やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
体育祭、当日。1学期を締めくくるイベントであるが、イベントや行事に対して一切の楽しさを見出せない俺からすれば、ただただかったるいだけである。
体育祭と言えば、赤と白に分けられているが、我らのクラスF組は赤組だ。その他に、B組とE組も一緒だ。つまり、A組、射命丸や魂魄がいるC組、封獣がいるD組は白組である。
それはさておき。
「八幡。その首筋の絆創膏は何」
「しかも2箇所…」
はい、最初からピンチの比企谷くんです。
原因は簡単。以前、封獣に付けられた噛み跡を隠すための絆創膏が目に付いたからである。
風見先輩と一緒に、保健室で絆創膏を貰ってから、生徒会が始まった時。
『彼女はどうやら分かっていないようですね。八幡に手を出すことが、どれだけ重い罪であるかを』
風見先輩が封獣に非があることを説明し、四季先輩は俺に対して何の言及もしなかった。が、代わりに封獣に対して敵意を芽生えさせていた。
しかし、あの時とは違い、状況を説明してくれる人間がいない。つまり、ピンチである。
「あんた、それ誰にやられたの」
目を濁らせて、冷たい声で詰め寄る博麗。
「封獣ぬえよ」
意外にも、俺の代わりに答えたのは鈴仙であった。
「師匠から話を聞いたのよ。封獣ぬえが、八幡の首に無理矢理噛みついたって。3年の風見幽香がそう言っていたそうよ」
「だ、大丈夫なのか?」
「…まぁ、これで済んでると思えばな」
というか、これで済んでるってこともおかしいんだけどな。普段に考えて、これはこれでだいぶヤバいことなんだけどね。
「彼女、そろそろ誰か殺しかねないわよ」
「ふ、不吉なこと言うなよアリス…」
いや本当だよ。なんなら風見先輩が来なかったら首絞められかけてたっての。
「比企谷さん」
すると、背後から少し久しぶりの人物から声を掛けられた。
「聖さん…?どうしたんですか?」
命蓮寺の主、聖白蓮さんと、後ろにはナズーリン先輩や寅丸先輩、村紗先輩も一緒にいた。
「その、ぬえの暴行の件について、謝罪をと…」
「あ、いや、別に気にしては……ないことはないですけど、あいつがああなったのって、多分俺に責任があるっていうか。聖さんが謝ることじゃないですよ」
「しかし、首を絞められかけたと聞く。助けが来なければ、比企谷が死ぬところだったんだぞ」
「多分、ぬえの人格なら殺さないと思うよ。気絶させはするだろうけど」
ナズーリン先輩の言葉に、村紗先輩が否定する。
「…その封獣はどうしたんすか?今日見てないですけど」
「元より彼女は体育祭に参加するつもりがなくて。こちらとしては好都合だったのですけれど…。一応、一輪と雲山が命蓮寺に残って彼女を見ていますが…」
「…まぁ、とにかくあれです。別に気にしないでください。もし俺が何かあっても、それはもう俺の責任なんで」
「そんな…」
『それではこれより、開会式を行います。生徒達は、先生の指示に従って入場門前に集合してください』
と、話を横槍するようにアナウンスが入る。
「…そういうわけなので。要らない心配を掛けさせて、すいませんでした」
俺は軽く頭を下げて謝罪し、入場門前に向かった。
これでいい。俺が招いた問題だ。俺がどうにかせにゃならん。
『もし本当に、困ったことがあって、一人じゃどうしようもないと思ったのなら、まずあたいに頼りな』
一瞬、脳裏に小野塚先輩の言葉がよぎる。
ふざけんな。ちょっと困ったからって、なんですぐ誰かを頼ろうとしてんだ。俺の問題に、小野塚先輩は関係ない。
出来ないかどうかは関係ない。やるかやらないかの二択だ。
「…大丈夫なの?」
鈴仙が心配そうにこちらを覗き見る。
「…まぁ不安だがな。射命丸に負けたら俺終わりだし」
「そうじゃなくて…」
今封獣のことを考えても仕方がない。後回し……って言い方は酷いだろうが、本人がいない以上あれこれ考えても時間の無駄だ。
それに、こんなこと考えながら勝てるほど、射命丸は甘くない。
「今日の200m走、楽しみですねぇ〜。貴方が私に敗北して平伏す姿が容易に想像出来ますよ」
ほら、射命丸がやって来た。相変わらず余裕の笑みを浮かべている。
「そんなに俺をこき使いたいんだな。性格悪いな」
「ええ勿論。嫌だって言っても、潰れるまで可愛がってあげますよ。なんなら首輪も付けて」
「いらんわ」
どこ向けのサービスだそれは。俺のそんな姿見て喜ぶやつはもう手遅れなほどの変態だぞ。
「あ、八幡さん!」
白い鉢巻を額に巻いた魂魄がこちらにやってくる。なんか白い髪だから鉢巻が同化してるんだけど。
「今日は頑張りましょう!」
「お、おう。気合い入ってんな」
「はい!なんせ、年に一度の体育祭!楽しみじゃないですか!」
「あ、そう…」
「C組は朝からうるさいわね…」
と、博麗が呆れる。射命丸といい魂魄といい、血気盛んなことで。
『まもなく、第88回東方体育祭開会式を行います。では、1年A組からの入場です』
体育祭の開会式が始まる。A、B、C、と順番に行進していく。
『次は、1年F組の入場です』
F組の名前を呼ばれ、俺達は列になってグラウンドを行進していく。
それにしても、行進の曲のチョイスがよく分からない。というか知らん曲だ。なんだ、「色は匂へど いつか散りぬるを」って。サビの部分なんだろうが、誰が歌っている曲なんだろうか。
全てのクラスの行進が終えて、選手宣誓が行われる。行うのは、生徒会長である四季先輩だ。
『宣誓。私達は本日の体育祭にて、正々堂々、全力で戦い、最後の1秒まで完全燃焼することを誓います』
選手宣誓、国家斉唱、八雲紫の話など、面倒な開会式ももうじき終えようとする。
『それではこれより、第88回東方体育祭を行います。第1種目、100m走に出場する生徒達はその場に残ってください』
「初っ端から私の番ね」
「頑張れよ霊夢!」
「…まぁ、やるからには1位を取らせてもらうけど。さっさと終わってゆっくりしたいわね」
100m走は博麗に火焔猫、後は誰だったか忘れた。外国人と普通の苗字のやつだった気するけど。その人物4人を残し、俺達F組も退場していき、観客席に戻って行った。
「本当に初っ端だな…」
第1種目の、しかも第1走者だ。
博麗は軽く身体をほぐしている。表情は以前、怠そうではあるが。博麗以外にも、自分のレーンのスタート位置に着く。
「位置に着いて!よーい…」
スターターピストルが放たれ、走者一斉に走り出す。皆はゴールに向かって走って行くが、一人だけとんでもないランカーがいた。
「あいつはっや…」
そのとんでもないランカーは無論、博麗だ。他を圧倒するスピードで、あっという間に1位になる。
「いいぞ霊夢ー!」
博麗の表情は誇らしげでもなく、まるで当然の結果であると言わんばかりの表情だ。あいつなんなの。カッコいいな。
「あ、次お燐だ!」
と、いつの間にか背後から抱きついてくる霊烏路が火焔猫に注目する。
なんでもいいけど、離れてくれませんかね。未だに貴女のメロンには耐性がないんですよ。
「位置に着いて!よーい…」
第2走者がピストルの合図で走り始める。火焔猫はやや低い体勢で駆け抜けていく。まるで猫のような動きだ。
というか、あいつも速くね?なんなら、他クラスの女子も半端ないレベルの速さなんだけど。女子の割合が多いとはいえ、どいつもこいつも尋常じゃねぇんだけど。
俺これ射命丸に勝てんのかな。
「流石はお燐ね」
「あ、さとり様!」
静かに、しかし少し誇らしげに彼女を褒めたのは、地霊殿の主の古明地さとりさんだ。
「どうも。その節はありがとうございました」
「あ、いえ…」
というか、この人ここの学生じゃなかったのね。てっきり3年生かって思ってた。
「いえ、年齢だけで言えば私は高校3年生の皆様と同じ歳です。ですが、私は地霊殿の主だけでなく、地霊温泉の経営も行なっています。ですので、高校に通う時間はないのです。謂わば、少し早い社会人と言ったところでしょうか」
「マジですか…」
地霊温泉って言えば、千葉でもそれなりに有名な温泉だ。
そんなところを経営しているだけでもとんでもないのに、火焔猫や霊烏路など、地霊殿の住人を養っているとは恐れ入る。
しかし、それ相応の疲労が出るはずだ。経営や地霊殿のことだけでなく、古明地さんの生まれ持った異能。身体的疲労だけでなく、経営のことも相まって精神的疲労が凄いはず。いつか倒れたりしないのだろうか。
「…本当、貴方は優しいんですね」
「いや、別に…」
当然のことを思っただけだ。
俺なら絶対途中で投げ出すか、最初からやらない。仕事なんて真っ平ごめんだ。
「ですが大丈夫です。地霊殿のことはお燐やお空にも手伝ってもらってますし、休息も取っていますから」
「…そうですか」
要らぬ心配だったな。まぁ火焔猫がそばにいるわけだし、地霊殿に関しては大丈夫なのだろう。
霊烏路?酷い言いようかも知れないが事実のことを言おう。アテにならなそうだ。
「では、私は観客として体育祭の様子を楽しませていただきます。貴方の活躍も期待しています。お空、貴女も頑張るのよ」
「はい!」
「それでは」
古明地さんはそう告げて、保護者用の観客席の方へと戻って行った。そんなこんなと話している間に、1年生の100m走が終わった。2年生や3年生も、特に知っている人間がいるわけでなく、あまり注目せずに流して見ていた。
続いての種目は、障害物競走。十六夜、鈴仙、後はよく知らない人物二人だ。
「あら、おかえり霊夢」
100m走が終わった選手達は、次々と自分のクラスのところへ戻って行く。
「残ってる種目はクラス対抗リレーよね。もう後の種目興味ないし、寝てていい?」
「なんでだよ!まだ私も八幡も、アリスも出てないんだぜ!ちゃんと私達の活躍を見ろよな!」
「達って何。俺のは別に見なくていいから」
そんな次回予告で言いそうなセリフで俺を巻き込むなよ。俺別に見られたいわけじゃないんだよ。
「アリスと八幡は借り者競走だっけ。じゃあその時だけバカ笑いして見てあげるわ」
「貴女も大概性格悪いわね」
「本当だよ。巫女とは思えねぇセリフだぞ」
「あんた表出なさい。今なら地面に埋めるだけで許してやるわよ」
「もう出てるから。後軽く俺を土に還そうとしてるから」
というかマーガトロイドは良いのかよ。性格悪いって言ってたの流すのかよ。解せぬ。
『障害物競走、第1走を始めます。第1走者目の生徒は位置に着いてください』
「確か、咲夜が第1走者なんだよな」
障害物競走。知っての通り、設置されたハードルを飛び越えたり、麻袋を使ってジャンプしながら進んだりと、様々なギミックが備えられた競走である。
しかし、この体育祭を支配する人間がいることを、忘れてはならない。
「あれ?なんであいつら裸足なんだ?」
霧雨が彼女達を指差し、そんな疑問を投げかける。障害物競走に出場している生徒は、皆裸足である。
「あそこ見てみ」
俺は平均台を指差す。なんら変わらない平均台……だと思うだろ。ところがどっこい、違うんだよ。
「平均台から落ちた人間に追い討ちを掛けるための、足ツボマッサージがある」
生徒会と体育祭実行委員で、体育祭の種目の内容を話す際に聞いたことなのだ。因みに案は八雲紫校長です。
あの三十路、人が苦しむところを楽しむ気でいやがる。
「八幡。紫、思いっきりこっち見てるけど。ていうかあんたに」
いや怖い。なんでそんな遠いとこから俺をロックオンするの?まさか三十路って思ったことがバレた?んなアホな。
「八幡、あれはなんだ?」
霧雨が再び指を差す。差していたのは、桶だ。
ただし、丸く小さい桶ではない。レーンに沿った作りをしており、尚且つ少し走れる程度の長さのある桶だ。いわゆる特注品だ。
「桶から湯気が出てるけど…」
「あの桶には、50℃程度のお湯が張られてる。要するに熱いお湯に足突っ込みながら走ろってことだ」
「考案者は足に何か恨みでもあるの?」
違う。ただただ苦しんでる姿を見たいと思って考案しただけだ。勿論、これも八雲紫校長の案でございます。というか、障害物競走の障害物は全部八雲紫校長の考案なんだけどね。
「八幡、あれも障害物?」
マーガトロイドが指差したのは、直線レーンに設置された机。その上には、イヤホンが置かれている。
「あのイヤホンは何?」
「あれは適当に絡ませたイヤホンだ。解いたやつから先に進める」
「さっきの二つに比べたら、随分地味じゃないか?」
「いや、そうでもない。イヤホンが絡まってる時って、急いで解こうとすると余計に解きにくいだろ?その心理を突いた障害物だそうだ」
「地味に鬱陶しいわねそれ」
競走の最中に、冷静にイヤホンを解くことが出来るかどうかがポイントになる。1位を目指して焦って解こうとすれば、八雲紫校長の思う壺である。
「最後のあれは……カレーパン?」
ゴール手前には、机にパンが置かれている。
「最後の最後にパンって、普通じゃないかしら」
「要するにパン食い競走ってことだろ?」
「確かにパン食い競走ではある。しかし、中にはハバネロレベルの辛さのルーが入っている。あれを食い切らない限り、ゴールは出来ない」
「これ
本当あの人、人の身体をなんだと思っているんだろうか。
イヤホンの障害物は変わり種としては面白いだろうが、後の3つは人を苦しめる凶器だぞ。
「位置に着いて!よーい…」
スターターピストルと同時に、障害物競走が始まった。障害物の順番としては、平均台、足湯、イヤホン、そしてカレーパンである。
最初の平均台は、落ちなければどうってことはない。落ちなければ。
「咲夜のやつ、平均台の上でも走ってるぜ!」
「バランス感覚が優れてるわね…」
普段からハイヒールで動き回っているからか、平均台をものともせずに突破。他の走者も、十六夜を追随。
次は足湯レーンだ。それなりに熱いお湯に対して、一気に足を突っ込めるかだが…。
「すっげえ!一気に足突っ込みやがった!」
十六夜はそれなりに熱いお湯に一切顔色を変えずに突っ込み、走っていく。
「あっつ!」
「きゃっ!」
他の走者は、一度目は必ず足を引っ込めるというのに、十六夜は気にせず2つ目の障害物を突破した。
続く3つ目の障害物は、イヤホンを解くことだが…。
『速い!赤組、十六夜咲夜!さまざまな障害をものともせず、遂にラストの障害物に向かった!』
辛ぇパン…じゃなくてカレーパンが置かれた机に向かう十六夜。
一度食べさせてもらったが、結構辛かった。辛いものが苦手な人は、きっとキツいだろう。
しかし。
『十六夜咲夜!辛えパン…じゃなかった、カレーパンにも顔色を変えずに食べ切ってしまった!』
あいつ化け物かよ。顔色変えずにものともしないって。少なくともあのカレーパン、水が無けりゃなかなかしんどかったぞ。
十六夜は、そのまま1着でゴール。あれだけの障害物にぶち当たっても尚、毅然とした立ち振る舞いをしている。なんだあれカッコいいな。
「次は鈴仙……と、あら。妖夢も障害物競走に出場するのね」
「お、本当だ!」
障害物競走の第2走者、C組からは魂魄のようだ。
鈴仙は走るというより、バネの強さが特徴だ。バレーボールで見せたあのジャンプ力が、それを示している。
魂魄は剣道部にて、基礎体力や筋力を鍛えている。能力のバランスの良さでは、おそらく魂魄が一枚上手だ。
「位置に着いて!よーい…」
第2走、開始。スタートダッシュは互いに良いスタートを切った。
まずは平均台ゾーン。普通なら、先程のようにバランス感覚を研ぎ澄ませて渡って行くものだが。
「鈴仙のやつ、跳んでる!」
鈴仙は平均台に乗る前に勢いよく跳ぶことで、平均台の半分くらいをショートカットする。そして着地したと同時に、再び跳ぶ。
まるで兎のように、跳んで跳んで前へと進む。
「負けません!」
しかし、魂魄も負けじと鈴仙に追いつく。二人は平均台ゾーンを突破し、続く足湯ゾーンに向かう。
「熱っ!」
と、湯に足を浸からせた鈴仙は熱さにより悲鳴を上げる。が、我慢しながら足湯ゾーンに必死に立ち向かっていく。一方、魂魄の方は。
「私に我慢出来ぬものなど、あんまりない!」
『おーっとC組の魂魄妖夢!何やらカッコいい名言を発して、足湯ゾーンに突入!』
魂魄も足湯ゾーンに突入。普段から身体と心を鍛えているからか、熱湯に対して戸惑いは無かった。それが左右したのか、鈴仙を追い越して1位に躍り出た。先程とは違って、鈴仙と魂魄が良い勝負をしている。
イヤホンゾーンでは、互いに冷静に解いていく。しかし、魂魄の方が先に解き終え、最後の障害物に向かっていく。
「行かせない!」
鈴仙も解き終えて、最後の障害物に。しかし、鈴仙が着いた時には魂魄のカレーパンは半分を切っていた。
「辛っ!なんでこんな辛くしてるのよ!」
カレーパンを齧った鈴仙が、涙目ながら訴える。その傍ら、魂魄はカレーパンを食べ切って1着に。
『ゴォール!障害物競走第2走目、1位になったのはC組の魂魄妖夢です!』
白組に属する魂魄が1位になった。続く2位は、涙ながらカレーパンを食べ切った鈴仙だ。
「すっげえ熱戦だったな!うぅー、私も早く出たいぜ!」
「あんたどんだけ飢えてんのよ」
序盤から大盛り上がりの体育祭。
所々でおかしい要素を含んだ体育祭であるが、観客も選手も盛り上がっているのは間違いない。
だが一つ。一つだけ言わせて欲しいことがある。
もう二度と八雲紫校長に種目決めをさせないで欲しい。あの人そのうち、倫理的にヤベェ種目とか思いつきそうだし。R-18指定の種目とか思いつきそうで怖い。
『続いて、障害物競走第3走目を行います。第3走者の生徒は、位置に着いてください』
俺達の体育祭は、まだまだ続く。続くったら続く。
因みに地霊温泉なんて多分ないです。東方の原作では間欠泉云々ってなっていたので、そういう意味合いを含めて、さとりの仕事は地霊殿の管理と温泉の経営にしました。