やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。   作:セブンアップ

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彼と彼女らの祭りは熱さを増す。

 まだまだ続くよ体育祭。

 なんやかんやで障害物競走が終了し、第3種目の二人三脚が始まっていた。その間、次の種目の借り者競走に出場する生徒は入場門で待機していた。

 

「そういえば、借り者競走でどういうお題が出るとか聞かされてないの?さっきの障害物競走の内容も事前に知っていた口ぶりだったし…」

 

 同じく借り者競走に出場するマーガトロイドがそう尋ねる。その話題に残り2人の……名前知らないけど、眼鏡を掛けた茶髪の女子と、金髪のショートボブの女子も注目する。

 

「お題は、体育祭当日に校長が決めるんだと。お題に沿っているか否かの判定は、校長を含めた教師5人」

 

「校長好き勝手し過ぎじゃないの?」

 

 マーガトロイドはそうツッコミを入れる。

 いや本当、やりたい放題やりやがるよ。あの三十路はよ。

 

「…内容に関しては、毎年違うお題が出ているらしい。まぁ参考までに挙げるとするなら、例えば"金髪の子"や"眼鏡を掛けた子"って、先輩が言ってたが…。正直、参考にならんと思う」

 

「毎年お題が違うのなら、そりゃ参考にならんのう」

 

「それもある。ただ、普通の人間が出したお題なら大体想像も出来るし、今のようなお題が出るかも知れない。だが…」

 

 俺は八雲紫校長を指差す。退屈そうに、二人三脚を見物している。

 

「あの校長が出すお題だ。絶対一癖も二癖もあるに違いない」

 

「きっと、人が苦しむのを見て嘲笑うんだわ。苦しんだ姿を撮られて、卒業アルバムに載せられるのよ」

 

「あの校長ならあり得そうだな…」

 

 卑屈そうに呟く金髪の女子に俺は同意する。

 

「全く、厄介な種目を考え出したものじゃのう」

 

 茶髪の眼鏡ちゃんは、呆れる様子。

 というか俺、ナチュラルに知らんやつらと喋ってたんだけど。いや、多分同じクラスなんだろうけど、一切知らん人達だ。

 

「…八幡。一応聞くけど、二人のことは知ってる?」

 

 マーガトロイドが小さく囁いて尋ねる。

 

「なめるな。知ってるわけないだろ」

 

「だと思った…」

 

「お前さん、同じ学級の学友の名前を知らぬのか?」

 

 俺とマーガトロイドの話が眼鏡ちゃんの耳に入ったのか、少し驚きの様子で尋ねる。

 

「え、あ、はい」

 

「私達が一方的に知ってるってだけだし。関わりが無いんだから、知らない方が普通よね」

 

「…知らぬなら仕方ない。儂は二ッ岩マミゾウ。出席番号ではお前さんの次なのじゃがのう」

 

 比企谷、二ッ岩…あ、本当だ。

 全然知らんかった。机に座ってる時、基本的に後ろは振り向かないからな。休み時間は大体寝てるか、暴虐の巫女とその愉快な仲間達に絡まれてるくらいだし。

 

「まぁこうして話すのは初めてじゃな。よろしく頼むぞい、八幡」

 

「あ、おう」

 

 喋り方に対しては誰もノーコメントなのね。というか、ついこの間似たような喋り方をしたキャラクターと遭遇したんだけど。

 

「私はルナサ。ルナサ・プリズムリバー。そんなに関わることは無いと思うけど、一応は自己紹介しておくわ」

 

 何やら先程から卑屈そうに話す彼女の名は、プリズムリバーと言うそうだ。二ッ岩と違い、そこまで友好的な態度ではない。

 まぁこちらも、関わりが無ければ話す必要がないと思っているし、こういう人物が一番気楽ではある。

 

『河城・鍵山ペアが独走!そのまま1着でゴォール!』

 

「やったね、雛!」

 

「…そうね」

 

 どうやら、河城先輩と鍵山先輩は二人三脚に出場していたようだ。確かに普段から二人一緒にいることがあるし、コンビネーションは抜群なんだろう。というか、同じクラスだったのね。

 

 そのまま2年生の二人三脚が終え、3年生に。3年生の部も終えると、二人三脚に参加していた生徒が一気に退場していく。

 

『続く種目は借り者競走です!借り者競走に出場する生徒は、入場してください』

 

 借り者競走で午前の部が終わる。まだ4種目であるが、1種目1種目の時間が長い。故に、すぐに時間が経つのだ。

 俺達は入場門から行進していき、体育祭実行委員の指示に従って列に並ぶ。

 

「まずは私からね。無難なお題が出るといいのだけど…」

 

「諦めろ。あの校長に無難なんて考えはない」

 

「…恨んでもバチは当たらないわよね、これ」

 

 と、恨み言を言って位置に着きに行く。

 

「これは足の勝負よりも、コミュニケーションが鍵になる。社会に出て必要となる能力じゃ。そこまで見越していたのであれば、大したもんじゃが…」

 

「なら普通の借り物競走でも同じでしょ。わざわざ変わり種にする必要ある?」

 

 借り物競走に比べて、借り者競走は、観察眼と、特にコミュニケーションが必要になってくる。

 ただ物を借りるのと、人を引っ張って連れて行く。コミュニケーション能力上で考えれば、圧倒的に借り者競走の方がハードだ。

 

 借り者競走に関わらず、大体の体育祭の種目に何かしらの意味を含めているのか疑問ではあるが…。

 

「位置に着いて!よーい…」

 

 発砲音と共に始まった借り者競走。地面に散らばった紙を拾い上げて、お題が何かを確認する。

 

「は、はぁ!?」

 

 お題を確認したマーガトロイドは、動揺の表情に。何やら顔も赤い。というか、マーガトロイドがあれだけ荒げた声を出すのも珍しい。

 

「…八幡。ちょっと来て」

 

「え」

 

 マーガトロイドはお題に沿っているかどうかを判定するために、校長の前まで俺を引っ張って行く。校長の前に俺を引っ張り出したマーガトロイドは、お題の紙を裏側にして提出する。

 

「…比企谷くん。もし仮に貴方がアリスと付き合っていたとして、彼女を大切にする?」

 

「は?」

 

 唐突に意味の分からない質問をする。

 何?マーガトロイドと付き合っていたとして、こいつを大切にする?なんだその質問。

 

「早く答えなさいよ。じゃないと、アリスが1着になれないわよ」

 

 マーガトロイドが引いたのは、一体何のお題だったんだ。

 …まぁ気にしても仕方ない。校長が作るお題なんてふざけたものばかりだ。気にして精神的に痛ぶられるのはこちらだし。

 

「…まぁ、大切にすると思いますよ。マーガトロイドが俺なんかを好きになってくれたのなら、俺は絶対こいつを大切にします。彼氏っつうなら、彼女くらい大切に出来なくてどうするって話ですよ」

 

「…八幡…」

 

 俺の答えはこうだ。

 どういうお題かは分からないが、これに答えることでクリア出来るということなのかも知れない。

 

 それに、これは確率で言えば宝くじが当たる方が高いと思うが、もし俺に彼女が出来たとするなら、俺は絶対大切にする。

 それが千葉県男児のやり方だ。…いや知らんけど。多分万国共通だと思うけど。

 

「…チッ。もっと慌てなさいよ」

 

 と、つまらなさそうに吐き捨てる。

 ちょっと?舌打ちするのはどうなの?校長として、判定係としていいのそれ。

 

「…まぁいいわ。お題には沿っているし、ゴールに向かっていいわよ」

 

 どうやらマーガトロイドのお題はクリアのようだ。マーガトロイドは走って、1着でゴールに。

 

「…なんのお題だったのか聞かなくていいか」

 

 ゴールしたのを確認して、俺は元の場所に戻る。

 

「あやつに連れられていたが、どういうお題だったのじゃ?」

 

「さぁな。聞くだけ無駄なお題だと思うぞ」

 

 とにかく1着したことを喜べばいい。他人のお題について追求することはおすすめしない。それが自分のため世のためなのである。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 借り者競走で1着になった私は、列に並んで待機している八幡の方に目をやる。彼の言葉が、頭から離れないのだ。

 

『マーガトロイドが俺なんかを好きになってくれたのなら、俺は絶対こいつを大切にします』

 

 自分を大切にしてくれる……。

 その言葉に、私は胸が熱く込み上げてくる。心臓の音もうるさく、顔も少し暑い。

 

 私のお題は、『自分を大切にしてくれそうな異性』だった。

 

 この学校で、私の知る異性は八幡ぐらいだ。他にも男子は何人か見かけるが、全然知らない人だ。だから八幡を連れてくることが、私のお題の達成条件だったのだ。

 しかし、判定は八雲紫が行う。連れて来ただけで達成とはならなかった。

 

『もし仮に貴方がアリスと付き合っていたとして、彼女を大切にする?』

 

 その質問に対し、「この女何を言ってるんだ」と思った。

 だが、八雲紫のその質問は正しかった。本当に私を大切にしてくれる人間でなければ、お題達成とはならないからだ。

 お題を知らせずに八幡を連れて来た私は、彼に一縷の望みを託した。ただ一言、「はい」と言えば済む話だったのに。

 

 彼は私を大切にするとはっきり言った。

 

 元々、彼のことは嫌いじゃないのだ。

 上海を見つけてくれたし、部活動の見学にも付いて来てくれた。霊夢みたいに性格に難ありだが、他人に対して優しく出来る人物だ。

 勉強合宿で霊烏路空を探し出したのも、鈴仙をストーカーから守ったのも、彼の優しさが出た証拠だ。

 

 そんな彼を好いている子は多い。

 封獣ぬえ、霊烏路空、鈴仙。霊夢や生徒会長は八幡と何かあるようだし、妖夢も彼のことを慕っている。魔理沙も時折、彼に視線を向けている。

 もしかすれば、私の知らない子も八幡のことを好いているかも知れない。とんだハーレム野郎。刺されて死ぬ未来が来るかも知れない。

 

 でも、分かる。彼を好きになってしまうのは。

 

 捻くれていて、性格に難ありなのに、いざという時他人に優しくするのだから。ギャップによるものなのかも知れないし、単純に優しくされたからかも知れない。まぁ好きになったきっかけは人によりけりだ。

 

「…八幡……」

 

 あの言葉だけで私は彼を好きになったというの?いいえ、そんなことはあり得ない。私はそんな単純じゃない。

 特別嫌いじゃないが、異性としてとなると話は別だ。

 

 なのに、依然私の鼓動が勢いよく鳴っているのは何故?

 

 他のことを考えようとしても、止まらない。八幡のあの言葉が脳裏を巡る。

 そうだ。あれは勘違いだ。八幡だって本気じゃないということだ。そうに決まっている。本気じゃないのだから、私が意識する意味なんてない。

 

 だから駄目。八幡を好きになっては駄目。この思いは閉まっておかなければならない。

 

 もし私が彼を好きになってしまったら。心の底から彼を愛することになるとしたら。

 きっと、周りのことが見えなくなってしまう。霊夢も魔理沙も見えなくなって、ずっと八幡だけを見てしまう。八幡だけを。

 

 お願いだから、これ以上私を戸惑わせないで。

 私が貴方を好きになったら、きっと貴方は今まで通りに過ごすことが出来なくなってしまう。

 

 これからも、クラスメイトとして、友人として共にいましょう?

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「やっと俺の出番か…」

 

 二ッ岩もプリズムリバーも終わり、F組で残るは俺だけだった。スタートの位置に着き、俺は準備をする。

 

「位置に着いて!よーい…」

 

 借り者競走、第4走目が開始。勢いよくスタートを切って、散らばった紙を拾う。そこに書かれていたお題とは。

 

『金髪の綺麗な若い女性※ただし、この学校の教諭を連れて来ること』

 

 何この限定的なニーズが書かれたお題は。

 というかちょっと待て。金髪で学校の教諭?

 

「ふふふ……」

 

 あの校長、このお題を拾った生徒に綺麗で若い女性だと思わせたかったのか。自分はアラサーじゃないって言いたいのかあの校長は。そこまでして若く見せたいか。

 

 しかし、残念だったな八雲紫校長。この東方学院には、あんたより若く、かつ金髪の女性がいる。

 

 だから俺が選ぶとすれば、あの人だ。

 

「先生、ちょっと来てください」

 

 俺はお題に当てはまる先生を見つけ、判定係の八雲紫校長の目の前に向かう。そして、お題の紙を提出する。

 

「…俺はこの人でも当てはまると思うんですが。そこんとこどうなんですかね?」

 

「まさか主人を差し置いて選ばれるなんて……。さぞかし、気分は良いでしょう?ねえ、藍?」

 

「ゆ、紫様…」

 

 そう。金髪で綺麗で、若い教諭は何も校長だけではない。

 側近の八雲藍先生。俺からすれば、金髪で綺麗で、なんなら校長より若く見えるのだ。

 

「ひ、比企谷っ。何故私なんぞを…」

 

 八雲先生は俺に耳打ちをして、連れて来られたことに対しての文句を言い始める。

 

「や、このお題八雲先生に合ってると思ったからなんですが」

 

「それはそのっ、そう思ってくれているのは嬉しいのだが……。紫様の表情が…」

 

 自分よりも下の立場の八雲先生が選ばれたことに、顔を引き攣らせていらっしゃる。

 

「…まぁ、一応お題に沿ってるからお題はクリアよ。チッ」

 

 だから舌打ちは校長としてどうなんですかね。

 

 俺はゴールに向かって走るも、既に1位2位の人間がいた。俺より早く、お題をクリアした人間が。故に、俺は3着でのゴールとなった。

 

「…まぁ、可もなく不可もなくってところか」

 

 最下位じゃないからまだマシだろう。6位中の3位であるなら、俺からすれば上出来だ。というか、無駄にスペックが高い女子が多いんだよこの学校。

 

 これにて1年生の借り者競走が終了。続いて2年生、3年生の借り者競走が終えていく。終わった俺達は退場し、急いで入場門へと向かう。

 

 何故なら次の種目は。

 

『続きましては、1年生による学年種目、台風の目です』

 

 1年生学年種目の台風の目。一本の長い棒を4人が持って、決められたコースを走る種目。コースの途中にはコーンが設置されており、そのコーンを中心に一回転する決まりになっている。

 

 1クラス22人。こちらは欠席して21人なので、誰か3人はもう一度走らなければならない。

 俺のクラスの台風の目の組み合わせは、こうだ。

 

 1走 物部 二ッ岩 奥野田 蘇我

 2走 鈴仙 プリズムリバー 火焔猫 霊烏路

 3走 博麗 マーガトロイド 十六夜 霧雨

 4走 秋静葉 秋穣子 赤蛮奇 今泉

 5走 マエリベリー 宇佐美 クラウン 黒谷

 6走 物部 二ッ岩 比企谷 蘇我

 

 この順番と組み合わせで走ることになる。余った俺がアンカー的な扱いになったわけであるが、別に悲しむことはない。俺が余るのはいつものことだ。

 とはいえ、4人で並んでる後ろに1人でポツンと待機してるのは目立つんだよな。

 

『ではこれより、台風の目を行います。…位置に着いて。よーい』

 

 パァン!と発砲音が鳴り響くことで、台風の目が開始された。

 コースの中にコーンが3つあり、1つは右回り、2つ目は左回り、3つ目はまた右回りと、その通りに走らなければならない。

 

 戦況を見た感じ、悪くはない。が、かと言って1位や2位では無さそうだ。

 第1走目の物部達が戻って来て、端を掴んでいる物部と蘇我が棒を低くしながらこちらに走って来る。その棒に当たらないように、次々と飛んでいく。そして最後の人間、つまり俺が飛び終えると、物部と蘇我が前に向かって、第2走目の鈴仙達に託す。

 

「どうじゃ!我らの走りは!」

 

「どうもクソもねぇだろ。現在4位のままで走り終えた私達に褒めるとこ一個もねぇだろ」

 

 君達、本当仲良いですね。というかこのクソ暑い中、物部は元気だな。立ってるだけで暑いってのに。

 

「お、どうやら2組抜かしたようだぞい」

 

 二ッ岩が指差す先には、先程よりやや早くコースを回る鈴仙達の姿が。どうやら現在2位のようだ。2位をキープしたまま、こちらに走って来る。最後尾まで回って、そして次に走る博麗達に。

 

『速い速い!F組、怒涛の勢いでコースを回る!』

 

 依然、順位は変わらない。時折1位になったりするが、すぐさま2位に下がったりと、白熱した展開を広げる。

 そして最後。順位は変わらないまま、俺達に棒が渡る。

 

「さぁ行くぞ!」

 

 物部の掛け声で俺達は走り始める。右回り、左回り、右回りとコーンを回り回っていく。目が回りそうだこれ。

 

「1位との差が近ぇ!ラストスパートだ!」

 

 後は直線を走るだけ。俺達は全速力で走り、列に突っ込んでいく。真ん中に配置された俺と二ッ岩が散らばり、端の物部と蘇我が後ろまで棒を運んでいく。

 そして棒を先頭の組の前に置いて、後ろへ一気に走って滑り込む形で座る。

 

「どうなった…!?」

 

 蘇我が順位を確認する。少なくとも、上位に躍り出ていることは確かだ。が、俺達が1位なのか、それとも差が縮まっただけか。

 他のクラスも次々とゴールして、地面に座り込んでいる。

 

『終了!台風の目決着です!』

 

 さて、1位なのか。それとも2位なのか。

 

『ではまず、第1位は………C組です!』

 

 どうやら、1位はC組、つまり魂魄や射命丸がいるクラスのようだ。

 

『続く2位はF組!』

 

 2位…か。とはいえ、上位だけでも誇れる順位だ。

 1位、2位と次々と順位が発表されて、台風の目が終了する。退場した俺達は、席に戻り、次のアナウンスの指示を待つ。

 

『ではこれより、昼食時間に入ります。午後の部が始まるのは1時半からです。各自それまでに昼食を済ませてください』

 

 昼休みのアナウンスが入った。現在時刻は12時ジャスト。昼飯時だ。

 食堂で済ます者、観客席で食べる者、保護者と一緒に過ごす者、人それぞれだ。

 しかし、俺は体育祭だろうがなんだろうが、ベストプレイスで食べることに決めている。さて、さっさと向かって…。

 

「ちょ待てよ」

 

 霧雨が俺の肩を掴んで引き止める。何お前どこのキムタク?

 

「いっつも八幡ってどっか行って一人で食べるけどさ、今日ぐらいは一緒に食べようぜ?」

 

「いや、別に俺いらんだろ。勝手に食っとけよ」

 

「…八幡は、私達と一緒に食べたくないのか?」

 

 と、悲しげな表情で俺の顔を窺う霧雨。

 あざとい、と一蹴したいのだが、これが彼女の素。悲しげな表情であるなら、悲しんでいるということだ。

 

 卑怯なことこの上ない。

 

「…分かったよ。別にここで食べたくない理由もないしな」

 

 霧雨の訴えに折れてしまい、俺は席に着く。

 一緒に食べているのは霧雨だけでなく、博麗やマーガトロイドが共に席に着いている。

 

「雨の日しかあんたが食べてるところ見たことないけど、いつもパンとその缶コーヒーよね」

 

「たまに妹が弁当作ってくれるけどな。大体はこれだけで済むし、安上がりだ」

 

 パン2つで腹持ちが良いのだ。パンではなく、おにぎりを買う時もある。つまりコンビニの安く手軽な物しか買っていない。

 そしてマッカン。なんならこれが主食と言っていい。というかマッカンが主食じゃないとかほざくやつ、本当に千葉県民か?

 

「八幡さん」

 

「げ」

 

 ただでさえ暑くて精神的に参ってるのに、そこに射命丸が来ちゃったらもう世紀末じゃん。

 射命丸は俺に対して手招きする。どうやら、博麗達の中に入って話したくないのだろう。俺は渋々腰を上げて、射命丸の方に歩み寄る。

 

「わざわざ呼びつけて、なんなんだ」

 

「死刑確定の時が近づいてる今の貴方の気持ちが知りたくてね。どう?私の犬になる覚悟は出来た?」

 

「してねぇな。つかお前こそ、負けたら二度と関わって来ない約束、忘れんなよ」

 

「大丈夫よ忘れても。どうせ私、勝つから」

 

 なんでこいつってこんな死亡フラグみたいなの立てるわけ?大丈夫?負けた時枕に顔埋めて暴れ狂うことにならない?あ、それ俺の話か。

 

「精々残る平和な時間を怯えながら過ごすといいわ」

 

 そう吐き捨て、射命丸はどこぞへと去っていく。

 えっ今の話の流れいる?あいつ何しに来たの?言われないでも覚えてるんだけど。そんなに煽りたかったの?

 

「…とはいえな…」

 

 小野塚先輩との練習の最中に、俺は射命丸の走りを見た。確かに、全国でも通用しそうな速さであった。あれが新聞部なのがわけ分からん。

 

 いや、本当に負けそうだね。これ。

 

 

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