
「後で返しますね」
「いらないさ。あたいの奢りだって言ったろ?」
「養われる気はあっても、施しを受ける気はありません」
「それ好きだね」
と、小野塚先輩は呆れながら隣に座り、自分のスポーツドリンクを口にする。
額から垂れ落ちる汗に、その汗によってへばりつく赤い毛髪。そんな彼女のなんでもない姿が艶めかしく見えてしまう。
「…うん?なんだい、ずっとあたいばっかり見て」
こちらに気づいた小野塚先輩が尋ねる。少々凝視し過ぎたか。
「いや別に。…それより、先輩も練習とかしなくていいんですか?先輩リレー出るんですよね。付きっきりも悪いし、先輩もリレーの練習とかした方がいいんじゃないですかね。頼んでる俺が言うのもなんですけど」
付き合ってくれるのはありがたいが、小野塚先輩だって自分のことがある。リレーに出るなら尚のこと、練習をしておくに越したことはない。
「なんだ。そんなこと気にしてたのかい、八幡は」
すると小野塚先輩は、俺の頭を雑に撫でる。
「まぁ確かにリレーの練習も必要かも知れないね。…でも、あたいはそれより八幡に付きっきりの方が良いのさ。後輩を支えるのが、先輩なんだよ。お、今のあたい的にポイント高いんじゃないのかい?」
「え」
今の最後のセリフ。
『今の小町的にポイント高い!』
小町って名前が付いた人物は、ポイント制にしたがる習性でもあるのだろうか。小町違いだろこんなもん。
「…そっすね。ポイント高いんじゃないんですかね」
「だろ?」
サムズアップしてドヤ顔してくる小野塚先輩。不思議と腹立つように見えないのは、きっとこの人の人格が嫌いじゃないからだろう。
事実、俺はこの人が嫌いじゃない。中学生の頃であれば、勘違いして告白はしていただろうが。それでも、後輩思いだというところは伝わる。
気さくで面倒見が良く、誰に対しても分け隔てなく接する。少し間抜けだったり、サボったりするなどのやんちゃ気味なところはあるけれど、人間としてかなり良い人だと思う。
「八幡って、実は誰かを頼るのが苦手な人種かい?」
「…苦手というか。別に頼る必要がないのに頼っても仕方ないというか。…自分のことは自分で。当たり前のことじゃないですか」
「まぁね。勿論、自分で出来ることは自分でした方が良いかも知れない。最初から頼る気でいる奴ってのは、
小野塚先輩は俺の言葉に納得するが、「でも」と続けて言葉を発し始める。
「もし途中で出来ない、一人じゃどうやっても不可能な問題があったら。それは、誰かを頼ることが効率的なんだよ。一人で出来ないことは、どうやったって出来ないんだよ」
「…人に頼らないことが悪いってことですか?」
「そうじゃない。人に頼らないことは、責任感が強いことを意味する。それは美徳だし、頼らないって選択もあながち間違いじゃない。でも、その選択が本当に正しかったのかって、後から気づくことがあるんだよ。多分、今の八幡はそうなるかも知れないね」
否定出来なかった。確かに俺は今まで、誰かに頼らず、ずっと一人でやって来た。
先輩の言う通り、誰かを頼ること、協力するということは一般的には正しいことこの上ない。
でもこれを逆に言えば、誰かを頼らないこと、一人でやることが間違いだと言われているようで、そこが俺の癇に障った。
一人でやることの何が悪いのか、と。
「誰かに頼らないことは悪いことじゃない。でも、本当に困ってるなら誰かを頼るってことも、頭の隅には置いておいた方が良いよ」
「…自分ですら難しい問題を誰かに頼るって、それは迷惑を掛けるってことなんじゃないんですかね」
「迷惑云々なら今更な話だね。人間生きてるだけで、誰かに迷惑を掛けてるもんなんだからさ。そんなチープな迷惑なんて、気にしない方が良いんだよ」
生きてるだけで、誰かに迷惑を掛けている、か…。
そうかも知れない。自分の一挙手一投足が、誰かに迷惑を掛けているのかも知れない。そんな迷惑を一々気にしていたら、生きることが嫌になる。そういう意味じゃ、開き直って誰かに迷惑を掛けることは悪くないのかも知れない。
「それでも迷惑を掛けたくないって考えて、誰かに頼らなくなる奴もいる。だからもう先に言っとくよ。…もし本当に、困ったことがあって、一人じゃどうしようもないと思ったのなら、まずあたいに頼りな」
「小野塚先輩…にですか?」
「後輩に迷惑を掛けられるのが先輩の立場さ。あたいは気にしないし、むしろ頼ってくれるならそれは先輩として嬉しいからね。八幡の性格上、クラスメイトにいきなり頼るのはハードルが高いだろ?」
「まぁ確かに…」
博麗やマーガトロイド達に、いきなり頼るってのも気が引ける。クラスメイトだからかも知れないが。
「あたいが迷惑を掛けていいって言ってんだから、迷惑掛けていいんだよ。あたいだって、四季様に迷惑掛けてるし」
それはあんたがサボってるからじゃないんですかね。
「何か困ったら、まずあたいを頼る。で、それに慣れたら今度はクラスメイトや四季様達に頼ることを頑張るんだ。そうして、人に頼るってことに慣れていこう」
「いや、別に俺だって誰かを頼ることぐらいは簡単に…」
「今の八幡は誰かに頼ることが出来るけど、頼るまでにウダウダ何か考えてしまう癖がある。で、考えた結果誰も頼らないんじゃないのかい?」
この人何者だよ。数ヶ月の付き合いでしかないのに、俺の思考を当てやがる。なんかもう怖いよ。
「だからこれから、人に頼ることを慣れるために努力しよう。頼る必要のない案件なら、別に頼らなくていい。でも何か困ったことがあるんなら、頼ってみるといい」
「……先輩、格好良いですね」
本当にカッケェよ。こんな人間、今まで見たことない。油断すれば、本当に好きになってしまいそうだ。
「後輩の前くらいは、カッコつけるものさ」
やっべ。落ちそう。
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練習は昼前に終わり、俺は制服に着替えた。
昼からは生徒会の仕事をしなければならないため、このまま学校に残らなければならない。
そんなわけで、ただいま俺は売店にて昼飯を買おうとしているのだが。
「頼む貸してくれ!でないと我が餓死してしまう!お主は我を見捨てるのか!?」
「んなもん財布忘れたお前が悪ぃんだろ!そんなに食いたきゃ戻って財布取りに行けばいい話だろうが!」
その場で跪く銀髪のポニーテールの少女は、薄い緑色のウェーブのかかったボブの人物に懇願する。しかし、それは雷の如く怒声で一蹴された。
すると、銀髪の方が俺の存在に気付いたのか。
「そこのお主!貨幣を持ち合わせてはおらぬか!?」
「なっ、お前!この期に及んで何無関係の奴から借りようとしてんだ!」
「我は空腹な故、これ以上は長く持たぬ!頼む!」
売店じゃなくて、食堂に行けば良かった。それならこんな癖のある話し方の人物から強請られることは無かったんだろう。
とはいえ、ここで無視したら後々何か言われそうだ。手前味噌だが、俺ちょっとした有名人らしいし。これ以上の面倒ごとは避けたいな。
「…分かったから、惨めったらしく跪くのはやめろ。俺がなんかしちゃったように見えちゃうだろ」
「ま、真かっ?見ろ、屠自古。お主と違ってこの者は我に手を差し伸べてくれたぞ。お主も少しは優しさというものを…」
「調子に乗んな馬鹿」
そんなこんなで、俺は彼女の昼飯を奢ることにした。そこまでは別に良かったのだが。
「美味いっ!」
何故俺は知らんやつと一緒に飯を食べてるんだろうか。
「助かったぞ!お主、噂通りに心優しき者なんじゃな!」
口周りにご飯粒を付けながら、朗らかに感謝する。
噂通りって何?有名になったとはいえ、俺どういう風に噂されてんの?
「自己紹介を忘れていたな。我は物部布都じゃ!」
「汚ねぇ
物部布都に蘇我屠自古、か…。
名前が名前だけに、歴史の偉人の名前を連想してしまう。こいつらの先祖が、もしかしたらそうなのかも知れないが。
それはさておき、ごめんね。俺クラスメイトのことそんなに知らない。なんならお前らの顔もさっき初めて見たよ。
「…比企谷八幡だ」
「お前のことは有名だよ。なんせ、あの薬師の弟子をストーカーから守ったって噂になってるからな。度胸あるじゃねぇか」
まぁ悪い意味で噂されていない分マシなのだろうが、あまりそういう噂もされたくない。目立ちたくないのが、陰キャの性だからな。
「我は八幡のこと気に入ったぞ!我に昼餉をご馳走してくれたからな!」
「お、おう…」
この子のハイテンションが未だに付いていけない。つか昼飯奢って貰ったからって気に入るとか単純かよ。
「悪ぃな。この馬鹿が厄介になって」
「…別にいい。あのまま放置してたら、後々もっと厄介になってそうだったからな」
「違いねぇな」
蘇我は鼻で笑う。自分が揶揄われているとも露知らず、物部は飯をガツガツ食べる。
「にしても、なんでお前も学校にいるんだ?自主登校なんだし、来る必要もねぇだろう?」
「…生徒会とか、なんやかんやあるからな」
「ふうん。暑い中ご苦労なこったな」
「ぷはーっ!御馳走になった!美味であったぞ!」
と、手を合掌させる。
「そうか。そら良かったな」
「あ、そうじゃ!もしこれから暇であれば、我らの屋敷に来るか?」
唐突に、物部はそんな提案を持ちかけてきた。
しかし、俺には生徒会がある。その上、誰かの家に上がるということは、面倒ごとが起きるということ。極力誰かの家に行くのは避けたい。
「…いい。生徒会があるからな。遠慮しとく」
「ならばいつ来れるのじゃっ?」
「え、いや、いつって言われてもな…」
なんで諦めないのこの子。「また今度な」みたいなこと言って有耶無耶にするんじゃないの?なんで俺行かなきゃならない前提なの?
「…しばらく生徒会が忙しいからな。お前らの屋敷に行けるほどの暇が近々作れるか分からねぇし。だからまぁ、いつ行けるかどうか分からん」
「そうか……それは残念じゃ」
良かった。とりあえずなんとか諦めてくれた。
「まぁあれだ。暇な日がありゃあ、私に連絡寄越せよ。歓迎ぐらいならしてやるからよ」
そう言って、蘇我はラインのQRコードを見せてくる。
これはあれですかね。いつか行かなきゃならないやつなんですかね。
「…分かった」
結局、蘇我とライン交換をしてしまった。
まぁいい。例え蘇我から「屋敷いつ来れる?」みたいな連絡が来ても、電源を消すか未読無視すればいい。後で「ごめーん。充電切れてたー」とか、「圏外だったみたいで」って返せばいい。
これらを返せば、相手は責めることなど出来はしない。つまり、少なくとも2学期までの間はこいつらの屋敷に行かずに済むということだ。
「我もすまほという物があれば、八幡と連絡を取り合うことも可能だったのにな」
「バカ吐かせ。お前がスマホ持てば、架空請求やらスパムメールの被害に遭いそうで怖ぇんだよ」
一切の信頼が無いとは可哀想に。
というか、なんでスマホがおばあちゃん発音なんだよ。お前今時のJKだろ。
「こいつこの間、悪徳セールスマンに騙されかけてな……危うくいらねぇもん買わされそうになったんだよ」
「あの者、中々巧みな話術だったのぅ」
「何感心してんだボゲェ!あんな見え見えのわっかりやすい手に引っ掛かりそうになりやがって!」
物部と話していて、なんとなく分かったことがある。
こいつ、アホの子だ。それも、霊烏路とはまた違う種類の。
この手のアホは手に負えないってことは、霊烏路との関わりで身を持って体験した。
つまり、少し苦手なタイプだ。
「ったく……じゃあな、八幡。私達もう行くわ」
「お、おう」
「またのぅ、八幡!」
こうして、騒がしいコンビが目の前から去って行った。
俺も昼飯食べ終えたし、さっさと生徒会室に向かうとしよう。
昼飯だったパンの袋をゴミ箱に捨て、俺は暑い廊下を歩いて生徒会室に向かおうとしたのだが。
「本っ当。私の知らないところで、他の女と話すよね。八幡はさ」
悪魔に心臓を鷲掴みされたような感覚。ねっとりとして、それでいて怒気を少し孕んだこの声。
「ほ、封獣…」
両腕には血が滲んだ包帯を巻いており、何がおかしいのか、顔を俯かせてクツクツと小さく笑う。
本当に、悪魔のようだ。
「最近はすごい噂されてるよね。なんか誰か助けたんだっけ。八幡って、本当に優しいね」
と、こちらに一歩、また一歩と歩み始める。顔を俯かせているからか、余計に俺を恐怖に誘う。
「で、今度はあの胡散臭い新聞部と勝負だって?負けたら八幡はあいつの命令に従う。大変だね」
「な、何が言いたいんだよ」
出来ることなら、今すぐ俺はここから逃げ出したい。だが、そんなことをすれば後になってもっと厄介なことが起きる。相手はさっきの
「挙げ句の果てには、副会長に頭撫でられて?さっきのやつには気に入られて?良い身分だよね」
「だから、何が…」
「何が言いたいんだよ」と言おうとした瞬間、彼女は一気に詰め寄り、俺を勢いよく押し倒す。後ろに全体重が乗ってしまったため、頭を打ってしまった。
「ってぇ……ッ!?」
俺が頭の痛みを訴える最中、封獣は俺の両腕を掴んで拘束。俺にまた乗りして、動きを封じた。
「あはっ、あはは……あははははッ!」
突然、高笑いし始める。俺は腕を動かそうとするも、封獣の体重を乗せた力により身動きが出来ない。
「封獣、離…」
「さないよ。絶対」
すると、封獣は有無を言わさず俺の右側の首筋に顔を近づけて、力強く噛みついた。
「いッ!?」
あまりの痛さに、俺は声を発してしまった。
これはキスマークとか、そんな可愛らしいものじゃない。完全に噛みちぎる勢いだ。
「封、獣!やめろ!」
封獣は俺の言うことを聞いてくれたのか、首から歯を離した。と、思いきや、今度は反対側の首筋に向かって噛みついた。
「うぁッ!」
「んふふ…んふふふッ!」
封獣は首筋に噛みつきながらも尚、笑い続けている。先程よりももっと強く、首筋に噛みつく。
「い、ってぇ!痛ぇって!」
俺は強引に離れようとするも、封獣は一切力を緩めない。すると、封獣は反対側の首筋からも顔を離して、恍惚な表情で俺を見下す。
「すっごい……八幡の両側の首筋、私の歯形がしっかり付いてる…」
「お前、何のつもりだ…!」
「痛かった?痛かったよね?私の心はそれ以上の痛さだったんだ。八幡が他の女と話してる時、心が壊れそうなほどに痛かった」
「だからって…」
「だから八幡にも同じ痛みを味わってもらうよ。心が壊れるような痛みをさ。恐怖のあまり、もう私から離れられることすら考えられないようにしてあげる」
まずいまずいまずい。
完全に主導権を握られている。暴れ回ろうとしても、封獣の拘束が解けないせいで動けない。
「じゃあ、次は何しよっか。痛いこと?それとも、気持ちいいこと?」
そう笑いながら、封獣は俺の首に両手を添えた。
まさかこいつ…。
「や、やめろ…!」
「やーだ、やめないっ」
ヤバい。締められる。
「何をしているのかしら」
「あ?」
封獣や博麗とは別の、底冷えしそうな冷たい声。俺は彼女のそんな声を聞いたことがなかった。生徒会で一緒にいても、彼女がキレた様子を見たことがなかったから。
「風見…先輩…」
体操服姿の風見先輩が、封獣を鋭く睨みつけている。睨まれているわけでもないのに、圧に呑まれそうだ。
「風見幽香…」
「二度も何をしているのか聞くのは面倒だわ。さっさと八幡を離しなさい」
「…チッ。あいつ相手に真正面は不利か…」
封獣は舌打ちをして、俺を渋々離す。
「じゃあねっ、八幡。またね」
そう言って、彼女は風見先輩とは反対方向の廊下に歩いて行き、姿を消してしまった。
「…はああぁぁ…」
「大丈夫?」
「はい……ありがとうございます…」
俺は震える膝に無理矢理言うことを聞かせて、強引に立ち上がる。
「…もう手遅れだったかしら」
風見先輩は俺の首筋を見てそう言う。
「いや、これだけで済んでます。先輩が来てくれたおかげです」
「それなら良いけれど……それにしても、この間会った時とはまるで別人のようね」
この間……あぁ、確か俺と風見先輩が見回りの時に封獣と出くわしたんだっけか。あの時から既に、封獣の様子はおかしくなっていた。
「とにかく、保健室に行きましょうか。絆創膏ならあるでしょうし。それに、その首筋を四季映姫に見せるのはまずいわ」
それもそうだ。以前、フランドールが俺に付けたキスマーク?を隠すように絆創膏を貼ったが、それを博麗に問い詰められたからな。
絆創膏を首に貼るだけで、とんでもない匂わせになってしまうのかも知れない。
厄介なことをしてくれた。首筋に2箇所、絆創膏を貼っていれば誰だって気づく。いらん爪痕を残しやがった。
『八幡にも同じ痛みを味わってもらうよ。心が壊れるような痛みをさ。恐怖のあまり、もう私から離れられることすら考えられないようにしてあげる』
…ダメだ。封獣のことばっか気にしていたら、それこそあいつの思う壺だ。今は体育祭に集中しよう。
余所見が出来るほど、今の俺に余裕はない。